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加齢による筋肉の現象を治療する方法を医師らは必死に探している。ベビーブーマーからの要請もあるし。:それってサルコペニアという、れっきとした病気なんだもんね。
http://www.nytimes.com/2010/08/31/health/research/31muscle.html?_r=1&th&emc=th

子どもたちの間で頭痛や片頭痛が増えているのだけど、それに対して医師らの意識が追い付いていない、と。:それ、医師の意識が追い付いて、また“治療”すべき子どもの病気を増やしてくよりも先に、心理学と親の意識が追い付いて、子どもの将来のためを思って管理・コントロールに励む親の暴力性に気付くべきでは、と思う。
http://well.blogs.nytimes.com/2010/08/30/returning-to-classrooms-and-to-severe-headaches/?th&emc=th

これまで地球温暖化懐疑派の首領だった人物が、一転して、温暖化は人類が率先して取り組むべき最重要課題の1つだ、と。
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/aug/30/bjorn-lomborg-climate-change-u-turn?CMP=EMCGT_310810&CMP=EMCNEWEML961

メキシコで、アンチ・ドラッグ&汚職キャンペーンで警察官に嘘発見器や毒物テストを実施してみたところ、なんと全警察官の10分の1が免職に。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/31/tenth-federal-police-officers-fired-mexico-drug-wars?CMP=EMCGT_310810&CMP=EMCNEWEML961

17歳のパレスチナ人の少女に向けて、マシンガンが空になるまで撃ちまくったイスラエル軍のキャプテンが無罪に。
http://www.guardian.co.uk/world/2005/nov/16/israel2?CMP=EMCGT_310810&CMP=EMCNEWEML961

コンゴの女性と子供の大量レイプを、クリントン国務長官が非難。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199315.php

東アフリカの国々で、偽薬10トンを押収、80人を逮捕。:そう言えばアフリカで使われている抗マラリア薬の3割が偽薬だというニュースをこちらの補遺で拾った。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199314.php

日本語。人さまのブログから。乙武クンが24時間テレビを批判したとかで、ブログ界隈の話題になっている。:批判というよりも、ツイッターで批判を求められて、穏やかにそれに応じたという感じ。まぁ、当事者であの番組が好きだという人はいないと思うし。
http://blogs.yahoo.co.jp/dreams_cometrue_2007/16684872.html

それよりも、この件で乙武洋匡オフィシャルサイトを覗いてみて、紀子さま出産時の不用意なエントリーが炎上したのを受けたものらしいのだけど、こちらのメッセージに寄せられたコメントに、あまりにもむき出しの差別や攻撃が並んでいるのに息を飲んだ。今日の自分のエントリーの「コケにされることにおける平等」という話と重なって、「叩かれることにおける平等」をインクルージョンだと思え、という人もいるかなぁ……やっぱり違うよなぁ……。「五体不満足」での過剰な美化と、この炎上の攻撃性・敵意とは表裏一体のような気がする。
2010.08.31 / Top↑
米国のテレビ・アニメ“Family Guy”といえば、
今年3月にWesley SmithがTerry Schiavoさんを笑い物にしているのを問題視し、
その内容を当ブログでも紹介しましたが、

そのFamily Guyが今度は2月に
「ダウン症ガール」という歌を作り、
ステレオタイプそのものの男女を登場させてコケにした。

その歌がYouTubeにアップされて視聴回数が増え、
さらにエミー賞のオリジナル音楽賞にノミネートされるに至って、
The National Down Syndrome Congress of the U.S.が抗議。

「人種、性的志向、障害というのは人のアイデンティティの核であって、
変えることのできないものです。

人が自分には変えることのできないものを笑いものにすることからは
そういう人を見下だして、社会から排斥することしか生まれません」

ダウン症の息子のいる、元大統領候補Sarah Palin氏も、
歌が登場した際にすぐさま抗議したという。

ただし当事者の間でも意見は分かれていると以下の記事は言い、

何でも笑いのめす番組なのだから
他の諸々と一緒にダウン症が対象として取り上げられることも
またインクルージョンなのだ、とコメントするのは、
LAのダウン症協会スポークスマン。

Down Syndrome group slams Emmys
The CBC News, August 27, 2010


お馴染み、What Sorts of Peopleブログがこの問題を取り上げており、
以下のエントリーに、その歌のYou Tubeがあります。

私自身は、この歌とかアニメのニュアンスが今一つ、ちゃんと分からないのがもどかしい。

Disability on Television: Family Guy
What Sorts of People, August 30, 2010


この記事を書いている mworkman氏自身は
否定的に描かれる障害者像が世の中の人に差別意識を植えつけ強化すると考える一方で、

白人中流階級と同じようにエイズ患者や癌患者がジョークの対象になるなら
特定の属性のある人だけがこういう番組でタブーになるよりは、
こうしてジョークの対象となるのはインクルージョンの一つではあるとも思う、といい、

視聴者の方がこういう番組は所詮これだけのものだと受け止めるだろうし、
ステレオタイプそのものを笑いのめすことの意義を認めるなら
特定の人たちだけに触れるなと闘うことはそれほど価値があるのか、と
疑問を投げかけている。

それにしても、08年のTropic Thunderの差別発言問題では、
当事者からこういうアンビバレントな声は聞こえてこなかったけど、なぁ……。


【Thunder関連エントリー】
ハリウッド映画に障害者団体が抗議
映画Tropic Thunderの知的障害者差別問題続報
「アメリカだぜ、言いたいこと言って何が悪い」とJack Black
AAPDが“Tropic Thunder”に抗議文:ネット署名求める
‘Thunder’批判のメディア記事
「障害者いじめてもいい」というメッセージ送るとThunder批判
批判の火付け役BauerさんのThunder 批判
Thunder ボイコットで“ちょっといい話”
ハリウッド、障害者の人権キャンペーンを発表(2008/10/9)
Thunderは「本年度アホデミー賞候補」だと(2008/11/1)

                ―――――――

私自身は、まず、
その他の議論とか今の世の中の空気とかと切り離して
この問題だけを考えていいのかなぁ……という気がする。

例えば、あちこちで、それぞれ別個の議論として進んでいる
ロングフルバース訴訟、選別的中絶、無益な治療論、
自殺幇助や障害児・者の慈悲殺擁護論などが世の中全体に、
障害のある人の生は生きるに値しないという価値意識を広めていて、

同時に暴走型のグローバル資本主義の閉塞感に晒されている人々が
そのやり場のない不安感や憤りのはけ口を求めるかのように
障害者へのヘイト・クライムも、女性や子ども、総じて弱い立場にある者への虐待も
急激に増え、広がっている。

そんな世の中に、
自分の責任でどうにもできないことを巡っては、良識と節度の範囲で
今までは公然と言われることが控えられてきた差別的な言辞に対して、
その良識をかなぐり捨て、言論の自由だと開き直ることが許容される空気が
生まれ広がりつつある……というだけのことではないのだろうか。

例えば、日本でも公的な立場の人の障害者や女性、外国人、老人に対する露骨な差別発言が
以前ほど厳しい批判の対象にならなくなっているように思えること
社会全体が他者の立場に立つ想像力と寛容を失いつつあることと
通じていくものが、そこにはあるような。

例えば、上記記事のダウン症アドボケイトの全国組織の人が
「人種、性的志向、障害というのは……」と批判のコメントをするにあたって、
わざわざ「言論の自由を否定するつもりはありませんが」と敢えて断らなければならないような
そういう空気――。


それに、私はこの番組を直接は知らないけれど、
シャイボさんを笑いものにした回の内容が
(「とてつもなく高価な野菜」「マッシュポテト脳」だとか)
Family Guyという番組の意識の程度を物語っているのだとしたら
とうていステレオタイプそのものを笑い倒すことで否定しているわけではなく、

人間なら誰でもが持っている「誰かを見下して笑いものにしたい」という下劣な欲求に
単に媚びているだけのような気がする。

番組が訴えていくところが視聴者の欲求であって思考でない以上、
視聴者がmworkman氏が言うように賢明な距離感で番組を捉えるとも思えない。

視聴者の多くが子どもや若者たちであるとしたら、なおのこと。


それにしても、
コケにされることにおける平等という方向性でインクルージョンが持ち出されるというのは、
私には全く思いがけないことだったので、ちょっと、おたおたしてしまう。

なんとなく、Tom Shakespeareが自殺幇助議論の中で
障害者だからこそ死の自己決定権を保証しろと言っていたことと、
論理の構図がどこか似ているような気がするのだけど、
どこか、どういうふうに、と今はうまく説明できない。

前にこちらのエントリーで、Shakespeareの主張を
社会での平等を求めるあまり家庭での差別の温存を許し、
社会でも悪平等を引きかぶることになってしまったフェミニズムの失敗に
なぞらえてみたことがあるのだけど、

言ってみれば、そんなふうなこと。

コケにされることにおける平等がインクルージョンだと当事者が言うのは、
女の権利を声高に唱える女は魅力的じゃないとかスマートじゃないとか賢くないとか、
そんなふうに思わせようとする空気にノセられて、
「あたしはそういう女じゃないから」と言ってみせることに
とても近いことのような気がするのだけど……違うかな……。


【障害者へのヘイトクライム関連エントリー】
想像力と寛容をなくしていく社会(2008/5/20)
“社会浄化”同性愛者、知的障害者の殺人を検察が黙認(コロンビア)(2009/9/7)
若者ギャングの10年に及ぶ軟禁・嫌がらせで母が障害のある娘と無理心中(2009/9/18)
英国内務省から「ヘイト・クライム政府横断行動計画」(2009/10/9)
車いす男性に10代の子ども2人が鉄バイプで殴る蹴る(豪)(2010/3/15)
知的障害男性の殺害容疑で13歳少女を含む7人を逮捕(英)(2010/6/7)

【Shakespeare関連エントリー】
ShakespeareのAshley療法批判(1月 Ouch!)(2007/12/14)
Tom Shakespeareが「自殺幇助合法化せよ」(2009/3/15)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 1(2009/7/9)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 2(2009/7/9)
ダウン症スクリーニングでShakespeare「技術開発と同じ資金を情報提供に」(2009/11/1
2010.08.31 / Top↑
カナダ、ケベック州でヒートアップする自殺幇助合法化議論。
http://www.cbc.ca/canada/montreal/story/2010/08/26/quebec-euthanasia-debate.html

こちらの記事によると、先日7割が合法化を支持したという世論調査の問いは「安楽死と自殺幇助を合法化することによって尊厳のある死を支援できると思いますか」だったそうな。この論考の著者は、尊厳がキーワードだったのでは、と分析する。
http://www.theglobeandmail.com/news/opinions/judging-the-value-of-a-life/article1688283/

インドが医療ツーリズムのメッカになって久しいけど、自国民の医療が犠牲にされているのでは、とのLancet論文。:これについては、06年にちょっと調べてみたことがある。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2961320-7/fulltext?elsca1=TL-270810&elsca2=email&elsca3=segment

米国で2009年の就学前の子どものワクチン接種率が上がったらしい。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199246.php

英国で終末期医療戦略の第2回年間報告が発表されたことを受け、英国看護学会が24時間体制の地域看護の普及状況について調査を求めている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199181.php

アリゾナ大学の研究チームがダウン症の人の認知レベルを測定する一連のテストを開発。コンピューターを使い、言語に頼らないテスト。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199140.php

米国で07年に比べて08年では児童虐待が減少しているという調査結果が出ている。:???
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198894.php

80歳以上の人は記憶障害の原因となる脳の疾患を複数抱えている。:こういうの、とてもリアルに、そうなんだろうなぁ、と思える。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199137.php

イタリアで帝王切開で生まれた子どもが脳損傷を負ったのは、2人の医師が帝王切開の必要を巡って口論をして切開が1時間ほど遅れたためだとの両親の訴えを受け、病院、警察、地域の保健所、保健省の4者が調査を開始。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/29/sicily-doctors-birth-brawl-claims?CMP=EMCGT_300810&CMP=EMCNEWEML961

高齢者に投与されるとリスクの高い薬のリスト。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198921.php

NY州が、個々の患者の薬への感受性を調べるDNA検査を承認。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/199130.php

製薬会社が新興経済大国のマーケットを狙っている。
http://online.wsj.com/article/SB10001424052748704540904575451760938636760.html
2010.08.30 / Top↑
去年、米国のケーブル・テレビHBOが作成した
Kevorkian医師の半生記映画“You Don’t Know Jack”について
(主演、アル・パチーノ、助演、スーザン・サランドン)
去年から、いくつかのエントリーで追いかけてきましたが(文末にリンク)、

作品、主演のパチーノ共、エミー賞を受賞したようです。

Kevorkian医師も映画関係者と並んで出席していたとのこと。

脚本家がKevorkian医師に向けて言った喜びの言葉が
この日一番の大ヒットだったようで、

「君が私の友達であることに、とても感謝している。
 君が私の主治医でないことに、それ以上に感謝しているがね」



Al Pacino wins Emmy for Dr. Kevorkian role

Hollywood News.com, August 29, 2010

Vignettes from the red carpet and show at Sunday’s Emmy Awards
The Canadian Press, August 29, 2010

全受賞者リストはこちら



【関連エントリー】
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN、Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
2010.08.30 / Top↑
お隣りから美味しそうなカボチャをいただいたので、スープを作ることにした。

子どもの頃には台所で一緒に切ったり混ぜたりコネたり、「お手伝い」が大好きだったのに、
最近は誘ってもちっともノッてくれなくなった娘が、珍しく手伝ってやってもいいという。

