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2月のエントリー兄の自殺幇助でCA州の女性を起訴の続報。

脳卒中で車椅子生活になった兄の希望を入れて
12月にヘリウムでの自殺を手伝ったとして
妹の June Hartleyさん(42)が逮捕・起訴された事件で、

本人が裁判所に出廷したところ、
手続きそのものは、ほんの1分とかからなかったらしいのだけど、
70人もの支援者が傍聴に詰め掛けて、支持を表明したとのこと。

田舎の裁判所の法廷には珍しいことで、職員は目を見張っていた、と。

集まったのは”身なりのいい人たち”で、
電動車椅子の女性と、杖を突いた男性も。

Dozens support woman facing assisted suicide charges
The Lodi News –Sentinel, April 29, 2009


弁護士の戦術もあるだろうし、
さらに、この人の裁判そのものが
自殺幇助合法化推進活動家たちに政治利用されているということなのでしょうが、

ターミナルだったわけではないので、
オレゴンやワシントンと同じような法律ができて合法化されても、
この人のお兄さんが対象になるというわけではないのに。

しかも、電動車いすの人や杖をついた人をわざわざ動員するというのは
いったい、どういうメッセージを送るつもりなのか。

また、相手の期待通りに、それを書くメディアも、どういうつもりなのか。



2009.04.30 / Top↑
Lancet Oncologyに掲載された英国the Cancer Research UKの研究。

アスピリンを飲んでいる人は大腸がん、乳がん、その他のガンになりにくいという調査結果は
これまでにも出ていたけれど、

毎日アスピリンを飲むと消化器からの出血などの副作用があり、
がん予防のためだけに飲むのもいかがなものかといわれてきた。

しかし、前立腺、乳房、肺、大腸など一般的なガンの発症が多いのは60代であり、
その頃にアスピリンを飲み始めると内臓出血のリスクも高くなるが、

前がん状態は40代半ばから既に始まっているし、
40代からアスピリンを飲み始める方が
60近くなってから飲み始めるよりも副作用がおきにくい、と。

つまり、がん予防のために40になったら毎日アスピリンを飲みましょうね、と言うに等しい内容。

もちろん、
そんなに安易に勧めちゃいかんでしょう、
もっと安全性について臨床のエビデンスが必要だし、

今のままだと
ガンの発症率が高いのはどういう人か、ということも
アスピリンの副作用が起きやすい人と起きにくい人の違いも
アスピリンの適量すらも、
何も確認されていないのだから……という批判も。

Over-40s may benefit from aspirin
The BBC, April 29, 2009


ここで指摘されているように
対象者をもっと限定するなり、リスクと利益の詳細な検証へと研究を進めた上で
出てきたっていい話だと思うのだけど、

「みんなでこぞって飲みましょう」的にこういう情報が流れてくるというのが
なんだか、イヤ~な感じで、

諸々の詳細が確認されて対象が狭まらないうちに情報を流してこそオイシイ……という話なのか、
ブームやトレンドを作って薬屋を儲けさせるのが“予防医学”なのか……と勘繰ってしまう。

でも、その目論見どおりに踊ってしまって、
明日からアスピリンを飲み始める人、いるんだろうな。

アスピリンの売り上げも、上がるんだろうな。
2009.04.30 / Top↑

ヨーロッパの脳性まひ児、社会参加支援の施策が不十分
http://www.medicalnewstoday.com/articles/147681.php

米国5月は脳卒中月間。米国脳卒中学会が脳卒中になったばかりの人の家族向けに、15か条のアドバイスを。15か条「自分を大切に」。ここのところ、日本にはまだない視点。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/147785.php

W.Smith。米国 Critical Care 学会は、かつても無益な治療法を支持したが、今回も同学会誌において自殺幇助合法化を支持している。神経系の損傷が激しい患者が臓器提供の意思表示をしている場合は殺そう、という話。
http://www.opposingviews.com/articles/opinion-ignoring-the-rational-reasons-against-assisted-suicide

州が自殺幇助を合法化したら、病院や医師は致死薬の処方を強制されるのか。医師にも権利があるぞ、と。
http://www.spokesman.com/letters/2009/apr/28/health-care-providers-should-have-right-not-assist/

自閉症の16歳の少年が自宅レストランの前で職務質問され、逃げだしたところ警官に警棒で殴られて8針縫う怪我。警察は調査中としてノーコメント。
http://www.chicagotribune.com/news/local/chi-police-teen-autismapr25,0,3799143.story



メキシコで最初に豚インフルで住民の6割400人の患者出した村で、周りと同じ症状だったのに助かった4歳の男児が感染源解明の鍵?
http://www.guardian.co.uk/world/2009/apr/27/swine-flu-search-outbreak-source

大ヒットしているシワ取りクリームが実際に効果があることを皮膚科の研究者が実証。それがメジャーなメディアに取り上げられてトップニュースの扱いになることの不思議。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/science/article6186333.ece?&EMC-Bltn=MIE8KA

韓国の研究者が遺伝子組み換えとクローン技術を使って、紫外線下で赤く光るビーグル犬を作ったそうな。「人間の病気の治療に結びつく技術」を言い訳・アリバイ・隠れ蓑に、すれば、なにをしてもいいというもんじゃないだろうに。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/29/AR2009042900579.html

自閉症は遺伝子の変異が原因との強力なエビデンス。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8020837.stm
2009.04.29 / Top↑
アイルランドの自殺学会の調査によると、
質問された人の48%が
不治の病に冒された人には尊厳のある方法で自殺することが認められるべきだと答えた。

フィナ・ゲール党の精神衛生スポークスマン Dan Neville氏は

安楽死や自殺幇助に対する国際的なリベラルな姿勢転換を受け
今後、アイルランドでも法律改正を求める声の高まりが予想されるが、

オランダでは知的障害がある人や認知症の人が死なされるケースも出ており、
また子どもも対象に含まれているなど、

安楽死、自殺幇助合法化には
自発的な自殺とそうではない自殺の区別が曖昧になり
「すべり坂」の懸念が大きい、と。

Euthanasia is growing issue here -FG
Irishhealth.com, April 28, 2009
2009.04.29 / Top↑
オーストラリアの研究で、
重篤な退薬症状を示す新生児(妊娠中に母体を通じて薬物依存になっていた新生児)の数が
1980年の40倍にも達している、と。

毎年16,4%増加している計算になる。
Pediatrics誌の最近刊に掲載の論文で。

要因としては、総じて薬物濫用が増加していることと、
医療関係者の間での退薬症状への認識の高まり。

また、こうした乳児は
将来的にもネグレクトにあって保護される確率が高い、とも。

著者の一人は
「本気でこうした子どもたちへの虐待・ネグレクトを防ごうと思ったら、
子どもたちが生まれる前から、理想的には妊娠前から
母親へのアプローチを開始することが必要」

産科医、ソーシャルワーカー、薬物アルコール対策担当者、福祉関係者らが
協働し、長期的な取り組みを行うことが重要。

「オーストラリアで生まれている子ども1000人のうち4人が
違法な薬物の影響を受けて生まれているという状況は、
子どもにとっても家族にとっても社会にとっても由々しい問題」



ちょっと前に読んだ町山智浩氏の
「アメリカ人の半分はニューヨークの場所を知らない」にあった一説を思い出した。

階級社会のアメリカでは、
階級ごとに住む場所もドラッグの嗜好も分かれている。

極貧層やホームレスはクラックやヘロイン、
大金持ちはコカインと向精神薬、
中産階級は、そう、マリファナだ。 (p.118)

