http://www.nice.org.uk/media/B7C/43/EoLCDraftQSForConsultation.pdf
Kevorkian医師の告別セレモニー。近親者が集まるのだから無理はないけど、「勇気をもって患者の苦しみを救うことに身をささげたヒーロー」とのトーン。
http://www.google.com/hostednews/ap/article/ALeqM5jN8d2dF9Cl0OqrY7S0YWCDFlHGvw?docId=df2727d6720a494d9022067a6b35ba4c
この前のGAVIのカンファで世界中から400億ドルを超える資金が集まったことに、「想定を超える成功」とLancetに。製薬会社がワクチンの値下げを行う一方、現地での腐敗が相次いで指摘されていることから、GAVIは集まった資金の分配について慎重に検討している、とLancetに。:これもまた、あれこれの批判を意識したものか。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960945-8/fulltext?elsca1=TL-240611&elsca2=email&elsca3=segment
野崎泰伸「生を肯定する倫理へ 障害学の視点から」(白澤社)。Quelletteの新刊Bioethics and Disability: Toward a Disability-Conscious Bioethicsに通じるテーマ。
http://www.arsvi.com/b2010/1106ny.htm
妊娠20週以降は胎児は痛みを感じるとして、妊娠中絶を禁じている州が米国にいくつかある。
http://www.nytimes.com/2011/06/27/us/27abortion.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=tha2
ホームレスが売ることで仕事をして賃金に繋がる支援雑誌ビッグ・イシュ―って、もう創刊から15年になるんだそうだ。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/big-issue-celebrates-15th-birthday/2207478.aspx?src=enews
日本の臓器売買事件続報。:すごく不思議なんだけど、臓器提供した男性が行方不明になっているというニュースは、早々と削除されてしまったみたい。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110626-00000771-yom-soci
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110626-00000101-san-soci
南アフリカで進められているHIV感染予防ジェルの臨床実験 CAPRISA 004 が
その素晴らしい予防効果で、Drug Information Association(DIA)から表彰された、
とのニュースが20日にあった。
女性が膣に塗布することで性行為によるHIV感染を防ぐ目的の、殺ウイルス・ゼリー。
この話題については、2010年7月20日の補遺で拾っており、
国連もWHOも歓迎しているとは言うけど気がかりなニュースだと思っていたら、
やっぱり懸念した通り、
この度の受賞のニュースと同時に、
とんでもない人権侵害の指摘が出てきている。
まず受賞ニュースからCAPRISA004について。
実施しているのは南アフリカのKwaZulu-Natal大学とColumbia 大学。
南アフリカ政府も関与し、Gilead Scienceという企業がゼリーの資材を提供している。
この記事から治験の内容について書かれた部分を抜き、概要をまとめてみると、
The CAPRISA 004 study of tenofovir gel involved 889 women at two sites in KwaZulu-Natal, South Africa. Women in the study were advised to use the gel up to 12 hours before sex and again soon after having sex, for a maximum of two doses within 24 hours. Women using the gel with the active ingredient had an average of 39% fewer HIV infections and 51% fewer genital herpes infections compared to women who used a placebo gel. These results provided the first evidence that an antiretroviral drug can reduce the risk of HIV in women.
南アフリカで889人の女性を対象にゼリーを渡し、
性行為の前後それぞれ12時間以内に使うよう指導。
すると有効成分の入ったゲルを使った女性では
有効成分の入っていないプラシーボ・ゼリーを使った女性よりも
HIVでは39%、性器ヘルペスでは51%も感染率が下がった。
これは女性のHIV感染リスク減少効果の初のエビデンスである。
Anti-HIV gel leadership team acknowledged for outstanding achievement in world health
EurekAlert!, June 20, 2011
USAIDSのCaprisaページはこちら。
このページにある研究の詳細によると、
対象となったのは「感染リスクの高い女性」と書かれています。
つまりHIV感染者のパートナーのいる女性です。
さらに、ゲルを渡す時には
「感染リスクを下げることについてカウンセリングを行い、コンドームを渡した」と
書かれていますが、「コンドームを使えと指導した」とは書いてありません。
そもそも実験の意図からして、
コンドームを使われたのでは実験にならないはず。
で、そういう研究デザインでプラシーボを渡された人って……?
まともなら、当然のこととして、疑問が頭に浮かんでくるはずなのですが、
なぜかWHOを始め、誰の頭にも、そんな疑問は浮かばない様子。
で、あるネット・メディアが、その疑問を声にした。
これは「新たなタスキギ実験」だ、と。
被験者の数が全然違うのはどういうことか確認できていませんが、
こちらの記事によると、2200人程度の女性にゲルが渡されており、
既に何百人もの女性がこの実験によってHIVに感染しているというのに、
国際社会は素晴らしいブレークスルーだと手を叩くことに疑問を呈している。
去年、研究者らはこのゲルには39%の感染予防効果がある、と
発表し胸を張ったが、39%の予防効果が意味することは
残り61%は予防できないということだ。
今年になって、予防効果は59%に上昇したという。
つまり41%はHIVに感染したということだ。
(最初の受賞記事は去年のデータのままなので、
その辺りも、ちょっと不可解ではあります)
しかもプラシーボを渡された人は
100%無防備な状態で感染者とのセックスをさせられたのであり、
タスキギ実験の被害者とまったく同じことをされている。
これが英国政府、米国政府とゲイツ財団が資金を出してやっている実験なのだぞ、と。
The new Tuskegee experiment
World Net Daily, June 20, 2011
このゼリーには、さらに、エゲツナイ話もあって、
なんと、塗ると性感がアップするという。
以下のインドの新聞記事は、実験の余禄として書いているけれど、
それは本当に「そんなことは想定外だったけど、使ってもらってみたら
どうやら、みんな、喜んでくれて、思いがけない余禄だった」という話なんだろうか。
記事に書かれている highly consistent use きっちり忘れずに使ってもらうために
想定内で仕組まれている……なんてことは?
なお、この記事でも、これまでの被験者数は2200人となっている。
Anti-AIDS gel also boosts sexual pleasure
The Times of India, June 15, 2011
ところで、
生まれた後に母親から子どもにHIV感染を起こさせないための乳児ワクチンの治験も
途上国で始まっており、
これについては2010年12月6日の補遺で拾い、私は次のように書いた。
さしたる根拠があって考えることではないけど、
これからはワクチン黄金時代だと盛り上がる製薬業界と、
そこに向けて資金を投入していく慈善資本主義とが、
何が起こっているか国際社会から見えにくく、
それぞれの国でワクチン接種に規制が及びにくい事情を抱えた途上国の乳幼児を、
実は食い物にしている……なんてことは本当にないのか……?
やっぱり途上国は、先進国がやりたい放題できる人体実験場と化しているのでは?
この疑惑については、以下のエントリーなどで書いています ↓
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの(2011/3/9)
Lancet最新号はゲイツ特集か:HIVに死産にHPVワクチン、それからこれはコワいぞ「グローバル治験条件緩和」(2011/5/9)
タスキギの梅毒実験については、こちらのエントリーに ↓
米国で行われた人体実験(2009/3/17)
どうやらゲイツ財団は「ワクチンの10年」祭りの次は
「エイズ予防」マーケット創出を目論んでいるのでは……と気になったエントリーはこちら ↓
各国政府がワクチンだけで財布を閉じるなど「許されてはならない……」とGuardianがゲイツ財団の代弁(2011/6/17)
その他、関連エントリー ↓
ファイザー製薬ナイジェリアの子どももに違法な治験、11人が死亡(2009/2/1)
タスキギだけじゃなかった米の非人道的人体実験、グァテマラでも(2011/6/9)
ゲイツ財団が「この国の官僚は役立たずだから」と中国で“エイズ検査でゼニあげるよ”キャンペーン(2009/12/15)
http://kochworks.com/bioethics_papers.php
米カトリック司教協会が自殺幇助合法化反対声明を出したばかりだけど、米国のあちこちのカトリック系の大学に、合法化運動に直接関与している教師が所属していることが明らかに。Dignity in Dying に所属している人まで。
http://www.lifesitenews.com/news/assisted-suicide-advocates-teaching-at-catholic-universities-report/
ProPublicaの製薬・医療機器会社と医師・研究者との癒着追及シリーズ。議会の調査、いよいよ大詰めに?
http://www.propublica.org/blog/item/senators-expand-inquiry-into-medtronic-spinal-product-royalty-payments
590万人、子ども人口の8%にアレルギーがある。米。白人よりもアジア系や黒人の方が多いらしいのだけど、研究者の分析では白人に比べて医師にかからない確率が高いせい、と。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/229191.php
世界銀行とJ.P.モルガンが共同で、途上国の貧しい農家や食品加工業者ら向けに融資プログラム。まずは南米と東南アジア対象に。:最初のページをざっと読んだだけでは経済オンチには良く分からないのだけど、このまえ、インド版サブプライム・ローンの話があったばかりなので、イヤ~な予感がする。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/world-bank-to-boost-hedge-financing-for-farmers-in-developing-nations/2011/06/21/AG4UdzeH_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
米国の原発監視組織に、安全基準をいじったんじゃないか、との疑惑。
http://www.propublica.org/blog/item/u.s.-nuclear-regulator-faces-fresh-scrutiny-for-bending-safety-standards
英国で、養子をもらう人が足りないというキャンペーンがこのところ盛んに行われていることは知っていたけど、その一方で、養護施設がどんどん閉鎖されているのだとか。養子縁組は完全に親の代わりになれるわけではないから、施設を完全になくしてはマズイとの指摘。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/21/residential-care-home-children-fostering
英で、民間の営利団体の経営による大学が、事業を拡大へ。
http://www.guardian.co.uk/education/2011/jun/21/bpp-private-bid-run-public-universities?CMP=EMCGT_220611&
授乳の時間が不規則だとしてスペインの社会福祉当局が乳児を保護したケースで、子どもを母親の元に戻せと国際的な批判運動が起きている。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/21/spanish-childcare-case-provokes-campaign?CMP=EMCGT_220611&
英国の新生児の8割が母乳で育てられている。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/229206.php
保育所や幼稚園など公的機関に行かせずに身内が子育てしていると「発達にダメージがある」。:
なんだろうね、その言いようは。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/229103.php
子どもの社会性の面でも成績の面でも、父親が母親と協働して子育てすることが望ましい。:なんだろうね。そこに成績が出てこなくちゃいけないワケってのは。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/229148.php
世界歳年長のブラジルの女性、114歳で死去。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/22/worlds-oldest-person-dies-aged-114?CMP=EMCGT_220611&
なんと、出たばかりの the Journal of Clinical Ethics誌の夏号に、
Diekemaが最新ヴァージョンの「最善の利益論より害原則」論文を発表しているとか。
これまた今朝のエントリーでとりあげたばかりの
「無益な治療ブログ」のThaddeus Mason Popeが反論を書いたとのこと。
お馴染みのブログに両者のアブストラクトが併記されています。
まず、Diekemaのアブストラクトから要旨をさらにまとめてみると、
子どもの医療に親が同意しない場合に最もよく用いられるのは
最善の利益スタンダードであるが、
私見では最善の利益スタンダードは
2つの異なった目的のために使われてきたもので、
実際にはそれらの目的には別のスタンダードが必要である。
最善の利益スタンダードがふさわしいのは
子どもの治療の選択肢の中からいずれかを選ぶ、
親に医療の選択に関するアドバイスをする、
法的意思決定権者に決定能力がなかったり意見の一致がない
の3つの場合で、
親の意思決定権限に州が介入を求める時期の判断には
最善の利益よりも害原則を用いるべきである。
Quellletteも害原則については
医療が行われない場合には機能するが過剰に行われる場合には合わないと言っていましたが
文末にリンクしたように、
彼は2007年段階ではいずれの場合にも害原則でと考えていた節があるので、
Ashley事件の文脈で考えると、ここへきて、ある意味、方向転換かも……。
なんとなれば、これは
医療職の思う通りに医療を行うべく親を誘導するには
子どもの害よりも利益を優先させることのできる最善の利益論で足りるけど、
医療職の思う通りの医療をやらせない親については
害を最優先する害原則で州に介入させて……って、
要するに、
親がどういう対応をしようと、
「医師の思う通りの医療」を「やる」方向に向かって
都合よく「最善の利益」と「害原則」とを使い分けよう……と
言っているに過ぎないのでは?????
Popeの反論は
Diekemaの主張していることは、
子どもの医療の意思決定で親にアドバイスする(guide)機能には最善の利益論がふさわしいが
親の決定を覆すための、すなわち制約する(limit) 機能にはふさわしくない、ので
特に州の介入時期を見極めるには、すなわち制約する場合には、害原則を使うよう提言している。
が、最善の利益論は、いずれの機能にも効果的に使えるし、
制約する機能にも、害原則は、健全な最善の利益論に勝るものではない。
The Best Interest Standard: Keep or Abandon?
Medical Futility Blog, June 22, 2011
私はAshley事件での「最善の利益」論による正当化に
ウンザリするほどえげつない欺瞞マジックの数々を見てきたので、
Fraderが言っていた「最善の利益論はポルノと同じ、どうにでも解釈は可能」という説に賛成。
(ただし「ポルノと同じ」エントリーの後半は、
私自身がこの段階では全く不勉強だったので理解不十分なまま書いています)
Popeがなんで最善の利益論を支持するのか、
「健全な」の中身を論文では詳述しているのかもしれないけど、
アブストラクトを読む限りでは、論拠がはっきりしない。
ただ、基準を使い分けることのいかがわしさを指摘しているのだとしたら、
その点には賛成。
どっちにしても、
最善の利益論にせよ、害原則にせよ、
「一定の条件を満たせばやってもよい」と最初から前提していることが私は気に入らない。
本当はその前に「条件を問わず、やってはならない」があって然りではないかと、
私はAshley事件の時からずっと考えているし、
Quelletteが08年と09年と2つの論文で説いていることも、
結局はそういうことだと思うのだけど。
【Diekemaの2007年プレゼン・エントリー】
「最善の利益」否定するDiekema医師(前)(2007/12/29)
「最善の利益」否定するDiekema医師(後)(2007/12/29)
ゲイツ財団の右腕シアトルこども病院所属のDiekema医師には、こういう姿勢もある ↓
「ワクチン拒否の親には他児に害をなす“不法行為責任”を問え」とDiekema医師(2010/1/20)
(追記:そういえば07年のプレゼンでも言っていたけど、
害原則論って、もともとは Miller という人の説なんだった。
で、それを小児科の意思決定に持ち込もうと提言するのがDiekemaということ?)
