前のエントリー英国医療改革のポピュリズムで思い出したこと。
もうずいぶん前、近くの町に、
今までの病院の概念を打ち破る豪華なレディス・クリニックができた。
今までの病院の概念を打ち破る豪華なレディス・クリニックができた。
入り口には天井まで届きそうなゴージャスな造花のアレンジメントがそびえ
待合室は高級ホテルのロビーのように広々。
ヨーロッパ調ネコ足の高級家具が配置され、
受付嬢も看護師さんもへりくだった物腰で
モノをいう時の語尾は必ず「・・・・・・くださいませ」。
待合室は高級ホテルのロビーのように広々。
ヨーロッパ調ネコ足の高級家具が配置され、
受付嬢も看護師さんもへりくだった物腰で
モノをいう時の語尾は必ず「・・・・・・くださいませ」。
順番が来ると診察室から看護師さんがわざわざお迎えに出てきて、
たいした距離でもないのに付き添ってご案内いただける。
診察室に入ると、先生も看護師さんも起立し、姿勢を正して迎えてくださる。
先生の口調もいたって丁寧。
インフォームドコンセント用の資料のファイルが机の上にあって、
適宜ページをめくっては図やグラフを示しつつ説明がある。
たいした距離でもないのに付き添ってご案内いただける。
診察室に入ると、先生も看護師さんも起立し、姿勢を正して迎えてくださる。
先生の口調もいたって丁寧。
インフォームドコンセント用の資料のファイルが机の上にあって、
適宜ページをめくっては図やグラフを示しつつ説明がある。
内診室から出てきた時にまで、
先生をはじめご一同がまたも起立でお迎えくださって
「お疲れ様でした」と頭を下げられるのには返答に困ってしまうのだけど。
先生をはじめご一同がまたも起立でお迎えくださって
「お疲れ様でした」と頭を下げられるのには返答に困ってしまうのだけど。
さらに看護師さんが白い廊下を先に立ってご案内くださる処置室がまた
まるで高級ホテルのエステルームの雰囲気(行ったことはないけど)。
革張り、ふかふか、オットマン付のゴージャスな椅子に
「こちらに横になってくださいませ」。
看護師さんが傍にひざまずいてくださって採血。
まるで高級ホテルのエステルームの雰囲気(行ったことはないけど)。
革張り、ふかふか、オットマン付のゴージャスな椅子に
「こちらに横になってくださいませ」。
看護師さんが傍にひざまずいてくださって採血。
そして受付でのお支払いでは、
お釣りは必ずシワ1つない新札──。
お釣りは必ずシワ1つない新札──。
これまで病院というところでは
ヘコヘコ小さくなるのが当たり前だった患者さんたちは
ここでは、たいそう大事にされ尊重してもらって
ぶっちゃけ、いい気分になる。
ヘコヘコ小さくなるのが当たり前だった患者さんたちは
ここでは、たいそう大事にされ尊重してもらって
ぶっちゃけ、いい気分になる。
だから待合室の高そうなテーブルの上に置いてある
ロマンチックな日記風の自由ノートには
患者さんたちの絶賛の声が書き連ねられている。
ロマンチックな日記風の自由ノートには
患者さんたちの絶賛の声が書き連ねられている。
でもね、私は、ここに通う内に気付いてしまった。
このクリニックでは、
先生の説明を途中でさえぎってはいけないらしいこと。
先生が「ここまで説明すれば十分」と考える範囲を超えて突っ込んだ質問をすると、
見る見る顔に険が浮かんで声が苛立ってくること。
つまり、先生の想定範囲を超えて患者がしゃべってはいけないらしいこと。
先生の説明を途中でさえぎってはいけないらしいこと。
先生が「ここまで説明すれば十分」と考える範囲を超えて突っ込んだ質問をすると、
見る見る顔に険が浮かんで声が苛立ってくること。
つまり、先生の想定範囲を超えて患者がしゃべってはいけないらしいこと。
そして何よりも、このレディス・クリニックでは
病気や治療についての説明はあっても
検査についてのインフォームドコンセントは一切ないことに。
病気や治療についての説明はあっても
検査についてのインフォームドコンセントは一切ないことに。
最初は「お薬を飲んでおられるので検査をいたしましょう」といわれ、
肝機能の検査だと思って白い廊下をついていったのだけど
まさか薬の副作用の検査で3本も抜かれるとは思わなかった。
その後は半年ごとにお支払いの際に受付嬢から「次は検査となっております」といわれ、
やっぱり何の説明もなく「では、こちらへ」とご案内されてフルセットの検査。
肝機能の検査だと思って白い廊下をついていったのだけど
