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2013.08.20 / Top↑
副作用としてあまりにもひどい神経症状が出る
マラリア予防薬、mefloquine hydrochloride (商品名Lariam)に
やっとのことでブラックボックス警告がつけられたが、

すでにあまりに多くの兵士や平和維持部隊、ボランティアや留学生や旅行者が
生涯続く可能性すらある副作用リスクにさらされた後では遅すぎる、と
自身も手ひどい副作用を経験し、現在も悩まされている著者。

著者が経験した副作用というのが、ちょっとすさまじくて、
まるで映画かSF小説みたい。

フルブライトの奨学生だった2002年10月16日、
著者はインドのSecunderabadのアパートを
電気をつけっぱなし、ドアも開けっ放し、ノートパソコンもつけっぱなしで出た。

出た記憶は本人にはまるっきりないが
アパートのガードマンが証言しているから間違いない。

翌朝、4マイルも離れた駅で目が覚めて、自分がインドにいることも、
そもそもなぜ自分がインドに来たのかも、さっぱり分からなかった。
警官が来て、精神病院でベッドに縛り付けられ、
3日間、幻覚にうなされた、という。

Lariamの認可は1989年。以来、
健忘、幻覚、攻撃性、パラノイア、その他バランス失調、めまい、耳鳴りなどの神経症状の
副作用がごくわずかの人に出ることは明らかになっていた。

販売元のF.Hoffman LaRoche社は
副作用が出るのは1万人に1人だといっていたが、
2001年にオランダで行われたランダム二重盲検試験の結果が報告されてみると、
なんと飲んだ人の67%が一つまたは二つの副作用を経験、
6%は病院にかからなければならない重い副作用を経験していた。

例えば、1999年にジンバブエのサファリから帰ってきたオハイオ州の男性が
牛乳を取りにいった地下室で、頭にショットガンを当てて自殺。

ソマリアでは
カナダ人の兵士がソマリア人の囚人を殴り殺して自分も自殺を図った。
この兵士の部隊では週に一度Lariamを飲む日のことを
「サイコの火曜日」と呼んでいたという。

Lariamはこのブランド名ではもう売られていないし
米軍もあちこちの圧力でやっと2009年に兵士の大半に処方するのをやめたが、
まだ飲んでいる兵士もある。

2012年に16人のアフガンの民間人を殺して有罪を認めている
Robert Bales二等軍曹もこの薬を飲んでいたと弁護士は言っている。

ベイルズと事件についてはこちらに
(Lariamについては記述ありません) ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%99%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%BA

Lariamのブランド名では売られていないとはいえ、
ジェネリックは今年上半期だけで12万通の処方箋が書かれた
米国で最も売れている抗マラリア薬の第3位。

確かにマラリア予防の効果はあるし、
妊婦でも飲めるし、週に1回飲めばいい優れものではある。
ただリスクが大きく、そのリスクの大きさがどこまでかは、いまだに把握されていない。

やっと先週、FDAは神経・精神症状の副作用があることを認め、
ブラックボックス警告を命じたが、これは少なすぎるし遅すぎる。

副作用があったら医者に見てもらえと警告されているが、
副作用に気がつくころには飲んだ人は携帯も通じないはるか遠くの国に行っているし、
そもそもLariamの副作用は、副作用を報告できる能力を奪う形でやってくる。

しかも神経症状は永続的に続くこともある。

著者自身、今なおウツ状態、パニック発作、不眠や不安症など
Lariamを飲む前には経験しなかった症状がある。

米軍の兵士や米国人旅行者らが今後
何世代にも渡って害されてしまったのでは、と軍からも懸念の声が出ている。

Science is a journey, but commerce turns it into a destination. Science works by making mistakes and building off those mistakes to make new mistakes and new discoveries. Commerce hates mistakes; mistakes involve liability. A new miracle drug is found and heralded and defended until it destroys enough lives to make it economically inconvenient to those who created it.