【Quelletteの論文エントリー】
「倫理委の検討は欠陥」とQuellette論文 1(2010/1/15)
Quellette論文 2:親の決定権とその制限
Quellette論文 3:Aケース倫理委検討の検証と批判
Quellette論文 4:Dr. Qの提言とSpitzibaraの所感
Quellette論文(09)「子どもの身体に及ぶ親の権限を造り替える」 1: 概要
Quellette論文(09) 2: Diekemaの「害原則」
Quellette論文(09) 3: 法の「非服従原則」
Quellett論文(09) 4:「所有しデザインする親」から「子の権利を信託された親」へ
Betancourt氏自身が亡くなった後にも
病院の上訴によって裁判が継続されており、
近く上級裁判所の判断が出るというところまで、
以下のエントリーで拾いました。
NJ州の「無益な治療」訴訟:Betancourt事件(2010/6/11)
この後、上訴裁判所は、病院側の一方的な治療停止決定を認めず、
この問題は感情の絡んだ裁判で決めるのではなく
冷静な議会の議論によって決めるべきだとの判断を下した、とのこと。
それを受けて、数日前に、議会の委員会に関連法案が提出されたらしいのですが、
その法案の中には以下のような条項があるとのこと。
医学的に合理的に考えて中止すれば患者が死ぬ確率が高いと思われる生命維持治療を
提供したくないと考える医療機関または医療専門職は、
代理決定権者が提供を望んでいる場合には
その代理決定権者の決定に従わなければならない。
ただし、
その患者を引き受けてもよいとする医療機関または医療職に患者を移送する、
または管轄の裁判所の判断を仰ぐことができる。
Betancourt to be Codified? No Futility Law in New Jersey
Medical Futility Blog, June 21, 2011
ほっ……とします。
17年間コカコーラの配達員として働いた後に失業し、無保険になったが、
膝やら関節炎やら足の怪我やら胸の出来物がどんどん痛くなって来たため、
6月9日、銀行に行くと、窓口の行員にメモを渡した。
「これは銀行強盗です。
黙って私に1ドル渡してください」
そして、
「警察が来るまで、あそこで座って待っていますから」といって、
片隅のイスに座っていたという。
犯行の前に地方新聞に手紙を送っており、
そこには以下のように書かれていた。
「この手紙が着くころには、私は1ドルの銀行強盗をしているでしょう。
私の精神状態は正常ですが、身体の方が健康ではないのです」
たった1ドルでは銀行強盗の容疑は成立せず、
彼は他人からの窃盗容疑で捕まっているが、
看護師の手当てを受け、医師の診察予約も取ってもらって、
所期の目的は達成した模様。
US man stages $1 bank robbery to get state healthcare
The Guardian, June 21, 2011
これほど露骨に社会に切り捨てられる人が増えると、
刑務所が、衣食住と医療の最低限の社会保障ということになってしまう……。
彼の手紙を受け取った地方紙の記者が撮った囚人服姿のVeroneの写真が
記事に掲載されている。
なんて悲しい顔……。
なんて悲しい時代……。
Alicia Quellette がこうした論文による考察をさらに進めて、
生命倫理学と障害者コミュニティの歩み寄りを模索・提言する著書を上梓しています。
Bioethics and Disability: Toward a Disability-Conscious Bioethics (Cambridge Disability Law and Policy Series)
Alicia Quellette
Amazonの内容説明は
Bioethics and Disability provides tools for understanding the concerns, fears and biases that have convinced some people with disabilities that the health care setting is a dangerous place and some bioethicists that disability activists have nothing to offer bioethics. It wrestles with the charge that bioethics as a discipline devalues the lives of persons with disabilities, arguing that reconciling the competing concerns of the disability community and the autonomy-based approach of mainstream bioethics is not only possible, but essential for a bioethics committed to facilitating good medical decision making and promoting respect for all persons, regardless of ability. Through in-depth case studies involving newborns, children and adults with disabilities, it proposes a new model for medical decision making that is both sensitive to and sensible about the fact of disability in medical cases.
障害のある人の中には医療現場は危険なところだと信じ込んでいる人がいる一方、生命倫理学者の中には障害者運動の活動家から学ぶことなど何もないと考えている人がいる。そう考えさせてしまう背景にある懸念や不安や偏見を理解するためのツールを提供するのが本書である。
生命倫理学は原理的に障害者の生の価値を認めていないとの批判を考察し、障害者コミュニティの懸念と自己決定権アプローチを基本とするメインストリーム生命倫理学との競合関係を調整することは、可能であるだけでなく、生命倫理が良質な医療決定を支援し、障害の有無を問わずあらゆる人を尊重していくために、不可欠なことでもある、と説く。
本書は、障害のある新生児、子ども、成人に関わるケースを詳細に検証することを通じて、医療において障害という事実をきちんと踏まえ、その事実に即した意思決定ができるよう新たなモデルを提言する。
5月18日に出されて、あちこちのメディアに出ているリリースは以下 ↓
Professor Quellette’s New Book Seeks to Unite Disability Rights Advocates with Bioethicists to Improve Quality of Lilfe for People with Disabilities
この中で引用されているQuelletteの言葉で
私が強く惹かれるのは、
「交通事故で四肢まひになり、人工呼吸器をつけることになった男性が、
病院のICUとナーシング・ホームで何カ月も外とは孤絶したまま
生きる気力をなくしました。
彼は裁判所に訴えて、人工呼吸器のスイッチを切る権利を認められました。
生命倫理学者たちは、自分の命を終わらせる選択は彼本人のものだと主張しましたが
そこに障害を巡る専門家らが介入し、家で生活しながら働く手段を見つけ出しました。
彼の生活は改善し、彼はついに呼吸器のスイッチを切らない決断をしたのです」
「生命倫理学者、障害者の権利アドボケイト、医師と看護師が一緒に考えることによって、
障害の向こうに、このケースのように、もっと大きな絵を見ることが出来ます。
そうすれば、誰にとってもQOLがポジティブなものであるような
適切かつ包括的な治療・処遇を作り出していくことができます」
昨今は日本で大人気のMichael Sandel教授も
この論文でとりあげられた養女の目の整形手術について論じているらしく
Quelletteもサンデルを援用していますが、
子ども自身のニーズとは無関係に、親自身の目的によって
子どもの身体に手を加えて作り変えようとする親のことを
サンデルはこう呼びます。
the designing parents――。
(子をデザインする親)
そうした親を巡ってサンデルの言わんとすることは
さらにWilliam Mayという学者からの引用によって示されており、
親になるとは以下のことを教えられることだとして
「子どもを生まれたそのままに贈り物、ギフトとして尊重すること。
デザインする物体や、意思によって作り出すものや、我々の野心の道具としてではなく」
「親の愛とは、
子どもがたまたま持ち合せている性能や特性によるのではなく
ありのままの子どもを受け入れることによるもの」
その上で、子どもの発達を促し、健康に留意し、必要な治療を受けさせることと
「デザインする」こととの区別を説くサンデルの説を解説した上で、
Quelletteは、再びParham判決を引き、
医療における意思決定での親の決定権は
「子どものニーズを満たす親の義務」に基づくものであり、
「子どもの身体に対する所有権」に基づくものではない、と説いて
臨床現場の実態がそうなっていないことの問題を再確認します。
この後、では、どういうモデルがよいのかの検討に入っていくのですが、
親の権限を尊重しつつ、それがフリー・ハンドの権利ではないことを明確にするため、
Quelletteが提言するのは
「子どもの権利を信託された者」としての親と、その義務と権限。
Barbara Bennett Woodhouse、 Joel Feinberg, Elizabeth and Robert Scottによる
それぞれ3つの「信託者モデル」を解説した(煩雑なので、ここでは省略)上で、
3つのモデルに共通しているのは
親の権限ではなく、子どもの福祉を増進することに目的がおかれている点。
子を親の所有物としてではなく、権利を持ったひとりの人とみなしている点。
世話をされニーズを満たされることに対する子どもの基本的な権利を確認している点。
これらの原則によって子どもの権利と尊厳を守りつつ、
3つのモデルの利点を生かし、不備を補いながら、
同様の新たなモデルの構築を模索しているのがこの論文の最後の章で、
財産の信託者の義務と責務と、裁判所が関与すべき意思決定の範囲、
違法行為とされる範囲などを詳細に参照しながら、そのモデルを検討していくのですが
権限の範囲にしても、誰が第三者となるべきかという点にしても、
かなりぐらついているように思えて、この部分は私には良く分かりませんでした。
ちょっと未消化のまま書かれているという印象ですが、
Quelletteは、こうした考えをその後、著書にまとめたようですから、
そちらに期待して、読んでみたいと思います。
いずれにせよ、今の米国の医療において、
親子の関係を上下の所有関係と捉える旧来のヒエラルキー型家族モデルの中で
子の所有者としての親の権限をフリー・ハンドで認め、
それが「親の権利」と受け止められてしまうことへの疑義と、
親は子の所有者ではなく、
子どもが一人の人として持った権利を大人になって自分で行使するまでの間、
その権利を信託されているに過ぎないと捉えて、医療においても、
その範囲での意思決定の“権限”のみに制約する枠組みが必要……との提言は、
非常に大きな意味のあると思いました。
改めて、Ashley事件で Norman Fostやトランスヒューマ二ストらが
「親の決定権」を振りかざして批判を封じようと試みたこと、
07年の論争で、一般の世論の中にも、
「実際に介護していない者が口を出すな」と
介護をしている事実が全権白紙委任に結び付いてしまったことなどを振り返り、
これは必要な議論だ、と痛感します。
(シリーズ 完)
このシリーズは、以下の内容となっています ↓
Quellette論文(09)「子どもの身体に及ぶ親の権限を造り替える」 1: 概要
Quellette論文(09) 2: Diekemaの「害原則」
Quellette論文(09) 3: 法の「非服従原則」
Quellett論文(09) 4:「所有しデザインする親」から「子の権利を信託された親」へ
Quelletteによれば法の「非服従の原則」とは、
ある人の自己決定の権利は
他者の生命や身体を自分の目的に服従させる権利までを含むものではない、ということ。
クルーザン判決においても
意思決定能力の有無を問わず患者本人にしか決定できないことがあると確認されている。
(これ、日本語で言う一身専属事項ということですね)
したがって、子どもが成人して後に自分でするべき決定まで
子どもに代わって決定し、その身体に手を加える権利が
親の決定権に含まれると考えるのは、道徳的にも法的にも間違っている。
親の決定権を確認したものとして有名なParham判決でも、
親の決定権を認めつつ、子どもの最善の利益に従って行動しない親もいることが指摘され、
親の謝った決定権の行使が子どもを従属させ無用な医療や拘束に繋がる場合には
裁判所が介入すべき必要に言及されている。
さらに非服従原則を裏付けるものとして
ナチスの実験やNYの障害児施設での虐待事件などの反省、
施設での向精神薬による拘束禁止などにも触れられていますが、
病気の子どもの治療のために別の子どもの身体を利用する親の意思決定についても
一節が割かれています。
そこに書かれていることは、このシリーズの冒頭に述べたように
一昨日のエントリーや救済者兄弟の問題にも繋がって興味深いので拾っておくと、
(救済者兄弟については、一昨日エントリーにリンク一覧があります)
こうしたケースは現場で判断されることが多いが、
裁判所に持ち込まれる数少ないケースでは裁判所は進んで関与している。それは、
こうしたケースでの親の選択が、親とレシピエントの子どもの利益のために
ドナーの子どもの身体を犠牲とするものだからで、
レシピエントの子どもとの親密な関係を保てることで
ドナーの子どもの最善の利益となることが明らかな場合にのみ
臓器提供の意思決定を認めるのが裁判所の一貫した姿勢である。
裁判所は、誰かの目的にドナーになる子どもの身体を服従させることは認めない。
(この一節、Strunk判例などを考えると、かなり無理があると思う。
実際は、裁判所が容認に傾いていることを知りつつ、むしろ、その懸念から
敢えてQuelletteはそういう裁判所のあり方への抵抗として
この部分を書いているような印象を、私は受けました)
以上のように、成人の場合であっても
一人の権利は他者を服従させてまで行使を認められることはなく、
一定の基本的な意思決定は本人にのみ認められているのだから、
親だというだけで、または医療が関わっているというだけで、
子どもの人格を侵害する権利が認められるわけではない。
この点については、私も前に
アベコベというエントリーで書いたことがあります。
別の言葉で書いているだけで、これはQuelletteの主旨と全く同じだと思うので、
以下にコピペしておくと、
米国、カナダの医療において、子どもの場合は「親の決定権がすべて」という方向に推移しつつあると思われること。
もちろんワクチン接種など公共の利益を優先させようとする場合には、親の決定権を制限する方向に力が働いていこうとしているけれど、特に障害のある子どもたちの体に社会的理由で手を加えることについては親の決定権を尊重する方向性が明確になってきていて、
Ashley事件のあったシアトル子ども病院の医師らは、子どもの医療に関しては健康上の必要がないものであっても「親の決定権で」と主張している。
カナダのKayleeのケースを見ても、親の決定権は、もはや子どもの生死や臓器提供の判断にまで及んでいる。(もちろん、このケースでは医療サイドからの誘導があったのだけれども)
子どもは親の所有物なのか、と首をかしげてしまう。
しかし、気をつけておきたいと思うのは、ここでも「親の決定権」が声高に主張され意思決定の正当化に使われるのは「死なせる」「臓器を提供する」という方向の判断についてのみであって、「助けてほしい」「生きさせてほしい」という方向で親が意思決定を行おうとしても、病院や医師から「それは無益な治療だからできない」と拒まれるのだから、ずいぶんとご都合主義に1方向にのみの「親の決定権」。
医療における意思決定の議論が、例えば自殺幇助など、意思決定能力のある成人においても「自己決定がすべて」ではないというのに、子どもという弱者に関しては、その命を含めて「親という強者による決定」がすべて。
12歳~14歳になれば mature minor(成熟した未成年)として本人意思が尊重されるのに、それ以前の未成熟な未成年と知的障害のある子どもでは「親の決定権」にゆだねられる。
それ以下の年齢の子どもや知的障害のある子どもこそ、成熟した未成年よりも成人よりもセーフガードを強力にして保護すべき存在であるはずなのに、意思決定能力がないから保護する必要がないといわんばかりで、
これは絶対にアベコベだ、と私はいつも思う。
(次のエントリーに続く)
この論文でとりあげられる4つのケースのうち、
最後のAshleyケースについてはともかくとして、
私がいちばん興味深く読んだのは③の脂肪吸引のケース。
Brooke Batesという12歳の女の子。Quelletteによればこの段階での最年少。
親の要望で整形外科医が35ポンド分の死亡と水分を吸引。
その結果を親子は奇跡だと称して喜んだが、効果は続かず
Brookeは1年もしないうちに元の体重になる。
すると今度は、両親は胃のバンディング手術を希望。
米国の医師らが断ると、メキシコに連れて行った。
興味深いと思った点は、
こうした“簡単解決”技術の利用には、
目的志向型の思考回路にどんどんはまり込んでいって
技術によって得られる効果に意識が焦点化され、
それが自己目的的化してしまう危険性があるのかもしれない、と
前から漠然と感じていたことをはっきり意識させてくれたこと。
例えば本来の希望は「きれいになりたい」とか「そのために痩せたい」であり、
そこには運動するとか食生活を見直すなど他の選択肢だって沢山あるはずだし、
そうした希望そのものの設定の仕方を疑問視してみる考え方もあるはずなのに、
いったん“簡単解決”技術を頼ることによって、技術を通じて解決する方向へと
直線的に突き進む隘路にハマりこんでいく……。
それは、希望や本来の目的に応じて適切な解決策を考えるというよりも、
むしろ技術のポテンシャルの方が目的やニーズを規定していくような……。
(例えば、「ロボット技術が育児に応用可能になりそうだ」という段階から
「オムツは親よりもロボットが替えた方が衛生的で、サンプルからデータもとれれば理想的」と
ロボットの機能の方から育児行動の目的を規定し直していく児童精神科医のように)
ちなみに、米国整形外科学会の報告によると、
2007年に13歳から19歳の子どもの脂肪吸引は4960例とのこと。
Quelletteが問題視するのは
これら4つのケースのいずれも裁判所に判断がもちこまれていないこと。
現行法では、憲法と判例法により、
親の決定権が法によって保護されているかのようにも思え、
こうした4つのケースにおける親の意思決定は
子どもが通う学校や教会を親が選び決めるのと同じような扱いになっている。
昨今の家族法分野の議論では
親と子の関係を伝統的なヒエラルキー・モデルから
自己決定できる存在として子どもを尊重する他のモデルへのシフトが起こりつつあるのに、
医療法は、ある種の医療を除いて基本的にヒエラルキー・モデルをとっている。
しかし、医療においても議論がないわけではない。
そこで、Quelletteが実にさりげなく持ちだしてくるのが、
私にはもうウハウハしてしまうほど面白かったことに、
Ashley事件の担当倫理学者、Diekemaの「害原則」論なのですね。
彼の「害原則」は文末にリンクしたように
当ブログも2007年段階で拾っているのですが、
Diekema医師はAshley事件が論争になるまでは、むしろ慎重な姿勢の倫理学者です。
彼が03年に書いた障害者の強制不妊に関する論文は実に理にかなったものだし、
子どもの医療を巡る意思決定についても、
利益対リスクや害を比較考量する「本人の最善の利益」論では
子どもを十分に守ることができないとして、
まず子どもに及ぼされ得る「害」だけを検討し、
「害を及ぼさないこと」を最優先する意思決定モデルを用いるべきだと
2007年のシアトルこども病院の生命倫理カンファで説いています。
これが彼の説く「害原則」harm principle。
(この原則によれば、
Ashleyの両親の要望を彼は認めてはならなかったはずなのですが)
Quelletteの論文で初めて知ったのだけど、
彼は害原則について2004年に論文も書いているようです。
しかし害原則だけでこれら Shaping ケースを制限することには限界があると
Quelletteは言います。
その理由は以下の3点。
①害原則判断は必然的に個別の介入またはケースごとに行われるものである。
②医療が行われない場合には有効だけれど、過剰に行われるケースでは機能しにくい。
(Diekemaの上記プレゼンも、確かに、親の医療拒否ケースが前提でした。
