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米国の遺伝子特許を巡る裁判で、“法廷の友”からヒトについてもヒト以外についても遺伝子は自然の一部なので特許の対象とすべきではない、との見解。:ほえぇぇ。そんなの最初からそういうことだったんじゃないの? そういう転換を今になって??? 
http://www.nytimes.com/2010/10/30/business/30drug.html?_r=1&nl=&emc=a25

介護者の貢献を認め支援を約束する法案が豪連邦議会を通過。
http://www.ibtimes.com/articles/76924/20101028/australia-s-carer-s-recognition-bill-passed.htm

スコットランドで不況の影響を懸念する介護者らから、議会に対し、介護者自らがレスパイトをいつどのようにとるかを決めることができる権利などを訴え。
http://www.heraldscotland.com/news/health/call-to-give-carers-the-right-to-regular-breaks-1.1064710

中国でも要介護の高齢者1500万人。
http://english.peopledaily.com.cn/90001/90782/90872/7181948.html

Lancetがマラリア撲滅特集。その1つで、以下は途上国へのワクチン支援キャンペーン組織GAVIについて。“GAVI depends too heavily on one foundation and the changing priorities of core donor countries.”次のGAVIのリーダーへの注文いろいろ。:その財団と提携している医学雑誌はどこだ?
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2961974-5/fulltext?elsca1=TL-291010&elsca2=email&elsca3=segment

カリフォルニア州で、特定の複数の地域だけに自閉症が高率に発生していることが分かり、研究者らは説明がつかないと困惑している。:ふむ。確かに遺伝では説明がつかないだろうけど、即座に「でも、ワクチンじゃないよッ。ワクチンだったら広範に出るはずだからねっ」と断りを入れる人がいる。そりゃそうだと思うけど、そんなに力まなくても。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2961977-0/fulltext?elsca1=TL-291010&elsca2=email&elsca3=segment

医療ツーリズムに規制の必要。:患者の安全という視点から論じてあるみたいなのだけど、自国民の医療保障という点からも考えてほしい。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2810%2961993-9/fulltext?elsca1=TL-291010&elsca2=email&elsca3=segment#

内視鏡を使わなくても大腸がんを早期に発見できるDNA検査が2年後には市場に。
http://www.nytimes.com/2010/10/29/health/29cancer.html?nl=&emc=a23

カンボジアの首都プノンペン郊外で国連の資金で運営されている施設は、弱者に教育と医療を提供するといううたい文句とは裏腹に、政府によって「望ましくない」とみなされた薬物乱用者や性労働者、ホームレスなどが(それだけか?)まともな容疑もなく引っ張られて裁判もなく違法に拘留され、虐待やレイプされたあげくに殺されている、と人権擁護団体や収容体験者らが証言。:途上国で国連職員が現地の女性や少女たちの弱みに付け込んでレイプしているという話を何年か前に読んだことがある。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/28/raped-beaten-killed-cambodia-detention-camp?CMP=EMCGT_291010&
2010.10.30 / Top↑
Generations Aheadという団体が
今回のEdwards博士(体外受精技術の確立)のノーベル賞受賞その他を巡って
以下のステートメントを出し、

障害者の権利と生殖の権利(リプロダクティブ・ライツ)の関係を整理しつつ
優生思想的な生殖の意思決定を促す動きを批判している。

Edwards, Virginia Ironside, and the Unnecessary Opposition of Rights 

Generations Aheadは、
広範な社会正義関連の当事者の視点から、
遺伝子技術が社会的にまた倫理的にどういう意味を持つかを考え、
広く議論を呼びかけ、問題提起を行う米国で唯一の組織だとのこと。
詳細はこちら

ステートメントでは、
障害者の権利とリプロダクティブ・ライツは互いに否定しあうものではなく、
それぞれに互いへの注意を内包するものだ、との主張がまず述べられた後で、

とりあげられている最近の2つの出来事のうち、
1つは世界で初めて体外受精技術を確立したEdwards博士のノーベル賞受賞。

それについて書かれていることは、おおむね以下。

「遺伝病という重荷を負った子どもを産むのは親の罪。
子どもの質を考えなければならない世界に我々は突入しつつある」と語るなど
Edwards博士は生殖補助技術によって障害児が産まれるのを防ごうと主張してきた。

彼の医学上の功績とこうした政治的な発言を別ものとして切り離す立場こそが
リプロダクティブ・ライツと障害者の権利とを対立させているのであり、
彼の差別的な発言を問題にしないままEdwards博士を称賛すること一切に抗議する。

確かに彼の功績によって、
単身者や不妊に苦しむ人たち、同性愛者やトランスジェンダーの人たちが
生物学的に自分と繋がりのある子どもを持つことができるようになった。
しかし、女性と家族の選択肢を増やした彼の功績を
障害の廃絶を説くことによって正当化したり裏付ける必要はない。

また中絶に反対する立場の人たちがEdwards博士を批判するために
障害を持ち出すことにも我々は抗議する。
障害のある多くの人たちが生殖補助医療によって家族を持てるようになった。
確かに、中絶の決断をするにあたっては
女性も家族も障害について必要な情報がそろっていなかったり
障害のステレオタイプが根強いという懸念は我々にもあるが、
だからといって生殖補助技術に反対したり女性の権利を制限するべきではない。



もう1つは、英国のコラムニストVirginia Ironsideが中絶の権利に関して発言したさいに、
胎児に障害があると知りながら生むことは残酷で、中絶するのが“道徳的な無私の行為”、
自分に病気や障害のある子どもがいたら、愛情ある母親なら誰だってそうするように
自分は躊躇なく“枕を顔にかぶせる”と語ったもの。

これに関して書かれているのは、おおむね以下。

障害者の権利とリプロダクティブ・ライツ両方のアドボケイトとして
中絶の権利を説くためのレトリックとして障害を使うことに抗議する。

リプロダクティブ・ライツとは、中絶へのアクセスのみならず、
障害のある子どもも含めて子どもを持つ権利、子育てに関する情報へのアクセス、
そしてすべての子どもを尊厳を持って育てるための社会的・経済的支援へのアクセスを
要求するものである。



私はものを知らないので、見知った名前はWilliam Peaceだけだけど、
既に多くの人が、賛同の署名をしている。

私は、イマイチ、割り切れないものがある。

「産む・産まないは私が決める」は、私も支持する。
「私だけが決める」じゃないと思うけど、でも
「最終的に決めるのは私」でないと、やっぱり、とは思う。

私が引っかかるのは、
「障害のある子どもを産む・産まないも私が決める」なのか、というところ。

そこのところが、私には、まだどう考えたらいいのか、よく分からない。

もしかしたら
ステートメントが言っていることに賛同はしつつ、
その言い方にひっかかっているだけなのかもしれない。
どこが、とはっきり言えないのだけど、どこかにご都合主義な匂いがあるような……。

障害者も生物学的に繋がりのある子どもを持てるようになったのだから
障害を盾にとって生殖補助技術そのものを否定するな、というところも、
生殖補助医療が生殖子や女性の身体を資源化して、
貧困層の女性の搾取につながる可能性や現に起きている現実を無視して、
それだけで語っていいのか、という疑問も頭に浮かぶ。

とりあえず、今の私はこのステートメントに、すっきり乗り切れない。

女性の選択する権利と障害者の権利の相克を
自分の中でどう折り合いをつけるか、
私はまだ答えが出ないまま、ぐるぐるし続けていて、
今の段階で私が言葉にできることは以下のエントリーで書いたことがせいぜい。

山本有三の堕胎罪批判から考えたこと(2010/8/13)

このエントリーを書いた直後に、
日本で早くからリプロダクティブ・ライツを訴えてきたSOSHIRENの大橋由香子さんと、
ずっと障害者運動に関わってきた当事者で翻訳家の青海恵子さんの往復書簡、
「記憶のキャッチボール 子育て・介助・仕事をめぐって」を読んだ。
(帯は「共通点、女で子持ち。」)

長年、運動と関わり、運動の中で思考を鍛えられつつ
闘い続けてきた2人の問題意識は高く、たいそう勉強になった。

2人は「産む・産まない」を“一度目の選択”
「障害児を産む・産まない」を“二度目の選択”と呼んで、
区別する必要を感じつつ、やはり、それだけでは済まないものを感じて、
そこにこだわり、ぐるぐるしている。

2人の「ぐるぐる」は、私の「ぐるぐる」なんかよりも
そして、もしかしたら、このステートメントよりも、
はるかに深いところにまで掘り下げられて、密度が濃い。

特に、障害当事者らが作った障害者差別禁止法要綱案で
選択的中絶の禁止を含む「出生」項目を巡っての2人のやり取りは迫力があった。
これについてはエントリーを立てたいとずっと思いつつ
なかなか果たせていないので、興味のある方は2人の本を読んでください。

インパクトが大きかった言葉から1つだけ挙げておくと、青海さんの

女たちがどんな思いをして、どんな歴史を背負って、「産む・産まないは女(わたし)が決める」というスローガンにたどり着いたかが、男たちにはまだまだ伝わっていない
(p.124)



これ、Ashley事件を追いかけていると、障害者への強制不妊について
まった~く同じことを、ひしひしと感じるんだ。

法的・倫理的なセーフガードが、
障害者たちのどんな思いとどんな歴史を背負っていると思っているんだ、と――。


ちなみに、どこまで論旨を正確に読み取っているか自信がないので深入りしないけど、
Not Dead YetのStephen Drakeがこのステートメントについて
以下のポストを書いている。

Disabled Feminists Issue Statement: on Robert Edwards, Virginia Ironside and Unnecessary Opposition of Rights
NDY, October 22, 2010

NDYとしては生まれてきた後の障害者の問題で手いっぱいだから、として
中絶の問題にはコミットしないスタンスで一貫し、ちょっと距離を置いている。

それでも、こうしてブログでとりあげているところが、いいよね。

このポストにBill Peaceが
NDYがそういうスタンスをとっていることは分かるけど、
できれば参戦してくれれば、とコメントし、
Drakeが長いコメントを返している。そこに、
NDYの戦術上の悩ましさみたいなのがチラッとうかがえて興味深い。

この問題、誰にとっても、いろいろ悩ましいんだなぁ……。
2010.10.30 / Top↑
先週、英国のテレビでもWarnockやらPurdyやらが出て、自殺幇助合法化のディベイトがあったとか。「生命それ自体に価値があるわけではない」とWarnockさんが言ったらしい。
http://www.lifesitenews.com/ldn/2010/oct/10102709.html

先日のOdoneさんの報告書に、BMJグループのブログが噛みついている。ここでも「すべり坂が起こると言うならエビデンスを出せ」と。: エビデンスについては、上記報告書のエントリーにちょっと書いた。BMJの姿勢がどういうものかは、副編の「生きたい障害者が死にたい病人のジャマするな」発言から明らかで、ホンネは「すべり坂が起きて障害者が死なされるからと言って、それが一体どうした?」。
http://blogs.bmj.com/medical-ethics/2010/10/27/odone-and-the-cps-scaremongering-about-euthanasia/

Finlay議員らのシンクタンクの報告書での、オレゴンではドクターショッピングが起こっているとの指摘を受け、W・Smithが「ほらみろ、私は10年も前からずっと、そうなると言い続けてきたぞ」と。
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2010/10/27/as-i-have-been-saying-for-more-than-10-years-oregon-assisted-suicide-leads-to-doctor-shopping/

日本のケアラー(介護者)支援フォーラム「介護者を孤立から救うために」
11月21日13:00~16:40 新宿住友ビルにて
http://www.seniornet.ne.jp/%E4%BB%8B%E8%AD%B7%E8%80%85%E3%82%92%E5%AD%A4%E7%AB%8B%E3%81%8B%E3%82%89%E6%95%91%E3%81%86%E3%81%9F%E3%82%81%E3%81%AB.pdf

豪クイーンズランドの州議会が、フルタイムで孫の面倒を見ている祖父母にも介護者支援を行うとの議決。
http://www.abc.net.au/news/stories/2010/10/28/3051049.htm

英国保健省が来年11月までにアルツハイマー病患者への抗精神病薬の投与を3分の2まで減らすとの姿勢を表明。アルツハイマー病協会も歓迎。:えらいぞっ。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205848.php

製薬会社が都合の悪い治験データは隠ぺいしている、というのは、もはや常識になりつつある?
http://www.bbc.co.uk/news/health-11521873

グラクソのスキャンダル。
http://www.guardian.co.uk/business/2010/oct/27/glaxosmithkline-whistleblower-wins-61m?CMP=EMCGT_281010&

上記スキャンダル、日本語ではこちらのKebichan55さんのブログに。
http://blogs.yahoo.co.jp/kebichan55/51464020.html

もう10年来、10代の子どもたちの妊娠をどうにかすべく頭を痛めてきた米国議会。Obama政権が打ち出した性教育改革案に、避妊派と禁欲派の双方から批判。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/10/27/AR2010102707195.html?wpisrc=nl_cuzhead

米国の高校生のうち、過去1年間にイジメを経験した子が半数。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205925.php

名古屋の生物多様性会議、20項目の内15項目で合意。
http://www.guardian.co.uk/environment/2010/oct/27/japan-biodiversity-conference-conservation?CMP=EMCGT_281010&

高齢者の皆さん、午後のお昼寝は、活動的な生活を維持するために、いいですよ~。:いや、それはお年寄りだけでなくて。そろそろコタツの季節だし~。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205853.php
2010.10.28 / Top↑
尊厳死合法化議論に関しては
いくつかの疑問がずっと前から頭の中にぐるぐるしている。例えば、

疑問①
「過剰医療はやめよう」という話と「延命はやめよう」という話が
実は混乱しているのではないか。

疑問②
「何が“無駄な延命”で何が“無駄ではない延命”または“必要な治療”なのか」は
実は個々のケースによって全く違う話なのではないか。

それなら「もっと個々に丁寧に細やかな判断をしよう」という話が先、
またはそれを言えば終わる話なのに、

なぜかそれが
「どうせ死ぬなら無駄な延命はやめよう」というスローガンとなり、
結果的に「延命は全て無駄」というイメージを広げていくなら、
それは話の摩り替えではないのか。

疑問③
さらに「どうせ“死ぬ”なら延命はやめよう」という話と
「どうせ“治らない”なら延命はやめよう」という話も混乱しているのではないか。

しかし「どういう場合に何が無駄な延命または治療なのか」を問題にせず
「どうせ治らないなら“延命”はやめよう」と言うのは、
「どうせ治らないなら“治療”はやめよう」と言うに等しいのでは?

