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人間のDNAを“編集”して病気を撲滅しようという科学者。
http://www.nytimes.com/2009/12/29/health/research/29zinc.html?_r=1&th&emc=th

英国のGPのオフィスに癌の早期発見ソフトを導入するそうな。リスクファクターによって、患者個々がどの癌にどのくらいかかりやすいかを割り出して、1万人の手遅れによる癌死を防ぐのが目標。:unnecessary deaths とはいうけれど、 unnecessary worries, unnecessary fears, stresses and tests は?
http://www.guardian.co.uk/society/2009/dec/29/cancer-diagnosis-computer-programme

FDAが医療機器の製造会社からの実験データの基準を強化。:こちらのエントリーで拾っている話題の続報ではないか、と思いつつ、年末とあって読めない。
http://www.nytimes.com/2009/12/30/business/30device.html?th&emc=th

ずっとニュースになっているのは知りながら、読んでいないので詳細は分からないけど、中国に麻薬を持ち込んだとして逮捕されていた英国人男性 Akmal Shaikhさんが処刑された。53歳。家族によると精神障害があった、とのこと。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8433285.stm

個々の病院への寄付金を今後は大臣の管轄とし、NHS建て直しのための共通の資金に。:Ashley事件を調べる過程で、米国の富裕層の住む地域の病院の裕福さと、貧困層の住む病院の格差があまりにもひどいことを目の当たりにして、心が痛んでいたので、ああ、なるほど、こういう考え方もあるのか……と。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article6969955.ece?&EMC-Bltn=QKYGW1F

英語ニュースをネットで読み始めた頃から、あった議論。受診時無料が原則の英国では病院の駐車場が有料であることも平等な医療を受ける権利を侵害していることになる。でも、定期的に通院したり、家族の入院で病院にいくたびに駐車場代を支払うと、かなりの負担になることは確か。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/politics/8433395.stm

アルゼンチン初の同性婚が認められた。方やマラウィでは同性婚で逮捕。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/dec/29/gay-weddings-argentina-malawi
2009.12.31 / Top↑
2000年当時、生命倫理界隈の最大の関心事といえば
クローニング、ES細胞研究、それからバイオ・テロリズムだった。

その後の10年で、いろんなことがあった。

シャイボ事件もあった。
製薬会社と研究者の癒着もあった。
ハリケーン・カトリーナでは危機状態での医療者の義務も問題になった。
遺伝子検査も議論になった。
ドーピング、義足の選手のオリンピック参加も話題になった。
臓器売買も米国の病院で見つかった。
WA州がORに続いて自殺幇助を合法化した。
癌を予防するワクチンGardasilが初めて登場した。

で、クローニングは、いったいどうなったのだろう?

もはや研究目的のクローニングしか行われてはいない。
なぜなら、そこにしかゼニがないからだ。

2009年が終わろうとしている現在、われわれが頭を痛めているのは
医療制度、豚インフルエンザ、肥満の3つ。

これだけ遺伝子研究が進み、脳科学が人間の脳について理解を深めているというのに
肥満に対処するとっかかりすら掴めていない。

これら基本的な問題には
ちょちょいと手を加えて簡単に終わるような解決策(easy fix)など存在しない。

この10年の教訓は、
ハイテク問題にフォーカスするよりも、
まずは、こうした基本的な問題に対処する方が先、ということでは?



Ashley事件に際しても「これは easy fix だ」という批判が出てきていましたが
Caplanのいう easy fix こそ、まさしく当ブログのいう「科学とテクノの簡単解決」。

私は彼の本は2冊しか読んでいないのですが
あちこちのメディアでの発言とあわせ考えると、
もともとCaplanは科学とテクノの「すべり坂」については比較的楽観論者で

「核兵器問題を解決してきたのと同様に、
多少のことはあるとしても最終的に人類は賢明な選択をする」という持論の持ち主。

だから、まぁ、クローンが研究でしか作られないのなら、
それもその「賢明な選択」と考えて話を終われるのかもしれないけど、

でも、もしかしたら、彼が言っているように、
ハイテクの問題がさほど大した問題じゃなかったから影を潜めたわけではなくて、
むしろ、ハイテクがいろいろやってきたことによって豚インフルが登場してきたり、
これだけ肥満が異常に広がってきたり、また医療費の高騰がもたらされたのかもしれず、

それでも、さらに医療制度の問題にも、肥満の問題にも、
その科学とテクノの簡単関係 easy fix でもって解決を図ろうとしているのが
今後の10年の方向性じゃないのか、という気が私にはして、

Ashley療法論争の頃のCaplanは好きだったのだけど、
やっぱり、ちょっと、いくらなんでも楽観的過ぎるんじゃないか……と思ってしまう。


それから、もうひとつ、気になることとして、
シャイボ事件のシャイボさんについて、
死後の解剖でもろもろの機能や感覚すら失われていたことが確認された、と書かれていること。

シャイボ事件については私は詳しいことを知らないのだけど、
ビデオを見る限り、そういう人がああいう目の動きをするというのは、ちょっと信じられない。
2009.12.29 / Top↑
整理しなければ、と思いながら
数ヶ月間フリー・メールの受信トレイに置いたままになっていた
Ashley事件関連のいただきもの情報があって、

このままトレイのメールが溜まると消えてしまう可能性に思い至ったので、
取り急ぎ、メモ的に、以下に。

といっても、これ、かなり重要な情報なのです。

こちらのエントリーに書いたように、
ゲイツ財団からシアトル子ども病院へのグラントの流れの概要は2007年の段階で掴んでいたのですが、
当時の私は概要だけで十分だと考えて、他に調べるべき案件に追われてしまいました。

つい最近になって、
その詳細情報をゲイツ財団のサイトで収拾してくださった方があって、
思いがけず、以下の情報をいただきました。

それによると、
1997年から2004年までのゲイツ財団から子ども病院へのグラントは



ここで特に興味深いのは2002年の2000万ドルで、
これはこちらのエントリーで紹介しているゲイツ夫人の音頭によるキャンペーンのこと。

しかも、6年間の分割で支払われている。02年から07年の6年間。

つまり、Ashleyの両親が子ども病院に対して「うちの子にこんなことをしてほしい」と願い出た2004年は
巨額のグラントがゲイツ財団から病院に支払われていた真っ最中だったというわけです。

それから、その2004年になって、それまでの一般支援が1万ドルから6万ドルに増額されている。

なんと興味深い事実でしょう……。

            --------

このサイトを見ていて気づいたのだけど、右上にキャッチフレーズが書いてあって
All lives have equal value. 全ての命に等しい価値がある。……だって。

じゃぁ、なんでゲイツ財団は IHME に Dr.Murray なんかをつれてきて、
障害者の寿命時間は健常者の8掛け……とかって、やってんのかなぁ……。

(詳細は「ゲイツ財団とUW・IHME」の書庫に)
2009.12.27 / Top↑
The American Association on Health and Disability のジャーナル
Disability and Health Journal が 医師による自殺幇助問題特集を組み、
自殺幇助と障害について、法的な問題、OregonとWashingtonの実情を検証している。

編集に当たったのは
USC医学部の Suzanne McDermott, PhD.と
Syracuse大学の Margaret A. Turk, MD.の2人。

6本の論文の概要は以下。

・the Oregon Health and Science Universityの研究者がオレゴンの尊厳死法の性格と形態、障害者に与えた影響について調査。尊厳死法の施行からの11年で、同法を利用して死んだ人は401人。障害者に絞ってのデータと、彼らの意見、影響について。

・Marilyn Golden と Tyler Zoanni という2人の障害者の権利アドボケイトが自殺幇助に反対する議論を総括。

・Carol Gill, PhD が障害者の権利の活動家の姿や、自殺幇助への彼らからの批判をメディアがどのように伝えているかを総括。

・Not Dead Yet の弁護士 Diane Coleman, JD が、これまでの最高裁における自殺幇助合法化との闘いと、合法化に抵抗するべく、どのような議論や情報が用いられてきたかを概観。

・CDCの障害と健康チームのディレクター、 Gloria Krahn, PhD が、the American Public Health Associationの障害部会での議論を時系列で紹介。また自身がそこから学んだことについても考察。

・最後に Minnesota大学の Kirk Allison, PhD, MS が、人口という観点から自殺幇助がどういう意味を持つのかを考察。また自殺幇助議論における文言の問題を指摘。


McDermott教授はエディトリアルで

終末期の人は障害と定義される状態にあるので、自殺幇助の帰結は障害者の死である。

障害者は例外的な健康状態にある人だと捉えられ、
QOLの高い生活を送ることが可能であるにもかかわらず差別を受けている。

まずは予見なく、この特集記事を読んでもらいたい。

今後10年のうちには、自殺幇助を合法化したり、合法化を検討する州が出てくることだろう。
しかし、この問題は複雑で、エビデンスも確かなものではない。

批判的な議論はこれだけではないが、他のジャーナルでも取り上げられていることでもあり
ここでは障害者のコミュニティならではの視点に焦点を絞ることが必要だと考えた。



ジャーナルのサイトはこちら

上記の記事には、ジャーナルのサイトからオンラインで読めると書いてあるのですが、
アブストラクトですら10月号までしか読めないようです。
2009.12.27 / Top↑
The American Association on Health and Disability の Disability and Health Journal が医師による自殺幇助特集を組んでいる。Not Dead Yet など、合法化に反対する障害者アドボケイトや学者による論文6本。:MNTの記事も、まだろくに読んでいないけど、この話題は重要。せめてMNTだけは読んでエントリーにまとめたい。できれば年内に。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174672.php

中国で、民主化運動の活動家に11年の禁固刑が言い渡された。裁判は非公開で2時間。弁護士が弁論に与えられた時間は20分間。見せしめとしての重い刑で、欧米から懸念の声が上がっているものの、国際社会で自信を深める中国に対して欧米諸国が影響力を及ぼすことができるのかどうか。
http://www.nytimes.com/2009/12/26/world/asia/26china.html?_r=1&th&emc=th

2020年までに英国の85歳以上人口は3分の1も増加する見込み。:それでも不老不死はせっせと研究される……。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174664.php

80歳以上の高齢者への高血圧の治療はアグレッシブすぎる、と専門家。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174665.php
2009.12.26 / Top↑
2009年を振り返る:科学とテクノ・生命倫理関連


1月

乳がん遺伝子ゼロ保障つき赤ちゃん 英国
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/48184084.html

6人の子どもがいる母親に生殖補助医療で8つ子を生ませた病院
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/48808591.html


3月

LAのクリニックで髪や目の色選んだデザイナー・ベビー
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/50025624.html

「死んだ息子の精子で代理母たのみ孫が欲しい」訴えを却下
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/50115367.html

TXの入所施設で、職員が知的障害者にファイトさせて遊びに
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/50327305.html