科学は旅の道のりである。
しかし商売が科学を目的地に変えてしまった。

科学は過ちを犯しては、それらに手を加えて
また新たな過ちと新たな発見をすることで発展する。

ところが商売は過ちを嫌う。
過ちには製造物責任が生じるからだ。

だから、新しい奇跡の薬が発見されると、先走りで宣伝されては、
もうここまで多くの人の人生を台無しにしたら、さすがに
製造元にとっても経済的にマズイな、というところまでは、
いえ安全な薬です、と言われ続ける。


副作用は目に見える傷跡を残すわけではない。
目に見える具体的な損傷を起こすわけでもない。

でも、もしもLiriamが車で、
心理・神経的な副作用が骨折のように目に見えるものだったとしたら、
何年も前に市場から引き上げられていたはずだ。

Crazy Pills
NYT, August 7, 2013


最後の引用部分を読むと、
なんかデジャヴがある。

それも決して遠い過去からのデジャヴではなく、
最近ものすごく身近なところで起こっていることの、デジャヴ……。
2013.08.13 / Top↑
カナダ政府が1940年代から1950年代にかけて
インディアンの子どもたちに行った一連の非倫理的な栄養実験の詳細が明らかになっている。

Social History誌に発表された論文はこちら ↓
Administering Colonial Science: Nutrition Research and Human Biomedical Experimentation in Aboriginal Communities and Residential Schools, 1942-1952
Ian Mosby (bio)
Social history Volume 46, Number 91, May 2013

アブストラクトは以下。

Between 1942 and 1952, some of Canada’s leading nutrition experts, in cooperation with various federal departments, conducted an unprecedented series of nutritional studies of Aboriginal communities and residential schools. The most ambitious and perhaps best known of these was the 1947–1948 James Bay Survey of the Attawapiskat and Rupert’s House Cree First Nations. Less well known were two separate long-term studies that went so far as to include controlled experiments conducted, apparently without the subjects’ informed consent or knowledge, on malnourished Aboriginal populations in Northern Manitoba and, later, in six Indian residential schools. This article explores these studies and experiments, in part to provide a narrative record of a largely unexamined episode of exploitation and neglect by the Canadian government. At the same time, it situates these studies within the context of broader federal policies governing the lives of Aboriginal peoples, a shifting Canadian consensus concerning the science of nutrition, and changing attitudes towards the ethics of biomedical experimentation on human beings during a period that encompassed, among other things, the establishment of the Nuremberg Code of experimental research ethics.


1942年から1952年の間に、カナダの一流栄養学者数人が各種連邦機関と協働しつつ、アボリジニの地域と寄宿学校において、それまでに前例のない一連の栄養研究を行った。その中で最も野心的で最も有名なのは、1947年から1948年にかけて行われたthe Attawapiskat and Rupert’s House Cree First Nations(クリ―・ファースト・ネイションは先住民の意。その他は??)のJames Bay 調査だった。その調査ほど知られてはいないが、2つのそれぞれ別個の長期研究もあった。

その中には、被験者のICもなければ被験者に知らせることもなしに、マニトバ北部のアボリジニの低栄養状態の人々に対して、後にはインディアンの寄宿学校6校で、栄養状態をコントロールする実験まで含まれていた。

本稿はこれらの研究と実験を調べ、そのほとんどが未調査のままとなっているカナダ政府による搾取とネグレクトについて、いくらかでもナラティブの記録を提供できればと意図するものである。同時に、これらの研究をアボリジニの人々の生活を統治する連邦政府の方針といった、さらに大きな文脈に位置付ける。その文脈とは、ことにニュールンベルグ綱領が成立した時期に、栄養科学に関するカナダ人のコンセンサスが変化し、バイオ医学の実験倫理に対する姿勢が変わってきたことである。


この論文を受け、Nature 誌が掲載した記事は以下。
Canada used hungry indigenous children to study malnutrition
Nature, July 23, 2013


BioEdgeの解説によれば、

実験目的で寄宿学校の子どもたちに基本的な栄養を欠いた食事を与え、
基本的な医療ケアも行わなかった、というもの。

ある実験では
マニトバ北部で低栄養状態が広がっていることが分かった後、
コントロール群を作るため175人の子どもたちに
意図的にビタミン・サプリを与えないままにした。

また別の実験では
州立の寄宿学校の子どもたち1000人に対して
牛乳を1日に必要な摂取量の半分以下しか与えないことによって
ビタミンCのサプリメントの効果を調べるための「ベースライン」を作った。

その後、6校の子どもたちに
歯科治療が差し控えられた。

上記のNatureの記事によれば、
先住民組織(the Assembly of First Nations)では
この一連の研究に関する全データの公開を求めており、

アボリジニー局は寄宿学校での虐待を調査する委員会に
900の文書を提出した、と言っている。

commentsNew evidence of unethical research on Canadian Indians
BioEdge, July 27, 2013