疑問④
その結果、本来なら「過剰な医療はやめよう」というだけで片付く話が
「一定の状態になったら治療は全て無駄」へと大きく飛躍しているのではないか。

尊厳死法制化の議論で流布されているのは、実はその飛躍なのではないのか。

             ――――

文芸春秋の11月号に仁科亜季子さんの
「私は尊厳死を選ぶ」という“初告白”の記事があって、
中原英臣氏が“聞き手”ということになっている。

実際に読んでみると、仁科さんが言っていることはそれほど割り切れているわけではないし、
中原氏はぜんぜん“聞き手”ではなく完全に話を誘導し、自分の方が大いに論じて、
英語で言う「言うべき言葉を相手の口に入れてやる」状態になっている。

で、この記事を読んで、上の4つの疑問がくっきりとした。

中原氏がこの記事の中で描写する「延命」とは、

よく「スパゲティ症候群」などと言われていますが、中心静脈注射などのさまざまな管をつけて、助かる見込みのない患者さんをただ生かしておく延命措置
(p.288)



病院に入ると、身体に栄養を入れるのも出すのも、すべて管を使って機械的に処理することになりますから。病院における臨終までの時間はとても忙しいんですよ。最後の最後まで、患者さんは酸素吸入をされて、痛々しい処置をいろいろされて、最後は医者による力まかせの心臓マッサージが行われる。こういうドタバタ行為は、患者さんのためというより、最後まで手を尽くしたという医者の自己満足のために行われるわけですよね。
(p.292)



肺に転移したがんの状態を調べるために、毎日、気管支ファイバースコープ検査をされた八十代の方もいらっしゃいました。
(p.292)



でも、これ、すべて
「患者のためにならない過剰な医療はやめるべきだ」という話に過ぎないのでは――?

つまり上記の疑問①。

さらに、

中原:……さらに、医療の世界では、延命医療はドル箱といわれているんですよ。例えば、肝硬変のために食道静脈瘤が破裂して、入院してから十五日後に亡くなった七十歳の方のケースですが、治療費は合計で三百十六万円かかっています。そのうち最も高かったのは中心静脈注射です。

仁科:私もやりましたけど、中心静脈注射って高いんですね。

中原:仁科さんの場合には治る見込みのある治療でしたけど、回復する可能性のない患者さんにとっては意味のある治療とは思えません。……(中略:この患者の治療費の内訳)……(中心静脈注射は)病院にとっては打ち出の小槌みたいなものです。
(p.292)



これも一見すると、「過剰な医療はやめよう」という疑問①の話と見えるし、
病院が必要もない検査や中心静脈注射をやって“打ち出の小槌”にしているという指摘ならば
「延命治療が悪い」ではなく、個々の「医師や病院が悪い」から是正しろという全く別の話だと思う。

しかし、よく考えてみると、実はこれは疑問②に当てはまる話なのではないかと思えてくる。

手術費用が治療費総額の14%だという話が出ているので、この人は手術を受けている。
それなら、この70歳の患者さんは、少なくともその段階では
「手術すれば回復する可能性がある患者」だと判断されていたのであり、
「回復する可能性がない患者」だとはみなされていなかったことになる。

手術後に中心静脈から高カロリー輸液の点滴を入れるのは
特段「過剰な医療」でもなければ「意味のない治療」でもないのでは?

いや、そもそも、その中心静脈点滴は急性期治療の一環であって「延命治療」ではないのでは?

それなのに中原氏は
仁科さんが胃の部分摘出の際に受けた中心静脈注射と比較して、この患者の場合を
「回復する可能性のない患者」への「意味のない治療」だとしている。

しかし、実は、どちらのケースも手術とそれに伴う急性期の医療。
最初から死ぬと思って手術したわけではなく、不幸な転帰は、あくまでも結果論。

それならば急性期の医療のケースを並べて、片方だけを
終末期に無駄な延命医療が行われた事例であるかのように話をすり替えることができるのは、
患者の70歳という年齢が目くらましになるからでしょう。

そういうことならば、
それほど強引な摩り替えによって中原氏が言外に送っているメッセージとは必然的に
「高齢患者には助かる可能性がある治療も無意味だ」というものにならないか?

それなら、ここでの疑問②は、そのまま疑問③や疑問④につながる。

もともと中原氏はこの記事の中で
「助かる見込みのない患者さん」「回復する見込みがない患者さん」と言い
必ずしも話をターミナルな状態の患者さんに絞っていない。

そういう人が言うことだとの前提に立つ時、
上記最初の引用部分の「助かる見込みのない患者さんをただ生かしておく延命措置」とは
具体的にはどういう患者へのどういう医療介入を意味するのだろう? 
または、どういう患者への、どういう介入までを意味し得るだろうか?

中原氏は別の個所では、こんなことを、さらりと言ってのけている。

……死というのは本来非常に単純で、動物の場合ならいわゆる生理学的な死しかないわけですよね。ところが、人間の場合は、生理学的な死だけでなく、「人格的な死」というのもあるでしょう

僕は延命治療をやるな、と言っているわけではないんです。やりたい方は、やればいい。「何が何でも、私はできる限りの治療を受けて死んでいきたい」と思われる方は、延命医療を受ければいいでしょうし……
(p.290)



これは尊厳死法制化を言う人たちに私が感じる最も大きな疑問なのだけど、

「延命をやるな」の反対が何故
「何が何でもできる限りすべてのことをやってほしい」に飛躍してしまうのか。

個々の患者さんの状態と、それを巡る医療の判断のありようというものは
「一切の延命は無駄だからやらない」と「何が何でもすべてをやる」のいずれかであるよりも、
そのどちらでもない、両者の中間で、あくまでもその人だけのプロセスを経た先に生じてくる
無数の細かい判断として繰り返され積み重ねられて、次へのプロセスへと繋がっていく
地味で、どちらかというと不透明な性格のものなんじゃないだろうか。

その複雑でファジーな現実を無視して、そこにある選択があたかも
「延命をやめる」か「何が何でもすべてやる」の二者択一であるかのように言いなすことは
結局のところ、「延命と呼びうるものは全て無駄」に向けて読者の意識を誘導しているに等しい。

つまり疑問④。

そして、それが定義もされないままの「人格的な死」と共に語られていく――。

中原氏は、終末期の人の延命について語っているフリを装いながら、その実、
「死が差し迫っている人」の医療ではなく「回復の可能性のない」人の医療が語られて、
そこに、さりげなく「人格的な死」が紛れ込まされていく――。

なんと恐ろしいペテンなのだろう――。

         
ついでに、もう1つ、中原氏の「誠実とは言えない誇張」を指摘しておくと、

なぜ患者が在宅での死を選べなくなったかという要因の1つとして
中原氏は医師が24時間以内に診察していないと死亡診断書が書けないためだと語り、
以下のような会話がある。

……極端な話、医者の隣に引っ越さなくちゃいけない、なんてことになる。昔はよく医者が往診をしてくれましたが、今は非常に少なくなっていますからね。

仁科:最近は在宅医療が始まって、往診を増やそうという動きもあるんですよね。

中原:ただ、設備が整っている大きな病院ではできても、地方ではとてもできないのが現状です。
(p.291)



素人の仁科さんが指摘しているように
日本の医療改革の方向性として在宅医療の推進が図られて
介護と医療の連携によって地域包括支援体制づくりが打ちだされているのは事実。

それなのに“専門家”の方が「昔は往診してくれたが、今は少ないから、
家で死亡診断書を書いてもらうためには医者の隣に引っ越さないといけない」って……?

在宅医療がなぜ設備が整った大病院でなければできないのかについては、
私にはさっぱり分からないので、どなたかご教示いただけると幸いです。


【関連エントリー】
日本尊厳死協会・井形理事長の「ダンディな死」発言(2010/3/2)
「『尊厳死法制化』を考える」報告書を読む(2010/5/6)
安楽死に関するシンポを聞いてきました(2010/10/4)
在宅医療における終末期の胃ろうとセデーション(2010/10/6)



ついでに、何故かこれを書いていたら思い出したので、
日本生命倫理学会の会長が説明する「米国の事前指示書署名と倫理相談制度」の不思議に関して
ここで追記しておくと、

ハリケーン・カトリーナの安楽死事件の記事の中に
ルイジアナ州で延命治療差し控えまたは中止の事前指示が法的に認められるのは
患者が「ターミナルな状態にあり」かつ「耐え難い苦痛がある」場合、とされていました。

木村氏がいうような
米国のメディケア患者が入院する際には
一律に事前指示書にサインするかのようなシステムがあるとは、やはり考えにくいですが。
2010.10.28 / Top↑
先日、自殺幇助合法化は弱者を危険にさらすとの報告書をまとめた政策研究所のCrhistina Odoneさんが燃えている。Mailに寄稿し、GuardianでWarnockと激論し、今度はTelegraphに寄稿。「裕福なエリートが弱者を時期尚早な死に追いやる」と。:確かに、自殺幇助合法化議論には、富裕・知的エリート層の「死の自己決定権」が、結果的に弱者を機械的に切り捨てて行くことにつながっていくという面があるような気がする。というか、そういうことにつながったって構わないという意識が、どこかに潜んでいる気配を感じる、というか。また、そういう面がある一方で、その結果の方を実はもくろんでいる人もいるのでは、というか。
http://blogs.telegraph.co.uk/news/cristinaodone/100060827/assisted-suicide-a-wealthy-elite-will-push-vulnerable-people-to-premature-death/

英国のWorcestershireの農場で、ルーマニアの子ども7人が奴隷労働させられているのが見つかり、保護された。9歳から15 歳。凍えるような寒さの中、防寒できる服も着せられず、働かされていたらしい。大人も50人ばかり。農場労働者の手配師のことをどうやら gangmasterと呼ぶらしくて、the Gangmasters Licensing Authority(GLA)という役所が監督しているんだとか。:奴隷労働と人身売買、実は私たちのすぐ身近にまで広がってきているのかもしれない。子どもたちにとって世の中全体が虐待的な親のような場所になっていく。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/oct/24/children-working-in-freezing-field?CMP=EMCGT_251010&

ロシアでは熊が食糧難から墓を荒らして死者の肉をあさっている。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/26/russia-bears-eat-corpses-graveyards?CMP=EMCGT_271010&

ネバダ州の放射線物質の廃棄施設周辺を周回・警戒しているのは、ロボット兵士。一見、巨大な黒いカニ? Mobile Detection Assessment Response System というそうな。年間100万ドルの経費削減になるそうな。こいつは攻撃能力を装備されているわけではなく、不審者を見つけると、警備本部にいる人間の「おらぁ、そこのオマエ、オマエだぁ。とまれ、こらぁ」などとどなる声がこの巨大カニの拡声器で響き渡る。このカニに殺傷能力を装備することだって、もちろん可能なんだろうなぁ……などと想像しつつ、写真を見る。
http://www.guardian.co.uk/science/2010/oct/24/nasa-robots-on-patrol?CMP=EMCGT_251010&

温暖化説を否定しているティ・パーティの中間選挙候補者に、メキシコ湾をあれだけ汚染させたBP社その他ヨーロッパの環境汚染企業が献金。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/24/tea-party-climate-change-deniers?CMP=EMCGT_251010&

40代から毎日アスピリンを飲むと、後々ガンになるリスクを下げられるので、みんなで飲みましょう、という専門家の声。
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/5237050/Daily-aspirin-in-your-forties-can-cut-risk-of-cancer-later-in-life.html

この話、去年から出ていた。↓ この時もLancetだった。今回も、同じくLancet。
「40過ぎたらガン予防で毎日アスピリンを飲みましょう」って(2009/4/30)