ヘロインやコカインと並んで、向精神薬がさらりと、
当たり前のような顔で登場しているところが、いかにもトランスヒューマンな、この時代。

ただし大金持ちは、というところも、いかにもネオリベラルな、この時代──。


【参考サイト】
妊娠中の薬物の使用
(メルクマニュアル医学百科 最新家庭版)
2009.04.29 / Top↑
当ブログで追いかけてきたように
英国政府は、国民のDNAと通信情報を巨大データベースに集約する計画を進めていましたが、
欧州人権裁判所から人権侵害との判断を受け、断念。

その代わり、テロリストや異常者のトラッキングに必要だとして、
国民のインターネットとeメール、携帯電話の利用履歴情報を
すべて保存しておき、警察、公安の求めに応じて提出するよう
コミュニケーション関連企業に求めることに。

SNSの利用履歴に至るまで。

情報提供を求める命令が出せるのは警察組織のごく上層部のみとされているようですが、
野党からは、犯罪やテロリスト対策をはるかに超えて
政府はオーウェル的監視社会を作ろうとしている、と批判も。

Plan to monitor all internet use
The BBC, April 27, 2009

【5月7日追記】
少なくとも最終的に無罪となった人のDNAサンプルについては断念するだろうとの
大方の予測を裏切って、英国内務大臣は

12年間は無実の人のDNAデータも保管する、
逮捕されて無実となった子どものデータについても10年は保存する、との計画を明らかに。



2009.04.28 / Top↑

(補遺に集めている記事は、ちゃんと読み込んだものではなく、
せいぜい斜め読みしたり、リード部分に目を通した程度のものです)


スコットランドの自殺幇助合法化法案に支持議員がそろった件で、Scotsmanに寄せられた読者からの賛否。ここでは賛7に対して否が4。賛は声も激しい感じ。
http://news.scotsman.com/opinion/-Readers39-Best-Questions.5207761.jp

Susan BoyleさんがYouTubeを通じてあっという間に世界的な有名人となった際に、映像をただで使われっぱなしてゼニを儲け損なったと考えたテレビ局が、なにやら工作を考えているという話? だから、言わんこっちゃないという感じなのだけど、当のBoyleさんはイメチェンして、かなりすっきりしている。本人も周りも一体どういうつもりなのか。
http://www.guardian.co.uk/media/2009/apr/26/susan-boyle-youtube-itv

前立腺がんの治療にビタミンDが有効だと。あれが効く、これが効くと、最近やたらと前立腺がんの話題が目に付くような……。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8017323.stm

米国の高齢化に向けてプライマリーケアを担う医師の不足解消に、オバマ政権はメディケアの報酬を増額してプライマリーケア増強を狙っているが、それではこっちの取り分が削られるではないか、と専門医らが抵抗してロビー活動が活発化している。
http://www.nytimes.com/2009/04/27/health/policy/27care.html?_r=1&th&emc=th

子どもの肥満エビデミック対策には、そろそろ学校でジャンクフードを売るのを禁じないと、とNY Timesの社説。
http://www.nytimes.com/2009/04/27/opinion/27mon2.html?th&emc=th

2009.04.27 / Top↑
認知症が進行した人への胃ろうは
果たして利益と害のいずれが大きいのか、
この問題について書かれた医学論文を広範に検証した
Cochrane レビューによると、

認知症の進行した患者への経管栄養の
延命効果についてもQOLの改善効果についても
研究エビデンスは見つからなかった。

それどころが、研究の中には
意図された効果の逆に死亡率を上げたり、
病状を悪化させ、QOLを低下させたと思われるものもある

その理由として挙げられているのは
体が食べ物を取り込み利用するメカニズムが複雑で
認知症の形態によっては、食べ物を取り込むメタボリズムが機能していない可能性もあるため。

また終末期の患者では、すでに消化系統が機能を停止しているため
経管栄養が却って本人の負担になっている場合もある。

ガンの末期などで飢餓感のある人には、ちょっと水分を取らせてあげたり
痛み止めの処方で楽になることもある。

私が個人的に「ああ、なるほど、いかにもな話だなぁ」と思ったのは、以下の指摘で、

胃ろう技術は1980年代に
重篤な病気の子どもが体力を回復するまでの一時的な処置として登場したのだが、
いったん使われるようになるや、コスト効率のよい手段として
食事介助の人手が足りないナーシング・ホームで急速に普及した。

しかし、たとえ進行した認知症であっても
その選択は決して「胃ろうか、または何もしないか」ではなく
太古の昔から使われてきた「介助による口からの食事(asssited oral feeding)」という方法がある。

アップルソースなどの柔らかい食べ物や、ちょっとした水分など、
その人が無理なく摂取できるものを、手伝って口から食べさせてあげる。
ナーシングホームにいる人にでも、家族がちょっと顔を出しては
ほんの30分程度の時間、そうして口から何かを食べさせてあげることが望ましい。

最も人道的なのは介助で口から食べさせてあげることである。
私の考えでは、そこには、ほとんど崇高といってもいいものがある」と
Stony Brook 大学の予防医学の教授 Stephen Post氏。

また、経管栄養となった認知症末期の患者の71%が拘束されている、など、
今回のCochraneレビューでは経管栄養と拘束の間に大きな相関があることも指摘されている。



コクラン共同計画の日本語サイトはhttp://cochrane.umin.ac.jp/publication/cc_leaflet.htmこちら
2009.04.27 / Top↑
シアトル子ども病院のBenjamin Wilfond医師は
Hastings Center Report, 1―2月号に発表した論文で
医療上の必要やメリットが明らかでない重症児への手術を
親が社会心理的な理由で、または自分たちへのメリットのために望んだ場合には
親の選択権を尊重して親に決めさせてあげよう、と主張しています。


もっとも、これまで上記エントリーで読んできたように
この論文でWilfond医師が取り上げているのは、いずれも
医療上の本人利益が明らかに「ある」にも関わらず
障害の重さによって著者が勝手に「ない」と決め付けている……という事例ばかりなのですが、

既に親の決定権にゆだねられている手術の例として
Wilfondが引っ張り出してくるのは、なんと、胃ろう。

Wilfond医師の実にトンデモな「胃ろう観」に話を進める前に
まず「胃ろう」について、一般的なところを簡単にまとめておくと、

「胃ろう」とは
口から食事が摂りにくかったり、口からの食事に危険が伴う場合に、
胃に小さな穴をあけてチューブを常設し、直接胃に栄養分を入れる、
その穴のことであり、また、その技術のことです。

詳細な日本語の解説はこちらに。

しかし、あまりに安易な胃ろう使用には様々な問題も指摘されており、
日本では、なるべくチューブに頼らず口から食べることを続ける取り組みが
行われ始めています。

そのあたりの考え方については、
田園調布学園大学のDCU Weekly Vol.23から
同大・人間福祉学科の遠藤慶子先生の記事の一部を以下に。

医学の目覚しい進歩で脳血管障害などで口から食べることが困難になっても、胃や腸に管を通して栄養を補給することが出来るようになりました。しかし"口"は単に栄養を補給するだけではなく、口から食べることで唾液や胃液を分泌し体内の消化器官を呼び起こし、脳も刺激され、「おいしい」、「うれしい」という人間らしい感情も沸いてきます。つまり"口から食べる"ことで五感が働き、体も脳も活性化されるのです。

