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「在日」 姜尚中(集英社文庫)


姜氏の文章についてのみ言えば、
冒頭の深い思いをこめて書かれている個所は魅力的だけれど、
定型句的な湿度の高い形容を伴って平板に書き進められていることも多く、
氏の文章そのものを特に「美しい」と感じるわけでもないので、

今回は「美しい」文章ということではなく、

こんなことって、あるのぉぉぉぉ??? とばかりに仰天した
この作品中の「奇遇」について――。


154ページから156ページにかけて、
長男が生まれる際に羊水を飲み、命が危ぶまれた状況が語られている。

「奇遇」とは、
著者がそこで私たち夫婦とまったく同じ体験をし、
私とほとんど同一と呼んでもいいような文章を書いていること。

生存の可能性は50%だと言われ、ショックを受けながら
保育器に入れられた我が子を見守っている場面で
著者は以下のように書いている。

 保育器のわたしたちの「生命」は、たくさんのチューブを付けられ、ところどころに絆創膏のようなものを張り付けられて痛々しかった。それでも時おりあどけなく大あくびをする姿にわたしは一瞬、ユーモラスな感じさえ受けることがあった。
「生きるさ、きっとコイツは生きる」。自らに言い聞かせるように何度も呟くと、わたしたちの「悲劇の主人公」は大あくびをしてそれに応えているようだった。
(p.155)


以下、拙著『新版 海のいる風景―重症心身障害のある子どもの親であるということ』で、

生まれるなり保育器に入れられた娘が命の危機を何度もくぐり抜けていた頃、
NICUの窓のすぐそばに保育器を移動してもらって、
夫婦で覗きこんでいた時のことを書いた部分。

「おーい」
私たちは聞こえるはずのない呼びかけをした。
「ちょっと起きんかなぁ。お父さんとお母さんが来とるんじゃんけどなぁ」
 しばらく待ったが、相変わらず眠り続ける。
「じゃぁ、お父さんとお母さんは帰るぞぉ。また、明日くるぞぉ」
 その時、眠っている海がもぞもぞと体を動かしたと思うと、いきなり大あくびをした。聞こえたはずはないのに、まるでこっちの声に応えたようなタイミングだった。私たちの目の前で歯のない口が大きく開き、海はまるで満腹して眠気を催したバアサンみたいな顔になった。あっけにとられていると、閉じた口をさも満足げにもぐもぐとさせ、それきりまた、ぐっすりと眠り込んでしまった。
「……」
 思わず目を見合わせ、一瞬の後に二人で同時に吹き出した。それは実に、世を憚らぬ大あくびだった。
 この子は生きる……。
 おなかの底から湧きあがる笑い声を口から次々こぼしながら、私たちはそう確信した。
(p. 57-58)


もしかしたら、生まれてすぐに保育器に入れられた子どもの親には、
同じような体験をした人が多いのだろうか。

大あくびって、確かに、
危機に固く緊張していたいのちが、ふわっとほぐれてきたことを告げる
「生きるよ」という、子どもからのメッセージなのかもしれない。

今でも時々、真夜中にごそごそする気配に
「すわ、けいれんか?」と隣の布団から飛び起きて、覗きこみ、警戒しつつ見守っていると、

もぞもぞした挙句に、
眠りこけたまま「ふわぁ~」と呑気なあくびを一つ。

「……むにゃぁ」と、
そのまま何事もなく深い眠りに戻っていくような時、

「ありゃま……」思わず笑ってしまう。

そして、そんな時、
いのちが一つ、そこにくつろいで生きて在る……ということが
ただそれだけで、心の底からしみじみと愛おしい。
2012.12.14 / Top↑
このニュース、
治療の差し控えが認められなかったという点よりも、
植物状態から最少意識状態まで「無益な治療」論の対象は拡大してきているのか、という点で戦慄……。


David Jamesさん(68)は5月に便秘で入院し、肺炎を起こして重症に。

Jamesさんはこれまでに脳卒中を起こして右半身がマヒしており、
何度か心臓マヒも起こして腎機能も障害されている。
医師らの診断は最少意識状態。

病院側は
Jamesさんが悪化した場合には「無益で負担の大きな」治療をする必要はないとの
許可を求めて保護裁判所に提訴。

「無益で負担の大きな治療」とは、
心肺蘇生、腎臓移植、慢性的な低血圧への侵襲的な治療のこと。

それに対して、判事は以下のように述べて病院の訴えを拒否した。

「James氏の状態は多くの点で悲惨ではあるが、
治療が無益だとか負担が大きすぎるとか、回復の見込みがないという主張に
私は説得力を感じない」

「確かに治療の負担は大変大きいが、
それらは生き続けられることの利益との比較考量が必要」

また、
回復とは完全な健康状態に戻ることを意味するのではなく、
Jamesさん自身が価値があると感じるQOLを取り戻すことを意味する、とも付け加えた。

David James - Court Denies Hospital Permission to Stop Life-Sustaining Treatment
Medical Futility Blog, December 11, 2012


具体的に挙げられている心肺蘇生、腎臓移植、慢性的な低血圧への侵襲的な治療のリスクの大きさについては
素人の私でも確かに「そんなの問題にならない」なんて思わないほど大きいと思うのだけど、

この判決で注目される点として、とりあえず以下の4つを考えた。

①医師らの論理が
「最少意識状態の患者には無益だから、負担が大きな治療はしなくてよい」というふうに
無益論によって利益と負担の比較考量の必要を否定していることを、裁判所が突いた。
(「生き続けられること」を判事が利益だと前提していることに注目)

②最少意識状態のJamesさんへの「回復の見込みがない」との無益論の適用に、
「説得力がない」と判断された。

③無益かどうかの判断基準は「完全な健康状態への回復可能性」ではなく「一定のQOLへの回復可能性」。

④また無益性の判断基準は、回復可能なQOLを治療に値すると考えるかどうかについて
患者の主観的な受け止めとされたこと。

特に④の点は、
「無益な治療」論が患者の自己決定権の否定であることを考えると、
たいへん興味深い判決なのでは――?


他にも
当ブログで拾ってきた「無益な訴訟」事件で報道の情報から
「植物状態」というより「最少意識状態」または
意識はあっても意思を表出できにくい重症障害なのでは……という
印象を受けた事件も沢山ありますが、とりあえず
「最少意識状態」とされる患者さんの治療停止が問題になった最近の事件として、

ラスーリ事件
Hassan Rasouliさん、「植物状態」から「最少意識状態」へ診断変わる(2012/4/26)

Margo(仮名)または「女性M」事件
「生きるに値しないから死なせて」家族の訴えを、介護士らの証言で裁判所が却下(2011/10/4)
「介護保険情報」1月号でカナダ、オランダ、英国の“尊厳死”関連、書きました(2012/2/6)

「最少意識状態は植物状態よりマシか? 否。カネかかるだけ」とSavulescuとWilkinson(2012/9/8)


2012.12.14 / Top↑
たまには救いのあるニュースから……

英国のバス会社が路線バスの約70%で、失業者が無料で乗れるようにする計画があるらしい。対象者80万人。:これ、いい話だと思うなぁ……。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/10/unemployed-free-bus-travel

路上死したホームレスの男性のために、自身が2日路上生活をして募金を集め、地域の一員を弔う葬式を出した元ホームレスの男性。「彼は路上で死んだ。一つのコミュニティとして、我々はその事実を知り、きちんと受け止めて、それに対して何かをしなければならない」英国。:これも、考えさせられる話だなぁ……。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-devon-20628497


以下、いつも通り……

アイルランドのMarie Flemingさん(58)の死の自己決定権訴訟の審理で、国側は憲法で保障されているのは生きる権利であり、死ぬ権利というものはない、と主張。原告側は米国ユタ大学の生命倫理学者Margaret Battinがビデオで証言し、オレゴンで精神障害者がセーフガードから漏れている可能性は認めつつも、米国とオランダの研究では高齢者や貧困層、障害者への濫用は起こっていない、緩和ケアと自殺幇助が共に終末期の選択肢となるべきだ、と。
http://www.irishtimes.com/newspaper/breaking/2012/1211/breaking29.html
http://www.rte.ie/news/2012/1211/marie-fleming-court.html

カナダB.C.州の故Taylorさんを含む複数の訴訟の上訴審でも、3月に8団体から意見陳述の申請。
http://www.vancouversun.com/health/Range+intervener+groups+granted+status+landmark+righttodie/7677495/story.html

英国で、7歳の息子の脳腫瘍摘出手術後の抗がん剤治療をリスクが大きいと拒否した母親Sally Robertsさんが息子を連れて逃げて警察が手配する騒ぎに。見つかった後、術後のスキャンの影がガンだとはっきりしたら受けさせる、と。:当ブログが拾った同様の事件を以下にリンク。
http://www.guardian.co.uk/uk/2012/dec/10/runaway-mother-son-cancer-treatment

Mueller事件(2002) ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/29281298.html
(可能性5%の髄膜炎に腰椎穿刺はリスクが高いと母親が拒否し、親権はく奪)

Riley Rogers事件(2006) ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/29406662.html
(乳児の透析開始を予測した予備的外科措置を母親が時期尚早と拒否し、親権をはく奪)

Cherrix事件(2006) ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/13603796.html
(15歳の少年が抗がん剤治療を拒否し、裁判所が本人意思を尊重した
 mature mainor[成熟した未成年]概念に関連する有名な事件)

Hanna Jones事件(2008) ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/46162267.html
(13歳少女が延命効果ないと心臓移植を拒否)

Hauser事件(2009) ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52450971.html
(13歳の息子の抗がん剤治療を拒否し母親が息子を連れて逃亡)


ベンゾジアゼピンに肺炎リスク。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/popular-sedatives-may-raise-risk-for-pneumonia-a-study-says/2012/12/10/57c01042-6a25-11e1-acc6-32fefc7ccd67_story.html

【関連エントリー】
「英米でも深刻化する子どもの貧困」ほか書きました(2012/12/6):ベンゾジアゼピンに認知症リスク?
「認知症高齢者への抗精神病薬を巡る動き」を書きました(2012/11/7)


米国の病院で医師の高齢化による適性判断が問題になっている。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/as-doctors-grow-older-hospitals-begin-requiring-them-to-prove-theyre-still-fit/2012/12/10/42bb4d90-2d0e-11e2-a99d-5c4203af7b7a_story.html

日本語。iPS時代、政治化する生命 -尾関章の文理悠々「ここで痛感するのは、日本社会にはこうした新しい生命科学の本質をめぐる議論がほとんど見られないことだ」「自己決定のアメリカ」「秩序の整備をめざす欧州」「問題意識が希薄な日本」:ここに書かれているバイオバンク構想の関連だと思うけど、08年、09年と英国では国民DNAデータベースが着々と完成に向かっていたみたいな……(関連は以下にリンク)。
http://book.asahi.com/reviews/column/2012120500001.html

英国
中学の成績が一生データベースに?(2008/2/13)
国民DNAデータベースめぐり論争再燃(2008/2/24)
NHSの患者データから研究者が治験参加者を一本釣り?(2008/11/18)
「無実の人のDNAサンプル保管は人権侵害」と欧州人権裁判所(2008/12/6)
情報で国民を監視・管理する社会へ(英)(2009/1/11)
100万人以上の子どものDNA情報が国のデータベースに(英)(2009/2/27)
「英国政府のデータベース4分の1は人権侵害」と報告書(2009/3/24)
国民データベース諦めて、代わりに「ネットと電話利用歴みんな残せ」と英国政府(2009/4/28)
DNAサンプル目的で何でも逮捕、既に黒人の4分の3がデータベースに(2009/11/24)

米国
米国でも逮捕時採取のDNAサンプルを保管してデータベースに(2009/4/20)
米国でも犯罪者のDNAサンプル廃棄進まず(2009/6/10)


マイクロソフト社がウインドウズ8の販売やソフトのダウンロードなどによるオンライン上の支払分について、税率の低いルクセンブルクとアイルランドを経由することによって17000万ポンドの収入に対する英国の法人税の支払いを免れている、と非難を浴びている。マイクロソフト側は違法なことはしていない、と。他にもアマゾン、グーグル、スターバックスなどグローバルに展開する大企業に同様の指摘がされており、OECDではこうした多国籍企業が実際に商売している国とは別の国で収入を申告する税金逃れはどんどん巧妙・悪質化している、と。
http://www.telegraph.co.uk/finance/newsbysector/retailandconsumer/9733504/Tax-row-turns-to-Microsoft-over-1.7bn-of-online-revenues.html

米連邦政府環境保護局が、西部1500か所で帯水層の汚染の可能性を知りながらエネルギーと鉱山業者に事業を認め、有毒ミネラルで汚染させた、とProPublica。
http://www.propublica.org/article/poisoning-the-well-how-the-feds-let-industry-pollute-the-nations-undergroun
2012.12.14 / Top↑
9月に上梓した『新版 海のいる風景』を読んでくださったtu*a*さんから、
今日、とても嬉しいコメントをいただきました。

その中で、p.146の「障害はあるよりも、ない方がいいに決まっている」という個所について
違和感を指摘されているので、それについてお返事を書いていたら
簡単には済まなくなったので、エントリーを立てることにしました。

いただいたコメントの当該個所は以下です(スペースの関係で勝手に改行しました)。

でね、すごく素敵な本でひとりでもたくさんの傷ついてる親たち、
そして、その親たちを知らず知らずのうちに傷つけている人たちに読んで欲しい本です。
でもね、違和感もないわけじゃないです。いろんな人が指摘してるかもしれないけど、
「障害はあるよりも、ないほうがいいに決まってる」っていう部分。
それまでのところで、丁寧に海さんの障害とよりそう大切さが書かれているのに、
そこで急に突き放された感じがしました。

そして、tu*a*さんご自身がこの問題ついて書いてこられたものとして、
3つの文章のリンクを教えてくださいました。以下かなり舌足らずですが、
コメント欄に書くつもりで書き始め、長文になってしまったお返事です。

        ――――――

tu*a*さん、風邪だいじょうぶですか。インフルエンザでなければいいですが。
そんな大変な時に追加コメありがとうございます。
おっしゃること、とてもよくわかります。

tu*a*さんのツッコミは、インターネットでよくある「意固地な否定」でも「反発を伴う攻撃」でもなく、
いつも問題意識の共有へのお誘いであり、共に考えるための問いかけなので、本当にありがたく、
これを機に今の段階での私なりの思いや考えをちょっとだけ整理してみました。
貴重な機会を与えてくださって、ありがとうございます。

まず、今回の『新版』では、前後に書き足した以外の本論部分は「てにをは」程度の訂正のみで
10年前のままで出してもらっています。

今も不勉強のままだけど、これを書いた10年前はほんっと~~~に何も知りませんでした。
今の私ならこういう書き方はしないな、という個所は他にもいくつかありますが、
基本的には10年前に書いた部分は10年前に書いたものとして内容には手を加えないことにしたものです。

ご指摘の個所について、一つ言い訳すれば、
10年前にそういう程度の意識だった私には、
障害者を美化して「勇気をくれる普通以上の存在」に祭り上げる世間と、
障害は個性にすぎないと過剰に強調して、それに対抗しようとする人達双方への反発があって、
問題の下りでは、既に前者への反発を書いた後に後者への反発を書こうとしているのだと思います。