ナーシング・ホーム銃乱射事件
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52005983.html


4月

ナーシング・ホームで精神障害者に殴り殺された高齢者
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51190720.html

Kaylee事件(意識のある障害新生児が心臓ドナーにされかけた事件)
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51309695.html

ナーシング・ホームのケアに人種間格差
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51367690.html

英国鎮痛剤の過剰投与で高齢患者の死亡が相次ぐ
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51593387.html


5月

豪ナーシング・ホームでネズミに食われた高齢者
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51869485.html

抗精神病薬と認知症の薬の処方がこの10年で倍増 
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52020130.html

Obamaケアに「死の委員会」論争
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52374640.html

カナダで親が知らない間に「蘇生拒否」にされていたAnnie Farlow事件が法的手続きへ
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54838763.html

EU議会から「科学とテクノの選択肢アセスメント」
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55799751.html


6月
ケアホームにおけるアルツハイマー病患者への精神科薬の過剰投与(英)
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52867015.html

TX州で知的障害者の施設の処遇改善に向け法律
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53109043.html

精神科薬の臨床ガイドライン執筆者に製薬会社との金銭関係
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51142526.html


7月

米国、国連障害者人権条約に署名
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54204716.html


10月

映画「私の中のあなた」日本で公開
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56069266.html

ナーシングホームで入所者に症状もICもなく精神科薬を投与
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56541908.html


11月

英国の「無益な治療」RB事件
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56664792.html

認知症患者への不適切な抗精神病薬の投与が問題視される
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56866483.html

ベルギーの男性の「植物状態」誤診が判明
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57046372.html



英国の自殺幇助関連はこちら
英国以外の自殺幇助関連はこちら
また、薬、製薬会社、“科学とテクノで簡単解決”文化関連はこちら
別途、この1年間の大きな動きをまとめました。
2009.12.26 / Top↑
2009年を振り返る:英国以外の国の自殺幇助議論

(英国の自殺幇助議論については別途ちらのエントリーにまとめました)

2月



NH州議会に自殺幇助合法化法案提出
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/49677503.html


3月


ルクセンブルクが安楽死を合法化(ベルギー・オランダについで欧州で3番目)
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/50545622.html


4月?

スコットランド議会に自殺幇助合法化法案提出へ
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/51682367.html

5月

カナダ議会に自殺幇助合法化法案が提出される
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53842698.html


7月

カナダ、ケベック州医師会が自殺幇助合法化を提言
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54020445.html


8月

米国で寝たきりの兄の自殺幇助した妹に寛大な判決
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54509086.html

豪で四肢麻痺の施設入所者に栄養拒否で自殺する権利が認められる
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54802516.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54860778.html

豪でもALS患者がDignitasで自殺する映像をTV放映
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54802786.html

「警察による自殺幇助」米国FBI
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54884051.html


9月

モンタナ州で去年の自殺幇助合法判断の是非を争う最高裁
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55156190.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55194479.html

WA州の尊厳死法による自殺者、施行から半年で11人
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55335008.html

ベルギーで死亡者総数の2%が医師による自殺幇助だとする調査結果
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55385797.html

豪のDr.Death、中国で自殺幇助のテレビ番組
(Dr. Nitcskeの活躍は1年を通じて国際的に目だっていました)
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55528624.html

フランスの自殺幇助事情
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55741541.html

ドイツ人のDignitasでの自殺は500人以上
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55680323.html


11月

NH州の自殺幇助合法化法案、委員会で否決
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56772412.html

GuardianにDignitasの直接取材記事
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56944385.html


12月

ハワイ州で末期の妻を殺そうとした男性が自殺、自殺幇助かどうか分からなくても議論は勝手に加熱
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57691990.html

障害関連ジャーナルが障害者の視点から「自殺幇助特集」
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57734409.html

モンタナ州最高裁が医師による自殺幇助を合法と判断
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57852469.html

        ―――――――

ちなみに、今年、
自殺幇助合法化法案が提出された、または、されそうになった米国の州は
当ブログが把握している範囲では

ノース・ハンプシャー
コネチカット
ニュー・メキシコ

2009.12.26 / Top↑
今年も残り少なくなってきました。

追加しなければならないような大きな出来事がもう起こらないことを祈って、
英国の自殺幇助合法化議論の、この1年間の動きをまとめてみました。

(英国以外での自殺幇助関連の動きはこちらのエントリーにまとめました)

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2009年を振り返る:英国の自殺幇助合法科議論

3月

末期がんの夫妻がDignitasで揃って自殺
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/50143895.html


7月

英国の自殺幇助合法化議論でCampbell/Shakespeare/Drake論争
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53819873.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53819952.html

英国の著名指揮者夫妻がDignitasで揃って自殺(夫の方は健康だった)
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53949081.html

Timesの世論調査で4分の3がターミナルな病状の人の自殺幇助を支持。
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54240684.html

英国看護学会が自殺幇助合法化に対するスタンスを反対から中立に変更
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54240812.html

Purdyさんの訴えに対して最高裁が自殺幇助に関する法解釈の明確化を公訴局長に命じる
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/54382316.html


9月

英国の著名音楽家がDignitasで自殺
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55602847.html

英国公訴局長から自殺幇助に関する法解釈のガイドライン
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/55681943.html


11月

BBCに幇助合法化訴える手紙を書いて健康な老夫婦が自殺
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/56632291.html


12月

自殺幇助ガイドラインの取り消しを求め、障害当事者が最高裁に提訴
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57356195.html

ガイドラインに関するコンサルテーションの締め切り(17日)を受け、
「英下院議員の53%が自殺幇助合法化を支持」と、死の自己決定権ロビーが実施した調査
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57522905.html

「英国議員53%が自殺幇助を支持」のカラクリ
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57561142.html

Campbellさん率いる障害者団体連合が自殺幇助ガイドラインを批判
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/57621167.html
2009.12.26 / Top↑
英国で結婚しない人が増えている。保守党、影の内閣の閣僚の1人がGuardianのインタビューで、米国と同じく、特に貧困層が結婚しなくなっている、政治的な手を打たなければ、このままでは結婚は裕福なエリートの特権になってしまう、と。既婚のカップルでは第一子の妊娠中に危機が訪れるので、そうならないよう父親に対して働きかける必要がある、とも。子どもの福祉のためには両親のそろった婚姻カップルが望ましい、と伝統的な家庭の維持に政治的な介入を呼びかけている。:生活様式の多様さなのか、貧困が広がって結婚したくてもできない人が増えているのか……。子育ても介護も、そういう家庭に背負わせるのが一番安上がりで便利なわけで。
http://www.guardian.co.uk/politics/2009/dec/22/marriage-preserve-of-middle-classes-tories

クリスマスイブの夜明けと同時に、米国上院が医療保険制度改革案を可決。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/24/AR2009122400662.html


米国の介護事情に関する報告書 Caregiving in US 2009が出たらしい。初めて子どもをケアしている人も調査の対象になったとか。米国精神疾患連盟(NAMI)からのリアクション。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174618.php

ベビー・ブーマーが高齢期に入る頃には、ナーシング・ケアが絶対的に人手不足状態になる、との見通し。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174802.php

季節性インフルエンザのワクチンで、特に65歳以上の高齢者に向けて高濃度のものをFDAが認可
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174839.php

イリノイ州の刑務所で毎日大豆メニューを食べさせられて体調不良を起こしたとして、アレルギーのある囚人などから訴訟が起きている。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/24/AR2009122402792.html
2009.12.25 / Top↑
ハワイ州の Robert Yagi さん(71歳)が
病院で、入院中でターミナルな状態の妻 Leatriceさんに向けて発砲し、
自分も死のうとしたものの失敗。

Leatriceさんは軽い怪我のみだった。

Yagi氏は、12月10日に第2級殺人の罪を言い渡された後、
保釈されたが、その後13日に自宅で首を吊って自殺。




2つのニュース記事は、いずれも
この事件でハワイ州でも自殺幇助合法化に向けた議論が再燃するだろう、との論旨ですが

妻のLeatriceさんが死にたいという希望を口にしていたかどうかは不明で、
またRobertさん自身の精神状態についても、不明だというのです。

もしかしたら、病院で寝たきりの妻の医療費が苦になっていたとか、
夫の方がうつ状態だったのかもしれないし、

本当に妻が死にたいと望んでいたから殺そうとして失敗したのであれば
その妻を残して自分だけが自殺するというのも理屈に合わないと思うのですが、

この事件を政治利用したい人たちが勝手に自殺幇助だと決め付けて熱くなって
「だから、ほら、やっぱり自殺幇助合法化を……」と、騒いでいるような感じがします。


それから、Honolulu Advatiserの記事の方で目に付くのは
ホスピスを利用する患者が増えて
今後の高齢化でホスピスのコストが問題となっていることに、
このような文脈の中で触れられていること。

自殺幇助合法化ロビーの言い分は、
表向き、あくまでも本人の自己決定権ですが、
それがいかに表向きのみのタテマエであるか、
そろそろ化けの皮もはげてきたのかも?

それとも、逆に、そろそろ堂々と
高齢者への無益な医療に使うお金はありませんから
どうぞ自分から望んで死んでください……という露骨な声が上がってくる予兆でしょうか。


ちなみに、以前こちらのエントリーで拾った米国医師会新聞の記事に
ハワイ州でも自殺幇助合法化が検討中だとの記述があったのですが、
どうやら間違いだったようで、

(そういえば、Ashley事件でも、
この新聞のKevin O’Reillyという記者はいい加減な記事を書いていました)

ハワイ州では過去20年間に何度か自殺幇助合法化が議論はされたものの
2007年に議会に提出された法案が否決されて、そのまま現在に至っているとのこと。
2009.12.25 / Top↑
UCLAに故レーガン大統領の名前を冠した医療センターがある。そこでは、患者を救うために、とにかく手を尽くすという方針で医療を行っており、しばしば改革派からの非難の的となっている。そこで病院側としてもデータをとってみたところ、どういう患者の場合に救命ができて、どういう患者ではできないかという判断をあらかじめすることはほとんど無理だということが分かった。一方、終末期医療にかかる費用計算で何かと引き合いに出されるDartmouth end-of-life analysisは、死亡した患者のデータしか分析しておらず、治療によって助けることのできた患者のデータは含まれていない。:・・・・・・結果的に亡くなった患者さんについてのデータだけで「だから終末期の医療は無益でゼニがかかるだけ」って? ちゃんと読みたい記事だけど、長い。4ページ。
http://www.nytimes.com/2009/12/23/health/23ucla.html?_r=1&th&emc=th

米国の成人の半数が豚インフルのワクチン打たない、と。子どもに受けさせないという親は3分の1。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/22/AR2009122203418.html