食事の介護「口からおいしく食べるということ」

みずほ情報総研のコラムからも
経口摂取に障害をもつ高齢者が、無理に口から食べ物や水分を摂取しようとすれば誤嚥性(ごえんせい)肺炎になり、生命に関わる深刻な問題を抱えることにもなる。そのため医学的判断に基づいて、鼻や胃に挿管し栄養成分等を注入したり、中心静脈から高カロリー輸液を点滴する方法などの経管栄養法を用いるといった栄養・水分摂取の代替・併用手段を講じることも必要となる。しかしながら、食べる楽しみを失ったうえに、栄養摂取量の調整が難しいために低栄養状態となって、全身機能が低下し介護状態に陥るリスクが高くなることを考えると、経口摂取の障害については十分に配慮されなくてはならない。また、経管栄養法を長期間導入するとカテーテル感染症率が高まること、長期間絶食が続くことにより体の消化吸収機能が低下することといった問題も指摘されている。

口から食べる楽しみ ~介護予防の取り組み事例~
医療・福祉室 山本真理 2005年8月23日  


このような胃ろうをWilfond医師は
親が自分への社会的メリットで決めることを許されている重症児への手術の事例として
持ち出してきて、

その選択を、こともあろうに、
ただ単純に食事介助にかかる時間によってのみ説明するのです。

胃ろう造設とは親にとって
ゆっくりと一さじずつ口に運んで食べさせる長い時間のかかる食事介助からの解放であり、

胃ろうを決断できない親というのは、ただひとえに
周囲に、ラクをしたい愛情の薄い親だと思われるのを恐れて決断できないだけだ、と。

なんという浅薄な親の心理の捉え方でしょうか。

これはWilfond医師個人またはシアトル子ども病院特有の文化なのか、
それとも米国の医療ではこれが標準的な理解なのか、
非常に興味があるところですが、

現に今この選択に直面しつつ何ヶ月も答えを出せずにいるカナダ人の親を、
私は知っています。

その人の思春期の息子さんは重症重複障害があり、
ちょっと体調を崩すと、すぐに食べられなくなって寝込んでしまいます。

うちの娘もまったく同じ状態なので、よく分かるのですが、
こういう子どもたちは動きが少ないので、もともと血管が細い上に
脱水状態になると血管の状態も常より良くないために
点滴の針がなかなか入らなくて医師・看護師泣かせです。
何度も針を刺されて本人も辛い思いをします。

息子さんは最近そういうことを頻繁に繰り返すので
医師から胃ろうを薦められたのですが、両親とも迷い続けて答えが出せていません。

脱水になったり栄養状態が悪くなるのは体にとってよくないし、
点滴のたびに何度も針を刺されるのは本人にも辛い、
胃ろうで栄養状態が改善して体力もつくのなら、いっそ……と
息子さんが食べられなくなるたびに考えるのだそうです。

しかし、その一方で、
食べることは彼の生活の中で数少ない楽しみの一つであり、
お気に入りのレストランに家族で出かけるのも楽しみにしている、
そういう喜びを息子から奪ってしまっていいのか、と抵抗感がある、といいます。

他にも手術のリスク、障害に対するスティグマが増えることも気になるそうです。

医師は簡単に「いつでも取り外して元に戻せる」とは言うが
親だって生身の人間なのだから、チューブで簡単に栄養確保ができることになれば
親がその簡単さに慣れてしまって、また手のかかる介助に戻そうとは思えなかも……とまで
考えるといいます。

だから夫婦のどちらかが「もう胃ろうを」と決断するたびに
夫婦のもう一方がためらいを振り切れない……ということを
まるで交代のように繰り返しては決断ができないでいる、と。

私にとっても、食は娘が小さい頃からずっと大きな問題だったし、
娘の障害がこれから年齢とともに重度化していくにつれて
胃ろうも他人事ではなく、いずれ直面しなければならない問題であるだけに、
この夫婦の葛藤はとても切実に分かります。

それだけに、Wilfond医師は
なぜ、これほど複雑で繊細な胃ろう造設の選択を、ただ単純に
「食事介助の時間が短縮できる」vs「短縮したら世間から悪い親だとみなされる」
という選択として捉えられるのか、

小児科医であり、生命倫理学者であるWilfond医師のこのような感覚そのものが
私にはまったく理解できないのです。

ここでもWilfond医師は、
前に指摘した頭部外傷の男の子の手術の事例と同じく、
はじめから狙っている結論に向けて都合のいい論理展開を推し進めるために、
医療上の問題の複雑さをまったく無視し、強引な単純化を意図的に行っているのでしょうか。

それとも、Wilfond医師や
この論文の下書き段階でアドバイスを行ったというDiekema医師にとって
「どうせ何も分からない重症児」には「味覚すら分からない」はずだから
口から食事をしようが胃に直接栄養分を入れようが
本人にとっては何の違いもないとしか考えず、
したがって胃ろうは単純に親の手間の問題に過ぎないと
本気で考えているのでしょうか。

しかし、この感覚の一体どこにQOLへの配慮があるというのか。

重症児に大量のホルモンを投与して成長を抑制することは
家族との行動をたやすくしてQOLの維持向上に役立つ……というのが
一貫してシアトル子ども病院の成長抑制療法正当化の論理でした。

これは明らかにダブル・スタンダードでしょう。

Ashleyが病気をしない限り、実は口から食べられるにもかかわらず
父親の合理的な判断で不必要な胃ろうを造設されてしまったらしいことが思い返されます。

幼児期に早々に胃ろうにされてしまった結果、
今のAshleyは口からものを食べる機能がもはや低下したり
失われていたとしても決して不思議ではありませんが、
因果関係が逆なので、それは決してAshleyの胃ろう造設を正当化しません。

しかし Ashley療法論争では
Ashleyが経管栄養であることは障害の重さの論拠として利用されました。

科学とテクノロジーの簡単解決によって
重症児の体に侵襲することの正当化に利用できる時にはQOLが持ち出されるけれども、

その侵襲がQOLを低下させて、本人以外の利益を優先させる場合には
「どうせ何も分からない重症児だからQOLなど無意味」という論理に摩り替わります。

そうして、科学とテクノロジーによる侵襲でQOLを低下させておいて、
そのQOLの低さこそが障害の重症度を裏付ける材料として利用される。

こうしたご都合主義のダブルスタンダードの使い分けと詭弁によって
「重症児の医療については親の決定権で」という医療倫理スタンダードが広められていく──。

シアトル子ども病院は
Ashleyケースでの倫理上の大失態をカバーアップするために
「重症児の医療における親の決定権」のアドボケイトとなるつもりなのでしょうか。


2009.04.27 / Top↑
シアトル子ども病院が今年1月に行った成長抑制シンポジウムのWebcastから
まず冒頭のWilfond医師の概要説明のプレゼンを聞いてみた。

これは詐欺師の話と同じだなぁ……と思う。

おそらくは、しゃべっているのはWilfond医師であっても、
この原稿を書いたのは、あのペテンの天才Diekema医師。

Diekema医師が、シアトル子ども病院の失態を隠蔽し、
なおかつマイクロソフトの幹部と思われるAshleyの父親の意を汲むべく
ここでWilfond医師に語らせている物語とは