そのちょっと前には、こういう話もあった。↓
健康な人も5種混合薬を毎日飲んで将来の心臓病リスクを半減しよう、って(2009/4/2)
2010.10.27 / Top↑
オレゴン州のCompassion & Choiceの幹部が、モンタナ州で看護学生などを相手に死の自己決定権について、モンタナ最高裁の事実上の合法化判決となったバクスター訴訟について、講演している。具体的な幇助の方法まで語り、尊厳と人生の全体性を守る方法なんだと説いたらしい。:げっ。医療職の職能団体、こういうのはなんとかしてほしい。
http://billingsgazette.com/news/local/article_6491e2b0-e04b-11df-b168-001cc4c03286.html?oCampaign=hottopics

ホルモン・クリームを使っている女性のペットに異変が起きている。雌では性器の腫れ、出血、問題行動。雄では胸のふくらみと抜け毛。飼い主との接触でクリームのホルモンを体内に取り込むため?
http://well.blogs.nytimes.com/2010/10/25/when-hormone-creams-expose-others-to-risks/?th&emc=th

ムシで、遺伝子によって生殖可能期間をコントロールできることが分かったので、いずれ人間でも生殖可能な期間を延ばすことができるようになる?:科学者って、一体なにをやりたいのだろう、と時々思う。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205654.php

イタリア南部のリゾート地で、市長の音頭で市議会がミニスカートに罰金を科す条例を作ろうとしている。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/25/miniskirts-ban-in-italian-resort?CMP=EMCGT_261010&

米国政府、学校での同性愛関連のイジメ問題でキャンペーンに乗り出す。あらゆる種類の差別に対して啓発。:確かにヘイト・スピーチもヘイト・クライムも増えている感じがする。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/10/26/AR2010102600021.html?wpisrc=nl_cuzhead

豪のHoward前首相がテレビ番組に出演中、靴を投げつけられた。かろうじてかわしたらしい。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/shoes-thrown-at-howard-during-qa-appearance/1978886.aspx?src=enews
2010.10.26 / Top↑
このところシンクタンクの報告書が相次いでいます。
こちらも議会に向けて報告されたもの。

オレゴン型の尊厳死法によって医師による自殺幇助を合法化した場合、
英国では毎年1000人が死ぬだろうと試算。

ターミナルな病状の人に限るというセーフガードは
拡大解釈で実施する医師が出てくるから用を成さない、

Oregonでは対象者要件を適当に勘案してくれる医師を求めて
ドクター・ショッピングが起こっており、その結果、
ただのうつ状態の人にまで自殺幇助が行われている。

件数も98年の24件から昨年の95件と4倍になっており、
1万人の死亡者あたりでいえば19.3人にあたる。

同様の法律で合法化すれば
イングランドとウェールズで毎年948人、スコットランドで104人、
合計で英国での幇助自殺件数は1052件に上るだろう、と。

久々にFinlay議員の名前を見たと思ったら
この報告書は緩和ケア医である同議員が
Carlile議員など医師や法曹関係者らを募って立ち上げたシンクタンク
Living and Dying Wellによるものだった。

(去年ニュースに頻繁に登場していた際には、Finlay議員は
良い死に方を考える超党派の議員グループを率いていたので、
そこからさらにシンクタンクの立ち上げへと運動を展開したのかもしれません)

Suicide law in UK ‘would lead to 1000 deaths a year’
The Daily Maill, October 25, 2010


【Baroness Finlay(Baroness は女性議員の称号と思われます)関連エントリー】

英国医師会、自殺幇助に関する法改正支持動議を否決(2009/7/2)
BMJの副編が「生きたい障害者が死にたい病人のジャマするな」(2009/9/6)
Campbellさん率いる障害者団体連合が自殺幇助ガイドラインを批判(2009/12/22)
Warnock, Finlay, Purdy他が自殺幇助で円卓討論(2010/1/31)


【米国の尊厳死法のセーフガード関連エントリー】
Oregon尊厳死法による自殺者増加(2008/3/21)
オレゴンの自殺幇助4人に1人はウツ病や不安症の可能性(2008/10/11)
オレゴンの自殺幇助ほぼ全員がホスピス・ケアを受けていた、という怪(2009/3/20)
OR州の「尊厳死」:97%にC&Cが関与、たった20人の医師がせっせと処方(2010/3/11)
OR州の尊厳死法は「陰謀と操作」と医師団体から批判(2010/3/26)
オレゴン州の尊厳死法、セーフガードは機能せず(2010/8/17)

WA州とOR州における尊厳死法の実態(2009/7/6)
WA州とOR州の2009年尊厳死法データ(2010/3/5)
2010.10.26 / Top↑
2006年10月号の「介護保険情報」で、連載「世界の介護と医療の情報を読む」に
ハリケーン・カトリーナでの高齢者の”避難死”とその周辺について書きました。

メモリアル病院での“安楽死”事件について書いたついでに、以下に。


ハリケーン・カトリーナ 被害から1年


移送バス待ち、車いす死

こんなに虚弱な母親を動かすのは酷だ。避難はするまい──。

寝たきりで胃ろうの91歳の母親を前に、息子はそう判断した。ハリケーンが刻々と近づく去年、8月28日のことだ。ニューオーリンズ市からは避難命令が出ていたが、親子は自宅でハリケーンをしのいだ。しかし、市の堤防が決壊。水が玄関ドアに達した30日、2人は警察によって無理やり避難させられる。ところが行けと指示されたコンベンションセンターにたどり着いても、避難民があふれるセンターには食料も水も医薬品もなかった。

外で移送のバスを待つように言われた親子は、炎天下でバスを待った。2時間で来るはずのバスは、その後24時間近く来なかった。やがて母親は車いすに座ったまま息絶える。

ゆさぶり、胸を押しては、生き返らせようと必死に母親を呼び続けた息子は、バスが何台も来た後も4日間遺体に寄り沿い、そばを離れようとしなかった。遺体を覆ってあげるようにと誰かがポンチョをくれた。とうとう銃を突きつけられて離れろと命じられた時、母親の名前と自分の携帯電話の番号を書いた紙を遺体のポケットにしのばせた。それでも、その後母親の遺体が運ばれた先を見つけるのに2カ月かかったという。

 建物の外で車いすにぐったりと座ったまま亡くなった老母の姿は、当時全世界に報道されてハリケーン被害の象徴となった。

が、1年近く経ったこの日、市と州を訴えた息子は言う。「母はハリケーンの象徴などではない。怠慢の象徴なのです」(AP/8月17日)
 
ハリケーンより過酷な避難

当時、多くの高齢者・病人・障害者は他の州の施設に移るため、ルイ・アームストロング・ニューオーリンズ国際空港に集められた。9月2日の様子をニューヨークタイムズが生々しく伝えている。

「兵士から水をもらう人がいる。ストレッチャーに横たわり痙攣している人もいる。黙って唇を噛み泡を吹いている精神病患者。患者がひっきりなしに運び込まれてくるドアから逆にさまよい出ようとする人。死んでいく人たち。デルタ航空のカウンターのそばでは、車いすの遺体に青い毛布がかけてあった」(05年9月3日)。この記事の中でも、空港までの搬送途上で亡くなった人がいたことが既に触れられていた。

ヒューストン・クロニクル紙には、テキサス州とルイジアナ州を中心に高齢者の避難状況・被害状況をまとめた記事がある(05年10月10日、11月28日)。

それによると、両州の400のナーシングホームから3万人以上がバス、貨物飛行機、ヘリコプターで州外の施設に運ばれたが、水・食料・医薬品の不足、付き添い職員の不足、エアコンのない長時間の輸送、長時間の座位の負担など、避難そのものの過酷さから体調を崩したり命を落とした高齢者も少なくなかった。テキサス州のナーシングホーム入所者の収容先は少なくとも10州に散らばっているが、この段階では誰がどこに収容されたのか、まだ半数も把握されていない。

同紙の独自の調査によると、避難計画がなかったナーシングホームが多数で、あっても不十分な内容のまま放置されていた。また全体としてナーシングホームの避難を統括指揮する動きがなかったことも、避難の混乱に拍車をかけたとしている。

記事では「避難死evacuation death」という言葉を使い、「シェルターで、路上で、州外で起こったナーシングホームの外での避難死については、報告されない可能性がある」と書いている。
 
保健・福祉省の調査報告

こうした避難による高齢者被害を裏付ける報告書を、先ごろ保健・福祉省総査察官がまとめた。メキシコ湾岸5州で連邦政府と州政府の規定を満たす避難計画を整備していた20ナーシングホームを調査したところ、ナーシングホームから避難した高齢者の方が、避難しなかった人よりも苦しんだという結果が出た。「高齢者にとって避難は肉体的にも精神的にもストレスが大きく、結果として避難が必ずしも最善の行動ではない」と20のホーム全ての責任者が声をそろえたそうだ。

報告によると、避難で最も苦労したのはハリケーンの上陸前に入所者を避難させた施設であり、最も深刻な問題は搬送だった。契約していたバスは来ず、あちこちから借り集めた車両にはエアコンがなかったり、途中で故障した。予定外に長時間となった搬送で食料と水は不足し、薬や酸素、排泄介助用品は持って出ていなかった。付き添う職員も充分ではない中、入所者には脱水、血圧の上昇、尿路感染などが起こった。

報告書は、メディケア・メディケイドの給付を受けるナーシングホームはただ避難計画があるというだけではなく、25の重要事項について内容を細かく整備しておく必要があると述べ、またナーシングホームに州や各地域の災害対策部局と密接な連携をとるよう勧告している(The New York Times 8月18日)。

自衛手段を講じる施設

ナーシングホームを含むニューオーリンズの医療機関の現状については、ロイター通信が報告している(8月30日)。それによると、いまだに3分の2が閉鎖状態にあるが、再開した施設ではバックアップの自家発電を増やしたり、新たに井戸を掘るなど自助努力を行う一方で、他の施設に避難者の受け入れを依頼したり、入所者・患者を空輸する必要に備えてヘリや飛行機を契約するといった手段を講じているようだ。

しかし、どこの施設でも去年の記憶は生々しい。入所者の重症化も進む。「連邦政府は早めに避難しろというが、州からは動かない方がいいと言われる」と、現場の思いは複雑だ。

費用補償問題の指摘も

一方、Medical News TODAY というサイトは、今年2月4日の記事で、ニューオーリンズの8割のナーシングホームが入所者の避難に積極的でなかった理由は、万が一ハリケーンが逸れた場合に避難費用の払い戻しが受けられない恐れがあったためだと指摘。同時に、無保険者を含む被害者・避難者を受け入れ、治療・ケアしたものの、費用補償のメドがはっきりしない病院の困惑を報じている。

また、一見すると直接の関係はなさそうだけれども、一緒に読むとちょっと気になる記事がSENIOR JOURNAL.COM(9月5日)にある。去年の保険会社の調査で民間のナーシングホームの入所費が前年より5・7%上がり、1日平均200ドル以上となった。このままではメディケア・メディケイドへの負担が大きいので、個々人で介護保険に加入するよう国民に働きかけるべく、議会が誘導策を考え始めたという。

この記事を読んだ後、もう一度ハリケーン関係の記事を読み返すと、保健・福祉省の調査報告書、トーンがどこか「他人事」めいてはいないか……。そして、その後さらにMedical News TODAYの記事に戻ると、やっぱり思う。だいじょうぶかいな……。

「医療費も介護費用も個人の自己責任。災害時は施設の自己責任」のままでは、冒頭の車いす死を「行政の怠慢の象徴」と言われても、そりゃ、仕方ないというものじゃなかろうか。

「介護保険情報」2006年10月号 p.94-95




なお、当時、メモリアル病院の安楽死事件と並んでニュースになっていたのが、
ナーシング・ホームの職員が寝たきりの高齢者を多数、置き去りにして溺死させたという事件でした。
経営者夫婦に有罪判決(たぶん過失致死?)が出たと記憶しています。
2010.10.26 / Top↑
10月19日、ロンドンのRoyal Geographical Societyにおいて、自殺幇助合法化に関する討論会が開かれ、反対側が、Oxfordの前ビショップのRichard Harris、Alex Carlile 卿と、Patric Paddy Stone 卿、賛成側がロンドン大学経済学部の法学教授Emily Jacksonとお馴染みDebbie Purdyさん、それから哲学者のMary Warnock。 
http://www.indcatholicnews.com/news.php?viewStory=16968

WarnockはGuardianでも、この前「弱者へのプレッシャーがかかる」と反対のスタンスで報告書を書いた政策研究所のCristina Odoneと、激しいデベイトを繰り広げている。なにしろ、「認知症患者には死ぬ義務がある」と平気で言う人だから。
http://www.guardian.co.uk/society/2010/oct/23/assisted-dying-mary-warnock-cristina-odone

4月にスイスへ行って自殺した64歳の男性(すい臓がんと糖尿病があった)の件で、警察が自殺幇助容疑の捜査を開始。:Dignitasについて「自殺幇助センター」とこの記事は書いている。Dignitasはよく「クリニック」と書かれているけど、運営しているMinelliは弁護士。提携医は6人いるらしいけれど、常駐の医師はおらず、クリニックではない。Dignitasの公式サイトにもクリニックだとは書かれていない。ただ、そういうところで、どうして毒物を保管したり扱えるのか、私はずっと不思議なんだけど。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-somerset-11604892