CDCの前センター長が、ビッグ・ファーマMerck社のワクチン部門の責任者に就任。:うっへぇぇぇ・・・・・・! Merckって、あの物議かまびすしい HPVワクチン、Gardasil の発売元。それにしても、もしや、こういうところにまで「善意のヴォルデモートさん」のご意向が(ご威光も)及んでいたりして……? だってワクチンだよ、ワクチン。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174741.php

2000年からの5年間で、20年ぶりに在宅の米国人高齢者の障害率がアップ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174687.php

死に行く子どもの家族をナースがより良くケアする方法。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174688.php

マラリアの研究者が、蚊のセックスライフに介入することで病気の蔓延に歯止めをかけることができるのでは、と。なんでも性行為の後でオスがメスの体に栓をするらしい。その栓がなければ繁殖できないので。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8426798.stm

「合法覚せい剤」とされてきた薬物を英国が違法に。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/8427439.stm

80歳以上の患者での高血圧には薬の種類も投薬期間も過剰で、利益よりも害の方が大きい。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8426199.stm

アルツハイマー病患者は癌になりにくい。がん患者はアルツハイマーになりにくい。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8425824.stm

でも認知症患者が癌になった場合には、死亡率が極めて高い。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174094.php

また別の悪玉コレステロールが見つかった。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8426591.stm

サイバー攻撃が増加。しかし米国政府がそれに対応するだけの人材を揃えるのが間に合っていない。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/22/AR2009122203789.html

アウシュビッツの門のサインの盗難は、海外からの注文を受けての行為だった。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8427487.stm

英国がコストカットのため、空軍兵士をNATOの訓練から引き上げた。:そんなコスト・カットって、あり?
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/politics/article6967063.ece?&EMC-Bltn=ABK9V1F

映画「レイン・マン」のモデルとなった男性、58歳で死亡。心臓麻痺。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/dec/22/kim-peek-rain-man-dies

Wordに使われている技術の特許をめぐる裁判でMicrosoftが敗訴。
http://www.nytimes.com/2009/12/23/technology/companies/23soft.html?th&emc=th
2009.12.25 / Top↑
前のエントリーをきっかけに、今年1年間に当ブログで拾った
薬・製薬会社・“科学とテクノの簡単解決”の利権戦略などに関連と思われる
エントリーを改めて拾い出してみました。

今年は、どちらかというと自殺幇助合法化の動きにもっぱら注目していたつもりなので
てっきり、こちらのテーマは少ないだろうと思ったのに、いや、まぁ、あるわ、あるわ・・・・・・

もう、ウザくて申し訳ないほど、ごっそり出てきました。

しかも2009年は元旦から
Biedermanスキャンダルのニュースで始まっていた・・・・・・というオマケ付き。


【製薬会社のマーケティングやスキャンダル関連】



特に今年、目に付いた薬関連のニュースとして、
【高齢者や認知症患者、施設入所者への抗精神病薬の過剰投与の問題関連】



その他、【“予防”医療を始め、“科学とテクノの簡単解決”文化関連】



それにしても、この関連ニュースの多さ。

これだけ英米でメディアをにぎわせている問題が日本ではほとんど報道されないし
ネットでわずかな人が話題にしているだけだ……ということの不思議をつくづく思う。

日本のメディアは一体どうなっているんだ――????
2009.12.24 / Top↑
当ブログの米国での製薬会社のスキャンダルについての関心は、
去年に比べると、今年はちょっと鈍くなっていたのですが、

この記事によると、米国の巨大ファーマの周辺では、
今年もいろいろあったようです。

Eli Lilly社が Zyprexa の不当なマーケティングで14億2000万ドル、
またPfizer社が Bextra, Geodon, Lyryca, Zyvox での不正行為で23億ドルという
米国史上最大の和解金で決着した画期的な裁判が今年あったのだとか。

それによって最高裁が
たとえFDAが認可した処方薬であっても
被害にあった人は訴えてもよいとの判断を下したことになる。

(これは本当によかったと私も思います。なにしろブッシュの時代には
pre-emptiveという法概念を盾に訴訟つぶしが企てられていたのですから)

また、服用した人の自殺が問題となって
2009年にFDAがブラックボックス警告を追加した薬としては
ぜんそくの薬で Singulair, Accolate, Zyflo。
禁煙薬(!)で Chantix, Zyban。

イラクからの帰還兵のPTSDの8割に処方されていた抗ウツ剤の数々や
製薬会社と医学雑誌との繋がり
製薬会社が実施する教育講座の怪しさ
NAMIのような草の根の精神障害者団体との関係も、
Biederman医師のようなスター研究者との癒着も、
議会で調査の対象となった。

そうした状況を踏まえ、
コラムニストのRosenbergさんが巨大ファーマにお勧めする
「2010年の決意」が、この記事の眼目。

かなり毒気が強いので、その中から一部のみを以下に要約しつつ、
それぞれの下に当ブログで拾った関連情報を。

1.我々の社員は病院で、患者さんを差し置いて診察室に入っていったり、待合室を我が物顔で占領しては声高に薬の売り上げを云々するような厚かましい振舞いをやめます。市場から引き上げなければならないような薬を売った社員には消えてもらいます。

4.ホルモン療法が心臓麻痺や脳卒中、認知症その他のリスクを高めることを認め、ホルモン療法を薦めている医師はただ金儲けをしたいだけなのだと認めます。

更年期はビッグ・ファーマの提供でお送りしました(2009/12/14)

5.骨減少症という病名は我々の創作であることを認め、「骨が減りますよ」と不安を煽って商売することをやめます。

骨減少症も“作られた”病気?・・・・・・WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)

6.そろそろ保険会社が渋り始めた大ヒット商品の代わりに、ワクチンとバイオ薬品で儲けを狙うことをやめ、女の子でも効かないGardasil(HPVワクチン・子宮がん予防とされる)を男の子にも打とうとか、途上国に持っていって売ろうとか、「クローン病になるぞ」と脅してバイオ薬品で健康な大学生を癌や結核にするようなこともやめます。

新興国のワクチン開発・製造に、巨大製薬会社がマーケット・チャンスと乗り出している(2009/11/8)
リスクの”リ“の字もなく”黄金時代“に沸くワクチン開発記事(2009/11/19)
「これからはワクチンが儲かりまっせぇ」の陰にはやっぱりゲイツ財団が・・・・・・(2009/11/20)

7.アメリカ中の12歳以下の子どもたち全員に、お詫びのしるしの自転車かスケボーを1台ずつ贈ります。うつ病やら双極性障害やらADDやらADHDやら、その他あれこれ障害とか、はたまた、なんとか障害とか、統合失調症やら、落ち着きのなさやら不安やら、その他もしかしたらありもしなかったかもしれない「精神疾患」の治療で怖い目にあわせて、みんな、ごめんね。

Biederman医師、治験前にJ&J社に結果を約束(2009/3/21)
Biederman医師らに連邦検察局から召喚状(2009/3/28)
BiedermanスキャンダルでADHDガイドライン案がボツに(2009/11/23)
「12-18歳全員に定期的うつ病スクリーニングを」と専門家が提言(米)(2009/6/3)

9.ただスタチンを売りがたいがため、コレステロールが高くもない人にまで「みんなでCrestorを飲んだ方がいい」とバカなことを言って、国民の皆さんの知性を愚弄するようなことはやめます。

米ではスタチン8歳からどんどん使おう、と(2008/7/9)
健康な人も5種混合薬を毎日飲んで将来の心臓病リスクを半減しよう、って(2009/4/2)

New Year’s Resolutions for the Drug Industry for 2010
Martha Rosenberg,
Op-Ed News, December 23, 2009

この記事を読んで、改めてつくづく思うのですが、
最近、日本のテレビコマーシャルって、なんでもかんでも「このお薬で」という類のものが
やたらと多くなりましたよね……。

また、この記事を機に、
今年1年間に当ブログで拾った、
薬・製薬会社・“科学とテクノの簡単解決”の利権戦略などに関連と思われるエントリーを
改めて拾い出して、次のエントリーにまとめてみました。
2009.12.24 / Top↑
2002年から2007年まで知的障害のある人を雇用しサポートするプログラムについて、コスト効率を研究したところ、納税者のお金をそういうことに費やしてもコスト効率がよいとの結果に。:こういう調査をしてエビデンスを出さないと、世論が納得しない空気になってきているということ? 
http://aaidd.allenpress.com/aamronline/?request=get-document&doi=10.1352%2F1944-7558-115.1.19

肥満でない子どもでも、動きの少ないライフスタイルで健康度が落ちている。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8425161.stm

単胎児の妊娠なら着床前遺伝診断は安全、とベルギーの研究者。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8424579.stm

NASAが宇宙飛行士の訓練用に開発した、下半身だけ無重力状態にしてウォーキングを行う装置が、理学療法の現場やナーシング・ホーム、アスリートの訓練などの目的で売れている。(記事に写真があります。かなり大掛かり・高価なもの):これは日本でも、介護予防・パワーリハの次のトレンドで決まりかも?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/18/AR2009121803686.html

自閉症、8歳児では1%に。CDCとアラバマ大の研究で。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174568.php

Wisconsin州がメディケアの予算を6億ドル、カットするも、貧困層の拡大でなおも1500万ドルの赤字。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174557.php

アウシュビッツの「働けば自由になる」サインを盗んだ犯人に思想的な背景はなく、コレクターからの注文で盗んだのでは、と。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/europe/article6963855.ece?&EMC-Bltn=DANET1F
2009.12.22 / Top↑
DPPの自殺幇助ガイドラインのコンサルテーション最終日となった17日、

The Royal Association for Disabled People
The UK Disabled People’s Council
The National center for Disabled Living ほか
5つの障害者団体が連合し、公訴局長のガイドラインに抗議していました。

連合を率いているのは
障害当事者で7月に上院でスピーチを行い
議員の投票行動に大きな影響を及ぼしたといわれる Baroness Campbellさん。

Campbellさんは、
「自殺を正しい解決方法とみなすのは希望と捨てること。
社会は重病の人、ターミナルな人を見捨ててはならない」と。

同様の声が全党派の議員グループ
the All Party Parliamentary Group on Dying Wellからも出ており、

チェアマンのBaroness Finlayは
「(ガイドラインの)チェックリスト方式では、
悪い動機で行動する人がいたときに、それを隠すのが簡単になってしまう。
誰かの生が早められてしまった理由をきちんと調査することができにくくなる」と。

コンサルテーションには2000を超える意見が届いたとのこと。
最終的な方針が決まるのは2010年春。

Critic attack DPP assisted suicide interim guidance
The Christian Institute, December 21, 2009



Campbell さんは、先月も
法曹関係者や議員らとともにガイドラインに対する批判の声を上げています。

その他、Campbellさん関連のエントリーは以下。

2009.12.22 / Top↑
射水事件、不起訴。「延命治療とその中止に過ぎない」って……中止に過ぎない???
http://www2.knb.ne.jp/news/20091221_22432.htm