だから、私は野崎さんほどいろいろな思索を経ているわけではなくて
何も知らない一母親の感想みたいなものけれど、言わんとすることの方向性としては、
リンクしてくださった、こちらの2つのエントリーは全然ズレていないと思います。
(私のコメントはやっぱズレている気もしますが、私の連想は以下に書く①のところにあったのだろう、と)

http://tu-ta.at.webry.info/200908/article_18.html
http://tu-ta.at.webry.info/200909/article_1.html

「違う。個性じゃない、障害は障害であって、わざわざ個性だと別物に言いなしたり、
違いがあるのにないフリをして見せなくても、障害は障害だと認めたうえで、
障害とともに日々を幸福に生きていくことはできる」ということを言いたかったのだと思います。

それを言うために何の疑問もなく「ない方がいいに決まっている」と書いてしまえるほど、
10年前の私は問題意識が低かったということなんですけど、これを書いた時の私は、
社会から障害児者の存在そのものを否定される可能性になど頭が及んでいなくて、
目の前の世間サマの言動にイチイチ頭にきて鼻息を荒くしていたのでした。

tu*a*さんの最初のリンクの文章(http://www.arsvi.com/2000/0103tm.htm)は、
このブログで出会った頃に教えてもらったものだと思うんですけど、
私にとってはあの時が「障害はないにこしたことはないか」という問いと初めての出会いでした。
(その時のエントリーはここに ⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/47385557.html#47424234)

でも、あの頃はまだシンガーとか功利主義者からの攻撃について十分知らなかったから、
実はピンと来ていなかったんです。

あの後で、たしか意識の有無が治療の停止で問題になることを取り上げたエントリーで、
私が重症者の意識の有無は証明できないと書いたのに対して、
「では意識がなかったら死なせてもいいのか」とtu*a*さんが突っ込んでくださって、
それもまた私には、その問いとの初めて出会いでした。

(そのエントリーを見つけたくて、午後中ずっと探していたんですけど、
なにしろ4800くらいあるのを後ろからと前からと見て行ったのに、見つからなくてグヤジ~~~~)

あの時すぐに答えられず、そのままずっと抱えていて、
『アシュリー事件』を書く過程で少しずつ自分なりの答えを見つけていった気がします。
そして、tu*a*さんが投げかけてくださったあの問いと自分なりにそこで見つけた答えとが、
『アシュリー事件』のある個所を書くための土台になってくれました。

そんなふうに私はアシュリー事件との出会いから障害学や障害者運動について知り、
いろんな人と出会うことを通じて、本当の意味でものを考え始めたんだなぁ、と
今日の午後、コメント欄をたどりながら改めて痛感したところです。
tu*a*さんから教わったことは本当に多いです。

そうしてブログを6年やってきて、もちろん今の私は
146ページの文脈で「ない方がいいに決まっている」という単純な断言はしないと思いますが、
正直言うと「障害はないにこしたことはないか」という問いへの自分なりの答えは
今もまだきちんと書けるほどには出せていません。

障害のない人生を送らせてやりたかった、という親として素朴な思いは
尽きることのない悔いのようなものとして、ずっとあります。
娘に障害があること、それによって彼女の人生に制約が生じてしまっていることには、
やはり「悲しいことだ」と受け止めたり、感じる自分がいます。
私にとって障害はいつも娘から「奪って行くもの」だったし、
成人して障害は重度化しており、これからさらに娘から奪われていくものを思うと、
本当に悲しく、やりきれない思いになります。

ただ、だからといって、それは現在の娘を否定する思いではないし、
今の娘を見て不幸だとも思わない。むしろ、うちの娘は
彼女なりに幸せに暮らしているように見える。

介護者支援の必要を訴えようと思えば、
介護負担のことや離職からの傷ばかりを語ってしまうことになるし、
それらはすべて真実だけれど、それは一面の真実であって、それがすべてなわけじゃない。
しんどいことも悲しいこともないわけじゃないけれど、海の母親として自分を不幸だと感じてはいません。
むしろ、私はこの子の母親であることをとても幸せだと感じています。それは父親も同じです。

個々の事柄や状況については苦だとか悲しいことと感じることはあるけど、
だからといって娘や私たち親がそのために人として不幸だとか、
私たちそれぞれの人生が不幸だというふうには感じていないし、
そんなふうにして日々を生きているのは障害のある人とその家族に限らず、
誰にとっても、人が生きるということそのものがそういうことなんでは――? 

敢えて言ってみれば、そんな感じでしょうか。

親として娘の障害に向ける思いはひと色ではなく、
そこには様々に相矛盾する思いがあって、それらの思いが、たとえば
新型出生前遺伝子診断を巡る議論と自分の中でどのように接続していくのか。

そういうところまでは、まだきちんと考え詰められていません。
これもまた前回と同じく、tu*a*さんからもらった宿題として抱えさせてください。

ただ、せっかくなので、今の段階でこの問いについて考えることを3つばかり、以下に。

① 本来、選べないことをあたかも選べるかのように問うことへの疑問。
何のために問うのか、その問いには予め議論の方向性が設定されていることの問題。

例えば以下のエントリーに書いたような疑問です ↓
「健康で5年しか生きられない」のと「重症障害者として15年生きる」のでは、どっちがいい?(2010/8/20)
障害者差別としてボツになった配給医療基準「オレゴン・プラン」が、HIMEによってグローバルに復活することの怪(2011/12/20)

② シンガーやトランスヒューマ二ストの人間観は
人をそれぞれの「能力の総和」として捉えて、しかもバラバラに存在する個体とみなしていて
その個体の能力が高くなればその個体がそれだけ幸福になる、といった数式か記号のような存在だけれど、

本来、人間はもっと関係的な生を生きており、
人と関わり繋がりあって、その関係性の中から生じてくる
「あなたにとってかけがえのない私」「私にとってかけがえのないあなた」であるような
「かけがえのなさ」を生きる存在なのだと考えれば、

そうした問いに前提されている「能力が高い方が優れている」「能力が高ければそれだけ幸福である」
という人間観そのものが間違っているんでは?

③ それからtu*a*さんが結論されているように「『ないにこしたことはない』と強調し過ぎることが
そう思わない人の生き難さを強要するのであれば、それはやめたほうがいい」と同時に、

こうした議論が繰り返されることによって、
他者に対する想像力がさほど高くはない10年前の私のような、
ごく普通に「知らない」「余り考えていない」人が引きずられて「そうだ」と思わされ、
それが「どうせ」の共有に繋がって、昨今の「障害のある生は生きるに値しない」価値意識へ、
さらに「救うに値しない」意識の拡大につながるのだとしたら、
繰り返す前に、立ち止まって、それを問うこと問われることの意味そのものを振り返ってみた方がいい。

ここから先は、また時間をかけてぐるぐるしながら
自分なりにtu*a*さんからもらった宿題と向き合っていきたいと思います。
いつか、ゆっくりお目にかかって、このことについても語り合えたら、すごく嬉しいです。
(とはいえコメント欄でのご提案の場は私にはちょっと荷が重いですが)

本当にありがとうございました。風邪、大事にしてくださいね。

うちの娘も土曜日の夜中にいきなり高い熱を出して、悪寒でガチガチしながら唸り続けて可哀そうでした。
でも日頃は他人の中で立派に暮らしている25歳の彼女に、まだこうして熱を出したら
唸って甘えられる場所になってやれていることが、なんだかしみじみとありがたかったです。
熱はそれきりで、もう元気になったみたい。

tu*a*さんが今ごろ高熱で唸っていませんように。
2012.12.14 / Top↑
オランダの2011年の安楽死についての報告書が出ている。

Regional euthanasia review committees Annual report 2011


報告書そのものはなかなか読み切れないので、
これについてのBioEdgeの以下の記事から。

2011年の安楽死は3695件で
前年よりも18%の増。

地域ごとに置かれた5つの安楽死委員会は
本来なら医師からの報告書を受けて合法に行われたかどうかを判断し、
42日以内にその結果を医師らに通知しなければならない。

しかし安楽死件数の増加に追い付かず委員会が人手不足になっているため、
法律で定められた期限内に検証結果を関係した医師らに交付することができないという
「受け入れがたい」「適法ではない」状況となっている。

もっとも3つの地域では50日で出しているし、
最悪でも175日で出しており、平均では111日。

3695件のうち、委員会が法律の通りに実施されていないと判断して
the Board of Procurators Generalとthe Healthcare Inspectorateに送ったのは4件のみ。
その内容については報告書は触れていない。

また、安楽死を報告しない医師らがいる問題にも
この報告書は触れていない。

今年7月にLancetで米国の医師Bernard Loが指摘したところでは
安楽死を行った医師の20%は報告しておらず、
それらが患者の意思に基づくものか否かは知りようがない。

Report on Dutch euthanasia for 2011 released
BioEdge, December 7, 2012



Lancetで今年7月に行われた関連の議論については
こちらのBioEdgeのエントリーに ↓
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10158
2012.12.14 / Top↑
昨日の補遺と今朝のエントリーで取り上げたベルギーの安楽死の実態報告書に関する
BioEdgeの記事を読んでみました。

Michael Cookによると、
この報告書の中心テーマは安楽死監視評価委員会がまともに機能していない、という点。

10年間に約5500件の安楽死が行われ、
そのうちの一件として警察に通報されたものがないことから、
この調査を行ったEuropean Institute of Bioethics(IEB)では
医師らが互いの過ちを糾弾し合えると期待するのは幻想だ、と。

さらにコントロールとアセスメント委員会の16人と規定されるメンバーの約半数が
ベルギーで力のある死の権利協会のメンバーだといい、
IEBはコントロールが効いていないのも拡大解釈もそれで説明できる、と。

その結果として濫用が起こっており、
その事例としてCookが挙げているのは、


・患者または代理人の書面による安楽死希望の意思表示が必要とされているが、
委員会はしばしばこの義務規定を免除している。

・当初、患者は命を脅かされる病気または不治の病気であることと規定されていたが
昨今では単に重病で衰弱を伴うなら対象とされている。

・苦痛が耐え難く、緩和不能であることとされているはずでありながら、
患者は苦痛緩和のための薬を拒否することができる。
つまり「委員会は、苦痛の耐え難さや緩和不能であることを確認するという
法の中核であるべき役割を果たさないと決めてしまっている」。

・「心理的な苦痛」の境界線が拡大し続けている。

・2002年の法律では医師による自殺幇助は認められていないにもかかわらず、
委員会はこれを無視し、自殺幇助の事件を日常的に見逃している。

・患者が自宅で安楽死する場合には、医師が自分で薬局に行き、
登録している薬剤師から致死薬を受け取って、使用後の余剰分は返却しなければならないが、
実際には家族が薬局へ行き、資格のないスタッフが薬を出し、
余剰分についてはノーチェックになることが多い。


ちなみに報告書英語版の結論部分全文の仮訳はこちらに。

Euthanasia “trivialized” in Belgium: report by bioethics institute
BioEdge, December 9, 2012


安楽死や自殺幇助で処方された薬のトラッキングについては
私もずっと疑問に感じていることの一つ。

例えば、こことかに書いています ↓
WA州で尊厳死法施行に。処方された致死薬のトラッキングは?(2009/3/6)
WA州の尊厳死法、自殺者11人に(2009/9/9)


【ベルギーの「安楽死後臓器提供」関連エントリー】
ベルギーで2年前にロックトインの女性、「安楽死後臓器提供」(2010/5/9)
ベルギーの医師らが「安楽死後臓器提供」を学会発表、既にプロトコルまで(2011/1/26)
ベルギーの「安楽死後臓器提供」、やっぱり「無益な治療」論がチラついている?(2011/2/7)
ベルギーの「安楽死後臓器提供」9例に(2012/10/5)

【その他、ベルギーの安楽死関連エントリー】
ベルギーでは2002年の合法化以来2700人が幇助自殺(2009/4/4)
幇助自殺が急増し全死者数の2%にも(ベルギー)(2009/9/11)
ベルギーにおける安楽死、自殺ほう助の実態調査(2010/5/19)
ベルギーで「知的障害者、子どもと認知症患者にも安楽死を求める権利を」(2012/5/5)
「安楽死後臓器提供」のベルギーで、今度は囚人に安楽死(2012/9/15)
2012.12.14 / Top↑
昨日の補遺で拾った
European Institute of Bioethics のベルギーの安楽死に関する報告書、
読みやすそうなので、その内にはと思うものの、すぐには読めないので、
報告書のニュアンスがわかりやすそうな結論部分のみ、とりあえず全訳してみました。

報告書の英語版全文はこちら
http://www.ieb-eib.org/fr/pdf/dossier-euthanasia-in-belgium-10-years.pdf


Conclusion
結論

It ought, once again, to be pointed out that, far from establishing a right to euthanasia, the law of May 28, 2002 has only partially legalized euthanasia, under stringent conditions, in order to ensure the legal security of those engaged in the process and of providing such medical practices with a legal framework. Legal action will not be brought against medical practitioners for having intentionally killed a patient who had made such a request if the conditions provided for by the law are met.
再び指摘しておくべきこととして、2002年5月28日の法律は安楽死の権利を確立したものではなく、その過程に関わり、そうした医療を提供する者に、法的な枠組みによって法的保護を保障するべく、単に厳格な条件のもとで部分的に安楽死を合法化したにすぎない。

As is the case in all penal laws, this law has to be strictly interpreted lest it be of seeing it stripped of any substance. It is not for the Commission, appointed to control and assess the law, to provide an ever-widening interpretation of its terms, with this going so far as to negate the initial spirit of the text and of doing away with the control of decisive legal criteria.
すべての刑法と同じく、この法律も実態を損なわないためには厳密に解釈されなければならない。同法の監督と評価の目的で任命された委員会は勝手に拡大解釈を提供する立場にはなく、まして、それによって法文の当初の精神を否定したり、決定的な法的基準の監督を放棄する立場にはない。

Ought one not also to reflect on the relevance of upholding a system of control after the event (a posteriori) based on the medical practitioner’s declarations, with this no doubt being a fairly unreliable system for ending clandestine practices?
また、医療職からの報告に基づいて事後的に監督するシステムを続けることの妥当性についても、検討するべきではないだろうか。このシステムは、秘密裏の安楽死をなくすためには明らかに信頼性が乏しい。

But above all, would it not be more appropriate for the legislator to once again take his rightful place? He would, then, have been in a position to hear the recent appeal by the Council of Europe’s parliamentary Assembly in favour of an absolute ban on euthanasia. In all events, one may hope that the legislator would intervene to redefine the criteria enabling euthanasia to be carried out within the confines of the law.
しかし何よりもまず、立法者が今一度、立法者としての立場に立ちかえるべきではなかろうか。そうすれば、先ごろの欧州評議会議員会議による安楽死の全面禁止アピールにも耳を傾けることになろう。なによりも、立法者は安楽死が法の定める範囲内で実行されるべく介入し基準の再定義を行うことが望ましかろう。

A truly pluralistic debate would help to stem the growing trivialization of euthanasia in Europe where, let us not forget, Belgium, the Netherlands and Luxembourg are the exception.
真に多元的な議論が行われれば、ヨーロッパで広がる安楽死のtrivialization(一般化? 日常化? 大したことではないとする動き)にブレーキをかけられるだろう。ヨーロッパではベルギー、オランダ、ルクセンブルクは例外なのだということを忘れてはならない。