Ashleyケースについては当院では当初から public engagementを旨としてきました。

そもそもGunther, Diekema 両医師が2006年秋に論文を発表したのも、そのためでした。

ご存知のように、その直後にはご両親がブログを立ち上げて、
さらに一般に議論を広めてくださいました。

次いで、我々は2007年5月にシンポジウムを行いました。
このシンポでの議論が素晴らしく刺激的だったので、
シンポを企画・運営した担当者5人は、直後に論文を書こうと考えました。

ところが、シンポにおいてはもちろん、
その後にも、あまりにも多くのご意見をいただいたので、
何をどう書いていいのか分かりませんでした。

そこで我々は、より深く広くこの問題を議論し Public engagement を進めるために、
検討チームを立ち上げようと考えたのです。

我々がAshleyケースの乳房芽と子宮摘出ではなく、特に成長抑制に話を絞ったのは、
成長抑制がもっとも多くの人に関わる可能性が高く、
その一方で利益と害の関係を検証するにおいて
最も難しい問題を含んでいると思われたからです。

詐欺師の話というのは、本当は矛盾だらけ穴だらけで
事後に聞く人は、どうして、この程度の話にだまされる人がいるんだろうと
不思議に思うのが常なのだけど、

だまされている人は、相手の話についていってしまうので
相手の話に沿って自分の視点まで動いてしまうために、常に目の前しか見えず、

相手の話が進行するにつれて、矛盾を覆い隠すべく
巧妙に微調整・修正されていることに、なかなか気がつくことができない。

Wilfond医師が語るにつれて、その話の展開に付いていってしまったら、
これはこれで大して矛盾のない話のように思えてくるのは、きっと、そういうことだ。

詐欺師の話を聴いて、相手の話の矛盾に気づき、これは詐欺だと悟るためには
相手の語る道筋に釣り込まれず、不動の視点から
距離をもって相手の話を聞かなければならない。

その不動の視点とは、多分、最初から「これは詐欺だ」と知っている視点──。

Wilfond医師がここで語っているのは
病院が隠蔽工作のために創作し、これまでも事態の推移の要所要所で
微調整と訂正を繰り返してきた物語にすぎないという視点から動かずに眺めれば、
彼の話の矛盾点がいくらでも見えてくる。

最初からpublic engagement を旨とし
「公に皆さんと一緒に議論しよう」と考えていたのなら
そもそもの最初から、職員だけの閉鎖的な特別な倫理委で検討など、しないはずだ。

2年も秘密になどしておかず、すぐにも公表したはずだ。

広く一般に議論するために発表した論文なら
成長抑制だけでなく、乳房摘出や子宮摘出についても詳細に書いたはずだろう。
親の動機を別のものに摩り替えたり、ホルモン療法の期間をごまかしたりもしないだろう。

親がブログで何もかも暴いてしまう前に、
医師がきちんと説明したはずだ。

2007年のシンポのあとに、病院が、さらに成長抑制を正当化し
急ぎ一般化して、Ashley事件から早く public の目をそらせる必要を感じていた他には、
そもそもワーキンググループを作る必要などなかったはずだ。

利益と害の関係を検証するに当たって最も難しい倫理問題を含んでいるのは
成長抑制よりも乳房摘出であり、

最も多くの人に関係してくるのも
成長抑制よりも子宮摘出であるはずなのだから、

ワーキンググループの議論が成長抑制に焦点を絞ったのも、
当初の論文が成長抑制だけを書き、2007年のシンポも成長抑制を中心にしていたのと同じ、
そういうことにしておきたい病院側のニーズに過ぎないはずだ。


Ashley事件とは
力のある親に抗えなかった病院が政治的な配慮で内密裏にやったことが
病院の当初の目論見がはずれて、ひょんなことから表に出てしまった……という
特異な背景のある事件であり、

Diekema医師や病院から出てくる説明は
その隠蔽工作のために作られた物語に過ぎないという仮説に立って眺めれば、

ほころびや穴ぼこを塞ぐために
これまでの展開の要所、要所で病院が微調整と修正を行ってきたように、
今回もまた、public engagementなどという言葉を持ち出して
微妙な修正が加えられているだけで、

こんなの、ただの姑息な作り語──。

最初は隠そうとしていたことを親に明かされてしまって
明かさざるを得なくなってから、その時々に、どうにかこうにか話の辻褄を合わせてきたものを、
ここまできた今になって、public engagement なんて言葉を持ち出す──。

「最初から、我々はこれを旨としていました」などとヌケヌケと──。

「オレだよ、ほら、オレ」
「あら、タカシなの?」
「うん。そうそう。タカシだよ、タカシ」

シアトル子ども病院の言う public engagement は、このタカシと何も違わない。
2009.04.27 / Top↑
SPEEDY ベビー。通常よりも運動機能の発達が速い乳児で、言語が不明瞭になる原因不明の障害が増えている。後から運動機能の障害が出てくるが、多くの場合言語の障害と関連付けられていない。新しいタイプの発達障害?
http://www.medicalnewstoday.com:80/articles/147572.php

FENの医師が書いた自殺指南書 “Final Exit” が自分の子どもを自殺に導いたと主張する母親たちによって集団訴訟の準備が進んでいる。第3版はいくつかの州で発禁になっているが、著者は読者対象はターミナルな患者さんだ、と。:FDNの日ごろの主張と実際の活動を考えると、それは明らかにウソだ。
http://www.kctv5.com/news/19287386/detail.html

NY TimesのOp-Edで Tom Bergeronという人が例の歌姫 Susan Boyle さんに「立ち去りなさい」と勧めている。あの瞬間にみんなが共有した感動は続かない。続かないことを知った時、拍手を送った同じ人たちは平気で手のひらを返す。それでも群がるのはゼニが頭にある連中だけなのだから。:このまま、いいように利用されたり食い物にされるより、逃げたほうがいい、と私も思う。メディアに登場せずに、CDだけ出すとか。地味に音楽だけで勝負させてあげてほしい。
http://www.nytimes.com/2009/04/25/opinion/25bergeron.html?_r=2&th&emc=th

アフリカの医療職には緩和ケアの訓練が必要。緩和ケアの知識と意識を欠いていることが、病気への姿勢にネガに作用している。:この相関は自殺幇助を望む人たちの心理にも言えるのかも。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/147281.php

2009.04.26 / Top↑
今年2月のエントリー
伊の安楽死問題、首相に大統領に議会にバチカン巻き込み大騒動に
伊で安楽死の女性、死因は心臓発作
で取り上げた Eluana Englaroさんのケースを巡る議論を受けて、

3月末にイタリアの上院議会では
医療職に対して、植物状態の患者への栄養と水分供給の中止を禁じる法案を通過させた、とのこと。

患者の自己決定権を主張する人たちから非難ごうごう。
激しい論争となっているようです。



Lancetの最近号にもこの問題で論文があり、
議会にもっと時間をかけて慎重に議論するよう呼びかけているようです。

Italy urged to give end-of-life bill more time for debate
The Lancet, Volume 373, Issue 9673, Page 1413, 25 April 2009
2009.04.26 / Top↑

Margo McDonald議員の End of Life Choices Bill(死の選択法案?)に
18人の議員の賛同が得られ、

今年のうちに議会の医療委員会に提出すべく
McDonald議員は議会職員と法案の草案作りに取りかかる、と。

Bid to legalise assisted suicide
The Press Association, April 25, 2009
2009.04.25 / Top↑
州の保健局のスポークスマンによると、