2人の癌患者さんそれぞれの遺伝子変異の完全なマップができた。2020年までには、すべての癌患者が自分の癌を分析してもらったうえで治療を受けられるようになる。:この前、立花隆さんが世界中のがん研究の最前線をレポートしていたNHKの番組に、人間が思いつく科学とテクノの新しい治療法は、導入されるたびに、むしろ癌を鍛えて、どんどん進化させているだけなのでは……という印象を受けたのだけどな。それと、もう一つの疑問は、その分析と治療というのは、ものすごくバカ高いものなんじゃないのだろうか。それなら「すべての癌患者」が受けられる治療じゃないはずだし。こういう医療は医療費のさらなる高騰には結びつかないのかな。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/health/article6959325.ece?&EMC-Bltn=NOSCQ1F

癌センターのパンフレットやHPが、科学的な事実といえない情緒的な誘い文句に満ちていることについて、NYTが指摘。ここでもやっぱり“マーケッティング”の問題。
http://www.nytimes.com/2009/12/19/health/19cancerads.html?_r=2&th&emc=th

ターミナルな癌患者への医療チームによるスピリチュアル・ケアが、ホスピスの利用を広げ、アグレッシブな治療を控えさせ、死にゆく時間のQOLを向上させる。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174192.php

免疫システムを持っていない生後1ヶ月以内の新生児に、大人と同じ免疫を身につけさせるためのワクチンを開発しようとしている研究者がいる。:瞬間的に、「げっ。やめてよ」と思うのは、私がおかしい……?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174198.php

米国の子どもたちの間に、首を絞めてハイになるという危険な遊びが流行している。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/173968.php
2009.12.21 / Top↑
11月号のMedical Ethics 誌に“Ashley療法”を論じた論文が掲載されています。

Agency, duties and the “Ashley Treatment”
N. Tan, I. Brassington
J Med Ethics 2009;35:658-661

リンクはアブストラクトのみですが、
この情報を教えてくださる方があり、また快く入手の労をとってくださる方もあって、
おかげさまでフル・テキストを読むことができました。

今までAshley事件に関する論文をいくつか読んでくる中で
事実関係をきっちり把握せずに書いたものがあまりにも多いことに
ちょっとゲンナリしていたのですが、この論文は
事実関係を整理してある冒頭部分が割りとがっしりしていて
資料をちゃんと読み込んで書かれていることに、まず信頼感があります。

Ashley療法をめぐる親と医師らの主張の倫理問題として指摘されているのは
Ashley本人の利益と親の利益とが重ねられていること、
性的虐待は乳房切除では防げないから理由にならないこと、
環境を変えたり、非侵襲的な方法で問題解決が可能であることなど、
これまでも批判されてきたのと同じ点なのですが、

この論文が非常に興味深いのは、この後に展開される哲学的な考察で、
“Ashley療法”批判としては全く新しいツッコミが行われています。

父親や医師らによる“Ashley療法”正当化の基盤に置かれているのは
Ashleyは知的能力を大きく欠いているので他の人と同じ扱いをする必要はない、という論理ですが、

そこを論理的に否定していく議論がやっと登場してくれました。

この論文は「自己決定能力と人格(personhood)」を便宜上 agency と呼び、
agencyを持ち合わせている存在のことを agent と称するとしたうえで、
Ashleyが仮に agent ではないとしたら“Ashley療法”は正当化されるかどうかを検証し、
2つの論点から、正当化できないという結論を導きます。

まず、最初の論点は概ね以下の通り。

Ashleyがagentでないとすれば個人として扱われないことになるので、
全介助で親に全面的に依存していることと合わせ考えれば
彼女を個人としてではなく家族という単位の一員としてのみ捉える点で
医師は間違ってはいないかもしれないが、

一方、家族という単位を
Ashleyに対する医療行為の道徳的な判断の対象とすることはどうなのか。

それぞれagentである構成員の集まりではあっても、
家族という単位そのものには agency の持ち合わせはなく、
したがって家族という単位は agentではない。

その non-agent である家族を医師が道徳的な判断の「直接の」対象とするというならば、
同様に non-agent であるAshleyにも同じ姿勢で臨んで然り、ということになる。

医師らの正当化が家族全体の利益を言っているわけではなく、
介護者としての親の利益がAshley本人の利益と分かちがたいと言っているわけなので、
この論理では、否定するには、ちょっと弱いのではないかという印象も受けるのですが、

しかし、この論文の眼目は、なんといっても次の論点にあって、

ここでは、著者らは、“Ashley療法”の正当化論には
道徳的な agent (この場合は医師)が道徳的に振舞うのは、
自分の善行の受け手が道徳的な地位を有しているからだ、との前提があると指摘し、

次のように論じていきます(逐語訳ではなく、概要です)。

しかし、我々が道徳的な agent として求められる「道徳上の義務」とは、
我々の善行の対象が agent であろうと non-agent であろうと
それに関わりなく果たすべき義務のことである。

なぜならばカントが言うように、その義務は
他者に対して負っているのではなく自分自身に対して負っている義務であり、

自分に対して負っている主たる義務とは
ヒューマニティ、すなわち道徳的なagent として行動する能力を保つことだからである。

カントによると、
動物に対して残虐な行為を行ってはならないのは、
それによって、その人が動物の苦しみを感じとる感性を鈍らせ、ひいては
人間の他者との関係において道徳的であることの基盤となる生得の性質を
根絶やしにしてしまうためなのだ。

つまり、我々の道徳上の義務とは
たとえ自分と non-agent しかいない状況に置かれたとしても、
道徳的に振舞うことを求められる義務なのである。

この義務によって、医師の行為も相手の道徳的な地位に負うものではなく
常に一貫しているはずの自分自身の道徳的な地位に負うものとなり、

したがって、患者が non-agent であろうと、
agent である患者にしてはならないことは non-agent の患者にもしない義務を
医師は自分自身に対して負っている。

またカントは正当な理由なく行動することについても同様に、
人間が人間らしくあるという、自分自身に対する義務を侵すことにつながるとして
我々には正当な理由のない行動をしない義務があるとしている。

ある理由によって行動しないことから、行動しない理由が生まれるのだ。
Not acting for a reason generates a reason not to act.

(この1文、心に残りました。自殺幇助や出生前遺伝子診断の問題をはじめ
多くの生命倫理の議論に通じていく、とても深いものを含んでいるのでは?)

将来の生理痛や病気や妊娠など、起こるかどうか定かでない苦しみを理由に
Ashleyに外科手術の苦しみを負わせることは
正当な理由なく、non-agent に無用の苦しみを与える行為であり、
二重の意味で医師が自分自身に対して負っている道徳上の義務に反している。

我々の人間としての義務とは、徳の問題であり、権利の問題ではないのだ。

そして、著者らは次のように論文を締めくくります。

このように考えると“Ashley療法”には多くの懸念があり、
それら懸念には更なる検討(investigation 調査?)が必要である。
その検証(調査?)が行われれば、その結果は
ただ一人の障害児に何をしていいかという問題を超えたところにまで波及するだろう。


私個人的には、Ashleyがパーソンではないという立場はとらないので
以下の1文には相当な抵抗を感じました。

Whatever, precisely, agency turns out to be, it is reasonably clear that Ashley lacks it.

ただ、この論文の論理展開は、もともと
医師らがAshleyを他の人とは違うと線引きした上で、すべての正当化を行っていることから
その土台となっている線引きを論理的に突き崩していこうとするものなので、
仮にAshleyが non-agent であったとしても……という
論理の進め方として理解しました。


もう1つ、たまたま、ここ数日で
遺伝子検査によってネオ優生思想というべきものが既に定着しつつあるのではないかと
気持ちが重くなるような情報を立て続けに拾っていたこともあって、

「道徳上の義務」とは
ヒューマニティを失わずに、道徳的な agent でありつづけるべく、
自分自身に対して負っている義務である、というカントの定義を
(私はカントを読んだこともないので理解が十分だとは思わないけど)

人類がヒューマニティを失わず、総体として道徳的な agent であり続けるべく
人類総体として、またその一員たる個人として、我々には人類自身に対して負っている義務がある、
それは権利の問題ではなく、人類としての徳の問題である、というふうに
敷衍することはできないだろうか……と考えてみたりする。

だって、
英語圏の生命倫理が人間の間に線を引き、分断し、
「ここから向こうは別の人」だから「尊厳を無視してもいい」
「死なせてもいい」「殺してもいい」とすることが

総体として人間社会が本来もっていた思いやりや共感や寛容や、
つまりはヒューマニティを損なっていっているのではないのか。

自己決定権・自己選択・自己責任を隠れ蓑に蔓延する
科学とテクノの簡単解決万歳文化と、それに影響された能力至上の価値観、
それらに拍車をかけて人命軽視のまま暴走する巨大利権構造、
切り捨てられ踏みにじられる犠牲者を加速度的に増やしながら、
誰も勝ち目のない国際競争に駆り立てられていく世界――。

今の人類世界が良い方向に向かっていると本当に信じられている人って、
トランスヒューマニスト以外に一体どのくらい、いるんだろう……?

この論文から、そんなことを考えました――。

やっぱりAshley事件とは、
この時代のあり方と、その背後に動いている勢力や利権のありよう、
それらによって世界が動かされていく方向を示唆して、
とても象徴的な事件なのだなぁ……と、改めて思います。
2009.12.20 / Top↑

March of Dimes によって作られた、
妊娠中の夫婦に向けた新生児スクリーニングの解説ビデオ。

それによると、生後2日以内に踵からの採血で行い、
疑いがある場合には、再検査を行うこととされている。

遺伝子検査は州によって義務付けられている、とのこと。

冒頭の、妊娠中の夫婦に向けたメッセージで

(生まれてくる子どもには様々な夢や期待を描くにせよ)何よりも大切なのは子どもの健康です。

なぜ生後まもなく退院までに遺伝子検査をするかというと、
一見すると健康に見える赤ちゃんに、重大なconditionsが潜んでいることがあるからです。

たとえば、精神遅滞のような重大な問題や、死すら引き起こすものも。
serious problems such as mental retardation or even death

しかし、生後すぐに発見できれば、それらを防ぐことができるのです。


そして、ビデオの終わりに近く、

あなたの赤ちゃんを助けるだけでなく、それは
これから生まれてくる何世代もの赤ちゃんを助けることになるのです。

helping more generations to come


ちなみに、March of Dimes とは、このビデオの説明によると、
出生時の障害や早産や死を防ぐことによって子どもの健康を増進するNPO」。

当ブログでは、Gates財団とシアトル子ども病院の
早産撲滅キャンペーンGAPPSのパートナーとしてお馴染みです。


早産・死産撲滅に、シアトル子ども病院がゲイツ財団、ユニセフ、WHOと乗り出す(2009/5/14)
2009年10月14日の補遺(3番目にDimesが早産による世界の負担を数値化した論文情報)
2009.12.19 / Top↑