どういう実態が報告されているかについては、
これらの各段落で書かれていることを裏返してみればよい、ということですね。

厳密な条件下で医療職への法的保護の目的で限定的に合法化したにすぎない法律が
「安楽死の権利」を認めた法律と誤って扱われるようになっている――。

ウォッチドッグであるはずの委員会が
拡大解釈によって法の精神を逸脱し、本来の役割を放棄している――。

(ちらっと読んだところでは
委員会のメンバー構成そのものが安楽死推進の立場の人物で多く占められている、との指摘も)

事後監督のシステムでは闇の安楽死はなくせない――。

基準の再定義が必要なほど法の範囲を逸脱した安楽死の実態がある――。
2012.12.14 / Top↑
ベルギーの安楽死合法化から10年。この10年の同国の安楽死の実態についてEuropean Institute of Bioethicsから報告書。
http://www.ieb-eib.org/fr/pdf/dossier-euthanasia-in-belgium-10-years.pdf

BioEdgeのCookによると、上記報告書では法のセーフガードがきちんと機能していない実態が報告されている模様。:このBioEdge自体、まだ読めていませんが。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10339#comments

オランダからも2011年の安楽死の実態報告。こちらも同様らしいCookのトーン。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10334#comments

MT州のPAS合法化議論で、医師の誤診の危険性を指摘する患者の実体験。
http://www.ravallirepublic.com/news/opinion/mailbag/article_91d0a4cc-c434-5a41-9459-c808bf523634.html

ハワイ州医師会が自殺幇助合法化に反対。:ハワイも合法化に向けた圧力が高まっている州のひとつ。
http://www.civilbeat.com/voices/2012/12/05/17756-hawaii-medical-association-opposes-physician-assisted-suicide/

明日、カナダのラスーリ「無益な治療」訴訟で口頭弁論。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/12/rasouli-case-to-be-heard-by-supreme.html

【ラスーリ事件関連エントリー】
「“治療停止”も“治療”だから同意は必要」とOntario上位裁判所(2011/5/17)
「患者に選択や同意させてて医療がやってられるか」Razouli裁判続報(2011/5/19)
カナダのRasouli事件、最高裁へ(2011/12/23)
Hassan Rasouliさん、「植物状態」から「最少意識状態」へ診断変わる(2012/4/26)


日本。20~40代は「はしか」「風しん」を 大人が受けたい新ワクチン 日経ヘルス
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0701K_X01C12A2000000/

日本。臓器作成「許されない」45% iPS細胞使い動物体内で。
http://www.47news.jp/CN/201212/CN2012120601001960.html

“ノーマル”で健康な人だって平均して400もの遺伝子上の欠陥がある。:この前の新型出生前遺伝子診断を巡るシンポでの日本ダウン症協会の玉井邦夫さんの「どんなDNAなら生まれてきていいのか」という発言を思い出す。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253772.php

英国で、さらなる社会福祉カットを行わないと政府が持たない、と。:国家はもう破たんしているんだと何年も前に誰かから聞いたけど、その後、自分でいろいろ知るにつれ、本当にそうだと思う。1%に富が集中し、その1%がどんどん強欲ひとでなし化するグローバルな仕組みの中では、国ごとの財政危機は本当は既に国家レベルの政治や経済施策の問題ではなくなっているんだと思う。
http://www.guardian.co.uk/politics/2012/dec/06/welfare-cuts-public-sector-ifs

Meals on Wheelsという歴史の古い配食ボランティアによって高齢者の在宅生活が維持できる可能性がアップする、との指摘(米)。:08年ごろに、そのMeals on Wheelsが資金難に陥っているという記事を読んだ記憶がある。……あった。あまり良いエントリーではないけれど、⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/40905719.html
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253590.php

英国で終身刑の人道性が議論になっている。
http://www.guardian.co.uk/law/2012/dec/05/whole-life-prison-sentence-human-rights
2012.12.14 / Top↑
カナダのバンクーバーで
米国のシャイボ事件と似たような構図の訴訟が起きているのだけれど、

抵抗している家族から
当ブログでも追いかけてきたAdrian Owen教授の被験者に、という希望が出て
Owen教授側も受け入れそうな気配。

妻から栄養と水分の停止を求められているのは57歳のKenny Ngさん。
2005年の9月に交通事故に会い、以来7年間ずっと植物状態だという。

(不可解なのは、記事の後半には「事故以来、最少意識状態」と書かれていること。
もしかして植物状態も最少意識状態も区別できない記者が書いているのか?)

医師らは事故直後から生命維持は中止するのが適切だと勧めたが
妻も当初は希望を捨てず、鍼灸師を雇ったり、
刺激するために町に連れ出してみたりしていたのだという。

が、そのうちに、そうした努力も無益だと考えるようになり、
経管栄養の中止を要望することに。

しかし、Ngさんの両親をはじめとする親族が
これに抵抗して訴訟を起こし、

妻はもはや本人の最善の利益を考えていないので
代理決定権者としてふさわしくなく、代理決定権をはく奪するよう申し立てた。

Ngさんはエンジニアで、ガソリン分析機器の販売会社を興して成功していた。

家族側は
妻の行動は2006年に330万ドルと言われたNgさんの資産を狙ったものだと非難し、

自力呼吸があり、頭も動かせば音声を発し、目も開けるNgさんは
「ちゃんと生きている (very much alive)」と主張。

Ngさんが見舞い客に反射的に(これは具体的にどういう意味なのか?)応じている
ビデオを法廷で見せた。

妻側は
家族はNgさんの現実の病状を受け入れられないだけだと批判し、

最近のAlbertaの無益な治療訴訟で
意識がなく回復の見込みもなく、侵襲的な治療が無益であると
医療職が全員一致で判断したなら生命維持は中止すべきだとの判断で
両親の生命維持続行の訴えが却下された女児の事件に触れて、

Ngさんの状況はそれとまったく同じなのに
家族は自分たちが諦めきれないだけでNgさんの尊厳を侵している、と主張。

それに対して家族側は、Ngさんを
植物状態の患者と脳スキャンを通じてコミュニケーションを図る研究をしている
Owen教授のチームの被験者にして、アセスメントしてほしい、と希望。

Owen教授側も、諸条件から考えて拒否する理由はない、と言っている。

この記事によると、
Owen教授は2010年には英国のケンブリッジにいたが、
その後2011年にウエスタン・オンタリオ大学が2000万ドルで招へい。

Family fights over fate of severely brain injured man
Wife wants tubes removed, family sees hope in recent breakthroughs
The Vancouver Sun, December 5, 2012



【Owen教授の研究に関するエントリー】
「植物状態」5例に2例は誤診?(2008/9/15)
植物状態の人と脳スキャンでコミュニケーションが可能になった……けど?(2010/2/4))
Hassan Rasouliさん、「植物状態」から「最少意識状態」へ診断変わる(2012/4/26)
Owen教授の研究で、12年以上「植物状態」だった患者に意識があることが判明(2012/11/13)


なお、記事の中で触れられている「最近のアルベルタの事件」とは
9月27日の補遺などで拾っているBaby Mの事件のことではないかと思う。

これは非常に気になる事件なのだけど、
まだ、ちゃんと読めていない。
2012.12.14 / Top↑
当ブログでも追いかけてきたOwen教授の研究成果で、カナダの「無益な治療」訴訟が面白いことになってきた。7年前の交通事故から植物状態のKenney NG(57)の経管栄養の停止を巡る訴訟で、親族がOwen博士のアセスメントを求めている。これは必ずやエントリーに。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/12/in-re-kenny-ng-bc-court-asked-to-order.html

ミシガン州で、無益な治療に関する方針を病院ごとにディスクローズさせる州法ができた。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/12/michigan-to-mandate-disclosure-of.html

アイルランドでMSの女性Marie Flemingさんが自殺幇助を巡って法の明確化をDPPに求める訴訟を起こしている。:カトリックの国だから余計に衝撃的なのかもしれないけれど、報道続々。英国では同じくMSのDebbie Purdyさんが起こした訴訟でDPPのガイドラインができた。
http://www.independent.ie/national-news/ms-victim-wants-dpp-to-explain-legal-position-on-assisted-suicide-3317491.html
http://www.independent.ie/national-news/courts/paralysed-woman-says-assisted-suicide-is-only-way-she-can-escape-horrible-death-3315954.html
http://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/ojqlgbgbqlmh/
http://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/lawyers-point-to-cruel-irony-as-woman-fights-assisted-suicide-law-576739.html
http://www.reuters.com/article/2012/12/04/ireland-euthanasia-idUSL5E8N4DKA20121204

米VT州知事が次期議会で自殺幇助合法化法案の提出を明言。
http://www.lifesitenews.com/news/vermont-governor-confident-assisted-suicide-will-pass-next-year/

議会に合法化法案が提出されたNJ州の世論調査で、過半数が賛成。
http://www.nj.com/politics/index.ssf/2012/12/nj_politics_roundup_assisted-s.html

MT州はPASを「合法化」したわけではない。:メディアはよく「米国ではOR、WA、MTで合法化されている」と書くけど、MTはバクスター訴訟で合憲判断が出たものの、合法化された訳ではないのに、という疑問を私もいつも感じている。
http://billingsgazette.com/news/opinion/mailbag/montana-has-not-legalized-assisted-suicide/article_758a6b1d-dc3d-5488-9750-a13b37d7d1ef.html

【モンタナ州自殺幇助議論関連エントリー】
裁判所が自殺幇助認めたものの、やってくれる医師がいない?(MT州)(2009/4/6)
合法とされたMT州で自殺幇助受けられず子宮がん患者が死亡(2009/6/18)
自殺幇助を州憲法で認められたプライバシー権とするか、2日からモンタナ最高裁(2009/9/1)
モンタナの裁判で「どうせ死ぬんだから殺すことにはならない」(2009/9/3)
モンタナ州最高裁、医師による自殺幇助は合法と判断(2010/1/2)
MT州最高裁の判決文をちょっとだけ読んでみた(2010/1/5)
合法化判決出ても医師ら自殺ほう助の手続きに慎重(2010/1/11)
モンタナの自殺幇助問題 続報(2010/1/1)
Montanaで最高裁判決後、少なくとも1人にPAS(2010/4/10)


恋人からのDVで失明した女性が家族に殺してほしいと頼むほどの絶望から生きる希望を取り戻すまで。:この人だって、ディグニタスに行けば死なせてもらえる時代というか世界。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/04/blinded-woman-wanted-to-die

BNJに発表された論文で、未熟児の生存率が上がっているとの調査結果。:このデータがどのように利用されていくのか……。例のシアトルこども病院などがやっている早産撲滅キャンペーンが気になる。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/05/survival-rates-premature-babies-rise

DSM―5でアスペルガーが自閉症に統合され、識字障害dyslexiaカテゴリーが拡大された。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/02/aspergers-syndrome-dropped-psychiatric-dsm

ビタミンDと女性の認知機能維持との関連性。:ビタミンD、スタチン、アスピリン……予防医学の三種の神器?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253481.php

NHSの病院のベッドが94%埋まって、危機状態。ケアの質が担保されるのは85%までだとか。:統廃合を進めてきたツケ? ⇒ 英国医療改革のポピュリズム(2009/1/9)
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/03/hospital-beds-occupied-government-figures

NHS病院の看護の質があまりに酷い、と夫を亡くした議員からの告発。それを受け、キャメロン首相も事実として高齢者へのナースのケアの質の低さを認める。:この批判は2006年からずっと続いている。自分で食べられない高齢の入院患者は低栄養状態だという調査結果は何度も出ているし。例えば2年前にも ⇒ 清拭も食事もトイレ介助もなし……の英国NHSの病院ケア(2010/2/25) 最近は例のLCP問題もある。そういう医療の実態も英国でのPAS合法化議論には影響している、なんてことは?
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/04/ann-clwyd-husband-died-hen
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/05/cameron-nhs-nursing-ann-clwyd?CMP=EMCNEWEML1355

英国の社会保障費カットでホームレスが急増。特に子どものいる家庭で。この問題、「介護保険情報」の連載で書いたばかり ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65870139.html
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/04/benefit-cuts-rise-homelessness

有害廃棄物を象牙海岸に投棄して多数の死傷者を出したTrafiguraに、ザンビアの法務大臣(関連企業の社主)への贈収賄疑惑。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/03/trafigura-zambia-bribery-allegations

【Trafigura事件関連エントリー】
象牙海岸の悲惨(2007/12/15)
「象牙海岸で先進国の有害ゴミによる死傷者多数」事件:続報(2008/10/24)
先進国の有害廃棄物でアフリカから3万人超える集団訴訟、最近はマフィアが核廃棄物を海に(2009/9/19)
アフリカに有害ごみ撒いた悪徳企業がメディアの“口封じ”狙うも、ネット・ユーザーに敗北(2009/10/14)


米国で開発されている自律ロボット兵器はリスクが大きすぎるので、開発を辞めるべきだ、とNoel Sharkeyという人が。:この話題はずっと前から時々追いかけているけど、本当に恐ろしい。誤ってターゲットにロックされてしまうと、何があっても絶対に殺されてしまう。エラーを修正する人間の速度はとてもじゃないけど精密ロボットの行動には追いつかない。この記事はちゃんと読んで戦慄したので、エントリーに書きたいけど余裕がないかもしれない。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/dec/03/mindless-killer-robots

【関連エントリー】
英国王立協会が脳科学の軍事応用に警告(2012/2/8)
2012.12.14 / Top↑
12月4日に行われた上院議会での
国連障害者権利条約の批准を巡る投票で、

反対 61 vs 賛成 38 。

共和党の前大統領候補で第二次世界大戦で負傷し車いす使用者であるBob Doleや、
ヴェトナム戦争で負傷したJohn McCain(共和党)なども批准を強く呼びかけたが、

同じく共和党の前大統領候補Rick Santorumなど極右のティ・パーティは
この条約は米国の主権と親の権利を侵す、と批准に反対していた。

Republicans block U.N. treaty to protect people with disabilities
REUTERS, December 4, 2012


投票前日に、NYTが社説で批准を呼び掛けていた ↓

Treaty Rights for the Disabled
NYT, December 3, 2012


【関連エントリー】
Obama大統領、今日、国連障害者権利条約に署名(2009/7/24)
2012.12.14 / Top↑
前のエントリーからの続きです。


④ 早稲田大学文化構想学部現代人間論系教授 村松聡さんのお話

・法的に問題がないということは必ずしも倫理的に問題がないということを意味しない。

・ドイツではリビング・ウィル法を通すのに10年も議論が続いた。
尊厳死法を日本で作ろうとするなら、まずインフォームドコンセントとか自律について
国民的な議論から始めることが必要では。

・自分の親が病院で亡くなる前に病院に通っては一生懸命に声をかけていると、
医師が「話しかけても犬とか猫程度の意識しかないですよ」と。
言葉の是非はともかく、他者への想像力があるかないかの問題が大きいのでは?


⑤ 日本ALS協会副会長の岡部宏生さんのお話
(ヘルパーの方が「あかさたな…」と読みあげることで一文字ずつ聞きとられた)

人工呼吸器をつけることについては迷いがあったし、
死ぬことも、つけて生きることも怖かったけれど、
つけて生きている姿を自分が見せることで人を勇気づけられるならと考えて選択した。

今でも怖いけれど、怖いと思えば思うほどに
今を大事に生きようと思うようになった。

自分は弱いので、死にたくなる時もある。
法律ができてしまうと、そういう時に意思表示してしまって、
取り返しのつかないことになるので、こういう法律は作らないでほしい。


⑥ 会場の学生さんの一人から出た質問

川口さんはお母さんを殺そうと思って子どもの寝顔を見て思いとどまった、
同じ思いや経験は障害児の親はみんなしているとおっしゃったけれど、
それならば逆に、尊厳死が法律で認められることによって、むしろ
家族がそうした苦悩から救われるという考え方もあるのでは?

