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精神障害者が高齢者と一緒にナーシング・ホーム(以下NH)に入れられていたり、
ナーシングホームの監査が十分に行われていなかったり、
入所者に不当に精神科薬が投与されていたり、という問題が
ここしばらく米国、特にイリノイ州を中心にニュースになっていますが(詳細は文末にリンク)、

その問題を一貫して追及しているChicago Tribune紙と
調査報道専門のPropublicaが共同で関連文書を調べ、

シカゴいくつものナーシング・ホームや精神科医療機関を兼任し、
患者を精神科薬で薬漬けにしてボロ儲けしている医師
Dr. Michael Reinstein(66)の行状を報じています。


劣悪なケアが問題視されて2000年に閉鎖されたManorナーシング・ホームでは、
精神科の責任者で、患者と見ればクロザリルを処方しようとするDr. Reinsteinのことを
職員が陰で「クロザリル・キング」と呼んでいた。

(クロザリルはclozapineの以前の名前。
こちらリンクの製薬会社の日本語サイトでは「治療抵抗性統合失調症の治療薬」で
「厳格な適正使用が必要」とされています)

Manorナーシング・ホームの患者たちは
Clozapineの副作用で体が震えたり、無気力になったり、失禁するようになっていて
副作用を訴えても相手にしてもらえないことに苦情を訴える患者があまりに多いので、
Reinstein医師は診察に来る時はボディ・ガードをつれていたという。

そういうエピソードもものすごいけど、なんといっても目を剥いてしまうのは、
この記事1ページにあるメディケイド資料からの棒グラフで、

2007年のReinstein医師の処方数は1286で、
同年にテキサス州全体でのclozapineの処方数1058を軽く超えている。

(フロリダ州全体で679、Nカロライナ州全体で472)

なおclozapineは
FDAの警告としては最高レベルのブラック・ボックスが5つもついた向精神薬で、
心臓肥大、急速な血圧低下、痙攣発作の増加、免疫不全などが副作用に上げられている。

Reinstein医師は今なお13のナーシング・ホームや精神科医療機関で診療を続けており、
訴訟や苦情の申し立ては相変わらずあるものの、シカゴ地域で最も利益を上げている医師の一人。

解剖所見と裁判書類によると、これまで少なくとも3人の患者が
Clozapine中毒で死亡したとされる。

1999年にあるナーシング・ホームで亡くなった50歳の男性は
死亡時、clozapineの血中濃度が中毒レベルの5倍に達していたという。
(clozapineは死後に血中濃度が上がる特性があるとReinstein医師は反論)
85000ドルの損害賠償で和解しているが、遺族は
「まだ診療を続けているのが信じがたい」と。

他に、2003年にCuretonさん(27)と2007年にSpruellさん(54)の2人が
Clozapine中毒により死亡しており、訴訟となっている。

いずれも、ナーシング・ホームで攻撃的になって精神科病院に移され、
そこで診察したReinstein医師や彼のクリニックの医師らが
Clozapineを増量したり、他の薬を短期間に追加したことが原因とされている。

去年のある裁判の証言でReinstein医師は
入所者415人のナーシング・ホームで
300人にclozapineを処方したことがあると認めている。

彼が診療を行っている医療機関の看護師の中には献身的な素晴らしい医師だと讃える人もいるが、

ある看護師の証言では、クリニックにやってくると診察室にこもって、ひたすらカルテを書いている、
患者とはロクに話さないし、病室訪問するのは見たことがない、と。

Reinstein医師の診療に疑問を持ち、
2003年に州の保健局に警告したシカゴの精神科医がいたが、返事はなかった、という。
Propublicaの問い合わせにも、当局はその通報をフォローした証拠を出せていない。

この医師は
「ナーシング・ホームで暮らしている人たちの利益については
外からのチェックが必要です」と。



Manorホームが閉鎖に追い込まれた監査の際には
Reinstein医師の患者が副作用をちゃんとモニターされていないことも報告されているし、
メディケアの不正請求の疑いも浮上しているにもかかわらず、
それらの問題は、なぜか、ウヤムヤになったまま。

地元医師からの警告にも反応しなかったとは、
この州当局の姿勢は、一体どういうことなのか……?

そういえば、Ashley事件でもWA州の保健局が
「調査に入る。場合によっては担当医には懲罰も」と公言しておきながら、
その後、ウヤムヤにしてしまったなぁ……。


【12月3日追記】
日本でも類似の事件が起こっていると教えてくださった方があったので、
TBさせてもらいました。


2009.11.30 / Top↑
強迫性障害(O.C.D.)
何年間もシャワーを浴びることが出来なかった中年男性と
毎日7時間もシャワーを浴びなければいられなかった若者。

2人は共に脳の深部に
ガンマー・メスでレーズン大の穴をあける実験的な外科手術を受けた。

若者の方はOCDが治って、今ではめでたく大学生。
中年男性は95年に手術を受けたが治らず、67歳の今でも家から出ることが出来ない。

うつ病、不安症、トゥーレット症候群、肥満の治療のため
過去10年間に精神外科治療の臨床研究の一貫として
脳手術を受けた患者は既に500人以上。(米国内でか世界中でかは不明)

結果が良好であるため、今年FDAは
1950年代の悪名高いロボトミー以来、初めて
強迫性障害に外科手術のテクニックの1つを認可した。

今後、研究が進むにつれて、さらに適応疾患が増えていくものとみられる。

しかし、効果は患者によってばらついており、
大して分かってもいない神経回路をいじっているとの批判もある。

米国で少なくとも1人、手術の失敗で自立生活が送れなくなった患者がいる。

Emory大学の医療倫理学者 Paul Root Wolpe氏は
「進歩はそれ自体によって正当化されるという、ほとんどフェティッシュな考えがあって、
有望な手段があるのなら、さっさと苦しみを取り除いてあげればいいと考えられていますが」
ロボトミーも同じような考えで行われて、多くの人に後遺症を残したのだ、
多くの医療のアイデアが、そういうことをやってきたのだ、と。

MGH/Harvard大学のDarin D. Dougherty氏は
「ここで、この研究が被害者を出したりしたら、今後また100年間
このアプローチは閉ざされてしまうことになる」と。

現在、実験的に行われているテクニックは3つで、
Cingulotomy(右脳と左脳の連絡を断つ?)、DBS、それに冒頭の2人が受けたタイプ。

いずれも、障害が正常な生活が送れないほど重症で、
スタンダードな治療がすべて効果がなかった患者に限って精査したうえで対象としている。
手術に当たっては、実験的なもので成功の保証はないとの文書に署名ももらう。

失敗すると研究者にとっても痛手が大きいので、
対象患者のスクリーニングは慎重に行うという。

手術を行っている病院には年間、何百人もの患者からの希望があるとのこと。

かつて、ロボトミーがほとんどデタラメに脳にメスを入れたのに比べると、
現在のテクニックははるかにターゲットをピンポイントに絞っているとはいうものの
去年スウェーデンのKarolinska研究所が発表した調査結果では、
OCDで手術を受けた患者の半数がOCDの症状が軽減した一方で
術後何年も無気力になったり、自尊感情が低下したりしていた。

「研究を報告する論文は、そのイノベーションを推進しているグループが書くのだから
どうしてもバイアスが紛れ込むのは防ぎがたい」とその論文の著者の一人。

Karolinska研究所の医師で、他のセンターよりも広く組織を焼いていた研究者は、
自分の調査の結果に衝撃を受けて、その後手術をやめた、という。

米国で女性患者が手術の失敗で重い障害を負ったケースは
2002年にOhio病院でのこと。
訴訟での賠償額は750万ドル。
同病院はもう手術を行っていない。



このエントリーを書くに当たってOCDのリンク先を探した時に、
最近コメントをいただいくことの多かった9月のエントリー
米国の市場から引き上げられたSSRIが日本で認可されたことの怪で出てきていた
社交不安障害についての解説を見つけた。

その中にも、2005年にSSRIが日本でも社交不安障害の薬として認可されたという記述があって、
ああ、ルボックスも、この中に含まれていたのだな……と納得。

なるほど、認可されたのはルボックス単剤ということではなかったのね……と
この解説を読んでいたら、

「社交不安障害の人は、脳の扁桃体という部分が
非常に過敏になっていることがわかっています」という下りがあって、

うつ病に対する薬物療法の考え方について
ずっと感じている、とても単純素朴な疑問と重なった。

その「扁桃体が過敏になっている」というのは
社交不安が起きた結果、脳に起こっている反応であって、
その脳の変化が社交不安を起こす原因ではないかもしれないということは、
ありえないんだろうか……?

仮に結果として起こっていることだとしても、
薬で一時的に抑えて、とりあえず苦しくてたまらない状態を凌ぐというのも、
それが苦しくてたまらない人にとっては必要なことだろうとは思うのだけど、

あくまで対症療法と捉えて薬を上手に使いながら、
時間をかけてじっくり病気と向かい合おうと構えることと、
脳で起こっていることを原因と考えて、そこを化学的に変えさえすれば治るという姿勢とは
なにかが決定的に異なっているんじゃないか、という気がしてしまう……。

あ、もちろん、何も知らない素人の、ただの他愛無い「気」がするだけで、

なにしろ、文系人間にとっては、
どうしたって、心と脳とは別物だとしか思えないものだから。

だから、強迫性障害とか、うつ病とか、まして肥満を治そうと
脳にメスを入れるというのは、

子どもが泣いているからといって
「じゃぁ、もう泣かないように涙腺を切断してしまおう」とでも言うみたいに思えて……。

(涙腺を切断……あは。あくまでも比喩です。比喩)



2009年11月10日の補遺(DBSの権威リザイ医師へのインタビュー。日本語)
2009.11.29 / Top↑
去年から問題になっているアイルランドの聖職者による子どもへの虐待問題で、1975年から2004年の間に行われ続けていた虐待を教会と警察がつるんで隠蔽していた事実が判明。ヴァチカンも調査依頼を無視していた。:結局、Ashley事件と同じ構図だ……。メディアも州も障害者の権利擁護機関ですら、相手が誰かを知ると、すっこんだ。今では障害者運動のアクティビストたちまでが、真実に気づいた人から、順々に口を閉じて去っていく……。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/nov/26/ireland-church-sex-abuse
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8382010.stm

英エセックス州の病院で、床やストレッチャーに飛び散った血がそのままにされていたり、使い捨ての機器が使いまわされていたり、機械がカビだらけだったり、という衛生観念が言語道断の実態が明らかになり、病院の監督方法の見直しが求められている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8382036.stm

「マリファナが自閉症に効く」と、ブラウニーに混ぜて息子に食べさせ続けているという母親が登場。攻撃的だったのが落ち着いてきたというのだけど、専門家は「それはマリファナ中毒にしただけ」。
http://abcnews.go.com/GMA/AutismNews/mother-son-marijuana-treat-autism/story?id=9153881&page=1

NY市長が生徒の成績を先生の契約(テニュア)検討で考慮に加えるとの案を打ち出し、教職員組合と対立している。:教育って、学力だけじゃない。学力だって必ずしもテストの点数だけじゃないし。
http://www.nytimes.com/2009/11/26/education/26teachers.html?_r=1&th&emc=th

フランスで教師を撃ち殺そうと計画していたティーンを逮捕。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8369677.stm
2009.11.29 / Top↑
去年10月に寝たきりの妻Margaretさん(62)のヘリウム自殺を幇助したとして
逮捕され、現在保釈中のMichael Bateman氏は

一定の状況下での自殺幇助は「道徳的に正しい( morally correct )」として
法改正だけでなく英国にもDignitasのようなクリニックが必要だ、と主張。

夫妻は結婚して40年。
元気な頃のMargaretさんはケアホームのアシスタントとして働いていた。

妻は病気(医師による診断名は出ていない)になってからは何年も苦しんでいた、
自分はフルタイムの介護のために自営のITコンサルタントの仕事を辞めたが
それによって家族は耐え難い状況に置かれた、
妻は餓死しようと試みたことがあるが、
そんなことをしたら病院で強制栄養になると脅された、
夫婦でDignitasへ行くことも検討したが、
事情があってかなわなかった、と夫。

「私がMargaretのためにしたことは道徳的に正しい( right and correct)。
もしも社会が私を投獄することを選ぶのであれば、
社会には自殺幇助の問題を検討しなおす必要がある」