シアトル子ども病院のサイトで確認したところ、
2008年7月26日の放送のようです。

去年7月まで、ワシントン州の新生児には
鎌状赤血球症嚢胞性線維症など
10の遺伝性の疾患について遺伝子診断が行われていたが、

その対象として、7月21日から、
さらに14の疾患が追加されることになった、というニュース。

「なぜ新生児に遺伝子検査を?」というインタビュアーの質問に答えているのが
Ashley事件で一躍、生命倫理学者としての名前を馳せた Diekema医師。

早期発見が早期治療に結びつく可能性があるから、と答えています。

そして、続いて、
民間企業が営利目的で多くの病気の遺伝子診断を行っていることについて
その正確さに疑問を投げかけます。

「将来、その新生児が、たとえば乳がんになる可能性を調べることについては?」と問われて
基本的には18歳になるまで待ってからにするのがよいとの考え述べます。
その検査を受けるかどうかは、あくまで本人の自己決定だろう、と。

Diekema医師は本来は、Fostのようなラディカルな考え方をとらない、
かなり慎重派の倫理学者なのです。


ところで、このビデオは、
鎌状赤血球症だと承知した上で黒人の女の子を養子に迎えた白人夫婦をとりあげています。

遺伝子診断で病気がわかって、
養子縁組の申し込みをキャンセルしてもいいと言われたけれども、
もう顔を見たら情が移って、そんなことは考えられなかったそうです。

そして、この女の子はオーダーメイドの治療のために2度目の遺伝子診断を受けた、とのこと。

早くから、そういう治療ができたから、この子は生きてここまで成長した、
科学の力がなかったら、この子はとっくに死んでいた、とお母さんが語っています。

なるほど、アメリカで養子を育てる家庭はここまで懐が深いのかぁ……という方向に
とりあえずは感銘を受けながら見ていたら、

画面には、もう一人黒人の男の子を含む4人家族の姿が映った。

だから2人目の養子をとる時も遺伝子検査をやった、
「今度は健康な子がほしかった」とお母さんが語る。

こういう病気の子が1人いるだけでも親の負担は大きいのに
それでも2人目を養子に、と考えることに、まずは素直にびっくり、する。

そういう意味では、「次は健康な子を」と望むのも無理はないのかも……と考えつつ見ていたら、

「健康な子か、もし、そうじゃないなら鎌状赤血球症の子どもがほしかった」

……え?

「だって、この病気には詳しくなっているから、
どうせなら同じ病気だったら、こなせるじゃない?」

何が、どう、とは、今すぐには説明できないのだけど、
この発想は、かなりショックだった。
2009.12.19 / Top↑
17日のエントリーで、
「英国下院議員の53%が自殺幇助合法化を支持」との調査報告を取り上げましたが、
そこでも書いたように、これ、な~んか、怪しげな調査だと思っていました。

そしたら、いかに怪しいかという話が、
やっぱり反対ロビーの方から出てきました。

Times euthanasia poll of MPs is ‘out of date’
The Christian Institute, December 18, 2009


まず、私も前のエントリーで取り上げた通り、
ガイドラインのコンサルテーションが終わるのに合わせて公表というタイミングが怪しい。

しかも、この調査、実は6月8日から7月31日にかけて行われたものだというのです。

夏からの今までの数ヶ月間に、自殺幇助合法化関連では
スイス当局がDignitasをはじめとする“自殺ツーリズム”を懸念して
全面禁止を含めた規制の検討に入ったことや、

オランダの安楽死法を成立させた政治家が
法の成立以降、終末期医療がお粗末になったこと、
多くの患者は「不安から」安楽死を選択していることを認めたこと、

英国でも、Jack Straw, Vince Cableなど、有力な政治家が
もともと反対を表明しているBrown首相やCameron野党党首に並んで
反対の声を上げるなど、

さまざまな動きがあり、
議員の考えは変わっている可能性があるのに、
いまさら夏の調査結果を持ち出すことはないだろう、と。

そして、なんと言っても怪しげなのは、こちらのカラクリ。

私は前のエントリーで取り上げた時に、
なぜこの調査結果が「医師の権利」の問題として報道されているのかを不思議に思い、
推進派ロビーの問題だとしてもメディアも無責任すぎると指摘しましたが、

やはりカラクリはそこに潜んでいたのです。

なんと、この調査に用いられた質問とは

If a doctor in England or Wales helps a terminally ill, but mentally competent adult patient to die when directly requested to do so, by the patient, should that doctor be prosecuted or not?

もしもイングランドまたはウェールズの医師が、ターミナルな病状ではあるけれど、意思決定能力のある成人の患者から、直接そうしてほしいと求められて、その患者の死に手を貸したとしたら、その医師は訴追されるべきだと思いますか?

やはり思った通りの問題の摩り替えが、調査の質問の設定段階で行われていました。

17日のエントリーで指摘した通り、
この問いは、患者自身が幇助を求める権利がまず前提されなければ、派生しない段階のものです。

この問いを発することによって、質問者はあらかじめ
「そういう患者には医師に自殺幇助を求める権利がありますか」という問いに
回答者に代わってYesと答えてしまっている。

なんと巧妙なヤリクチでしょうか。

こういうカラクリがあったからこそ、記事のタイトルも
「医師が患者の死を手伝う権利を議員が支持」でなければならなかったのですね。

しかし、
この質問への答えがYesだったとしても、
それが「患者の死を手伝う医師の権利」を支持するものだと果たして言えるのか。

それは、せいぜい
「患者の自殺幇助を求める権利が認められた場合に
それに応じて行動しても訴追から守られる権利」が医師にはある、というに過ぎず、

「患者の死に手を貸すこと」を「医師の権利」として認めることとの間には、
非常に大きな距離があります。

後者の「医師の権利」が意味するものの危険を考えたら、
問題のすり替えにしても、こんな危険な言辞を安易に振り回さないでほしい。

しかも6月・7月といえば、
英議会ではDebby Purdyさんの訴えを受けて、議論の焦点は、
自殺希望の人をスイスへ連れて行く家族や友人の行為の免罪を法制かするかどうか、でした。

それも7月7日には上院で、法改正は否決されているのです。

DPPのガイドラインにも同じことが言えますが、
議論されている問題をきちんと厳密に区別することなしに、グズグズにすることで
“この機に乗じて”自殺幇助そのものの合法化へと舵を切らせたい人たちが
英国では、目下、うようよと蠢いている。

そして、こう見るに、おそらくは
Times も Daily Mail も、そちらの陣営のようでも……。







2009.12.19 / Top↑
The American Journal of Human Genetics誌に発表された論文で、

別の病気や障害を伴う症候群型でない知的障害に関与する遺伝子を特定した、
この遺伝子TRAPPC9の変異が世界中の知的障害の50%の原因に関与している、と。

また、同誌上で他にも2本の論文が、それぞれに
この結果を裏付ける報告をしているらしい。

私はこの先を読んで、ものすごく心がざわめくのだけど、
それをどのようにして突き止めたかというと、

知的障害者が多い家系というものがある、遺伝が関係している、
特にいとこ同士で結婚する文化でそういう家系が多いという前提から
そのような遺伝子の特定には、一つの家系の遺伝子マップを作ることが不可欠と考え、

パキスタンの、少なくとも7人の非症候群型の知的障害者がいる一族の遺伝子を調べ、
さらにイランの一族でも同様の調査で確認した、という。

The Center for Addiction and Mental Health(CAMH)のDr. John B. Vincentは、
遺伝学によって、これまで分からないことの多かった遺伝タイプの知的障害に
関心が向けられるようになりつつある、

知的障害の治療の戦略の可能性を探るべく今後もチームの研究を続けて、
知的障害を理解し、診断し、予防し、治療するための、さらなる手がかりを
科学者たちに提供していきたい、と。



かつての優生学も、たしか、
カリカック家とかジューク家とかの家系研究から始まったんだった……。

そして、米国の知的障害者に対する断種(強制的不妊手術)は、

Three generations of imbeciles are enough.
「3世代も痴愚が続けば、十分」

一度聞いたら二度と忘れられない、こんな言葉で
合衆国連邦最高裁判所によって承認されたんだった……。


【19日追記】
その後、What sortsのほうで私の読み間違いを指摘されたので、ちょっと記事を訂正しました。

また世界中の知的障害の50%という点は、
もともと非症候群タイプの知的障害の割合が50%だとのこと。

CAMHは調査したわけではなくて、コメントしただけだったようでもあり、
一方、Vincent医師は別の病気に関してパキスタンの一族を調査しているようでもあり、
どうも、いくつもの研究や論文に関する情報が錯綜しているようなので、
このMNTの記事だけでは、なんともいえない部分があるかもしれません。
2009.12.18 / Top↑
Lancet誌に発表された Sheba 医療センターの Jacob Lavee教授の論文によると、


臓器不足に対応するため、イスラエルが世界で初めて
ドナーカード保持者に臓器移植での優先権を認めるべく法律を改正。

署名入りのドナーカード保持者のパートナーや近親者も
臓器移植が必要となった際には順位を繰り上げてもらえることになる。

ただし優遇措置は署名後1年以上が経過したカードのみ。
新法は2011年1月に施行。

移植の順はあくまでも医療上の必要度によるべきだとの批判もあるが、

Lavee教授は、
緊急に移植を必要とする患者が優先される原則は変わらない、
ただ同じニーズの患者が2人いた場合にはカード保持者が優先されるということだ、と。

教授自身、
このやり方は“真の愛他主義”にも
医療上の必要のみでレシピエントを決める移植の”理想“にもそぐわないことを認めつつも、

現在10人に1人しかカードを持っていない(英国の成人では4人に1人)イスラエルの現状では、
そのくらいの代償はやむをえない、

この方針で移植臓器が増えれば、それはそれで、
最大限の健康を達成するという、別種の、医療の重要な目的にかなうことになる、と。

英国の専門からは一様に懸念を表明し、
やはり臓器は必要度に応じて公平に、との原則は維持すべき、とするものの
根強く続いている「みなし同意」への議論が、また再燃する気配も。



――最大限の健康を達成するという医療の目的……だと……。

こういう記事を読むと、いつも引っかかるのだけど、
ここでも英国保健省のスポークスマンが

「これまでになく多くの人が臓器ドナー登録をしていますが、
それでもまだ、毎日3人が移植を待ちながら死んでいます。
もっとドナーが必要です。

2013年3月までに年間のドナー登録率を800人から1400人まで上げたい。
2010年までに2000万人のドナー登録、
2013年までに2500万人の登録が目標です」


いや、しかし……
移植用の臓器というのは、本来、
欲しい人みんなに行渡るのが当たり前という性格のものだったろうか……?