これについては、
その後の川口さんと司会の岡部耕典さんの発言のすべてに
心がヒリヒリして胸が詰まるようで、あまり記憶していないのだけど、
その学生さんのゼミ担当教師であると同時に知的障害のある子どもを持つ親でもある岡部さんが
「本当に悩まないでいいのかな」と問い返されたことがとても印象的だった。


⑦ いきなりムチャ振りされたspitzibaraの悶々の発言

その岡部さんから、上記質問に重症者の親の立場からリアクションを求められて、
動転したまま語った(つもりの)ことは概ね以下。
(実際にそう聞こえたかどうかは、とりとめのない未整理な発言になったので???)

私にも川口さんと同じように
介護で限界を超えた時に娘を殺そうと思ったことがある。

また、娘が腸ねん転の手術を受けた時に、
「どうせ何も分からない重症児」と術後の痛み止めすら入れてもらえない、
とても差別的な医療でイチイチ娘が苦しめられるのを見て、
このまま嬲り殺しにされるなら、いっそ死なせてやってほしいと願ったし、
自分で病院から連れ出して一緒に死ぬことまで思いつめた。

でも、娘がその体験を生き延びてくれた時、
生きていてくれてよかったと嬉しかったし、
今25歳になってキャピキャピ暮らしている娘を見て
やはり生きていてくれることが嬉しい。

家族は殺したいのではなく、
殺す以外に生きられない状況に追い詰められるから殺すことを考える。

人の気持ちが、死にたいと思ったり生きていてよかったと揺らぐのは
障害のある人や家族だけじゃなく、誰にとっても生きているというのが本当はそういうことなんでは?

この時の体験は大きなトラウマを残しているので
いくつものエントリーで書いており、例えば以下など。

医療職の無知が障害者を殺す?(2008/4/23)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失(2009/4/1)
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失(2009/4/1)
「NHSは助かるはずの知的障害者を組織的差別で死なせている」とMencap(2012/1/3)

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3日間、多くの方のお話を聞き、多くの方と語り合って、
たくさんのことを考え、まだ頭の中が整理できていないけど、
今たちまち思うのは、

・過剰であれ不足であれ「良い医療が受けられないなら尊厳死の方がマシ」というのが
実際のところ、尊厳死に賛成という多くの人の本当の気持ちなのでは?

・では、本当は多くの人が願っているのは「死なせてもらうこと」ではなく
「過不足のない適切な医療を受けられること」なのでは?
それならば皆でそちらを考えるべきなのでは?

日本の尊厳死合法化議論を巡る4つの疑問

・今でも障害者や高齢者などの弱者は
スタンダードな医療すら十分に受けられていないという問題は
英米でももう何年も指摘され続けているし、最近いくつかの報告書でも報告されている。
(障害者については英国ではMencapから、米国ではNDRNから)

英語圏で進む「無益な治療」論では、そうした差別はむしろ強化されているし、
論理的に言っても患者の生死の自己決定権は無益な治療論とは両立しないのでは?

それならば「死なせる」議論の前に
まず「誰でもスタンダードの医療を受けられること」を保障してほしい。

・学生さんの質問を聞いて、
尊厳死について考えようにも直接体験がなければ
頭の中で、論理で考えようとしてしまうのかもしれない、と思った。

人間は論理だけで生きているわけではないのだけれど、
この問題が、村松先生の発言の「他者への想像力があるかどうか」にもつながるし、
また当ブログで繰り返し指摘してきた学者の「論理のパズル」の限界にもつながる気がする。

だからこそ、直接体験がなくて論理で考えるしかない人たちの中に、
今回この講演会に参加し、考えてみようとしたり、
敢えて発言・質問してみようとしてくれる人がいるなら、

そういう人たちにこそ論理で「論じる」のではなく、
直接体験や、そこにある論理では線を引くことも白黒も付けにくい複雑な思いなど
論理で論じたのでは取りこぼされてしまうところにあるものを
丁寧に「物語る」ことによって伝えていく努力が必要なのだろうな、
……といったことを改めて考えさせられた。


それから、余談だけど、
早稲田の講演会が終わった時に、とても嬉しいことがあった。

終了と同時に前の席に座っておられた見も知らない女性が振り向かれて、
「もしかして……」と私の名前を確認されたので、
「そうですけど、どうして分かったんですか?」と訊くと、

拙著『アシュリー事件』を読んでくださったとのこと。
それでこういう問題について知り考えなければならないと思って
この講演会を聞きに来たんです、と語ってくださった。

私が発言を求められた時に名前が出たので、
もしかしたらそうかなと思っていたとおっしゃって、
ブログ読んでくださっている、とも。

思いがけないことに、もう舞い上がりそうに嬉しかった。
(飛びついてってハグしたいのを、何とか思いとどまった)

お名前も聞かないまま、お別れしてしまったけれど、
この場を借りて、改めてお礼を。

こんな地味なブログでも、いろいろと叩かれたりメゲることがあり、
時には世の中が変わる速度の余りの速さ激しさに絶望してしまって、
わたしって何バカなことやっているんだろうと思ったり、
もうブログやめようかと思ったり、迷いばかりなのですが、

このブログの5年間をまとめた本を読んでくださった方が
それをきっかけに尊厳死を考える講演会に足を運んでくださったなんて、
こんなに嬉しいことはなかったです。

また私は滅多に東京になど出かけられない田舎暮らしなのに、
その数少ない機会に、同じ講演会に行き合わせることができたばかりか
隣同士に座り合わせていたという偶然もまた、無性に嬉しくて、

大きな大きな勇気をいただきました。

声をかけていただいて、
本当にありがとうございました。


3日間の間に本当に多くの方と出会いをいただいて、
また親しく語り会わせていただいて、実り多い幸せな時を過ごさせていただきました。

貴重な機会を下さったTIL事務局長の野口俊彦さん始め、
お世話になった関係者の皆さんに厚くお礼申しあげます。

みなさん、本当にありがとうございました。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
2012.12.14 / Top↑
3日ほど出掛けていました。
その間に日本における尊厳死法制化の問題を考える集まり2つを覗いて、
多くの方のお話を聞き、共に語り、また多くの方々と新たな出会いをいただきました。

深く考えさせられるお話が多かったので、
まだ頭の中はぐるぐるしていて整理して書けるところまでは行きついていないのですが、

いくつかお聞きしたお話の中で書きとめておきたいものを
私自身のメモとしても。

① 筋ジスの方のお話。

15年前に筋ジスになって、将来、呼吸器をつけるかどうかを考えた時に、
呼吸器をつけたら家族への負担が大きいし共倒れになってはいけないと思って、
母と兄に「つけないで」と頼んだ。

その後、酸欠状態になって意識不明となった時に医師が家族に言ったのは、
「呼吸器をつけても、植物状態だから二度と意識は戻りませんよ」だったそうだ。

それでも兄と母は「つけてください」と言ってくれて、
人工呼吸器をつけたら6時間後に意識が戻った。

自分は意識が戻ってみたら呼吸器をつけていた、ということになったけど、
もともと「つけないで」と家族に頼んだのは死を望んだのではなくて、
家族への負担になりたくないという思いで言ったことだった。

もしも15年前に、今準備されているような尊厳死法ができていたら、
私は今ここにいなかった。

今、呼ネットでは呼吸器をつけてからのサポートが大切だという運動をしている。


② 障害当事者の方が家族を亡くされた直接体験から投げかけられた疑問。

・家族として延命治療はどうするかと意思決定を求められても、
延命と救命は本当にきっちりと線引きができるものだろうか、と疑問だった。

・3ヶ月で転院を求められるという話はよく聞くが、
実際には入院から1カ月くらいから他を探せと言われて、
転院する時には「もうここへは戻ってこないように」とまで言い渡された。

・高齢者だから、もうこの辺りで積極的な治療はいいでしょう、みたいな
雰囲気が医療サイドにあるように感じた。

・そういう体験から、映画「終の信託」には納得できなかった。

この方の発言の趣旨は、御本人のブログにとても丁寧に書かれているので、
ぜひ、読んでください  ↓

救命と延命…「終(つい)の信託」考
ブログ「ポケット小僧の気まぐれダイアリー」(2012年11月25日)

大事なことがたくさん書かれているブログなので、
他のエントリーもこれから読ませていただこうと思っています。


③ 『逝かない身体』の川口有美子さんのお話

12月4日、早稲田大学でのこちらの講演会。

『逝かない身体』は読んでいるので、
その内容以外でのお話のポイントをいくつか。

・議連の「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案(仮称)」の
ポイントは医師の免責と自己決定。
実際に作ったのは日本尊厳死協会と厚労省医政局。
どうすれば良い看取りができるかを知らない人たちが作っている。

・現場の医師が疲れ切っていることと、医師が介護やケアに興味がないことから
医療の倫理感が崩れ、治せないなら楽に死なせてあげようという発想になってしまうが
社会資源をうまく利用し、良いケアをすれば良い生き方をして良い死に方はできる。
そのためにどうすればいいかは『逝かない身体』の最終章に書いてある。

・母がトータル・ロックトインになり自分も介護で疲れ果てた時に
母を殺そうと思ったことがあったが、当時3歳の息子の寝顔を見て思いとどまった。
殺せないなら、母が快になる語りかけをし続けようと思った。
孫がどうしたなど日常的な語りかけを続けていると、
それが母の顔色の変化となり肌の状態の変化となって表れてくることに気付いた。

人間は必ずしも能動的な存在でなければならないわけではないのでは、と考えるようになり、
欄の花を育てるように母をケアしようという家族の思いに繋がっていった。

・日本ではALSの患者で呼吸器をつける人の割合が他の国よりも高く、
他には2人ヘルパーの体制を整えているデンマークでも高いが、
それ以外の国ではALSを「恐ろしい病気」として描くキャンペーンを張っている。
病気がどう表現されるかによって、患者の選択は影響される。

例えば、
英国ALS協会によるキャンペーン・ビデオサラの物語。
カナダALS協会によるキャンペーン・ビデオHead and Shoulder。


次のエントリーに続きます。
2012.12.14 / Top↑
英米でも深刻化する子どもの貧困
子どもの貧困が深刻だ。
ガーディアン紙は自社サイトの教師ネットワークを通じて全英591人の教師に調査を行い、その結果を6月に報じた。それによると、「朝の登校時にお腹をすかせている生徒がいる」と回答した教師は83%にものぼった。朝食を食べていない生徒のために食べ物を持っていったことがある教師が49%。昼食を買うお金を生徒にあげたことがある教師も、ほぼ5人に1人だった。55%の教師が「生徒の4分の1が十分な食事をとらずに学校に来る」「不況、失業、福祉削減で家族の経済事情が悪化している」と回答。低所得家庭の子どもたちには無料で昼食を提供する制度があるが、5人に4人の教師が、そうした子どもたちには登校時に無料の朝食も必要だと訴えた。
独自に「朝食クラブ」を実施している学校もあるが、GP(家庭医)協会、小児科学会、全国校長会は、無料の給食制度の適用となっている130万人の子どもたちに朝食も出すよう、大臣らに向けて呼び掛けている。また無料給食制度の適用条件も緩和するよう訴えている。
こうした事態を受け、世界120カ国で子どもたちへの支援活動を行ってきたチャリティ Save the Childrenが、初めて自国内での子どもたちの支援に乗り出した。“Eat, Sleep, Learn, Play! (食べて、眠って、学んで、遊ぼう!)”キャンペーンである。年間3万ポンド以下の収入で暮らす家庭では、子どもたちが温かい食事を取れず、冬用の温かい衣類もなく擦り切れた靴のまま暮らしている。年間所得17000ポンド以下の最貧困層では、子どもの8人に1人が1日1食すら食べられないことがあるという。「この国でこんなことがあってはならない」が同キャンペーンのスローガン。貧困状態で暮らす子どものいる家庭に調理器具やベッドなど生活必需品を支給するため、50万ポンドを目標に資金を募る。
またSave the Childrenでは、貧困の世代間連鎖を断ち切るべく、親子を対象にした学習支援プログラムFAST(Families and Schools Together)を行っている。同チャリティのFASTサイトのビデオによると、英国の子どもの3人に1人が基礎的な読み書き能力を身につけないまま小学校を終えるという。経済的ストレスが親の心身の状態に影響し、口論や離婚に至ったり、子どもたちに余裕をもって接することができなくなる。毎週のFASTセッションでは、親と子、教師と地域のつながりを強化し、子どもの力を伸ばすのが狙い。
米国でも18歳未満の子どもの5人に1人が貧困状態にあるという。国税調査局の9月の発表では、世帯所得の中間値がこの1年間で1.5%落ち込む一方で、最富裕層の総所得は4.9%アップ。所得分配の不平等を図るジニ係数は1.6%上昇するなど、貧富の格差も広がっている。目を引くのは、通常は富裕な地域とみなされるワシントンD.C.の郊外で貧困率が急上昇していることだ。無料で食糧を配布するボランティア組織に助けを求めてくる人たちの数は、過去4年間でほぼ倍増している。特にホームレスが急増したラウドン郡の福祉担当者は、最近では仕事も増え家も売れるようになってきたが、それが却って家賃など諸物価を上昇させて最下層には打撃となっている、と語る。
日本でも生活保護費用の増大と抑制策が問題となっているが、日本の子どもたちはどうしているのだろう。おなかをすかせてはいないか。これからの季節に向けて、みんな温かい衣類を身につけることができているだろうか。

ベンゾジアゼピンに認知症リスク?
 先月号の当欄で書いた向精神薬の副作用リスクに関連して、気になるニュースがあった。
ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに発表されたフランスの研究者らの論文で、ベンゾジアゼピンの高齢者における認知症リスクが報告されている。ベンゾジアゼピン系薬剤はソラナックス、デパスなどの名称で、不眠や不安の治療薬として日本でも、また世界中で広く使われている。フランスでは65歳以上人口の30%に処方されており、カナダとスペインでは20%、オーストラリアでも15%に及ぶという。
 しかし、この研究によると、65歳以上でベンゾジアゼピンを飲んでいる人は飲んだことがない人に比べて、その後の15年間に認知症を発症するリスクが50%増加した、という。著者らは結論付けるにはさらなる研究が必要としながらも、これまでも高齢者では転倒やそれによる骨折リスクなどの副作用が指摘されてもおり、今回新たに認知症リスクの懸念も出てきたことで、処方に慎重を呼び掛けている。

「世界の介護と医療の情報を読む」77
「介護保険情報」2012年11月号 
2012.12.07 / Top↑
イスラエルで、医師が終末期の娘を殺して自殺する事件があり、自殺幇助合法化議論に。
http://www.israelnationalnews.com/News/Flash.aspx/256438#.ULs4ZWejit0

HCRに女性器切除にはそれなりのメリットがあるとする論文が掲載になったらしい。:男児の包皮切除にHIV感染予防効果があると認めたり、女性器切除を「ピアスと同じ」と擁護するなど、米国小児科学会にはかなり前から男女児の性器切除に対してスタンスをシフトしたい気配があった。いずれも先導しているのはAshley事件のDiekema医師。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10328