「Dignitasは多くの人のニーズに応えている。
そういう施設がいたるところにあるべきなのだ。

私がしたことは理論上、妻をスイスへ連れて行くことと違わない。
スイスへ行ったことで罪に問われた人は誰もいないはずだ」とも。

Bateman氏を起訴するかどうかの判断は、まだ出ていない。



Purdy判決を受けて公訴局長(DPP)が9月に出した法解釈のガイドラインの内容については
こちらのエントリーにまとめてありますが、
それによると、この人は訴追されない可能性が大きいのではないか、と懸念されます。

ただしDPPのガイドラインは現在コンサルテーション中の、あくまでも暫定案。

また、ここしばらく、
それなりの立場の人たちからガイドラインへの批判が相次いでもおり、
そのあたりが、この事件に、どのように影響するのか……。
(詳細は文末にリンク)


Margaretさんの病気や症状がはっきりしないことが気になります。
その点から、私の頭に浮かんだ疑問は以下の3つで、

1つは、
慢性疲労症候群で寝たきりだった娘を殺した母親が殺人未遂で起訴されたものの、
メディアのトーンが「慈悲殺」に傾いていたGilderdale事件

次に、
DPPのガイドラインは、上記リンクで指摘したように
ターミナルな人の他にも「不治の重い身体障害のある人」と「重い進行性の身体障害のある人」を
近親者による自殺幇助が許容される自殺希望者の状態として挙げていますが、

診断されていない病気で寝たきりの人について
「不治」であるとも「進行性」であるとも判断することはできないはずだろう、ということ。

それから、最後に、
これは案外に盲点となりがちだけど重要だと思うのですが、
日本の介護関係者の間で最近よく指摘されている問題として、

要介護状態になった妻の介護を夫が担うと、入れ込みすぎたり過剰に支配的になりがちで
介護される方もする方も両方が疲労困憊し、抜き差しならないところに追い詰められてしまう
ケースが目立っているらしいこと。

そういう妻に「重い進行性の身体障害」があって「死んでしまいたい」と希望した場合に、
それが本当は「夫の支配的な介護から逃げるために死にたい」であったとしても
このガイドラインでは「判断能力のある、適応条件にかなった状態の人」と判断されて
夫が手伝って自殺させても(その場合は究極の支配かも)許容されてしまうことになるのですが、

もしかしたらケアマネのような立場の人や保健師などが介入して介護サービスを投入し
もうちょっと風通しのよい介護に変えていくことができたら
「家族には耐えがたい状況」を解消することも可能かもしれないし、
そこから妻が生きる希望を見出す可能性だってあるのでは……?

もちろん、夫が介護するケースに限った話ではないのですが、
当事者・介護者をそれぞれ支える仕組みを考え直す必要が取りこぼされたまま、
自殺幇助合法化や「死の自己決定権」が議論されることには、
こういう落とし穴が他にもいっぱいあるような気がする……。


ただ、以下のエントリーに一部書いているように、資料を調べる限りでは
介護者のニーズをアセスメントする制度があったり、
介護者支援に特化した施策と予算が組まれていたり、
英国は介護者支援制度では世界の最先端のようにも思えるのですが……。




2009.11.27 / Top↑
英国保健省が「介護費用がかさむので癌と認知症研究に予算が回らない」と。豚インフルや性病や肥満関連のキャンペーンからも介護にお金を取られる、とも。:Brown首相がニーズの高い高齢者に無料で介護を届けると宣言したばかりだし……。それにしても、なんか、いやらしい言い方だなぁ。
http://www.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/health/article6930661.ece?&EMC-Bltn=JLZF91F

CBSテレビの“60 Minutes”が、2008年に死ぬ前の2ヶ月の終末期医療に500億ドルかかっていたと計算して、このままでは国が破産する、と。(下のリンクが番組記事):15分程度のビデオを見てみた。どうせメディケアで支払うのだからと、病院が経営重視で無用な検査を高齢患者にしこたまやっている。80代、90代のターミナルの患者に治療とまったく関係ない子宮がんの検査とか、腸の内視鏡検査とか。そういう仕組みの問題と、無理な延命が行われていることと、いくつかの別々の問題があるのだけど、全体としてはタイトルどおりにthe Cost of Dying 「死ぬことのコスト」の話になって、このままでは国が破産するから配給医療を、という話に方向付けられてしまう。インタビューに登場する医師が「死を拒絶するのではなく、みんな死ぬんだということを受け入れないと」といっていたのが印象的だった。それは今の予防医学やTHニズムの方に向いても言うべきことだと思うし、「死の自己決定権」も私は「自分の思い通りにならない生と死」の拒絶に他ならないと思うので、そっちに向かっても言うべきことだろうと思う。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171956.php
http://www.cbsnews.com/stories/2009/11/19/60minutes/main5711689.shtml

ホスピス・ナースを主人公に自殺幇助をテーマにしたミステリーを書いた作家が、ベルギーのHoubenさんのケースをとりあげて、現在の米国議会で進んでいる医療制度改革案では、Houbenさんのような人からは栄養と水分が引き上げられてしまう、それは「自殺幇助」ですらなく「医療殺人」だ、と。
http://janestclair.net/i-was-a-teenage-vegetable-true-life-stories-of-health-care-reform-in-the-senate/

2000年のシドニー大会からパラリンピック知的障害者の参加を禁じてきたが、新たに参加資格等を見直して、再び参加を認めることに。
http://www.mencap.org.uk/page.asp?id=12616

先週、拾ったかどうか覚えていないので、一応拾っておこうか、と。145人の聖職者が中絶や同性婚、胚を壊すような研究や、自殺幇助・安楽死などには、個人としても組織としても一切関与しない、と宣言。その名をThe Manhattan Declarationという。
http://www.dailyprincetonian.com/2009/11/25/24561/

インターネットの闇の部分に関する報告書。匿名で何でも買える……。
http://www.guardian.co.uk/technology/2009/nov/26/dark-side-internet-freenet

薬のコマーシャルは販促効果はないのに、薬の値段にコマーシャル費用が跳ね返って、結局税金の無駄遣い、との調査結果。:日本でも最近薬のコマーシャルがやたらと多い。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/172007.php

フランスの研究者がES細胞から熱傷患者に仕える皮膚を作った……んじゃなくて、作る方法を見つけた。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8368976.stm

男性は毎日酒を飲むと心臓病を防げる。種類は問わない……という調査結果があれば、いや、それは違う、という反論もある。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8367141.stm

おなか周りに脂肪がたっぷりの女性は認知症になりやすい……そうだ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171918.php

Wikipediaに参加するボランティアが減って、魅力がなくなりつつある、とか。:私もAshley事件の項目が事実誤認だらけでぜんぜん気に食わないけど、英語であそこに入っていくエネルギーとストレスを考えると、自分のブログで地味にシコシコやる方を選ぶ。
http://timesonline-emails.co.uk/go.asp?/bTNL001/mJLZF91F/q1UHF91F/uM9ZZ6/xWFLRA1F/cutf%2D8
2009.11.26 / Top↑
むちゃくちゃ面白そうなものがあるようなので。

日本宗教連盟 第4回宗教と生命倫理シンポジウム
「尊厳死法制化」の問題点を考える
http://www.jaoro.or.jp/

2009/12/18 主催:財団法人日本宗教連盟 於:東京・ホテルグランドヒル市ヶ谷






□開催趣旨

  医療技術が急速に進歩し、社会全体の高齢化が進むなかで、「尊厳死の法制化」をめぐりさまざまな問題が提起されています。
日本では、ここ数年、死が近づきつつある患者に尊厳死を認めようとする声がある一方で、これに反対する議論もあります。平成17年に富山県の射水市民病院で、7人の患者が人工呼吸器を外されて死亡するという事件が発覚して以降、厚生労働省、日本医師会、日本救急医学会は、つぎつぎと終末期医療や救急医療に関するガイドラインを発表しました。一方、尊厳死の法制化を進めようとする国会議員連盟は、「尊厳死の法制化に関する要綱骨子案」を公表しました。
  尊厳死は、洋の東西を問わず古来、医療だけではなく、多くの分野にまたがる問題として捉えられてきました。また、尊厳死や安楽死に関する問題は、一人ひとりの存在と直結する問題であり、常に慎重な議論が交わされています。
  こうした背景をふまえ、今回は、現代において尊厳死が社会に投げかけている諸問題、とりわけ人間の生と死に深く関わる事柄を法律で決めようとする「尊厳死法制化」の問題点について、宗教、科学、医療、法律の視点から考えてまいります。



□主  催 財団法人 日本宗教連盟
□日  時 平成21年12月18日(金) 午後1時30分~4時30分
□会  場 ホテルグランドヒル市ヶ谷・瑠璃(3階)
     東京都新宿区市谷本村町4-1(℡ 03-3268-0111)
    (JR市ヶ谷駅下車、徒歩5分)

□日  程
 ◎受  付 13:00 ~ 13:30
 ◎シンポジウム 13:30 ~ 16:30
  パネリスト:
  立岩 真也・立命館大学大学院先端総合学術研究科教授
  井形 昭弘・日本尊厳死協会理事長
  加藤 眞三・慶應義塾大学看護医療学部教授
  光石 忠敬・弁護士
  コーディネーター: 島薗 進・東京大学大学院人文社会系研究科教授
 ◎質疑応答  
 ◎閉  会  16:30

□募集人数 200名(先着順)

□参加申込 氏名、所属、連絡先(住所・電話番号)を明記の上、12月10日までに日本宗教連盟事務局にFAXでお申込ください。定員になり次第締め切りと致します。
日本宗教連盟事務局 〒105-0011東京都港区芝公園4-7-4 明照会館内
 Tel 03-3432-2807 Fax 03-3432-2800


【当ブログの射水事件、日本尊厳死協会関連エントリー】
Ashley事件・市場テロ・射水事件 1
Ashley事件・市場テロ・射水事件 2

2009.11.26 / Top↑
カナダ、OntarioのOttawa病院の医師らが
2005年のオンタリオ地方での全出生例を調査したところ、
生殖補助医療で生まれた子どもの3%に大きな出生時の欠損があった。

自然に生まれた子どもの場合は2%。

補助医療のテクニック別では
排卵誘発が2,35%。
体内人工授精で2,89%。
対外人工授精では3,45%。

もっとも、生殖補助医療を受けた女性数が少ないことや、
もともと自然に産む女性のほうが若い傾向があることを考慮すると、
偶発的な差と言えないこともないが、

生殖補助医療では先天異常のリスクが大きい可能性も、と研究者。



2009.11.26 / Top↑
ベルギーで23年間“植物状態”だと診断されていた男性が
実はずっと意識があったことが分かったというニュースを
昨日のエントリーで紹介しましたが、

一般に混同されて使われがちな
「植物状態」と「最少意識状態」と「昏睡」と「ロックトイン症候群」とは
一体どう違っているのか、

また、なぜ「ロックトイン症候群」が「植物状態」と誤診されがちなのか、について
米国のリハ医がABCテレビで解説しています。

こちらのABCビデオのサイトから
Coma Misdiagnoses: How Could it Happen?  というタイトルのビデオを。

読むのと違って正確を期すためには何度も聞かなければならないし、
それでも私の聞き取り能力では、ちょっと自信もないので、
それらの厳密な違いについては直接聞いてもらいたいのですが、

私が個人的に印象的だったことは以下の3点で、

①「植物状態」とは presumed unconsciousness だという表現。
つまり、「意識がない」というのは「推定」であり「みなし」に過ぎないという理解。

②なぜロックトインの人が植物状態と誤診されてしまうのか、という点について

ロックトインの人は注意してよくよく見れば、
こちらの指示に従って、わずかにでも目を動かしたりするのが分かるし、
本来なら、診断する専門家はそれだけの観察ができなければならないのだけれども、
現実には、そのわずかな動きやサインが見落とされているのだろう、という指摘。

③そこで番組キャスターが、ここぞとばかりに、
ハイテクの脳科学技術で誤診を防げるという方向に話を持っていこうとするのに対して、

リハ医は引きずられるのではなく、むしろ
現場で患者の側にいる人たちの観察眼や診断技術を磨く方向で考えているようだったこと。


このニュースを受けて、米国のブログにも同じことを書いた人がいたけど、
特にやっぱり②のところで、私もシャイボ事件を思いました。

意識がないとされて餓死させられたTerry Shiavoさんは
映像を見ると、目が動いていること、その目に表情があること
私にはずっと気になっています。


【26日追記】
この映像を見た時に、文字ボードを介助で押さえているシーンがあるのが気になりました。
FCが絡んでいるとしたら、その点でもって全面否定の反応が出てくるのかなぁ……と思っていたら、
どうも、やっぱりネット上で「これは、やらせだ」というコメントが出ているようです。