鍋で煮たカボチャをミキサーに入れて、
娘にスイッチを押してもらうことにする。

これは幼児期からお気に入りの「お手伝い」の一つなので
何度もやって分かってはいるはずなのだけど、
娘は、突然大きな音がすると、全身が激しく緊張することがあるので、
一応、「ぐぎゅーん、というからね」と予告しつつ、
娘の手をとり、指をスイッチの上に導く。

が、
指先には一向に力が入る気配がない……。

で、つい、言ってしまった。
「怖いことないよ。もう何度もやったじゃない」

すると、娘は目を一瞬ギラッとさせ、
ひとつ大仰なため息をついてから、指先に力を込めた。

ふん。怖いわけ、ないじゃない。

間違いなく、その瞬間、
言葉を持たないウチの娘は、全身から発するオーラで、そう言った。

そして、ミキサーの最初の第一声に本当は一瞬ひるんだくせに、
「なにさ、こんなの」的ながんばりで、手を引っ込めなかった。

ほぉ。なかなか、やるじゃん。

……そういえば、最近、こいつは、どうかした拍子に
こういう、わざとらしいタメ息をついてみせるようになった。

例えば、「寒くない?」「ここ痛くない?」みたいなことを
母親がつい小うるさく訊いてしまうような時とかに――。

ふ~ん、なるほどぉ……

で、軽い気持ちで言ってみた。

「ミュウ、あんた、お母さんに
私をもう子ども扱いしないで、と言いたいの?」

娘は「扱いしな」のところで顔を上げ、
「ハ!」と、ものすごく、きっぱりと言った。

……あは。

そっかぁ。
分かったよ、ミュウ。
お母さん、なるべく気をつけるよ。

柄の長いサラダ用の木製スプーンで
娘と一緒にミキサーからカボチャを鍋にかき出しながら、
母としては胸の内で、ちょっとした感慨にふける。

そっかぁ。あんた、大きくなったんだねぇ……。
おっと、いけない。こんな言い方をしたのでは、また叱られる。
あんた、オトナになったんだねぇ……。

なるほど、あのタメ息は、
「うっせーばばあ」なのかぁ……。そっかぁ……。

……と、
娘の背後から聞こえていたテレビの番組が変わり、
明石家さんまの声が聞こえてくる。

――お?

娘が耳と目をそばだてる。

「お? あの声は……」と、その目が言っている。
次いで「あれは、さんま!」。喜んでしまった。

次の瞬間、無責任にも握っていたスプーンを放し、
「あたし、テレビ見にいく。ねー、おかーさん、テレビ、テレビ」

「……で、カボチャのスープはどーすんの?」
「さんまっ、さんまっ、テレビっ、テレビっ」
「じゃぁ、スープはお母さんが一人で作るんですか」
「ハ」

なんじゃ、それは。

車椅子をテレビの前までお運び申し上げ、
ひゃあひゃあ喜ぶ声を背に、母は台所に戻り、鍋のカボチャをかきまぜる。

カボチャのオレンジ色と牛乳の白が混じり合うマーブル模様を眺めていると、
下を向いたまま、顔が、ひとりでに、にまにましてくる。

ったく。な~にが、「うっせーばばあ」なんだか……。
2010.08.30 / Top↑
前のエントリー「幼児化する親、幼児化していく社会」の続きとして――。

近所のマンションの2階が塾になっていて、
その辺りを通りかかると、時に小学生くらいの子どもたちが
マンションの出入り口からわらわらと吐き出されてきて
居並んだ車列の中から親の車を見つけては乗り込んで帰っていくのを目撃する。

いつも、なんということもなく見ている光景なのだけれど、
この前たまたま夜の10時過ぎに通りかかると、
出てきたばかりの子どもたちがマンション前で雑踏状態を作っていた。

その中を通り抜ける間のどこかの瞬間に、
わけもなく、突然ふっと想像してしまった。

朝起きて学校へ行って一日授業を受けて、
家に帰って塾へ行って夜の10時くらいまで勉強する生活というものを。

世の中の子どもという子どもがみんな(と思ってしまうほど、その時は沢山いたので)
朝から晩まで勉強してるって、改めて考えたら、それってどうよ???? 

そういえば、この前、知り合いが
夏休みに入って、受験生の息子(小学6年生)は毎日朝から夜遅くまで塾で過ごすので
朝、弁当を2つもって家を出る、その弁当を作るのが大変だ、と言って
私を心底たまげさせた。

そんな生活を毎日毎日毎日続けていることが
小学生にとって苦痛でないわけは、ないだろう、と思う。

自分がやれと言われたら、大人だって嫌なんじゃないだろうか。
どう考えても私には耐えられないし、誰かにやれと言われても、そんなのイヤだ。

子どもたちは、なんで反発・反逆しないんだろう?
なんだって「嫌だ」と言わないんだろう?

あんなに沢山の子どもたちが揃いもそろって
こんなの嫌だとモンクを言うこともなく
朝から晩まで勉強する生活を毎日毎日続けているという事実は
改めて考えてみると、ものすごく不気味な異常なことのように思えた。

こんなことを言うと、友人・知人は口をそろえて言う。
「だってそういう時代なんだもの」。

でも、時代が変われば、子どもが子どもでなくなるはずはないと思う。
時代が変わったら、子どもが大人になるということもないし、
時代が変わったら、勉強なんかしたくない子どもがいなくわけはないと思う。

時代が変わったんじゃなくて、
大人が変わり、親が変わったのでは?

親が変わったから、
子どもは変わったフリをさせられているだけなのでは?

親がそれを疑ってみることをしないために、
「時代が変わったんだ」というのを言い訳に思考停止しているだけなのでは?

本屋に行けば、
「子どもに○○させる方法」
「子どもを○○にする方法」
みたいな本がやたらと目につくけど、
子どもは親の目的を達成するための素材じゃないし、、

科学者たちまでが
何が成績を上げて、何が下げるかを研究してあげつらって見せるけど、
そういう研究をマジでやる学者がいることも異様だし、

そんな研究結果をマジに自分の子育てに取り入れて、
子どもにああしろこうしろという親がいるとしたら
そんなのは異常だとしか思えないし、

親が子どもを産み育てるということそのものが、
どこかで根本的に取り違えられ、いびつにゆがめられていく感じがしてならない。


              ――――――


角田光代さんが、妊娠した女性の心の揺れを細やかに描いて見事な作品
「予定日はジミー・ペイジ」(白水社 2007)の中に、
産婦人科医から母親学級を教えてもらい、
行かなければならないのか、と聞く場面がある。

「いかなくてはいけないものなのですか」と訊くと、例の、ほほほほほ、と聞こえる笑い方をして、
「おもしろいことを言うのね、あなた」と突然女言葉になる。「いきたかったらいったらいいし、いきたくなかったらいかなかったらいいのよ」
はぁ。とうなずいて、パンフレットをもらって病院を出る。
 なんだか私、「それはしなくてはいけないのか、しなくてもいいのか」と、ずっと言っているような気がする。したいからする、とか、したくないからしない、とか、そういう方向にあんまり考えられないんだな。いつからだろう、と考えて、大学生のころからだと気がついた。このオリエンテーションとやらは出なくてはらないのか、出なくともいいのか。この授業は受けなくてはらないのか、受けなくともいいのか。
 これは管理教育の弊害ではなかろうかと、突然思いつく。私たちは高校生まで、「してはいけないこと」「しなくてはいけないこと」に囲まれて育って、それで高校を出たら突然、したいからする式発想なんかできるわけがない。
 私たちの子どもには、そのことを教えなけりゃいかん。したいからする、したくないからしないという行動原理を、である。
 でもそんな教育方針で、ぐれてしまったらどうしよう。やれと言われた宿題なんにもやらないで、受けなけりゃいけない試験全部受けないで、鼻くそほじって、「うっせーばばあ」と言うようになったらどうしよう。
(p.132-133)



それから、夫婦で名前を考えている場面。字画のいい名前を名前辞典から書き出してみて、


「みなみとか、ちさとか、ゆうきとか、響きはいいんだけど、なんか漢字がさぁ、盗ってつけたような気がしない?」
「まぁなぁ、なんか当て字っぽいんだよなぁ、自然じゃないというか」
「もっとシンプルな漢字がいいよね」
「でもシンプルな人生になるかも……」
「シンプルな人生ってどんな?」
「なんの委員にもならずに、なんのクラブ活動もせずに、スポーツにもアニメにも音楽にものめり込まずに、公務員になって、お見合いして、結婚して、趣味もなく年老いて、定年して、趣味がないから家にいて、妻に邪魔に思われて、散歩とかして、眠るように死ぬ」
「しあわせのような気もするけど」
「まあね」
 私たちは紙と本の散らかったダイニングテーブルで、いっとき顔を見合わせる。おたがいが何を考えているかわかった。私たちはたぶん、順当にいけば、今おなかにいる赤ん坊が老いて死ぬところを見られないのだ。定年して妻に邪魔にされていても、助けてあげることができないし、眠るように死ぬときも、手を握っていてあげることもできない。
(p.185-186)



既に3歳の子どもがいる友人が言う言葉。

「子どもができるとね、時間が過ぎることが心底実感できるんだよね。それで、過ぎたものは過ぎたもので、もう二度と帰ってこないって思うわけ。今日のこの子の笑顔とか、それはもう今日だけのもので、明日にはそれは失われているわけね。永遠に戻ってこないの。もちろん別の笑顔が見られるわけなんだけど、今日の笑顔はもうおしまい。
(p.192)

……(中略)……

 子どもを産むということは、時間を手に入れることかもしれない、と私はふと思い、思ったままを言ってみた。
「そうね、そうだ、ほんと」
 Kはまじめな顔をして幾度もうなずく。「時間ってのはいつもいつも流れているんだけど、子ども産んだとたん、それが目に見えるようになる」
(p.193-194)



みんなで「そういう時代なのだから」といって、社会が
子どもをコントロールし虐待する人格の未成熟な親そのもののような場所になってしまわないために、

大人が思いださなければいけない大切なことを、
角田さんはこの作品によって書いてくれているような気がする。



ちなみに、角田氏が音羽幼児殺害事件をモデルに書いた
「森に眠る魚」(双葉社 2008)では、

それぞれの理由や事情で自己肯定感の低い母親たちが
「お受験」の周辺文化に翻弄され狂気へと追い詰められていく。
誰もが犯人であってもおかしくない狂気へ。

エピローグで、いずれかの母親が「この子に与えようとしているつもりだったのに、
いったい、私はどれほどのものをこの子から奪ってしまったのか」と自問する場面が
とても印象的だった。
2010.08.28 / Top↑
NYTの記事
「学生さん、ようこそ大学へ。でも親御さんはとっととお帰りを」

今の時期、米国の大学は新入生を迎える。

昔の親は、寮に子どもと荷物を降ろしたら、さっさと引き上げたものだったのに、
今では、子どもを送ってきた親たちが、いつまでも居座って帰ろうとしない。
キャンパス近くにホテルをとり、入学式が終わった後になっても
何日でも子どもの新生活スタートの世話を焼き続けたりする。

中には両親揃って初日の授業に娘と一緒に出たあげく、
親が学生課に行って娘の履修変更を願い出たというケースも。

そこで大学では、さっさとお帰りいただくために、
お別れセレモニーを企画してみたり、入学式で一言うながしてみたりと、
親に子離れしてもらうための工夫が必要な時代なんだとか。

overinvolvement という言葉が頻繁に使われている。
日本語の「過干渉」に当たるのでしょう。

Grinnell大学の職員のコメントが興味深くて、

「こういう現象というのは、
学生さんたちの生活への過干渉が進んできたことと大いに関係していますね。

子どもを成功させることに多大なカネとエネルギーを注ぎこむ過保護な親は、
ほとんど子どもになり変って子どもの人生を生きてやろうとしている。
この現象もその1つの現れです」

Students, Welcome to College; Parents, Go Home
The NYT, August 22, 2010


親が、親である自分と子どもとを同一視し、
あたかも子どもは自分自身の延長であるかのように感じてしまって、
自分と、他者としての子どもとの境界線を引けなくなっているのではないか。

それが子どもへの愛情だと思いこんで、
実は子どもを思うようにコントロールし、
子どもの人格と権利を侵害しているのに、
そのことに無自覚なのではないか。

それは、とりもなおさず、親が幼児化しているということではないのか。

そして、そういう未成熟な親が増えていることが、
さらに社会全体に親のそうしたあり方を容認する空気を醸しているのではないか。

その一方、科学とテクノロジーの進歩によって、
現代の大人には用いることのできるツールがあれこれと存在する。

それらのツールを使って強大で圧倒的な力で子どもをコントロールし、
大人たちの欲望のままに大人の権利が子どもの権利を丸飲みしてしまっても、
それを容認し、その重大さを顧みようともしない社会へと
世の中が変容しつつあるのではないか。

それは、社会全体が幼児化しているということではないのか……。

Ashley事件を機に、親の権利と子どもの権利の相克という問題を考え続けてきて、
(詳細は「親の権利」vs「子どもの権利」の書庫に」

“科学とテクノによる簡単解決文化”の広がりによって、
親が子どもに及ぼす支配が容認される範囲がじわじわと広げられていくことや

それと並行して、あちこちで一面的な「親の愛」が
まるでその通行手形のように喧伝されていくことや

もっと単純に言えば、
子どもを虐待する親や大人が世界中で増えていることも、

いわゆる知的な専門職についているはずの人たちの中に、
知識はあっても知恵というものを持ち合わせない、人間観の浅薄な、
幼児性の抜けきれない人たちが増えているように感じられることも、