【関連エントリー】
米小児科学会の女性器切除に関する指針撤回:Diekema医師の大チョンボ(2010/8/4)
Gatesの一声で、男児包皮切除にエビデンスが出てくるわ、小児科学会もCDCも方針を転換するわ(2010/8/16)
包皮切除件数減少を反対運動のせいだと騒ぐDiekemaのポチ踊り(2010/8/23)
包皮切除でのDiekema発言でNPRラジオに抗議殺到(2010/9/14)
2011年5月20日の補遺


メリンダ・ゲイツがロンドン・サミットで途上国の家族計画に取り組む必要について講演。
http://www.huffingtonpost.com/marianne-schnall/exclusive-interview-with-_7_b_2068757.html

クリントン国務長官が今後4,5年の内にAIDSを制圧するための青写真を提示。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/clinton-reveals-blueprint-for-reaching-an-aids-free-generation/2012/11/29/7e564160-39d0-11e2-b01f-5f55b193f58f_story.html

ビッグ・ファーマは2年前に比べると途上国での医療アクセス改善に尽力している、との調査結果。:これもまた昨日のエントリーとも繋がるし、ビッグ・ファーマが途上国で治験をやり始めて現地の医療インフラは崩壊の一途だという話もそこにリンクしたエントリーにあるのだけれど、ビル・ゲイツが本当に途上国の保健医療問題に関心があるなら、ワクチン一辺倒ではなく、むしろ現地の医療インフラや生活環境の整備に力を入れるべきなんでは、といつも不思議に思っている。たとえば、こういうこととか ⇒公衆衛生でマラリア死8割減のエリトリアから「製薬会社株主ビル・ゲイツのワクチン開発」批判(2011/8/2)
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253389.php

英国メディアによる電話盗聴問題を受けて行われた調査で、最終報告(Levenson報告)が行われ独立した規制制度が提案された。キャメロン首相は受け入れない方針。メディアの独立性をめぐっても論議に。
http://www.guardian.co.uk/media/2012/nov/29/leveson-report-published-and-brooks-and-coulson-in-court-live-coverage
http://www.guardian.co.uk/media/interactive/2012/nov/29/leveson-report-executive-summary
http://www.guardian.co.uk/media/2012/nov/29/victims-accuse-cameron-leveson-inquiry
http://www.guardian.co.uk/media/2012/nov/29/david-cameron-refuses-to-write-press-law

英国の社会保障費カットで、ヤング・ケアラー支援の予算までカットされている。
http://www.dailyecho.co.uk/news/10083942.Teen_s_desperate_plea_not_to_slash_young_carers_scheme/

上記問題で、介護者支援チャリティの前途は多難。
http://www.thisisgloucestershire.co.uk/Challenging-times-ahead-carers-charity/story-17454569-detail/story.html

11月30日は「介護者の権利の日」。でもメディアは全く取り上げず。
http://topnews.ae/content/213844-carers-rights-day-sadly-didn-t-receive-media-coverage
http://www.leftfootforward.org/2012/11/where-is-the-coverage-of-carers-rights-day/

日本 高齢母子 孤立死か やせ細った遺体発見 札幌のアパート
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/422716.html

日本tuta_9さんによる【うつけん語録】:宇都宮健児さんって、藤沢周平ファンだったんだ……。周平さんは、貧しい下級武士や市井の庶民への眼差しが温かいだけでなく、女性をきちんと「人」として扱っていると思う。
http://togetter.com/li/416238

NYでマックやバーガー・キングなどファスト・フードの従業員らが生活できないほどの低賃金で酷使するな、とデモ行進。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/nov/30/fast-food-strike-new-york

ビルマでは、銅鉱山労働者のデモと警官隊が衝突し、50人以上の負傷者。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/nov/29/burma-riot-police-mine-protest
2012.12.07 / Top↑
スイス医療弁護士協会(SMLA)がヨーロッパ12カ国で実施した世論調査で
ほぼすべての国で、回答者の3分の2から4分の3が
自殺幇助の合法化を支持した、という結果が報告されている。

アンケートが行われた国は
ドイツ、フランス、オーストリア、英国、デンマーク、フィンランド、
ギリシア、アイルランド、イタリア、ポルトガル、スペイン、スウェーデン。

自分で死ぬ時と死に方を決める死の自己決定に最も支持率が高かったのはドイツで、
87%が支持。

(ディグニタスで自殺している人の国籍ごとのデータで
ドイツが1位であることを考えると頷ける結果)

そこから徐々に下がって、11位のデンマークでも71%。
最低の支持率はギリシアで52%。

不治の病、重症障害、コントロール不能な苦痛を追うことになったら
自殺幇助を求めることを考えると答えた人が最も多かったのはスペインで78%
次いでドイツの77%、フランスの75%、英国の71%。

ここでも支持率が最も低かったのはギリシアで56%。

12カ国の回答者のマジョリティが
自殺幇助は医師か訓練を受けた医療者が行うべきだ、と答えた。

回答者の約30%が
合法化されれば死に瀕した患者にプレッシャーがかかることがある、と答え、
ざっと30%がそんなことは起こらない、と答えた。

ドイツ議会では、一定の条件のもとに自殺幇助を合法化する法案が審議中とのこと。
医師が幇助に対して報酬を得ない場合に限って自殺幇助を認めるという条件には
この調査ではドイツの回答者の76%が反対だと答えた。

Large Europe majorities for assisted suicide: survey
Reuters, November 30, 2012


この結果を英国のDaily Mail紙が報じているのだけれど(記事はざっと読んだだけ)、

記事に寄せられたコメントの中に
「リバプール・ケア・パスウェイの機会的適用で
高齢者がケアの手間を省くため、ベッドを空けるために死なされるという形の高齢者虐待が
今でも進行しているのだから、自殺幇助が合法化されれば金銭的な動機からもこうした虐待が増える」
との意見があるのが目を引いた。

Majority of Brits want assisted suicide legalised as new poll reveals strong support for change in the law across Europe
Daily Mail, November 30, 2012


その他、オーストリアのメディア記事はこちら。
Austrians vote in favour of assisted suicide
AUSTRIAN independent, December 2, 2012
2012.12.07 / Top↑
Graeme Tyldesleyさん(57)は
2002年に病気で引退するまで21年間病院職員として働いてきたが、現在は
進行性の脊髄の病気があり身体が不自由で(写真では歩行器を使って歩いている)
認知症の母親(82)と同居してフルタイムの介護を担っている。

母親がパニックを起こすので見守りが欠かせず、
2時間しか眠れないこともあるという。

これまでは
病院の年金と、障害者手当のほかに
incapacity benefit(働けない人に支給される手当?)を月に280ポンドもらっていたが

このたび職業年金局(DWP)はTyledesleyさんに
電話をとる動作とか座る動作など身体的な動作をさせる簡単なアセスメントで
「デスクワークなら働くことができる」と判断し、手当の支給停止を決定。

Tyledesleyさんはショックから抗ウツ剤の服用量が増えたという。

Tyledesleyさんの支援に入っている権利擁護チャリティ、Craven Advocacyでは
他にも支給停止が決まったと助けを求めてくる人が増えていると言い、

「こうした(身体機能だけの)アセスメントは
その人が置かれた状況全体を考慮しておらず、
人を数字のように扱っていて、問題です」

DWPからの通知書には
資格決定では健康状態や障害は検討対象とされず、
何ができるかという視点の審査である、と書かれていた、とのこと。

記事の最後にも、DWPの広報担当の以下の発言が引用されている。

「状況によって人はそれぞれ影響を受けることは承知しておりますので
雇用と支援給付は、働ける能力をアセスメントし、
その人には何ができるかを見るものです。

ある人が働けるだけ健康だと判断する際には、
直接会って詳細な面談によるアセスメントを行い、
請求者から提出された医学的エビデンスを検証します。

構成で効果的な就労能力判定に向けて改善を行ってきましたが、
不服がある人には、新たなエビデンスを出して不服申し立てをされる権利があります」

Disabled carer told ‘you’re fit to work’
Craven Herald, November 29, 2012


日本の生活保護を含めて、
なにか、こういうことが世界中で行われているような気がしてならないし、

そういう現象が
昨日のエントリーから透けて見えてくるような今の世界のあり方と
実は直接的に繋がってもいるんじゃないかという気がしてならない。
2012.12.07 / Top↑
米国とカナダの労働組合
TeamstersとJobs With Justiceそれぞれのアトランタ支部のメンバーが
11月21日、同地で行われたビル・ゲイツの講演で抗議行動を行おうとして
強制排除されたという報告がTeamstersから出ている。

ここ何年かビル・ゲイツが有害廃棄物処理業界に投資してきたことは
11月19日の補遺で拾ったとおり。

その中でも特に株式の保有率が高いのがRepublic Servicesで、
4分の1を所有している。

Teamstersが問題視しているのは、
今年5月に、退職金を受け取れなくなる契約を突きつけられた組合労働者らが
それを拒否したところ、80人がEvansvilleの工場から締め出された、というもの。

その一方でRepublicはCEOと死亡障害保障2300万ドル付きの契約を交わしており、
今年第2期の収益が前年の3倍となったことから株主には7%の追加配当をつけている。

「これらの労働者は公衆衛生のために日々、
文字通り自分の命を危険にさらしているんですよ。

ビル・ゲイツが公衆保険施策を支援すると言いながら、その一方で
自社の労働者を締め出して公衆衛生の危機を生じさせる企業の主要オーナーだなんて
許し難い」とTeamstersの当該地域担当者。

Teamsters confront Bill Gates over sanitation firm’s actions
POPLE’S WORLD, November 29, 2012



小さな絵としては、
ワタミの渡邊美樹社長が頭に浮かぶのだけれど、

大きな絵としては、
こういうことを考えて、とても暗示的なニュースでもあるなぁ、とも。 ↓
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの(2011/3/9)
2012.12.07 / Top↑
糖尿病の治療薬Avandiaをめぐるスキャンダルは
補遺で何度も断片情報を拾ってきたので、気にはなりながらも、
製薬会社と研究者の癒着スキャンダルの構図は結局のところ
ずっと同じことが繰り返されているだけだという気がして、
手間をかけてエントリーにする気力が沸かずにいたのですが、

WPが25日に、
製薬会社の資金により治験のあり方そのものが変わってきていることに問題を提起しており、
その中でAvandiaスキャンダルの全容が取りまとめられていたので、読んでみました。

GlaxoSmithKlineって、
抗ウツ薬のパキシルでやったのと同じことをAvandiaでもやってる……と唖然としたのと、

治験資金のすでに半分が製薬会社となっており、そうした実態につれて、
治験が大学や研究機関への委託から民間の営利企業へと移行している、
すでに論文のディスクロージャー程度ではバイアスを見抜くことは不可能だと
NEJMの編集長までが嘆息する事態となっている、という内容が
なんとも衝撃的だったので、以下に。

(ちょうどマイケル・サンデルの「それをお金で買いますか」を読んで
絶句したところだったので、治験データも「お金で買える」うちの一つになったのかぁ……とも)


ちなみに、グラクソのパキシル・スキャンダルとは、
小児には効かないとか副作用で自殺念慮が起こるなどのデータを隠ぺいし、
ゴーストライターに書かせて有名研究者らの名前を連ねた論文によって
DFAの認可を受けて販売し、副作用から子どもを含む多くの自殺者を出した、というもの。

参考エントリーはこちら ↓
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)


で、今回のアバンディアでは、
他の糖尿病治療薬よりもアバンディアが優れていたとの治験ADOPTの結果が
2006年にNew England Journal of Medicineに報告されたが、
その治験自体がグラクソの資金によるものだっただけでなく、
著者11人のうち4人は同社の株を有する社員で、
残る7人全員が同社からグラントや顧問料をもらう学者だった。

そして、その論文では、
アバンディアには悪玉コレステロールを上げて心臓病リスクを高めるとの
データが隠ぺいされていた。

その隠ぺいのやり方が手が込んでいる。

上院委員会の調査情報によれば
グラクソは2003年段階でWHOから
このタイプの薬には心臓リスクがあると警告を受けており、
2005、2006年と14000人に治験を行って血栓症リスクが30%上がることを掴んでいた。
が、この情報は社外秘とされた。

FDAも認可に当たって心臓病リスクについて確認の治験を行うよう求めた。
そこで行われた治験がADOPT。

しかし
治験を依頼された研究者らにはFDAの警告もリスクも知らせないまま、
デザインの段階から既に別の目的のものにされてしまった。

この論文に疑問を抱いたクリーブランド・クリニックのNissen医師が
グラクソが行ったDREAMという別治験のデータを調べたところ、
アバンディアを飲んだグループで明らかに悪玉コレステロールが上がっていた。

訴訟で明らかになったところでは
42の治験が行われていながら結果が公にされていない治験が35もあり、
それらはすべてグラクソの資金によるものだった。

すべてのデータを分析すると、アバンディアは
心臓発作リスクを43%、心臓病による死亡リスクを64%も上げることが判明。

Nissen医師らは、これらについてNEJMに論文を投稿。
通常、受理から掲載まで数カ月かかるが、
2000年に編集長となり問題の改善に取り組んできたJefffrey Drazen(ハーバード大の医師)は
問題を重視し、受理から19日で掲載させた。

ところが驚くことに、上院の調査で明らかになったところによると、
この論文は掲載前にグラクソ側にリークされてしまった。
査読者の誰かが、ADOPTに関わったテキサス大の教授にリークし、
この教授がグラクソに論文コピーをファックスしたのだという。

その情報を元にグラクソ側はNissen医師らの論文に反撃態勢を整える。
当時進行中だったRECORDという治験のデータで反論を試みたのだ。

実際には対象者の数が少ないばかりか、
未だに確定的な結果が得られていない治験であるにもかかわらず、
中間報告を論文発表して、問題を曖昧にすることを図った。

RECORDもまたグラクソの資金による治験で、
この論文の著者8人のうち1人はグラクソの社員、
その他7人は全員がグラクソから何らかの金銭を受けている学者だった。

発表された論文には説得力はなかったが、
臨床医と患者に安全をアピールするグラクソ側のこうした抵抗によって、
アバンディアが市場から引き上げられるまでにはさらに3年の時間がかかり、

2010年9月に市場から回収されるまでの4年間に、
FDAの試算で8300人が心臓発作を起こし、死者まで出すことになった。


                  ―――――

WPの上記記事によると、同様の問題は
Vioxx(メルクの関節炎治療薬)とCelebrex(ファイザーの消炎鎮痛剤)でも起きたことから、
薬の治験データから製薬会社の影響を取り除くための努力がさまざま試みられている。

市場に出ている薬に関する治験データの全公開を求める動きもあるが、
製薬会社が資金を出している治験でそれが保障されるかどうかには疑問もある。

WPの調査によると、
8月までの1年間にNEJMに発表された新薬のオリジナル研究論文は73本あり、
そのうち60本が製薬会社の資金による研究。
50本は製薬会社の社員が共著者となっており、
37本で主著者はスポンサー社から顧問料やグラント、講演料をもらった学者。

1980年代まではこうした実験は政府の資金で行われていたが、
だんだんと製薬会社の資金への依存度が高まり、
去年は製薬会社が390億ドル、NIHが310億ドル。

ペンシルベニア大の調査によると、
製薬会社の資金による治験では結論がその会社に都合のよいものとなる確率が
政府資金やNOPの資金によるよりも3.6倍も上がる、という。