自殺を考えているという人2人に処方箋通りに薬が手渡されたことを
薬局からの報告で把握しているが、

今のところ3月に施行された尊厳死法で自殺した人についての報告はない。

その他に、1人から本人の自殺幇助申請書類が提出されており、
医師2人から尊厳死法にのっとった書類が提出されている。

医師の提出書類に何人の患者の名前が記載されているか、
また薬を処方された人や、書類を提出している人の詳細については
州は明かしていない。

書類を提出した人の年齢、性別、病名については
州が毎年、報告するが、個々の申請書類は公開されない。

2 prescriptions filled for WA assisted suicide
AP (The Seattle Times), April 23, 2009


ずっと、引っかかっていることなのですが、

この状況というのは
今ワシントン州には人を殺せる薬を持っている人が2人いる、ということですよね……。

余命6ヶ月以内の人が、
もうダメ、と思った時にいつでも自分で死ねる……という安心感のため、というのは
気持ちとしては分からないではないし、

用途からして一回分のはずだから
そういう意図で持っている人が誰かを殺すために使うことは、まずないのだろうとは思いますが、

盗難の可能性はゼロではないし、

安心のために持っていた薬を結局使わないまま亡くなったら、
その薬はどうなるのだろう????
2009.04.25 / Top↑
Biedermanスキャンダル関連。このスキャンダルは今や医師と製薬会社癒着の象徴という観。もう大筋見えた感じになってしまって、ちゃんと読む気力が沸かない。
http://www.health24.com/medical/MedsYou/777-786-787,50555.asp

Annie Farlow事件。病気で障害を負うのが明らかだったから病院が勝手な判断で死なせた。というか「殺した」というに近い事件。このお母さんの戦いについては、かなり前から知ってはいたけど、人権コミッションのヒアリングにまで、やっと行き着いたようだ。ここまでの道のり、どれほど大変だったことだろう。Kaylee事件と同じ病院、何人か同じスタッフが関与しているというのは昨日知った。衝撃。子ども病院なのだけど、そういう文化が広がっているのだろうか? 親御さんが立ち上げたブログ。
http://www.anniefarlow.com/

ミス・ユニバースのオーストラリア代表選考で、最終組に残った1人がやせすぎていることに医師らから批判が起きている。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/apr/24/australia-miss-universe-thin-model

イタリアのピザレストランに子ども3人置き去りにしたドイツ人カップル逮捕。「食べるものも金もなかったので逃げた」。子どもはドイツの祖母の元に送られるとか。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8016089.stm

牝牛のゲノムが解読されて、農業が大きく変わる可能性。これは、またまた遺伝子操作で便利で効率的な酪農に……って話?
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8014598.stm

morning after ピルに関するFDAの決断をNY Timesが賢明だと評価。2006年に18歳まで認めていたとのこと。連邦判事の判断があったにも関わらず、ブッシュ政権の保守主義が女性に負担を強いていた、と。でも、これ通常の避妊薬ではなくて、緊急避妊薬なのだけど、それほどニーズがあるものなのかな?
http://www.nytimes.com/2009/04/24/opinion/24fri3.html?_r=1&th&emc=th
2009.04.24 / Top↑
違法な自殺幇助で幹部4人が逮捕されたthe Final Exit Networkが
Exit Guide 養成のために使用していた
マニュアルの内容がAPによって明らかに。

長文のマニュアルはガイドたちに
誰かが苦しみから逃れるのを共感と思いやりを持って手伝う“スペシャルな人間”として
自分の事を祝福せよと説き、

希望者に自殺の方法を教える手順をステップごとに解説。

自然死に見せるために、
使った器具を事後にどのように処分し、
遺体をどのように置くか、まで指示。

初めて担当する場合には責任の大きさから緊張もするだろうけれど
自分を祝福する気持ちをもって来るべき仕事を成し遂げるように。

そして2人のガイドが希望者の死に寄り添って仕事をやり終えた後には
たいていはレストランで静かに自分たちの仕事を祝福する、とも。

もちろん楽しむわけではなく、
苦しんでいる会員を穏やかな死(exit)へと倫理的かつ合法的に導くことができたのだから
そこで緊張を解き、自分たちの気持ちを語り合うのだ、と。

Not Dead Yet の Stephen Drake氏は
「まるでカルト。やっていることが殺人と区別できない」。



2009.04.24 / Top↑


2006年に始まった試みのようですが、
世界中のブロガーがみんなで障害者差別に反対するブログ記事を書く日というのがあって、
今年は5月1日金曜日だそうです。

誰でも参加できます。


参加するのは案外簡単で、

上記の仕掛け人さんのサイトに、
自分のブログアドレスと一緒に参加を表明するコメントを入れると、
このブログの管理人さんがスパムチェックを行った後で
左側の参加ブログ一覧にリンクを加えてくれる。

参加者に求められるのは

1.このイベントを宣伝し、参加を呼びかける。

2.5月1日または、その前後に自分のブログに障害者差別に関連したエントリーを書く。

3.記事を書いたら、上記Diary of a Goldfishのサイトで「書いたぞ」とみんなに知らせる。

4.記事へのリンクがアーカイブとなっていくので、そこでみんなの記事を読む。


サイトの左側にある参加ブログ一覧には既にものすごい数のブログが並んでいます。

Ashley事件でおなじみになったブログもあったりして
眺めていたら、なんだか嬉しくなってきたので、

昨夜、思い切って英語ブログのIDで参加希望を入れてから寝た。

当たり前のことなんだけど、
今朝、確認したら私のささやかなブログがちゃんと加えられていた。うふっ。

早速ここから私のブログを覗きに来てくれた人もあった。これも嬉しい。

コメント欄を覗いてみると、私の直後には
Ashley事件関連で当ブログで何度も触れた
おなじみBad Cripple ことWilliam Peace氏が参入している。

なんだか仲間が続々集ってきている……という感じで、ルンルンする。
英語だから苦労するとは思うけど、5月1日には何を書こう……?

英語のブログをお持ちの方、いかがですか?

あ、参加しなくても、当日集まってくる記事を読むだけでも面白いかも。
2009.04.24 / Top↑
インテリジェント住居とロボットの活用で高齢者と障害者の自立生活を支える、という話。いずれ、ちゃんと読み込みたい記事の1。ちょっと長い。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146360.php

高齢者の転倒防止でセンサー・ネットワークを開発。施設入所者の一歩一歩をいちいち監視しようという話?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146049.php

同じ脳卒中でも高齢者は若い患者ほど熱心に治療されていない。エイジズム。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146369.php

スタチンはアルツハイマー病だけでなく認知症全般の予防に有効。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146200.php

認知症が進行した米国ナーシングホームの入所者186,835名のうち34%が経管栄養。
しかし腸ろうの効果と害については曖昧なままであり、きちんと検証される必要がある。
もっと詳細な記事バージョンもあり、そちらは障害児のケースにも触れている。いずれ、まとめたい。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146197.php

米国国内線の飛行機でエコノミークラスのトイレがふさがっていたので、おなかの調子の悪い人がビジネスクラスのトイレを使わせてくれと頼んだら、客室乗務員がNO。彼は切羽詰って突撃を敢行。止めようとした乗務員に肘鉄を食らわせてしまった。その肘鉄で訴えられた、という話。階級社会、ここまで?
http://www.nytimes.com/2009/04/16/opinion/16iht-edcohen.html?_r=1&th&emc=th