私には、24日の記事の2枚目の写真の男性の姿は、
重いマヒによる言語障害のある人が全身の力を振り絞って何かを伝えようとする際の
私には非常になじみのある顔や体の動きであるように見えることと、

別に「足の動きでYes-NOを伝えている」という話もあるので、個人的には
文字盤を使う1つの場面だけでは何ともいえないと思いますが。


              ―――――――

ずっと前に仕事で出会った素晴らしいOTさんの一人と
この前久しぶりに会って話した時に、聞かせてもらった、とてもいい話を思い出しました。

“機能”だけではなく、“人”と向き合い、
なんというか、作業療法のココロそのものを生きている……みたいなOTの川口淳一さん。

著書はこちら
ああ、こういうふうに患者と向かい合っている医療職もいるんだぁ……と、
じわ~っと心に沁みてくる、本当にいい本です。

この人の作業療法のすごさについては、
また改めて書きたいと思っているのだけど、
とりあえず、その日聞いた話を。

ターミナルで、病棟の誰から見ても反応がなく、
「もう意識がなくなっている」と思えていた女性シズエさん(仮名)。

ところが川口氏は、呼びかけた時に、
酸素マスクをつけた女性の苦しそうな呼吸のリズムが、ほんのちょっとだけ変わることに注目する。

もしかしたら、これは呼びかけに反応しているのでは……と。

「聞こえてたら目をぎゅっと閉じてみて」と試しに言ってみたら、
その人は目をぎゅっと閉じて見せてくれた。

それから、その人は呼吸リズムと目を閉じることで周囲と会話することが出来るようになった。


このエピソードを聞いて、つくづく思った。

誰もが「どうせ、この人には分からない」と思い込んでしまったいる中で、
必死で出している弱々しい信号を、たった一人、誰かか「もしかして……」と受け止めてくれたから、

その人は「意識がない人」から「意識がある人」に変わることが出来た――。

死の直前に、その”たった一人”がいてくれたことは、
シズエさんにとって、どんなに大きな喜びだったことだろう。


そのエピソードを書いた、川口氏のブログエントリーは以下に。

希望
マイライフ・ユアライフ 2009年10月22日



2009.11.25 / Top↑
シアトル子ども病院のサイトに
来年7月の第6回生命倫理カンファの予告が出されています。

テーマは
Tiny Babies, Large Questions:Ethical Issues in Prenatal and Neonatal Care
小さなベイビー、大きな問題:周産期ケアの倫理問題



当ブログがAshley事件のマスターマインド(筋書きを書いている人)と考える人物で、
これまでは第3者を装って隠れていたくせに今年に入って俄かに表舞台に出てきては
Diekema医師と一緒に論文を2本も書いている  Norman Fost医師は、

このシアトル子ども病院の生命倫理カンファでは
Ashley事件の前から定番スピーカーの1人なのですが、
来年も、もちろん登場。

彼のプレゼンのテーマは

Whatever Happened to Baby Doe? The Transformation from Under-treatment to Over-treatment
ベイビー・ドゥはいったいどうなった? 不十分な治療から過剰な治療への移行


Baby Doe事件というのは、
米国の生命倫理関連事件の中でも大きなものの1つで、
日本語ではあまりいい説明がないのですが、立岩先生のところのサイトがこちら

英語のWikipediaはこちら

私もあちこちで読んでいて、ファイルのどこかに資料があるはずなのですが、
ちょっと探してみただけでは、すぐには見つかりませんでした。

細部に間違っている部分があるかもしれませんが、ざっと私の頭にある理解では、

1984年に生まれたダウン症の男の子で、
出生時、消化器系に手術で十分に治療可能な異常があった。

しかし、ダウン症であることを理由に両親が手術を拒否して、男児は死亡。

この事件が大きく報道されて論争となったことから
世論の圧力を受ける形で当時のレーガン大統領が児童虐待法を改正。

現在“Baby Doeルール”と呼ばれる一連の法律を作り、
子どもが不可逆的な昏睡か、救命が明らかに不可能な場合のほかは
治療を停止してはならないと定めた。

同時にそのための予算を連邦政府から地方に下ろすことを定める一方で、
この法律に違反する治療停止事例を通報させるホットラインまで作ったものだから
医療現場から激しい反発を受けた。

ホットラインはその後、停止。

親の希望もQOLも問わない、としたことが現在に至るまで論争になっている。

ちなみに、2005年に米国小児科学会誌上でBaby Doeルールを巡る論争があり、
Ashley事件に登場して不可解なほどオドオドしつつ擁護したJoel Frader医師が
その中で「最善の利益」はポルノと同じで使う人の意向次第でどうにでもなる概念だと批判しています。

この論争関連の論文は、Pediatrics誌のサイトで無料で読めます。
Frader医師の論文はこちら

なお、米国小児科学会倫理委員会は今年7月に
小児に対する栄養と水分の供給停止のガイドラインを作っていますが、
委員長が、あのDiekema医師とあって、相当に怪しげな作文となっています。
詳細は以下のエントリーに。

2009.11.25 / Top↑
英国の公訴局長(DPP)の自殺幇助ガイドラインについて、高齢者や病人、障害者を脅かすとの批判が出ていることについて、Community Careというサイトのインタビューに答えてDPP自身が反論している。
http://www.communitycare.co.uk/Articles/2009/11/20/113212/dpp-assisted-suicide-policy-no-threat-to-disabled-people.htm

英国で、ローマカトリックのビショップから、自殺幇助合法化について「文明社会でそんなことは許されない」との批判。
http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/religion/6616160/Assisted-suicide-proposals-unacceptable-in-a-civilised-society---Roman-Catholic-bishops.html

遺伝子組み換え作物の安全性を巡って、オーストラリアで論争が起きている。国民の3分の1が安全性に不安を感じている。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/genetically-altered-crops-divide-nation/1682871.aspx?src=enews

(ここまでの3本は実は21日の補遺のアップ忘れ)

現在議会に自殺幇助合法化法案が提出されているスコットランドで、スコットランド教会のミニスターがDignitasは人のためになる行いをしている、と賞賛、他国に頼ってごまかしている英国の偽善を批判。:宗教の側から賛成論が出てくるというのは珍しい。
http://news.scotsman.com/scotland/Suicide-clinics-give-patients-39muchneeded.5850321.jp

国際エミー賞の主演女優賞が、Dignitasでの自殺幇助をテーマにしたBBCのテレビドラマに贈られた。
http://www.google.com/hostednews/ukpress/article/ALeqM5jKgnb6RIHHDmuzWATeQRuKU6Z_ow

妊娠中の女性の尿中の化学物質(プラスチックを柔らかくするために使われているもの)の濃度が高いと、生まれた男児の遊び方が女の子っぽくなる。:このところ環境歩廊門関連の話題が目に付いている。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/20/AR2009112003698.html

男女間の給与差別をなくすべく政府は行動を起こせ、と豪で。
http://www.canberratimes.com.au/news/national/national/general/call-for-action-on-gender-pay-gap/1685744.aspx?src=enews
2009.11.24 / Top↑
英国の国民DNAデータベースを巡っては、
世界で最大だと英国政府が胸を張る一方で、
逮捕された後に無実とされた人のサンプルまで保存されていることの違法性が
欧州裁判所から指摘されているにもかかわらず廃棄が進んでいないなど、
当ブログでも関連ニュースを追いかけていますが(詳細は文末にリンク)、

今回のこのニュースも、聞き捨てならない内容。

警察官が今ではDNAサンプル採取を目的とした逮捕を
ルーティーンで行うようになっている、というのです。

英国政府のヒト遺伝子コミッションの報告書によると、
イングランドとウェールズの国民DNAデータベースは世界でも最大規模で、現在500万人分。
続々と増えており、国民のうち18歳から35歳までの黒人では4分の3のサンプルが採られている。

しかし法的な根拠や独立した監視体制については不透明なまま。
まともに議会で審議されたことすらなく、

実際に警察で容疑者を特定することを通じて検挙数の向上につながっているかどうかも
確認されていない。

また無実となった人のサンプルはこれまでに考えられたよりも多く、ほぼ100万人分。

去年のヨーロッパ裁判所の判断を受け、先週、内務相から
無実の人のサンプルの保存期間を6年とする法案が提出されたばかり。

コミッションのチェアマン Jonathan Mnotgomery教授は
いまや警察官はどんな些細なことでもすぐに逮捕するようだが、
逮捕さえすればDNAのサンプルを採れるからという認識でそういう逮捕が広まっているのだとしたら、
由々しい事態だ、と。



【関連エントリー】


2009.11.24 / Top↑
ベルギーで1983年に交通事故に遭い脳に損傷を負った
Rom Houbenさんは現在、46歳。

3年前まで23年間ずっと永続的植物状態にあるとされてきた。

当初、医師は
世界中で患者の意識状態を判定する基準とされるグラスゴー・スケールを使い、
Houbenさんの意識は「消滅している」と判断した。

ところが、3年前に神経学の世界的権威 Dr. Steven Laureysが
彼の脳をハイテクでスキャンしたところ、
Houbenさんの脳機能はまったく正常であることが判明。

Houbenさんは病院で暮らしながらパソコンを操ってコミュニケートできるようになった。

事故直後に植物状態と診断された時のことについてHoubenさんは
「叫んだのに、声にならなかった」
「夢を見ることで逃避した」

23年間「ずっともっといい生活を夢に見つづけていた。
フラストレーションという言葉では私が感じたものを表現するには足りない」

やっと意識が清明であることを分かってもらえた時のことは
「まるで第二の誕生のよう」だと語り、
これからはPCを使って周りの人とコミュニケーションをとりながら
楽しく生きて生きたい、と。

Laureys医師は、
やっとテクノロジーが彼に追いついたのだといい、
世界中で同様に間違って診断されているケースがあるはずだ、と。



Laureys医師はテクノロジーが追いついたのだと言っていますが、
テクノロジーが発達したから間違った診断が判明したのでしょうか。

このブログでAshley事件の当初から主張してきているように、
本当に科学的な思考をするならば、
意思や感情の表出能力が限られている人の場合には
「分かっていると証明できない」ことは
「分かっていないと証明された」こととイクオールではなく、
「分かっていない可能性も分かっている可能性もある」ということに過ぎないのに、

「分かっていることが証明できなければ、分かっていないのだ」という
非科学的・非論理的な結論が当たり前のように導き出されることが
そもそも最初から不当なだけじゃないのでしょうか。

ちなみに、この記事によると、
20年前にニューヨークの86歳の女性 Carrie Coonsさんが、
1年間の昏睡から覚めて食べ物を口にし、会話をしたのだけれど、
その数日前に栄養チューブを抜くよう求める家族の希望を裁判所が認めていたのだとか。


ベルギーといえば、自殺幇助が合法化されている国の1つ。

Houbenさんが、PCを通じてコミュニケーションをとりながら、
これからも前向きに生きて生きたいと喜びを語っていることが
彼のような状態を「QOLが低い」ので「生きるに値しない」と
捉え始めている最近の「死の自己決定権」議論にも、一石を投じてくれれば。

関連ニュースでこちらの続編エントリーも書きました。


【12月1日追記】
25日に日本語報道(CNN)もあったようです。
http://www.cnn.co.jp/world/CNN200911250006.html





【関連エントリー・A事件でのコミュニケーションの問題】
Ashleyの眼差し
Ashleyのカメラ目線
Anne McDonaldさんの記事
Singerへの、ある母親の反論
2009.11.24 / Top↑
自閉症は原因すらはっきりしていないというのに、というか、はっきりしていないからこそ、なのか、ありとあらゆる代替療法がはびこって、自閉症児のいる家族の4分の3はそういう療法を試みたことがあるという。Diekema医師が”You have a duty to make sure there is a good reason to believe it might work and not hurt your child.“とコメントしている。よく言うよ。それ、そのままAshley療法をやってはいけない理由になるでしょーが。
http://www.chicagotribune.com/health/chi-autism-science-nov23,0,6519404,full.story