障害のある子どもは、ない子どもに比べて虐待のターゲットとなる可能性が7割も高い。親や養育者への啓発を、と豪の障害者アドボケイト。
http://news.smh.com.au/breaking-news-national/disabled-children-targets-for-abuse-mp-20101025-16zvc.html

Bad CrippleことWilliam Peaceのブログによると、NYで71歳の母親が31歳の脳性マヒの娘を連れて無理心中。自分が末期がんと診断されたことが理由らしい。FENの自殺指南書が見つかったとのこと。FENの直接の関与については不明。「自殺のための情報よりも、必要なのは支援。障害のある人には必要な介護を得る権利がある、という認識」とPeace。
http://badcripple.blogspot.com/

米国医師会新聞の記事で、06年に一時的であれメディケアでナーシング・ホーム等の介護サービスを利用した人は全体の3%の220万人なのだけど、費用でいうと全体の5%になるのだそうな。:でも、先端医療を受けた人の人数と金額のパーセンテージって、一体どういうことになっているのだろう? 3%の人で5%の金額よりも、はるかに圧倒的に少ない人数で金額が圧倒的に多いんじゃないのかな。あ、それとも、そういう医療は自腹の人だけで、メディケアでは最初から受けられないのか。
http://www.ama-assn.org/amednews/2010/10/25/gvbf1025.htm

小山エミさんのブログ、「消極的義務」の倫理――哲学者フィリパ・フットとその影響。:すごく勉強になった。功利主義のいかがわしさって、白人知的エリート男性の傲慢とどこかでつながっているような気が前からしていた。それはTH二ストにも通じる気がするんだけど、ちゃんと説明できない。
http://macska.org/article/280
2010.10.25 / Top↑
9月11日、カトリーナの上陸から13日後に、
病院から引き上げられたのは45の腐乱した遺体だった。
警察の捜査では、24人に安楽死が行われたと判断されたが、
立証可能なのは目撃証言がある7階の4人のみと考えられた。

約一年後のPou逮捕の翌日、Foti地方検察局長は
「これは安楽死ではない。明らかな殺人だ」と。

Everett氏の未亡人はTenet, LifeCare, Pouその他を相手取って
ロングフル・デス訴訟を起こした。

「誰があの人たちに神を演じる権利を与えたというの? 一体だれが?」

8月31日にCookがモルヒネ投与を看護師に指示した女性患者のカルテには
午後2:10から3:35の間に15ミリのモルヒネを7回投与されたと記されている。
それまで女性が苦痛除去の目的で投与されていた7倍の量になる。
しかし、それ以前に既に投与されていたことや末期がんだったことから
Cookの関与したケースは因果関係が立証できないとされ、立件が見送られた。

LifeCareの7階に最後に残った9人については
カルテ、解剖報告、毒物検査の結果を中立の立場で検証した
3人の専門家のうち2人が「殺人」と断定。

「それまでの数日間に渡って被災状況を生き延びた患者たちが、
1つのフロアで3時間半の間に毒物中毒で死ぬというのは偶然を超えている」

PouらがCBSの人気番組“60 Minutes”に出演し、
安楽死ではなかったと主張した直後、米国医師会は声明を発表した。

「米国医師会はハリケーン・カトリーナ被害のなか、
自らを犠牲にし、素晴らしい仕事を成した多くの英雄的な医師や医療職を誇りに思う」

(記事には、この後、さらに裁判での諸々が描かれていますが、疲れたので省略)

           ――――――


この記事を読んで、押さえておきたいのは、

・“安楽死”はあった。

・“安楽死”させられた患者の中には、
医師や看護師が主張するように「そこから助けてあげるべき苦痛」を
感じていなかった人たちが含まれていた。

・一旦カテゴリー3と分類されてしまうと、カテゴリーの方が独り歩きをし、
個々の患者が実際にどういう状態にあるかという事実の把握や丁寧なアセスメントが
おろそかになってしまう可能性。

・7階がLifeCareという外部の会社にリースされていたことが、
避難を主導したメモリアル側の対応を巡って事態を複雑にしたこと。

・特にそのフロアが重症者ケアに特化した病棟であったことが、
潜在的な意識のレベルで何人もの人の判断に影響したのではないか。

Pou医師の言葉に見られるように、
「LifeCareの患者はどうせ意識のない重症患者」という先入観が
メモリアルの医師らにはあったのでは?

・メモリアルのICUの巨漢の患者Scottが
Day 4の午後9時になって無事に避難させられた事実は大きい。

もしも彼が入院していたのが7階であったり、
Day 3に、まだメモリアルのICUに残されていたとしたら
Scottにも“安楽死”させられるリスクはあった。


その他、頭に浮かんだ疑問としては

・Pouから話を聞いた看護師が、戒厳令で軍が命じたことだと誤解したように、
混乱状態の中、多くの人が事態を正しく把握せず行動してしまったことが
1つの要因になったのでは? 

Pou医師自身も自らの信念によって行動したというよりも、
むしろCookから方法を教えられた際に、Pouは
病院上層部が方針決定し実施の指示を出したのだと誤解したのでは? 

・確固とした信念があってやったことではなくとも、
一旦その行為が公になって自分の行為を正当化する必要が生じると、
メディアと世論が求める英雄的役割を引き受けることが最も自然な(有利な?)選択となり、
Pouが災害時の医療職免罪アドボケイトを自ら引き受けたのだとするなら
それは射水の呼吸器外し事件と構図が全く同じなのでは?

・混乱状態の中で、人が様々な状況把握を自分なりにする際には
その人がもともと持っている偏見や思いこみが、
そこに重大な偏りを産むのではないか。

例えば「置いていく」と聞かされた看護師が
「黒人がやってきたら」この人たちはひどい目にあわされる、と考えたように。

例えばCookがDNRの患者は失うものが最も少ないと考えたり、
PouがLifeCareの患者はどうせ意識がないと思い込んでいたように。

・そう考えてくると、この事件の背景にあった
医療経営上の力関係(株式会社経営でのフロア・リース)
重症者ケアに対する、一部医師らの「資源の無駄」との捉え方、
重症者に対する「どうせ意識などない」との無知と偏見、
「痛みから助けてあげる」と痛みも不快もない患者が死なされていくこと、
「看護師を他で使える」など医療側の都合が「患者のため」と言い替えられること……

安楽死合法化議論に潜む危うさの多くが、
この事件で“安楽死”を起こしてしまった要因として存在しているようにも――?
2010.10.25 / Top↑
Day 4 (9月1日 木曜日)

Tenet社が何台ものヘリコプターを手配。
軍のヘリや警察も来て、救助活動が一気に活発化する。
が、ニューオリンズの治安は悪化する一方で、
警察は病院の警備を午後5時で打ち切るとして、
それまでに患者の避難を終えるよう病院に通知した。

この頃 Cook は洪水で家に取り残されている息子を助けに行くため、
病院を去る準備をしていた。病院を出る前に、彼は2階で
Pou とカテゴリー3の患者の扱いについて相談している。

その中には、まだ7階に残っている9人も含まれていた。
Cook が Fink に語ったところでは、彼がこのとき考えたのは

・LifeCare の患者はもともと「慢性的な寝たきり状態」で、この暑さで参っているだろう。
・メモリアルのスタッフは疲れていて、とても今日中に9人を下に運べない。
・外から協力が得られない限り、そんなことは無理だ。

Cook は Pou に、モルヒネとベンゾジアゼピンの配合を教え、
それで患者は「眠りに落ちて死ぬ」と教えた。

その後、7階の看護責任者の Mendez は、
取り乱した様子の Pou から相談を受けたという。

LifeCare の患者は助からないと思う、と Pou が言い、
その通りだと思う、と Mendez が答えた。

言い淀んだ後で、モルヒネなどを注射することが決まったのだと Pou が打ち明け、
それは LifeCare の患者だけか、と Mendez が問い、
そうではない、どこまで広がるかは分からない、と Pou。

Pou はさらに、LifeCare の患者の責任はメモリアルに移ったので、
LifeCar eの看護師は関わらず立ち去るように、と言い、Mendez はそれを
町に戒厳令が敷かれていて、Pou は軍の命令に従って行動しているのだと誤って解釈した。
(ただし、これは Mendez 証言。Pou はこの会話を否定している)

もう一人、7階の責任者 Robichaux も
他の LifeCare職員と共に Pou と協議をしたと証言している。
彼女の記憶では「安楽死」という言葉は出なかった。
「安楽に comfortable」という言葉はあった。

LifeCare の患者は「意識がないか低いか、どっちにしてもそういう人たち」だと Pou が言い、
Robichaux がそれは違う、と患者個々の状態を説明した。

今朝も朝食を持って行くとジョークを飛ばした61歳の男性患者 Everett氏は
380ポンドの巨漢で、11年前に脳卒中で四肢まひとなったが、
いつもユーモアのセンスがあり前向きだった。
腸の手術のために入院してきただけで DNR でもない。
今朝もめまいがする他は異常もなく、
「置いて行くと言われてもそうはさせないでくれ」と頼んでいた。

それを聞いた Pou が Oh, my goodness と答えたのを LifeCare職員が記憶している。
この会話にはメモリアルの看護師2名と LifeCare の看護師2名も加わり、最終的に
Everett は重すぎて下に運べないとの結論に達した。

(当時ボートやヘリへの患者割り当てを担当した職員は
自分たちには Everett の存在は知らされていなかった、
知っていたら、運び出す手はあったと証言している)

避難させられない事情を Everett 本人に説明に行くように
Pou に命じられたのは LifeCare の看護師の Gremillion だった。
午前11時、Gremillion が「自分には出来ない」と泣いているのを見た上司の看護師が
Robichaux に確認に行くと、「ウチの患者は避難しない。置いて行かれる」との答えだった。

Pou がモルヒネの瓶を沢山7階に持ってきた。
LifeCare の薬剤師がさらにモルヒネとミダゾラムを追加。
Pou と2人の看護師が薬液を注射器に吸い取るのが、
LifeCare の幹部職員 Kristy Johnson に目撃されている。
それから Johnson が3人を Everett のいる7307号室に案内。

医師があんなに緊張しているのを見たことはなかったと
その時の Pou について Johnson は後に証言している。
歩きながら「めまいを良くする」薬を打つのだと Pou は言い、
部屋に入ってドアを閉めた。

Johnson は7階を案内して歩きながら、Pou とメモリアルの看護師が注射をする間
患者の手を取り、お祈りをした。Pou は患者に「気分のよくなるお薬をあげますね」と言っていた。

Johnson はメモリアルの看護師一人を7305室に案内した。
その看護師が2人の高齢女性患者に注射し、Johnson はやはりお祈りをした。
Johnson が後に証言したところによると、その2人は意識があり容態も安定していた。

2階のロビーにも、カテゴリー3の患者がまだ残っていた。
お昼ごろ、Pou が注射器を手に現れ、その何人かに
「気分が良くなる薬を」と言っているのを聞いたと証言するのは King医師。
King ともう一人、病院内で話が出るたびに安楽死に反対し続けていた医師が
何が行われようとしているかを知り、この時、病院を去る。

2階には Pou を含め3人の医師と数人の看護師だけが残った。
カテゴリー3の患者は避難させないと Pou に聞かされた看護師の一人 Thiele は
みんなが立ち去った後で病院に黒人が武器を持って入ってきたら、
この人たちはどうなるのかと考えてゾッとしたという。
厳密にはこれは「犯罪」だとも知りながら、彼は自発的に手伝い、
窓際の4人の点滴にモルヒネなどを注入した。
 
ICUの看護師で倫理委のメンバーでもある Wynn は
安楽死が行われているとの噂を聞いてはいたが、
自分たちがやっていることは患者を楽にするための与薬だと考えていた。
あの時、スタッフにしてあげられることは「安楽と平穏と尊厳」だけだった、
「できるかぎりのことをしたんです。あの状況では正しいことだったのです」
また「あれが安楽死だったとしても、毎日の勤務でやっていないことでもありません。
ただ、別の名前で行われているだけで」と、Wynn は Fink へのインタビューで語っている。

注射されても死ななかった患者もいた。体格のいい黒人男性だった。
Thiele はモルヒネを追加し、手をとって早く死ねるように祈ったが死ななかった。
Wynn の記憶では、この男性は機械室の壁の穴から避難のヘリコプターへと運ばれていったという。
Thiele の記憶では、みんなでタオルで口をふさいで死なせた、という。

午後9時。
Cook医師が前日2階で死んでいると間違えた巨漢の Rodney Scott が
車いすのままヘリコプターに乗せられていった。生きて病院を出る最後の患者だった。
2010.10.25 / Top↑
Day 3  (8月31日 水曜日)

カトリーナの上陸から48時間。メモリアルの補助発電機が止まる。
7階ではバッテリー作動となった7人の呼吸器のモニターからアラームが鳴り響いた。
約30分後にメモリアルの看護師がやってきて、急いでヘリパッドまで連れてこいと告げる。
呼吸器をつけたまま患者はボランティアによって運ばれた。

80歳の男性患者に付き添った看護師は1時間近くアンビュー・バッグを押し続けた。
通りかかった医師に、もう手遅れだ、この患者に使う酸素はない、と告げられて中止。
看護師は患者を抱き、息を引き取る間、頭をなで続けた。