さらに気がかりな傾向として、WPは
治験を請け負う民間企業まで登場しており、
大学や研究機関から、こうした営利企業へと治験が流れているという。
既に製薬会社の治験資金はすでに半分以上がこうした企業に流れており、
そうした仕組みの中では研究者は製薬会社に使われる手足と化してしまう。

(この部分を読んで思い出したのは、
遺伝子治療で死者が出た2007年のニュースの中にあった
新しい治療の安全性を審査する審査委員会が米国では
すでに民間企業にゆだねられている、という実態 ↓
遺伝子治療で死者 続報(審査委員会は民間企業!)(2007/8/7))


「論文発表の際に金銭関係のディスクロージャーがあれば
それでバイアスが防げると考えられたのは、
査読が厳しく行われる時代だったからで、
もはや論文報告にバイアスがかかっているかどうかなんて
編集者にも査読者にも読者にも、分からない」という人も。

NEJMのDrazen編集長はそうしたバイアスの排除に向けて努力してきたが、
最近ではNEJMに発表された論文であっても、
製薬会社資金の治験であれば医師らが信頼しなくなりつつあり、
医学研究そのものが崩壊の危機の様相を呈してきた、とも。

Drazen氏の以下の言葉が印象的。

This is a business built on people telling the truth.
医学研究というのは関係者がウソをつかないという前提で成り立っている業界。



同じような構図のスキャンダルは他の問題でも繰り返されており、
それらは以下のエントリーにリンクしてあります。 ↓
“オピオイド鎮痛剤問題”の裏側(米)(2012/10/20)
2012.12.07 / Top↑
米国で昨年12月から売り出されている新型出生前遺伝子診断、
販売している企業によれば、すでに何万人もの女性が受けたと言うが、

FDAの規制対象とはなっておらず、
また正確性やどういう役割を果たすことになるかについて疑問視する声もあり、

そのために保険会社は未だ実験的なものと捉えて給付に踏み切っていないため、
最大1900ドルもする、たいへん高価な検査となっている。

したがって、この新型検査が
羊水穿刺のような侵襲的な検査数と早産件数を減らすことで
医療コストの削減につながるものか、それとも
もともと早産リスクから羊水穿刺など受けようとも思わなかった女性が
新型なら受けることで却って医療コストを膨らませるものか、まだ分からない。

米国産科婦人科学会は11月20日に初めての見解を追発表し、
「ルーティーンで行う出生前検査に含めるべきではない」と結論。

ただし、検査の限界についてきちんとカウンセリングを行う限りにおいては
トリソミーのリスクが高い患者には申し出てもよい、としており、

これらの点では、これまでに出されている
米国遺伝カウンセラー協会や出生前診断国際協会の見解と同じで、

新型検査がこれまでの侵襲的な検査と同程度に正確かが証明されていないので
この検査で陽性と出た人には羊水穿刺や絨毛検査を受けるように勧めている点でも
これら3団体の見解は同じ。

保険会社は慎重に今後の研究結果を見極めると言っている一方、
販売企業は精度や患者の意思決定への影響に関するデータがとり揃うのを心待ちにしつつ
「医療費削減効果があるとなれば、それは嬉しいボーナス」。

既に多くの女性が検査を受けることを望んでおり、
「これほどまでに消費者の需要があるとはだれも予測しなかったのでは」とも。

現在は販売価格1900ドルとか1200ドルのうち、
販売会社がコストの大半を引き受けているため、
保険のある人で200ドル程度の負担、

保険のない人には特に自費プランが用意されていて
450~500ドル程度で受けられる。

(保険会社が給付対象にしていないという情報との整合性は私には?)

この記事の冒頭で紹介されているハイリスクとされる妊婦さんの主治医は
どういう使い方がよいのかについては疑問点もあるにせよ、
目の前の患者さんには知らせる必要がある、と語り、

「出たばかりの検査なので、どういう使い方がベストなのか分からない。
でも自分には患者にそういう選択肢があることは知らせる倫理的な義務があると思う」

ちなみにこのドクターは
MaterniT21という新型検査の販売元であるSequenom社の
講演陣の一人で、同社の求めで講演する際には講演料を受け取っている。

また、もう一人別の産婦人科医は
患者は従来の検査をパスして、いきなり新型を受けたいと言っている、と言い、
「私の患者は平均的なニュー・ヨーカーですからね。
結果が今日出るとしても遅いんですよ」

A new prenatal test for spotting genetic issues is less invasive, but it’s pricey
WP, November 27, 2012


この記事のうち、「倫理」という言葉が使われているのは一か所で、
医師である自分には患者に選択肢を知らせる「倫理的義務」がある、という個所のみ。

以下のリンクのように、
英語圏では私がこのブログで拾ってきただけでも
2008年の早くから、この非侵襲的な出生前診断については
様々に倫理問題が議論されてきているはずなのだけれど……?

ちなみに、Sequenom社に関して2008年に当ブログが拾っていた情報は以下 ↓
出生前診断をショーバイで語るとこうなる(2008/11/21)


それ以外の関連エントリーはこちら ↓

2007年
選ばないことを選んだ夫婦の記録(2007/11/4)
「ダウン症だから選別的中絶」のコワさ(2007/11/12)

2008年の米連邦法関連
障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案(米)(2008/4/1)
周産期に障害・病気情報提供を保障 法案にW・Smith賛同(2008/4/16)
障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案つぶれる(2008/7/29)
出生前後の障害・病気診断に情報提供を義務付け(米)(2008/10/9)

2008年のその他関連
「中絶決断に情報提供不要」ヒト受精・胚法議論(2008/6/1)
羊水穿刺より侵襲度の低いダウン症検査、数年以内に(2008/10/8)
英国でダウン症児の出生数が増加傾向(2008/11/24)
「障害児については親に決定権を」とSinger講演(2008/12/26)

2009年
“乳がん遺伝子ゼロ”保証つき赤ちゃん英国で生まれる(2009/1/10)
受胎前遺伝子診断:巧妙な言葉の操作が優生思想を隠ぺいする(2009/1/16)
出生前遺伝子診断で「あれもこれも調べたい」って?(2009/2/2)
ダウン症の安全確実な出生前検査まもなく米国で提供開始(2009/2/25)
非侵襲出生前診断の倫理問題をJAMA論文が指摘(2009/5/28)
ダウン症アドボケイトと医療職団体が出生前診断で“合意”(2009/7/1)
ダウン症スクリーニングでShakespeare「技術開発と同じ資金を情報提供に」(2009/11/10)

2010年
アニメ・ソング「ダウン症ガール」巡り「コケにされる平等」インクルージョン論争(米)(2010/8/31)
遺伝子診断で激減の遺伝病、それが社会に及ぼす影響とは?(2010/9/10)
ダウン症らしいからと、依頼者夫婦が代理母に中絶を要求(カナダ)(2010/11/18)

2012年
IVFの妊娠でダウン症を理由に中絶、5年間で123人(英)(2012/7/24)
「ダウン症だから」と本人にも家族にも無断でDNR指定(英)(2012/9/13)

日本で議論になってから書いたエントリーは以下。
ダウン症の新型検査をめぐって(2012/9/9)
新型出生前遺伝子診断に関する米英の動きと議論(2012/11/22)
2012.12.07 / Top↑
11月13日の日本産科婦人科学会・公開シンポ「出生前診断―母体血を用いた出生前遺伝学的検査を考える」での財団法人日本ダウン症協会 玉井邦夫理事長講演録「何を問うのか 新しい出生前検査・診断とダウン症」必読。「どんなDNAなら生まれてきてもいいのか」:何故ダウン症なのか、という点について前にエントリーを書いたことがある。⇒ 「ダウン症だから選別的中絶」のコワさ(2007/11/12)  2007年にこのエントリーを書いた時にはまだそこまで考えられなかったので私も同じことを書いているのだけれど、玉井氏の講演録を読んでいると、ダウン症で線引きされていくことに対して抵抗するために「介護負担が大きいわけじゃない」「当たり前に元気に生きている」と言わなければならなくなることの悩ましさというものもある。決して、介護負担が大きな障害があるなら中絶してもよいと言いたいわけでも、当たり前に元気に暮らせるんだから受容される範囲の障害だと言いたいわけでもないはずなのに。
http://www.jdss.or.jp/info/201211/symposium.pdf

また、この問題で「ハイリスク」な女の声を届ける会(HRW)立ち上げ。
http://hrwomen2012.blogspot.jp/

当ブログでこの問題について書いてきたことは沢山あるので、以下のエントリーにリンクしました ↓
新型出生前遺伝子診断に関する米英の動きと議論(2012/11/22)

その新型出生前遺伝子診断の米国での事情を昨日のWPが記事にしている。:なんせ高価。なので、これを導入した時のコスト・パフォーマンスはどうなのか、などなど。明日、できたらエントリーに。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/a-new-prenatal-test-for-spotting-genetic-issues-is-less-invasive-but-its-pricey/2012/11/26/8dd799de-2780-11e2-b4f2-8320a9f00869_story.html?wpisrc=nl_cuzheads


『日本国憲法改正草案』がヤバすぎだ、と話題に…:これも絶対必読。ヤバいことこの上ない。これを読まずに自民党に投票する人、後からでは責任とれないんでは……?
http://www.geocities.jp/le_grand_concierge2/_geo_contents_/JaakuAmerika2/Jiminkenpo2012.htm



LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)問題の続報。いよいよ独立の委員会に調査が命じられた。
http://www.bbc.co.uk/news/health-20503932

26日のエントリーでとりあげた医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLSTが、VT州では「治療が無益」な場合には患者本人や代理決定者の同意なしに一方的なDNR指定に使われている、とのこと。:私みたいな素人でも26日のエントリーで「無益な治療」論との整合性は?と疑問に思ったというのに、Thaddeus PopeはPOLSTを本当に患者の選択権の保障だと信じていたみたい。C&Cを絶賛してみたり、この人、なんか、ナイーブ過ぎない?
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/11/polst-dnar-without-consent.html

VT州のShumlin知事は10年の選挙公約にも自殺幇助合法化を謳っていた人物。Wesley Smithによると、次の議会に合法化法案が出る模様とか。Smithは医療費削減策として提案されるのだと批判している。
http://www.nationalreview.com/corner/334223/vermont-governor-pushes-assisted-suicide-wesley-j-smith

NJ州議会に自殺幇助合法化法案が提出されている。
http://www.app.com/article/20121125/NJOPINION06/311250028/Hospice-care-offers-death-dignity

このところ相次いでいる各国の安楽死・自殺幇助に関する報告書のデータが偏っている、と安楽死防止連合のSchadenberg。……と思ったら、自著の宣伝も兼ねているか。
http://www.nationalrighttolifenews.org/news/2012/11/one-sided-reports-in-canada-and-the-uk-ignore-data-concerning-euthanasia-in-belgium-and-the-netherlands/

英国の自殺幇助合法化提唱者で作家のTerry Pratchettがプレゼンターを務めたBBCのドキュメンタリーが英国ドキュメンタリー賞に続いて、国際エミー賞も受賞。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10323

【関連エントリー】
作家 Terry Partchett “自殺幇助法案”を支持(2009/7/1)
自殺幇助ガイドラインに、MSの科学者とアルツハイマーの作家それぞれの反応(2009/9/23)
作家 Pratchette氏「自殺幇助を個別に検討・承認する委員会を」(2010/2/2)
Pratchett氏の「自殺幇助委員会」提言にアルツハイマー病協会からコメント(2010/2/3)
BBC、人気作家がALS患者のDignitas死に寄り沿うドキュメンタリーを作成(2011/4/15)


10代の女子に、予防手段として緊急避妊薬を処方しておくことを米国小児科学会が提唱。いざという時に間に合わなくては意味がないから、と。10代の女の子の妊娠率はこれまでになく下がっているというのに。:米国小児科学会は、ビタミンDサプリを勧めたり、栄養と水分の補給の中止を認めるガイドラインを出したり、女性器切除を容認してみたり、男児の包皮切除でも積極的に利益を認めてみたり……。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253175.php

ナイジェリアでゲイツ財団と連邦政府、Kano州政府などが、ポリオ撲滅のためのワクチン普及で提携。
http://allafrica.com/stories/201211270823.html

NJ州で、同性愛転換療法を信じて行ったが効果がなかったとして、消費者詐欺法違反で男性3人が訴えた裁判。
http://www.nytimes.com/2012/11/28/us/gay-conversion-therapy-faces-tests-in-courts.html?_r=0

大気汚染で発達障害リスクが高まる。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253272.php

小島慶子、角田光代も母がしんどかった!:角田さんの小説にはAC問題が色濃いものが多い。
http://ddnavi.com/news/87245/
2012.12.07 / Top↑
1ケ月前の記事ですが、
またもデンマークで「無益な治療」停止+臓器提供が決められた患者の回復事例。

去年10月、車の事故で大けがを負ったCarina Melchoirさんは
Aarhus 病院に運ばれて3日後に脳の活動が消え始めたため、
医師らが治療の停止を家族に相談。

家族はその時に臓器提供にも同意した。

ところが生命維持を中止して24時間も経たない内に
Carinaさんは突然目を開け、脚を動かし始めた。

20歳になった彼女は現在リハビリセンターで良好な回復を見せており、
歩き、しゃべれるだけでなく馬にも乗れる。
将来はグラフィック・デザイナーになると夢を語っている。

家族は
医師らが臓器ほしさのあまり治療を怠ったとして、病院を訴える準備中。

デンマークでは、
Carinaさんの事例がテレビのドキュメンタリーとして放送されたことから
臓器提供と終末期医療について論争が巻き起こり、

医師にさっさと諦められるのではないかという恐れから
臓器提供のドナー登録を取り下げる人が出ている。

デンマーク政府は、
患者が臨床的な死を公式に宣告されるまで臓器を摘出する準備をしてはならないとする
ガイドラインを準備中だが、

移植医らからは、
患者が脳死宣告される前から摘出の準備をすることは
ドナーとレシピエントの適合のためには不可欠だとの声が上がっている。

記事によれば、
Aarhus病院の医師らはCarinaの治療中のコミュニケーションがうまくいかなかったことについて謝罪し、
間違いを犯したと認めた、とのこと。

この「間違い(a mistake)」が何を指しているのかは不明。

家族の弁護士によると、
家族は生命維持を停止して臓器を提供する以外にできることはないと思いこんでいただけに
トラウマは大きく、Carinaさん自身も何度も
医師らが自分を殺そうとしていたのかと質問し続けている、という。

父親はデンマークの新聞に対して
「白衣を着た悪党どもが、臓器ドナー欲しさに早々とギブアップしたんだ」と。

記事には、
医師らは脳死になった場合には臓器提供をという意図で話したことにすぎず、
医師らとコミュニケーションがうまくいかず、それを家族が誤解しただけなのでは、
そもそもこの人を助けたのは医師らの治療だったわけだし、
と語る「あるデンマークの医師」のコメントが紹介されているのだけれど、

この人は当該ケースとはまったく無関係な医師なので、
そもそも関係者でもない人がどうしてこんな無責任なコメントができるのか、不思議……。

The girl who wouldn’t die: Incredible story of the 19-year-old who woke up as doctors were preparing to harvest her organs
Daily Mail, October 18, 2012


記事を読んで思い出したのは、こちら ↓
脳損傷の昏睡は終末期の意識喪失とは別:臓器提供の勧誘は自制を(2012/7/20)