――で、なんだかんだ言っても、
こんなふうに”ならず者”的ルール違反で抜け駆けする人やら国が出てくることで、
科学とテクノの(金融だってそうなんだろうけど)国際競争は、どんどん無軌道になって、
やがて誰も彼もが、否応なしに仁義も理想もかなぐり捨てて、
なりふり構わず、ひたすら生き残りを目指すことを余儀なくされる――。

誰も幸せになれない世界へと向かって――。

2009.12.17 / Top↑
こちらのエントリーでお知らせしたように
明日18日、東京で日本宗教連盟の第4回宗教と生命倫理シンポがあります。

コーディネーターが東大の島薗進氏。
パネリストが立命館の立岩真也氏、日本尊厳死協会理事長の井形昭弘氏ほか、と
もうゾクゾクするような顔ぶれなのですが、

その資料として立岩氏が事務局に送ったといわれるものが以下で、
死の代わりに失われるもの ―― 日本での動向の紹介に加えて

11月2日に韓国で開催された安楽死問題韓日国際セミナーでの講演内容だとのこと。

これを読んで、当ブログで一貫して主張してきた
「分かっている」と証明できないことは「分かっていない」ことの証明ではないということについて、
改めて、色々と考えました。

冒頭の部分に、以下のように書かれています。

私は、いついかなる場合にも延命のためのあらゆる措置がなされるべきであるという立場には立ちません。ただ、「植物状態」と呼ばれる状態において、その人の世界がどのようであるのか、たいへんにわかりがたいことはたしかです。意識がまったくないという推定が多く誤っていることが実証研究によって知られています。そしてそれ以前に、いくらかでも考えてみれば、その人の状態を判断する確実な手段を、その人の外側にいる私たちはもっておりません。また、回復の可能性、また回復とまでは言えないにせよ状態の変動がずいぶんとあることも知られています。ですから、この状態においてその人が生きることを止めることの不利益の可能性は否定できません。

ちょうど、つい先日、以下のような事件が報道されたばかり。


実は、このベルギーでの出来事に関する情報などを障害学のMLに投稿したことから、
私は天畠大輔さんという方と知り合いました。

天畠さんは今から13年前、14歳の時に急性糖尿病で倒れ、
医療ミスから一時は生死の淵をさまよい、半年間ロックトイン症候群に陥ったそうです。
その間、外科医とのコミュニケーションは完全遮断状態だったとのこと。

医師からは知能が下がっているといわれたそうですが、
お母さんは息子がふっと笑った顔に感じるものがあり、医師の言葉を信じなかった。
なんとか息子の意思を汲み取りたいと、独自にコミュニケーションの方法を工夫されて
そのおかげで天畠さんは意思疎通のすべを手に入れました。

介助者が「あ・か・さ・た・な」と言い、
天畠さんが体の動きで合図を送って50音のヨコの行を指定、
それが例えば「か」行なら、今度は「か・き・く・け・こ」と言って、また合図を送る――。

それがお母さんの考案された天畠さんのコミュニケーションの方法です。

お母さんに「へ・つ・た」が「おなかが空いた」の意味だと伝わった初めての瞬間には、
嬉しくて涙が止まらなかったそうです。

そうして一音ずつ時間をかけて言葉をつむぐという方法で、
東京都三鷹市のルーテル学院大学を受験、見事合格。

ただし、養護学校卒業から4年もかけて文部省やあちこちの大学と折衝し、
たいへんな苦労をしてのことでした。

去年、福祉学科を卒業、現在は同大学の臨床心理学科に再入学しておられます。

その天畠大輔さんが去年第43回NHKの障害福祉賞を受賞した
「あ・か・さ・た・なで大学へ行く」という文章がこちら

必死に信号を送り思いを伝えようとするのに、
周りから分かってもらえなくて辛い思いをされたこと、
枕元に「いろはにほへと」が刺繍してある手ぬぐいがかかっている夢を見たことなど、
とてもリアルに書いておられてます。ぜひ、ご一読を。

ボランティアさんたちの体験談のある彼のHPはこちら

私は天畠さんの文章を読ませてもらった時に、東大の福島智教授のことを思い出しました。
福島先生の場合も、やっぱりお母さんが、見えない聞こえない息子と会話する手段として
あの、両手の指を使ったコミュニケーション方法、指点字を編み出されたのでした。


ベルギーのHoubenさんの報道から私がずっと考えているのは、

みんなが「どうせこの人には何も分からない」と決め付けている中で
本人が必死に送ろうとしている、か細い信号を
「もしかしたら……」と受け止めてくれる人が
誰か、たった一人だけいてくれたら、

その人は「意識のない人」から「意識のある人」へと変わることが出来る……ということの重大さ。

11月25日のエントリーで紹介したOTの川口淳一さんは、その後、
Houbenさんのケースをブログで取り上げて、
「これって誤診というより、誤解です」と書いている。

そして、こういう人は日本にも沢山いる、
リハビリテーションに出来ることはまだまだいっぱいある、と呼びかけている。

その「誤解」を解く努力を十分に尽くすことをしないでおいて、
「この人たちは、どうせ何も分からない」
「どうせ私たちとは違う世界の住人」だと、そこに線を引き、
治療を停止したり、殺したり死なせてもいいことにしたり、
または尊厳や身体の統合性を踏みにじったりしてもいいと決めてしまうことは
絶対に間違いだ……と改めて思う。

立岩氏は、上記リンクの文章で
人工呼吸器を必要とする重度障害者が、それを使わずに亡くなる率は
死に寛容な「先進国」において非常に高いと書き、

また、例えば、当ブログで拾ったMontanaの裁判での主張のように
どうせ死ぬのだから殺すことにはならない」などが、その例と思われますが、
omission もcommission も同じだとみなすことの危うさなどを指摘して、
「すべり坂」の懸念は現実だと語っている。

自分たちとは別だとされる人たちの死を認めることは、自分たちの死につながるという心配は、根拠のない心配とはいえないのです。日本でも、また他の国々でも表明されている懸念は、現実的な懸念であり、また現実であり、そして論理的に筋の通っているものでもあるのです。

そして、結びの部分。

ある人が人々に負担をかけることがあったとしても、それはそんなにたいへんなことではないはずだ、その人が、そしてみなが生きられるような社会が望ましいと主張してきた人たちがいます。韓国にもたくさんいらっしゃますし、この会場にもいらっしゃると思います。死の決定に対して積極的な欧米においても、それらの国々の障害者、障害者の組織の多くは、その動向を批判してきています。それを私たちは紹介しようとしてきましたし、これからもしていきたいと思っています。

なかでも生きるのが窮屈にさせられている人たち」によって、そう主張されてきたことに、
立岩氏はこの後で、特に触れている。

そういう人たちの声が、日本では大きく報道されることがないからこそ、
Ashleyのような重い障害を持つ子どもの親として、
私も、それらを拾い、紹介していきたい。

重い障害についてロクに知りもせず、「誤解」かもしれないと振り返ってみることもしないで、
やれ「どうせ何も分からない」の「赤ん坊と同じ」だの「人格じゃない」だのとホザいては
「ここから向こうの人たちは我々とは別」と線を引こうとする文化に対して、

「それは違うっ」と、これからも言い続けていきたい……と、強く思った。
2009.12.17 / Top↑
いろんな意味で、イヤ~なニュースだなぁ、これ……。

このたび、100人以上いる英国下院の議員さんたちから
サンプルを抽出してインタビュー形式でアンケートをとったところ、
半数以上の53%が医師による自殺幇助の合法化に賛成だった。

この問題で議員さんたちの考えが確認されたのは
97年の議会で75%の反対で合法化が否決されて以来のことで
ここにきて、ついに大勢が支持に回ったことが明らかになった以上、

合法化に向けた法律改正は
「すべきかどうか」という問題ではなく「いつすべきか」の問題である。

Timesが今年に入って行った世論調査でも、
4分の3が合法化に賛成だったことでもあり、
そうした世論を汲んで議員さんたちの意識も変化したに違いない。

……というのが、この記事の大まかな流れ。



まず、イヤ~な感じがするのは、このタイミング。
9月に出された自殺幇助に関する法解釈のガイドライン案のコンサルテーション(パブコメ)の
締め切りが翌17日……という日に合わせて、こういうものが公表される。

上記、Timesの世論調査も、なにやら妙なタイミングで公表された。

それから、さらにイヤ~な気分になるのは、
この議員さんへのインタビュー調査はIpsos MORIという市場調査の会社が行っており、
それを依頼したのは合法化に向けて盛んにロビー活動を展開している Dignity in Dying。

合法化に反対する側と違って、
合法化を推進する側がいかに潤沢な資金を有しているかを物語っている。

また、全員への文書によるアンケート調査ではなく、サンプルで1対1の面接調査だというところも、
サンプルのバイアスだって誘導だって解釈だって、いかようにも……という感じも。

そして、何より私がイヤ~なものを感じるのは、このTimesの記事タイトルで、
「議員さんたち、患者に死の手助けをする医師の権利を支持」って……?

自殺幇助合法化を求める人たちが主張してきたのは「死の自己決定権」であり、
患者サイドの権利だったはずなのに、いつのまに「医師の権利」に摩り替わったのか?

英国医師会は医師の職務に反するとして、
自殺幇助の合法化には反対のスタンスを明らかにしていますから
医師の側から「患者を死なせる権利」を求めてはいません。

公訴局長DPPのガイドライン発表以降、一部医師らから出ているのは
医師のどういう行為が訴追対象になるのかが全く不明瞭で、これでは不十分、
こんなものを決めるのなら、もっと具体的にどういう行為までが許されるのかを
明確にしてもらわないと困る、という声であり、

これまでの、そうした展開から推測すると、このタイトルは
「本人の自己決定権」を既に認められて然りと大前提に置き、
それなら「その人を愛する家族や友人が罪に問われないよう、幇助に対する法解釈の基準が必要」と発展し、
さらに「本人や家族に頼まれた医師だって身を守るために法解釈が明確でなければ」から
「医師にもやれというなら、医師にだって法律によって守られる権利がある」を
さらに飛躍させて「患者の自殺を幇助する医師の権利」と書いてしまったものでは?