米国で遺伝子差別を禁じる法律が出来た。:でも、記事がこの法律を歓迎しているのは差別が違法になったからというよりも、差別禁止法が出来たので、これでやっと遺伝子診断の研究を大手を振って進めることが出来る、差別の問題に法律で手を打って障壁が取り除けた、よかった、めでたい……というトーン。でも、差別禁止の法律を作らなければならないということは、遺伝子診断によって差別が起こるということでもあって。
http://www.nytimes.com/2009/11/22/opinion/22sun3.html?_r=1&th&emc=th

DNA検査のおかげで、それまで我が子だと思って育ててきた子どもが実は自分の子ではないと知る父親が増えている……という恐ろしい記事のようなのだけれど、最初のページに出ているのは、「やっぱり……」と思って離婚して養育費の支払いもするもんか……と思ったのだけど、4年も育ててきた娘との絆は、たとえ彼女が他の男性の子どもだと分かっても断ちがたくて、離婚後も娘とは親子の関係を続けている、という男性の話。これは、心が温まる……というか、ほら、人間の心って、やっぱり科学や理屈だけで割り切れるもんじゃない。
http://www.nytimes.com/2009/11/22/magazine/22Paternity-t.html?_r=1&th&emc=th

米下院で、医師らにメディケアの患者の受け入れを義務付ける法案が通過した。メディケアの患者を診てくれる医師がなかなか見つからなくて、高齢者が困っている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171765.php
2009.11.23 / Top↑
去年、巨大製薬会社とのえげつない癒着振りが騒がれた
著名児童精神科医Biederman医師のスキャンダルが
ADHDや小児の双極性障害の薬物療法のエビデンスに疑問を投げかけたのは
記憶に新しいところですが、
(詳細は文末にリンク)

このスキャンダル、今頃になって、オーストラリアに飛び火。

2007年からオーストラリアの小児科学会が
ADHDの治療ガイドラインを作っていたらしいのですが、

リタリンなどの薬物療法を最善の治療法としているものだから
没にして、新たに書き直されることに。

南オーストラリア大学のBrentonProsser教授は
「親御さんには薬物療法は最後の手段に、と薦めます。
薬がスキルを身につけてくれるわけではないし、
人付き合いのスキルを磨いてくれるわけでもないですからね」

オーストラリアでも去年、
このガイドラインの策定を担当した10人のうちの7人に
ADHDの治療薬の製薬会社と金銭的な繋がりがあったことが判明した、とのこと。

ADHD guidelines pulled after payment scandal
The Herald Sun, (The Daily Telegraph), November 23, 2009



私は、3年半くらい前に仕事で介護と医療関連の英語ニュースを読むようになってから、
こんな重大なニュースなのに、どうして日本では報道されないんだろう……と
首を傾げることがなんとも多いのだけど、

このBiedermanスキャンダルも、その1つ。

オーストラリアでも、もしも、このスキャンダルが報じられていなかったら
ADHDの治療ガイドライン策定に関わっている医師らの
製薬会社との関係が取り沙汰されることもなかったのかもしれないし……。

もちろん英語圏同士だと情報はツーツーだから隠しようがない、ともいえるわけですが、

インターネット時代なのだから日本でも情報そのものは入っているのに
なぜか、ある種のニュースには、日本のメディアはまったく反応しない。

メディアが反応しないから、ネット上でごく限られた人の間で知られていても、
それだけで終わって、然るべき動きにつながるということがない。

メディアがまさか本当に知らないのか、それとも知っていても反応しないのか、
その辺りのことを考えると、ものすごく不気味……。

当ブログが拾った“その種のニュース”とは、
このBiedermanスキャンダルの他に、例えば、








2009.11.23 / Top↑
この前、新聞で、“生活リハビリ”の提唱者であるカリスマPTの三好春樹さんが
堀田善衛氏の「インドで考えたこと」を読み、死生観を考える点で今こそ面白かった、
と言っているのを読んで興味を引かれたので、読んでみた。

刊行は1957年。
堀田氏がインドを訪れたのは、その前年。私が生まれた年だ。

堀田氏はインドで開かれた第一回アジア作家会議に日本代表として参加し
今のような経済発展など想像もつかなかった半世紀前のインドの
とんでもない貧困と混沌とが、ただあるがままに、そこに放置され、
貧困と混乱と悲惨のままに、人がただ生きていくしかない目の前の生を生きている、
その情景の迫力に圧倒される。

優れた作家の目というものは一瞬にして普遍的な本質を鋭く捉えるんだなぁ……と感じ入り、
同時に、「なんて今日的な問題なんだ、これは……」と目を見張ったのは
第1章の次の下り。

……そして街頭のいたるところに、人間がごろりと寝ている。なかには死んだ人もあるかもしれないが、人間は、どこにごろごろと寝ていても、決して物になることは出来ない。人間は、どんな環境の中にいても、砂漠にいようが水上にいようが、カルカッタの街頭に寝ていようが、それで幸福だろうが不幸だろうが、そんなこととは一切かかわりなしに、どこまでも人間は人間であるという、単純な、そして人は恐らくバカげた言い分というものだということだろうが、この単純な命題が異様な迫力をもって私にせまって来た。(p.14)

ここを読んで、すぐに頭に浮かんだのは、

1956年の世界には(少なくとも一般人の頭には)、まだ臓器移植医療は存在しない。
南アフリカのバーナード医師が世界初の心臓移植を行ったのは1967年のことだ──。

おのずと、その後の私は、この本を
このブログで考えてきた生命倫理の諸問題という文脈に据えて読んでいったのだけれど、
53年前に日本の作家が考えたことは、ちっとも古くなっていないことに驚く。

堀田氏は作家会議事務局のメンバーとして、アジア各国の作家たちと一緒に働きながら、
アジアと西欧、その中での日本について考え続けている。

事務局に集まっているのは自国ではそれぞれに著名な作家や詩人たちだ。
それなのに、お互いに相手の文学や作品については何も知らない。
一方、西欧の作家については誰もが知っているので、
西欧の作家論を語り論じ合うことを通じて、相手のことを知ることとなる。
もちろん話し合うための唯一の公用語は英語──。

そこでは西欧世界に名が知れていることのみが
権威ある人物であり、著名な人物である証しであったりもする。

われわれの、そしてこれまでのアジアの文学者の、えもいわれぬ悩ましさが、ここに恐らくむき出しになっている……。西欧が、十六、七世紀の頃からアジアに押し込んできて以来、この場の激論に至るまで、アジアは西欧に対する否定と対立のかたちでしか、自己の存在証明が出来ないという場が、政治についてはもとより、非常に広い場において、存在した。(p.34)

この「えもいわれぬ悩ましさ」、本当は文学者だけではなく、
あらゆる分野の研究者が現在でも感じているのでは……?

生命倫理の分野でも、ちょうどAshley事件の頃の森岡正博氏のブログに、
英語で行われる学会で英語圏の優位が揺るがないことを巡る悩ましさが書かれていた。

(もっとも、そこに疑問をもつことすらできない学者さんたちが多すぎることも
本当は大きな問題なのかもしれないのだけれど)

英語圏の“科学とテクノ万歳”文化と
そのイデオロギー装置としての生命倫理のグローバリゼーションは
堀田氏が53年前のインドで拾った“コカコーラレーション”という言葉が意味するものと
たぶん、本質的には違わない。

しかし堀田氏の考察は、ここから、さらに
アジアと西欧の対立の中で日本はどうしてきたのか、という方向に転じられていく。

ヒマラヤを臨みインドの全平原を見渡す展望台で、氏は
「極東の日本と西欧地中海世界との間」にある「この広大なる地域」のことを考える。

……文明文化における近代史現代史的秩序においては、われわれ日本人は、この広大なる地域を、たとえば腰にぶらさがっていたオモシを。ドサッとばかりおっことしてしまうような工合で、もっぱら西欧に取り付いた。……中略……
アジアは、われわれからおっこちてしまったのである。しかし、まるでおっこちてしまったわけではあるまい。まだ遅くはないであろう。ベンチに座っていて、私は、たとえば足のない人が、手術なんぞで切りおとしてなくなってしまったその足が疼くという、あの気持ちを味わった。ない足が疼く、あるいは痒くなる。その痛みや痒さをどうにかしようと思って手を出そうとすると、その足は、伝統として、歴史として、古代史、あるいは上代史的な精神秩序として、実在としてあるにはあるけれども、近代現代的な精神、文化の秩序としては、ないみたいな気がしてくる、あるいは、あってもらっては困るような気がして来る。古代上代史的秩序における同質性と、近代史現代史的秩序における異質性。(p.83,84)

ここで日本とアジアの同質性を幻肢に例えた堀田氏は
この後、そのことを浮き彫りにするような現地での体験をつづりつつ考察を深めた後に、
また次のように書く。

……われわれ日本人は、アジアから訣別することによって近代日本というものを獲得したものであるらしい。近代日本はそれでいい、しかし、次の時代の日本ということを考え、想像のエネルギーを汲みとるべき源泉について考えるとき、近代、近代化というだけではまったく足らないものがあることを、否でも応でも見せつけられるはずである。
 私は近世及び近代の日本が、宗教から離脱してしまったことをわるいとは決して思わない。それは必然的であり、むしろ良いことであると思う。……しかし、われわれの生活信条の底の方にのこっている、そして日本の精神的風土の根もとをなしている土着信仰のようなものが、表現の世界にまだ定着されていないこと、このことはもっと考えられていいことであると思う。(p.123)

この話もまた、現在でも「表現の世界」だけに終わらない……。
このあたりを読みながら私の頭にずっとあったのは、7月の脳死・臓器移植議論だった。

日本の臓器移植議論が誰にとってもどこか一点、居心地の悪さをぬぐえないのは、

どこまで行っても人間は物にはなれない……という感覚を
「いや、そんなのは“幻肢”に過ぎない。ないものはないんだ。
そんなものに拘泥して救える命を救わないのは非科学的だ」と
ばっさり切って捨てる移植医療の合理性や
脳科学と遺伝子ですべてが解明・解決されていくかのような
今の科学とテクノの語り口調に対して、

堀田氏の言う「古代上代史的アジアとの同質性」とか
「日本の精神的風土の根もとをなしている土着信仰のようなもの」に
「まだ定着していな」かったり、少なくとも折り合いがついていないにもかかわらず、

「近代史現代史的秩序の異質性」だけでもって
突き進んでいこうとするブルドーザーのような剛力に
われわれが違和を覚えて戸惑うからじゃないんだろうか。

堀田氏は後半、「悪ずれした日本人(sophisticated Japanese)」という言葉を使い、

……一方で原水爆核兵器を禁止せよ、と世界に訴えながら、他方では、自分だけは将来核兵器を持つための途はあけておきたいという、一部の人たちの考え方などは、この悪ずれの典型である。それは、アジアの開放を旗印にしながら、ちゃっかりアジアを帝国主義的に支配しようという、太平洋戦争の悪ずれ方と歴史に軌を一にしている。(p.157)

そして、近代日本の政治のもつ「二重性」を指摘して、言う。

……そしてこれは、単に政治だけではなく、より根本的には近代日本人の心性そのものが、こんな工合いに表裏反対のものをもち、従って根本的な問題はつねにこの二重性の谷間につきおとされて、ウヤムヤになってしまう、ウヤムヤにしてしまう。つまりウヤムヤのうちに時間がたち時代と流行のようなものが変われば、それで済んだような気になる──こういう心性、こういう時間と歴史のおくり方をわれわれはどこから得てきたのか。(p.158)


今、事業仕分けで問題になっているスーパーコンピューターの問題が象徴的だと思うのだけれど、
科学とテクノのグローバリゼーションとネオリベラリズムは
もはや経済とそのまま重なって世界中を覆い、

インドも日本もアジアも、その過酷な競争から1人逃れるというは不可能で、
アジアの誰もが悪ずれすることを余儀なくされている点は
堀田氏がこれを書いた53年前と異なっている。

たぶん、そういう今の科学・テクノと経済の弱肉強食競争の中では、
悪ずれしたくともできなくて取り残されていくアフリカや一部アジアの国々が
堀田氏の時代の「アジア」に当たり、
インドも中国もベトナムも悪ずれに成功して、
当時の日本の後追いをしている……ということなのかもしれない。

(日本の障害学がアジアやアフリカにこだわっている理由が
このあたり、また少し、分かったような気がする)

「少なくとも公の議論となる英米よりも日本で起こっていることのほうが
実はコワいのかもしれない」と当ブログが何度も書いてきた、そんな懸念は、
堀田氏が53年前に指摘した「二重性の中でウヤムヤ」という日本人の心性そのものだ。