たまたま今日の直前のエントリー・シリーズとも関係してくるのだけれど、
直前シリーズの3にリンクしたNot Dead YetのDrakeらによる生命倫理学への批判の中に、

このFin医師の臓器摘出勧誘への自制の呼びかけについても、
また5月のNDRNの報告書に書かれていた障害者の命の切り捨てについても
生命倫理学者らは口を閉ざしている、との批判が含まれている。


なお、
これまでに当ブログが拾ってきた回復事例については
以下のエントリーにリンク一覧があります。

Owen教授の研究で、12年以上「植物状態」だった患者に意識があることが判明(2012/11/13)
2012.12.07 / Top↑
前のエントリーからの続きです。


ビル・ピースが11月17日に書いたエントリーは以下。

Conference Controversy
Bad Cripple, November 17, 2012/11/27


ピースはこのシンポについて知った時に、
まずスピーカーのほぼ全員にC&Cとつながりがあることを考えると同時に、
知り合いもいることだし生命倫理と障害者の溝問題は目下の関心事だから行こうかと考えたけれど、
偏向した内容のシンポなんて、いくらでもあることだし、
いくつかの理由から辞めたのだという。

ただ、Stephen Drakeの激烈な口調の行き過ぎはともかく、
Drakeが指摘しているのとまったく同じ点が気になったという。

書かれている問題点とは、おおむね以下。

C&Cとの繋がりがあるスピーカーは明らかにすべきだったと思うし、

特に以下の3点によって
障害者の権利という視点を代表するスピーカーが欠けていたことは問題。

① もし自分が出かけて行って、一人で反論の声を挙げていたとしても
ヒステリックな障害者という世間のステレオタイプを演じることにしかならない。

② 「特別な人々、特別な問題」というタイトルはあり得ないし、
OuelletteとNewmannがこのタイトルに強く反対しなかったのも驚き。
ここでは過去20年間の障害者差別をめぐる議論がまるきり意にも介されていない。

③ 生命倫理学と障害者の権利の間の緊張関係はよく知られているし
私自身もアシュリー事件やクリストファー・リーヴへの批判によって
その溝を広げたのかもしれないけれど、

このカンファのあり方そのものが、
なぜ障害学者や障害者運動の活動家らが生命倫理学を批判しなればならないかを物語っている。

ウ―レットは生命倫理学者/法学者であり、障害者アドボケイトではなく、
障害者の権利を代理するスピーカーはここには一切存在しない。

議題の立て方も絶望的なほど偏向しており、
力の不均衡があからさまで、最初から障害者側は防衛する側に置かれている。

偏見と無知だらけの議論によって、
障害に対するバイアスは障害者の命を現に脅かしているのである。
仮に考えてみよう、というような呑気な話ではないのだ。
障害者がそうして差別されてきた歴史は既に多くの文献が証明している。

で、Peaceがナイーブかもしれないけど、と言いながら
最後に提案しているのは、

We need to get people from Compassion and Choices and Not Dead Yet, lock them in a room and not let them out until they learn to show mutual respect for each other. We need to do the same with bioethicists like Peter Singer and Jeff McMahan and disability studies scholars such as Anita Silvers and Eva Kittay. I have always felt one can learn more from others who you strenuously disagree with. Such an encounter can force one to hone their views and writing.

C&C と NDYの関係者を一つの部屋に閉じ込めて、互いに尊重し合えるようになるまで部屋から出さない、ということをしなければ。

同じように、Peter Singer と Jeff McMahan のような生命倫理学者と、Anita Silvers と Eva Kittay のような障害学者も一部屋に閉じ込めるべき。

自分がどうしても同意できない相手からこそ、学ぶことが多いのだと私は常に感じてきた。そうした出会いにこそ、意見も書きものも研ぎ澄まされていく可能性があるはずだ。


Peaceは、今
ウ―レットのBioethics and Disabilityの書評を書いているとのこと。

ウ―レットのBioethics and Disabilityに関するエントリーは
以下にリンク一覧があります ↓
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65111447.html


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一連の議論を読んで、私がいちばん「象徴的だなぁ」と感じたのは、
ドレイクの10月のNDYのブログコメント欄での「朝食をご馳走するから」という
ポウプの善意に滲んでいる、とても無邪気な傲慢。

それで思い出したのが、7月にピースがHCRに
「死の自己決定を教唆された」という体験エッセイを発表した時に、

それを受けてドレイクが
「体験そのものは障害者には珍しいものではないが
生命倫理学ジャーナルにそれが載ったことが大事件なのだ。
生命倫理学は障害者を議論から締め出してきたのだから」と書いたエントリーのこと ↓

あのBill Peaceが病院で「死の自己決定」を教唆されていた!(2012/7/17)
PeaceのエッセイにNot Dead Yetが反応し「生命倫理学は障害者の命の切り捨てに口を閉ざしている」(2012/7/18)


あくまでもアカデミズムの高みに留まって歩み寄ろうとしない生命倫理学の目線の高さと、
対等の議論の機会を許されず、声を届かせられずに苛立つ当事者――。

それが、あのポウプの
「私はスピーカーの一人だけど、聞きに来るんだったら次の日に朝食をご馳走するから、
発言のどこに問題があったか聞かせてくれないかな」という善意のコメントであり、

さらに彼のブログ・エントリーでの
NDYの存在はベタンコート事件の法廷でも、このシンポの会場周辺でも、
人々の意識を障害者の視点に向けるのに役立ったと「評価」する眼差しにも通じている気がする。

それが対等な議論の相手としてではなく、あくまでも抗議者としての相手に対して
高いところからの善意で「聞いてあげる」「認めてあげる」姿勢であることに
まったく気付かないまま――。
2012.12.07 / Top↑
前のエントリーからの続きです。


実際のシンポ当日、
NDYの関係者3人が会場で抗議のビラを配った。

それについて書かれたDrakeの11月19日のエントリーがこちら ↓

NDY Activists Leaflet Justice Action Center (NY Law School) Featuring Opponents Discussing “Disability Concerns” Without Including Disability Rights Activists to Speak for Ourselves
NDY, November 19, 2012


このエントリーによると、配られた抗議ビラの内容は
10月のDrakeのエントリーの第3パネルに関する部分の抜粋だけど、

ビラのタイトルを含め、主張の柱に
「私たち抜きに私たちのことを決めないで」というスローガンとともに、
障害者のアドボケイトがシンポのスピーカーに含まれていないとの批判が追加されている。

エントリーには当日の写真が何枚かあり、
1枚では、シンポ会場入口付近でサッデウス・ポウプが
3人の一人で旧知のNadiana Laspinaさんと話をしている。

そのポウプはその後、
自身のブログでこの件について以下のエントリーを書いている。

Not Dead Yet and the NYLS End-of-Life Symposium
Medical Futility Blog, November 21, 2012


このエントリーでポウプが書いているのは、概ね以下。

① 3人の活動家が法科大学の奥にまで入れてシンポ会場までこれたことは、それまでのNDYのブログ活動とともに、終末期の医療の問題での障害者の視点への意識を高めてくれて良かった。
② Nadinaとは2010年4月にBetancourt事件の上訴審での弁護活動の際に出会った。あの日、法廷にNDYが抗議に来ていたことは、様々な弁論と同じく、3人の裁判官に向けた強力なメッセージになった。
(Betancourt事件については ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/60827258.html)
③ しかしこの度のシンポへのNDYの批判は本当にフェアで正確なのだろうか。ウ―レットも所属するアルバニー法科大学も、障害者の権利については多くの仕事を成してきたはずだ。
④ 問題となっている第3パネルの「特別な人々」という表現は、障害者だけでなく囚人など弱い立場の人が含まれていることから簡単に説明がつく。


この最後の点については、
ビル・ピースがコメント欄で反論し、
ここでも興味深いやり取りになっている。

ピ「弱い立場の人を特別と称すること自体が、軽視であり、
そういう表記に問題を感じないこと自体が、障害者の権利を理解していない証拠」

ポ「私はスピーカーの一人にすぎず、企画にはかかわっていない。
しかし言葉の選択がまずかったにせよ、200人を超える参加者があり、
それだけの人たちが障害者と囚人の視点を時間を割いて検討したことも事実と思う」

ピ「言葉の選択がまずかったのではなく、問題のある表現なのである。
囚人と障害者の問題は注目すべき大問題。どんどん悪くなる一方なのだから」

そのビル・ピースはシンポの翌日、
自身のブログでエントリーを書いている。

それについては次のエントリーで。
2012.12.07 / Top↑
11月16日にニューヨーク法科大学のJustice Action Centerのシンポジウム
「終末期の選択の自由―変わりゆく法的・政治的情勢における患者の権利」をめぐって、
Stephen DrakeらNot Dead Yetの関係者らが激烈な批判をし、
Thaddeus PopeやBill Peaceらがブログで反応して
興味深い議論となっているので、

それぞれを簡単に取りまとめてみた。

問題のシンポのサイトはこちら ↓
Symposium: Freedom of Choice at the End of Life
Patients’ Rights in a Shifting Legal and Political Landscape
A Justice Action Center Symposium
Friday, November 16, 2012


このシンポについて、まず10月にStephen Drakeが書いたエントリーがこちら ↓
NY Law School – Justice Action Center’s Upcoming Annual Justice Symposium Not Fair to Disability Advocates, Let Alone “Just”
NDY, October 24, 2012


この中でDrakeが指摘しているのは、

① 3つのパネルのいずれにも(自殺幇助合法化ロビー)C&Cの役員や関係者が含まれてモデレーターまで務めることになっており、これでは事実上、C&Cが企画し実施するシンポと変わらない。
② 3つ目のパネルの「特別な人たち、特別な問題」というタイトルにもC&Cの障害者に向ける意識が滲んでおり、価値中立ではない。
③ 障害者の権利アドボケイトの主張を取り上げるこのパネルで、障害者アドボケイトの懸念を代理する役割を振られているのは、最近刊“Bioethics and Disability”で障害者に理解ある生命倫理学者を気取るAlicia Ouelletteのようだが、同書でウ―レットは障害者アドボケイトの主張を正しく理解していない。そもそもBouvia,  McAfee, Schiavo事件に触れながら、彼女はそれらに直接かかわったアドボケイトに接触すら試みていない。
④ このパネルでは、障害者アドボケイトの主張が宗教右派の主張と作為的に重ねられて論じられることが予想される。Bill Peaceと親しいことを煙幕に、そうした混同を敢えて行って障害者アドボケイトの主張を捻じ曲げてきたAnn Neumannがスピーカーに含まれていることからも、シンポのサイトのパネルの趣旨説明からも明らか。


そして、Drakeは
社会正義の実現に向けて行動することを謳うセンターが
障害者アドボケイトや活動家の視点がフェアかつ正確に代表される配慮をしないことに対して、
また、こんなC&Cの茶番にこれら共催団体までもがこぞって賛同して見せることに対して、
「恥を知れ」と。


このエントリーには、無益な治療ブログの著者でこのシンポにも参加予定の
Thaddeus Popeからコメントが入っていて、とても興味深いやりとりになっている。

Popeは、「この言い方はひどい。自分もスピーカーだから、
NDYの代表者がシンポに来るのであれば、翌日に朝食をおごるから
スピーカーの発言のどこが間違っていたかを聞かせてくれないか」と書いている。

それに対して、Drakeが返しているのは、

酷いと思うのは、これまでのC&CやFENと障害者アドボケイトのやり取りを知らない証拠。
彼らの障害者コミュニティに対する姿勢は以下の2つのどちらかしかない。
① カトリックの主張との対立の構図を描く戦略のために、障害者はこの議論の部外者であるかのように装い、相手にしない。
② 障害者はこの問題でキリスト教右派と手を結んでいる、または彼らに操られているにすぎない、というスタンス。
ここでシンポについて書いたことの「ひどさ」など、私がこれまでの15年間に経験してきた「ひどさ」とは比べ物にもならない。
「朝食」については、あなたが求めているのは発言の質、不正確さやバイアスに関する専門的なレベルの分析と情報提供のはず。それなら朝食代くらいでは済まない。

実際のシンポ当日の出来事については次のエントリーで。
2012.12.07 / Top↑
最近ちょこちょこ目にするので気になっていたPOLSTを
NYTの社説が取り上げている。

POLSTとは、
Physician Orders for Life Sustaining Treatmentのことで、
生命維持治療に関する医師の指示書。

医師が主導して患者の終末期医療について話し合いをして
終末期医療に関する患者の意思を確認し、
医師の指示書という形で1枚の様式に記録しておく、というもの。

POLSTの公式サイト(英語)はこちら ↓
http://www.ohsu.edu/polst/programs/index.htm

日本語の説明は例えば、こちらに ↓ 
http://ichiba-md.com/medical/iryou/polst-2.html
http://www.c-mei.jp/BackNum/103n.htm

日本語版もできていて、こちらに ↓
http://www.ohsu.edu/polst/programs/documents/POLSTnewestwithJapanese.pdf


「適切に用いられれば、患者の受けたい治療が受けられる可能性が大きくなるのと同時に、
医療コストを削減するという2つ目のメリットもある」として、
NYTの社説はこのPOLSTにたいへん前向きで、
プロライフからのデマゴーグに負けずに普及させるべきだ、と。

(「患者が受けたい治療を受けられる」というよりも、システムの趣旨は
「患者が受けたくない治療をはっきりさせておく」という点にあると思うのだけど、
なぜかこの記事は「患者が望む治療を受けられる」という表現に終始する)

現在、NY州を含む15の州がPOLSTを用いることを認める法律や条例を作っており、
その他にも28の州で同様の方向性が打ち出されている。

一般には、医療機関ごとにPOLSTを患者に提案するかどうかを決めさせ、
使うかどうかは常に患者と家族の自発的な意思に任される。

医師が(州によってはナース・プラクティショナーや医師のアシスタントも)
患者や家族、代理決定権者との会話をリードし、
進行した病気のある患者が終末期にアグレッシブな生命維持を行うか、
それとも限定的な介入に留めるか、たんに緩和ケアやホスピスケアにするかを決めて、

患者が自分で決めることができない状態になった場合に備えて
救急医療やその他医療提供者に向けた医師の指示書として内容を1枚にまとめる。

多くの州では、インフォームド・コンセントの徴に
患者または代理者のサインが必要となる。

できあがると、患者の電子カルテの中にハイライトで記録され、
救急搬送されたり、ナーシング・ホームに入所しても
その患者が行く先々で患者の意思として尊重されることになる。

POLSTは1990年代にオレゴン州で使われ始めて、
現在では同州のほぼすべてのホスピスとナーシング・ホームで自発的に使われている。
(skilledなナーシング・ホームという表現があるのは
POLSTを使っているようなホームがケアの質が高い、との示唆か?)