でも、その中で彼は親が医療を要望してきた場合を想定して、
親の希望に沿ってあげるとしたら「通常の臨床の範囲内で」と一定の基準を示しています。
これもまた、AshleyケースでDiekema本人が逸脱した基準なのですが)
③害原則は、害さえ及ばなければ親の決定権の範囲との前提に立っており、
問題の本質に対応していない。
この最後の点をQuelletteは最も重視しているのですが、これは私もAshley事件で、
正当化の根拠とされた「利益対リスク」論の盲点だと考えました。
確かに「害原則」にもQuelletteの指摘の通り、同じ盲点があります。
Quelletteは、これらの考察から
子どもの身体に手を加えることを親の「権利」と捉えることそのものが
法や道徳の議論の根底にある原理に沿わない、と主張するのです。
彼女の言う、その法や道徳の原理とは、
「人は所有財産ではない、それゆえ、人は尊敬と尊厳に値するのであり、」
誰であれ他者の身体に完全な支配を行使する権利を有する者はいない」。
それを裏付けるものとして Quellette が次に引っ張ってくるのは
法における「非服従(nonsubordination)の原則」。
それに関する議論は次のエントリーで。
【関連エントリー】
「最善の利益」否定するDiekema医師(前)(2007/12/29)
「最善の利益」否定するDiekema医師(後)(2007/12/29)
あの傲慢なDiekemaに反論の隙を与えない、実に見事な批判論文を書いた法学者です。
また、去年4月28日にMaryland大学法学部が開催した
障害者の権利に対する医療と倫理委の無理解を考えるカンファレンスにおいて、
「障害と医療資源の分配」をテーマに講演を行っています。
Albany Law Schoolの準教授で
Union Graduate College/Mt. Sinal School of Medicine Program in Bioethicsの生命倫理の教授。
2008年のその論文については以下のエントリーにまとめています。
「倫理委の検討は欠陥」とQuellette論文 1(2010/1/15)
Quellette論文 2:親の決定権とその制限
Quellette論文 3:Aケース倫理委検討の検証と批判
Quellette論文 4:Dr. Qの提言とSpitzibaraの所感
Quelletteはこの翌年に、射程をもう少し広くとり、
Shaping Parental Authority Over Children’s Bodies
「子どもの身体に及ぶ親の権限を造り替える」というタイトルの論文を書き
ネットで公開した後、2010年にIndiana Law Journal Vol. 85に発表しています。
(10年にジャーナルに発表された際に内容が変わっている可能性がありますが、
私が読んだのは同じタイトルで2009年にネット上で公開されたものです)
たぶん、上記08年の見事な論文を書いた時に、
こういうことを急いで言わなければならない必要を痛感して、
それで本当に急いで書いたんだろうなぁ……という感じ。
あの08年論文と同じ人の手に寄るとは思えないほど
思いが先走って、ちょっと粗雑な印象の議論が続く。
そういう長大な論文を読み通すのはすごく苦しかったのだけど、
それでも、相当な日数をかけて最後まで読まずにいられなかったのは、
こういうものを急ぎ書かないでいられなかったQuelletteの危惧を
私自身が全く同じように共有しているから。
Ashley事件を追いかける過程で、
私が最も重大な問題として受け止めてきたのは、
親と子の関係性の中にはそれぞれの利益と権利の相反があり、
そこには支配―被支配の関係が潜んでいる、ということでした。
でも米国社会は、その事実と向き合うよりも
むしろ積極的にそこから目をそむけ、むしろ親の権限を「愛」で飾り立てては
「親の決定権」を増強していく方向に突き進み、
社会をそちらの方向へと煽りたてているように見える。
それは、米国を中心に広がっていく「科学とテクノで簡単解決バンザイ文化」と
そこに利権構造が絡みついたグローバル金融ひとでなし慈善資本主義にとっては
「親の権利」と「親の美しい愛と献身」とが、
たいそう都合よく利用できる隠れ蓑だから……。
そういうのが、07年からAshley事件を追いかけてきた4年半で
私におぼろげながら見えてきた「大きな絵」――。
そこでQuelletteの09年論文は「マスト論文」として、
かなり前から少しずつ読み進めていたところ、
19日にエントリーにした「姉のドナーとして生まれた妹がテレビに」という話題で
俄かに懸念がまた膨れ上がり、その懸念に背中を押されて、
やっと残りを一気に読み終えました。
アブストラクトはこちら
U.S. law treats parental decisions to size, shape, sculpt, and mine children’s bodies
through the use of non-therapeutic medical and surgical interventions like decisions to send a
child to a particular church or school. They are a matter of parental choice except in
extraordinary cases involving grievous harm. This Article questions the assumption of parental
rights that frames the current paradigm for medical decisionmaking for children. Focusing on
cases involving eye surgery, human growth hormone, liposuction, and growth stunting, I argue
that by allowing parents to subordinate their children’s interests to their own, the current
paradigm distorts the parent-child relationship and objectifies children. I propose an alternative.
Pushing analogies developed in family law and moral philosophy to respect children as complete but vulnerable human beings, I develop a trustee-based construct of the parent-child relationship, in which the parents are assigned trustee-like powers and responsibilities over a child’s welfare and future interests, and charged with fiduciary-like duties to the child. Application of the trustee-based construct separates medical decisions that belong to parents, from decisions that belong to children and those that should be made by a neutral third party.
内容について、これを含め4つのエントリーで取りまとめてみます。
Quelletteがこの論文でとりあげている「親が子の身体を造り替えた」事例は4つで
① 整形外科医が自分のアジア系の養女の目を二重瞼にする手術をしたケース
② スポーツ選手にとの期待から正常な背丈の子どもに成長ホルモンが使われるケース
③ 12歳の女児に脂肪吸引術、効果がなくなるとバインディング手術が行われたケース
④ Ashley Xのケース
(今だったら、イジメ防止のための耳の整形ケースも加えたいところ)
これらを「典型的な身体改造( shaping )ケース」とQuelletteが挙げているのは、
4つのケースに共通している以下の点が
shaping ケースでの親の権限を問題とするから。
・外見や社会的文化的理由で非治療的な造り替えが行われた。
・それらの介入は侵襲的、不可逆的で危険を伴うものである。
・親の意思決定によって行われた。
・いずれも判例法に報告されていない。
Quelletteは、これら4つのケースで用いられた医療介入の内容とリスクを詳細に検証し、
現在の医療決定における親の権限の危うさを指摘する。
そして、
親と子の関係を上下のヒエラルキーとして捉え、子を親の「所有物」とみなして
親の「権限」をいつのまにか「権利」にすり替えてしまっている
現在の医療法における親の権限の捉え方を分析、批判し、
権利を持った一人の人として子どもを尊重し、
その福祉と将来の利益を「信託された者」として親を捉えなおすと同時に、
これまで提起された親を信託者とする3つのモデルを参照し、
次に財産管理の信託を巡る法の理念を参照しつつ、
信託者としての親の医療における意思決定権限の論理的な枠組みの構築を試みる。
結論としては、医療における一定の範囲を超えた意思決定には
第三者の検討を加え制約をかける仕組みを作るよう提言している。
いずれの個所もツッコミどころは沢山あって、
特に重症児の成長抑制はこれでは肯定されてしまうではないか……と
個人的にも不満でもあるのだけど
それでも急ぎこういうことを書かなければ……と
切迫したQuelletteの危機感には大いに共感するし、
よくぞ書いてくださったことよ……と感謝の気持ちにもなる。
科学とテクノの発達で
親が子どもの身体を造り替えるためのツールがどんどん増えてくるにつれ、
「科学とテクノの簡単解決バンザイ文化」の背後にいる利権は、
「親の決定権」や「親の愛」を批判をかわすための“印籠”として振りかざしては
同時に“打ち出の小槌”にしていこうとしている。
そんな時代の空気の中で
親の決定権がフリー・ハンドになってしまっている状態を
このまま放置してはいけないとの問題提起として、
とても重要な論文だと思う。
(次のエントリーに続く)
http://www.comres.co.uk/scopendppsurvey15may11.aspx
米国PA州で、91歳の女性が尊厳死を望んでいる。家族の手を借りるとかろうじてベッドから降りてトイレにも行けるようだけど、関節炎、脳卒中の後遺症、肺炎、気管支炎……。もう充分に良い人生を生きたから、死にたい、と。介護している孫の女性も「本人には毎日が疲労困憊なんです。これでは生きているとは言えない。存在しているというだけ」と。:この記事には心が痛んだ。時々、ふっと「向こう側」に行ってしまいそうになる時がある。あまりにも希望が見えてこないから、事態は悪化するばかりに見えるから、かもしれない。結局、死にたいと考えることも、そういうことなんじゃないのかなぁ……、と考えてみたりもする。
http://www.nj.com/mercer/index.ssf/2011/06/desperate_and_ill_woman_cries.html
英国で在宅ケアを受けている高齢者は食事介助が不十分で、寝たきりにされている。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/20/home-care-elderly-human-rights?CMP=EMCGT_200611&
英国の精神科医療の人員不足が深刻で、このまま政治が手をこまねいていると社会はおおごとになるぞ、と精神医療学会会長が警告。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/20/mental-health-services-in-crisis-over-staff-shortages?CMP=EMCGT_210611&
米国で、壮年期以降に整形外科手術を受ける男性が増えているそうな。
http://www.washingtonpost.com/national/why-are-more-men-going-opting-for-cosmetic-surgery/2011/03/25/AGALTKdH_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
ワシントンD.C.の住民のアンケートで、最も対応が急がれる健康問題はエイズ、と。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/dc-residents-see-aids-as-citys-biggest-health-problem/2011/06/17/AGFRrZdH_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
米国の教育改革議論で、「クラスの大小が問題かどうか、聞くならビル・ゲイツじゃなく、教師に」という記事があった。:そう、そう。これ、ずっと不思議なのよ。ビル・ゲイツって、ITとゼニ儲けの専門家であって、医療や保健の専門家でも教育の専門家でもないでしょーに。
http://blogs.ajc.com/get-schooled-blog/2011/06/19/does-class-size-matter-dont-ask-bill-gates-ask-a-teacher/?cxntfid=blogs_get_schooled_blog
グローバルひとでなし強欲資本主義の代名詞みたいな Walmartに対して、女性従業員が大挙して集団訴訟を起こしている女性差別裁判については、3月29日の補遺で拾ったけど、最高裁が上訴を却下。それほど多くの女性の利益が同一であることはあり得なくて、この訴えはこんな規模の集団訴訟にはそぐわない、と。NYTには、「これは差別問題は裁判所ではなく職場で解決するように、とのメッセージ」だという解釈や、「集団訴訟という訴訟のやり方を裁判所はだんだん難しく費用のかかるものにしつつある」みたいな記事がいろいろ出ていた。:個人的には、こうして弱い者を守る社会の機構が徐々に奪われていく……という気がしてならない。
http://www.guardian.co.uk/business/2011/jun/20/walmart-sex-discrimination-class-action-rejected?CMP=EMCGT_210611&
ちなみにウォールマートは、米国内でも海外でも、労働環境の劣悪が問題化している。
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/62997153.html
メリーランド州の成人30人に1人はギャンブル依存。:これ、時々、娘をつれて太鼓をたたきにゲーセンへ行く時に私もいつもすごく気になる問題。
http://www.washingtonpost.com/local/one-in-30-marylanders-has-gambling-problem-state-study-finds/2011/06/20/AGEyLSdH_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
世界中の難民の数が15年間で最高に。その多くがいる国々では、難民流入に対処不能状態に。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/20/unhcr-report-refugee-numbers-15-year-high?CMP=EMCGT_200611&
出頭して収監されるというのでメディアやら“支援者”やら、ただの野次馬やらで
大騒ぎになっている様子をお昼のワイドショーで見ていたら、
今まで、以下のエントリーなどで考えてきた
グローバル金融ひとでなし(慈善)ネオリベ資本主義と
「科学とテクノの簡単解決文化」とが繋がっているカラクリについて何となく考え始めて、
巨大ファーマがかつてのゼネコンなのだとしたら……(2009/9/29)
事業仕分けの科学研究予算問題から考えること(2009/12/12)
「必要を創り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
特に、日本の「ワクチン産業ビジョンの要点」の怪のエントリーで書いた、
次のようなことが、またあれこれと頭に浮かんだ。
ここ数十年の世界経済や金融での大きく急速な構造変化が起きていること、それが、製薬業界・医療機器業界を中心にした科学とテクノロジーの分野の諸々を、否応なく経済と金融の領域の問題にしてしまっていることなどが、
ずっと医療の中にいて、すべてを医療の中の問題、医療の専決事項として眺め考えてきた現場の医師の多くには、捉えきれていない……という面があるんじゃないんでしょうか。
そんなことを考えながら、でぶでぶのホリエモンをぼや~っと見ていたら
頭に浮かんだことは、
「医療は儲かる」というのは昔から一般常識だった――。
だから、苦しんでいる人を助けられる仕事に、と志す人の中に混じって、
金持ちになりたいから医師になろうと思う人は昔からいたし、
私の中学時代の同級生の一人は「お金がなかったら、
しなくてもいいケンカをしなければならないのが夫婦だから
私は絶対に医者と結婚する」と言い、11歳で既に
それを自分の前半生で最も重要な信条としていた。
でも、たぶん、昔の「医療は儲かる」というのは、
どういう形であれ「医療に直接携わっている人が儲かる」という話だったんじゃないのかな。
そして、医療に直接携わっている人というのは、
基本的に医療に携わるものとしての一定の倫理観をそれなりに持ち、
患者のために働き、自分の生活を犠牲にしたり、時には身を粉にすることも厭わず、
まぁ、儲かる分、それだけの負担も責任もリスクも背負っているよね……という程度には
働きと儲けとのつり合いがとれていた時代だったんじゃなかろうか。
もちろん悪辣なことをやってボロ儲けをする人は
どこの分野にもいるだろうけど、それでも臨床でそれをやってボロ儲けするのだとしたら
その儲け幅だって、それなりの範囲にとどまっていたんじゃないだろうか。
その時代だって企業とつるんで旨い汁を吸う研究者はいただろうけど、
その人たちが懐にするカネの高だって、そういう長閑な時代相応に
やっぱり、それなりだったんじゃなかろうか。
でも、たぶん、IT技術とグローバリゼーションが
金融の世界の仕組みやスピードやダイナミズムを
ごろりと様変わりさせてしまったことで、「医療は儲かる」には
全く別のヴァージョンが誕生したんじゃないだろうか。
医療と直接的な関係などまったくない人たちにとっての
「医療は儲かる」ヴァージョンBみたいのが――。
例えばホリエモンみたいに、
ただ、ある日ある時間に、インターネット上でクリックして
カネを右から左へと何度か移動するだけで巨額のカネを手に入れる人たちが誕生した。
「医療は儲かる」ヴァージョンAでの臨床医の儲けが子どもの遊びに思えるほどの巨額のカネを、
臨床現場など知りもせず、患者に触れることはおろか見ることすらなく手に入れる人たちが――。
そういう人たちには、もちろん
医療を巡る倫理意識なんて面倒くさいものは、ない。
例えば、「着床前遺伝子診断の問題」の話題が出れば、
彼らは多分「ポテンシャルが大きい成長分野だね。
今はダウン症が狙い目だけど、ダウン症のニーズはの氷山の一角に過ぎないからね」
なんてことを、したり顔して言うんだ。きっと。
その技術が医療において一体何を可能にし、
そこにどういう問題が潜んでいるのか、なんて興味の外なんだ、きっと。
「倫理問題……ナニそれ?」てなもんかもしれない。
「これこれの新しい薬または医療技術が開発されている、有望である」という話は
「これこれの新しい繊維が開発された。これは当たる」という情報と同じく、
投資行動を決めるための参照情報に過ぎないんだ。きっと。
ある薬の副作用で子どもが死んで裁判になったと聞いても、
それで訴えられた企業の株価がいくら下がるか、ということが最大の関心事なんだ、きっと。
そういう人たちが医療関連の企業の株主さんになって、
ものすごい速度とものすごい規模でカネが動かされ、利益も損失も巨額になった世界は
企業にも、株主を儲けさせるという株主への責務を最も重要な使命として要求していく。
しかもスピーディに。常に成果を出し続けることを。
現場と繋がっていないからこそ哲学的なジレンマや倫理意識からも自由でいられる、
子どもみたいな単純素朴な算術的思考回路で。
短期決戦的エネルギーの使い方を長期持続的に労働現場に求め、強いながら。
現場の人たちを職業倫理と成果&効率とで板挟みにし、ギリギリと締めつけながら。
ホリエモンなんかメじゃないような桁違いのカネを動かせる人たちが大株主になって
多国籍化した医療関連企業に対して発言権を行使していく。倫理意識なんてないままに――。
「医療は儲かる」って、そんなふうに
ビッグ・ファーマや医療機器関連企業やバイオ企業に投資する人たちの、
“モラルも倫理もなき医療は儲かる”ヴァージョンBの話にすり変っちゃったのでは――?