しかし、このタイトルは記事の書き方として、あまりに不正確。

(Daily Mailも似たようなタイトルの打ち方をしているので、
もしかしたら、メディアの問題ではなく発表したロビー側の言葉の選択の問題かもしれませんが
それをそのままタイトルにもってくるメディアも無責任が過ぎるでしょう)

当ブログでも何度も指摘していますが、自殺幇助の議論では、
こうした文言や論理の厳密さの欠落、問題の摩り替わりが、あまりにも頻発しています。
これは本当に、ただの不注意で偶発的に起こっているだけなのでしょうか。

いったいターミナルな病状の人の自殺幇助の議論なのか、
一定の障害を負った人に死の自己決定権を認めようという議論なのか、
それとも、理由は問わず死ぬ時と死に方は個人の自己決定権だという議論なのか。

はたまた医療コスト削減のために
ターミナルな人も障害者も、いっそ自ら望んで死んでくださいという話なのか。

公訴局長のガイドラインにしても、
米国のように医師による自殺幇助の議論なのか、
Purdy裁判から出てきた、家族・友人がスイスへ連れて行くことを巡る議論なのか、
いっそ思いやりからすることなら家族や友人が殺したってかまわないという議論なのか、
さっぱり区別しないまま、なにもかもグズグズ状態で提起されています。

そこへ、この記事のタイトルでは、
死ぬ人自身の権利なのか、家族や友人の権利なのか、それとも医師の権利なのか、
いったい、この議論そのものが誰の権利の視点に立脚しているのか、
さらに一切合切がグズグズにされてしまう。


Timesが7月に行った世論調査に関するエントリーはこちら
DPPのガイドラインの内容に関するエントリーはこちら


DPPのガイドラインに関するコンサルテーションの締め切りを前に、
このところ自殺幇助合法化に関する論評がメディアには多出しています。

昨日、今日と目に付いた主なものは以下で、
Guardianの方はターミナルな人と障害者とを区別していないことを問題視している。
Timesの方は、反対は少数派だ、マジョリティは合法化を支持している、という論旨。


こちらはTelegraphの記事。2本とも批判的。
特に下のものは、議員さんたちが超党派でDPPに懸念を表明した、というもの。




【19日追記】
その後、反対派ロビーから情報が出てきたので、以下のエントリーを書きました。

2009.12.17 / Top↑
英国議会に在宅個別ケア法案が提出されている。670万ポンドの予算で、40万人の在宅ケアを賄う、というもの。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174118.php

英国の、1日につき上限75ポンドの介護者手当ては、果たして妥当なのか、という議論。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174003.php

14日の補遺でも拾ったけど、米国の医療保険改革に介護保険を含めると、コスト的に保険制度が維持可能かどうか、という懸念が上院で出ている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174003.php

どこの国も医療費コストを削減することばかり考えているけど、医療費コストはビジネスを刺激する投資となる、もうちょっと楽観視してもいいかも……との新たな調査結果。:エビデンスごまかしても薬漬けにして商売繁盛とか、ビジネスモデルでもって保健医療施策を全面的に再構成……とかいうのでなければ、ね。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174077.php

米国の研究で、子どもたちに脳卒中の症状について教えておくと、親が脳卒中を起こした時に子どもによる素早い通報が可能で、それだけ成人の障害を防げる、と。:しかし、子どもにそこまで背負わせていいのだろうか。子どもが無用の不安を抱えるのではないのだろうか。それでなくても若年介護者たちが年齢相応の子どもらしい生活を奪われている問題には対応が遅れているというのに。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/174028.php

何年か前に竹中ナミさんが華々しく登場した際にメディアがいっせいに取り上げて騒いだ障害者の「チャレンジド」呼称に、当初から、その「苦難にも関わらず」的トーンに抵抗が強かったのだけど、このたび、某MLで教えてもらった貴重な情報。米国の障害者運動の中では「使うべきでない」とされているとのこと。
http://www.raggededgemagazine.com/mediacircus/styleguide.htm
http://www.disabledandproud.com/selfdefinition.htm
http://www.miusa.org/ncde/tipsheets/respect/

ハリケーン・カトリーナ直後の混乱の中で、警察が無実の人を何人も撃ち殺している。Propublicaが調査を続けている。
http://www.propublica.org/nola/story/how-a-new-orleans-police-detective-missed-a-key-clue-1214
http://www.propublica.org/nola/story/hurricane-katrina-two-mens-fate-lost-in-chaos-1213

新興科学は人間のDNAを自由に操作することを目指す……。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/12/14/AR2009121402894.html

子どもと妊婦が触れる製品にBPAを使用することを禁じる法案the BPA-Free Kids Act、米国上院に。:まだ今からなんだとは知りませんでした。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/173973.php

食欲をコントロールするホルモンが高いと、アルツハイマーのリスクが下がる。:こういうのから直線的にアルツハイマー病予防薬というのが発想されるのかな……。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8414989.stm

更年期後に抗ウツ剤を飲んでいる女性は脳卒中のリスクが高くなる。:この年齢の女性で飲んでいる人、多いような気がする。そういう人が飲まなかったら、でも、それはそれで他のリスクが高くなるようでもあり。抗ウツ剤を飲んでいなくてもウツになれば動きが少なくなるから、年齢的にはそれだけでも脳卒中のリスクは上がるようでもあり。あ、もしかして解決策は、血液をさらさらにする薬とかサプリでも抗ウツ剤と併用するとか? 昨日、高齢期に差し掛かった友人は、検査で動脈硬化を指摘されて「今日から毎日納豆を食べる」と言っていた。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8408783.stm
2009.12.16 / Top↑
ここしばらく、とても熱っぽい“Ashley療法”批判を展開してくれるブログがある。
ブログ主はカナダの重症児の母親 Clairさん。

最近、Ashleyの父親のブログを最初からもう一度じっくり読み直してみたという
14日のポストが面白い。

Working Through Issues on the Ashley “Treatment”
LIFE WITH A SEVERELY DISABLED CHILD
December 14, 2009


障害による不便や不快を一つずつあげつらって、それをテクニカルに排除していくことを考えるなら、
口からモノを食べないAshleyの歯はみんな抜いて虫歯の痛みから永遠に解放してあげればいいし、
そんなの、他にもいっぱいあって、キリがない……という指摘が一つ。

でも面白いのは2つめの指摘で、
父親のブログには「脳が不変である以上、娘も不変だ」という思い込みがある、と。

ここで私が「不変」と訳しているのは原語では static 。
 
一般的には「静的な」という意味の形容詞だけど、
Ashleyの診断名である static encephalopathy の static とは
動きがない、つまり不変・不治・不可逆な脳の損傷を意味している。

Clairさんは、その static を使って父親の思い込みを鋭く突いているわけで、

「脳こそ、その人を決定付けているすべて」という今の脳科学の思い込みや
「能力や資質・遺伝子があるかないか」だけにこだわる決定論にも通じて、いかにも鋭いと思う。

そして、医師や専門家には分からないとしても、すぐ側で見ている親なればこそ、
障害はあっても我が子がちゃんと成長し変わっていることに気づくでしょーが、と
自分の娘の実例をあげて突っ込んでいく。

このあたり、当ブログでウチの娘のエピソードを通じて
ずっと書いてきたことと同じ。(例えばこちら

私もつい最近、ある人とのやり取りの中で
「あなたや私と同じ分かり方ではないかもしれないけれど、
その人なりの分かり方をしている」という書き方をしたのだけれど、

Clairさんが言おうとしていることも、そういうこと。
だから「精神年齢」なんて、そう簡単に決めてはいけない、と。

私はこの人が書いている結論部分の、以下のところがとても気に入った。

Cognition is not static, nor is it measureable in a non-verbal child with severe multiple challenges.

認知は不変ではないし、
重症重複障害があって言葉のない子どもの認知は計測できるようなものではありません。


上記部分を頭の中で反芻していたら、私には次のような言葉が浮かんできた。

認知は static ではない。
発達も static ではない。

人の心も決して static ではない。

人が環境の中にあり、人との関わりの中にあり、そこに経験がある以上
人の心は成長し、成熟し続ける。

認知も含めた総体として、人は成長し、成熟し続ける。
障害があろうとなかろうと──。


むしろ、脳と遺伝子がすべてを決めると考えて、
科学とテクノの簡単解決で物事をばっさばっさと片付けていこうとする方向に
もんどりうって雪崩れ込んでいくかのようにみえる現在の世界のほうが、
人間社会として“成熟”し続けることを放棄しようとしている──。
私には、そんな気がする──。


【発達研究についての関連エントリー】
英語圏イデオロギーの専横は生命倫理学だけじゃなかった(2009/9/4)



【関連エントリー・A事件でのコミュニケーションの問題】
Ashleyの眼差し
Ashleyのカメラ目線
Anne McDonaldさんの記事
Singerへの、ある母親の反論
2009.12.16 / Top↑
ねぇ。もしも……よ。もしも、誰かが、
癌になるリスクを半分に落とす薬を発明してくれたとしたら
あなた、飲む? 

もちろん飲むわよね。
飲まない人なんて、いないわ。そうでしょ? 

その薬、実は、もうずっと前に出来ているのよ。

乳がんリスクを半分にする tamoxifenっていう薬。
アロマターゼ阻害剤といって、体内のエストロゲンの量を下げてくれる、すぐれもの。

それに今では乳がんのリスク・ファクターだって、
40歳以上で身内の女性が乳がんになったことがあるとか、
その人自身が生検で細胞異常が出たことがあるとか
ちゃんと分かっていて、

例えばあなたが52歳で、30過ぎてから子どもを産んだ人で、
あなたの母親が乳がんになっていたとすると、
あなたの今後5年間のリスクは1,9%。

つまり、あなたと同じ女性が1000人いたとしたら、
その中の19人は5年以内に乳がんになる、ということ。

こういうのは、今ではインターネットのリスク・スコアのページがいくらでもあって、
たちどころに計算してもらえるのよ。知らなかった?

で、仮に、tamoxifen をあなたと同じような女性の全員が飲んだとすると、
乳がんになるはずの19人のうちの9人は発症を免れることができる。

しかも、その中の13人には、骨粗しょう症による骨折を免れるというボーナスまでつく。

それなのに、なぜか、この薬、みんなが飲みたがらないのよ。
調査すると、ほぼ全員が、こんな薬は飲まないと思うって答える。
80%が「副作用が心配だから」って。

そりゃ、確かに副作用はあるわよ。それも、まぁ、深刻なのがあることはある。
例えば、さっきの52歳の1000人みんながtamaxifenを飲んだら、
そのうちの21人は乳がんの他に、きっと子宮ガンになる。
あ、もちろん早期発見できれば普通は治療できるから大丈夫なんだけど。

それから、さらに21人には血栓ができるでしょうね。
31人が白内障になって、12人はセックスにトラブルが起きる。

それから1000人のうち半数には
この薬を飲まなくても、自然に“のぼせ”などの更年期症状が起きてくるわけだけど、
tamoxifenが原因で更年期症状が起きる人が、そこに120人追加される。

もちろん副作用をあなどってはいけないけど、でもさ、
だからといって tamoxifen を飲まないことのリスクもちゃんと考えた方がよくない?