この頃、Pou医師も2階で看護婦と交代でアンビュー・バッグを押していた。

その朝、医師と看護師は、撤退を迅速化すべく
7階も含め残った100人以上の患者を階下に移し3つのグループに分けることを決定。

最初は、自力で起き上がったり歩いたりできる患者で、避難では最優先。
次のグループが、移動に助けが必要な患者。
最後が重症だったりDNR指定になっている患者のグループ。

このグループ分けに特に担当者は決まっていなかったが
Pou医師は看護師2人と一緒に率先してこの仕事を担った。
看護師がカルテを読み上げ、Pou医師が決めたカテゴリーを書いた紙が
患者の胸にテープで止められた。

Pouも同僚にもトリアージについて研修を受けた経験はなく、
9つあるトリアージのプロトコルのいずれかを用いたというわけでもなかった。
またトリアージの方法論そのものがいまだに確立されているわけでもない。

最初のグループの患者は救急の出入り口ランプに(エア・ボートが来ていた)
第2グループは2階の駐車棟へ続く機械室の壁穴の近くに集められた。
最後のグループは2階ロビーに。そこでおむつ交換や水分補給のケアは続けられたが
点滴や酸素は少なかった。

マットレスに病人を乗せて洪水の中を運んできたり、泳いできた怪我人も
治療はできないと追い返された。それに抗議する医師もいたが、幹部医師Cookは
外部の人間が病院に入り込んで、薬物や貴重品を略奪することを警戒したという。

Cook医師は肺疾患の専門医。07年12月のFinkのインタビューで、
この日、死なせる目的で患者へのモルヒネを投与したことを告白している。

患者が階下に移されたことを確認するため、
Cookは心臓病のある身で熱気のこもった階段を8階まで上がり、フロアを見回った。
ICUに体重が200キロほどもありそうな進行がんの女性患者(79)が残っていた。
安楽ケアのみを受けており、既にモルヒネで意識は落とされていた。

ここでCook医師が考えたことは3つ。

① 心臓病のある自分は2度とここには上がってこれない。
② 患者は重すぎて運べない。
③ この患者のためにICUに残っている4人の看護師は他で使える。

その患者自身は鎮静されて不快感を感じているわけではなかったが
Do you mind just increasing the morphine and giving her enough until she goes?
(亡くなるまでモルヒネを増量してくれないか?)と看護師に指示し、
Cookは時刻を白紙にしたままカルテに「死亡を宣告」と書き入れ、
サインしてから階下に降りた。

インタビューでは次のように語っている。
「後悔はありません。自分のしたことに気が差したこともありません。
投薬したのは早く片付けるためでした(get rid of her faster)。
看護師を他のフロアに行かせるためです。患者の死を早めたことに相違ありません」

当時、救助はなかなか進まず、患者は弱っていく一方だった。
Cookにとっては、患者の死を早めるか、見捨てていくかの絶望的な状況に思われたという。
「もしも置き去りにするのなら、死なせてやるのが人間的だろうという事態だった」

2階ではPou医師らが治療を指揮していた。
ICUの患者Rodney ScottがCookの目についた。
心臓疾患で何度も手術を受けた巨漢だ。自力歩行が出来ない。
300ポンドを超す巨体が壁の穴につっかえるかもしれないので
避難は最後にしようということになっていた。
汗にまみれ身動きもせず横たわっているので、
死んだのかと思ってCookが触ってみたら、寝返りを打ち、Cookの顔を見て
「私は大丈夫だから、先生、他の人を診てやって」と言った。

頭で考えてはいたが、こんなにたくさん人がいるところではできない、とCookは思った。

後にCookは「目撃者が多すぎるから、やらなかった。それが神に誓って真実だ」と
Finkへのインタビューで語っている。

Deichmann も他の医師からDNR患者の安楽死について意見を求められたことを
06年に出版した回想録に書いている。誰も安楽死させる必要はない、
DNR の患者を最後にしたにせよ全員が救助されるのだから、計画通りで、と答えたという。
(回想録に書かれた医師はその会話を否定している)

その晩、町の治安が悪化し、救助が難航しているとの噂が流れる。
2階では、ポータブル発電機の弱い明りの中、
医師も看護師もほとんど睡眠もとれないまま3日ぶっとおしの勤務を続けていた。
2010.10.25 / Top↑
Day 1 ( 2005年8月29日 月曜日)

カトリーナが迫りくるニューオリンズでも最も標高の低い地域に建つメモリアルには、
200人以上の患者と600人の職員を含む2000人近くが避難していた。

午前4:55、電気が断たれ、病院の補助発電機が作動。
医療機器のための発電であり、空調システムは機能を停止する。
しかし夜には町を浸した水も引き、メモリアルにも被害はあったものの
病院機能を維持したまま嵐を乗り切ったかに思えた。


Day 2 (8月30日 火曜日)

カトリーナが通過したばかりの朝、通りに濁った水があふれ出てきたのを見て、
幹部は病院閉鎖を検討する。

病院機能の命綱ともいえる緊急用の送電スイッチが
かろうじてグラウンド・レベルを上まわった高さにあり、
浸水すると病院機能が停止する恐れがあった。

病院の緊急時対応マニュアルは完全な停電まで想定しておらず、
医療スタッフのチーフは当時病院に不在だったため
医療部長の Richard Deichmann が医師らを率いた。

午後12:28、病院幹部が
同じTenet社系列のニューオリンズ外の病院にメールで助けを求め、
180人以上の患者をさせる必要があると訴える。

看護師の研修室が対策本部となり、
20数名いた医師の多くと看護責任者らが Diechmann の元に集まる。

NICの乳児、妊婦、ICUの重症者が最優先だとの意見はすぐに一致した。

それから Deichmann は、病院の災害時計画にはないことを提案した。
DNR(蘇生処置拒否)の患者の避難は最後にしてはどうかというのだ。

DNRは、患者の心臓や呼吸が停止した際に蘇生を不要とするものであり
「ターミナルで不可逆な」症状の患者に法的に認められるリビング・ウィルによって
あらかじめ生命維持措置の差し控えまたは中止を希望することとは異なる。

しかし Deichmann が Fink に語ったところでは、
最悪の場合にもDNRの患者は失うものが最も少ないのだから
最後にするべきだと考えたのだという。

もっとも医師らは、この時の決定をそれほど重視していたわけではなかった。
数時間の内には救助が来て全員が無事に避難できると誰も疑っていなかったからだ。

しかし、実はこの時、協議から漏れている人たちがいた。

数年前からメモリアルの7階はLifeCare Hospital of New Orleansにリースされており、
長期的に24時間介護と集中医療を要する重症患者のフロアとなっている。
Life Careは呼吸器をつけた患者のリハビリテーションに力を入れ、
呼吸器外しや在宅復帰に取り組んできた。ホスピスではない。

高齢患者や重症障害のある患者も死なせない独自の方針を貫いている。
これについては以前から医師の間で議論があり、
「望みのない患者に資源の無駄遣いだ」との批判もあった。

82床で、独立した運営体制で独自に看護師、薬剤師を雇っているが
医師の多くはメモリアルとの兼務。

当時入院していた52人の多くは寝たきりで7人が呼吸器依存。
停電すれば命が危ういが、Deichmann が招集した会議で
7階のLifeCareの患者の避難は話題にならなかった。

午後になり、病院に隣接する駐車棟8階屋上にコースト・ガードの救援ヘリが到着。
まず病院8階のICUから患者が車椅子で2階に下ろされ(動いていたエレベーターは1基)
ストレッチャーに乗せ換えた上で、機械室の壁に開けた穴から駐車棟へ移動。
そこから駐車棟屋上の8階へと運ばれていった。

当初、7階のLifeCareのスタッフは
自分たちの患者も退避計画に含まれていると安心していたが、
テキサスのLifeCare本部と連絡を取ると、
LifeCareの患者を一緒に避難させてもらうには
メモリアルの運営母体Tenetの了解が必要とわかる。その交渉が難航した。
(Tenetの方ではLifeCareが退避の申し出を何度も断ったと証言している)

暗くなる頃には、メモリアルが最優先と決めた患者全員が避難を完了。
メモリアルの患者は187人から130人に減った。

LifeCareには依然として52人。
「Tenetと電話している。朝にはうちの患者も」と本部からのメールが残っている。
2010.10.25 / Top↑
この疑惑に関する05年当時のCNNニュースを翻訳紹介してくださっている方のブログ記事。

カトリーナ直撃の病院で重症患者に安楽死?2005.10.13(2006/9/23)
ニューオリンズから、アメリカを学ぶ


当時、私は英語ニュースをチェックし始めたばかりで、
まだ今のような明確な問題意識を持っていない頃だったので、
Pou医師について、最後まで残って患者を思いやった素晴らしい医師だと捉えたまま
「介護保険情報」で連載記事を書きました。(いま読み返してみると忸怩……)

調査報道を守ろうと奮闘している貴重なネットメディアとして
当ブログでも何度か記事を紹介したProPublicaが、去年、
このメモリアル病院の事件を詳細に調査して以下の記事を書いた時、

メモリアル病院では1つのフロアだけが外部の会社に貸し出されており
7階が日本でいうところの「療養型病床」とか「回復期病棟」に当たるものだったことが、
この事件では大きな要因であったらしいことに特に大きな興味をひかれつつ、
余りにも長大な記事だったので、ひるんだままになっていました。

すると、今年に入ってProPublicaがこの記事でピューリッツァ賞を受賞。

たまたま先日、安楽死のシンポに行って、
やはり何かを論じるには、まず基本的な事実関係をきちんと知ることが
なにより大事だと痛感してきたこともあって、

(このシンポで、あの射水の呼吸器外し事件が
安楽死正当化の資料として使われていたのには、ちょっと唖然としたし)

「心やさしい医師が極限状態の中、患者の苦しみを見かねて安楽死させた」と
つい単純化して捉えてしまいがちなメモリアル病院の事件の事実関係を
この長大な記事「メモリアルでの死の選択」から取りまとめてみることにしました。

Deadly Choices : Memorial Medical Center After Katrina
ProPublica, August 27, 2009


まず事件の概要を。

ハリケーン・カトリーナ襲来時、ニューオリンズのメモリアル病院では
電気も水道も断たれ、院内の温度は40度を超える過酷な状況下にあった。

しかし、事後、
メモリアルの臨時遺体安置所から引き上げられた遺体の数は45。
ニューオリンズの同じ規模の病院と比べると、突出して多かった。

1年後、4人の患者の死に関連してAnna Pou医師と看護師2人が逮捕される。
しかし頸部癌を専門にする外科医、Pou医師(事件当時49歳)は、
自分は患者が苦しみ続けないように help しただけだと主張、
陪審員は起訴しなかった。

その後Pou医師は、災害、テロ、パンデミックなど緊急時の医療職の行為は
民事訴訟の対象から外され、守られるべきだと訴え、実際にルイジアナ州では
Pou医師も直接かかわって、そうした法律が制定されてきた。

また、同医師は、災害時にはインフォームドコンセントはとれないとし、
医師は蘇生不可(DNR)の患者と最も重症度の高い患者の避難を最後に回すべきだ
とも主張している。



しかし、あの数日間に、世の中から孤絶したメモリアル病院では何があったのか、
その詳細は今だに明らかにされていない。

記事の著者 Sheri Finkは、以前は非公開だった記録を入手するとともに
メモリアルでの出来事やその後の調査に関わった何十人もにインタビューを行い、
それによって、何が起こったかを検証する作業を重ねてきた。

そこで明らかになったのは、
致死薬の注射の判断には3人以外の医療職も関わっていたこと。
注射されたのは、これまで思われていた以上の人数の患者で、

モルヒネまたは鎮静薬またはその両方を、本格的な避難が始まった後になって、
注射された患者が少なくとも17人いた可能性。

その中には、あの状況下では助からなかった可能性のある極めて重症の患者もいたが、
注射時に死に瀕していたわけではない患者も含まれていた。

Finkは昨年、Pou医師の自身にもインタビューを行っている。
ただしPou医師は個々の患者について語ることを拒否。
カトリーナに関連した自らの講演にもジャーナリストらの出席を認めず、
裁判所に対して、この事件の5万ページにも及ぶ調査報告書の公開差し止めを求めている。
2010.10.25 / Top↑
NZの介護者支援議論で、家族介護者の交通機関利用は無料に、という声が出ている。
http://www.stuff.co.nz/manawatu-standard/news/4267298/Carers-should-get-free-ticketa

英国Backinghamshireには約44000人の介護者がおり、そのうち約500人が5歳から18歳の若年介護者。:日本でもそろそろ調査くらいはやった方がいいのでは?
http://www.mix96.co.uk/news/review.php?article=299108

大ウツ病に遺伝子治療がたいそう有望なんだと。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205509.php

癌たんぱくの解明が進んで、いろいろな癌のワクチンが有望になってきた。:それが全部できたら、理想的には全身の臓器の数だけ癌予防ワクチンを打つことになるの????
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205453.php

CYなんとかっていう遺伝子が個々のアルコール感受性に関係しているらしい。:ってことは、将来的にアル中も遺伝子治療で……?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205224.php