そうした世の中全体の空気と無関係ではないのではないかということを
このところ、なんとなく考え続けていたので、

さらに虐待が世代間に連鎖していくことを考え合わせると、

この記事を、笑って読み過ごせなかった――。
2010.08.28 / Top↑
日本語で、ナイジェリアの魔女狩りのニュース。これ、2007年12月にこちらのエントリーでとりあげている。ビデオと、子どもたちの写真が20枚あるのだけど、もう本当にたまらない。これはもう、もっと強い者に虐げられている大人や男たちによる、ただの残忍な憂さ晴らし。そこにつけこむ“キリスト教聖職者”の悪業。子どもたちが安心して暮らしていける場所が世界からどんどん失われていく。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100826-00000003-cnn-int

自殺幇助合法化に関する世論調査が話題になっているNZで、元GPがリビング・ウィルがあれば安楽死の合法化なんぞ必要ない、自殺幇助は医師の倫理にもとる、と。
http://www.times-age.co.nz/local/news/living-wills-rule-out-euthanasia-need/3920453/

英国の調査で、無神論者の医師はターミナルな患者にさっさと見切りをつけやすい。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/26/doctors-religious-beliefs-terminally-ill?CMP=EMCGT_260810&CMP=EMCNEWEML961

オーストラリアの自殺幇助事件裁判。Frank Ward氏が去年ペントバルビツールを大量に飲んで自殺した事件で、違法に入手してあげたとしてMerin Nielsen氏が自殺幇助と規制薬物輸入の罪に問われたもの。
http://www.abc.net.au/news/stories/2010/08/26/2994070.htm?section=justin

貧困状態で暮らしている赤ん坊の半数以上が軽度から重度のうつ状態の母親に育てられていて、その場合、健康な母親よりも早くに母乳を切り上げられるし、子どもと適切に関われないために子どもの発達に悪影響が出る。:子育てに支障をきたすから貧困状態の母親のうちウツ状態にある人への支援を、というのって、なんか本末転倒の論理のような……。最近なんでも「社会に期待される機能」が基準になるような気がしていけない。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/26/AR2010082600027.html?wpisrc=nl_cuzhead

共和党の大物上院議員がゲイだとカミングアウト。同性婚法制化に向けて闘う、と。
http://www.guardian.co.uk/world/richard-adams-blog/2010/aug/26/ken-mehlman-gay-marriage-republican?CMP=EMCGT_260810&CMP=EMCNEWEML961

モニタリング・テクノロジーが高齢者の在宅独居生活に改革を起こす、とNPRの、そういうシリーズ2回目で。:モニタリング・テクノロジーと言えば聞こえはいいけど、要は監視テクノだよね。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198877.php

新学期の始まりに備え、LA子ども病院から親への子どもの健康アドバイス10カ条の一番トップは「ワクチン」。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198774.php
2010.08.26 / Top↑
アフリカで使われている抗マラリア薬の3割は偽薬だという話。APがEメールを使う調査システムを立ち上げたらしい。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198708.php

米国の地域介護システム。ボストンのVillage movement。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198702.php

ハリケーン・カトリーナの直後、ニュー・オリンズの警官には掠奪者に発砲する許可が出されていた、とProPublica。ProPublicaは、ハリケーン・カトリーナの際に起こったことを丁寧に追跡調査して明らかにしようと地道に緻密な努力を続けている。頭が下がる。
http://www.propublica.org/nola/story/nopd-order-to-shoot-looters-hurricane-katrina

このところ米国で卵のサルモネラ感染が問題になっているのだけど、英国では雌鶏にワクチンを打って予防しているのに米国はワクチンを認めないからこんなことになるんだ、というNYTの論調。:で、そのワクチンは卵を食べると人間の身体にも取り込まれていくわけですよね。私たち、毎日食べているものを通じて、知らない間にどれだけの何を身体に取り込んでいることやら。
http://www.nytimes.com/2010/08/25/business/25vaccine.html?_r=1&th&emc=th

最強の抗生剤にも耐性を持つスーパー細菌の登場で、人類はせっかく手に入れた抗生剤の使用をそのうち、やめなければならなくなる、という話。:あー、でも、そこには抗生剤を使うから耐性ができるという要因以外にも、今の時代に我々が知らず汚染されている化学物質の影響や遺伝子に手を加えていることの影響などもあるやもしれず、ただ抗生剤の使用をやめれば元に戻れるというものでもないような気が、素人としては致しますが。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/12/the-end-of-antibiotics-health-infections

胚性幹細胞研究への政府の助成を違法とした昨日の裁判所の判断について、そんなことを言っていたら医学研究が遅れる、とNYT。:医学研究が遅れることは、もはや倫理問題を飛び越えるほどの罪悪なんですね。よその国に出し抜かれて利権獲得が遅れると国益に反するし、悠長に倫理問題を議論している暇はないのよ……って。
http://www.nytimes.com/2010/08/25/opinion/25wed1.html?_r=1&th&emc=th

上記の件で、もちろん科学者からも囂々の非難。
http://www.guardian.co.uk/science/2010/aug/24/scientists-attack-stem-cells-ruling

英国MI6のスパイが殺されて、スポーツバッグに詰められた遺体が本人のアパートのふろ場で見つかったという。:一体、何が起こっているの?
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/25/british-spy-dead-in-bath

日本語ニュースで、歯医者がもうかる時代は終わった、と。:ああ、だから、歯科医の生き残り策として予防歯科の重要性がせっせと説かれるわけね。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100825-00000001-president-bus_all
2010.08.25 / Top↑
一昨日のSingerの障害新生児安楽死正当化エントリーにいただいたコメントから
ずっと頭にひっかかったまま放置していたことを思い出したので。

日本生命倫理学会会長の木村利人氏が「介護保険情報」8月号の
「リハビリテーション2020」シリーズで
全国老人保健施設協会の川合秀治会長と対談している。

木村氏は
1980年代の日本にインフォームドコンセント(IC)の言葉と概念を紹介・導入した人物で、
対談の前半でも、医療現場の意識を「サインさせる」というICの形だけで留まらせず、
患者主体の医療という本来の理念として浸透なければ、と語る。

そして、
「患者や利用者が持っている希望、価値観や人生観に沿っていのちを支えていくんだ、
ということを中心に据えて行かないと、日本の医療も介護も展望が開けないと思います」
という発言に続いて、次のように語っている。

アメリカではメディケアという65歳以上の高齢者を対象として医療保険制度がありますが、病院に入院するときには無用な延命治療はしないでほしいとか、最後まで延命治療をしてほしいとか、臓器提供の意思の有無などについて、患者が自己決定して法律上の文書にサインするシステムになっています。患者の意思を尊重すると同時に、過剰な医療を提供せずに生きる可能性のある方に医療費を使うという趣旨もあります。そうした点、アメリカはドライですからね。

この制度に伴い、患者の権利の擁護やバイオエシックス的な問題について相談することのできる専門家が病院に配置されていて、彼らはメディカルな部分に関わる職種とは関係なく、院長直結で倫理上のさまざまな問題について、患者の側に立って意見を述べることができます。こういうメディカルでないことを幅広く相談できる人が病院にいることが、病院を訪れるさまざまな人にとって非常に大切なリソースになっているのです。私はこういうシステムやバイオエシックスの専門家が日本にも必要だと思っています。

日本では、死について話題にすることがタブーとされる雰囲気が強いのですが、最期までいのちを大切にするためにも、私たちは自分の死についてイメージし、意思表示しておく必要があるのではないかと思います。国際的な潮流としてはアドバンス・ディレクティブ(末期ケアのための事前指示文書)、日本でいうところのリビング・ウィルもその1つの文書として普及しつつあります。
(p. 33-34)

「介護保険情報」2010年8月号 
シリーズ「リハビリテーション2020」第5回



ここのところを読んで、わわわわっ……と疑問が頭に沸いてきた。
例えば、

① メディケアは州ごとに運用されているんだったと思うので、
入院する人に対する意思確認システムも州ごとに違うのではないかと思うのだけど、
こういう言い方だと全米でシステム化されているように聞こえてしまう。
はたしてメディケアで入院すると全米でそういうことになっているのか?
それとも、そういう州が多い、という話に過ぎないのか。
それなら、そういう州はどの程度の割合に及んでいるのか。

(まさか、65歳以上でメディケアだったら、病気や治療の内容を問わず
入院時に終末期医療に関する意思表示を求められる……んですか?

たとえば、ただの肺炎で入院することになって指示書の用紙を出されて
「無益な延命はいらない」にチェックしたりしたら、それって、怖いこと、ない?)

② なんだって臓器提供意思の確認を?
 65歳以上の高齢者でも臓器提供の対象になるのか。
 元気だったら、なるのかなぁ……。

③ 「過剰な医療を提供せずに、生きる可能性のある方に医療費を使うという趣旨」が
ドライな米国の医療現場と患者サイドの共有認識になっているように聞こえるけれど、
まさに、それこそが米国の医療倫理の議論になっている点であり、それならば、
その「趣旨」はまだ「米国ではあります」と言える段階ではないのでは?

④ 65歳以上を対象にしたメディケアのシステムの話であることを前提に
「生きる可能性のある方に医療費を使う」という表現が意味することとは具体的には?

⑤ それらを総合すると、木村氏の上記第一段落の発言が読者に与えるイメージは
「アメリカはドライだから、高齢者の公費での入院には
終末期医療に意思表示が義務付けられているんだな、
それは、治療しても死ぬのが分かっている高齢患者よりも
若くて生きられる患者に医療費を回すためという趣旨の制度なんだな」
というものにならないか。それは本当に事実に沿ったイメージなのか。

⑥ 上記第2段落は「こういうシステムやバイオエシックスの専門家」と言っている以上、
私は倫理カウンセラーとか委員会など、いわゆる病院内倫理相談制度のことだと思うのだけど、
「この制度に伴い」と前段落を受けて話が始められているので、文脈上、
高齢者に事前指示が義務付けられるシステムを支える専門家として、
倫理相談システムが配置されているという説明になる。

ここで木村氏が言っているのが病院内倫理相談制度のことであるとしたら、
制度の目的の点からも、あり方や機能のし方の点からも、この説明では正確ではないのでは?



もちろん私は何の専門家でもないので、
日本生命倫理学会の会長さんの知識を疑うわけではありません。

私の知識が足りないのだと思うので、
どなたか、ご教示いただけると幸いです。

そうでなければ、
日本の生命倫理学者の中にも、米国の生命倫理学者と同じく、
いろんな思惑で動いている人がいるんだろうなぁ……と、
私はあれこれ余計なことを考えそうなので。


ちなみに、去年の脳死臓器移植法改正議論以来、
医療の問題で「国際的にはこれがスタンダード」みたいな話が出てくると、
なんとなく眉毛のあたりがモゾモゾして口にツバが沸いてくるのが習い性になってしまったので、
上記第3段落の木村氏の発言を機に、米国での事前指示書の普及状況を
当ブログが拾った限りで振り返ってみた。

2010年4月2日の補遺で拾ったこちらのニュースによると、
事前指示書がにわかにクローズアップされた05年のシャイボ事件の後、
書いている米国人の割合は変っていない。つまり、この5年間で増えていない。
(この記事には割合そのものは出ていません)

2009年11月19日の補遺 で拾ったこちらのニュースは、
WI州に、死にゆく成人患者のほとんどが事前指示書を書いている町があるという話。

この中に、指示書を書かせるために病院の様々な職種が総動員されて、
その仕事分はメディケアでカネにならない余分の負担だけど、
余分な治療の削減分で十分に元が取れる、という下りがある。
でも、それがニュースになるなら、やはりレアケースということで、
それなら、メディケアで入院する際に指示書を書かせるのが米国ではデフォルトとして
システム化されているかのような木村氏の発言は……?

2009年11月14日の補遺で拾ったAP電の記事は
米国人の多くは事前指示書を書いていないが、
書いた方が良い死に方をさせてもらえるし、
多くの人が緩和ケアを選べばメディケアの節約にもなる、と
呼びかけていた。

ということは、
「(高齢者には)過剰な医療を提供せずに、
(高齢者にかかる医療費を節約し)生きる可能性のある方に医療費を使うという趣旨」は
アメリカでは「ドライですから」「そういう趣旨もあります」というほど
既に定着しているわけではなくて、

むしろ、米国では国民に対して、
そういうことを考えろと、さかんに働きかけが行われている、という現状なのでは?