英国政府がビッグ・ファーマに「倫理観を持って」と呼びかけていたのは
2008年のことだったけど、その背景にあったカラクリって
要するに、そういうことだった……?
でも、それから、よもや、たった3年で、
英国政府や米国政府や日本政府の方に「倫理観を持って」と呼びかけたいような
「医療(ワクチン)施策」不在の「医療(ワクチン)産業」施策の時代に突入してしまうなんて……。
日本語記事
「姉への移植のために生まれた妹、論争から20年後に米テレビ番組で心境語る。」
上記のビデオのある英文記事。
http://today.msnbc.msn.com/id/43265160
当時のTIME記事。英文。
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,973182,00.html
20年前に米国で
白血病の娘のために、骨髄ドナーを探しまわったけれど見つからなくて、
ドナーになってくれる最後の望みを託して、次の子どもを産む決心をした両親が
そんな理由で子どもを産むことの是非を巡って倫理論争のターゲットになった。
生まれた子どもは「両親の願いが通じて」「完全なマッチだった」ので、
姉への骨髄ドナーとなることができた。
その姉と妹がテレビの番組に出て、
姉は全快した喜びを語り、妹は「姉がいて姉の病気があって自分はここにいる」し、
「人の意見は様々だろうけど、私自身は両親に愛されて、この家の子どもで嬉しい」と。
日本語記事を読み、ビデオを見て
いくつか、ぱぱっと頭に浮かんだことを以下に。
(TIME記事は何年か前に読んだことがあるのですが
今回は最初のページしか読んでいません)
・上記日本語記事でもモデルになったとして触れられているし、
サイトの関連リンクの中に映画「私の中のあなた」の公式サイトが含まれているけれど、
アリッサさんのケースは「病気の姉のために次の子どもを産んだら、
親の願いが通じて完全なマッチだった」というものとして語られており、
このケースは
その過程で体外受精と遺伝子診断技術を用いてデザイナー・ベビーとして作られる"救済者兄弟”とは
「何かに利用する手段として子どもを産むこと」の問題以外の倫理性の点で大きく異なっている。
そこの区別はきちんとしておかなければならないと思う。
・ビデオの最後に医師がちょっと気になる発言をしていて、
1度しか聞いていないので言葉通りではないけれど、
「このケースが広く報じられたことで、骨髄ドナーが増え、
臍帯血の提供も進んだ今では、こういうのはすでに過去の話になったけど」
みたいなことを言っているような。
・実際にこの医師が言う通りなのだとすれば、
体外受精と遺伝子診断技術によって、胚をたくさん作ってそのほとんどを廃棄し、
デザイナー・ベビーとしてわざわざ救済者兄弟を作る必要も、
実はなくなっている、少なくとも減少している、ということなのでは……?
・そうなのだとしたら、本当に倫理問題を重視していくとすれば、
”救済者兄弟”を許容していくよりも、臍帯血や骨髄のドナーを増やしていく方向、
骨髄提供の安全性を向上させる方向に向かうべきなのでは?
・では、なぜ倫理問題があることに目をつぶってまで合法化しなければならないのかといえば、
英国のヒト受精・胚法改正法案の冒頭に書いてあったように
「科学とテクノロジーの国際競争で先端を走り続けるため」であって、
つまりは実験として行われる意味がある……ということ?
・そういうことを全部ふまえて、
今、この姉妹がメディアに露出して、
20年前の論争が「美しい家族の愛と絆の物語」として描き直されることの意味とは……?
【20日追記】
このケースの時代の技術について以下のご教示をいただいたので追記。
確率が23%(約4分の1)というのは、HLAが完全一致する割合なので、
着床前診断(受精卵診断)の中でも(目で見える)染色体ではなく、遺伝子診断が必要。
PCR(遺伝子解析)技術が87年に開発され、着床前診断も90年には報告されているが、
多分、このケースでは、時期的に選択は無理だったと思われる。
羊水穿刺で調べて違えば中絶というやり方も、一応は考えられるが、
さすがにそれは計画していなかったのではないか。
つまり「骨髄移植に必要な”判別”は可能になっていたけど、
胚の”選別”は技術的にまだ可能ではない時代だった」ということ……と私は理解しました。
【救済者兄弟 関連エントリー】
”救済者兄弟”
英国の”救済者兄弟”事情 追加情報
兄弟間の臓器移植 Pentz講演
臓器目的で子ども作って何が悪い、とFost
ヒト受精・胚法に関する英国医師会見解
英国議会、ハイブリッド胚と救済者兄弟を認める
“救済者兄弟”フランスでも2004年に合法化(2009/9/18)
フランス生命倫理における「連帯性」(2009/9/28)
英国で初めて、“救済者兄弟”からの骨髄移植ファンコーニ貧血の姉に(2010/12/22)
【映画関連エントリー】
ピコー「私の中のあなた」、キャメロン・ディアス主演で映画化(2009/6/22)
映画「私の中のあなた」は“空想”でも“未来の話”でもなく、既に現実(2009/9/15)
臓器移植ネットワークが映画「私の中のあなた」とタイアップすることの怪(2009/9/16)
沢木耕太郎氏の「私の中のあなた」レビュー(2009/9/19)
映画「私の中のあなた」を見る前に原作小説を再読(2009/10/8)
映画「私の中のあなた」を見てきました(2009/10/10)
「私の中のあなた」映画と小説のレビューを書きました(2009/12/4)
【この映画を機に考えたこと】
“ドナー神話”とは“母性神話”の再生産ではないのか?(2009/10/17)
「親から子への臓器提供は賞賛する必要もない当たり前の義務」とA事件を擁護したRoss(2009/10/26)
「ドナー神話」関連での頂きもの情報一覧(2009/10/26)
救済者兄弟に関して、ふっと浮かんだ“今さら”の疑問(2009/10/15)
宮部みゆきの「孤宿の人」は、江戸時代の四国の架空の小藩を舞台にした時代小説です。
Amazonにある出版社からの紹介には、以下のように書かれています。
讃岐国、丸海藩――。この地に幕府の罪人・加賀殿が流されてきた。以来、加賀殿の所業をなぞるかのように毒死や怪異が頻発。そして、加賀殿幽閉屋敷に下女として住み込むことになった少女ほう。無垢な少女と、悪霊と恐れられた男の魂の触れ合いを描く渾身の長編大作。
加賀殿の流刑地に選ばれたのは、
地方の小藩である丸海藩が染め物の経済振興策に成功し潤ったことに目をつけた幕府が
カネを使わせて強大化を防ぐと同時に、あわよくば失策を突いて取りつぶしを狙ってのこと。
中央権力に翻弄される地方自治体の存亡がかかった緊急事態――。
冒頭、いよいよ加賀殿の到着間近に迫り、藩内の不穏な空気が濃厚になる中、
ごく他愛ない、くだらない理由による殺人事件が起こる。
けれど、何の罪もない女性が殺害された事件は「病死」として処理される。
大切な家族を殺された人たち、その周辺で事実を知っている人たち
みんなが憤りや憎悪を押し殺し、口を拭って事実を隠ぺいする。
藩を守るため、家を守るために――。
宮部作品としては正直、冗長。テンポも緩やかで、ちょっとかったるい。
でも、上下巻を辛抱して読み切ったのは、
この物語の主人公が、実は
大人たちのウソに加担することができないために居場所を失い、
大人たちに利用されて思いがけない運命に翻弄されることになっていく少女ほう ではなく、
「権力構造の下では善意の人たちまでが、それぞれに何かを守るために、
みんなでウソをつき、または自ら進んで騙されて、
架空の物語に加担させられていく人の世のカラクリ」こそが
この物語の主人公なのではないか、と思えたから。
幕府と地方の小藩の関係は
今の日本の政府や都市部と、青息吐息の地方自治体の関係にも置きかえられるし、
さらに言えば、グローバル政府とも呼びたいほどの圧倒的な勢力と、
既に彼らの手に落ちて、外部から見えにくいのをいいことに好き放題にされていたり、
まだ踏ん張っている代わりに生き残りに汲々とさせられている各国政府との関係に
置き換えることだってできる。
そんな中で、ウソをつき、あるいは否定しないことでウソに加担し、
または自ら進んで騙される人がいる。
そういう人たちによって、多くの「愛」を巡る美しい架空物語が作られていく。
誰かがそれでカネを儲けたり、力を拡大していくための物語。
弱いものの命など、どうなってもいいとばかりに――。
「孤宿の人」の物語も、その展開につれ、冒頭で起きた殺人事件以外にも、
多くの罪もない人たちが無残な死に方をする。
それは多くの場合、強く力のある者たちの都合や
彼らの事情に帳尻を合わせるための犠牲だ。
だから、いとも簡単にころり、ころりと殺されていく。
そして、流行り病のコロリで死んだのだなどという物語で
彼らの死の惨い真相が覆い隠されていく。
真実を知っている人たちも背景の事情を知っている人もいるのに、
そして彼らはその多くが善良な人たちだというのに、それでも、
みんなで別の物語を作り広めることに加担していかざるを得ない。
それぞれに大切な何かを守るために。
ほうと出会って家族のような存在となる若い女性、宇佐の次の言葉が、
私にはこの物語のメッセージだと思えた。
……世の中には秘められた事柄がたくさんある。丸海のような小さな藩にも、他人や他家に知られたくない事情を抱えた人や家がある。そしてそれらの大方は、上手に隠されたまま時をやり過ごす。
でも、何かを本当に覆い隠してしまうなんて、けっしてできることではない。……
二人、三人、四人と、関わる目を耳が増えれば増えるほど、ますます秘密は漏れ易くなっていく。……
そして、それらの漏れた秘密の大方は、今度は知って知らぬふりの人々のなかで隠されていくのだ。
固く伏せられた琴江さまの死の真相(冒頭の殺人事件を指す)も、知っている者は知っている。知って知らぬふりを強いられている。けれどもいつか時が来れば――加賀様お預かりが、どんな形であれ無事に終わり、事を明らかにしても良くなったならば、知っている者が知っていることを、知っているままにしゃべれるようになるかもしれない。
いや、かもしれないんじゃなくて、そうしなくちゃいけないんだ。……
いつかはきっと、みんなみんな明らかにしよう。もう誰も、秘密に苦しみ、苦しめられることのない世の中にしよう。秘密のなかで、人の命が失われることのない世の中に。
そんなふうに誓っている“誰か”が、そこにも、ここにも、そこらじゅうにいるはずなんだ。
(p.280-281 ……の個所に省略あり。ゴチックの個所は原文は傍点)
宇佐は「女のくせに」と非難されバカにされつつ引手(岡っ引き)の見習いをしており、
漁師町の出身でありながら町場を担当する番屋の引手として、
対立をはらむ2つの世界の両方に繋がり自由に行き来できる反面、
それぞれの世界から疎外されてもいる微妙な存在。
しかし宇佐自身は矛盾なく一貫していて、
丸海の貧しい民に、その一人としてひとしなみに寄り沿っている。
物語の後半では、救貧院の役割を兼ねる破れ寺に住み込んで病人や困窮者の世話に当たる。
私には宇佐の姿が、今の日本で
ホームレスや派遣切りの被害者や震災や原発事故の被害者や高齢者や障害者や、
なにしろ世の中から切り捨てられようとしている人たちの側に立ち、
その人たちの傍で身を持って支援を行っている人たちに重なってみえた。
そして、さらに現代を映して象徴的だと思ったのは、
物語の展開に終始、匙家と呼ばれる医家が重要な役割を担っていること。
藩のお抱え医師である匙家は七家。
筆頭の匙家は藩主の脈をとり、周辺の権勢ある筋とも姻戚関係が何重にも結ばれて
権力の中枢に入りこみ、上層の権力と一体化し、施策立案や共謀にも加わる。
時には権力に謀殺の手段を提供する役割も担う。
こうした人たちを、
医療や、もっと広く、諸々の専門分野の御用学者と置き換えてみれば、
この小説のテーマは、
そのまま「知っていて知らないふり」で守られてきた原発の「安全神話」であり、
Ashley事件の真相を隠蔽したまま推進される「成長抑制療法」であり、
ワクチン債を売る一方で「途上国の子どもの命を救うために」と唱えては
カネが廻り回って肥えてゆく慈善グローバル金融ネオリベ資本主義ではないか、と。
七家の中にはもちろん市井の民と親しみ、彼らのために尽くす医師らもいて、
彼らは、ほうや宇佐と同じ世界の住民のようにも見えはするし、
彼女らを思いやり温かく遇することもするけれども、
同時に彼女らを藩上層部の共謀の手段として用い、切り捨てもする。
病気を口実にかくまっている患者が罪もないまま殺されると分かっていても、
差し出せと奉行所から命じられると、苦しみながらも応じる以外にすべはない。
原発、医療を始め科学とテクノロジーの分野に身を置く人は、
実は宿命的にこうしたジレンマの中にあるのかもしれない――。
そんなことを考えさせられた。
(私は、山中伸也氏の発言からは、
このジレンマが聞こえてくるような気がする)
でも、ここでも宇佐は思うのですね。
もともと染め物で特産物ができた、藩が潤った、と言っても
実際に技術を身につけ汗水流して働いている磯の民草はちっとも楽にならず
それで潤っているのは藩のごく上層部だけなのだ、
(最先端医療技術が臨床応用されたとしても下々の民の手が届く治療にはならないだろうし、
国際競争に勝っても企業と株主が潤うだけで今の弱肉強食原理では一般国民には回らない)
いっそ畠山家がお取りつぶしになったところで、
下々の民には本当はたいして影響はないのだ、と。
(自治体や国が立ちいかなくなれば、下々の民はモロに影響を被ることになるところが
江戸時代とは事情がまるで違う。でも、それを言えば、どんなに頑張っても、
どの国もいずれ頑張りが効かなくなるような残酷な仕組みが既に巡らされてしまったのでは?)