サブ・サハラ地域でマラリアの感染の媒体となっていた蚊には2つの系統があったのだけど、遺伝的に進化を遂げ、今や全く別の種となったらしい。:前にNHKで立花隆が世界中の癌研究の最前線を歩く番組で、治療の方が進めば、癌の方もそれに負けじと進化しているという話があったのを思い出した。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205599.php

地震後の復興ままならぬハイチでコレラが流行。
http://www.nytimes.com/2010/10/23/world/americas/23cholera.html?_r=1&th&emc=t
2010.10.25 / Top↑
以下の「作業療法研究室」というブログによると、
10月27日は「世界作業療法の日」なんだそうだ。

http://blogs.yahoo.co.jp/editorasiajot/32495371.html

娘を通じて様々な医療の職種の人たちと出会ってきた中で、
OTさんは医療の中で患者の“生活”に最も近い職種の1つだと私は感じていて、

娘の施設でも、もちろん個々人のキャラはあるとしても、
リハ職の人たちが活躍できて存在感が大きくなっている時というのが
そこで暮らしている入所者の生活が最も生き生きと営まれていて、
そこで働いている多職種の人たちの連携も関係も一番上手くいっている状態という気がする。

(もうここ数年、それを制度が一番邪魔していることにムカついてならない)

昔、ほんのちょっとの間
各領域で活躍しているOTさんを取材して紹介するシリーズを
「OTジャーナル」でやらせてもらったことがあって、その仕事でも、
やはりOTさんの視点が医療の中にあるということは大きいと感じたし、
地域と医療を繋げるポテンシャルの大きさも毎回、痛感した。

そんなこんなで、OTさんをはじめセラピストの役割が
もっと認知・活用されてほしいと常々願っている。

早い時期からちゃんとポジショニングしてもらえるかどうかで、
その後の身体の変形はずいぶん違うと思うのだけど、
小規模のディだとOTさんの関わりがないまま、
重症者がただバギーに座らされていたりする。

次の介護保険の改定で訪問リハの推進が論点になっているらしいので、
もっと地域に出ていけるように制度整備がどんどんされていくといいと思う。

「介護保険情報」10月号の特集「訪問リハを推進するために」の
日本作業療法士協会会長、中村春基氏のインタビュー
「地域に5割の作業療法士を配置し訪問リハなどを推進」によると、
訪問リハに従事しているOT協会の会員は1838人。
全会員数から休業者を引くと訪問リハに従事しているのは5%。

日本作業療法士協会は08年から「作業療法5カ年計画」を展開し
拠点整備と人材育成を通じて地域に作業療法士を配置する計画を進めているとのこと。

中村氏は、病院に5割、地域に5割という配置を目指すとして、以下のように語っている。

地域にはいろいろな方がいます。難病、うつ、発達障害、高齢者など。そうした中にあって、リハを行う作業療法士が介護保険と医療保険にとどまらず、障害を持っているすべての方にサービスを提供することを考えています。

……(中略)……

作業療法士は日常生活上の様々な障害に対してアプローチしますので、訪問リハのように身近なところにいることはとても重要です。

「介護保険情報」2010年10月号 p.13




また同じ特集の中のインタビュー
「地域での暮らしを支えるために言語聴覚士の活用を」で
日本言語聴覚士協会・副会長の長谷川賢一氏と理事の山口勝也氏が
失語症などコミュニケーションや嚥下障害の問題を抱える人への支援に
STが関わることのポテンシャルについて語っている。

例えば

摂食・嚥下障害については、終末期の方へのアプローチも大切であると痛感しています。状態が悪化していく中でも、安全で楽しみとなる食事ができるように、食事の形態や解除方法などの工夫を具体的にアドバイスできるのがSTです。

「介護保険情報」2010年10月号 P.17



この前のシンポでもそうだったのだけど、
安楽死や終末期医療の問題を議論する人の多くは、
なぜか在宅医療・訪問看護やリハ、介護にあまり興味を示さないように感じるのは
私の気のせいなんだろうか。

病院死と、医師にできること・できないことだけを念頭に
「苦痛がある」とか「ない」とかが議論され「安楽死の是非」が語られていくような気がする。
「口から食べられなくなったら死」についても同じ。

安楽死の是非を語る前に、
もっと興味を持つべきこと、知るべきこと、考えてみるべきこと、
まだまだいっぱいあると思うのだけど――。


関連エントリーとして、
以下のワークショップも、カナダ・アルベルタ大学の作業療法学科から。

「認知症の人の痛みに気付く」ワークショップ(2009/9/9)

こういう視点すらないまま痛みがあるなしを語り安楽死を語るより、
まずは謙虚に、こういう視点や姿勢から学ぶことを始めるべきでは? と私は思うのですが。
2010.10.25 / Top↑
まだ続いているオーストラリアの介護者週間の記事。「老親の介護をしている人たちは疲れ、孤立し、忘れられている」
http://www.abc.net.au/unleashed/40290.html

オーストラリア首都特別区が、介護者憲章を準備するとして、介護者らから意見募集。「介護者」には、孫の面倒を見ている祖父母も含まれるらしい。
http://www.abc.net.au/news/stories/2010/10/21/3044102.htm

豪政府、介護者戦略のための介護者からの意見募集のため、保健省からディスカッション・ペーパーが出ている。
http://www.fahcsia.gov.au/about/news/2010/Pages/TowardsaNationalCarerStrategy_18oct2010.aspx
http://national.carersaustralia.com.au/?/national/article/view/1977

米。介護施設での抑制は社会問題となり激減したものの、それに伴ってアラームが多用されるようになった。身体抑制こそしていないものの、アラームを取り付けられることにより精神的な抑制がかかっている事実に、そろそろ目を向けるべきでは、とMcKnightの介護ニュース。
http://www.mcknights.com/whats-the-buzz-the-unpleasant-sound-of-alarms-in-long-term-care-facilities/article/181358/

認知症ケアにどれだけゼニがかかるか、Lancetの論文。もとはアルツハイマー病協会の発表の数字。
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422%2810%2970257-X/fulltext?elsca1=TLN-181010&elsca2=email&elsca3=segment

アルツハイマー病の定義に神経学のあたりから見直しの声が出ているらしい。
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422%2810%2970223-4/abstract?elsca1=TLN-181010&elsca2=email&elsca3=segment

ProPublicaがまたやってくれました。ビッグファーマのプロモ要員に駆り出されている医師らのいかがわしさ。:ここの調査報道は、もうほとんど絶滅危惧種のジャーナリズムの中で健闘している。
http://www.propublica.org/article/dollars-to-doctors-physician-disciplinary-records
http://www.propublica.org/article/how-the-drug-companies-say-they-screen-their-speaker-docs

IT使った遠隔医療(テレ・メディスン)への期待と懸念。
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422%2810%2970261-1/fulltext?elsca1=TLN-181010&elsca2=email&elsca3=segment

英国60年ぶりの大幅予算カット。当然、福祉の諸手当も。
http://www.nytimes.com/2010/10/21/world/europe/21britain.html?_r=1&th&emc=th


12日にFellさんのコメントで教えてもらった「寄生獣」の最初の3巻を読んでみた。amazonを覗いてみたら、これ、英訳もされているんですね。

寄生獣というのは、人間の脳に寄生して全身を支配し、他の人間を捕食する生物のこと。この話、面白い。これをFellさんが直感的にピーター・シンガーに「読んでくれればいいのに」と思ったというのは、けっこう象徴的かも。これまでで特に面白いと思った個所を以下にメモ。

・物語は、地球上の誰かがふと思うことから始まる。「人間の数が半分になったら、いくつの村が焼かれずにすむだろうか……」「生物(みんな)の未来を守らねば………………」と。(そう、「みんなの未来を守るために人間を殺さなければ」と、生物みんなのために考えてくれる人が最近多くなりましたからね)

・寄生獣ミギ―と新一の会話:「わたしの『仲間』たちはただ食ってるだけだろう……。生物なら当然の行為じゃないか。シンイチにとっては同類に食われるのがそんなにイヤなことなのか?」「当たりめえだろ! 人の命ってのは尊いんだよ!」「わからん……尊いのは自分の命だけだ……。わたしはわたしの命以外を大事に考えたことはない」

・寄生獣ミギ―の言葉:シンイチ……『悪魔』というのを本で調べたが……いちばんそれに近い生物はやはり人間だと思うぞ……人間はあらゆる種類の生物を殺し食っているが、わたしの『仲間』たちが食うのは、ほんの1~2種類だ……質素なものさ。

・初めて出会った「仲間」との殺し合いに勝った際に、ミギ―が仲間と出会ったことよりも勝ったことにだけ意味を見いだし、その理由を自分の方が知識量で勝っていたからだと分析する(ミギ―はものすごい勉強家)のを聞いた新一の言葉:その時ゾッとしたんだ……情(じょう)のかけらもない、何て言うか……まるで昆虫と話しているような……

・ある寄生獣の言葉:フフフ……我々が管理するこの肉体なら140年は生きられるだろう……。(TH二ストさんたちは150歳まで生きられると言っていますしね。そういえば脳に寄生すると、その人間の肉体としての能力を寄生獣は総合的にエンハンスするんですよ。この話、ほんと良く出来てる)

・きわめて知性の高い寄生獣の言葉:…………人間ていうのは、どうしてこう合理性に欠けるのか…………。(そう。「合理性」というのは極めて重要なキーワード。合理的でないことは、ある種の人たちにとっては、単に無意味な感情論ですから)

・寄生した女性を訪ねてきた母親に、顔を見た瞬間に自分の娘でないことに気付かれて、その母親を殺した寄生獣が、なぜ見破られたのかを不思議に思っていう言葉:なぜ見やぶられたのだ……それもかなりの短時間に……(中略)わからん……この中年女に特別な能力があったとも思えん。(それを普通「愛」と呼ぶのですが、ある種の人にとっては、あ、ちがった寄生獣にとっては、「合理」と「能力」以外のものは無価値なので、理解できないのですね)

・で、3巻までの中で私が一番印象的だったのは、ミギ―のかけらが全身に散らばって、だんだん変っていく新一が、車にはねられた瀕死の子犬を公園で抱いていてやるところ。でも心臓が止まった瞬間にすっと興味をなくし、無造作につまみ上げてごみ箱に投げ捨てるシーン。かわいそうだと恋人の女の子に責められて「かわいそうったって……死んでるんだぜ?」「だって……だからって……」「もう死んだんだよ……死んだイヌはイヌじゃない。イヌの形をした肉だ」(もう死んだから、死んだ人は人じゃない、とは、なかなか思えないのが人の情というものなんだけど、情は合理的でないですから、死んだらもう肉だとか資源だと捉えるのが正しい合理性というものですよね)

2010.10.21 / Top↑
9月17日の補遺で
Guardian紙に Global Development というコーナーが新設され、
そのコーナーがGates財団とのパートナーシップによるものだということについて
「小さな国家並みのお金を動かすことのできる一民間団体が
WHOと組み、Lancetと組み、いくつもの研究機関を私物化し、
またはその資金源となりパートナーとなり、またGuardianと組み……。
この状況に問題を感じる人がどうしてこんなに少ないんだろう?」と書いた。

9月24日の補遺では、
Bill Gatesと Warren Buffetが新興富裕層を事前に誘うべく中国に赴くというニュースに、
「世界中の超富裕層が手を結んでいくのは、
本当にみんなで拍手を送るようなことなんだろうか」と書いた。

そしたら、なんと、以下のブログ記事によると、

Bill Gates and Media Control
A New World Order Out or Chaos (News Page), October 17, 210


ゲイツ財団はGuardianだけではなくABCテレビとも、
グローバル・ヘルス関連プロジェクトでパートナーシップを組んだのだそうな。

つまり、これらプロジェクトを介してゲイツ財団から大手メディアにゼニが渡る、ということ。

ABCのプロジェクトは1年ものの企画で、
ABC側が450ドル、ゲイツ財団は150万ドルを出すとのこと。

Guardianは以前にも地球温暖化で独自にキャンペーンを張ったことがあって、
今回、国連のミレニアム開発目標(MDG)の達成に向けたキャンペーンとして、
似たような企画と見えなくもないけど、

これまでのキャンペーンでスポンサーがついたことはなかったし、
ニュースのセクションに位置づけられたこともなかった。
今回は堂々とニュース・セクションの中に置かれている。
これでは、ジャーナリズムとしてのキャンペーンなのか、
アドボカシーとしてのキャンペーンなのか区別がつかないだろう、と。

上記ブログは、どうやらコテコテの陰謀説のサイトのようだから
その点はちょっと要注意ではあるけれど、このポストに書かれていることは納得できる。

というか、この人がここで書いていることは、
当ブログがここ数年追いかけてきた情報にそのまま重なるし、
この人の懸念も当ブログが書いてきたことそのものだ。

もっとも、IHMEすなわちゲイツ財団がLancetと既に提携関係にあることには
この著者は、まだ気づいていない模様。

気付かないまま、Lancetの財団に関する発言のアヤシサを指摘している。
また、医療関係の情報筋として権威あるKaiser Family Foundationでも
既にゲイツ財団に関連した報道には偏向が見られることも指摘している。

Kaiser自体がもともと医療分野に大きな利権を持った財団だと私は思うので、
その辺りで偏向していないことを期待するのは最初から違うんじゃないかとは思う。

その証拠に5月に行われた母子保健に関するシンポは
LancetとIHMEが共催し、Kaiser Family Foundation にて開催。

その際、
批判を封じるために手の込んだ演出をしたIHMEのやり方があまりに汚かったので
このシンポには非難がゴウゴウだったとか。

The Economist誌からそのシンポに出席した記者は
同誌の記事で以下のように書いているとのこと。

As the old saying among bureaucrats goes, he who controls the numbers commands the power. With luck, that control is passing to people who are getting the numbers right.