じゃぁ、もしかして、その働きかけが、
ドライな米国ではストレートな言語で明示的に行われていて、
論理的に国民を説得しようとされているのに対して、

ドライでない日本では、あまり正確ではない説明でもって、なんとなく
「日本は遅れているから“国際的なスタンダード”に追いつかなくちゃ」という
雰囲気で国民をノセて、そのまま流していこうとされている……とか?
2010.08.25 / Top↑
HPV子宮頸がんワクチン関連

英米ではみんなが受けていると言わんばかりに日本で盛んに宣伝されている子宮がんワクチンだけど、米国CDCの発表で去年推奨どおりに3回受けたのは女児のたった27%。しかも前年より増加して、それ。以下にこのワクチンに対する不信感が大きいかの表れ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198564.php

そのHPVワクチンを男児にも、という話が出てきていて、米国で論争になっている。:いいかげんにしろ、製薬会社。この問題、詳細は以下の5月13日のエントリー(最後のヤツ)にも。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198551.php

【関連エントリー・日本】
「HPVワクチン」検索結果の怪(2008/9/2)
朝日のワクチン記事にも「米国では」の印籠(2009/8/8)

【HPVワクチン関連エントリー・海外】
CDCが11,12歳に髄膜炎、百日咳、子宮がんのワクチン接種を呼びかけ(2008/9/2)
英国でHPVワクチン義務化、親の反発必至(2008/9/5)
今度は乳がん予防のワクチンだと(2008/9/15)
ノーベル賞選考過程にHPVワクチン特許持つアストラゼネカ関与の疑惑(2008/12/18)
CA州で女児4人に1人がHPVワクチンを接種(2009/2/21)
HPVワクチン普及目的で保健当局が学校に女児の個人情報を要求(NZ)(2009/4/3)
3医学会がHPVワクチン製造元の資金で学会員にワクチンを推奨(2009/8/19)
2009年8月21日の補遺(Washington DCの学校で事実上義務化との情報あり)
HPVワクチン接種後に13歳女児が死亡(英)(2009/9/29)
2009年12月24日の補遺(CDC前センター長がMerck社のワクチン部門責任者として天下り)
CDC前センター長はHPVワクチン売ってるMerck社のワクチン部門トップに天下り(2010/3/9)
HPVワクチン、今度は男の子狙いときて親の警戒アップ(米)(2010/5/13)


その他の話題

全然まだ開いてもいないけど、厚労省の「仕事と介護との両立に関する実態把握のための調査結果について」。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/shigoto_kaigo/index.html

カナダ、ケベック州で自殺幇助合法化に7割が賛成という世論調査。:インターネットで反対キャンペーンを始めた人のコメントがとても興味深い。そんなこんな、いろいろ盛り込んで大きなエントリーを書いていたのに、うっかりワン・クリックで原稿をおシャカにしてしまった。何故かゴミ箱にもない。泣いた……。立ち直れないので、書きなおすのは止めて、補遺に。
http://www.montrealgazette.com/news/cent+Quebecers+support+euthanasia/3430093/story.html

上記と同じGazette紙で、同社の記者が、末期がんを患いながら死の寸前まで自殺幇助合法化に反対するコラムを書いたHugh Anderson氏の担当編集者だった経験から、尊厳dignityを問題にして議論するのではなく、肉体的精神的スピリチュアルな安楽 comfort を問題にすることで、より話が分かりやすくなり、お金と資源があれば用意できるものだということが見えやすくなるのでは、と、なかなかな提案をしている。
http://www.montrealgazette.com/health/seeking+dignity+dying+might+find+comfort/3431064/story.html

Boston Globe紙に、MA州の88歳の健康なカトリック信者の女性がなぜ自殺幇助合法化を支持するか、を描いた長文の記事がある。ちょっとAlison Thorpeのような剥きつけの語り口に不快感がぬぐえないのだけど、この人が言うことをたどっていると、いかに紙の自己決定権論者が言う「尊厳のある死」の尊厳が、死そのものの問題ではなく、高齢者や死にゆく人への医療のあり方や社会の処遇の問題であるか、ということが良く分かる。
http://www.boston.com/yourtown/quincy/articles/2010/08/22/arguing_for_control_of_her_death/

海外へ生殖補助医療を求めていくカップルを国外にとどめるため、英国で生殖子ドナーへの高額な支払いが認められる方向?
http://www.guardian.co.uk/lifeandstyle/2010/aug/22/fertility-eggs-sperm-donors

この時期、新入生を迎える米国の大学で、子離れできていない親たちがいつまでも居座るので、「お別れセレモニー」を企画したり追い出しに苦労している。:なんか、これ、ものすごく象徴的な感じがする。未成熟で、子どもにからみつくことによって自分をなんとか維持している大人が増えているんじゃないだろうか。絡みつくということは、子どもの人格を自分の中に飲み込んでしまって、思うようにコントロールすることでもある。だから、社会全体としても、子どもの権利の侵害に無頓着で、親の欲望ばかりが許容され肥大化されていく方向に向かっているんじゃないだろうか。恐ろしいことだ。
http://www.nytimes.com/2010/08/23/education/23college.html?_r=1&th&emc=th

米国では通常思われている以上に、親が子供を叩いている。3歳児で65%。:これも、上記の子離れできない親の問題と実は繋がっているのだ、と思う。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198578.php

Wikileaksの創設者Assange氏のレイプ容疑が取り下げられた件で、容疑は警察がメディアにリークしたものだったことが判明。:どうしても思い出すのは植草氏とか高橋氏とか。恐ろしいことだ。
http://www.guardian.co.uk/media/2010/aug/22/wikileaks-julian-assange-sweden

上記の件で、陰謀説が出ている。:当たり前だよね。本当に恐ろしいことだ。
http://www.nytimes.com/2010/08/24/world/europe/24wikileaks.html?th&emc=th

遺伝子スキャンで、これまで別種の脳障害と考えられてきた発達障害が1つの遺伝子変異で起こっていることが明らかになった、と。:ふ~ん。こういうの、すぐに飛びついて信じてもいいのかなぁ。あくまでも多くの可能性の1つで、複合的な要因で起こることに変わりはないという姿勢が大事なような気がするんだけど。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198578.php

連邦裁判所が、ヒト胚を壊す研究への政府の助成は法律違反、と判断。どうする、Obama政権?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/23/AR2010082303448.html?wpisrc=nl_cuzhead
http://www.nytimes.com/2010/08/24/health/policy/24stem.html?_r=1&th&emc=th

慢性疲労症候群にロタウィルスが関与?:じゃぁ、これもまた「ワクチンで予防」の対象ね。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/23/AR2010082304486.html?wpisrc=nl_cuzhead

英国で延命エビデンスのある大腸がんの抗がん剤が高価すぎるのでNHSでは受けられないことに。最近、抗がん剤でこういう決定が続いている。:こういうニュースを聞くたびに思うのだけど、各種最先端医療のコストだけは何故か言われないような……。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/24/avastin-too-expensive-for-patients
2010.08.24 / Top↑
8月12日付でbigthink.comというサイトにアップされた
Peter Singerのインタビュー・ビデオを
お馴染みBad Crippleさんが見つけてブログに取り上げてくれています。

Bad Crippleさんが特に批判しているのは

二分脊椎を例に挙げて、
救命しても、何度も手術を受けることになるし、
いろいろな重症障害を負うだけだから、
親が救命を望まないことを当然だとしてシンガーは語っているが

二分脊椎の子どもは実際にはそれほど重症化する子ばかりじゃない、
その障害像をSingerは本当に分かっているのか、という点。

(Singerもトランスヒューマニストも、障害について無知すぎる、と私もいつも思う)

自分は障害像として二分脊椎に近いが、
誰も「この子は死ぬべきだ」とも言わなかったし、
自分を「重症障害者」だと思ったこともない、と。

それから、シンガーが障害者運動をmilitant (戦闘的)と形容していることについて、
(これ、militantなのはアンタだよ、と、たいていの人は思うと思うよ)

1999年にプリンストン大学がSingerを雇った際に
Not Dead Yetの人たちが自分の身体や車いすを大学のドアに縛り付けてまでピケを張り
警察によって排除される騒ぎがあったエピソードを語っていて、
あの時のことが頭にあるからmilitantなんて言うんだろう、と。

で、結論として、
シンガーは単なる危険人物ではないか、と。

Peter Singer: Moral Iconoclast or Just Dangerous
BAD CRIPPLE, August 18, 2010


問題のビデオはこちら
(トランスクリプト全文がついています。)


で、私自身も聞いてみて、読んでみて、大声で笑い出してしまいそうだった。
だって、これ、ほとんどセコイ言い訳レベルなんだもの。

質問は「なぜ、あなたは、
病気の赤ん坊は安楽死させても許されると考えるのですか」

それに対してSingerの論理展開は、概ね、こんな感じ。

オーストラリアで生命倫理センターのディレクターをやっている時に、
医師からよく相談を受けた。

病気や障害のある子どもたちは、例えば二分脊椎だと、
救命されても何度も手術を受けることになるし、いろんな重い障害を負うことになるから、
それを説明されると、親も生き延びるのがいいことだと思わないわけで、
そこで基本的にこういう子どもたちには治療が行われていなかった。

しかし、その結果、子どもたちは死ぬまで延々と苦しむし、
治療をしないと決めた親にとっても医師や看護師にとっても、
そういう状態で子どもが苦しんでいるのを見ているのはとても消耗的である。

そこで悩む医師の相談を受け、Helga Kuhseと検討して、
こういう状態の子は生きない方が良かろうと医師と親とで決めるのはアリ、
それは親が決定することだろうということになった。

それなら、親がちゃんとしたインフォームドコンセントを受けて死なせると決定した以上、
その子どもは迅速かつ人間的に死なせてやるのが人道的なのではないか、と考え始めた。



まず、とても単純な問題として、バカな……と思うのは、
ここでシンガーが、いかにも存在するがごとくに見せかけているジレンマは、
実は存在していない、ということ。

医師らから相談を受けた時点で、
「では、緩和ケアをしっかり」と答えれば済むことなのだから。

これは、つい先頃、
彼の弟子のSavulescuが臓器提供案楽死の正当化に使っていた
「延命治療の停止で安楽死を選ぶ人は脱水死の苦しみを味わうことになるけど、
臓器提供という方法で安楽死するなら麻酔をかけてもらえるから苦しくない」という
子どもだましみたいなバカバカしい屁理屈と全く同じ。

しかし、本当のマヤカシは、
そのジレンマのもう一段前の、もう少し見えにくいところにあって、

大統領生命倫理評議会の報告書でSchulmanがやっていたのと同じく、
答えを先取りして、既に前提に織り込んだ問いが立てられている、ということ。

問いの中で、既に答えが是認されてしまっている、というか。

インタビューで問われたのは
「病気の乳児の安楽死がなぜ許されると考えるのか」であるにもかかわらず、

Singerは
「親が救命しないと決定した子どもを
死ぬまでの長い間苦しむままに放置しておくことは倫理的であるか否か」
という問いが立てられているかのように装い、

その実、「親が救命しないと決定した子ども」の部分には
ちゃっかりと「一定の状態の子どもは死なせても構わない」という答えが織り込み済み。

つまりSingerはここで、
「安楽死の是非」ではなく、「望ましい安楽死の方法」の議論にすり替え、
「安楽死させる際に苦しめることは倫理的かどうか」という後者の問いに答えることによって、
安楽死そのものが倫理的だという前者の問いの結論を導いてみせるという
盗人猛々しい大マヤカシを演じている。

そんなバカな話があるか、と思う。

そんなの「人の財布を盗ることは許されるか」と問われて、
「目的は中の金なのに財布まで盗ることは許されるか」という問いにすり替えて、
「どうせ盗ると意思決定した以上、財布ごともって行っても同じだから、
他人の財布を盗ってもよい」と答えるようなものでは?

問われているのは、
「なぜ、二分脊椎の子どもなら救命しない決断が許されるのか」なんだよッ。
そういうところだけ頭が悪いフリ、するなよ。それとも本当に悪いのかよッ。

いや、悪いのは、頭はともかく、やっぱり人間性なのかもしれない。

だって、よくよく読むと、この人、
救命治療をせず赤ん坊が苦しんで死ぬのを見ている親と医師が消耗するから
さっさと安楽死させるのがいいと言っているのであって、
別に苦しむ赤ん坊がかわいそうだから、と言っているわけでもないみたいな……。



ちなみに日本の厚労省の研究班のサイトはこちら。

二分脊椎って何?

この最後のところに以下のように書かれている。

従って、二分脊椎症の治療には脳神経外科、小児科、小児外科、泌尿器科、整形外科、リハビシテーション科などを中心に共同チーム医療が必要とされます。さらには適切な医療の他に教育、就職、結婚等の問題まで総合的なケアが必要です。



最後の2行、どうして次のように書けないかな。

適切な医療、教育その他の支援による総合的なケアがあれば、
人により就職も結婚も可能な障害です。




【当ブログのSinger関連エントリー】
P.Singerの「知的障害者」、中身は?(2007/9/3)
Singerの“アシュリー療法”論評1(2007/9/4)
Singerの“アシュリー療法”論評2(2007/9/5)
Singerへのある母親の反論(2007/9/13)
Singer、Golubchukケースに論評(2008/3/24)
認知障害カンファレンス巡り論評シリーズがスタート:初回はSinger批判(2008/12/17)
知的障害者における「尊厳」と「最善の利益」の違い議論(2008/12/18)
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Singerが障害当事者の活動家に追悼エッセイ(2008/12/29)
Sobsey氏、「知的障害者に道徳的地位ない」Singer説を批判(2009/1/3)
Peter SingerがQOL指標に配給医療を導入せよ、と(2009/7/18)
2010.08.24 / Top↑
米国でこのところ続いている男児の性器の包皮切除の問題で、
またDiekema医師が喋っている。というか、今回は喋りまくっている。

コトの起こりは2006年には新生男児の56%が包皮切除をされていたのに
去年は3分の1を切ったという調査結果。

その結果自体に、保険で支払われなかった症例や
病院以外の宗教施設で行われた症例数が含まれていないとの指摘もあるのだが、

Diekemaは、いや、絶対に減っている、と大問題であるかのように言い、
ものすごい勢いで、その要因を挙げて、あちこちの責任を問いまくる。

曰く、
10年ほど前に小児科学会が包皮切除に曖昧なスタンスのガイドラインを出したものだから
医師が家族に話を持ちかける姿勢を変えてしまったのだろう、

あの妙に中立的なガイドラインのせいで
メディケイドの給付対象から外す州も出てきたし、
それを受けて保険会社が支払い対象から外す。
それで自腹を切ってまでは、と家族がとりやめているんだろう。