そして、
(仮に畠山家がつぶれて)井上家が匙の格式と碌を失っても、舷州先生も啓一郎先生も医者であることに変わりはない。お二人とも掘外の者たちに慕われている。畠山家に仕える匙家という枷を離れて、むしろ今までよりものびのびと丸海の人々に交わり、新しい領主の新しい治政のもと、一介の町医者として生活することが、十分にできるのではないか。
学問好きの若先生など、そっちの方こそむしろふさわしい人生であるかもしれない。……
(p.311-312)
著者はここで、
それでも個々の生き方として選択は可能だ、と言っているのだという気がする。
誰のために、何を目標や生きがいにして、その仕事をするのか、
原発が安全ではないことを知りながら
「安全だ」ということにしておかなければ都合が悪い人たちのために働いてあげて、
見返りに権威をまといカネを儲けて、ふんぞり返らせてもらい傲慢な人として生きるのか、
市井の人の中で一介の○○として、
その仕事を志した日に大切だったものを見失わず、清潔な生き方をするのか、
(ここで私の頭に浮かんだのは野の花診療所の徳永医師だった)
「いつかきっと、みんなみんな明らかにしよう」と
晴れ晴れと心に誓うことができるのは、後者の生き方をする人だろうし、
そういう“誰か”が一人でも増えていくことを願って、
今という時代の危うさをじっと透徹した目で見据えながら
宮部みゆきという作家は作品を書き続けている人なんじゃないか、と、
ちょっと退屈な長編をがまんして読み終えて、思った。
老舗介護者支援チャリティの支援を受けた人の体験談
http://www.dgstandard.co.uk/dumfries-news/local-news-dumfries/local-news-dumfriesshire/2011/06/17/family-speak-of-support-they-recieve-from-princess-royal-trust-for-carers-51311-28891242/
去年もあった介護者週間の最大のイベントの一つ、若年介護者が首相官邸で首相と懇談。
http://www.yorkpress.co.uk/news/9092975.Campaigning_teenage_carer_greeted_by_Prime_Minister_in_Downing_Street/
地方紙の介護者週間記事。
http://www.dgstandard.co.uk/dumfries-news/local-news-dumfries/local-news-dumfriesshire/2011/06/17/help-is-at-hand-for-thousands-of-carers-51311-28891247/
同じく地方紙だけど、「英国の介護者は77000人と推計され、5歳の子どもまで」。
http://www.northamptonchron.co.uk/news/features/there_are_an_estimated_77_000_carers_in_northamptonshire_some_as_young_as_five_years_old_but_who_looks_after_the_carers_themselves_the_chron_investigates_1_2786977
【自殺幇助関連】
英国で、水の事故で全身マヒになった33歳の男性をスイスへ連れて行って自殺させたという女性Helen Cowieさんがラジオ番組に電話で自殺幇助を告白し、警察の捜査を受けている。:英国では、事故で全身マヒになった23歳の元ラグビー選手をDignitasへ連れて行った両親がすでに「起訴するだけの証拠はあるが、起訴が公益にならない」として不起訴になっている。だいたい、公訴局長のガイドラインが出て以降、起訴になった人はいないのだから、この人も不起訴になるのだろう。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2004955/I-helped-paralysed-son-33-die-Dignitas-says-mother-police-launch-assisted-suicide-investigation.html?ito=feeds-newsxml
昨日の補遺で拾った米国カトリック司教会議の自殺幇助に反対する声明について、Seattle Timesが批判の投稿を掲載している。声明が「自殺幇助を求める人たちは弱い立場の人たちだ」と書いていることに、オレゴンとワシントンの尊厳死法で死んだ人の多くはホスピスケアや手厚い医療と介護を受けている人たちで事実誤認、事実無根だと批判している。:この人は知らないのかな。米国ではホスピスにC&Cが潜入して息のかかった医師に誘導していたり、ウツ病患者がセーフガードをスル―されて死なされている事実を。
http://seattletimes.nwsource.com/html/northwestvoices/2015352434_bishopsmeettodiscussassistedsuicideabuse.html
前にも補遺で拾ったことがあるけど、「安楽死ジェットコースター」。今回の記事は詳細。英国の学生デザイナーの作品。ジェットコースターでムチャクチャ振り回されて意識が薄れ、脳内麻薬が出て快状態になったところで遠心力で放り出されて死ぬ……というのがコンセプト。
http://www.fastcodesign.com/1664089/euthanasia-coaster-would-make-assisted-suicide-fun-at-223-mph
【ゲイツ慈善グローバル金融ネオリベ資本主義関連】
昨日の補遺で拾ったLancetの子宮頸がんワクチン効果に関する論文を、Guardianが「HPVワクチンは成功、とLancetに報告」と誇大なタイトルで報じている。Lancetの論説だって「効果があると見るか、ないと見るかは微妙」という書き方をしているというのに。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/17/cervical-cancer-vaccine-success-lancet?CMP=EMCGT_170611&
ビル・ゲイツ氏がパキスタンの首相に電話をして、ワクチンによるポリオ絶滅について相談した。:ビン・ラディンの殺害を巡って米国とパキスタンの関係がこじれている時でも、“慈善家”ビル・ゲイツはこういうことが易々とできる。ということは、ビル・ゲイツは外交の上でも各国間に多大な影響力を持つということ。
http://www.thenews.com.pk/TodaysPrintDetail.aspx?ID=6824&Cat=13&dt=6/18/2011
http://app.com.pk/en_/index.php?option=com_content&task=view&id=142576&Itemid=2
ユニセフがアフリカの各国政府に対して子どもを暴力、搾取、虐待から守れ、と。:これは全くそう思うんだけど、そういうニーズを大人の側に作っているのは、先進国のグローバル金融ひとでなしネオリベ(慈善)資本主義一色に染まっていく世界のありようなのだから、それをアフリカの各国政府の責任にしてしまうのは筋違いのような気もする。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228828.php
【その他】
10代の子どもたちには今だ自己決定能力を発達させている過程にあり、その能力が十分ではない、という調査結果。:「成熟した未成年(mature minor)」という概念も、今後、否定される方向なのだろうか?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228817.php
病院が不必要なCTスキャンを「念のため」で2度も撮っては患者を放射線被曝させている、とNYT。他にもMAP:Scanning Twice: A map showing rates of double CT scans at U.S. hospitals. という記事も。
http://www.nytimes.com/2011/06/18/health/18radiation.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=tha2
最初の数行だけではよく分からないけど、ビタミンDの代謝に影響するIIHという遺伝病の遺伝子診断が開発された。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228857.php
ジョンズ・ホプキンスが自閉症モデルのマウスを作った。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228921.php
Yahoo!ブログで見つけたのだけど、面白いCDを作った人がいる。ただただ蜩やカエルの鳴き声を録音したCD。けっこう癒しになるとかで、評判がいいみたい。しかも安い。買ってみようかな? と思って、まだ決断に至っていない。
http://blogs.yahoo.co.jp/xjyqf166/folder/1183175.html
http://seattletimes.nwsource.com/html/northwestvoices/2015340854_gatesfoundationgives1billionforvaccines.html
6月27日に米国でPartnering for Global Health フォーラム。オバマ政権と、バイオ製薬業界と、もちろんゲイツ財団とが一堂に会して、「グローバル・ヘルスのための新たなツール開発を促進する革新的な方法を検討する」んだそうな。「オバマ政権がイノベーションへのアプローチを改めて、グローバル・ヘルスの研究と開発にバイオテクノロジーをガンガン入れていく」ことが期待されているらしい。このフォーラムの主催は、BIO Ventures for Global Health と the Biotechnology Industry Organization. つまり、バイオ企業とゲイツ財団からObama政権へのラブコール。:これもまた「ワクチンの10年」祭りの後のマーケット作りを狙った動きのように私には見えるけど、途上国は結局、先進国のスーパーリッチたちにとって、マーケット作りのポテンシャルがいくらでも埋蔵された、マネー・ゲームのプレイ・グラウンドに過ぎないのか? それにしても、このところのゲイツ財団の動き、同時多発的で矢継ぎ早で……。なんだ、これ? いったい何が起きている?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228693.php
Lancetに、HPVワクチン接種開始後の3年間と、開始前の2年間を比較して、18歳以下の女児では子宮の異常がちょっと減った、とのオーストラリアの調査結果。他の年齢層では減少は見られず。ここで言われている「異常」というのは、たぶんこちらのサイトに書かれている「高度異形上皮」と「軽度異形上皮」のことではないかと。軽度は95%でどうってことない。高度では約20%で癌に移行しない。癌に移行する可能性はあるけど、この段階で発見・管理しておけば大事には至らない、とのこと。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960551-5/abstract?elsca1=TL-170611&elsca2=email&elsca3=segment
で、上記の論文について、Lancetの論説が「HPVワクチンの効果:グラスは半分入っていると見るか、半分カラだと見るか?」。:それほど微妙な「効果」であっても、エビデンスが急がれている……?
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2960650-8/fulltext?elsca1=TL-170611&elsca2=email&elsca3=segment
未熟児は成長してからも健康度が低く、人づきあいも苦手で学校の成績も良くなくて、成人してからは心臓病のリスクが高い。:そういえば、シアトルこども病院とゲイツ財団が死産・早産撲滅キャンペーンを立ち上げた直後には、こういう研究がやたら目についた時期があった。で、その頃に未熟児を産ませず、生まれても救命しないための科学的エビデンス作りが進んでいるというエントリーを書いた。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228730.php
英国の介護者週間で、GPに「介護者支援の役割を」と。:英国ではGPに患者が介護役割を担っているかどうかを知り、介護している人には支援情報に繋げる役割が、たしか「介護者法」で規定されていたんじゃなかったっけか? それとも「全国介護者戦略」の方だったか?
http://news.uk.msn.com/health/articles.aspx?cp-documentid=158258516
米国カトリック司教会議で合意が成り、自殺幇助合法化に反対のスタンスを表明する声明が出された。こちらは簡単にまとめたニュース。:このところのゲイツ財団関連に振り回されて、いつもトップにもってきている自殺幇助問題が今日は最後に来てしまった。でも、これは大きなニュース。できれば読みたいけど……?
http://www.catholicculture.org/news/headlines/index.cfm?storyid=10705
上記声明の本文はこちら ↓
http://www.usccb.org/toliveeachday/bishops-statement-physician-assisted-suicide.pdf
ターミナルな癌の痛みに苦しんでいて、なおかつヤク中でこのままだとムショ行きだと恐れて自殺しようとしたけど失敗した56歳の友人に頼まれて、2008年11月に銃で撃って殺したRobert Goulding (53)の裁判で、Goulding側のあれは自殺幇助だったという主張を退け、Sダコタ州の最高裁は第1級殺人罪を認めた。死を直接的に引き起こす行為を明らかに本人が行っているのでなければ、自殺幇助にはならない、との理由。:英国でKay Gilderdaleを無罪放免したばかりか、称賛までした最高裁の判事に聞かせてやりたい。Kay Gilderdaleは、モルヒネの錠剤を砕いて空気と一緒に娘の点滴に入れたというのに。
http://www.therepublic.com/view/story/b783fa2dae644804a417e04ed699d480/SD--Mercy-Killing-Conviction/
BBCの自殺幇助場面放映で、なお議論百出している。これは、キリスト教関係からの批判。
http://www.churchtimes.co.uk/content.asp?id=114367
こちらは大衆紙the Sunに、BBC番組の擁護論。
http://www.churchtimes.co.uk/content.asp?id=114367
日本語のニュースではすぐには目につかなかったために
うっかりしていましたが、以下の方のブログが
日本がこのカンファで8億3000万円を確約するとのニュースを拾われていました。
【日本政府】子どもの予防接種に8億円=普及機関を初支援(2011/6/9)
英国の首相は社会保障費を大幅にカットしながら途上国のワクチンに資金を出すことで
国内で非難ごうごう出ているけど、それはメディアが大きく報じるからであって、
日本では8億3000万円の拠出を知らない人が多いのかもしれない。
それとも英国の8億ポンドと比べれば
桁がいくつか違うから問題にならないのでしょうか。
東北の人たちが何もかも失って自分たちはこのまま見捨てられるのかと、
途方に暮れ、怯え暮らしていたり、復興費用をどうやって賄うのか、
そのことの影響は国民の生活にどのように及ぶのか、みんなが不安に陥って、
日本でも英国以上の危機的状況だと思うのだけど、
「それでもなお、途上国の8000万の子どもにワクチンを打って
140万の命を救うことには人道上の意味がある」と管首相は
英国のキャメロン首相と同じことを言うのでしょうか?
いや、もしかしたら日本の場合は首相ではなく官僚が言うのかも?
その場合、それを言うのは厚労省の官僚、それとも経産省の官僚……?
日本にもちゃんと「ワクチン産業ビジョン」なるものが用意されていて、
それが、なぜか「ワクチン・ビジョン」ではないということは、
やっぱり答弁の担当も経産省の官僚かな……?
ゲイツ財団からも、先ごろ人が送り込まれてきました。それも相当な大物が。
日本でもこれから「ワクチンの10年」が本格始動するのでしょう。
こちらは、5月18日の補遺から ↓
武田、ゲイツ財団医療支援分野トップを取締役に招へい(日経新聞 5月11日。一旦貼ったリンクがおかしくなったので、後で修正する予定):グラクソ経由。この人、たぶんこのエントリーの最後に触れているDr.Tanakaじゃないかと思う。そう言えば米国の国際開発支援組織USAIDのトップもゲイツ財団の元職員。
――――――
その他、上記の関連で「ゲイツ財団と製薬企業連携」。NPO法人ファーマサポートのサイト。日本語。「第一三共がポリオに効果のある4種混合ワクチンの開発に乗り出したほか、武田製薬、エーザイなど大手がワクチン事業に力を入れ始めている」。
:「ワクチンの10年」経済施策がいよいよ日本でも本格的に始動するということか……。これ保健施策じゃなくて経済施策なんだけど、子どもたちの命は本当に守れるのか。日本の子どもたちも、途上国の子どもたちも……。
http://pharma-support.or.jp/2011/03/28/%E3%82%B2%E3%82%A4%E3%83%84%E8%B2%A1%E5%9B%A3%E3%81%A8%E8%A3%BD%E8%96%AC%E4%BC%81%E6%A5%AD%E9%80%A3%E6%90%BA/
前から漠然と思ってはいたけど、ここ数日、ここにある構造が
いよいよ、あの「原発の安全神話」とそこに繋がる利権構造とそっくり重なって見えてきた――。
このエントリーだけを読まれる方には誤解を招きそうなので
念のために書いておくと、
私は別に、日本は震災でたいへんな時なんだから
ワクチンを打てなくて命を落とす途上国の子どもたちのことなど
助ける必要はないと考えているわけでも、そう言いたいわけでもありません。
今回のカンファを巡って言いたいことは、おおむね、こういうことなのですが ↓
やっと出た、ワクチンのため世界中からかき集められる資金に疑問の声(2011/6/16)
(コメント欄の「ワクチン債」についても合わせ読んでください)
このエントリーに至る過程で当ブログはかなりの情報を読み込んでおり、
その中の一部を以下に挙げてみると、
【ゲイツ財団と「ワクチンの10年」について】
新興国でのワクチン開発・製造に、巨大製薬会社がマーケット・チャンスと乗り出している(2009/11/8)
リスクの“リ”の字もなく“黄金時代”に沸くワクチン開発記事(2009/11/19)
「これからはワクチンが儲かりまっせぇ」の陰には、やっぱりゲイツ財団が……(2009/11/20)
「次世代ワクチン・カンファ」の露骨(2010/5/28)
【ゲイツ財団の慈善資本主義について】
世界中の研究機関に流れていくゲイツ財団のお金(2008/8/28)
ゲイツ財団の私的研究機関が途上国への医療支援の財布を管理しようとしている(2009/6/20)
(ここにGAVIに関する話が詳しく出てきます)
ゲイツ財団の慈善ネオリベ医療グローバリズム賛歌(2009/6/20)
ゲイツ財団のメディア・コントロール(2010/10/21)
ゲイツ財団がコークとマックに投資することの怪、そこから見えてくるもの(2011/3/9)
ゲイツ財団はやっぱりビッグ・ファーマの株主さん(2011/3/28)
ゲイツ財団がインドで目論んでいるのはワクチン普及だけでなくGM農業改革も(2011/4/16)
【グローバル経済の構造的問題として】
巨大ファーマがかつてのゼネコンなのだとしたら……(2009/9/29)
事業仕分けの科学研究予算問題から考えること(2009/12/12)
「必要を創り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
【日本のワクチン施策について】
朝日のワクチン記事にも「米国では」の印籠(2009/8/8)
「健康ギャップ」なくても「ワクチン・ギャップ」埋めないと「世界に恥じる」……と説くワクチン論文(2010/3/5)
日本の「ワクチン産業ビジョンの要点」の怪(2011/3/8)
なお、これらの情報などから、2010年6月段階で大まかにまとめたものはこちら ↓
「米国のワクチン不信と、そこから見えてくるもの」を書きました(2010/7/5)
それともこうした批判は前々から出るところでは出ていたのか、
Guardianのグローバル・ヘルス・ブログが
すばやい反応を見せています。
Guardianと言えば、去年9月に
ゲイツ財団とのパートナーシップ(すなわち資金提供)により
Global Developmentという新たなセクションが設けられており、
(詳細は文末リンクの「ゲイツ財団のメディア・コントロール」のエントリーに)
タイトルからして、このブログはそのセクションに属するものと思われますから
この記事も、そのままゲイツ財団からの反論に等しいものと見てもよいのでは?