まさか薬の副作用の検査で3本も抜かれるとは思わなかった。
その後は半年ごとにお支払いの際に受付嬢から「次は検査となっております」といわれ、
やっぱり何の説明もなく「では、こちらへ」とご案内されてフルセットの検査。
どうやら薬を飲んでいる人には自動的に半年ごとにセット検査・・・・・・というのが
ここではデフォルト設定らしいのです。
そのことすら説明された覚えがないのですが。
ここではデフォルト設定らしいのです。
そのことすら説明された覚えがないのですが。
ずっとかかっている内科の医院は狭いし家具も質素だし
先生も起立して迎えてなんかくれないけど、
病気についても薬についても検査についても説明はちゃんとあるし
検査が必要な時には「これこれの検査ですが、いいですか」
「はい、お願いします」というやりとりが必ずある。
先生も起立して迎えてなんかくれないけど、
病気についても薬についても検査についても説明はちゃんとあるし
検査が必要な時には「これこれの検査ですが、いいですか」
「はい、お願いします」というやりとりが必ずある。
ずっと飲んでいる薬の副作用も年に一度はチェックしているけど、もちろん必要な項目だけ。
そして毎回「そろそろしなければなりませんね。どうしますか」
「じゃぁ、やって帰ります」というやりとりを必ず経る。
「今月はピンチだから来月にします」「わかりました」というのもアリ。
そして毎回「そろそろしなければなりませんね。どうしますか」
「じゃぁ、やって帰ります」というやりとりを必ず経る。
「今月はピンチだから来月にします」「わかりました」というのもアリ。
レディス・クリニックで不必要な検査を説明もなしに受けさせられて初めて、
あの無愛想な内科の先生がいかに誠実な医師であるか、
インフォームドコンセントを経て患者の自己決定というプロセスを
いかにさりげなく当たり前のように経させてもらっていたかがよく分かった。
あの無愛想な内科の先生がいかに誠実な医師であるか、
インフォームドコンセントを経て患者の自己決定というプロセスを
いかにさりげなく当たり前のように経させてもらっていたかがよく分かった。
そこで思い切って、
レディス・クリニックで白い廊下にご案内される直前に
「先生、これは薬の副作用の検査ですよね」と聞いてみた。
先生は一瞬ひるんだ。そして「お薬を飲んでおられるから健康管理が大事ですし」。
レディス・クリニックで白い廊下にご案内される直前に
「先生、これは薬の副作用の検査ですよね」と聞いてみた。
先生は一瞬ひるんだ。そして「お薬を飲んでおられるから健康管理が大事ですし」。
どうしても納得できないので、次の時に勇気を出して
「健康管理は前からかかっている内科でお願いしているので
こちらでは婦人科の治療に必要な検査だけをお願いしたいのですが」と言ってみたら
みんながノートに「優しくてよく説明してくださる」と絶賛する先生は
みるみる腹を立て、大きな醜い声を出した。
「健康管理は前からかかっている内科でお願いしているので
こちらでは婦人科の治療に必要な検査だけをお願いしたいのですが」と言ってみたら
みんながノートに「優しくてよく説明してくださる」と絶賛する先生は
みるみる腹を立て、大きな醜い声を出した。
そのクリニックにはその後、行っていない。
ちょうどその頃、近所にごく普通の婦人科医院が出来たので行ってみたら
普通の待合室と狭苦しい診察室に、愛想の悪い地味な先生だったけど、
ぼそぼそした口調の説明には過不足がなく、
途中でさえぎって質問しても嫌な顔もせず誠実に答えてくれて、
なにより、こっちの話をよく聞いてくれる人だった。
普通の待合室と狭苦しい診察室に、愛想の悪い地味な先生だったけど、
ぼそぼそした口調の説明には過不足がなく、
途中でさえぎって質問しても嫌な顔もせず誠実に答えてくれて、
なにより、こっちの話をよく聞いてくれる人だった。
「何でも言ってもらえれば」というその先生に率直に聞いてみたら、
疑問を持ちつつ、あのゴージャスなクリニックで何年も受け続けていた治療は
実はとっくの昔に止めてもよかったものだったことが判明した。
疑問を持ちつつ、あのゴージャスなクリニックで何年も受け続けていた治療は
実はとっくの昔に止めてもよかったものだったことが判明した。
それでも、こっちの医院はいつ行っても空いている。
あのレディス・クリニックは今なお大繁盛している。
あのレディス・クリニックは今なお大繁盛している。
1929.04.22 / Top↑
| Home |