事前指示書を書いている少なくとも5万人のオレゴン州民に
医師または看護師の署名入りのPOLSTがあるという。

このオレゴン・モデルは
ウィスコンシン州のGundersen Lutheran ヘルス・システムも採用し、
介護施設とホスピスの患者ほぼ全員にPOLSTが出ている。
家族も喜び、コストも下がった。

国内のメディケア・コストの比較データでは
2010年にはGundersonは終末期の患者の治療に関しては
全米で最もコストの低い病院群の中に含まれていた。

そこでウィスコンシン医師会は同州のほかの地域でも
Gundersonアプローチを試みるパイロット企画を立てたが、
カトリックの主教たちからの安楽死のリスクがあるとの強硬な反対を受けてとん挫。

結局、パイロット企画は
健康な成人に事前指示と代理決定者の任命をしておくよう提唱するに留まることに。

2009年のオバマ医療改革法案に含まれた同様のシステムの提案が
右派や共和党から「死の委員会」だと批判されて削除されたことで
こうした改革は時間がかかってしまったが、

終末期医療についての話し合いと医師による指示書があることは
患者がいざその時に自分の意思を尊重してもらえるという安心感に繋がって、
医学的利益もない高価な検査や思い切った医療の回避につながるはずである、と。

Care at the End of Life
NYT, November 24, 2012


すぐに頭に浮かんだのは、
一方には「無益な治療」法の広がりがあるんだけれど、
これらの整合性って、どういうことになるんだろう??

患者がPOLSTで「やってほしい」と望んでいる終末期の治療があるとして、
病院側が「それはこの患者には無益」と判断した場合には……?


それにしても、
これもまたオレゴン州から、かぁ……。

そして、続こうとしたのが
Norman Fostのおひざ元、ウィスコンシン州……。


【関連エントリー】
障害者差別としてボツになった配給医療基準「オレゴン・プラン」が、HIMEによってグローバルに復活することの怪(2011/12/20)


【28日追記】
案の定、Thaddeus Popeのブログに
VT州では、治療が無益な場合には患者本人にも代理決定者にもコンセントをとらずに
DNR指定するツールとしてPOLSTが使われている、との情報がアップされています。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/11/polst-dnar-without-consent.html
2012.12.07 / Top↑
【POLSTについて】

最近あちこちで目にして気になっていたPOLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment)をNYTが取り上げている。事前指示書を患者の判断で書かせようとしてもなかなか普及しないから、医師の主導で話し合いを持って患者から聞き取る形で医師に作成させよう、という意図のもの? オレゴン・プランやろうとしたり自殺幇助を合法化しているオレゴン州がやっている、というのがなんだか……? オレゴン・プランについては、こちら ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64513213.html
http://www.nytimes.com/2012/11/25/opinion/sunday/end-of-life-health-care.html

POLSTの公式サイト。
http://www.ohsu.edu/polst/programs/index.htm

POLSTの日本語の説明。
http://ichiba-md.com/medical/iryou/polst-2.html

もう一つ、日本語のPOLSTの説明。「オレゴン州では1991年にPOLST(The Physician Orders for Life-Sustaining Treatment:生命維持治療に関する医師の指示)が試行された。効果の期待できなくなった人への不必要なあるいは無駄な医療を行わないようにするもので、あらかじめ一定の書式が用意され、医師は本人や家族と終末期にどのような治療を受けるか話し合って、その意向に従って、急変時の蘇生術、病院への 搬送や侵襲的医療行為、経管栄養、抗生物質の使用など具体的な指示を医師が記入するようになっている。2004年の調査によると、オレゴン州のナーシング ホームの71%で行われ、88%の入所者がPOLSTを利用していた」
http://www.c-mei.jp/BackNum/103n.htm

POLSTの日本語版。
http://www.ohsu.edu/polst/programs/documents/POLSTnewestwithJapanese.pdf


【その他の話題】

世界で最も長く42年間も意識不明状態だったフロリダの女性Edwarda O’baraさんが21日に亡くなった。16歳で肺炎と糖尿病の合併症で意識不明になる前、最後に母親に行った言葉が「どこへも行かないで」だったことから、母親が24時間介護を続けた。母親が2008年に亡くなってからは妹(姉?)が介護してきた。妹は「話しかけると注目しているのは目を見れば分かった」亡くなる直前、「まっすぐ私を見て、今まで見たこともない大きな微笑みを浮かべた」。それでもコラムの解説には「意識不明状態だと意識があるように見えることもあるが、意識的に感じることも話したり聞くことも動くこともできない」。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2237593/Floridas-Sleeping-Snow-White-dies-42-YEARS-coma--longest-recorded----mother-sister-left-side.html

自殺幇助をビジネスにした3人の男を主人公にしたコメディがBBCに。
http://hotair.com/greenroom/archives/2012/11/24/great-news-assisted-suicide-sitcom-coming-to-bbc/
http://www.atvtoday.co.uk/3329-assisted-suicide-sitcom-for-bbc-three/
http://www.digitalspy.co.uk/tv/news/a440181/inbetweeners-star-for-bbc-three-assisted-suicide-comedy.html

英国NHSでコストカットが優先されるあまり、患者の10人に1人は敬意と尊厳ある扱いを受けられていない。ケアの質コミッションからの報告書。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/23/nhs-cost-cutting-patients-welfare
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/22/shocking-treatment-nhs-hospitals-care-homes

4Dのスキャンで胎児のあくびとただ口を開けている違いまで分かるように。「健康な乳児の識別に役立つ」とMNT。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253139.php

出国を「電子追跡」、女性の自由制限するサウジ政府。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121125-00000008-jij_afp-int

サウジ国王、車運転した女性へのむち打ち刑を撤回。
http://www.afpbb.com/article/politics/2831430/7836455

全日本おばちゃん党 始動。
http://osakanet.web.fc2.com/AJOP/
2012.12.07 / Top↑
英国で問題になっているLCPを家族の同意なく適用されたとして、Alan Boothさん「医師らに妻を殺された。自然死でもないしガンで死んだのでもない。死なすためのLCPにされたんだ。そうしておいて、それを「ケア」だというんだから」。保健相は、LCPは家族の同意なしには適用されないはず、と。:でも今英国で問題になっているのは、一方的かつ機械的なLCPの適用。ついこの前、NHSが実態調査を約束したばかり。⇒ LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/11/man-claims-doctors-murdered-my-wife.html

中国で自殺幇助合法化の声。
http://www.scmp.com/article/1086568/legalisation-assisted-suicide-option-china

安楽死防止連合のAlex Schadenbergが“Exposing Vulnerable People to Euthanasia and Assisted Suicide”という本を出版。カナダの自殺幇助合法化議論を中心に、ベルギーやオランダのデータも分析し、弱者がいかに危険にさらされることになるか、という内容みたい。
http://www.lifenews.com/2012/11/19/new-book-exposes-how-assisted-suicide-euthanasia-prey-on-people/

11月16日にNYロー・スクールで行われたシンポ「終末期の選択の自由」で「特別な人たち、特別な問題」と題して障害者と囚人に特化したパネルを設定しながら、そこに障害当事者を含んでいないことに対して、Not Dead Yetの活動家3人が抗議のビラを配った。その中で、パネリストの一人Alicia Ouelletteについても、著書“Bioethics and Disability”で障害者に理解のある生命倫理学者を気取ろうとしているが、障害者アドボケイトの主張に対する理解が間違っている、と痛烈に批判。:私はアシュリー事件からのOuelletteの論文など一連の流れの先にあの本を読むと、ある種のナイーブさは鼻につくけど、生命倫理に対して障害者運動の声にもっと誠実に耳を傾けろ、というOuelletteの呼びかけは真摯なものと感じるんだけど。あと、Thaddeus Popeも、Ouellette自身も彼女の所属するAlbany Law Schoolも障害者の権利については多くの仕事を成してきたのに、その批判は本当にフェアなものか、とブログでコメントしている。ウ―レットの本についてはこちらにリンク一覧 ⇒ Ouellette「生命倫理と障害」最終章:障害に配慮した生命倫理に向けて(2012/5/18) 
http://www.notdeadyet.org/2012/11/ndy-activists-leaflet-justice-action-center-ny-law-school-featuring-opponents-discussing-disability-concerns-without-including-disability-rights-activists-to-speak-for-ourselves.html

C&Cの年次報告。:Thaddeus Popeが「C&Cほど終末期の自己決定権と安全を守るための努力を払っている組織はない」と書いているのに、ちょっとびっくりした。
http://viewer.zmags.com/publication/98abaf6f#/98abaf6f/44

日本語。Togetter で「風船も検査もできないヘリウム不足がきた」:C&Cは薬の多剤併用だけど、FENはヘリウムを使う……。
http://togetter.com/li/410671

米国CA州のナーシングホーム入居者の権利擁護団体CANHRによる、NHでの高齢者への抗精神病薬投与防止キャンペーン・サイト。
http://www.canhr.org/stop-drugging/

ガーナでもゲイツ財団による農業改革。
http://www.ghanabusinessnews.com/2012/11/21/two-ghanaian-districts-to-benefit-from-bill-gates-funded-farming-project/

ハーバードやMITのオンライン授業が地方の小規模大学でも受けられるように、ゲイツ財団の資金で。
http://www.newstrackindia.com/newsdetails/2012/11/20/79-Bill-Gates-foundation-to-fund-new-online-teaching-model-in-US.html

ヨーロッパで医療費が何十年ぶりに縮小。OECD。
http://www.oecd.org/newsroom/healthspendingineuropefallsforthefirsttimeindecades.htm

日本。生活保護受給者の受診回数制限 自民検討チームが改正案
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121120-00000044-asahi-pol

英国教会、女性主教を認めず。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/nov/20/church-of-england-no-women-bishops

2006年にインドネシアで1日に248人の女児に女性器切除が行われた。その場に居合わせたジャーナリストのレポート記事。ハサミでクリトリス切除……。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/18/female-genital-mutilation-circumcision-indonesia

世界中で毎日45人の子どもたちが性的搾取を受けている。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/21/child-risk-sex-exploitation-gang

タイで浮気した夫のペニスを妻が切り取る事件が続発して、調査に。:タイやベトナムの女性のこういう「強さ」については、近藤紘一さんのベトナムものシリーズで何度も紹介されていたっけな。
http://www.guardian.co.uk/education/2012/nov/19/improbable-research-thai-women-cut-off-penis

世界中の使用者を対象にした、薬物使用に関する大規模調査が今日から始まる。インターネットで。約20分かかるそうな。何を、どういう理由で、どのくらいの頻度で使い、その結果、社会的に医学的に法的に、どういうことが起きたか、について。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/22/independent-drug-use-survey-launched

英国NHSの病院とケアホームは今だに質が低く、患者が不当な扱いを受けている、という報告書。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/nov/22/shocking-treatment-nhs-hospitals-care-homes

日本。「子どもの予防接種」なぜ必要? 自身と周囲を感染症から守る
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121122-00000519-san-soci

日本。NHKがんワクチン報道がダメな訳(2012年11月18日)
http://togetter.com/li/409474

あの人に会った:乙武洋匡さん 作家:新刊小説『だいじょうぶ3組』について、「この小説は経験をもとにしたフィクション。割とハッピーエンドで終わっていますが、実際はそうでないこともありました。あったことをそのまま書くか、フィクションにするか迷いました」。
http://mainichi.jp/feature/maisho/news/20121014kei00s00s018000c.html

漫画家さかもと未明さんの「再生JALの心意気」騒動と、その続報。:飛行機の中で起こったことの内、書かれてないことがあるよね……というのを最初に思った。「着陸準備中の機内を、出口に向かって走り始めた。その途中で、子供とお母さんにはっきりいった」と「そして私は、陸に降りても、激しくクレームをし続けたのでした」の間で、走り始めた彼女はACによって阻止され、たしなめられたはずなのだけれど、そのことはまったく書かれていない。それは彼女が「私は飛行機で騒ぎを起こして叱られた」という事実を「私は泣きわめく赤ちゃんの迷惑問題に対して、前向きな問題提起をしJALに改善策を要求したのだ」という事実に書き替えるために、「クレームをし続けた」のであり、その事実の書き換えを自分に対して定着させるために、この文章を書かないでいられなかったからなのでは? さかもとさんは、自分がしたこと、その結果起こった出来事に屈辱感を味わい傷ついたのではないか、それ以後の言動はすべて、その自尊感情の傷つきの修復作業だったのではないか、という気がする。そして、最初の文章を書いてゴウゴウの非難を浴びたことからの屈辱感と自尊感情の傷つきを修復するために、また次の文章を書くしかなかったのかな、と。事実を自分の中で無意識に書き替えるというのは誰でもある程度はやることだけれど、事実の書き換えを確認したり定着させるために新たな行動を起こしてまで自分の傷つきを否認しなければならない人は、永遠に事実の書き換えをやり続け、それをどんどん習性にしていくしかなくなるような気がする。
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20121119-00000002-voice-pol
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121122-00000005-rbb-ent
2012.12.07 / Top↑
侵襲度の低い新型出生前診断については、
英語圏で問題になっていた08年、09年を中心に考え書いてきたので、
日本で議論になってからは9月に以下のエントリーを書いたきりですが、

ダウン症の新型検査をめぐって(2012/9/9)


10月末に米国からダウン症の専門医が来日したことに関連して、
以下のニュースなどがありました。

妊婦に最新、十分な情報を 米専門医が重要性強調 新出生前診断の導入で
47NEWS, 2012年11月20日


このインタビューの中で、
マサチューセッツ総合病院のダウン症プログラム共同主任、
ブライアン・スコットコー医師が語っている「2008年にできた連邦法」の
前後の議論については、当ブログでいくらか追いかけているので、
同法関連のエントリーを以下に。

障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案(米)(2008/4/1)
周産期に障害・病気情報提供を保障 法案にW・Smith賛同(2008/4/16)
障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案つぶれる(2008/7/29)
出生前後の障害・病気診断に情報提供を義務付け(米)(2008/10/9)


なお、スコットコー医師らの調査結果について
詳細なデータとともに日本語で取りまとめてある記事を見つけました ↓
圧倒的多数の親がダウン症の子どもを持つ決断に満足
DS21.INFO, 2011年10月24日


また、この問題をめぐる米英での議論や関連事件のエントリーは以下。

2007年
選ばないことを選んだ夫婦の記録(2007/11/4)
「ダウン症だから選別的中絶」のコワさ(2007/11/12)

2008年
「中絶決断に情報提供不要」ヒト受精・胚法議論(2008/6/1)
羊水穿刺より侵襲度の低いダウン症検査、数年以内に(2008/10/8)
出生前診断をショーバイで語るとこうなる(2008/11/21)
英国でダウン症児の出生数が増加傾向(2008/11/24)
「障害児については親に決定権を」とSinger講演(2008/12/26)

2009年
“乳がん遺伝子ゼロ”保証つき赤ちゃん英国で生まれる(2009/1/10)
受胎前遺伝子診断:巧妙な言葉の操作が優生思想を隠ぺいする(2009/1/16)
出生前遺伝子診断で「あれもこれも調べたい」って?(2009/2/2)
ダウン症の安全確実な出生前検査まもなく米国で提供開始(2009/2/25)
非侵襲出生前診断の倫理問題をJAMA論文が指摘(2009/5/28)
ダウン症アドボケイトと医療職団体が出生前診断で“合意”(2009/7/1)
ダウン症スクリーニングでShakespeare「技術開発と同じ資金を情報提供に」(2009/11/10)

2010年
アニメ・ソング「ダウン症ガール」巡り「コケにされる平等」インクルージョン論争(米)(2010/8/31)
遺伝子診断で激減の遺伝病、それが社会に及ぼす影響とは?(2010/9/10)
ダウン症らしいからと、依頼者夫婦が代理母に中絶を要求(カナダ)(2010/11/18)

2012年
IVFの妊娠でダウン症を理由に中絶、5年間で123人(英)(2012/7/24)
「ダウン症だから」と本人にも家族にも無断でDNR指定(英)(2012/9/13)
2012.12.07 / Top↑