それだけに、その口調がなんともタカビーなことに、ふむ……と。
なにしろリード部分から、いきなり
「ロンドンのGAVIへの資金集めカンファが大勝利だったからといって、
資金を提供した人たちが自分はもう貢献したぞとばかりに
自分の財布の上に胡坐をかいていることなど許されてはならない(must not be allowed)。
グローバル・ヘルスの他の領域では
今なお資金が大幅に不足しているのだから」
要するに、この記事の言いたいことはタイトルそのもので
「これでみんながワクチンを打てる。それなら今度は
エイズ治療薬をもっと……てのはどう?」
先週、国連で開かれたエイズ撲滅のための全体会議で
2015年までに1500万人のHIV感染者に治療を受けさせるとの
目標が掲げられたことなどに触れ、
「エイズのない世界はその気にさえなれば可能なのだ。
ゲイツ財団が多額の資金をつぎ込んでいるワクチンがなくとも、
治療法がなくたって、感染拡大は止められる。
予防と生活習慣の改善、教育と、そして薬がもっとあれば可能だ。
……(中略)……
そのために今、必要なのは何か? カネだ。
それが身も蓋もない真実なのである」
ふむ……。そうなのですよ。問題はカネなのですよ。
ワクチンそのものよりも、途上国の子どもたちよりも、実は。
だから、この記事の著者は
「仮に、いくらかの懸念があるとしても……(略)……
それによって13日のカンファでの430億ドル達成の勝利感を曇らせてはならない」と。
で、この「懸念」や「心配」について書かれた、
例のCBS記事を意識しているんだろうなと思われる、このあたりの文章から、
それらの懸念についてのゲイツ財団やGAVIの方々の考えや姿勢が伺えたりする。
そこの部分で挙げられていることを原文忠実に書いてみると、
・最も貧しい子どもたちや最も必要度の高い子どもたちがいて
医療制度が機能せずワクチン接種プログラムがない国々には
GAVIはワクチンを届けることができないと思われる……としても
(「可能性」possibilityではなく「蓋然性」likelihood)
・インドのジェネリック企業に比べると効率的ではあるけれど、
(それらの企業のワクチンの値段を考えると)あまりにも多くのカネが
多国籍製薬企業に落ちていく……との懸念はあるにせよ
・しかし一方で、グラクソ・スミス・クラインがロタ・ウイルス・ワクチンを大幅に値下げし、
メルクもHPVワクチンの値下げを発表したことで、うまくいけば値下げのトレンドが出てくるだろう。
これ、どう考えても、CBS記事に対するゲイツ財団からの反論……というか
内容としては反論できていないので、まぁ抗弁というくらいのものと、
私には読めるのだけど、
それにしても、これって厚顔……? と感じてしまうのは、
この最初のところって、
「医療制度が崩壊した国に届けても実際には子どもたちに接種されない」という批判を否定せず、
「まぁ、そうなるでしょうね」と、しゃらりと認めているわけですよね。
世界中から400億ドルも集めておいて――。
そして、「なんでビッグ・ファーマを儲けさせているんだ?」という批判に対しては
「だってインドのジェネリック企業では、さくさく仕事が進まないじゃん?」と言い訳し、
「それに、ビッグ・ファーマだって値下げの努力は見せているわけだから、さ」と
ここでは問題のすり替え。
カンファの直前にビッグ・ファーマから値下げの発表が相次いだのは、
なるほど、こういう批判を意識して、かわすためのシナリオだったというわけなのですね。
それともう1つ興味深いのは、
ふむ、途上国にはメルク社のHPVワクチンを持っていくわけかぁ……。
先進国ではあまりに強引な売り込みの手口が嫌われ、
副作用も問題視されてライバル社に負けたものだから、
先進国で失ったマーケットを途上国で……?
(ちなみに、ゲイツ財団はメルク社の株主さん)
そういうことを考えながら読み返してみると、
このGuardianのグローバル・ヘルス・ブログの記事は、もしかしたら
早くも「ワクチンの10年」の次は「エイズの10年」だよって、
さりげなく指差してメッセージを送る意図で書かれたものなのか……?
この記事のタイトルにあるように、
今回ロンドンで約束された400億ドルで
世界中の子どもたちにワクチンを届ける十分なカネができた以上、
「途上国の子どもにワクチンを」のメッセージの集金力は game over なわけですね。
かくして
ビッグ・ファーマがワクチンを売りさばくための資金だけはめでたく集まったのだから
それらのワクチンが医療制度の崩壊した途上国で盗まれようが倉庫で眠って終わろうが、
株主さんにとっては実はどうでもいいことなのだろうし。
(じゃぁ、どこが「子どもたちの命を救うために」なの?)
「途上国にワクチンを」で形成されるマーケットはこれで安泰。
後は、そのマーケット自体が消費し尽くされるのを待つばかり。
で、次は「世界中のエイズを撲滅しよう」が次なるマーケットの旗印だと
もしやゲイツ財団は示唆しているのか……?
こうして、ゲイツ財団の差配によって
「次のマーケット」が決まり、形成され、
そこに世界中のカネ持ちや各国政府からカネが集められ、
そんなふうに次々にマーケットそのものが消費されていく……ということ?
この記事の最後のセンテンスが、これまた実に象徴的で、えぐい。
「我々に今、必要なことは、ビル・ゲイツがその恐るべき才能と努力と熱意とによって、
資金提供者らの財布のひもをワクチン以外の領域に向けても緩めさせることだ。
資金を提供する各国政府が『もうお終いgame over』と言うことは
許されてはならない(must not be allowed)」
All shall have vaccines – and now how about some more Aaids drugs too?
Sarah Boseley’s Global Health Blog,
Guardian, June 15, 2011
たとえ、一国の政府であっても
ゲイツ慈善グローバル金融ネオリベ資本主義帝国では
帝王の望みに反する行動をとることは「許されてはならない」――。
【関連エントリー】
ゲイツ財団のメディア・コントロール(2010/10/21)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
やっと出た、ワクチンに世界中からかき集められる資金への疑問の声(2011/6/16)
その他「ゲイツ財団」の書庫に多数。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/15/what-like-to-be-carer
英国の緊縮策で、若年介護者への支援もカット。
http://www.cypnow.co.uk/Social_Care/article/1075331/Support-services-young-carers-forced-deep-budget-cuts/
福祉改革法案で、癌を始め重病患者への手当がカットされることで首相と財務省が小競り合い。:途上国のワクチンには、気前よくポン!と出したんだけどねー。
http://www.guardian.co.uk/politics/2011/jun/15/miliband-cameron-benefits-for-seriously-ill?CMP=EMCGT_160611&
ビル・ゲイツがケニアの人口増加を調査するために現地通貨(だと思う。Sh)で20億を投入。:世界の人口抑制が彼の目標の一つ。ワクチンもその手段の一つだと、確か去年のダボス会議で公言していた。命を救うはずのワクチンが一体どういうメカニズムで人口を抑制するのか、いまだに私には理解できない。一説には、不妊成分が仕込まれているから人口が抑制されるという陰謀説もあるらしいけど、個人的にはそこまでは信じがたい。
http://www.standardmedia.co.ke/sports/InsidePage.php?id=2000037225&cid=4
米国の多くの郡で、予測寿命が世界の平均を下回っていると、IHMEの研究結果が報告されて、あちこちのメディアが取り上げている。特に南部の郡で。その原因分析がいかにもIHMEで、肥満と喫煙だそうな。資金を集めて健康改善のための介入プログラムを、と提言。:調べてみたら、医療へのアクセスがそういう群ではよくないとか、そういう貧困がらみの要因が他にもあるとか、社会的な要因が大きいんじゃないですか? あくまでも個体の健康度の問題と捉えるところが、いかにもIHMEなんだけど。そして、すぐに「資金を集めて」という話になるところも、いかにもゲイツ財団の私設WHOなんだけど。
http://www.foxnews.com/health/2011/06/15/life-expectancy-lagging-behind-in-many-us-counties/
IHMEのGlobal Burden of Diseaseプロジェクトが、いかに社会的、環境的ファクターを度外視したものであるか、については、こちらのエントリーに ↓
世界の病気・障害「負担」数値化へ(2008/4/25)
ギリシアの経済危機がまたも深刻化。公務員さらに20%カットなど、度重なる緊縮策に国民の抗議デモも激化。
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/15/europe-warned-greece-financial-crisis?CMP=EMCGT_160611&
多くのニュースが流れており、当ブログでも補遺で何度も拾ってきました。
これまでの流れを補遺から抜き出してみると(ソースはそれぞれの補遺にリンクしてあります)、
5月30日の補遺
緊縮予算への批判が高まる中、英国のCameron首相が途上国へのワクチン支援の増額を約束。
6月6日
途上国の予防接種普及に向けた資金調達会議がロンドンで開催されるのを前に、製薬会社がワクチンの値下げを発表。
:社会保障の大幅カットで批判を浴びているキャメロン首相が途上国のワクチン支援を増額すると、そういえば発表したばかりでもある。なにやら世界中で、既に出来上がったシナリオ通りに役者が演じているって感じがしない?
13日
2015年までにGAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)が必要とする37億ドルを調達するために開かれた 国際資金提供カンファで、米、英、仏、独、日ほかが協力を約束。オーストラリアも2013年までの3年間にGAVIに2億1000万ドルを提供することを 約束。Bill Gatesも23億ドルを約束。
:これは各国にとって、「ワクチンの10年」という経済と金融の祭りに参加するための通行税みたいなもの? GAVIについては、上記ビルダーバーグ会議関連の最後にリンクした去年6月29日のエントリーに。
------
Cameron首相が国内の社会保障サービスや給付を大幅にカットして、多くの高齢者や障害者から非難を浴びながら も、途上国への支援を増額したことについて、Bill Gatesが称賛。
:こうして慈善資本主義に方向づけられていくグローバル経済で生き残るためには、各国政府はなによりも慈善資本王国の帝王サマの歓心を 買い、そこで次々に消費されるマーケットに漏れなく参入させていただくために、たとえ自国民を飢えさせ見殺しにすることになろうとも多額の資金を使って次 なる新たなマーケット作りにも積極的に参加しなければ……って?
14日
英国首相は昨日これでBill Gatesからおほめの言葉をいただいていたのだけど、途上国のワクチンに8億1400万ポンドを出すと明言したことで国内で非難を浴びている。本人が 「国内で厳しい予算削減を敢行している時だから論議を呼ぶ」と認めつつも「途上国の8000万の子どもにワクチンを打ち140万のいのちを救うことには人 道上の意味がある」と。
:人道上というよりも、英国が「ワクチンの10年」祭りに取り残されないために、経済・産業施策上の生き残り策なのよ、だから、国 内の社会保障はカットできても、こっちはカットできないんだ……とは、やっぱり言えないかぁ。
-------
日本で、ワクチン同時接種で死亡する子どもが8人になったにも関わらず「因果関係は不明」と言い続けなければならないことのカラクリも、英国首相の事情と同じなんだろうか?
ゲイツ財団の音頭で世界中からかき集められる途上国へのワクチン資金については
ネガティブなコメントがメディアに登場することはほとんどないのですが、
昨日のCBSに、面白い記事がありました。
冒頭、13日のサミットで400億ドルを集め、
提供者らの偉業をほめたたえるBill Gatesのスピーチを紹介。
英国やオーストラリアからの巨額の資金提供について触れた後で、
「こうしたキャンペーンに疑義をはさむ人もいる」として
以下のコメントを紹介しています。
まずは国境なき医師団のワクチン専門家 Daniel Berman医師は
命を救うためにこれほど多くの資金が約束されることは心躍ることではあるが
もとは何100万もの人々が納めた税金であり、それが本当に適切に使われるのかどうか疑問だ、として
「なんだって、我々はこうしてビッグ・ファーマに儲けさせてやっているんですか?
我々に言わせれば、利益の相反があることは歴然としているし、
こんなの、企業の利益でしかない」
また、医療制度そのものが崩壊している国にワクチンを届けても、
倉庫で眠っておしまいだと指摘する専門家もいる。
ロンドンのCity大学の公衆衛生の専門家 Sophie Harman医師は
「肺炎や下痢などのグローバル・ヘルスへの対応として
ワクチンへの投資が奇跡の解決策ではないという事実は知っておくべき。
医療のインフラ整備にきちんと資金を回さない限り、
ワクチンにいくら資金を投入しても、それは無駄になるばかり」と。
またこの記事は、
2009年にLancetに報告された調査で
途上国の多くがワクチン接種率を実際よりも高く申告していたことが判明したことに触れ、
これらの国が実際には申告の半分の子どもにも接種していないと
指摘する研究者もいる、と。
Vaccine summit raises $4 billion, but will it be wasted?
CBS, June 14, 2011
この記事が触れているLancet論文については、
当ブログでも以下のエントリーでとりあげています。
「貧困国はワクチン接種した子どもの数を水増ししている」とIHME論文(2008/12/13)
それから、Harman医師の懸念を裏付けするように、最近、
途上国で大量のワクチンが行方不明になっているとのニュースも出てきています。
こちらは4月21日の補遺で拾っていて ↓
ゲイツ財団が力を入れている途上国でのマラリア撲滅運動で、2009年から2011年にかけてアフリカを中心にした11カ国でマラリア・ワクチンが盗難に遭い、どこかに消え去ったことが判明。消えたのは、250万ドル相当の大量のワクチン。
:世界中のカネもちからカネを集めて、そのカネでワクチンを大量に買うことができれば、そのワクチンを作っている会社の株主さんはそこまででも全然OKなのかもしれない。
なによりも、国境なき医師団のワクチンの専門家というのは
実際に現地のワクチン事情を肌身で見聞・体験している人ですよね。
その人が「なんでビッグ・ファーマを儲けさせているんだ?」と言い、
このキャンペーンには利益の相反がある、と指摘している言葉には
ものすごい説得力があるという気が私にはしますが。
【関連エントリー】
ゲイツ財団はやっぱりビッグ・ファーマの株主さん(2011/3/28)
“プロザック時代”の終焉からグローバル慈善ネオリベ資本主義を考える(2011/6/15)
http://www.yorkshireeveningpost.co.uk/news/yep-letters/celebrating_the_vital_role_of_carers_1_3476566
米国でも老親の介護で仕事を辞めた人は退職手当をもらい損ねるリスクがある、との指摘。:これは日本でも年金受給資格に関わってくる問題だと思う。
http://www.advisorone.com/article/caregivers-risk-retirement-benefits-aiding-elderly-parents
Pratchettプレゼンターによる自殺幇助場面の放送で、BBCには約900人から抗議が寄せられ、Rochesterの前大司教が「推進サイドのプロパガンダだ」と。また議員4人が自殺幇助合法化にBBCは組織的キャンペーンを行っていると非難し、BBCのトップに抗議。
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2003256/Anti-euthanasia-backlash-hits-BBC-Terry-Pratchett-shows-death-Dignitas.html?ito=feeds-newsxml
BBCの自殺幇助場面放送が物議を醸す中、BBCはせっせと毎日関連記事を掲載。
http://www.bbc.co.uk/news/health-13768354
BBCだけじゃなくてGuardianにまで、Pratchettの言い分が掲載されている。
http://www.guardian.co.uk/society/2011/jun/14/terry-pratchett-choosing-to-die-assisted-dying-critics?CMP=EMCGT_150611&
上記放送があった日に、息子をがんで失った父親が自殺幇助合法化せよ、とTelegraphで。:ただ、この父親の言い分をよく読むと、息子は「ホスピスに行きつくまで」苦しみ抜いてDignitasへ連れて行ってくれと懇願しており、それを根拠に父親は「あんなに苦しむくらいならターミナルな人が死にたいと言うなら死なせてやってくれ」と主張している。それなら「ホスピスに行ってからは彼は苦しまなかった」ということでもあるし、彼が言っている息子の悲惨とは「あんなに美しい子だったのに、骨と皮ばかりの姿になって」という父親から見た「悲惨」に過ぎないようでもあり。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/law-and-order/8574458/Father-demands-change-in-assisted-suicide-law-after-sons-cancer-death.html
米国FDAが日焼け止め・サンスクリーンの効果に関する表示を問題視。規制強化に乗り出す。
http://www.washingtonpost.com/national/fda-cracks-down-on-sunscreens/2011/06/14/AGaz3fUH_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
中国の電池工場から出る廃棄物で鉛中毒の健康被害、広がる。NYT。
Lead Poisoning in China: The Hidden Scourge: Over the past two and a half years, thousands of workers, villagers and children have been found to be suffering from toxic levels of lead exposure, mostly caused by pollution from battery factories.