それに米国でヒスパニック系の人口が増加していることもある。
包皮切除の伝統がない人たちだから。


しかし、Diekemaが最も力を入れて批判しているのは
intactivistsと呼ばれる包皮切除反対活動家のこと。

inatctivistたちはパワフルな反対ロビーを続けていて、
その激しさは時にワクチン反対アドボケイトにも喩えられるほどだという。

で、Diekemaは、
なんといっても、こいつらのヤリクチが問題なのだ、と熱くなる。

「あの人たちの議論というのはほとんどが感情論ですよ。
包皮切除のことを“性器切断”だと言いつづけていることそのものが
医学的な利益があるとしても断固それを認めないという姿勢の表れです」

そして、今年2月には「利益もリスクも不透明」と言っていたはずの彼は、
ここへきて、利益は大きいと、主張するのです。

「性行為による感染症の感染リスクが、そこそこ、しっかり有意に下がっていますよ。
(なんとも奇怪な表現。fairly substantial, important reduction)

新生児では尿路感染も下がる可能性があります。
尿路感染は起こしたら新生児にとっては深刻な病気です。

アフリカでの少なくとも3つのしっかりしたランダム治験で
HIV感染がかなり減っています」

もちろん、最終的には家族が決めること。
ただ、医師は家族に利益とリスクをちゃんと知らせる役割がある。

それに「包皮切除のリスクは大きくなってからやるよりも
新生児期の方がずいぶん小さい」


――だから小児科学会の指針のように中立的なことを言わず
利益が大きいぞ、今やった方がリスクが小さいぞ、と誘導して、
家族に「やろう」という決断をさせろ、と彼は言っているわけですね。

Study: Circumcision Rates Falling Fast In U.S.
NPR, August 22, 2010


な~んか、“Ashley療法”を巡るDiekemaの喋り口調にそっくりだ。

障害者の権利アドボケイトは、これを身体切断だの人権侵害だのと主張し続けて、
それだけとってみても、成長抑制に医学的であれ社会的であれ利益があることなんか、
そんなの関係ないと彼らは思っているのは明らかで、お話しにならない、と。

それにしても、ワクチンに関しても
Diekemaはやらないという親は法的処罰の対象にしろとまで言っているし、
彼の牙城であるTruman Kats センターが生命倫理カンファを始めた時
その第一回目のテーマが、こともあろうにワクチン問題だった。

そして今度は包皮切除……。

必死で踊っていますね。
提灯ふりふり、ゲイツ音頭を。
白衣を着たポチが。



【関連エントリー】
Gatesの一声で、男児包皮切除にエビデンスが出てくるわ、小児科学会もCDCも方針を転換するわ(2010/8/16)
2010.08.24 / Top↑
15歳以上の500人の調査で、
47%が自殺幇助に賛成で、反対は44%だったとのこと。

年齢別では、
15歳から34歳では39%だったのに対して、
35歳以上では51%だった。

民族別では、
Maori族とPacific島の住民では37%で
その他のヨーロッパ民族では49%。

この記事によると、先月Aucklandのメラノーマ患者の医師 John Pollock(61)が
住んでいる国や地域によって自殺幇助が受けられるのに
自分が受けられないのは不公平だと医師向けの雑誌に投稿し、
合法化議論が再燃しているらしい。

10月にはNZの死の自己決定権アドボケイト Lesley Martinが創設した団体
the Dignity New Zealand TrustがWellingtonでの会議を開催し、
安楽死合法化法案について議論するとのこと。

Public divided over euthanasia
The Dominion Post, August 23, 2010


NZでは、去年も同じような調査が同じような結果を出していた。
詳細は以下のエントリーに。

http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51006391.html
2010.08.24 / Top↑
Ashley事件の怪現象(2007年のAP記事がコピペされる)が、また。:このところ起きる間隔が狭まって頻繁になっている。何かが起きようとしているのか。それとも起きないから苛立っている人がいるということなのか。
http://jobs.351.at/?p=36394

日本語ブログから。元情報を調べてみようと思って、まだ果たせていないけど、先日亡くなった女優の南美江さんは一旦脳死と判定された後に意識が回復していたとのこと。なぜ報道されない?
http://blogs.yahoo.co.jp/bijin1950/7060260.html

南アフリカ共和国で開催された国際小児科学会で、子どもの死亡率を2015年までに3分の1減じる目標を達成するためには、やっぱワクチンでしょう、特に途上国で、という話になったらしい。ロタ・ウィルス・ワクチンとか、肺炎球菌のワクチンなどが特に期待されている。このところ新しく開発されたワクチンに期待が集まる。
http://www.bbc.co.uk/news/health-10968854

インドで妊産婦を婚家先の家族が虐待することが多く、それが母子の健康状態の悪さに繋がっている、との研究。:ゲイツ財団やHIMEなんかのグローバル・ヘルスには、あくまでも生物としての個体を対象に医学で効率的に対処して、という発想――例えば、上のようにワクチンとか――しかないのだけれど、もうちょっと社会的な要因ってものがあるだろう、といつも思う。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197971.php

心臓死後臓器提供(DCD)の腎臓は、脳死提供のものよりも痛んでいるとして、これまであまり使われてこなかったが、研究によって実際は十分に使える、と。これで腎臓移植件数が、わっと増えるのでは、と期待する声。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/19/kidney-transplant-revolution-cardiac-organs

米国でADHDと診断されている子どもたちの中には、たまたま幼稚園の年次や学年の中で最も年齢が低いことからくる診断ミスによるものが非常に多い可能性。そういう子どもたちが治療薬を飲まされている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198077.php

5月22日の補遺で拾った事件の続報。英国で8歳をレイプしようとした11歳2人に、収監は見送り、監察処分。
http://www.guardian.co.uk/uk/2010/aug/18/boys-attempted-rape-girl-eight-supervision-order
2010.08.21 / Top↑
今年4月の論文。
こういう立場からの批判がもっと出てくるべきだと、ずっと思っていた。

Ashley’s Case: The Ethics of Arresting the Growth of Children with Serious Disability
by Gary L. Stein,
Journal of Social Work in Disability & Rehabilitation,
Volume9, Issue 2&3 April 2010, Page 99-109


アブストラクトは

This article analyzes the justifications and ethics of attenuating the growth of children with serious disability. It considers the case of Ashley, a child with profound developmental and cognitive disabilities whose growth was attenuated through high-dose estrogen treatment and surgery. The goals of Ashley's parents and physicians were to keep her small, thereby making it easier for her parents to care for her at home. Perspectives supporting and opposing growth attenuation are presented. It is suggested that community resources and supports, rather than medical strategies, are necessary to address the social challenges of community living.




結論としては、
子どもを地域でケアしていくには、医療の戦略よりも、地域での資源と支援が必要なのだ、と。

これは、これまでにも繰り返し指摘されてきたことではあるのだけど、

実際に地域で支援に当たっている職種の声が出てこないと、
その必要性そのものが部外者にはなかなか具体的に理解されないのだろうと思う。

障害児教育の分野なんかからも、
もっと重症児の認知とかコミュニケーションなどについて、
医療のなかから見えていることだけじゃないという話が出てくるといいのだけど。

              ―――――――

いつも揚げ足取りしているみたいで気が引けるけど、
大事なことだから、ここでも事実誤認を指摘しておくと、

Ashleyに行われた身長抑制の目的を
親も医師も在宅介護の負担軽減のためだと主張していると
多くの論文著者と同じ誤解を、この著者もしている。

この事実誤認をする人は本当に多いのだけど、
実際にAshley父のブログをちゃんと読んだ人なら起こり得ない間違いなので、
論文を書こうかという人がその程度にしか資料を読んでいないことが、いつも不思議でならない。

担当医らは06年の論文で確かにそんなことを書いた。

メディア報道でも07年当時の論争でも、
勝手にそう思い込んで議論した人は多かった。

でも親は実際はそんなことは言っていないし、
それは目的ではなかったとブログで何度も明確に否定している。

少なくとも04年に要望した時点では、
親の目的はあくまでも本人のQOLの維持向上だった。

ただし、論争の中で、もっと年かさの重症児の親たちから体験談を聞く中で、
確かに在宅介護の時期を引き延ばすというメリットもあることに気付かされたと
ブログに追記されてはいるし、

その方が世間に通りが良いことをすでに彼らも学習したとすれば、
今後、成長抑制療法が一般化されていこうとする際には
親の介護負担の軽減がひいては本人の最善の利益だという論理で
押されていくのだろうとは思うけれど。
2010.08.21 / Top↑
英国で新しく導入する自治体が増えているダイレクト・ペイメント制度
(個別ケアプランに応じた費用が直接サービス利用者に支給される)で
障害者の買春費用の支払いまで認められるべきかどうかが、論争になっている。

ある自治体が21歳の知的障害のある男性のケアプランに
オランダのアムステルダムへの買春旅行を入れたと報じられたのがきっかけ。

男性のソーシャルワーカーは、
ソーシャルワークとはクライアントのニーズを汲んでそれに応えること、
この人の場合は怒りとフラストレーションを抱えており、
セックスにお金を使うだけのニーズがあると考えた、と。
障害者のセックスは人権だとも。

The Sunday Telegraphなどの調査によると、

ストリップ・クラブとかインターネットの出会いサイトの費用くらいは
認めるという自治体が多い中で、4つの自治体が
本人の心身の福祉になるなら障害者による性労働者への支払いを認めている。

中には、知的障害者が不当な搾取を受けないよう、
ワーカーが介入して支払い料金の確認を行う、というところも。

違法行為でない限り使い道の道徳性を云々することはしない、という自治体もあり、

大半は、この問題に特に明確な方針はなく、
違法行為でない限り、ソーシャルワーカーの個別判断に任せるのが基本姿勢の様子。

メディアの取材に対して、
障害者から性労働者への支払いに使われたかどうかは知らないと回答した自治体も。

Disability Allianceの幹部Neil Coyle氏は
「大半の障害者は性サービスの料金を国に払ってもらおうなんて考えていない。
自治体に支援を求める時には着替えだとか入浴など、
求めているのは尊厳のある暮らしを維持するために不可欠なサービス。

自治体がこのところ、
そういう基本的な支援を、必要とする人から引き上げていることを考えると、
障害者にとってセックスはそれほど重大な問題ではない」

Councils pay for prostitutes for the disabled
The Telegraph, August 14, 2010


女性の立場からいえば、ここにはいくつもの差別が重なっていて、
気にかかる問題ではあるものの、どう考えたらいいのか、今のところ、まとまらない。

(「売春」はいつのまにか「性労働」になったんですね。
 知らなかった……。その言葉、なんとなく女性の自己選択を匂わせている気がするのだけど、
 昨日だったかGuardianに世界規模での子ども・女性の人身売買について報じる記事があって
 その実態はホロコーストに匹敵する今世紀最悪の道徳的犯罪だ、と。)
 
Telegraphの報道は、まずまず冷静だし、
各自治体の姿勢もそれなりにまっとうだとも思う。

それよりも、
連立政権になって社会保障がずいぶん圧縮されようとしているようだから、
Coyle氏が言う通りに、問題は実は別のところにあるんじゃないのか、という気がして、
そっちの方が気がかりな感じ。

なにしろ、
以下の2本のMailの記事は、明らかに世論の反発を煽っている。

文章のトーンや不正確で誘導的な表現が不快なのでロクに読んでいないけれど、

タイトルに登場している5億2000万ポンドは
高齢者と障害者を対象にしたダイレクト・ペイメントの予算総額だというのに、
わざわざ、それを「こんな巨額な納税者の資金から」とタイトルに書くというのも、
「障害者に買春させるために納税者はこんなに沢山のゼニを使わされているのか!」
というメッセージがそこには仕掛けられているようにも思え、

障害者がセックスするのが問題なのか、
障害者が買春するのが問題なのか、
それとも買春のために海外まで行くのが問題なのか
(アムステルダムには障害者専門の売春婦がいるとのこと)
障害者がタダで、または自分の金でセックスするのは構わないけど、
障害者がセックスすることに社会サービスの費用を使うことが問題なのか、
買春に社会サービスの費用を使うことが問題なのか、
それが海外というのは贅沢だという問題なのか、

それとも、そもそも5億2000万ポンドという金額が
納税者が高齢者と障害者の社会サービスのために出してあげる額として気に食わないから
そんな不謹慎かつゼイタクな目的で使われているんだったら
いっそ取り上げてしまおう……という、

一見、障害者のセックスを問題としているようでありながら、
実は全く無関係な問題をみんな考えてみろ……と言外に言われている、ということなのか。

Councils pay for disabled to visit prostitutes and lap-dancing clubs from ₤520m taxpayer fund
The Daily Mail, August 16, 2010

The madness of offering the mentally disabled sex with prostitutes at taxpayers’ expense
The Daily Mail, August 18, 2010


そういえば、コイズミ政権の頃、
日本でも、こういう路線の話を聞いたよなぁ……。

私があの当時あれこれの検討に参加していた人から直接聞いたことがあるのは、

「生活保護を受けている家庭というのは何代にも渡って保護を受け続けていて、
保護で暮らすのが当たり前という感覚がもうライフスタイルになっているから、
その一家では最初から誰も働く気などない。
生活保護に寄生している、そういう家族が結構ある」

有名な重心施設の名前を出し、
「重心施設なんて、子どもにバンバン薬を飲ませて、
ただ眠らせておいて福祉の予算を沢山せしめてボロ儲けしている」

真偽すら分からないし、仮に事実だとしても、
悪質な例外ケースに過ぎない。

しかし、制度が見直され
本当に保護を必要とする人が拒否されたり、
高齢者や母子家庭の保護費が減額されたり、
重心施設全体の経営が圧迫されるような制度変更が行われていく前には、