そこのとことを、みんな、わかってないのよね。
何かを“する”ことのリスクにばっかり頭が行っちゃってて、
何かを“しない”のリスクの方はてんで見えていない。

でも、ほら、例えば百日咳のワクチンを打たないで
子どもが百日咳にやられることを考えてみなさいよ。
打てるワクチンがあるのに使わないことのリスクがいかに大きいか。
そんなの、すぐに分かることじゃない。
なんで、こんな簡単なことが理解できないのかしら。

ハイ・リスク患者のがん予防治療にどんどんフォーカスしている研究者の間では
ほんと、これ、頭の痛い問題なのよ。

NYのKettering がんセンターの乳がん専門医のLarry Norton先生なんて
「さても複雑な人間心理よ……」と嘆きつつも

研究が進んで、もっと副作用の少ないアロマターゼ阻害剤ができれば、
みんなが乳がん予防薬を飲んでくれるようになるんじゃないか……って。

ほんと、お医者様って、ありがたいわよねぇ…。

When Lowering the Odds of Cancer Isn’t Enough
By Tara Parker-Pope
The NY Times, December 14, 2009


以上、記事内容は忠実にとりまとめつつ、
トーンについてのみspitzibaraの感性に響いてきたままに書いてみました。

(あ、最後の1行だけは、spitzibaraの勝手な追加です)

記事によると、乳がん予防薬としては、他にも raloxifene という薬があって、
男性の前立腺がん予防薬では、 finasteride というのがあるんだとか。



ここでは、乳がん予防のために体内のエストロゲンを下げた方がいい、という話ですが、
でも「更年期から後、失われるエストロゲンは補いましょう」といわれて乳がんになった……と
いう話もありまして、そちらの話を、こちらのエントリーで拾ったばかり。


こちらの記事でも「少々の副作用はあっても、病気予防効果という利益の方が大きい」という声があります。
ただし「少々の副作用」といわれているものが、こちらでは乳がんリスクだったりするわけですが。

そういえば、こういうのも。

2009.12.16 / Top↑
Gates財団が中国で始めたエイズ対策キャンペーンに批判が起きている。

感染率そのものは低いものの
なかなか対策が進んでこなかった中国では去年から感染者が急増している。

官僚組織が機能しない中国でエイズの蔓延を食い止めようと
Gates財団が中国の保健省と提携して目下進めているのは、
まず治療の必要な感染者を見つけ把握するプログラム。

2007年から、中国の14都市で
飲み屋や風呂屋やアパートなどに臨時の採血センターを設置して、
淋病とH.I.V.の検査を行うキャンペーンが行われている。

もちろん資金はGates財団から。
今後5年間で5000万ドルをつぎ込むという。

他のキャンペーンと決定的に異なっているのは
金銭支払いをインセンティブとしていること。

検査を受ける人は1回の採血で9ドルもらえる。
もしも検査結果が陽性だった場合には追加で44ドルとあって、
採血センターの前には手軽に金を手にしたい若者が列を成す。
これまでに11万人が検査を受けたという。

そのため、金集めだけを目的とした被験者や採血グループが出てきて、
人口1100万人の町に1年間で24もの組織が新たに出来たケースもある。
多くは飲み屋の経営者や政府の官僚がたちあげたもので
中には検査に来る人にカウンセリングもせず、
陽性と出た人を治療に結びつけることもしない団体もある。

毎年30億ドルもの資金を慈善事業で動かすゲイツ財団には
もともと外部の意見を聞かず独善的なプログラム運営に批判もあるが、

中国でこうしたキャンペーンを行うやり方についても、
これまで草の根でやってきたエイズ対策団体の間に格差を作り、
地元の保健医療のあり方を組み替えてしまうとの批判が起きている。

また保健省とタイアップしていることについても、
将来にわたって財団が中国に影響力を及ぼし、
中国社会をもっと根本的に変えるための布石との見方も。

確かにGates財団の資金を使って政府もエイズに取り組む組織にテコ入れし、
2007年には国内に数10しかなかった活動団体が現在では400以上に増えてはいるが、

これまで中国でエイズの問題に関わってきたベテラン活動家で
このたびのプログラムについてもゲイツ財団にアドバイスしたTong Geさんは
財団の活動は歓迎しつつも、検査よりも政府の官僚への教育にもっと資金を回して欲しい、と。

「今回のプログラムで財団の援助資金が政府を迂回することになったために
これまでなかったところにまで汚職がはびこってしまった。
でも、ゲイツ財団を責めるわけにはいかない、もともと悪いのは中国なんだから」とも。

このたびのキャンペーンを中国での責任者として取り仕切る
Dr. Ray Yipの発言がとても象徴的で

「(確かに実施状況に問題がないわけではないが)、
町々に提供した助成金のすべてが素晴らしい成功を収めるなんて思っていません。
そんなのは30社の株を買って、どれもが値上がりすることを期待するようなものです」

この人、医師みたいなんだけれど、保健医療施策についての考え方が
ゲイツ財団のビジネス・モデルに毒されてない……?

H.I.V. Tests Turn Blood Into Cash in China
The NY Times, December 3, 2009


ある国に、ある健康問題が起きておりました。
でも、その国のお役人たちは無能な上に腐敗していて役に立ちません。

ある日、それを見かねたGates財団という愛と正義の人たちが
華々しいファンファーレと共にその国に出張ってきました。

(別の国に比べて、この国の健康問題が特に深刻だというわけでもありませんし
もちろん、もっと政府が機能していない国だって地球上には沢山あるのですが、
この国は、目下ビジネスチャンスの宝庫という意味でオイシイのかもしれません)

ゲイツ財団の愛と正義の人たちは
その国の政府の目の前に大金をドカッと積み上げて言いました。

「さぁ、これで問題を解決しようじゃないか。
やり方は、我々が承知しているから任せてくれたまえ。
なにしろ我々はグローバル・ヘルスの専門家だからね」

お役人たちは、目の前に積まれたお金のきらめきにヨダレを垂らし、

「え? ゼニも含めて一切合財お任せでいいんですかい……? うっそー!
んだば、委細お任せしますで、よろしくおねげーいたしますだぁ。
わ~い。ありがたや。ありがたや」

へへ~っ……と這い蹲って、主権国家の責任も誇りも擲ってしまいました。

Gates財団の愛と正義の騎士たちは、
「よし、よし。任せておきなさい。悪いようにはしないから」。

そして、コスト・パフォーマンス計算DALYマーケッティング技法といった
ビジネス・モデルの保健医療施策を自由に展開していくのでした……。


ゲイツ財団の“愛”で「めでたし、めでたし」と、みんな納得してしまうけど、
この話、どっか、とても根本的なところが、恐ろしくヘンなのでは……?


2009.12.15 / Top↑
Ashley事件 年表

2007年末に作った年表に、何度か手を加えることを繰り返してきましたが、
改めてIHME関連やKatieケースの結末、2009年の出来事を加えて、年表を新しくしました。


2004年

初頭?   両親がGunther医師の元を訪れる。

2月   シアトル子ども病院、土地取得に向けて資金集めのキャンペーン開始
          (キャンペーンを率いるMelinda Gates が祝典で基調講演)

5月5日  シアトル子ども病院特別倫理委員会にて父親がプレゼン

6月10日  弁護士が父親に裁判所の命令は不要との見解を示す(書簡)

7月   手術・ホルモン療法開始



2006年

10月   Gunther&Diekema論文

     シアトル子ども病院ダウンタウンに土地を取得



2007年 

1月2日  両親がブログ

  3日  LATimesが第1報

  4日  BBCがDiekema医師インタビュー

  8日  WPAS、調査開始をワシントン大に通知

 10日  WPAS、調査開始を子ども病院に通知

 11日  CNNがDeikema医師インタビュー

 12日  Deikema医師CNN”Larry King Live”に衛星生出演
      (この後、病院側はメディアと接触を断った?)

 22日   子ども病院、WPASと会談

2月    UWにIHME開設に向けた提案書が出される(ゲイツ財団からの資金が前提)

3月27日  WPAS、調査完了前の補足情報を病院に要求。
      この段階では報告書発表は4月23日を予定。4月末に会談を求める(書簡)

4月4日   子ども病院、WPASと会談

  5日   子ども病院サイド、WPASの情報請求権限に疑問、不快感を示す(書簡)

5月8日  WPAS調査報告書発表   
      子ども病院、WPASとの合同記者会見で子宮摘出の違法性を認める

 16日  UW成長抑制シンポジウム

7月13・14日 子ども病院生命倫理カンファレンス

8月    英国でAlison Thorpeが娘Katieの子宮摘出を婦人科医に要望

9月30日  Gunther医師自殺
   
10月7日  Katieケースについて第一報

10日  Gunther医師の自殺が報じられる

18日  Katieのケース、判断は裁判所へ



2008年 

1月17日   Katieの子宮摘出をNHSが却下

18日  Deikema医師、Calvin大学行事にてAshleyケースについて講演

3月12日   Ashleyの両親がCNNのEメールインタビューに答える。

8月2日   Diekema医師、米国科学学会年次大会にてAshleyケースについて講演



2009年

1月23日  子ども病院が「成長抑制を評価する」シンポ

4月9日   UWに“ゲイツ財団の私設WHO”IHME開設

      Bioethics 誌4月号にDiekema&Fostが論文 Ashley Revisited
  
6月    米国小児科学会誌6月号にDiekema&Fost他が成長抑制論文

10月    UWが「優生学と障害」シンポ
2009.12.15 / Top↑
米国上院で審議になっている医療保険制度に、介護保険を含めるかどうかが次の問題。故ケネディ議員や議員時代のObama大統領が作った案の通りに保険給付を保険料だけで賄えるのかどうかがポイント。
http://www.nytimes.com/2009/12/14/health/policy/14care.html?_r=1&th&emc=th

ハワイ州で71歳の男性が病院で寝たきりの妻を殺そうと銃をぶっ放した殺人未遂事件が起こり、医師による自殺幇助議論が再燃。ハワイ州は確か、今年、3月時点で自殺幇助合法化を検討中という情報があったのですが、この記事のトーンだと、まだまだ論争が継続しているという段階のようです。
http://www.honoluluadvertiser.com/article/20091213/NEWS01/912130366/Attempted+killing+puts+issue+of+terminally+ill+back+in+spotlight

自閉症の人では自省的な思考をする際の脳が通常ほど活発でないことが分かった。self-awarenessに問題がある。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8407857.stm

体内時計のリズムが狂うことが心臓病に関係しているかも。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8404097.stm


サイトの性格は確かめていないけど、「米国の子どもたちは精神科薬の金鉱」というタイトルの長い記事。ここ数年、つい最近までの製薬会社がらみのスキャンダルと訴訟関連情報。当たり前ながら、去年から当ブログで拾ってきた児童精神科医らのスキャンダルも。
http://www.truthout.org/1213091
2009.12.14 / Top↑