偏頭痛の遺伝子変異が3つ分かった。:私はこれまでの生涯で1度だけ、すさまじい偏頭痛に襲われたことがあって、それは比喩でも何でもなく殺意を抱くほどの憎悪と憤りをある人に抱き、それを壮絶な努力で押し殺しつつ仕事をしようとパソコンに向かっている時のことだったのだけど、私にもその遺伝子変異はあるということなのかしら?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/228373.php
ダウン症候群の成人には、アルツハイマー病と同じ脳のプラークが見られる。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228460.php
ビッグファーマが相次いで資金を引き揚げ始めて、
研究者がパニックしている。
グラクソの幹部は去年、同社のSeroxatを含め、
これらの薬の副作用で子どもに自殺念慮が起きるとされる問題は
別に撤退の要因ではないと語っており、
これら精神科薬は研究開発や認可にかかる年数が長く
費用もかかる割に、治験の最終段階に至ってとん挫する可能性があるなど、
投資した資金に見合わないためだと説明。
The European College of Neuropsychoparamacology(ECNP)は
14日にレポートを取りまとめて、脳障害研究への資金枯渇への対策を訴えている。
レポートは、
EU人口の4分の1が毎年なんらかの神経障害を負っており、
健康を害する原因の23%、障害を負う原因の50%は脳の病気によるもので、
それらは毎年2370億ポンドのコストとなっており、
そういう人は働けなくなるので、放っておくと社会経済にとっても負担である、と分析。
精神障害への治療薬の開発費用がこれまで製薬会社に依存してきたために、
このままではうつ病や統合失調症の原因究明もままならず、
科学者が新たな知見に至れなければ、新薬もできない、と危機感を募らせる。
著者の一人 David Nutt医師は
「ここで研究が止まったら、次に体制を整えるまで20年から30年かかる」
「身体のその他の系に比べれば、
我々はまだ脳の働きについてはほとんど原始的な理解に留まっているというのに」
「患者への影響はこんなに大きいというのに、
EUの研究資金はもともと少ないところへもってきて
ビッグ・ファーマが向精神薬の開発は儲からないと考え始めている」
「一番問題になるのは訴訟だ。
売りだして30年も経ってから副作用が出れば企業が訴えられるからね。
でも、その問題にはECNPが保険を提供できないかと考えているところだ」
Nutt医師について非常に興味深い事実関係として、
2003年にSeroxatの安全性に関する政府の調査委員会に任命され、
その販売元であるグラクソとの間に金銭関係があったことが明らかになって
委員を辞職した中の一人だったとのこと。
今でも抗ウツ薬には重大な問題はないと主張する。
「すべての薬に副作用はつきものだ。
抗ウツ剤のリスク・ベネフィット分析は圧倒的にベネフィットが大きい」
Research into brain disorders under threat as drug firms pull out
The Guardian, June 13, 2011
Guardianは
こうしたビッグ・ファーマの向精神薬マーケットからの撤退について
「(グラクソやアストラゼネカの新薬開発からの撤退は)
主要製薬会社が大ヒット商品を競って売りだしては、
それをGPが何100万人という軽度や中等度のウツ病患者に処方していた
プロザック時代の終焉をくっきりと浮き彫りにした」と。
記事を読んで、まず、すごくシンプルに疑問に思ったのは
Nutt医師がウツ病と統合失調症を一貫して「脳障害」「脳の病気」としていること。
それはウツ病については恐らく
例の「脳の化学バランス失調」説なのだろうと思うのですが、
その一方で上記のように脳の働きについてはまだほとんど分かっていない、とも言うなら
それは相矛盾していないかなぁ……?
それにしても、今まではガンガン投資し、新薬を次々に開発し売りだして、
その過程ではあちこちの研究者やら学界やらにも湯水のようにカネをばらまいて
さんざん一緒になってマーケッティングして売ってもらっていたくせに
もうこれ以上、こっちのマーケットには儲け代は残っていないし
プロザック時代の“祭り”はお終い……となれば
こんなふうに手のひらを返すのかぁ……。
さんざんプレゼント攻勢にかけ下にも置かぬ扱いでアッシー君を利用しまくって、
そのあげくに別に新車のアッシー君を見つけた途端に
「あなたのこと、本当は最初から好きじゃなかったの」と
すげなく去っていく恋人みたい。
蜜月はずっと続くと思っていたのにいきなり袖にされた研究者さんたちがパニックして
「お願いだから考え直して。都合が悪いところがあったら考え直すから。
ほら、患者が副作用で死んだからって訴えられても、もう大丈夫なんだよ。
キミが困らないように、学会の方で保険制度も考えてあげているんだから」と
追いすがっているように読めてしまう……。
――――――
ちなみに、上記「新車のアッシー君」は、
素人の私のまったく無責任な読みでは「ワクチンの10年」祭り。
なにしろ、こっちのアッシー君は財閥の息子だし、10年保証だし。
かくして、グローバル慈善資本主義ひとでなしネオリベ経済では
モノやサービスが消費されるのに加えて、何よりも大事なのは
マーケットが次々に作り出されては消費されていくこと、なのですね。
既に消費され尽くしたマーケットは見向きもされない。
常に「次のターゲット」「その次の新しいマーケット」を、
産業界も各国政府もみんなが血相変えて追いかけるのに忙しいから。
「いつかかなう不老不死の夢」を
消費者みんなが追いかけ続け(させられ)ているのと同じように。
「科学とテクノで簡単解決バンザイ文化」が誇大に描いて見せる夢に煽られて
みんなが常に「今」ではなく「いつか」を見つめ、追いかけ(させられ)ることによって
次々に新しい欲望が喚起されるなら、
そこからは新しいマーケットを生み出す可能性を無尽蔵に汲むことができる。
だからこそ、グローバルなカネの動きは、
常に次から次へと新しいマーケットに向かって急流を成し、
そのカネを追いかけ、マーケットを追いかけることにみんなで血道を上げる。
まるで、わっと群れを成してやってきて、
そこで食えるものを根こそぎ暴力的に食いつくしてしまうと、
次の獲物をさがして一気に飛び去っていく害虫の群れみたいに。
でも、そんな世界の経済と金融の仕組みが出来上がってしまった中では
それについていく以外には企業も各国も生き残るすべがないのだろうとも思う。
そのマーケットが消費し尽くされて、
また「その次の」マーケットが示唆されるまでに、
乗り遅れないようにきちんと参入し存在を示しておかなければ、
さらに「その次」へのレースに入れてもらえなくなるから。
誰に示しておくのか、誰に入れてもらうのか、と言えば、
それはやはり“愛と善意”の旗を振っては「次」を示唆し、
そのカネの流れを支配している人たち――?
【関連エントリー】
「次世代ワクチン・カンファ」の露骨(2010/5/28)
「必要を創り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
「米国のワクチン不信と、そこから見えてくるもの」を書きました(2010/7/5)
日本の「ワクチン産業ビジョンの要点」の怪(2011/3/8)
介護者週間アイルランドでも。
http://www.rte.ie/news/2011/0613/carers.html
アイルランドではアル中のため若年介護者が71000人。
http://www.irishhealth.com/article.html?id=19326
若年介護者は年齢よりも早く大人にならざるを得ない。:これは一種の虐待。
http://www.shieldsgazette.com/news/health/young_carer_has_had_to_grow_up_quickly_1_3475100
NHSも介護者支援に賛同
http://www.bournemouthecho.co.uk/news/9080847.NHS_gives_backing_to_campaign_for_carers/
「隠れたケアラー」を見つけるすべを行政職員は身につけよう、と。
http://www.peoplemanagement.co.uk/pm/articles/2011/06/sainsburys-to-train-staff-to-recognise-hidden-carers.htm
こちらは「ケアラーの本当の顔」を見つけよう、と。:最後の二つは、今日の日本のケアラー実態調査のエントリーにも通じていく。
http://www.bedfordshire-news.co.uk/News/Finding-the-true-face-of-carers-14062011.htm
――――――――――
昨夜のBBCの自殺幇助場面を含むPratchettによるドキュメンタリー放送に、インターネットで「自殺幇助をロマンチックなものと描いた」「まるで当たり前のことのように描いた」などの批判や、マネをする人が出るなどの懸念が出たとか。Daily Mailの批判記事を受けてBBCがPratchettの反論と、放送したBBCの意図を説明。論点がわざとズラされている? この中にMailやIndependentの関連記事へのリンクもある。
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-13760933
こちら、Pratchettの放送後の発言を拾ったBBC記事。
http://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-13758286
英国首相は昨日これでBill Gatesからおほめの言葉をいただいていたのだけど、途上国のワクチンに8億1400億ポンドを出すと明言したことで国内で非難を浴びている。本人が「国内で厳しい予算削減を敢行している時だから論議を呼ぶ」と認めつつも「途上国の8000万の子どもにワクチンを打ち140万のいのちを救うことには人道上の意味がある」と。:人道上というよりも、英国が「ワクチンの10年」祭りに取り残されないために、経済・産業施策上の生き残り策なのよ、だから、国内の社会保障はカットできても、こっちはカットできないんだ……とは、やっぱり言えないかぁ。
http://www.dailystar.co.uk/news/view/195839/-814m-injections-for-foreign-kids-/
日本で、ワクチン同時接種で死亡する子どもが8人になったにも関わらず「因果関係は不明」と言い続けなければならないことのカラクリも、英国首相の事情と同じなんだろうか?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110613-00000064-jij-soci
N・カロライナ州が、かつての優生施策によって強制的に不妊手術を受けさせられた障害者や貧困層への補償を検討している。:これ、3月にNC州で、かつての強制不妊事業の犠牲者への補償に向け知事命令(2011/3/21)のエントリーで紹介した話題の続報。
http://www.bbc.co.uk/news/world-us-canada-13700490
【関連エントリー】
今なお聞こえる優生思想のこだま(2007/12/2)
受胎前遺伝子診断:巧妙な言葉の操作が優生思想を隠蔽する(2009/1/16)
米国優生運動の真実を描く映画“War Against the Weak”(2009/1/26)
米国のプライバシー権を確立したGriswold事件から断種法へ 2(2010/7/27)
かたや、こちらは現代版の優生施策。今や胎児の遺伝子を組み替えて、ダウン症やウツ病、アルツハイマー病の可能性を排除し、お好みの目の色、背の高さにすることができるんだとか。技術がここまで来た以上、社会がどこまで認めるかの議論が必要、例えば背の高さが気に入らないからという理由での中絶は認められるのか? 性別が理由なら? と。で、記事タイトルは「神を演じる:遺伝子検査はさらに純粋種(pure species)を作るための解決策か?」:でも「純粋種」って、あ、そうか、このタイトルは皮肉なんだ?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/228350.php
ナーシング・ホームから病院に入院して退院後1カ月以内に再入院する患者が増えて、無駄な医療費の増加を招いているとして、防げる高齢者の再入院を防ぐように、と。:なにがなんでも機械的に早期退院を迫っていたら、結局は回り回って医療費は削減できないことになる……という話なのでは?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/228274.php
先天性の障害のために子宮を持たない娘Saraさん(25)に
子宮を臓器提供することを決めた。
もっとも医師らに許可が下りるかどうかはこれから。
許可が下りれば手術は娘の住むスウェーデンの病院で行われ、
移植後にSaraさんの卵子と夫の精子で体外受精させた胚が入れられる。
しかし子宮移植は動物実験でも今だに技術が確立されていない実験的な技術で、
マウスでわずか数匹が移植子宮から生まれているとはいえ
それ以上の大きさの動物ではまだ研究が進んでいない。
2009年に英国ロンドンの外科医チームが
ウサギで子宮移植を数例行ったことがあるが、
いずれも妊娠に至らなかった。
ドナー、レシピエント双方に大きなリスクがあるため、
まだヒトで行える段階ではないと専門家は懸念するが
BBCのインタビューでEvaさんは
「そりゃ、大手術でリスクはあるでしょうけど、私は先生方を信頼しています。
専門家のすることだから大丈夫だと思うし、それよりも娘への影響が心配です」
子宮移植では2000年に
サウジアラビアで死亡提供者から26歳の女性に行われたが
血栓から壊死し始めたために3カ月後に摘出された。
スウェーデンのGothernburg大学のMats Brannstrom医師は
実験的な子宮移植の先駆で、Saraさんは同医師の研究で適性検査を受けていた。
もっとも仮に移植が成功しても、
子宮は合併症回避のため、2,3年後には摘出される。
出産にこぎつけたとしたら帝王切開。
子宮移植は技術的には心臓、腎臓や肝臓などの移植よりも難易度が高く
命にかかわる出血や、子宮への血流不良などのリスクがある。
英国では2009年の失敗の後、
資金不足と医学会からの懸念の声もあって研究が滞っていたが、
今年は子宮移植チャリティからの支援を受けて再開の予定とのこと。
この移植が認められなかったり、認められても失敗した時には
養子縁組を検討するとSaraさんは言っている。
UK mother agree to donate her womb to daughter
The Guardian, June 13, 2011
確かに、09年に英国のウサギの実験について、
当ブログでも以下のニュースを拾っていました。
2年以内に世界初の子宮移植ができる、と英国の研究者(2009/10/23)
この時のエントリーを改めて読み返してみると、
この段階では、研究者の方々は、ウサギの実験がうまくいくと考えていたものでしょう。
その「やったぞ! これで我らがチームが世界初の快挙達成だぜい!」との高揚感が
「2年以内に可能になる」との大言壮語を招いたものと思われますが、
でも……ですよ。
仮にこの時の実験がウサギで成功していたとして、
何匹か、正常なウサギが移植された子宮から生まれた、として、、
でも、仮にそうだったとしても、
それだけのことが、なにゆえに「2年後にはヒトでも出来る」というところまで
いとも無責任に飛躍してしまえるんでしょうか?