「1年間毎日セックス」を夫にプレゼントした妻の体験記 “365 Nights”
http://www.guardianbookshop.co.uk/BerteShopWeb/viewProduct.do?ISBN=9781844547623

性行為から72時間以内に飲めば避妊効果がある、いわゆるmorning-after-pillを、17歳以上の女性には医師の処方箋なしに買えるようにする、と米国FDA。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/04/22/AR2009042202248.html

Euthanasia Prevention Coalition (安楽死防止連盟)のAlex Schadenberg氏らが5月末にワシントンDCで予定している第2回安楽死・自殺幇助国際シンポジウムが、参加登録が振るわず、中止の危機に。こんなに自殺幇助合法化があちこちの議会で審議されているというのに? 私には何もできないけど、そりゃないだろう、とハラハラする。
http://www.lifesitenews.com/ldn/2009/apr/09041710.html

A事件がらみ。シアトル子ども病院が1月の成長抑制シンポのWebcastを2部構成でアップ。まだ聴いていない。頭に血が上りそうなので体調を整えてから。
http://bioethics.seattlechildrens.org/events/the_ethical_and_policy_implications_of_limiting_growth_in_children_with_severe_disabilities_2009.asp

A事件がらみ。カナダAlberta大のWilson氏が上記Webcast を早速聴いてエントリー書いている。まずは大まかな感想? 成長抑制は既にOKされた医療処置だということにされている。「怖い、怖い、怖い」と。これも、そのうち、まとめたい。今日のところは気力がない。
http://whatsortsofpeople.wordpress.com/2009/04/23/webcast-of-seattle-symposium-on-growth-attenuation/

5月1日は「障害者差別に抵抗すべくブログを書く日」。登録すれば誰でも参加できるらしい。
http://blobolobolob.blogspot.com/2009/04/blogging-against-disablism-day-will-be.html
2009.04.23 / Top↑
亡くなったばかりの患者さんの家族に、
死を告げるのと同時に臓器提供を打診するのは
同意をもらえる確率を下げるのでやめましょう。

死の告知と臓器提供への意思確認は
時間をズラせて。

それから
医師はおおむね対人スキルが乏しく微妙なコミュニケーションがヘタクソなのに
その自覚がないままに自分の仕事だと頑張ったり
身近に移植コーディネーターがいなかったりして
自分でその役目を負ってしまうけれど、

医師だけが話を切り出した場合よりも
医師にコーディネーターが同行してコーディネーターが話した方が
家族の同意は得られやすいので、

医師は一人で行かないように。
ちゃんと専門的な訓練を積んだコーディネーターを伴って行きましょう。

……と、英国 the John Radcliffe Hospital の研究で。


Doctors warned over donor consent
The BBC, April 22, 2009
2009.04.23 / Top↑
1987年にNew York市に幼い子どもをつれたホームレスがあふれた時に、
サイモンとガーファンクルのPaul Simonさんが
資金を集めてホームレスの子どもたちに無料で医療を届けられるように
医療設備のついた車を購入し、子どもの健康基金(Children’s Health Fund)を創設した。

その時に一緒に創設に尽力した小児科医のRedlenerさんは
現在Columbia大学Mailman校の公衆衛生学の教授。

そのRedlener教授が
80年代当時の子どもたちの貧困に比べて、
現在全国規模で進行している問題のほうがはるかに大きいと懸念している。

Children’s Health Fundの機動医療ユニットは現在37に増え、
最も必要度の高いところから優先的に廻っては
ホームレスの子どもたちや貧困から医療を受けることができない子どもたちを
診察・治療して回っているが、とても追いついていない。

もともと少なくなかったホームレスが急増しているし、
シェルターで暮らす家族や貧困状態にある子どもの数も急増中。

この先、失業者がまだ増えると予想される中、
どこの州も財政難から社会保障プログラムをカットしている。

Arizona州では児童保護局が虐待とネグレクト調査を削減した。

他にも、
子どもにとっては死活問題に直結する社会福祉施策の縮小を検討している州は多い。

Redlener教授は「悲惨な事態が静かに進行している」と。

Children in Peril
The NY Times, April 20, 2009


大人たちの愚かしい強欲が、子どもたちにこんな形でツケ回されていく。

経済で起こったのと同じことが
実は科学とテクノロジーの世界でも起こっているのでは……?

科学とテクノロジーの簡単解決によって、どこまでも欲望を満たそうと狂騒する大人たちの世界は
子どもたちから、ゆったりと安心して自分自身でいられる居場所を
どんどん奪っているような気がするのだけれど。
2009.04.23 / Top↑
英国では去年全国に衝撃を与えたBaby P 事件以来
各地方自治体の児童福祉システムの機能状況が再点検され、
具体的な指摘を受け改善を勧告される自治体が相次いで
大きな社会問題となっていますが、

どうやら米国でも同じ問題が浮き上がってきているようです。

これまでプライバシーの保護から厳重だった情報規制によって
児童虐待の被害者の実態の詳細は警察と児童福祉が明かさなかったのだけれど、
その規制が去年の州法改正でやっと緩められたことから
LA Timesが独自に情報公開を求めたところ、

去年1年間にカリフォルニア州で虐待とネグレクトで亡くなった子どもは32人。

そのうち18人は一度も家庭福祉の期間と接触がなかった家族の子ども。

しかし、14人については、
何度も調査が行われたり、児童福祉の専門家にはよく知られた家族だった。

調査が行われても確証がないとその後の対応がなかったり、
家庭裁判所の監督指示が守られていなかったり、
近所からの度重なる通報が生かされていないなど、

ソーシャルワーカーの怠慢が指摘されても仕方がない
ショッキングなケースも10件。

これらについては調査が進行中で、
関係した職員はその終了までデスクワークのみに限定。

ファミリー・サービスのスーパーバイザーも
「非常に深刻な手続き上のエラーがある。
 アカウンタビリティの不足とともに悲劇を引き起こした」とし、
14件すべてについて調査を開始する、と。

この記事で指摘されている児童福祉局の問題点としては
ソーシャルワーカー1人が抱える案件の多さ。

それから子どもに関する情報管理のため
コンピューターシステムを改善する必要。

Files detail deaths of 14 children
The abuse cases came from families that had been under scrutiny by L.A. County child welfare officials.
The LA Times, April 21, 2009


2009.04.23 / Top↑
ドイツ人のいかにも貧しいカップルがイタリアに旅行して、ピザ屋に3人の子どもを捨て子。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8011941.stm

去年、英国で乳がんで死亡する女性が12000人を割る。統計取り始めてから初。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8011920.stm

やっぱり出てきたよ。ニコチンガムで口腔ガンのリスクが高くなる、という話。何年か前にずいぶん長期に渡ってニコレットのお世話になって、やっとタバコと縁を切ったのだけれど、その頃二コレットを噛みながら、「口の粘膜がこんなに高濃度のニコチンにダイレクトかつ集中的に晒され通しになるのって、どうなのよ?」と思っていた。でも、素人の私が噛みながら思っていたくらいのこと、商品開発段階で分からないか?
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/article6143744.ece?&EMC-Bltn=KLZHIA