なるほど、ああいう話が
「みんな、そういう、とんでもない連中なんだ」と言わんばかりに
誇張して流されるものなのだなぁ……ということを私はあの時に学んだ。

きっと、
「それじゃ、私たちは損じゃないか」という不平等感というのは
それほど火をつけやすく、報復感情を呼び寄せやすいものなのだろう。

「あいつらだけ得しやがって。
そんなの、こっちばっかり損じゃないか」という国民感情が芽生えれば、
そこには自ずと「どうにかしろよ」という報復・処罰感情が伴って、

“得している人たち”のための予算が削られることは
不平等や損得の是正に過ぎない、しごく正当なことのように感じられて、

障害者にとって、それは生きていくのに基本的なケアを削られることなのだという事実は
そういう感情を持ってしまった人からは見えにくくなる。



そういえばMencapが連立政権の社会福祉制度改革で
DLA(障害者手当)を打ち切られる人が出ることを心配している。

Reforming the welfare system
Mencap, August 18, 2010



以下のソーシャル・ケアのサイトの掲示板では
ワーカーさんたちの議論もあって、ちゃんと読めば勉強になりそうなのですが、
ここは障害者のセックスの問題を議論させられることそのものが
戦略にまんまと乗せられることになるんじゃないのか、という感じも。

Sex and social work
Care Space – The online community for social care


その掲示板で、障害者と性の問題に詳しい人が、
みんなもっと勉強しろと言って張っていた関連サイトのリンクを、
一応、メモとして以下に。

http://www.outsiders.org.uk/news/sex-workers
www.touchingbase.org/about.html
sexuality.about.com/b/2007/01/19/sex-work-and-disability.htm
sexuality.about.com/b/.../sex-work-and-disability-reconsidered.htm
www.outsiders.org.uk/news/sex-workers
www.field.org.au/events/resources/disability_sexuality/
www.tlc-trust.org.uk/
women.timesonline.co.uk/tol/life_and_style/.../article5716226.ece
www.rsm.ac.uk/academ/sej101.php
www.pickledpolitics.com/archives/6533
www.bbc.co.uk › Home › Features
www.independent.co.uk › News › UK › This Britain
www.zoomerang.com/Survey/WEB228BX3BZR3X
www.informaworld.com/index/780900864.pdf
2010.08.21 / Top↑
世界中の人たちが病気やけがや障害のインパクトをどのように受け止めているか調べようと
Washington大学のIHME(ゲイツ財団の私設WHOとも言われる)が
去年から世界のあちこちで調査を行っており、

IHMEとHarvard大、Johns Hopkins大、Queensland大、そしてWHOによる
Global Burden of Disease, Injuries and Risk Factors Study 2010の一環として、
現在インターネットでのアンケート調査を実施中。

責任者はIHMEの所長でDALYの考案者でもあるMurray医師と
Harvard 大の国際医療の助教授 Joshua Salomon医師の2人。

グローバル・ヘルスに莫大な資金が投入されている以上、
正確なデータが必要だ、として

例えば、以下のような質問に答えが求められている。

ここに2人の人がいます。一人は全く目が見えません。もう一人は絶え間のない強い腰痛に苦しんでいます。総じて言えばどちらの人が健康でしょう?

申し分のない健康状態で5年しか生きられないことと、重症障害を負って15年生きることのどちらかを選ぶとしたら、どちらがいいですか?



Institute for Health Metrics and Evaluation launches landmark survey to discover the impact of disease worldwide
W UNIVERSITY WEEK, August 19, 2010


今現在全く健康だからといって、この先5年間そのまま生きられると
誰かに保障してもらえる人間なんか、世界中どこにもいないし、

健康だろうが、持病があろうが、重症障害があろうが、
人がこの先何年生きるかなんて、見通すことのできる人もいない。

どっちがいいかという質問に答えることはできても、
その選択を実際に生きることのできる人はどこにもいない。

みんな、「今ここに生きている自分」を生きていくだけじゃないか。

じゃぁ――
大恋愛で結婚したら、思いがけない事故ですぐに死んでしまう人生と、
大恋愛で結婚したら、子ども3人のうちの1人がグレて一生苦労させられる人生と
大恋愛で結婚したら、何となくうまくいかなくなってズタズタに傷つけあって離婚する人生と、
大恋愛で結婚したら、自分が難病にかかって、相手の会社が倒産してしまう人生と、
大恋愛で結婚したら、きまぐれで始めたビジネスが大当たりして世界中を飛び回って暮らす人生と、
上記のうち、死ぬの以外がどこかで全部起きてしまう人生と、
どれがいいですか?

選ぶことができない性格のものを並べて
あたかもそれが選べる性格のものであるかのように選ばせ、
あまつさえ、その結果を何かの施策の参考データとして使おうというのは、
質問することそのものが、どこかいかがわしくはないだろうか。

それより――

あなたが脳卒中の後遺症で半身が不自由になったとします。
急性期はもちろん維持期まで個別計画にのっとったリハビリを受けられる国と、
急性期だけでさっさと打ち切りにされて、後は事実上見棄てられる国と、
どっちに住みたいですか――?


【関連エントリー】
慈善資本主義(2008/4/13)
世界の保健医療に「黄金律」作るとIHME(2008/4/22)
世界の病気・障害「負担」数値化へ(2008/4/25)
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ゲイツ氏、今度は世界の外交施策にも口を出すつもり?(2008/8/27)
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「これからはワクチンが儲かりまっせぇ」の陰には、やっぱりゲイツ財団が……(2009/11/20)
2010.08.21 / Top↑
知的障害者の人権を侵害する拘束が広く行われていることをオーストラリア心理学会が問題視している。身体拘束(誰かが身体で抑制する)、薬物拘束(鎮静など)、機械的拘束(ストラップなどによる)、隔離(部屋に閉じ込めたり特定の物を引き上げたりする)のいずれかを受けたことがある人は、知的障害児・者の 4分の1に上るだろうと。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197948.php

2008年にイーライ・リリーが始めたアルツハイマー病の治療薬の治験で、薬を飲んだ人の認知機能が低下したり、皮膚がんのリスクが高くなったりしたため、治験が中止に。
http://www.nytimes.com/2010/08/18/business/18lilly.html?_r=1&th&emc=th

オランダが何かとリベラルな文化の国だということは聞きかじってはいたけど、自殺幇助だけでなくマリファナもOKだったとか。で、国境近くの町でドラッグ・ツーリズムが起こってきちゃったので、対策で「娯楽用ドラッグはオランダ人だけよ」ってことに。
http://www.nytimes.com/2010/08/18/world/europe/18dutch.html?_r=1&th&emc=th

米国の子どもたちの30%で聴覚が低下している。一番の原因は大きな音にさらされることではないか、と。:そういえば、この前ゲーセンの中を通過してみた時に、あれは絶対に耳に悪いと思った。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/198055.php

遺伝子組み換え作物の安全性をアピールし、もっと食べようと運動するイタリアの農夫。農夫というよりGM活動家。:カメラを見れば、GMのトウモロコシをかじって見せているというのだけど、あなたが食べてすぐに死んだり病気にならないからといって安全だという保障にはならない。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/18/AR2010081800479.html?wpisrc=nl_cuzhead
2010.08.18 / Top↑
山本有三の堕胎罪批判から考えたことのエントリーで
13日にもちょっと触れた以下の本。

「家族計画」への道 近代日本の生殖を巡る政治
荻野美穂 岩波書店 2008


研究者と呼ばれる方々がいかに地道にコツコツと研究を積み重ねれておられるものか
その情熱や緻密な仕事ぶりに圧倒されつつ、
知らないことだらけの内容を興味深く追いかけた。

日本でも避妊や中絶に対して多くの屈折があったことそのものが
無知な私には目からウロコで、

でも、そういえば子どもの頃の記憶として
母親が読んでいた女性雑誌には必ず綴じ込みページがあって、
そこには何やら秘密めいた匂いが閉じ込められているように
感じられたものだったし、

文字が読めるようになって斜めに覗いてみたら、
オギノ式とかペッサリーとかオーガズムとか体位という言葉などが目につくのを、
意味など分からないなりに「大人の秘め事」と受け止めたことなども、

なるほど、ちょうど、そういう情報が
日本の女性に向けてさかんに流され始めていた頃だったのだな、と
この本を読みながら納得したりもした。

本書の非常に豊富で骨太な内容を乱暴に一言でくくってしまうと、
著者が「おわりに」にまとめている以下の言葉の通り。

……人間の生殖とその管理は、個人やその家族、共同体、国家、さらには国際社会など、さまざまなレヴェルの「当事者」の利害が錯綜し、競合しあう場なのであり、その中で人々、とりわけ妊娠・出産の最も直接的な当事者である女たちは、そのときどきの時代的文脈と制約のもとで、権力や法や男による管理に対してあるときは無視や不服従で対抗し、自分たちの利益にかなうと判断したものに対しては進んで迎え入れたり自分に都合よく流用することによって、利害の調整をはかろうとしてきた。歴史は、こうしたさまざまなレヴェルでたえずくり返される利害衝突や交渉の軌跡が、幾重にも集積することを通して作られていくのである。
(p.307)




日本で子どもを産むことを巡って女性の選択権を初めて主張した人たちが
だんだんと優生思想を説くことになっていく下りを含めて、
細かい点についてもいろいろ印象的だったことはあるのだけど、
当ブログでこれまで拾った情報との関連で
1つだけ「うおぉ」と、つい身を乗り出した部分のみを、
とり急ぎ以下に。

日本は1950年代後半から60年代にかけて
高品質のコンドームの開発・製造で国際的に名をはせた。

先進国が日本のコンドームを買っては途上国に提供する……という図式があったことから
日本も国家として家族計画の国際協力に乗り出そうと考える。

そこでIPPF(国際家族計画連盟)の顧問ウイリアム・ドレーパーと
佐藤栄作首相を始め日本の官・政・財の有力者が相談のうえ、
岸本首相を会長に、家族計画国際協力財団(JOICFP)が発足した。

この時、ドレーパーと会って財団設立に5万ドルの資金を提供し、
その後もスポンサーとなったのは、日本船舶振興会会長の笹川良一であった。
(p.248)




この話、実は当ブログで去年拾った、90年代のペルーの強制不妊キャンペーンと繋がっている。

ペルー、フジモリ政権下で30万人の先住民女性に強制不妊手術(2009/4/9)


米国も国連も関与していただけでなく、
日本財団もこのキャンペーンに約200万ドルを支出していた。

その後、失脚し亡命したフジモリ元大統領を
当時の日本財団理事長だった曽野綾子氏がかくまったことは周知の事実。

元大統領と日本財団との繋がりとは、なるほど、
そういう長年の協力関係に基づいたものだったわけですね。

      ――――

それから、もう1つは、
ここ数カ月、以下のエントリーで追いかけてきた現在の動きとの関連で、

知的障害・貧困を理由にした強制的不妊手術は過去の話ではない(2010/3/23):G8での避妊・家族計画論争
ゲイツ財団資金で超音波による男性の避妊法を開発、途上国向け?(2010/5/12)
ゲイツ財団がインドのビハール州政府と「革新的な家族保健」の協力覚書(2010/5/17)
2010年5月29日の補遺:G8での途上国の母子保健関連記事。ここでも「家族計画」に言及。
ゲイツ財団が途上国の「家族計画、母子保健、栄養プログラム」に更に150億ドルを約束(2010/6/8)
「途上国の女性に安価な薬で簡単中絶“革命”を」の陰には、やっぱりゲイツ財団(2010/8/3)


先進国が技術と資金の提供を通じて
途上国の「家族計画援助」という名目で生殖管理に乗り出していくという構図は、

50年代、60年代から行われ90年代のペルーのキャンペーンに繋がった一連の動きと、
現在、母子保健の名目で途上国への中絶と家族計画の推進に乗り出そうとしている
ゲイツ財団を中心としたG8などの動きとに通じてはいないのだろうか。

なお、Bill Gatesの父親はかつて米国Planned Parenthood Federationの会長だったし、
現在も同連盟にはゲイツ財団から資金が提供されているものと思われる。

そして、Bill Gatesのいう「革新的な家族保健」や
Gates財団の資金で進んでいる超音波による男性の避妊法などを考えた時に、
ペルーで起こったことが現在のテクノロジーで繰り返されようとしている……
などという恐れは、本当にないのか……?