官僚の間で昔から言われているように、数字を支配するものが権力を握る。願わくば、その支配が数字の捉え方を間違えることのない人間たちに渡らんことを。



このブログ記事の著者は、
当ブログと同じように、IHMEの資金源がゲイツ財団であることを指摘し、
その数字による支配・権力がなんのことはないゲイツ財団の手に渡っていく可能性を警告。

以下のように結論している。

Increasingly, the measurement and coverage of global health are funded by the Gates Foundation in a closing loop while, correspondingly, the capacity for objective assessment is shrinking.

グローバル・ヘルスに関する数値化にも報道にもゲイツ財団からの資金がどんどん膨らんでいる。

そうした連携の包囲網によって客観的なアセスメントが出来なくなりつつある。



GuardianがGates財団とのサイトの立ち上げについて出したプレス・リリースは以下。
The Guardian launches global development website with Gate Foundation


この中でニュース&メディア局の編集長は次のように語っている。

it is essential to have a place where some of the biggest questions facing humanity are analysed and debated, and through which we can monitor the effectiveness of the billions of pounds of aid that flows annually into the developing world.

人類が直面する最も大きな問題の一部を分析し議論するための場所が不可欠であり、そういう場所があることによって我々は毎年途上国へ流れ込んでいる巨額の援助の効率性をモニターすることができる。




つまり、今回のGuardianのグローバル・ヘルス・プロジェクトの目的は、
世界の病気や障害の「負担」を数値化し、
グローバル・ヘルス施策にコスト効率で見直し“黄金律”を作るというIHMEと
全く同じだということですね。

すなわち、

死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DALYによって、
この障害のある生は障害のない生よりも○割引きで、というコスト効率で――。

「健康で5年しか生きられない」のと「重症障害者として15年生きる」では、どっちがいい?と
誰にも選べないことを、さも選べるかのように質問して、それを調査と称し
障害のある生は生きるに値しないと結論付けるためのエビデンスに
仕立て上げてしまおうと画策すること――?



【関連エントリー】
Lancet誌とIHMEのコラボとは?(2008/4/25)
Lancet誌に新プロジェクト IHMEとのコラボで(2008/7/1)
ゲイツ財団の私的研究機関が途上国への医療支援の財布を管理しようとしている?(2009/6/20)
ゲイツ財団の慈善ネオリベ医療グローバリズム賛歌(2009/6/20)
「障害者は健常者の8掛け、6掛け」と生存年数割引率を決めるQALY・DALY(2009/9/8)
2010.10.21 / Top↑
米国へ行って日本の介護保険を自慢してくる人がいる。:これは、みんなで、どんどん自慢して歩けばいいと思う。それで、本当に世界に誇れるだけの日本独自の医療と介護の連携システムを作り上げようという覚悟を決めればいい。
http://www.valdosta.edu/news/releases/takamitsu.101910

そうかと思えば、APECで「日本の女性は家庭で働くのを喜びとしている」「それが日本の文化」と恥さらしな女性差別発言をする政務官もいる。10月3日のニュースなんだけど、知らなかった。それに対して、また「自立した女性の集会だけに」という経産省の官僚のコメントにも同じ差別意識があるような気がするし、「女性たちの批判」だけが集中するということも、こういうニュースがあまり大きく報道されなくなってきているのも気になるし。
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20101003k0000m010097000c.html?link_id=RAH05

トンコさんがアラブ首長国連邦の最高裁が、男性による妻子への暴力を一部容認したことを紹介している。記事内容に全面的に賛成。トンコさんの問題意識は女性差別だけにとどまっていないけど、とりあえず上記ニュースと一緒に知ったので、張り倒して「しつけ」てやりたい男の顔が何人か頭に浮かんだ。
http://blogs.yahoo.co.jp/tonko_hard/50969824.html

オーストラリアの介護者週間:このところ結構、報道が出てくることに驚く。認知度が高くなったのかも。
http://www.begadistrictnews.com.au/news/local/news/general/national-carers-week/1972169.aspx
http://www.fairfieldchampion.com.au/news/local/news/general/its-a-time-to-think-of-carers/1973037.aspx

……と思ったら、オーストラリア政府は9月末に全国介護者戦略の枠組みを発表していた。法案提出するらしい。動いているなぁ。
http://www.health.gov.au/nationalcarerstrategy

更年期後のホルモン補充療法に乳がんリスクがあることは2002年だかに指摘されて、翌日には米国で同療法を受ける人が半減したという話があったけど、今度はそのリスクが確認されただけでなく、乳がんで死ぬ確率もあがることが分かったそうな。:Ashley事件の「成長抑制療法」って、そのホルモン補充療法で使われるうちの1つ、エストロゲンの大量投与でやるんですけどね。まぁ、子宮も乳房も先に摘出しておけばリスクもなくなるという理屈くらい平気で垂れそうな人たちだから提唱しているわけなんだけど、フツーの常識的な人間である我々としては、よ~く考えてみてくださいね。発がん性があるんですよ。あと血栓症のリスクも。要するに、ぶっちゃけ身体に悪い。そういうものを幼い我が子に使いたいと思います、普通? しかも大量投与で?  
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/10/19/AR2010101905232.html?wpisrc=nl_cuzhead

妊娠中に魚の脂のDHAサプリを飲むと、生まれてくる子どもの頭が良くなるって、誰が言ったんだ? そんなのウソだったって。:だから、フツーにしてりゃいいんじゃない? もともと。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/205167.php

IVF前の包括的遺伝子スクリーニングの実験に参加した女性による初めての出産。ドイツで6月に双子の女児。9月にイタリアで男児。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/204885.php

年金改革を巡ってフランス全土でデモ。というかほとんど暴動状態?
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/19/france-pension-protests-nicolas-sarkozy?CMP=EMCGT_201010&

サッチャー元英国首相、85歳の誕生日前にインフルエンザをこじらせて入院。:私はこの人が首相になった直後、日本のメディアが「サッチャー首相は家で夕食を作っているかどうか」を問題にしていたのが忘れられない。一国の首相の激務を考えたら、そんなの作らなくたって別にいいじゃん。一国の首相じゃなくたって、作らなくなって別に、もともと、そんなのどうでもいいことなんだけど。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/oct/19/lady-thatcher-hospital-flu-infection?CMP=EMCGT_201010&

これまでセラピストと本人の1対1が基本だった拒食症の治療に、両親が参加する新しい方向性。
http://www.nytimes.com/2010/10/19/health/research/19anorexia.html?_r=1&th&emc=th
2010.10.21 / Top↑
朝、5時過ぎにパッキリ目が覚めて眠れなくなってしまったので、起きだして
自宅から徒歩10分の公園にウォーキングに行った。

広い公園内には、テニスコートや野球のグランドなどがある。
その周辺をぐるりと遊歩道が巡っていて、
中高年がウォーキングやジョギングに重宝している。

私もそろそろ足腰の衰えを感じるので、
通常はもうちょっと遅い時間だけど、時々行っては、ぐるりと歩いてくる。

さすがに今日の6時にもならない町はまだ薄暗く、人影もほとんどなかったけれど
それでも公園まで行くと、もう既に元気に歩く年寄りでにぎわっていた。

列をなさんばかりの人の多さに、ちょっと驚きつつ、
私も加わるべく遊歩道へと道を渡ろうとした時、
反対側の駐車場から、年齢も格好も場違いな男性がひょいと現れた。

紺色のビジネス・パンツ、白いワイシャツにネクタイ。
その上に紺色のジャンパーを羽織った40歳前後の男性。

見た瞬間、公園に何かトラブルでもあって役場の人が駆けつけてきたのかと思った。
でも、そういう緊張感が漂っているわけでもない。

こちらに見える右手には黒い布袋を持っていて、
向こうの手にも何か黒いものをぶら下げている。

目の前を、その男性が通り過ぎていった時に、
左手に持っているものが見えた。

堂々とした大きさと風貌のラジコン・カー。
ピカピカに磨いて黒光りする車体にオレンジ色の炎がうねっている。

この公園にはラジコンカーのレース・コースがある。
私がいつも来る朝7時半ごろだと若い兄ちゃんがそこでスケボーの練習をしている。

夕方に来ると、高校生なんかが時々すごいスピードで車を走らせているのを見るし
週末には、マニアのオッサンたちが駐車場に簡易テントを立て並べ、
それぞれ気合の入った装備で愛機のメンテナンス基地をしつらえて
レース・コースでの対戦に熱くなっていたりもする。

遊歩道を歩き始めながら見ていると、明らかに出勤前のその男性は
メンテの用具とおぼしき布袋と大きな黒いラジコンカーを両手にぶら下げて
コントロール・デッキの階段を駆け上がっていく。

その背中がハッピーな笑顔になっていた。

な~んか、いいなぁ……。

こっちまで、早朝の山並みを遠くに見やって、
思わず、にまにましてしまった。

そうなんだよなぁ。
そういうことなんだけどなぁ……。

明け始めた空の清潔な青さに、ああ、きれいな空だ~と
心が広やかになっていく感じがすることとか、

それで、思わず深々と大きく息を吸ってみたりすることとか、

風が気持ちいい~と心に呟き、
あー、花が咲いている、と目を止めることとか、

今週末にミュウが帰ってきたら約束通りに焼き肉を食べに行くのを
親の方もけっこう楽しみにしていることとか、

(この週末、親子3人で近所のコープに買い物に行ったら
駐車場の入り口のところで、ミュウがいきなり、ぬん、と顔を上げ、
断固として何かを主張し始めた。指差しているのは駐車場の向こう、
コープの向こう隣は、何度も行ってミュウもお気に入りの焼肉屋さん。
「え? もしかして焼肉を食べに行こうって?」
ミュウは顔全体でピンポーンと答えると同時に
大声で「ハ!!」と言った。「ええ~っ。分かったよ、じゃぁ
今日はもう煮物を炊いちゃったから来週でいい?」「ハ」で決まった。
で、今週、母は週末に備えて節約を心がけている)

園に次にくる研修生の中にイケ面がいたら、ニコニコして喜ばしておいて
食事介助の時には一転ちっとも食べずにイジメてやろうと
ミュウが手ぐすね引いて待っていることとか、

三度の飯よりも大好きな「おかあさんといっしょ」やジブリのDVDを
園であれ家であれ、隙あらばかけさせてやろうと狙いすませていることとか、

BBCのDisability Bitchさんが「ま、いろいろあるけど、ドーナツがあればね」と言えることとか、

そういうことなんだよなぁ……て、思うんだけど、

世の中には、能力とか地位とか業績とかお金とかで
人よりも自分の方が優越していることを証明してみせることによってしか
ハッピーになれない人が増え過ぎているんじゃないのかなぁ。

そういう人たちが「これこれこういう人でなければ生きても幸せになれない」なんて
他人の人生や幸せに対して、ゴーマンかつ愚かしく余計な差し出口を
叩きたくなるんじゃないのかなぁ。

誰に対しても、な~んにも証明する必要などなく、
誰かに優越する必要も、誰かを見下す必要も、いっさい感じないで、
そのままの自分として、ただ満ち足りて、そこにいる、ということができることくらい
幸せなことはない、と思うんだけどなぁ……。
2010.10.20 / Top↑
英国の 施策研究所 the Center for Policy Studies から
自殺幇助を合法化すると、弱者が expendable(可処分) だとみなされ、
家族や官僚から早々と死ななければならないようにプレッシャーがかかる、
との報告書。

タイトルは Assisted Suicide: How the Chattering Classes Have Got it Wrong

主著者の Cristina Odone氏が記事の中で言っているのは
これまでもだいたい指摘されてきたことで、

"Legalising assisted suicide and euthanasia will put the socially marginalised at serious risk. Attempts to change the law should be resisted," she said.

"The elderly, people with severe disabilities, the mentally unstable, and those with terminal illnesses will be presented with self-inflicted death as a natural, normal and expected final solution."

Odone went on: "For the vulnerable, once it becomes enshrined in the law, this ‘right’ might turn into an obligation.

"They may feel that, once over a certain age, or grown too dependent on others, or too fed up with life, or too ill, they should opt for death."

"Worse, many may be coerced, actively or subtly, by cost-conscious hospitals, or by intended heirs with an eye to a legacy, or by exhausted carers.

"As assisted suicide becomes embedded in our culture, investing resources in caring for these vulnerable groups will be seen as a waste."