「西欧」で起こっていることの詳細な事実も情報も表立っては知らされず、
誰も知らないところで学者や研究者、いわゆる“専門家”が細々と議論しているうちに、
いつのまにか世論はメディアに巧妙に誘導され、
違和を覚えつつも、やっぱり「西欧」を仰ぎ見て追いかけていく方向へと、
なし崩しのウヤムヤのうちに、なんとなく押しやられていく。

足を切断して、ないはずの足が疼く、痒い、と違和感を訴える人を
「そんなものは幻肢だよ。ないものはないと自分で納得するしかないんだ」と叱りつけ、

とてもよくできた美しい人工の足を持ってきて
「さぁ、これをつけて歩いてごらん、すべては元通り。ハッピーじゃないか」
と言って終わりにしたい人たちにとっては、その幻肢は「あってもらっては困る」のだろう。

でも、その幻肢の存在と向き合って、なぜ、幻肢があるのかということや、
その幻肢がその人にとってどういう意味を持つのかといったことにも、ちゃんと対処しなければ、

人工の足をつけて歩きながら、
その人には折り合いがつかない部分が残るということなんじゃないだろうか。

折り合いがつかないものを抱えたまま、
二重性の中で生きてきたから、意識のうえではウヤムヤにしていても
意識下では、その相反する2つが激しく葛藤していて、
だから戦後の日本の社会は精神分裂的なんだというのは……

そう、そう。
たしか岸田秀さんの説だった──。
2009.11.21 / Top↑
ワシントン大学がGroup Healthと共同で、高齢者の認知機能低下のメカニズムについてthe Adult Changes in Thought(ACT)なる研究をしている。参加者2000人。2年ごとにさまざまな質問に答えて、認知機能の検査をし、どのような要因が認知症の発症に関与しているかデータを取る。23年間継続される。今後5年間の研究助成は120万ドル。その「さまざまな質問」の中には「死後に脳の解剖をすることに同意しますか」というのも……。:そういえば、今年の夏、日本に「脳バンク」というものがあるのを私は初めて知った。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171408.php

昨日拾ったブラウン首相が提唱している高齢者への無料介護の問題で、アルツハイマー病教会が歓迎の意を表明。機能のニュースにもあったけど、数日前のエリザベス女王のスピーチでも触れられていたらしい。認知症患者のケアが英国ではこのところ注目の話題。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171424.php

同じく、英国看護学会もニーズの大きな高齢者に介護を無料で、という政府の提言を歓迎。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171499.php

英国の病院での認知症患者へのケアが酷いとの指摘を受け、看護教育のスタンダードを見直し、認知症患者へのケア向上へ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171426.php

乳がんに続いて今度は子宮がん検診でも、21歳からでいい、そんなにたびたび受けないほうがいい、と。こちらは米国産婦人科学会から。当然、またも即座に反発・疑問の声、続々。それにまた反論する声も。:まぁ、出所は別なんだけど、こう立て続けに出てくると、医療費削減のため? ワクチンが足りなければ女の摂取量を減らして男に回そう、という話があったけど、あの路線なのかしら……と勘ぐってしまう。
http://www.nytimes.com/2009/11/20/health/20pap.html?_r=1&th&emc=th
http://www.nytimes.com/2009/11/20/health/20assess.html?th&emc=th
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/19/AR2009111904743.html

先行したマンモのガイドラインは、出したタスク・フォースが政治の空気を読めなかったことが問題だった? もう1つは、マンモの論争は医療保険制度改革議論とは切り離そうね、というNYTの論説。Op-Edの人は、このタスクフォースは90年代から同じことを言っているし、検査のリスクを巡る論争だって、別に目新しいわけじゃない、と。
http://www.nytimes.com/2009/11/20/health/20prevent.html?th&emc=th
http://www.nytimes.com/2009/11/20/opinion/20fri1.html?th&emc=th
http://www.nytimes.com/2009/11/20/opinion/20aronowitz.html?th&emc=th

英国NHSで女性の性器整形が急増。去年に比べて70%も増加。12日のBBCにも同様のニュースがあった。
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2009/nov/20/cosmetic-vaginal-surgery

薬の効き方が成人と子どもでは違うのに、子どもでは研究が少ないとして、NIHから研究助成850万ドル。:去年のスキャンダルの教訓?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171410.php

オーストラリアのDr.DeathことDr. Nitschkeが先週サンフランシスコで自殺ワークショップを行った際に、障害当事者のアクティビスト3人が会場周辺で抗議文を配った。そのうち2人が会場に入ろうとしたら、力づくで阻止された。……という報告と、そのときの抗議文とがNot Dead Yet のサイトに。
http://notdeadyetnewscommentary.blogspot.com/2009/11/disability-activists-greet-euthanasia.html
2009.11.20 / Top↑
ゲイツ財団、UNICEF、WHO、世界銀行などが作っている
Global Alliance for Vaccines and Immunization(GAVI)がベトナムでフォーラムを開催。

400もの個人、団体、国が参加した。

GAVIが途上国のワクチン開発・製造に競争原理のビジネスモデルを持ち込んだおかげで
途上国でワクチン接種を受ける子どもが増えるにつれて
製造する企業が増え、ワクチンの価格が低下している、

それもこれも、GAVIの活動が実を結んでいる証拠だ、これまでに前例のない進歩だと、
その成果を自画自賛発表。

GAVIのCEO、Julian Lob-Levyt氏は
「もっと早く価格が下がると思っていたし、もっと下げなければならないが、
しかし、我々のマーケット形成の努力が身を結んでいることは明らかである」と。

GAVIの資金で作られるワクチンはその大半がUNICEFによって買い上げられている。
価格が下がれば、それだけ多くの途上国の子どもたちにワクチンを接種することができる。

特にGAVIが力を入れているのは
5価ワクチン(インフルエンザB、ジフテリア、百日咳、破傷風、B型肝炎)のpentavalentで、
2015年まで、GAVIの最大の出費対象となる。



なるほど、our market-shaping efforts……ね。


なんとなく、臭うなぁ……とは、思っていました。
私、A事件を調べているうちに、ゲイツ財団の気配を嗅ぎ取る嗅覚が身についたのかしら……。

それにしても、やっぱり恐るべし。ゲイツ財団──。

マーケットを形成してワクチンの価格を下げよう……と、かの財団が望むとなれば、
その望みにくっついている財団のゼニの匂いを敏感に嗅ぎ取って、
かの財団の望み通りの動きが、さささぁぁぁっと漣のように世界中に広がっていく……。

この、たぶん日本では誰も読まないような地味なニュース、
私には、ものすごく怖い未来の予言のように聞こえる。

なぜなら、ゲイツ財団がワクチンによって徹底した病気予防をやろうというのは、
それが一番コスト効率の良い医療費削減手段の1つとの
ゲイツ氏らしい慈善グローバリズム医療ネオリベの分析・判断があるから。

もちろん、この人自身は全くの善意なのだけれど、
非常に偏った価値観を持った誰かの単純素朴な善意というヤツは
もしも、その人が猪突猛進できる立場・状況にいる場合には、
その人が単純で素朴で善意に満ちていればいるほど、傍迷惑な暴走を起こすもの。

そんな子どもみたいな善意にあふれたゲイツ氏が
どうしてもやらなければならんと考えている最終目標は、
コスト効率・市場原理のビジネス・モデルによるグローバル・ヘルスの効率化。

すなわち、彼の私設WHOであるIHMEを通じて、DALYで
世界中の保健医療施策を組み替えていくこと。

障害を負って生きている状態は、障害のない状態の8掛け……とか、計算して、ね。
(詳細は「ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫に)


               ――――――

ちなみに、GAVIについては以下のエントリーで取り上げた記事に
非常に興味深い言及がありますが、


Gates氏を世界の王と讃える元マイクロソフト社員のジャーナリストですら
GAVIのことを慈善資本主義の発達で生まれた弊害というべき、超金持ち団体の1に数える。

どこが弊害なのかというと、
一応、理事に名前を連ねているUNICEFやWHOといえども投票権はなく
資金をいただくために頭を下げる立場として、

GAVIの資金パイの分配を巡って
支援対象の途上国と相争わなければならない。

つまり、仕切り役はもはや国連機関ではなく、
1組の夫婦の発言力で動く1民間財団となってしまっているのですね。

私はこの夫婦のことを善意のヴォルデモートさんと密かに呼んでいるのだけど……。


ゲイツ財団が「科学とテクノでイケイケ」の現在の世界でいかなる存在なのかを考える時に、
このジャーナリスト Michael Fortner氏の書くものは大層おもしろいので、もう1つあげておくと、

2009.11.20 / Top↑
ニコチン中毒を治療するワクチン、もうすぐ売り出せそうなんだとか。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171318.php

10月2日の補遺で拾ったニュースで英国のBrown首相がニーズの高い高齢者には無料で介護を届けると明言したことについて、英国は現在NHSの介護版NCSの負担と給付のあり方について3方式を挙げてコンサルテーションをしているところなので、そちらとの関係は一体どうなっているんだろうと思っていたら、案の定、身内労働党から、あんまり選挙目的で財源を無視した約束してはいかん、コンサルテーションとの整合性はどうするんだ、という批判が出たらしい。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article6922489.ece?&EMC-Bltn=HCOB81F

Wisconsin州に死んでいく成人患者のほとんどが事前指示書を書いている町があるとか。:それはそれで、ちょっと異常なような気もする……と思ったら、病院の多職種が総動員で死にそうな患者には事前指示書を書かせて、別にその余分な仕事はメディケアの給付対象にはならないけど、それでも余分な治療をやらないですむ削減分で十分に元が取れる、という話だった。つい読んでしまったので、明日、まとめてみるかも。Wisconsinは、当ブログ注目の倫理学者 Norman Fost のお膝元だから、かなり気になるし。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171330.php

違法に移民を入国させ、借金をでっちあげて拘束し売春宿で働かせていたオーストラリアの女性(42)がセックス奴隷として人身売買を行ったとして起訴、裁判に。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/woman-42-faces-charges-of-sex-slave-trafficking/1681772.aspx?src=enews

オーストラリア首相がサイエントロジー教会の調査を命じた。監禁、暴行、強制中絶、横領、その他ありとあらゆるスキャンダルが噴いている様子。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/nov/18/scientology-torture-allegations-australia

昨日の補遺で拾った米国の乳がん検診の新たなガイドラインについて、保健省がガイドラインは強制するものではなく、今までどおりで、と。
http://www.nytimes.com/2009/11/19/health/19cancer.html?_r=1&th&emc=th
2009.11.19 / Top↑
カナダのSherril&Tom Milley夫妻は(なぜかこの記事は妻が先になっています)
第1子の時に夜毎の宿題バトルに疲れ果てたものだから、
第2子と第3子では、こんな思いはもう沢山だと考え、

夫婦共に弁護士である利点を生かして
「ウチの子たちだけは宿題をなしに」と求めて訴訟をおこした。

そして、なんと勝利したそうな。

子どもと両親と先生たちとで署名した2ページの計画書が作られて、
宿題は子どもたちの評価に用いないこと、
その代わり、子どもたちは授業の間にちゃんとやること、
予習してくること、テストの見直しをすること
毎日本を読み、楽器の練習をすることが明記された。

(でも、宿題をやれない子どもが、予習やテストの見直しをやるかなぁ……)

うへぇ、これはちょっとヤバイんじゃない……? と思ったことには、
この記事の最後に引用されているお母さんのセリフがAshley父のセリフとそっくりで、
(Ashley事件については、「このブログについて」または「A事件の裏側」をご覧ください)

いわく、

何が子どもの最善の利益にかなっているかを選択するのは親の権利だと
私たち夫婦は考えています。

でも、学校には正しい決断をしてもらって感謝しています。



これ、モンペがたまたま弁護士だったという話ではないんでしょうか。

「科学とテクノの簡単解決でイケイケ」文化にどっぷり浸かったITオタクが
たまたま重症児の父親で、はたまたゲイツ財団に近い人物だったというのが
Ashley事件だったかもしれないように――。
2009.11.19 / Top↑
マラリア
結核
アルツハイマー病
エイズ
パンデミック・インフルエンザ
性器ヘルペス
尿路感染
植物起因のアレルギー
旅行先での下痢

こういうのを予防するワクチン、今後5年以内に売り出されるかも。

……というのも、
利益が大きい、テクノロジーがそれだけ進んだ、政府もテコ入れしている、とあって、
ワクチンはオイシイと製薬業界が成長戦略の食指を動かしているから。