40歳の誕生日に妻から「今後1年間365日のセックス」をプレゼントされた夫。
本気で実現するために「時間は? 子どもは? その気にならなかったら? 面白テレビがある晩は?」と現実問題を検討する夫婦の姿。1年がんばってみたらこうだった、という話。この記事、本気で面白い。
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2009/apr/22/365-nights-charla-muller-sex

NY Times が社内の表現マニュアルで midget 使わず dwarf に、と。この前見たリチャード・ギア主演映画「ハンティング・パーティ」で使われているのを聞いて、ちょっと「ん?」と耳についたところだった。
http://www.patriciaebauer.com/2009/04/20/nytimes-style/

テキサス州では、あらゆる行政用語から retard とその派生語を排除し intellectual disabilities に置き換えるのだとか。Austinには mental retardation を名前に含んだセンターがあるので、名称変更するのだとか。去年、映画 Tropical Thunder の知的障害者差別問題で retard という用語について問題提起したBauerさんのブログが取り上げている。
http://www.patriciaebauer.com/2009/04/21/retardation-texas/
2009.04.22 / Top↑
90年代、英国 Hampshire の the Gosport War Memorial Hospitalで
92人もの患者が不可解な死を遂げて事件に。

警察の捜査が入ったが
いまのところ、そのいずれも起訴には至っていない。

しかし、その92人のうち1996年から1999年の間に亡くなった10人について
調査陪審員が調査を行い、このほど

それぞれ60代から80代の5人の高齢患者に鎮痛剤 Diamorphine が過剰に投与され、
それが患者の死を引き起こしたり早めたと認定。

その他の5人については
鎮痛剤の投与は死因に関与していない、とも。

これを受けて家族は警察に再捜査を求めているが
すでに3回の捜査を行ったとして警察は拒否している。

制度について知らないことだらけなので詳細が分かりませんが、
今回で3度めの司法判断が下ったことになるのだとか。

問題の鎮痛剤を処方した医師には
Diamorphine の処方を禁じValium(diazepam)の処方を制限するのみで
継続して同病院での勤務が認められている。

NHS Hampshireは
事件のあった1990年代以降、
同病院のシステムも方針も完全に刷新されている、と。



もちろん、高齢の患者さんたちは、いずれ死ぬのだといわれれば、その通りだから
死者の数だけで病院を責めることはできないと思うけれど、

過剰投与があって、それが死因となったことが認定されたというのは
ただ高齢者だから死ぬのだというのとは別の話のはず。

しかも、記事を読む限りでは、
過剰投与が病院の慣行となっていた可能性が疑われるそうなのに

過失があったことは認定されても
なぜか誰も罪に問われない──。

なんで……? 
2009.04.22 / Top↑
スコットランドで無所属のMargo MacDonald議員が
今年のうちに尊厳死法案End Of Life Choices (Scotland) Billを議会に提出すべく
現在、準備中。(提出には18人の議員の賛同が必要)

それに対して、the Scottish Council on Human Bioethics が
法案は「危険であり不要」とするプレスリリースを発表。

同カウンシルのDr. Callum MacKellarは

適切な緩和ケアによって肉体的な苦痛はケアすることが可能。
死に行く患者も、苦しまなくてもよいのだと知ると
安楽死についての気持ちを変えることが多い」ので“不要”。

ケアの困難な、またはケアに費用がかさむ人たちが
社会への重荷(burden)とみなされたり
第2級市民とみなされるようになる」ので“危険”。

さらに、これまで一貫して、殺すことではなく、治しケアすることであった
医師とその他医療職の役割を根本的に変えてしまう」ので“危険”。

また、リリースは次のようにも述べています。

自殺幇助の合法化は次の点でも危険です。

すなわちスコットランド社会が、いかなる理由であれ、命によっては
もはや生きるに値しない、すでに一切の価値も意味も失って終わりにすべきであると
(初めて)合意することとなる。

さらに、自殺幇助を支持することは、
社会が意味も価値もないとみなす人は手を貸して殺してもいいと認めることでもある。


カナダでつい先日起きたKaylee事件こそ、
正にこのような影響を自殺幇助合法化議論そのものが
社会に与えている証拠なのでは?




プレスリリースはこちら



【Kaylee事件 関連エントリー】

2009.04.22 / Top↑
ちょっと常識的な人なら、
こんなこと、なにも専門家がデータを出してくれずとも
分かっていたこと……とは思うのだけれど、

癌になるかどうかは遺伝子だけで決まるわけではなく、
がん患者の中で親から受け継いだ病気の遺伝子のために癌にかかったという人は5%~10%。

きちんとした食生活を維持し、体を動かし、体重を管理すれば
乳がんや大腸がんも含めて、たいていのよくある癌なら、39%は予防できる。

発病に関係していると特定された遺伝子を受け継いでいると分かっても、
それは、そうでない人に比べて発病の確率が高いというだけのことであり、
かならず発病するとは限らないのだ、と。

The World Cancer Research Fund (WCRF) のDr. Rachel Thompson が。

全体に、パーセンテージをどうやって出したのか、
その根拠がこの記事には示されていないのが引っかかるけど、
主張されていること自体、もともと「そりゃそうだよね」ということではある……。

Cancer just down to genes ‘a myth’
Yahoo! UK & Ireland, News, April 20, 2009



それから、この人は触れていないけど、
やっぱり、ストレスがよくない……と世に言われている常識だって
たぶん捨てたもんじゃないはず、とも思う。

この前、柳原和子さんの「百万回の永訣」を読んだ時に
多くのがん患者さんの共通の体験として、
がんを発病したり、再発する直前に、それぞれ
身体的にも精神的にもストレスの大きな数年間を過ごしていた、
という話が何度か出てきて、「ああ、やっぱりなぁ」と、しっくり腑に落ちた。

(念のために余計なことを書いておくと、
「がん患者学」の時から、私は、ごく部分的にしか共感できなかったけど
特に再発後のこの人の言動については批判的にしか受け止めることができません。)


ちょっと話は違うけど、
娘が小さい時に、他のお母さんたちと話をしていたら、
「夜寝ない」「ちょっとのことですぐ起きる」「異様な激しい夜鳴きをする」ことに
親がほとほと困り果ていた……という体験が
その後てんかんの診断を受けた子どもたちに“予兆”として共通していた。

ずっと前から医師に訴えていたのに相手にしてもらえなかった、というのも
これまた誰もが共通に体験していた。

患者の体験だって、ちゃんと調査研究してみれば科学的なデータとなって、
病気について分かることって案外に沢山あるんじゃないのかなぁ……と思うのだけど

その分野の専門家以外にはチンプンカンプンな最先端の知見でなければ
信じるに足りる科学的エビデンスではない……みたいな“神話”もあるようで、

これまでだって、そっちを向いていなかった科学のまなざしは
病んでいる人や障害のある人自身の体験から、さらにどんどん遠ざかり、
さらに人間が本来持っている知恵や賢さや本能的な知覚からも、どんどん離れていく。

そして、一番怖いのはきっと、
私たち世の中の一般人までがそれに引きずられて
ずっと前から誰もが常識的に知っていたこと持っていたものをかなぐり捨てて、
知識の断片や欲望に振り回されない賢さを失っていくこと。

この論文は、最先端科学に振り回される
そうした世の中への警告のように読めた。
2009.04.22 / Top↑
時間があったらじっくりと読みたいし、
エネルギーがあったらエントリーにまとめたいと思いつつ、
なかなか果たせないので、メモ的に。