スウェーデンではEvaさんからSaraさんへの子宮移植手術が
果たして許可されるのでしょうか。
もしも許可されるとしたら、
そこではどのようなリスク・ベネフィット分析が提示されるのでしょうか。
まさか、きちんとしたリスク・ベネフィット分析の代わりに
「科学とテクノの簡単解決バンザイ文化」の常とう文句である
「親のこんなにも美しい愛」が振りかざされる……てなことはないでしょうが、
そもそも、この手術が許可されることに倫理問題はないのでしょうか。
それに、Evaさん、移植医がいくら専門家だからといって、
安全性が未だ科学的に検証されていない、あまりにも実験的な技術に身を任せるのは
決して「信頼」とは言わないと思いますよ……。
------
そういえば、
2007年にカトリック教会が出した生命倫理問題に関する見解で
Ashley療法と、英国で当時論議を呼んでいたハイブリッド胚と並んで、
この年にフロリダで予定されていた「米国初の子宮移植」が取り上げられ批判されていました。
カトリック教会の子宮移植への批判の論点は主に体外受精技術と遺伝子診断の利用だったので、
移植そのものへの批判でもないなぁ……と当時、なんとなく考えたことを思い出しました。
これについては「介護保険情報」07年5月号の連載で書いています。
さっき、ちょっと検索してみたのですが、
07年の子宮移植「フロリダで予定」のニュースはあるものの
実際に行われたというニュースは出てこないので、行われなかったか、
あまりに無残な失敗だったのでなかったことにされたか、の
どちらかだったのではないでしょうか。
以下の2つのエントリーで紹介してきました。
介護者の権利を守るための「ケアラーズ連盟」、6月7日に発足へ(2010/5/18)(その後、名称変更)
「ケアラー連盟結成宣言」(2010/7/6)
そのケアラー連盟が、NPO法人介護者サポートネットワークセンター・アラジンと共同で
厚労省老人健康推進等事業として、都市部、都市近郊、農村部の全国5地域を対象に行った
「ケアラー(家族など無償の介護者)を支えるための実態調査」の結果がまとめられました。
「ケアラーを支えるために
家族(世帯)を中心とした多様な介護者の実態と必要な支援に関する調査研究事業報告書」
調査方法は、2万世帯を対象とした質問紙調査と、200人のケアラーを対象としたインタビュー調査。
この調査におけるケアラーの定義は
「介護、看病、療育、世話、心や身体に不調のある人への気遣いなど
ケアの必要な家族や近親者・友人・知人などを無償でケアする人」とされ、
こうした広範囲な定義によるケアラーの実態調査は日本で初めてとのこと。
いくつか、結果の中からデータを拾ってみると、
・ケアラーの3分の2が女性。ただし年齢が上がるにつれ男性も増える。
・ケアラーの13人に1人は育児と介護の両方を担っている。
・12人に1人は20年以上ケアをしている。
・4~5人に1人は睡眠が中断されている。
・9人に1人は自由時間が1時間未満。
・8人に1人は協力してくれる人が誰もいない。
・身体の不調を感じている人は2人に1人。そのうち20人に1人は受診したくてもしていない。
・こころの不調を感じている人は4人に1人以上。そのうち20人強に一人は受診したくても出来ていない。
・7人に1人がかなりの負担、12人に1人は非常に大きな負担と感じている。
・5人に1人が孤立感を感じている。
結果のポイントとしては、
(1) 地域には様々な年代やケアを担うケアラーが高い割合で存在していること。
(2) ケアラーの精神的拘束感が強く、心身とも健康管理ができにくいこと。
(3) 仕事や社会活動の機会が減り、経済的負担も大きいこと。
(4) ケアラーの望む支援は、
① ケアラーの緊急時などにも柔軟に対応できる
ケアをしている相手への十分なサービス。
② ケアラー自身への経済的支援策
③ 行政や専門職の理解
④ ケアと仕事の両立
⑤ ケアラーへの直接的なサービスなど。
この結果を受けてまとめられた提言を要約すると、
① 地域に、きめ細かくケアラーを支援するため
10万人に1か所程度、地域のすべての住民に開かれ24時間対応の
「包括的地域生活支援センター(仮称)」を
また、3万人に1か所程度、ケアラー支援の拠点として
「ケアラー支援センター」を作る。
② ケアを必要としている人への包括的で総合的な
アウトリーチ型の地域生活支援サービス体制を構築する。
③ ケアラーとケアが必要な人が、ともに尊厳や健康を守り、社会生活を送れるようにする。
ヤング・ケアラーの支援のためには学校と連携する。
④ 各種調査や施策によってケアラー支援体制を整備構築し、
ケアラ―支援推進法(仮称)など、国と自治体の取り組みを進める。
⑤ 施策の立案、実施、評価のすべての場面にケアラーの参加を保障する。
私が個人的に最も印象的だったのは、
報告書で何度も繰り返されている「アウトリーチ型」という言葉。
これは私が当ブログの中で「支援する側から迎えに行く支援」と呼んできた考え方とも重なり、
とても共感しました。
「支援が必要なら自分から声を上げて行動を起こせ」と自己責任を問う声もありますが、
美意識で介護を語る世間のダブルスタンダードに縛られている介護者の多くは
介護を苦しいと感じれば感じるほどに自分を責め、
さらに頑張り続けるしかないところへと自分を追い詰めてしまいます ↓
介護を巡るダブルスタンダード・美意識(2008/10/27)
介護者だって生身の人間なのだから
時にギブアップしたくなるのは誰にでもある自然なことなのだよ、
というメッセージが社会から送られ、
頑張りすぎて限界が来そうな時には
「小さなギブ・アップ」を許容する懐の深い社会と、
それを可能にするきめ細かいサービスが必要なのではないかと思うし、
本当は限界が来ているのに、既に抱え込んでしまって
支援を利用する最初の第一歩が踏み出せないケアラーを
「サービスが必要なら自己責任で声を上げろ」と待っているのではなく、
支援する側が出掛けて行ったり、調査を通して発見し、
支援する側から迎えに行って最初の一歩を踏み出すべく
背中を押してあげることも時には必要なんじゃないだろうか。
つまり、それがアウトリーチ型ということではないか、と思うのだけど。
【関連エントリー】
上手に「小さなギブアップ」ができる支援 1(2008/10/1)
上手に「小さなギブアップ」ができる支援 2(2008/10/1)
You are only human: 介護者だって生身の人間なのだから(2008/10/30)
介護者も自分を大切にしましょう(2008/10/31)
自分の気持ちを理解して受け入れる(介護者のために)(2008/10/31)
自己主張をしましょう(介護者のために)(2008/11/1)
障害のある子の子育ては潜在的な家族の問題を顕在化させる(2008/10/20)
障害のある子どもの子育て、介護一般、支援について、これまで書いてきたこと(2010/3/15)
http://www.contactmusic.com/news.nsf/story/sir-terry-pratchett-obtains-assisted-death-paperwork_1225164
http://www.mirror.co.uk/celebs/columnists/todays-tv/2011/06/13/terry-pratchett-choosing-to-die-bbc2-9pm-115875-23197419/
【村上春樹】カタルーニャ国際賞スピーチ原稿全文。日本語。:すばらしい。ここで語られていることは原発だけではなく、「科学とテクノの簡単解決文化」でもって自然を征服できると考え、能力と効率至上の功利主義で倫理感覚を鈍らせていく英語圏を中心にした世の中の動きにも、そっくりそのまま当てはまると思う。
http://www.47news.jp/47topics/e/213712.phpl
【関連エントリー】
大統領生命倫理評議会の「人間の尊厳と生命倫理」と「おくりびと」(2009/6/30)
今年もビルダーバーグ会議が開かれている。中国から外務副大臣。:名誉白人……。
http://www.guardian.co.uk/news/blog/2011/jun/12/bilderberg-2011-mandelson-nature-walk?CMP=EMCGT_130611&
“優生主義者ビル・ゲイツ、盛会のエリートの“陰のサミット”ビルダーバーグ会議に(2010/6/9)
ビルダーバーグ会議2010(6月3-6日)(2010/6/10)
「ビルダーバーグ倶楽部」からVeriChipとワクチンについて(2010/6/29)
2015年までにGAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)が必要とする37億ドルを調達するために開かれた国際資金提供カンファで、米、英、仏、独、日ほかが協力を約束。オーストラリアも2013年までの3年間にGAVIに2億1000万ドルを提供することを約束。Bill Gatesも23億ドルを約束。:これは各国にとって、「ワクチンの10年」という経済と金融の祭りに参加するための通行税みたいなもの? GAVIについては、上記ビルダーバーグ会議関連の最後にリンクした去年6月29日のエントリーに。
http://www.reuters.com/article/2011/06/13/us-vaccines-donors-idUSTRE75C1FV20110613
Cameron首相が国内の社会保障サービスや給付を大幅にカットして、多くの高齢者や障害者から非難を浴びながらも、途上国への支援を増額したことについて、Bill Gatesが称賛。:こうして慈善資本主義に方向づけられていくグローバル経済で生き残るためには、各国政府はなによりも慈善資本王国の帝王サマの歓心を買い、そこで次々に消費されるマーケットに漏れなく参入させていただくために、たとえ自国民を飢えさせ見殺しにすることになろうとも多額の資金を使って次なる新たなマーケット作りにも積極的に参加しなければ……って?
http://www.guardian.co.uk/global-development/2011/jun/13/bill-gates-david-cameron-foreign-aid
NZで2時間の内に大地震が2つ。:前回のNZ地震が影響して翌月、日本で東日本大地震が起きたということだったけど……?
http://www.guardian.co.uk/world/2011/jun/13/newzealand-natural-disasters?CMP=EMCGT_130611&
米国メディアでは自殺幇助合法化議論が再燃している中、
キリスト教医師協会(学会?)の幹部の一人 Jonathan Imbodyという人が
ヨーロッパと米国で合法化した国で起こっている以下の「すべり坂」現象を指摘し、
合法化論者に、再考を促している。
・小国オランダで2001年に合法化された医療殺人(medical killing)では
本人の同意なしに死なされている患者が年間900人もいると推定される。
・ウツ病患者が、精神科医の評価も治療もなしに死なされている。
・安楽死を当局に隠している医師がある。ある地域では安楽死の半数が報告されていないままになっている。
・オレゴン州で規定されている2人目の医師の相談書は
本来は客観的なものであるはずなのに、連続61件の内58件で
たった一人の自殺幇助アドボケイトの医師によって書かれていた。
・すべり坂が安楽死を際限なく広げ、
今や「よいQOLにはならない」と判断された新生児、
ターミナルではない病人、ウツ病患者を対象にしているうえに、
医療制度の方向によってはオランダでは
「70歳以上でこれ以上生きたくない人」は誰でも対象になる可能性もある。
・緩和ケアがコスト効率のよい医療殺人にとって代わられつつある。
オランダの医師の一人は「緩和ケアなんかいらない。
安楽死をやっているんだから」といった。
そして、この人は、
結局のところ、自殺幇助と安楽死は
自己決定権の否定と尊厳のない死への最短距離だと、主張している。
LETTER TO THE EDITOR: The slippery slope of assisted suicide
The Washington Times, June 8, 2011
私も全くそう思う。
いくら「死の自己決定権」だ「自己選択」だと言われても、
そこに用意されているのが「死ぬ」という一方向にだけ認められる自己決定でしかないなら、
それは「自己決定」ではないではないか、と思う。
さらに言えば、既に医療費削減という社会からの要請と同時に
高齢者の自殺幇助があからさまに語られるようになってきた以上、
もはや自己決定権を盾に取った議論は化けの皮がはげている、とも思う。
結局は医療費削減のための自殺幇助合法化なのならば
「セーフガードさえあれば“すべり坂”など起きない」なんてウソで
最初から「すべり坂は織り込み済みの自殺幇助合法化論だった」または
「すべり坂を起こすための自己決定権議論だった」ということになるのでは?
【関連エントリー】
OR州の「尊厳死」:97%にC&Cが関与、たった20人の医師がせっせと処方(2010/3/11)
オレゴン州の尊厳死法、セーフガードは機能せず(2010/8/17)
WA州の尊厳死法、殺人の可能性あっても「問わず語らず」で(2010/9/16)
WA尊厳死法の「すべり坂」、エビデンスがまた1つ(2010/11/2)
「やめておけ、豪の安楽死法は失敗だったぞ」と緩和ケア医がケベックの医師らに(2010/10/8)
ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
オランダで安楽死が増加し保健省が調査。緩和ケアの崩壊も(2010/6/21)
幇助自殺者が毎年1割ずつ増えるオランダで「安楽死クリニック」求める声(2010/8/12)
「介護保険情報」10月号に以下の文章を書きました。
「セーフガード崩れる尊厳死法の実態が明らかに」
http://slashdot.jp/apple/article.pl?sid=11/06/08/000236
英国の介護者週間恒例の介護者実態調査で、介護者の75%は介護負担から健康を害しており、そのうち76%はウツ病、不安やストレスといった精神的な問題を抱えている。
http://www.express.co.uk/posts/view/252238/Carers-are-collapsing-from-stress
英国の介護者の5人に4人が、サービス・カットに不安を覚えている。
http://www.thisishampshire.net/news/9076248.4_out_of_5_carers_in_the_SE_fear_consequences_of_cuts_to_care_services/
Alex SchadanbergのEuthanasia Prevention CoalitionやWesley Smithなんかが力を入れてやってきた安楽死・自殺幇助国際シンポ、第3回はバンクーバーで6月3,4日にあり、大成功だったとか。
http://www.lifesitenews.com/blog/the-third-international-symposium-on-euthanasia-and-assisted-suicide-a-trem/
月曜日にBBCが放送する実際の自殺幇助場面を含む番組で、プレゼンターを務めているアルツハイマー病患者で作家のPratchettが自らの自殺の考えを語っている。Dignitasヘ行くつもりなんだとか。
http://news.nationalpost.com/2011/06/11/author-pratchett-plans-his-own-suicide/
http://www.guardian.co.uk/books/2011/jun/12/terry-pratchett-dignitas-suicide-euthanasia
上記放送を巡って、BBCには自殺幇助合法化推進バイアスがかかっている、との批判。
http://www.belfasttelegraph.co.uk/news/local-national/uk/bbc-accused-of-prosuicide-bias-16010818.html
BBCには去年も同様の批判があった。
BBC「世論は慈悲殺を支持」の怪(2010/2/1)
「BBCは公金を使って安楽死を推進している」と議員らが批判(2010/2/5)
自殺幇助に関する偏向報道で、BBCチェアマンに大物議員が会談申し入れ(2010/2/23)
Bill Gatesが今度は、スモーカーの多い中国で副流煙の問題をどうにかしよう、と中国の財閥と一緒に。:この人、今や比喩でも何でもなく世界の保健相なんですね。誰がいつ任命したのか、私はずっと前から不思議なんだけど。慈善資本主義は、一定規模を超えてカネが動くようになると、議会制民主主義を逸脱してしまっている、とも思うんだけど。
http://seattletimes.nwsource.com/html/nationworld/2015290275_apaschinasmoking.html
ProPublicaが、医療機器を使って医師が儲かる仕組みについて。
http://www.propublica.org/blog/item/more-scrutiny-for-doctors-profiting-from-medical-devices-they-use
障害児・者に関するグローバルな報告書the World Report on Disabilityをまとめた。
1970年代には世界の人口の約10%だと試算されていた障害者は
高齢化と慢性病の増加によって増え、今では10億人。総人口の15%に。
障害者の権利運動が行われインクルージョンに向けた変化もあるものの
総じて障害者は差別される地位(second-class citizen)に留まっており、
5人に1人は多大な困難を経験している。
途上国では医療を拒否される確率が健常者よりも3倍も高く、
障害児が学校に通ったり卒業まで在学する率も低い。
OECD諸国の健常者の就業率が75%であるのに比べて
障害者の就業率は44%にとどまる。
バリアとしては、スティグマ、差別、
適切な医療とリハビリを受けられないこと、
交通手段、建物、情報へのアクセスが十分でないこと。
途上国では事情はより深刻である。
著者の一人、Tom Shakespeareは、
問題のない国はない、というのが報告書のメッセージだ、と述べて
特に報告書から見える最もショッキングで大きな問題は
医療における差別だ、と。
WHO事務局長のMargaret Chan医師は
障害は人であれば経験すること(disability is part of the human condition)だと指摘し、
「私たちのほとんどが人生のどこかの段階で永続的な障害や一時的な障害を負います。
障害者を差別し、多くの場合社会の周辺に追いやってしまう原因となっているバリアを
取り除くために我々はもっと努力しなければなりません」
Lancaster大学の障害研究センターのEric Emerson教授は
「英国の障害者、とりわけ知的障害者が受ける制度的な差別は
これまでも多くの独立系の調査報告で指摘されてきた。
障害者の健康と福祉は
彼らの障害から直接的に引き起こされる結果ではなく、
社会が障害者をどのように遇するかによって引き起こされた結果なのである」
報告書は特に各国の状況を比較してはいないが
最も優秀な実践例として特に英国の障害者差別(禁止)法2005を挙げた。
公共機関に平等とダイレクト・ペイメントの推進を義務付けたことを評価したもの。
しかし英国人であるShakespeareは
「ダイレクト・ペイメントの仕組みと、
自立生活給付などの支援や仕事へのアクセスでは英国は優秀だが
これまでに整えられてきたものが今は脅かされている。
自立生活給付金のカットやその他の支援も変更が行われており
昔はよかったが、ということになりそうだ」
One billion people disabled, first global report finds
The Guardian, June 9, 2011
同レポートに関するLancetの論説はこちら。
英国の社会保障費カットはこのところ毎日のようにニュースになるほど
大きな影響を及ぼして障害者・高齢者を脅かしているので、
Shakespeareの最後の発言は非常にリアルに聞こえた。
英国の障害者らが介護サービス削減に抗議して訴訟、大規模デモ(2011/5/11)
ただ、ものすごく素朴に疑問に思うのは
WHOと世銀って、ゲイツ財団・IHMEと大の仲良しで、
DALYでもって世界中の医療保健施策の効率化を計ろうとしていたり、
遺伝子診断や早産・死産撲滅など、優生思想が匂う運動を推進していたりしながら
その一方で、こういうことを言うのって……?
それはShakespeareの発言にも通じていく疑問で、
医療における障害者差別が一番の問題だというけど、
そんなのは、この報告書が出てくる前からみんなが経験し言っていることで、
その現実を知らないわけでもなかろうに、
また医療で差別されているからこそ、
英国障害者の7割がPAS合法化に懸念してもいるのだろうし、
その懸念の背景にある不信を理解できないわけでもなかろうに、
自殺幇助合法化議論では医療における障害者への差別は言わず、
障害者にも自殺幇助を認めろ、と主張するのって……?
【関連エントリー】
Tom Shakespeareが「自殺幇助合法化せよ」(2009/3/15)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 1(2009/7/9)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 2(2009/7/9)