今後5年間で3分の1の増加が見込まれている処方薬に対して、
ワクチンは去年の190億ドルから13年には390億ドルもの急成長が予測されており、
ワクチンの売り上げが80億ドルしかなかった04年からすると、なんと5倍にも。

米国政府が子どもに接種を推奨するワクチンは現在17種類で
1985年当時の2倍以上。

18歳以上にも6種類か、人によっては10種類の接種が推奨されている。

04年にインフルエンザのワクチンが問題視されて下火になって以来、
ワクチンに力を入れてこなかった企業が、次々に再参入しているし、

特に豚インフルのパンデミック騒ぎで、この動きが急加速している。

既に、豚インフル・ワクチンの次を見越して
インフルエンザ全般に効くワクチンの開発に手をつけている企業も。

Vaccines on Horizon forAIDS, Alzheimer’s, herpes]
The WP, November 18, 2009


な~んだか、なぁ……。

読んでいると、医療関連記事というよりも、
これ、トーンは完璧、ビジネス記事――。

「これからは黄金時代だ」とか
「これまで、どこも干上がっていたけど、今はどこもかしこも潤っている」とか
「がっぽり儲かる(real money)」とか。

リスクの “リ” の字も出てこない、ワクチン開発記事――。


            ――――――

これ読んで、どうしても頭に浮かぶのは
処方薬の多剤投与の問題

そういえば11月号の「介護保険情報」でも
認知症の人と家族の会顧問の三宅貴夫医師が
連載「認知症の人と家族を支える(事例篇)8」の注において次のように書いている。

わが国では高齢者への多剤投与が日常的に行われていると思われるが、
なぜかあまり問題視されない。

当ブログでもニュースを拾っているように、
英国では、最近にわかに問題視されているのだけど。



2009.11.19 / Top↑
Amelia Gentleman というジャーナリストがDignitasを直接訪れて、独占取材。
記事がGuardianに掲載されています。

Inside the Dignitas house
The Guardian, November 18, 2009

同行カメラマンによるDignitasの内部の写真10枚はこちらから。

今年の夏に会員からの寄付など約100万ユーロで
Pfaffikonというところに2階建ての家を購入しており、
その内部も一部公開されています。

創設者のLudwig Minelli氏(76)のインタビューによると、

Dignitasが1998年の創設以来、自殺を幇助した人数は60カ国からの1032人。うち英国人132人。
使用するのは60ccの水に溶いた致死薬15ミリグラム。

(ここでは模倣を恐れて詳細は明かさないと語っていますが、
これまでの報道ではペントバルビツールと言われています)。

最近つとに有名になったMinelli氏のところには
いきなり押しかけてきて自殺したいと幇助を求める“飛び込み”が増えているが
来た人には丁寧に応対して返す。中には決意を翻した人も。

Dignitasのサービスを受けるには所定の手続きが必要で、

・ まず、47ポンドを支払ってDignitasの会員となる(会員には誰でもなれる)。

・ 死にたい時期がきたら、医療記録と何故死にたいほど耐え難いかを書いた手紙、それから1860ポンドをDignitasに送る。

・ 資料がDignitasと提携している医師に送られ、医師が致死薬の処方を書けるかどうかの判断を行う。

・ 医師がOKしたら会員に連絡が行き、会員がDignitas本部の担当者と打ち合わせに入る。

・会員がチューリッヒに着くと、医師の2回分の診察代金620ポンドと、Dingnitasの担当者2人への報酬として、さらに1860ポンドの支払いが必要となる。ただし払えない人には減額される。

・ スイスの法律は自殺幇助を認めているが安楽死は禁じているので、会員が自分で飲まなければならない。自分で飲み込めない人には、ボタンを押したら自動的に投与される装置が用意されている。その場面はビデオ録画される。

Minelli氏は自分たちがいかに自殺希望者の動機を精査しているかを強調し、
ターミナルな病状の人やALS、MSなど苦しんで死ぬことが避けられない人たちが
苦しまずに死にたいと望む気持ちを代弁していますが、

Gentleman氏は実際にはMinelli氏がそういう人以外も幇助してきたことを指摘。
(詳細は文末のリンクに)

そこでMinelli氏が述べるのは
ターミナルな病状の人だけでなく死にたい人なら誰でも死ぬ権利があるべきであり、
自分は彼らの死にたい気持ちについて道徳的にどうこう評価することはしない。
道徳といっても、宗教によって多様なのだから道徳は論じない。
自己決定という無神論原則でやっている。

スイスの刑法セクション115にあるのは
利己的な動機によって自殺を幇助したものは5年以下の懲役刑に処せられるとの規定。
Dignitasなど自殺幇助機関は利己的な動機がなければ自殺幇助は合法であるとの解釈するが、
スイスの医療規制では健康な人への薬の処方は禁じられており、
特に精神障害者への自殺幇助には制約を設けている。

Minelli氏は、長年うつ病に苦しみ続けてきた人が死にたいと望んでいるのに、
この先まだ何年も苦しみ続けろとはいえないと語り、
今のところ家での自殺方法をアドバイスするにとどめている、と。

これまでの幇助で起訴されたことはないが政府との訴訟はいくつか抱えている。

Miinelli氏は以下の3つの信念に基づいて、
自殺のタブー視をやめ「耐え難い状況から撤退する“素晴らしい機会”」と捉えるべきと説く。

・自殺について自由に語れることによって自殺願望は弱くなる。

・幇助を漠然とでも約束されることで苦しまずに死ねると安心する。
(彼の調査ではOKの出た会員の8割は自殺しない)

・適切な自殺幇助サービスを提供することで、未遂の後遺症を防げるので
医療費全体への負担が軽減される。

ただ、彼自身は自殺の現場には立ち会ったことはない。
実際の幇助を行うのは元会員だったというスタッフの女性Beatrice Bucherさん。

自殺当日、希望者は11時までにDignitasにやってくる。
これは死後の関連手続きを役所の勤務時間内に終わらせるため。

会員は家族や友人と一緒に来るように勧められており、
最後の時間に適したレストランや娯楽施設の情報提供も受ける。

Dignitasにやってくるとスタッフ2人と丸テーブルを囲み、
多くの書類に署名をするなどの事務手続きを行う。
致死薬の30分前に吐き気止めを飲むが、そのタイミングは会員が決める。
自分の人生を延々と語ってもかまわない。
かける音楽や、その他の詳細はすべて本人が決める。

いよいよ致死薬を飲む時には、
座って息を引き取ると、口が開き体がぐったりして家族が衝撃を受けるので、
それを避けるために横になるよう勧める。

一旦飲むとすぐに意識が朦朧とするので、飲む前に家族とお別れの言葉を交わしてもらう。
たいていの人は冷静で、感謝し、死ねることを喜んでいる。

亡くなると、葬儀屋と警察に連絡を入れる。
警察は隣の部屋で録画を見て報告書を書く。
自殺者が着ていた衣類は2階で洗濯し、箱に入れておいて赤十字に届ける。

Dignitasの本部は夏に購入したPfaffikkonの家から車で20分ほどの
Minelli氏の自宅近くにあり、スタッフは非常勤10人。
Minelli氏の仕事の中心は、この事務所で書類仕事と法律問題の処理をすること。

訴訟のコストが毎年10万ポンドかかる。
彼自身は給料を取っておらず、Dignitasの経営でむしろ借金を抱えた、と。

    ―――――――

書かれていることは、だいたい、これまで報じられてきたことですが
ちょっと、びっくりしたのは、どうやら実質的には
Minelli氏一人がやっている組織らしいということ。

記事の中に、Dignitasに批判的な検事のひとりが
「Minelliさえ死んでしまえば問題解決だ」と発言したエピソードが出てくるのですが、
Dignitasとは、すなわちMinelli氏個人に他ならない、こうした実態から出てきた言葉なのでしょう。

そのくせ、彼自身は実際は手を汚さないで非常勤職員にやらせている……。

なお、この記事でも触れられていますし当ブログでも拾っているように、
スイス政府は現在、自国が国際的に自殺ツーリズムで名前を馳せていることを憂慮し、
Dignitas他の自殺幇助機関の規制を、禁止も含めて検討中

この取材を受けたことそのものが、そうした動きに対する警戒と懐柔策なのでしょう。


今年6月1月段階で、英国における自殺幇助関連の動きをまとめたエントリーはこちら


2009.11.19 / Top↑
長い記事なので、明日にでもゆっくり読みたいけど、スイスのDignitas内部の取材記事。
http://guardian.chtah.com/a/hBLA5t1AY30QpAb$K7cBk4EH8B5/gutd10

病院の認知症ケアがお粗末なために多くの患者が命を落としている、という調査結果。英国。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/171056.php

米国の医療保険制度に高齢者と障害者がナーシングホームに入らなくてもいいように介護の保険制度も含める案が、民主党議員から。
http://www.nytimes.com/2009/11/18/health/18mammogram.html?th&emc=th

マンモグラフィーは約1割の確率で間違って陽性と出るため、それだけ無用な検査をすることに繋がる。検査にはリスクがないわけでもないので、定期的に受けるのはやめたほうがいい、あまり早くから受けなくてもいい、と連邦政府のタスク・フォースのガイドライン。NYTには、このガイドラインに対する疑問の声も報じられている。ここまでは昨日のニュース。今日のNYTには、ガイドラインが出ても、多くの医師はこれまでどおりで、とか、疑問視する声など、2本。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/16/AR2009111602822.html
http://www.nytimes.com/2009/11/18/health/18doctors.html?_r=1&th&emc=th
http://www.nytimes.com/2009/11/18/health/18mammogram.html?th&emc=th

アセトアミノフェンが安全で何にでも効く薬だと思われて、いろんな薬に混じっているために、過剰に摂取されていても気づかれないでいる、という問題の指摘。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/16/AR2009111602910.html

米国で約100万人の子どもが飢えている。去年1年間に食事を食べられない経験をしたことがある人が5000万人。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/nov/17/millions-hungry-households-us-report

ワイヤレスでバイタルを計測するデジタル・バンドエイドの治験が始まった。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8362664.stm

将来的に戦争は一部ネット上で戦われるサイバー戦争となるのを見越し、国によっては既に攻撃方法を準備中だとか。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8363175.stm

兵士の自殺率が恐ろしく高い。過去37年間でこれほど兵士が自殺する事態というのは初めてだと米軍幹部。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/11/17/AR2009111703426.html
2009.11.18 / Top↑
ちょっと前にトンコさんのコメントで教えてもらって読み、絶句して、触りたくもない気分だったのですが、
ここは一定期間が過ぎるとリンクが切れるようなので今の間に一応取り上げておこう、と。

ふんぞり返る老人たち
高山正之(ジャーナリスト)
Voice、2009年10月14日(水)


後期高齢者医療制度を巡って、それほど長くはない文章で、
論旨はこのエントリーのタイトルどおり。

前半、高山氏は、どこの祭りとも明示せず、

それを見た人は死ぬと言い伝えられていればこそ、
秋祭りで留守にした神様が神社に帰ってくる姿を見るべく、
祭りの終わりには地域の老人たちが神社で神様を待ったのだという……と、

たいそう曖昧な話を語る。

そして「それが日本人の死生観だと思っていたら、最近はだいぶ事情が変わってきたらしい」と
話を日本の高齢者医療へと振るや、

高額医療を制限する後期高齢者制度に「死ねというのか」と高齢者が反発したことに
手厳しい非難を浴びせる。

(後期高齢者医療制度は決して高齢者の医療へのアクセスを制限するものではないと
当時、一生懸命にアピールされていたような気がするのですが、これで化けの皮が剥げた?)

そして、

老人の医療負担額は1割。つまり残り9割は他人さまの世話になってきた。それで高額医療も受け放題という現状は、神社の前にたたずむ昔の人には信じられない話だろう。

―――中略―――

先日、厚労省は公費負担医療費が34兆円を超え、その半分が老人医療費だったと発表した。他人に迷惑かけてもふんぞり返って生きたいという老人は、もはや日本人ではない。


あまり考えたくないという抵抗感が続いているので、
ぱぱっと頭に浮かんだことのみ……と思って書いてみたら、結構たくさんになってしまいました。

1.まず、ものすごく率直に、一番ふんぞり返っているのは、あなたでしょう……というのと、
日本人、日本人というけど、あなたの、その剥きつけで粗野なものの言いようこそ、
日本の表現文化として、どうよ?……ナニ国人であれ、礼節として、どうよ?