ちなみに、IPPF(International Planned Parenthood Federation)については日本語でこちらに。
2010.08.17 / Top↑
英国の自殺幇助合法化運動の広告塔Debbie Purdyさんの得意な殺し文句は
「米国の一部の州やヨーロッパのいくつかの国では法制化されて、ちゃんと運用されているのに、
英国で合法化できないというのは英国人を信頼しないというのか」だし、

日本でも、去年12月に
日本尊厳死協会の井形理事長が同様の発言をされましたが、

Oregon州で自殺幇助に抵抗活動を続けている
Oregon Right to Lifeからの転載記事によると、
オレゴンの「尊厳死」法で、セーフガードは機能していない、と。

Oregon’s Assisted Suicide Experience: Safeguards Do Not Work
Web One Directory Review,  reproduced from Oregon Right to Life


その証拠として挙げられている4つのケースの概要を以下に。

・第一例(ウツ病患者)

20年間乳癌と闘ってきた80代半ばの女性。
主治医は致死薬の処方を拒否。
2人目の医師は女性をウツ病であると診断し、
やはり自殺幇助を拒否。

そこで女性は自殺幇助アドボケイトの手を借りて
協力してくれる医師を紹介してもらう。

その医師は女性と知り合って2週間半後に処方した。

つまり、Oregonの尊厳死法適用の第一例はウツ病患者だった。


・Mathenyケース

43歳のPatrick Matheny氏はALS患者。
薬を手に入れたのは宅配便で。

手に入れた後で、飲む決断をするまでに病状が進行し、
自分で飲み込めなくなっていたため、義理の弟(兄?)が手伝った。

尊厳死法では、自殺の行為そのものを手伝ってはいけないことになっているため、
裁判所の判断が求められたが、裁判では
尊厳死法は自分で飲めない人を差別している、と判断した。

自力で飲みこみの出来ない患者が
自殺幇助の限界ラインを医師による致死薬の注射まで広げた。


・Cheneyケース

認知症の初期の高齢女性Kate Cheneyさんを、
娘が自殺させようとそそのかし、医師をとっ換えひっかえした挙句に実現したケース。

複数の医師が本人の認知症と娘からの誘導を理由に拒否。
本人は拒絶を受け入れたが娘が腹を立ててセカンドオピニオンを求め、
最終的に致死薬が処方された。


・Freelandケース

2004年5月、米国精神医学会で報告されたケース。

癌患者のMichael Freeland(63)は死が差し迫っていると診断され、
尊厳死法で致死薬を処方された後、2年近くも生きた。

処方した医師は、Freelandの精神科の診察の必要を認めなかったが、
当時から症状としての自殺念慮があったと言われていた。

その後、当局によって意思決定能力が否定されたが
しかし、致死薬は回収されないままだった。

Physicians for Compassionate Careが介入し、痛みと精神科ケアを提供。
Freeland氏はその後、致死薬によらない自然死をとげた。

--------

ちなみにOregon州のメディケアは
1998年に自殺幇助を給付対象として州民の税金で負担することとした。
一方、適切な痛みのコントロール、障害者への適切な生活支援、
また延命治療の一部は給付対象となっていない。



なお、最近行われたベルギーでの安楽死の実態調査でも、
以下のようにセーフガードが機能していないことが明らかになっています。

ベルギーでは2002年の合法化以来2700人が幇助自殺
(2009/4/4)
幇助自殺が急増し全死者数の2%にも(ベルギー)(2009/9/11)
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
2010.08.17 / Top↑
去年、DPPのガイドライン策定以降初の逮捕者として騒がれ、
以下のエントリーでとりあげた事件の続報。

MSの教育学者がヘリウム自殺、協力者を逮捕(英)(2009/6/26)
英国で自殺幇助容疑で元GP逮捕へ(2009/9/28)


MS患者の学者Caroline Loderさん(48)の自殺に関連して
幇助容疑で逮捕された3人はいずれも不起訴になったとのこと。

一人はFriends at the End(FATE)という自殺幇助アドボケイトの幹部で
元GPのLibby Wilson(84)。

それからそれぞれ70代と50代の男性が2人。

男性の1人には十分な証拠がなく、
他の2人については、起訴は公益にならない、との理由で不起訴に。

Wilson医師が主張するところでは、
LoderさんはFATEに電話をかけた時点で
既にヘリウム自殺の指南書とヘリウムと頭にかぶる袋を手に入れており、
ただ手順の確認のための電話に過ぎなかった、と。

(じゃぁ、なんでボランティアが2人も手伝いに駆け付けたんでしょう?)

この人は、とても気になる発言をしており、

「ヨーロッパ人権条約では、
合法的な行為を行いたいと望む人には
それを効果的に遂行できるようにする可能な限りすべての情報を
手に入れる権利があるとされている」と。

だから、DPPのガイドラインでは明確化が不足している、と
同医師は主張するのですが、

しかし、自殺は違法行為でないというだけで、それが即座に
情報を与えられるべき合法的な行為と読み替えられるというものでもないと思うし、

そもそも英国では、DPPのガイドライン以降、誰も起訴されていない。

無罪放免とされたケースはそれぞれに多様で(詳細は文末にリンク)、
その多様さを振り返ると、ガイドラインは事実上の合法化ではないか、と思ってしまう。

No charges against three arrested over academic’s suicide
The Guardian, August 16, 2010




DPPガイドライン後に不起訴となった事件は、以下。

英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴(2010/3/26)
英国で、介護者による自殺幇助を事実上合法化する不起訴判断(2010/5/25)
自殺幇助の元GPに英国公訴局長「証拠はそろっているけど、公益にならないから不起訴」(2010/6/26)
2010.08.17 / Top↑
例の不可解なAPのコピペ怪現象以外にも、Ashley事件を取り上げるブログがまだあることに驚く。頭で受け止める前に、creep me out し、その感覚にこだわり続ける人がいる、ということのなかに、どこか「尊厳」と通じていくはずのものがあるような気がする。
http://community.thenest.com/cs/ks/forums/41237399/ShowThread.aspx?MsdVisit=1

障害児にその子のペースに合わせて操作を教えるロボット車椅子、ROLY。Robot-Assisted Learning for Young drivers. 通常、障害のある子供が電動車いすを使用し始める時にはセラピストがつきっきりで教えるので「 高価で労働集約的である」ため、その問題解決策として開発された。:中途障害を負い初めて電動車いすを使用することになった子どもにとって、誰か専門的な知識と経験を持った人が自分のためにそばについてくれて、これから障害と共に生きて行かなければならない自分のために必要な知識や技術を教えてくれること、きっとそれ以外にも、人だからこそ、多くの障害児の受容過程を見てきた経験があってこそ、余分な言葉や心遣いも差し出してくれることの意味は大きいはずなのに。機能とか能力といった、数値化できるものだけの物差ししか持たない“頭がいいだけのバカ”が世の中にどんどん増えていく。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197711.php

オレゴン州の尊厳死法でセーフガードとして担保された法規制は機能していない、と、Oregon right to Life (ORTL)。具体的に第1例から4つの事例の詳細を挙げている。いずれ読んでみたい記事。
http://www.w1d.net/oregons-assisted-suicide-experience-safeguards-do-not-work.htm

乳がんの治療薬Avantinがコスト・パフォーマンスが悪いとしてFDAが認可取り下げを検討?:コスト・パフォーマンスでいけば、たいていの抗がん剤はOregonみたいに自殺幇助に負けることになるのでは?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/15/AR2010081503466.html?wpisrc=nl_cuzhead

5月に行われたGallupの意識調査で米国人の46%がPASを支持しているものの、77%は自殺そのものについて道徳的に間違いだ、と。
http://content.usatoday.com/communities/Religion/post/2010/08/gay-homosexuality-adultery-colbert-morality-gingrich/1

米国生命倫理の歴史の中で大きな事件だった「ベビーM」事件。担当医2人が当時の事情や21年後の現在の心境を語っている。
http://www.theage.com.au/victoria/doctors-tread-ethical-minefield-21-years-on-20100813-1239b.html

英国で遺伝子診断に新しいガイドライン。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2961234-2/fulltext?elsca1=TL-140810&elsca2=email&elsca3=segment

2050年までには人造食肉で90億人を養わないと、と。:それより先に「死にたい人も、死にそうな人も、死にそうでなくても死にたくなくても生きるに値しない人も、どんどん死んでもらおう」世界の人口抑制キャンペーンが進んでいるので、それが成功すれば、人造肉なんていらなくなるんじゃないかという気もするのですが、もしかしたら人口の約1~2%のスーパーリッチ以外が、まともな肉を食べるなんて分不相応……という話なのでしょうか?
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/aug/16/artificial-meat-food-royal-society

英国の病院で痛みどめの処方・投薬ミスで多くの人が死んでいるらしい。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/aug/12/nhs-lethal-painkiller-dosage-deaths

性交後5日以内に飲めば避妊できる薬を米FDAが認可した。ただし医師の処方によるのみ。:先日のNY Timesのクリストフの論説との関係は?
http://www.nytimes.com/2010/08/14/health/policy/14pill.html?_r=2&th&emc=th

イラン、国際世論の高まりで、投石処刑を絞首刑に変えるかも? ただし物議をかもしている事件のみで。あまり世論の興味を呼ばない事件では、相変わらず投石処刑が続くという話も。:それに、処刑方法の問題だけじゃなく、不倫で死刑になる女性の人権侵害の問題だってある。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/12/iran-stoning-sentences-commuted-ashtiani

経済大国NO.2の座を日本が中国に明け渡した。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/15/AR2010081503697.html?wpisrc=nl_cuzhead

日本。この前の選挙の時に、夫婦で娘の選挙権って、どういうことになるんだろう、と話になったのだけど、被後見人には選挙がないんだそうな。
http://blog.goo.ne.jp/okunagairi_2007/e/0e2c118be6fdcbb60c1270a038a519da

日本。「障害をもつ人の参政権保障連絡会」というのがあった。
http://www2.ocn.ne.jp/~senkyo/index.htm
2010.08.16 / Top↑
ここ数年、男児の包皮切除の是非を巡って米国で論争が続いている。

この問題でよく発言しているDiekema医師は、今年2月には、
Diekema医師は 「医学的な利益もリスクも曖昧である」とコメントしていた。

しかし、その後、7月のエイズ会議で
Bill Gates氏が安価なエイズ対策として包皮切除を推進しようと発言したのを知り、
これはDiekemaも近く2月の発言を撤回するだろうなと踏んでいたところ、

案の定……。

なんでもアフリカで3つも臨床実験をやって
包皮切除にはエイズ予防だけでなくHPV感染やヘルペス予防効果があるとの
科学的なエビデンスが出てきたのだとか。

2005年に改定された米国小児科学会(AAP)のガイドラインも
CDCのガイドラインも医学的な必要性が認められないとして
ルーティーンとしての包皮切除は勧めないとの立場をとっているものの、
今回のアフリカでの調査結果を踏まえて、
両者とも見直しを検討中なのだとか。

DiekemaはもちろんAAPの包皮切除検討班のメンバーで

「過去10年間の文献を調べると、効果は明らかで、
医学的な利益があると認められてきました。

どの子どもにもルーティーンとしてやるだけのエビデンスがあるかどうかは
分かりませんが、AAPからは今までよりも少し強く推奨する勧告が出るかもしれません」

もちろん、こうなってくると包皮切除の実施率が、
米国の平均56%であるのに対してWA州では23%と、
ゲイツ財団のおひざ元のWA州での実施率の低さは、
やはり大問題なのでしょう。

このSeattle Timesの記事のタイトルは
WA州がエビデンスを受けて包皮切除を進めそうだ、というもので、

一応、義務付けではなくあくまでも親の選択だとはしながらも、
ワシントン大学グローバル・ヘルス(これまた、いかにも)の教授が
「親は子どもに最善の利益を望むものですが、
それでも生まれたばかりと言う時に、子どもが17歳から19歳になった頃の
エイズや性病予防のことまで考えられる人はそうそういません」と発言。

そのココロは、やっぱり、
親は息子が生まれたばかりの時にそこまで先を見通せないのだから
生まれた直後にやっておいたほうがいいですよ、と専門家がちゃんと勧めましょうね、
という含みとしか思えず……。

State may see push for circumcision after evidence shows health benefits
The Seattle Times, August 15, 2010


Bill Gatesが「安上がりなエイズ対策として包皮切除を」と考え付いたら、
それを施策として世界中で推し進めるために、
まずエビデンスが用意され、

それを待ってAAPもCDCもWHOも足並みをそろえて動き出す。

米国内で率先するのは、もちろんWA州で――。
もちろんシアトルこども病院、WA大学医学部が旗振り役で――。
2010.08.16 / Top↑
米国のDr. Death と言えば言わずと知れた Kevorkianで、
オーストラリアのDr. Death と言えば、知る人ぞ知る Nitschkeなのだけど、

なんと、ついに英国でもDr. Deathと呼ばれる「死の自己決定権」アドボケイトが。

といっても、
去年から当ブログで追いかけてきた元GPのDr. Irwinのこと。

スイスで自殺幇助に付き添ったパートナー逮捕(英)(2009/7/19)
英国で患者の自殺を幇助した医師が「証拠出すから逮捕に来い」と(2009/7/28)
英国で、自殺幇助容疑で元GP逮捕へ(2009/9/28)
自殺幇助ガイドライン後、初の起訴か(英)(2010/4/25)
自殺幇助の元GPに英国公訴局長「証拠はそろっているけど、公益にならないから不起訴」(2010/6/26)


不起訴になったものだから俄かに勢いづいたのでしょうか。

Society for Old Age Rational Suicide (SOARS高齢合理的自殺協会?)なる団体を率いて
ターミナルでなくとも自己決定能力のある高齢者なら
医師による自殺幇助を認めてもいいじゃないか、という
主張を展開し始めたようです。

とりあえずのところは、
関節炎の進行と視力の衰えを悲観して死にたいと望み
Dignitasの会員となった高齢英国人女性の支援をしているとか。

‘Dr. Death’ calls for assisted suicide for those who are not terminally ill
The Telegraph, August 16, 2010


記事の中に、英国には既に85歳以上の高齢者が130万人もいて、
2020年までに200万人を超えるのだから、
特に死にゆく病気にかからなくても死にたいと望む人も多かろう、と
Irwin医師が主張している下りがあって、

いかにも人口問題なんですね、これは……。


【関連エントリー】
オランダで「70歳以上の高齢者には自殺幇助を」を学者・政治家ら(2010/2/10)
「高齢者がいつでも死ねるように街角ごとに“安楽死ブースを”」と英国作家(2010/2/10)
幇助自殺者が毎年1割ずつ増えるオランダで「安楽死クリニック」求める声(2010/8/12)
2010.08.16 / Top↑
前のエントリーの最後にリンクした森岡正博氏の文章から連想したので。