英国の児童保護があまりにお粗末で、国は子どもたちの親としての責任を果たしていない、と批判。
保護施設収容年限16歳では、出た後の子どもたちの非行が防げず、本来は21歳にすべき。
せめて18歳に。とはいえ、地方自治体の財政難が問題。
http://women.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/women/families/article6128640.ece?&EMC-Bltn=IOWEIA


CA州のナーシングホームの運営企業がスペイン語を母国語とする職員に対してのみ、
勤務中にスペイン語での会話を禁じたことに対する損害賠償の集団訴訟で原告側勝利。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/146617.php


英国下院の委員会から国連障害者人権条約批准に関する報告書
http://www.egovmonitor.com/node/24702


去年「コウノトリのゆりかご」のネブラスカ版、年齢制限を設けない「安全な隠れ家法」で
数ヶ月の間に10代の子どもまで30人もが親に捨てられて
精神保健行政のお粗末が炙り出されたネブラスカ州は同法を改正して年齢制限を設け、
支援策を約束していましたが、その後、このたびの経済不況を言い訳にぐずぐずしているので
NYTimesが社説でチクリ。
http://www.nytimes.com/2009/04/20/opinion/20mon2.html?_r=1&th&emc=th



健康で長生きする秘訣を云々って、科学とテクノの偉業ばかりに目を奪われて
忘れているけど、実は友達の存在って大切な1つ。そりゃ、そうだ。
http://www.nytimes.com/2009/04/21/health/21well.html?th&emc=th
2009.04.21 / Top↑
夕方のニュースで日本の脳死・臓器移植法改正の問題が取り上げられていたのを機に、
当ブログ開設からの2年間に取り上げた臓器移植関連の海外ニュースをまとめてみました。

日本ではあまり報道されることはありませんが、
世界では(といっても読んでいるのが英語ニュースなので英米が中心になりますが)
こんなことが起こっている……というのを知った上で考えるのと
知らないままで考えるのとでは、
かなり話は違ってくるのではないかと
夕方のニュースを見ながら思ったので。


【Navarro事件 関連エントリー】



【Hannah事件 関連エントリー】



【Kaylee事件 関連エントリー】



【救済者兄弟 関連エントリー】
救済者兄弟:兄弟への臓器提供のために遺伝子診断と生殖補助技術で生まれる子ども



【その他 臓器移植関連エントリー】









2009.04.21 / Top↑
このたびThe Medical Journal of Australia に発表された研究で

摂食障害初期の5歳から13歳までの子ども101人を調査したところ、

78%が入院治療。
60%は命に関わる栄養不良状態だった。

また4人に1人は男児だった。

Severe eating disorders in five-year-olds
The Canberra Times, April 20, 2009


摂食障害が自尊感情と深く関わっているのは言わずと知れたことですが、
それにしても、5歳──。

子どもたちって、いつからこんなに不幸になったんだろう……。


科学とテクノの進歩で命の操作や選別が可能になり、
子どもは親が選べるものになってきたことや、

それにつれて、能力、特に知能偏重の価値観が蔓延していくことと

幸福でない子どもたちが増えてきたこととは
あながち無関係ではない……という気がする。
2009.04.21 / Top↑
英国の看護学会(the Royal College of Nursing)が
108人のプライマリーケアの看護師を対象に行った調査で

64%がターミナルな状態の患者が死を望んだ場合、
その患者に慢性的な痛みがあれば臨床家は自殺幇助を認められるべきだ、と答えた。

しかし、合法化された場合に自分はターミナルな患者の自殺幇助を行うかという問いに
Yesと答えたのは46%だった。

一方、早期の妊娠中絶(EMAs)の合法化には
反対の人が54%。

合法化されても自分はやらないという人が62%。

51%はEMAsがGPやポリクリニックでできるようになることに反対。
EMAsを行う診療所やポリクリニックでは働かないという人が37%。



このギャップをどう解釈したらいいのか、よくわからない……。

「看護師の3分の2が自殺幇助に賛成」として
あちこちのブログで衝撃が走ったり、話題にもなっているようなのだけど、

英国看護学会が実施したにしては
調査対象がたった108人というのも、なんか、よく分からない。


ちなみに4000人対象の調査で
医師の3分の2は自殺幇助の合法化に反対だった。詳細は以下のエントリに。

2009.04.21 / Top↑
先月、「乳幼児にてんかん手術は安全かつ有効」という論文が出てきた時も
なんだかイヤ~な話だなぁ……と思ったけど、

さらにイヤ~な匂いのする話が出てきた。

Lancet Neurology誌の5月号に発表された論文で、
無料で読めるのはアブストラクトだけですが、要するに

てんかん手術は患者によってはコスト効率がよい。
これは基本的な薬物治療が既に行われている国でのみ言えることかもしれないが、
貧困国においても、てんかん手術をもっと受けやすくできるのではないか。
その方策を考察する、と。

このアブストラクトにくっついている「現代てんかん手術」の説明にも
「コスト効率がよい」という言葉が繰り返されており、

「英国ロンドンで1886年にVictor Horsley卿によって行われたのが初めて。
(薬物治療が効かない)発作のある患者へのコスト効率のよい療法として受け入れられている」。

しかし、上記3月の乳幼児のてんかん手術の記事でも、
手術は「最後の手段」と捉えられているという話は紹介されていた。

薬品が不足していたり衛生面や技術面でも決して万全と思えない途上国での手術を
なんでわざわざ推進する方策が検討されなければならないのか。

それは露骨に書かれているように「コスト効率がよい」からであり、

どう考えても患者の身の安全なんて省みられていないような……?

Epilepsy surgery: challenges for developing countries
Jane Qiu, the Lancet Neurology, Volume 8, Issue 5, Pages 420-421, May 2009


この論文がLancetに掲載されていることが、そもそも「いかにも」だなぁ……と思うのは、

Lancetといえば、当ブログで追いかけてきたように
ゲイツ財団、ワシントン大学・IHMEと提携し、
Global Burden of Disease プロジェクトを推進中。

読んで字のごとく
病気を世界が背負い込む負担と捉え、それを軽減しようとのプロジェクトなのですが、

そこで使われているのは、DALY(Disability Adjusted Life Years)という新基準。

障害を負った状態もカウントする生存年数データの見直しを行い、
貧困などの社会的ファクターをまるきり無視した「科学的な検証」によって

世界中の保健医療施策全体をコスト効率で見直し、立て直すぞ、と意気込んでおられます。

こういう背景の中に、上記の論文を位置づけてみると、
今から世界中の医療が向かっていこうとしている方向がなんとなく見えてくるような……。

世の中の重荷・厄介者(つまりburden)になっている高齢者、障害者、貧乏人は
安全だの丁寧だの全人的だのと贅沢を言わず、

リスクは少々高くてもコスト効率のよい医療を受けてくださいよ、とね。


……なんてことを考えていたら、

時々お邪魔している精神科医の方のブログで、
米国の精神科医療といえば、もっぱら薬漬け医療のように見えるけれど、
実はお金持ちだけは以前の通りに精神療法を受けている、という話が紹介されていた。

精神科医による精神療法はもう終焉を迎えるのか??
(Dr.KOBAの身もふたもない話:2009/4/17)


やっぱり……。




2009.04.21 / Top↑