関連エントリーは以下。

【米でのタスキギ梅毒実験その他】
米国で行われた人体実験(2009/3/17)

【日本の知的障害児施設での睡眠薬実験】
子どもへの薬の人体実験(日本)(2008/3/31)

【ファーザーによるナイジェリアでの違法な実験】
ファイザー製薬ナイジェリアの子どももに違法な治験、11人が死亡(2009/2/1)

【米によるグァテマラでの性病実験】
タスキギだけじゃなかった米の非人道的人体実験、グァテマラでも(2011/6/9)
米の科学者ら、非倫理的だと承知の上でグァテマラの性病実験を実施(2011/8/31)

【HIV感染予防ゼリー実験】
ゲイツ財団肝いり“HIV感染予防ゼリー”は「新たなタスキギ実験」?(2011/6/24)
“HIV感染予防ゼリー“、効果確認できず大規模治験が中止に(2011/12/10)

【その他】
「社会経済的理由でアクセス拒まれることはない」米NIHの臨床人体実験(2011/6/1)
マーケティングだから被験者が死んでもスル―される「タネまき治験」(2011/8/12)
2013.08.05 / Top↑
中国でのオペレーションにおいて
仲介者と旅行会社を通じて医師らに現金と性的賄賂を贈り違法行為を行ったとして
グラクソ幹部4人が逮捕された、以下の事件について

医師や官僚への贈賄でグラクソ幹部から逮捕者(中国)(2013/7/12)

英国本社のCEO、Andrew Witty氏が24日に
記者会見を予定していることを受け、

Guardianが、同氏が答えるべき8つの疑問を掲載。

① グラクソの社員は実際には何をしたのか?

② グラクソ・チャイナ社の幹部はいつから不正行為を行っていたのか?

③ グラクソの贈賄金額は? それにより患者への薬の価格は上がったのか?

中国当局は収賄額を3200万ポンド、
薬の消費者価格を30%上げた、としている。

④ グラクソがこれらの容疑を知ったのはいつか? Wittyはなぜこれまで対処しなかったのか?

15日の幹部4人の逮捕は
グラクソが4カ月に及ぶ調査の結果、中国オペレーションに不正はないと
発表したわずか1週間後のことだった。

グラクソの中国オペレーションには以前から不正の疑惑が取りざたされており、
同社は去年、ルール違反で中国の社員56人を解雇した。(世界的には312人)

NYTの報道では、
2011年11月に中国の研究開発施設に重大な問題があると
グラクソは警告を受けており、その中には、
既に人での臨床実験が行われている段階で
その薬のマウスでの実験結果を報告していなかった事実も。

⑤ この不正への関与は「フード・チェーン」のどこまで遡るのか?

⑥ Wittyはグラクソの中国オペレーションをどうやって浄化するつもりか?

⑦ グラクソは重大不正局にどういう情報を明かしたのか?

⑧ Wittyは株主に対して、他の国々のスタッフは医師に賄賂を贈っていないと確約できるのか?

グラクソは去年、
米国での不正スキャンダルでの和解金として政府に30億ドルを支払い、

和解後に、Wittyは全社的な立て直しを行い、
2度と同様のスキャンダルを繰り返さないと誓っている。


GSK’s China crisis: questions that need answers
The Guardian, July 24, 2013


ちなみに、メルク社は
リューマチの治療薬の心臓病リスクを隠ぺいしたスキャンダルで株主から訴えられて、
今年2月に6億8800万ドルで和解している ↓

Vytorinスキャンダルで損害被ったと株主に訴えられたメルク、6億8800万ドルで和解(2013/2/17)


最後の疑問の「株主に対して」の個所には
こういう含みがあるのだろうと思いますが、

グラクソといえば、日本でも
導入から定期接種化へのプロセスが驚くほどの超高速で進んだかと思うや、
副作用が大問題となっているHPVワクチン、サーバリックスの販売元。

CEOが「確約」すべき責任がある相手は、
まずは株主じゃないだろう、と思うんですけど、
そこのところ、ガーディアンの記者も「染まって」ない?


去年のグラクソの30億ドルの和解金支払いについては ↓

ビッグ・ファーマのビッグな罰金(2012/7/4)


和解金の対象となったスキャンダルの詳細は ↓

抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
製薬会社資金に信頼性を失っていく治験データ……Avandiaスキャンダル(2012/11/30)
2013.07.28 / Top↑