「家族計画」への道 近代日本の生殖を巡る政治
荻野美穂 岩波書店 2008

を読んでいたら、

映画監督との短い関係で妊娠した子どもを中絶し、
1935年に産婆と一緒に堕胎罪に問われた女優、志賀暁子の裁判の下りで、
彼女に同情的な意見として作家の山本有三の批判が引用されていた。

彼女を誘惑し、彼女を身ごもらせ、彼女を捨てた男は今どうしているか。彼は名誉こそ多少傷つきたれ、ステッキを振って自由に街頭を歩いているではないか。……男に堕胎は出来ない。そして女が妊娠したら、極力相手にしないようにすれば、この犯罪にひっかかる心配はない。まことに今の世の中は男子に住みよく出来ているというものだ。
(P.103)


しかし検事は、

男に捨てられたというのみを以て、堕胎を決意し、これを実行するということは、女性として欠くる所がある
(p.103)



と有罪を主張し、
裁判長も「緊急避難」説を認めず、
懲役二年、執行猶予三年の判決が下された。


なにか、そのまま読み過ごせない感じで、
山本有三の言葉と、検事の言葉を何度か読み返していると、

この前、2人の幼児を1カ月以上も放置して死なせた若いお母さんのことが頭に浮かんだ。

そして、いかに離婚したにせよ、
あの子どもたちには父親だっていたのだ……ということを考えた。

         ――――――

私の問題意識は、すべてのスタートがAshley事件にあるようなものなので、
(それまではロクにものを考えていなかった証拠ですが)
中絶の問題、特に選択的中絶の問題については

2007年、Hastings Centerのブログ Bioethics Forumでの
LindermannとDregerの論争が言ってみれば初めての出会いだった。

ケア負担になう母親に中絶の選択権?(2007/11/9)
「選別的中絶」というより「選別的子育て」(2007/11/11)


この直後には、障害女性のアドボケイト、FRIDAが
プロライフと障害女性問題活動家とは表面的には同じ主張をしているように見えるだけで、
実際には全く異なった立場に立脚して問題を眺めているのだ、ということを主張しつつ、

女性の選択権と、障害のある命の尊重との間で
FRIDA内部にもあるジレンマを見据えようとする文章とも出会った。


それからずっと、「中絶は女性の権利」と言うことと
着床前遺伝子診断や選択的中絶を批判的に捉えることとの間で
どのように折り合いをつけていくのか、ということは、

私の中では、ある意味で
Ashley事件に突きつけられた「親の権利 vs 子どもの権利」の相克と同じであるようで、
また、ある意味では同じでないかもしれない……みたいな悩ましいところを
ずっと、ぐるぐる、行ったり来たりする、ややこしい難問。

でも、
山本有三の言葉と、検事の言葉から
あの若いお母さんを思い出し、次いで、
彼女に放置されて死んだ子どもたちの父親の存在と
そして、事件を受け止める側の意識における、その不在、を考えた時に、

「女性の選択権」 vs 「子どもの命」という対立の構図が、そもそも違うんだ――。

……と、ふいに目の前を拭われたように、明瞭に了解した。

そういう構図で考えるところに頭を持って行かれてしまうことに、まず警戒し、
もうはまっていたら、それに気付き、そこから抜け出さないといけないんだ――。

その対立の構図は、やっぱり、Ashley事件でDiekemaらが仕組んだ
「本人のQOLを守ろうとする親の愛」vs 「政治イデオロギーで邪魔立てする障害者」の
対立の構図とそっくり同じなのではないか、と思う。

そこでは、どちらも同じ問題のすり替えが行われていて、
そのすり替えで覆い隠されようとしているのは同じものなのではないか、

そこで覆い隠されているものとは、つまり、
変えるべきものが社会の中にある、ということ――。
2010.08.15 / Top↑
先月、FoxテレビのGleeという番組で評判になった18歳のフィリピン人少女が、番組出演に備えて顔にボトックス注射を受けていたことが分かり、喧々囂々の騒ぎに。でも、そういう若い子たちが実は米国では急増していて、去年1年間に米国で13歳から19歳までの子どもがボトックス注射を受けた回数は、なんと12000回。2008年よりも2%の増。:米国は「科学とテクノで簡単簡潔万歳」病がどんどん悪化し、病んで行く一方だ。大人がかかって重症度を増していくから、子どもにも感染していく。それにしても、米国の医師には倫理観というものはないのか? ゼニにさえなるなら子どもの顔に筋弛緩剤を平気で注射するのか?
http://www.nytimes.com/2010/08/12/fashion/12SKIN.html?_r=1&th&emc=th

イランで投石処刑の宣告を受けた女性 Sakineh Mohammadi Ashtianiさんがテレビ番組のインタビューで、夫の殺害計画に関与したこと、夫の従兄と姦通していたことを認めた。すぐにも処刑されるのでは、との懸念が高まっている。一方、亡命した彼女の弁護士は、この番組の録画前に彼女が2人日間に渡って拷問を受けた、と。:どうして一人の女性に対して、国家がそこまで悪辣にならなければならないのか。一旦は国際世論の非難で、処刑は回避されそうな気配だということだったのに、弁護士が亡命したあたりから風向きがまた変わった感じ。 この件については7月8日のエントリーと、8月7日の補遺などに。7月8日のエントリーのリンクに「投石処刑」の写真があります。国家が国民に弱い者いじめをけしかけ、憂さ晴らしをさせるリンチ以外の何ものでもない。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/aug/12/sakineh-mohammadi-ashtiani-confesses-murder-iran

体外受精で精子を直接注入する方法だと父親の不妊の原因となっている遺伝子変異がそのまま子どもに引き継がれてしまっている、とBoston Globe紙に。:タイトルを見た時には、せっかく問題の変異は排除しようと思えば可能なテクニックなのだから、取り除けるものは全部取り除かないと子どもの利益に反する、とでも誰かがついに言い出したのかと思った。でも、不妊の変異を引き継がせることは子どもの利益に反する、という話が出たら、結局その論理は次々に排除可能な変異について当てはまっていくことになる……とか? 
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197430.php
2010.08.13 / Top↑
48歳のキャンベラ在住の男性が
知的障害のある実の娘を妊娠させたとして
近親相姦の罪で起訴された。

娘の生理が2カ月飛んだことから母親が不審に思って
妊娠検査キットで調べ、産婦人科へ連れて行くと妊娠17週だった。

人口中絶が行われ
親族から採取したDNAと胎児のDNAを検証した結果、
女性の父親が胎児の父親であるとの moderately strong scientific support があることから
火曜日に逮捕された。

まずまず強力な科学的根拠……って、なんとも微妙な表現だなぁ。

なお、父親は娘と性行為をしたことはないと否定しているとのこと。

Father accused of incest with disabled daughter
The Canberra Times, August 12, 2010


この女性の障害像が分からないからもどかしいけど、
なんで近親相姦罪だけ、なんだろう。
それでは、まるで合意だったみたいじゃないか。


つい最近、 こちらのNHKのサイト
実の娘を性的に虐待したりレイプまでする男というのは
実際に日本にもゴロゴロいるんだ……と、醜い現実を思い知らされた。

しかも、おのれの娘を性的なオモチャにしたり、レイプまでしておきながら
娘が大人になって、それを指摘すると、こういう父親は必ず否定するものらしく、
あまつさえ娘をウソツキ呼ばわりして恥じない男までいる……という、
人ごとながら、はらわたが煮えくりかえるような事実も、知った。

世界でも、ここ数年、
自分の娘を監禁して何人も子どもを産ませていたという事件が
2件くらい立て続けに起こったような記憶がある。

もともと性的虐待をするようなのは、卑屈でいびつな未成熟男なのだから
たぶん娘の知的障害にだって付け入るに違いないし、

この事件ではDNA鑑定が絶対とはいえないらしいところが微妙だけど、

実はこういう事件だって、報道されなくても、表に出てこなくても、
あるんだ、きっと……と考えると、

すべての男がそうじゃないと頭では分かっているし、
まともな大半の男性には大変申し訳ないことながら、
世の中の男という男を憎んでしまいそうな気分になる。


上記HNKのサイトと出くわして、
男ってのは、ったく……と呪いつつ最後まで読んだ直後に、
今度はどういういきさつだったか、森岡正博氏の
「男性から見た避妊」という文章に出会った。

去年の夏に、臓器移植法改正議論の際、国会ビデオで初めて動いてしゃべっている森岡氏を見た時に、
ストイックな感じが漂って、清潔感のある、なんかお坊さんみたいな人だな、という印象を受けたけど、
その印象の通りの、まっすぐ正面から”観照”するという感じの文章に、すっきり解毒してもらった。
2010.08.13 / Top↑
2009年にオランダの安楽死法による安楽死は2636人で、
前年より13%の増。

オランダの去年1年間の死者数の2%に当たり、
2636人のほとんどは自殺幇助ではなく安楽死(または“慈悲殺”)。
また80%以上が癌患者で、80%以上が自宅での死だった。

そのうち、
医師が法定の手続きを十分に遵守していなかったケースが9件あった。

その前の2008年にも10.5%の増加だったことから
オランダでは安楽死に特化した医療施設の必要を説く声が上がってきている。

安楽死法の対象者要件を満たしていても
引き受けてくれる医師が見つけられない患者がいることから
対象者要件を満たす患者を引き受け、
法律上必要な手続きもすべて行えるようなクリニックを、と。

今回も前回以上の増加をみせたことから、
専用クリニックを求める動きが加速しそうな気配。

Dutch euthanasia cases up 13 per cent last year

The Globe and Mail, August 11, 2010


こちらのエントリーで読んだ記事によると
オランダの安楽死法では、死に至る行為を他者が行った場合を「安楽死」とし
その行為を自分が行った場合を「自殺幇助」と区別しているとのこと。

しかし、この記事を書いた人が
どうして、そこに「慈悲殺」を持ちこんでいるのか、
どうして「安楽死」と「慈悲殺」を同じものと考えるのか、
理解できない。

まぁ、それは記事が妙なだけで大した問題ではないとしても、

重大だと思うのは、
そんなクリニックが出来て、そこで法定手続きの一切が行われるということは
まず一人目の医師が診察して、「不治の病で耐え難い苦痛がある人が
十分な説明を受けた上での自己決定」という対象要件を満たしていると確認し、
次にもう一人の医師が同じ確認を行うことが法律で求められていることの
セーフガードとしての意味が全くなくなってしまう……との懸念が
一切触れられていないこと。

また、
この記事では触れられていませんが、
6月の以下のエントリーで同じ統計結果を取り上げた記事を紹介しており、
こちらでは緩和ケアの崩壊と医師による法の勝手な拡大解釈の可能性に言及されています。

オランダで安楽死が増加し保健相が調査。緩和ケアの崩壊も(2010/6/21)

そういえば、オランダでは2月に、一部の学者、政治家から
別に不治の病でなくたって、これ以上生きるのが嫌だと自己決定するなら
70歳以上の高齢者には自殺幇助をという声も上がっていましたっけ。
2010.08.13 / Top↑
私は知識がないので知らないけど、障害学や障害者運動では重鎮で、Not Dead Yetの幹部でもあった Paul Langmore氏が死去。昨日、自宅アパートで亡くなっているのが見つかったとのこと。
http://notdeadyetnewscommentary.blogspot.com/2010/08/tremendous-loss-paul-longmore-has-died.html

最強の抗生剤に耐性を持つ新たなスーパー細菌への感染が英国の病院で約50例、発生している。専門家は、世界に広がると警告している。
http://www.bbc.co.uk/news/health-10925411

摂食障害の治療中の思春期女性の多くが母親との関係に問題を感じており、治療を、距離を置いて母親との関係を捉えなおす機会とするとよい、との研究結果。:いつも思うのだけど、心理学が特に母親を中心に親子の関係について積み重ねてきた知見から、精神医学はどうして学ぶことができないのだろう。精神医学が器質的な面にばかり目を向けている間に、心理学の方が、よほど親のコントロールの抑圧性や暴力性の真実に迫っているんじゃないかと思うのだけど。例えばこことかここで書いたことと重なってくるんだけど。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197298.php

米国の保険会社が家族介護者向けに6つのアドバイス。ざっと見ただけだけど、代理決定権者としての手続きを整えて、あれこれをスムーズに動かせるように、という方向性?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/197295.php

脊髄液の検査で、既に記憶障害が起こっていてアルツハイマー病に向かっている患者が分かる。100%の確率で。
http://www.nytimes.com/2010/08/10/health/research/10spinal.html?_r=1&th&emc=th

上のニュースをNY Timesの社説が取り上げた。100%じゃなく、94%だそうな。
http://www.nytimes.com/2010/08/11/opinion/11wed2.html?_r=1&th&emc=th

簡単な脳スキャンで成人男性の自閉症スペクトラムが診断できる。こちら90%の精度だとか。
http://www.guardian.co.uk/science/2010/aug/10/autism-brain-scan

豚インフルの流行が収束したとWHO。
http://www.bbc.co.uk/news/health-10930023

現在生きている世界の最長寿113歳の男性のところに、研究させてほしいと去年から科学者らが。:昨日のお昼のニュースで、神戸で行方不明になっている最高齢の女性は124歳だと言っていたけど……? その女性は一応、戸籍上は生きていることになっているのだから、この113歳がなんで世界最長寿? 結局、超高齢者を巡る統計ってのが世界中でいい加減なのかしら。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/08/09/AR2010080904117.html?wpisrc=nl_cuzhead
2010.08.11 / Top↑