2.小さな命をいつくしみ、弱い者をかばい、目上の人を敬うというのも日本の文化の美徳だと思うのだけど。

3.年齢に関わりなく、また他人に迷惑をかけようとかけまいと、
ふんぞり返っていようといまいと、日本人は日本人であり、

自分が個人的に考える日本人の理想像を基準に、誰が日本人で誰が日本人でないかを
振り分ける資格も権利も、この人にはない。誰にもない。

この人が歳をとって「老人」になる頃に、まだ日本には「高齢者は、
他人に迷惑をかけるようになる前に、年寄りは神社へ行き、神様を見て、死んでください」という法律は
出来ていないと思うけど、

この人自身が日本人としてはそうすべきだという思想信条をお持ちなのであれば、
個人の自己選択として、ご自分は神社の前に立たれればいいんじゃないでしょうか。
神様を見れなかったり、予定通りに死ねなかった時に、どうするのかは知らないけど。

4.保険制度というのは、医療であれ介護であれ、
必要となった時にみんなで相互に支えあう相互扶助の仕組みなのだから、
自己負担を越えた所定の部分に保険給付を受けるのは保険料を支払っている人の正当な権利であり、
「他人さまの世話になる」と恩着せがましく感情的な表現で罪悪感をおっかぶせるのは、
制度についての認識が根本的に間違っていると思う。

5.保険の給付を権利ではなく恩恵と捉えて「他人さまの世話になること」と責めるのであれば、
この発言は自己負担割合の問題を超えて、老人に留まらず、
医療費や介護費用を保険から給付されている世の中の病人・けが人の全員を
「他人様の世話になって」と責めることに通じる。

老人だけではなく、慢性病や難病やその他諸々、誰の責任でもなく重い病気にかかってしまった人たち、
介護を必要とする人にも、みんな、うなだれて神社の前に立てという話になる。

6.「ふんぞり返る」という言葉で非難されているのは、
「他人に迷惑をかけているのに、まだ生きたいと望むこと」なのだから、
医療や介護の保険制度だけではなくて社会保障そのものが否定されて、
障害者福祉だって失業手当だって生活保護だって
「他人に迷惑をかけているんだから、何も主張せず遠慮して小さくなっていろ」という話にもなる。

子ども手当ての世帯ごとの“損得”が話題になった時にも考えたことなのだけど、
結局、こういう論法が向かう先は「自助・自己責任がすべて」の社会で、
互助も富の再分配も平等も人権も否定して、いわゆる勝ち組だけがふんぞり返っていられる社会なのでは。

7.つまるところ、この評論家がここでやっていることというのは、
本来、冷静に分析・議論するべき制度の問題を、個々の老人の意識の問題に転化し
そこに伝承やら国民性やら美意識やらを、たぶらかし装置に持ち出して、

世論を老人バッシングへとアジっているだけ。

8.でも「戦後の日本の復興を支えてきた世代に向かって、なんて酷いことを言うんだ! 
今の豊かな日本があるのは、一体誰のおかげだと思っているんだ?」という反論を持ち出すことには、
ちょっと気をつけたいな、と思う。

今のお年寄り世代のご苦労に対して感謝と敬意を持つべきだというのは、私もそう思う。
思うのだけれど、それをもって高山氏への反論の論拠にしてしまうと、それは意図せずとも
「医療コストを社会に許容してもらうには、社会に対して一定の貢献がなければならない」という基準を
設定することになってしまう。

「社会に貢献できない人に社会コストをかけることは不当だから、そういう人には死んでもらおう」と
現在、英米を中心に進んでいる「無益な治療論」や功利主義の医療倫理の主張に反論できないどころか、
それを支持する基盤を作ってしまう。


当時主流だった「その医師は豪社会に貢献してきた人だし、これからも貢献できる人だから、
認めてあげましょう」とか「ダウン症はそれほどコストがかからないから」という根拠では、
それがいかに親子に対する善意から出たものであっても、逆に
「社会に貢献できない人や、もっと手のかかる障害の場合は、
子どもの障害を理由に移住を認めなくてもよい」という
原理原則を敷くことにつながってしまう。

それは、いま、すでに「治療の無益」から「患者の生の無益」へとじわじわと変質している
「無益な治療」論を肯定する原理に通じることに注意しておきたい。

個別の議論で目先の反論をすると、逆にそうした落とし穴にはまってしまいそうなので、
そこのところの危うさには十分気をつけないといけないのでは……ということを、一番強く考えている。

もう1つ、
後期高齢者医療制度の問題だけでなく、総じて、
弱い立場に置かれている人が声を上げることに対して、
感情的に反発し、押さえ込もうとする高圧的・反動的な空気というのが
最近あちこちで確かに目立ってきたように思えるなぁ・・・・・・ということと。
2009.11.18 / Top↑
知的障害者向けケアホームWeaver Court の入所者2人の死(去年11月)と
精神科病院Lynfield Mount Hospitalでの患者1人の死について

報告書にあまりにも不審な点が多いとして
YorkshireとHumberを管轄するNHSが合同調査を命じた。

同ホームは7月のケアの質コミッションの評価で
ゼロ評価を受けており、そのことも影響しての調査命令。

ただしホームのケアの質は、
今回の問題提起を受け、その後、改善している、とのこと。

調査は11月末までに終了の予定。

New probe at Bradford care home
Telegraph & Argus, November 16, 2009


最近、英米で施設入所者への抗精神病薬の過剰投与や劣悪な処遇が
相次いで指摘されている折でもあり、気になるニュースです。



2009.11.17 / Top↑
14日のエントリー
英国公訴局長の自殺幇助に関するガイダンスに各界の法曹関係者らから
連名で批判が出たことを紹介しましたが、

それに対して、
もともとの訴訟を起こして問題提起したMS女性のDebby Purdyさんが反撃。

むしろガイダンスは不十分なので、
明確に法律を改正して合法化すべきだ、と。

以下の2本の記事から彼女の発言を拾ってみると、

自分たちの良心が痛むからというだけで、
生活が向上する可能性もない不治の病気や障害のある人に苦しめというつもりですか?
そんなの無茶苦茶です。

自殺するのを最後の最後の瞬間まで待てば
法律が命を救ってくれるとでもいうのなら
政治家は自分たちの活動費のことばかり議論していないで
英国民の命を本気で引き伸ばすことを議論すればいいじゃないですか。
(この4行、ちょっと本意を汲みきれていないかもしれません)

(高齢者に自殺へのプレッシャーがかかるという主張に対しては)

高齢は不治の病ではなく、人生のステージです。
高齢者が危険に晒されているわけでもないのに、
批判の声を上げたグループは問題の論点を理解せず、
むやみに人々の不安をあおっています。

Bradford MS Sufferer attacks suicide law critics
The Telegraph & Argus, November 16, 2009



知らないというよりも、この口調は、たいした興味がないだけのようにも聞こえます。


公訴局長は、幇助をした人が金銭的な利益を得たら訴追すると言っていますが
いったい、どういう意味ですか。

夫と私はこの家を共有しています。
私が死んだら、夫が相続しますよ。

    ―――

この論争は、法律が改正されるまで終わりません。

Concerns over right-to-die law
The BBC, November 15, 2009


前から思うのだけど、この人、自分のことしか言わない。

最初の訴えも「ワタシがスイスで死ぬ時に、ワタシの夫を罪に問わないと約束して」だったし、

裁判所が法律改正は裁判書の仕事ではない、議会の仕事だと突っぱねつつも
暗に、あなたの夫は訴追されることは多分ないでしょうよ、とほのめかした際にも、

それじゃぁワタシは満足できない。
ワタシの夫が帰国した時に、絶対に罪に問わないと約束してくれないなら
この人にそんな危険を冒させるわけには行かないわ。

考え直してもらえないなら、死ぬのはもうちょっと先でいいかと思っていたけど、予定を早めてやる。
ワタシ1人でスイスへ行って死んでやるんだから……と拗ねてみせた。

今回も、
金銭的利益があったら訴追するなんて、どういう意味よ?
それじゃぁ、家を半分相続するワタシの夫は訴追されてしまうじゃないの、というところが不満。

ワタシ以外の人にとって、それがどういう意味を持つかには興味も関心もなく、
そこに想像力を向けてみることがそもそも不得手な人なんじゃないだろうか。

英国社会の自殺幇助に関する法律を改正することの意味を一般化して論じることが出来なくて、
常に「ワタシと、ワタシの夫」の話しかできない人のようだ。

誰か、ためしにPurdyさんに、
「あなたよりも弱い立場の障害者」について聞いてみて欲しい。
この人、きょとん……とするんじゃないだろうか。

そういう人の起こした裁判が「死の自己決定権」ロビーに政治利用されて
「死の自己決定権」の最強のアドボケイトとして祭り上げられてしまっている。

自分自身のアドボケイトしかできない人なのに──。



2009.11.17 / Top↑
リーズ大学の研究者と子どものホスピスの共同研究で、20年間に渡り、ホスピスに紹介されてきた1554人の子どもと親を追跡。89,5%は5年以上生きた。ケースによって必要とするケア・支援の内容と期間はさまざまで、20年以上にわたって必要としたケースもあった。子どもの場合、ホスピスケアには終末期のケア以上のものが求められる。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/170976.php

W.Smithがスコットランドでの「死の自己決定権」アドボケイトとのディベイトについて書いている。
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2009/11/16/reflections-on-assisted-suicide-in-the-uk/

この前下院を通過した米国の医療保険改革案には、安楽死や自殺幇助や慈悲殺を推進する行為には政府の金が回ることを禁じる条項が含まれているものの、自殺幇助そのものを定義していないので、OregonとWashingtonで自殺幇助のために毒物を処方する医師に支払われてしまう可能性を指摘する声。自殺幇助合法化に反対している団体から。
http://www.cnsnews.com/news/article/57151

シャーマンさんのブログから、遺伝子操作で記憶力のいいスーパーラットが誕生したニュース。
http://blogs.yahoo.co.jp/sharmanqueen/9464322.html

特定のハイパーなエンザイムを受け継いでいる人が100歳以上生きるのだと、米国の科学者が関連を発見。:子どもの発達理論で、英語圏イデオロギーでは環境を全く考慮せず、最初から能力があればある、なければない、と脳科学で何でもカタをつけてしまう、という話を思い出した。こういう研究は、その長寿版なんだろうな、という意味で。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8359735.stm

週に3回以上魚を食べている子どもは、そうでない子どもに比べて、認知機能が低い傾向がある。魚に含まれる水銀で?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/170896.php

プラスチックに含まれる毒素が男児を女性化している、という調査結果。:これも以前からよく耳にしていた話だけど、このところ環境ホルモンの話題が続いている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8361863.stm

米国の医療保険制度改革が実施になる前に薬価を釣り上げておこうとの動き、製薬会社に。
http://www.nytimes.com/2009/11/16/business/16drugprices.html?_r=1&th&emc=th
2009.11.16 / Top↑
英国で、ダウン症を理由にした中絶が
実は政府の公式発表の2倍も行われていることが判明した。

London大学に本拠を置く the National Down’s Syndrome Cytogenetic Registerによると、
2004年から2008年までにダウン症候群と診断された4777胎児が中絶された。
そのうち1032件は去年2008年のもの。

ところが、保健省の記録ではその間のダウン症を理由にした中絶件数は2168件。
去年は436件となっている。

NDSCRは、病院の遺伝子診断センターから
胎児にダウン症候群が診断された段階で直接報告を受けて、
その後を個別にフォローして中絶された件数を把握しているので、
中絶した医師からの報告のみを集計した政府の数字よりも正確。

この2つの統計数のギャップの原因は、
中絶する女性の気持ちを傷つけないために
医師が「胎児にダウン症があるため」ではなく
「社会的な理由により」と報告してしまうためという声もあるが、
ただ単に、正しく報告されていないだけとも思われ、

政府統計がこれほど不正確なのは問題、と批判が出ている。

来年度からNDSCRの予算は大幅にカットされることが決まっており、
正確な中絶数の把握のためにも、NDSCRは自らの役割の大きさを訴える。

また、医師らが正確に中絶理由を報告していないのは違法行為でもある、とも。



じゃぁ、先月末に、以下のニュースで出てきていた
「中絶する人の割合は、ずっと9割のまま」というのも、
不正確な統計ということになるのかも?



そういえば、この前、某所で聞いたシンポで、
日本の某制度が諸外国の制度に比べて、いかに優れているかということを
次々にさまざまな統計をグラフで示しては論証して見せる人がいて、

私たち素人は、そんなふうにグラフや表を持ち出されて「ほら」と解説されると、
とりあえず数字に説得されてしまいそうになるのだけれど、

その学者さんの場合は、私なりに、どういう人かというイメージはあるので
ちょっと眉にツバつけながら聞かせてもらっていたところ、

シンポジストがみんな発表した後で、
モデレーターがその人の発表に関して、
「ここのところの統計が一種類しか示されていないなど、
出された統計に関して、ちょっと言いたいことはあるのですが……」と
さらりと触れて、次の話題にいったのが、私の耳には大音響のように聞こえた。


統計を引っ張り出してくる人は、
たいてい「これぞエビデンス」と主張するのだけれど、
どの統計(だけ)をチョイスしてくるかによって情報は操作できるし、
その数字そのものにカラクリがあったりもする。

自民党時代にも存在してはずなのに、
政権交代したとたんに表に出てくる統計というのもあるし、

貧困率みたいに、政権交代して初めて調査されて出てくる数値もある。

重症重複障害児・者の実数は、いまだに政府も地方自治体も把握していないし。
2009.11.16 / Top↑
独立の調査で、
英国で不適切な抗精神病薬を投与されている認知症患者が15万人に及び、
年間1800人の死の原因となっている、と。

抗精神病薬が認知症患者に使われると多くの副作用があり、
死のリスクは3倍に、脳卒中のリスクは2倍になる他、
認知機能も低下する。

また鎮静によるQOLの低下も大きい。

アルツハイマー病協会は
同協会は以前より「抗精神病薬は最後の手段として飲み使うべき」だと主張しており、
今回の調査で問題の大きさがやっと認識されたことを歓迎する。

毎年1800人もの死につながるような過剰な投与は辞めなければならない。

調査によれば、3年で投与量を3分の2も減らせるとのこと。
政府も本腰を入れて、この問題に取り組んでもらいたい、と。


【16日追記】
上記ニュースの前に英国政府から認知症患者への抗精神病約の過剰投与について
対処するとのアクション・プランが出ていたようで、
英国看護学会が歓迎の意を表明しています。



2009.11.15 / Top↑
ちょっと意外な調査結果。UCLAの調査で、これから60代に向かうベビーブーマーは、その前の世代に比べて障害を負っている人が多くなる、と。研究者らは、その要因を、黒人やヒスパニックの割合が高くなっている人口動態にあると説明している。:研究者の言う通りなのだとすると、やっぱりTHニストの理想は白人高齢者の間でしか実現していないということを実証している……?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/170885.php

APが「米国人の多くは事前指示書を書いていないが、書いたほうが良い死に方をさせてもらえるし、多くの人が緩和ケアを選べばメディケアの節約にもなる」と。
http://news.yahoo.com/s/ap/20091111/ap_on_he_me/us_health_overhaul_hospice_care

英国看護学会が自殺幇助に関するスタンスを反対から中立に変更したことに対して、中立に変更することは批判しないということだから実質上の支持を意味する、自殺幇助はすべての看護師に影響する道徳上の問題であり、看護学会は中立の立場を見直すべき、との提言が看護ニュースのサイトに。
http://www.nursingtimes.net/nursing-practice-clinical-research/clinical-subjects/palliative-care/the-royal-college-of-nursing-should-reconsider-its-neutral-position-on-assisted-suicide-/5008531.article

製薬会社とNPOが手を組んで、これまでなおざりにされてきた途上国のマラリア、デング熱、結核などのワクチン開発に取り組む、と。:これをMNTでチラッと読んで、こういうのはやっぱり「Lancet-Gates財団」路線だろうなぁ……と思って、Lancetの最新号サイトを覗いてみたら、案の定、コレラ・ワクチン、デング熱、熱帯病の話題が並んでいた。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/170753.php
http://www.thelancet.com/journals/lancet/issue/current?&elsca1=TL:%20Vol.%20374%20Number%209702%20Nov%2014,%202009&elsca2=email&elsca3=segment

68歳の夫がどうやら幼児性愛者らしいと睨んで、インターネットで14歳のフリをしてチャットに誘い、夫がその架空の14歳にセックスを持ちかけたのを証拠に警察に突き出した61歳の妻。英国のニュース。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article6914986.ece?&EMC-Bltn=LLW971F

酔っ払って道路で寝ていた女性をレイプした18歳が、週末ごとに収監される罰を言い渡された。オーストラリア。:この前、米国で、祈りで治そうとして糖尿病の娘を死なせた夫婦にも、年30日ずつ6回分割の懲役刑が言い渡されていた。柔軟……?
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/teen-rapist-sentenced-to-weekend-jail-for-attack/1677408.aspx?src=enews
2009.11.14 / Top↑
この前、近所の耳鼻科に行った。

ちょっと年配の医師だけど、割と言いたいことが言えて、
打てば響く……といった感じのテンポよい反応をしてくれるので、
私はどちらかというと、この先生のファン。

ただ、この医院で戸惑うのは、今時めずらしく、
一度に数人を診察室に招きいれるシステムが残っていること。

その日は空いていたので、
呼ばれて中に入ったのは4歳くらいの子どもと付き添いのお母さん、そして私。
あちらが先だったので、私は診察台の真後ろの壁際にあるソファに座る。

特に意識して聞いたわけではないから、
お母さんがその日なぜ子どもを連れてきたか最初の話はよく分からなかったのだけど
ちょっと前に大きな病院でアデノイドの手術をしたのだとお母さんが説明し、
子どもの耳だか鼻だか喉だかを覗き込みながら先生が早口に、
「そこの病院でフロモックスが出ているでしょ。まだある?」

するとお母さんは、ちょっと納得できないふうで、
「ありますけど……フロモックスって、風邪薬ですよね……」

先生は子どもの耳だか鼻だか喉だかを処置しながら早口に
「いや、抗生剤。まだ、残ってる?」

「はぁ……」
「それ、ちゃんと飲ませてね。まだしばらくは飲まないといけないから。
なくなったら必ず来て。追加を出すからね」

「……はい」
「よし。じゃぁ、いいよ。終わり」

ガシャンと器具を置いて診察台から離れた瞬間に、
お母さんが小さな声でつぶやいたのは、先生には聞こえなかったかもしれない。
「へぇ……風邪薬を飲むんですかぁ……」

怪訝そうに頭を転がしながら
子どもの手を引いて出て行く後姿を見て、
私は追いかけていって「抗生剤」を説明してあげたい気分になった。

もちろん、説明してあげたところで、
ただのオバサンのおせっかいなど信じないと思うから、行かなかったけど。

でも、うぇぇ。あぶな~い。テンポ、良すぎるよ、それは。
このお母さん、ちゃんと飲ませないかもしれないよ、先生……と、
ソファから念力だけは送ってみた。

たぶん、前に子どもが気管支炎でもやった時にフロモックスを処方されたことがあって
だから「フロモックスというのは風邪薬」だと、この人は思い込んでいる。

たぶん、アデノイドの手術後に処方した医師も
それが何で、何のために処方されたかという説明をちゃんとしなかったんだろうし。

「いや、抗生剤」と言ったから、先生はそれで説明したつもりかもしれないけど、
予め知らない単語は耳が把握できない点では外国語と同じで、
彼女の耳には「イヤコーセーザイ」という
意味不明な一瞬の音として通過してしまった。

だから、「なくなったら追加して、まだ飲まないといけない」という先生の説明で
「へぇ、風邪薬を……」とつぶやいている、この人の頭の中にあるのが、
「アデノイドの手術をしたら風邪薬を飲むものなのかしら……」なら、まだいいけど、
「じゃぁ、まだこの子の風邪は治っていないのかしら……」だったり
「まだ風邪薬を飲ませろなんて、ヤブなのかしら……」だったら、
勝手に風邪は治ったと判断したら飲ませないどころか、
なくなっても先生のところには来ないかもしれないよ……。

──でも、もちろん私の念力は届かなくて、「はい、次。Spitzibaraさん」。

「……あ。は~い」

         ――――――――

私に、このお母さんの心の内が読めたのは
私たち障害児の親が、このお母さんと同じように何も知らないところからスタートして、
子どもを通じてイヤというほど様々な医療体験を繰り返しながら、
経験則で知識を身につけてきた長いプロセスがあるからなのかもしれない。

でも私たち医療との付き合いの長い“障害児の親”から見ると、
目の前の患者にどこまで知識があるか、どこを分かっていないか、くらいは
ちゃんと相手の言動を観察していれば簡単に把握できることのような気がするし、

それをきちんと把握した上で要点を押さえた説明をすることは
それほど難しいことでも時間のかかることでもないような気がする。

フロモックスは風邪薬ではなく抗生剤で、抗生剤とは細菌を殺す薬で、
手術後に起きやすい細菌感染を予防するために出ているのだから、
一定期間ずっと飲み続けることが大切なのだというところまで説明してあげて
相手がちゃんと了解したことを確認する──。

ほんのちょっとだけ手を止めて、お母さんと向き合って、
わずか1分か2分で済むことなんだけどなぁ。

そして、ここで、誰かに説明してもらって、それだけの知識を身につけることは、
このお母さんが手術後の娘を適切にケアしていくためにも、
たぶん、それ以後の子育て全般にとっても、
ものすごく大きなエンパワメントなのだけどなぁ。


子どものおかげで散々いろいろ体験させてもらってきたから、
私たち重症児の親は、抗生剤が何かということを知っているし、
抗生剤を含めて、あれやこれやの薬の名前と作用・副作用にも、ある程度は通じている。。

CRPや白血球の数値は、どのくらいから顔色を変えるべきか、
抗生剤は、痙攣止めの座薬は、解熱の座薬は、吸入器用のベネトリンは、点滴は、
それから、知っていること自体がちょっと悲しいけど、ガンマ・グロブリンまで、
子どもがどういう状態になったら医師に求めることを考え始めるべきか、
自分なりの経験則基準もある。

抗けいれん薬に至っては、教科書的な有効血中濃度とは全く別に
我が子の有効血中濃度の閾値を知っている親だって少なくないはずだ。

もちろん、インターネットがない時代に子育てをした私たちが
それらの知識を身につけてきたのは、体験によるだけではなくて、
ほんの1、2分、よけいに時間と手間をかけて説明してくれる誰かが
私たちがたどってきた道筋の時々に、ちゃんといてくれたからだ。

ウチの娘の主治医は、脳波検査のたびに丁寧に指差し説明してくれる人だったから、
私は、いつのまにか、検査用紙を目の前に開かれた瞬間に、
脳波の「表情」を感じられるようになった。

もちろん「脳波が読める」わけではない。
でも、いい状態の時の脳波は穏やかで優しい顔つきをしている。
まるで不協和音だらけの音楽を思わせる凶悪な顔つきの時もあった。

私の頭の中には娘の脳波がたどってきた”顔つき”の変遷がインプットされていて、
それは、今この一回だけ娘の脳波を読もうとする医師には持つことのできない
かけがえのない「ウチの娘の脳波に関する理解力」だと私は思っている。

それが何の役に立つというわけのものではないけど
そのことはミュウの親としての私に自信を与えてくれる。

なによりも、そういうことを振り返る時に、
重い障害のある子の親として私をここまで育ててくれた医師との出会いと
私がある段階まで育ってからは、それだけ扱いにくくもなった私を
ミュウの医療に関するチームの一員として扱い、尊重してもらったことに
改めて感謝したい気持ちになる。

そして、その感謝の思いは、
ともすれば医療への不信に傾いてしまいそうな私が
それでもどこかで医療への信頼と希望をつなぐことをも支えてくれる。

誰かが、手を止め、ちゃんと向かい合って「これはね……」と指差し説明してくれるというのは、
その人が自分を子どもの責任者として尊重してくれているということだ。

だからこそ、その数分間が変えてくれることは、とても大きい。

ほんのちょっとの観察とほんのわずかな時間の説明が積み重ねられて、
患者や親や介護者はエンパワーされ、その時々に適切な判断をする能力を培っていく。

そして、その判断力と自信が
「今すぐに病院に連れて行かなくても大丈夫」と判断する余裕につながる。

患者や家族の観察眼と、ちょっと説明する労を惜しまない小まめさを身につけた医師が増えることが、
たぶん、コンビニ受診やモンスター患者を減らすことにも
どこかで通じていくんじゃないだろうか、という気がする──。
2009.11.14 / Top↑