それに対して、Dignity in Dying から
いわゆる「すべり坂」論には、オレゴンやオランダから
エビデンスが出ているわけではない、

合法化してセーフガードを設けた方が弱者は守られる、と反論。

Legalising assisted suicide ‘deems old and sick expendable’
The Examiner, October 18, 2010/10/20


そのエビデンス、下記のように、そろそろ出てきているよ、とも思うのだけど、

ベルギーにおける安楽死、自殺幇助の実態調査(2010/5/19)
英国の医療教育機関が自殺幇助合法化反対を確認(2010/7/7):ベルギーの実態調査情報あり
オレゴン州の尊厳死法、セーフガードは機能せず(2010/8/17)
WA州の尊厳死法、殺人の可能性あっても「問わず語らず」で(2010/9/16)
「やめておけ、豪の安楽死法は失敗だったぞ」と緩和ケア医がケベックの医師らに(2010/10/8)


でも、どうも、「死の自己決定権」ロビーって、
見たくないことは頑として見えないことにする、もしくは、
ヘリクツ並べて、「ある」事態も「ある」とは認めない姿勢なんじゃないのかな……とも。

だって、この場合の「すべり坂」って、
すべり坂が起こったと証明されるだけのエビデンスが揃う段階があるとしたら
それは、もう取り返しがつかない段階に至り大ぜいが死なされてしまっているわけで、

これは、そういう種類の「すべり坂」なんだから

「すべり坂」が起きるエビデンスを出せと主張することには、その発想自体に、
少々の人間が不当に死なされるということが起こったって
それはそれでやむをえないだろうという意識が織り込まれている。

つまり、
「すべり坂」を案じる人は「そういう死なされ方をする人間が
一人でも出るような社会にしてはいけない」と考えているのに対して、

「すべり坂は起こらない、起こるというならエビデンスを出せ」と言っている人は、
「そういう死なされ方をする人間が少々出るのはやむを得ないが
 そういう人が山のように出ることは防げるだろう」と考えている、ということでは?

それなら、後者の考え方自体が
すでに一定数の人間はexpendableだとかコラテラル・ダメージとみなしているわけで、
そういう人の頭の中でこそ、すでに「すべり坂」が起こっているんでは――?
2010.10.20 / Top↑

米国で“腎臓ペア交換”登録制度

最初はジェニファーさん(24)だった。5月24日に事故で帰らぬ人となり、母親が臓器提供を決めた。適合するレシピエントが見つかり、死後2日目にジェ ニファーさんの片方の腎臓はブレンダさん(44)に移植された。そこでブレンダさんの夫のラルフさん(48)は考えた。「かつて妻に片方の腎臓を提供しよ うとした際には適合せず果たせなかったが、赤の他人が妻にくれるのならば自分だって見知らぬ誰かにあげればいい」と。

ラルフさんはジョージタウン市が3つの病院と組織している「腎臓ペア」登録制度に加わった。彼の片方の腎臓がゲイリーさん(63)に移植されると、ゲイ リーさんの妻ジャネットさん(61)が片方の腎臓を見ず知らずの男性に、すると、その男性の妹が今度はまた見ず知らずの女性に……。こうして始まった チェーン移植は一般の登録ドナーからの2件を加え、最終的には5月26日から6月12日の間に14件となった。

この出来事を「チェーン移植で14人が新たな命を」とのタイトルで報じたワシントン・ポスト(6月29日)によると、現在、米国で腎臓移植を待っている 人は85000人。マイノリティには適合するドナーが見つかりにくいため、その61%がアフリカ系、ヒスパニック系、アジア系のマイノリティ(少数派民 族)だという。こうしたマイノリティへの臓器供給の手立てとして、ペア交換が有効だと今回の移植関係者は力説し、移植コーディネーターは「これはスタート です。この町でできるのだから、更にエリアを広げて続けていくことは常に可能」と意気込む。すでに今年2月に米国臓器配分ネットワーク(UNOS)がペア 交換の登録データベースを試験的に立ち上げており、この秋にもマッチングを開始するとのこと。

ラルフさんはいう。「大切な娘さんが亡くなって妻に命をくれました。それなのに私が『万が一ということもあるから私の腎臓はこのまま持っておきます』というのは、余りにも身勝手というものでしょう」。

しかし、このような物言いが「腎臓がほしければ他人にあげられる腎臓と物々交換で」というに等しい登録制度と合い並ぶ時、そこに“家族愛”を盾に取った暗黙の臓器提供の強要が制度化されていく懸念はないのだろうか。

英国では“臓器提供安楽死”の提言

一方、なにかとラディカルな発言で名高いオックスフォード大学の生命倫理学者ジュリアン・サバレスキュらは、5月にBioethics誌にShould We Allow Organ Donation Euthanasia? Alternatives for Maximizing the Number and Quality of Organ for Transplantationと題した論文を書き、“臓器提供安楽死(ODE)”を提言した。かねてより、臓器提供と安楽死の議論はいずれ繋がっていく のでは、との懸念は欧米のみならず日本でもささやかれてはいたが、ついに英語圏で「どちらも自己決定権なら、いっそ2つの自己決定を合体させれば?」と言 わんばかりの声が上がった。

保守派の論客ウェズリー・スミスが自身のブログ(5月8日)で引用している上記論文の一部と、オックスフォード大学のサイトに5月10日付で全文公開さ れている同じ著者による論文 Organ Donation Euthanasiaを読むと、その主張とは「生命維持治療の中止にも死後の臓器提供にもそれぞれ自己決定権が認められているのだから、生きたまま全身麻 酔で臓器を摘出するという方法による安楽死を選べるようにするのが合理的。そうすれば臓器が痛まず提供意思を今よりも尊重できるし、患者本人も延命停止後 の苦痛を避けることができる」というもの。「どのみち死んでいく患者だけに適用するのだ」から、意思決定能力のある患者の自己選択と、独立した委員会での 承認を条件にすれば、「死ななくてもよい患者が死ぬということは起こらない」。

その一方でサバレスキュらは、「自分は何一つ損をせずに最大9人の命を救える機会など滅多にないのだ」し、「自分が他者にしてもらいたいと望むことを他 者に行えとの倫理の黄金律にもかなう」行為だと臓器提供を称賛する。しかし、“臓器提供安楽死”の提言が道徳や倫理の問題ではなく、“移植臓器の数と質を 最大化するための選択肢”の問題であることは彼らの論文タイトルが明示している。

7月17日、日本でも改定臓器移植法が施行された。「“国際水準の移植医療”を日本でも実現するために」との掛け声で改定された法律である。その “国際水準”が向かう先が臓器の“物々交換”やODEなのだとしたら、果たしてどこまで追いかけようというのだろう……。

「世界の介護と医療の情報を読む 50」
「介護保険情報」2010年8月号




【関連エントリー】
「腎臓がほしければ、他人にあげられる腎臓と物々交換で」時代が始まろうとしている?(2010/6/30)

「生きた状態で臓器摘出する安楽死を」とSavulescuがBioethics誌で(2010/5/8)
ベルギーで2年前にロックトインの女性、「安楽死後臓器提供」(2010/5/9)
臓器提供は安楽死の次には“無益な治療”論と繋がる……?(2010/5/9)
Savulescuの「臓器提供安楽死」を読んでみた(2010/7/5)
2010.10.20 / Top↑
愛する人がターミナルになり、
例えばスイスのDignitasなどに連れて行って自殺させると
愛する人を死なせた家族は落ち込むことになります。

そういう家族自身は、もちろんターミナルどころか病気なわけでもありません。

しかし、そういう家族にも致死薬の処方を認めるべきだ、と
Dignitasの創設者であり経営者でもある Ludwig Minelli。

調査によると、
12年前にDignitasを創設した際にはほとんど一文無し状態だった彼、
07年までに100万ドルを超える富を築いたんだとか。

なお、以前にもどこかのエントリーにまとめてはいますが、
この記事にある数字の整理を以下に。

現在までにDignitasに会員登録しているのは61カ国の5700人で、
そのうち724人が英国人。

入会金は200スイス・フラン(121ポンド)で、年会費は52ポンド。
実際に自殺幇助を頼むことになると1815ポンド。

Dignitasと提携している医師は6人で、
この医師らがバルビツレイトを処方するかどうかを決める。

その他にも、あれこれ費用がかかって、
希望者が実際に死ぬまでには約6352ポンドかかる。

なかには、高額な寄付をしてから死ぬ人もいて、
ぽんと6万ポンドを寄付していった人もあるとのこと。

スイスでは、一応、自殺幇助は違法ではないものの、
個人的な利益のためにやることは違法なので、
Minelliは、自分の資産は母親の遺産だと強調している、というわけ。

Swill suicide clinic Dignitas calls for cocktail of drugs to be made available for heartbroken relatives as well
The Daily Mail, October 18, 2010


ターミナルな病状で自殺する人の
家族の自殺幇助も合法化しようと彼は言っているわけですが、

でも、Minelliは去年、すでに
健康な配偶者を末期がんの人と一緒に自殺させる行為にも手を染めているし……。

英国の著名指揮者夫妻がDignitasでそろって自殺(2009/7/14)


【その他、関連エントリー】
国別・Dignitasの幇助自殺者、登録会員数一覧(2010/3/1)
MinelliはDignitasでボロ儲けしている?(2010/6/25)
DingnitasのMinelliが「求められれば健康な人の自殺幇助も」と、またBBCで(2010/7/3)
2010.10.20 / Top↑
これは重要。英国の自殺幇助議論に、Purdy, Pretty, Cambellという3人の女性が果たした役割をまとめた記事。:とりあえず、すぐには読めないけど、読みたい。私はDian Prettyについては良く知らないので、特に必読。
http://www.scotsman.com/politics/Purdy-Pretty-Campbell--and.6585345.jp

オーストラリアの介護者週間
http://www.youngwitness.com.au/news/local/news/general/celebrating-carers-in-young-with-carers-week/1971280.aspx

上記の介護者週間で、クイーンズランド州政府が今後3年間に渡って255万ドルを介護者支援に。
http://www.mysunshinecoast.com.au/articles/article-display/255-million-boost-for-queensland-carers-to-mark-carers-week-2010,19075

オーストラリアでパラメディックスの不足が深刻化。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/paramedics-at-breaking-point-staff/1971214.aspx?src=enews

米国の製薬会社は子どもを薬漬けにして障害を負わせ、死に追いやっている、という、例によって例の批判。ここでもBiederman言及あり。
http://www.futurehealth.org/Podcast/Robert-Whitaker--Drugging-by-Rob-Kall-101017-754.html

NYTの記事タイトルは「予防するはずの問題を薬が引き起こしている時」。FDAが、これらはそういう薬だと認めたのは、骨粗鬆症の人の骨折を予防すると謳われていたFosamax, Actonel, Bonivaに実は大たい骨の骨折を引き起こす可能性があること、糖尿病の患者に心臓発作の予防のために広く処方されているAvandiaに実はその心臓発作のリスクがあること。
http://www.nytimes.com/2010/10/17/health/policy/17drug.html?th&emc=th

骨粗しょう症については、更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)

Avandiaについては9月24日の補遺で拾った。
2010.10.18 / Top↑
米国で42歳の女性が20年間凍結していた胚を使って妊娠、健康な赤ちゃんを出産したそうな。:できるからといって、何でもやってもいいのか?
http://www.medicalnewstoday.com/articles/204658.php

オーストラリアの介護者週間
http://www.westernweekender.com.au/index.php?option=com_content&task=view&id=2218&Itemid=50

ネブラスカ州で、8月に自分と恋人の自殺用に致死薬のカクテルを作ったとして、34歳の女性Jennifer Petersさんが自殺幇助の罪に問われている。二人は実際にそれを飲んだらしく、不信を感じた親戚が2人が住んでいた家で発見し病院に運んだが、 Kyle Adamsさんの方は死亡。Petersさんは地域の病院で蘇生し、大きな病院に運ばれたとのこと。:この事件で使われた薬の名前は出ていないので、必ずしもこの事件についての疑問ではないのですが、それにしても、英米ではどうしてこんなに簡単に“致死薬”が手に入るのかが、私はずっと不思議。尊厳死法で患者に渡された致死薬のトラッキングについても。
http://www.omaha.com/article/20101013/NEWS97/710139904/1031464

世界中で体重が足りていない子どもの42%はインドにいる。:それでも新興経済大国。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/204492.php

そのインド一のお金持ちMukesh Ambani氏がこれまでで世界で一番高価な家を立てたそうな。27階建て。資産価値180億ポンド。:なんてバカバカしいお金の使い方なんだろう。
http://www.guardian.co.uk/world/2010/oct/13/mukesh-ambani-india-home-mumbai?CMP=EMCGT_141010&

重症の転換と精神遅滞の原因となる遺伝子変異が分かったそうな。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/204443.php

女性用バイアグラを開発していたドイツの製薬会社が、FDAに安全性と効果を疑問視されて諦めた。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/204379.php

スコットランドで親族の誰かの子どもの面倒を見ている人が増えているが、養子を引き受けている人は対象になる子ども手当から、そういう人たちが外れているのはおかしい、と。
http://www.thecourier.co.uk/News/National/article/6243/scotland-s-kinship-carers-on-the-rise-but-lack-of-support-is-felt.html

米FDAがキレーション療法取り締まりへ。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/10/15/AR2010101500002.html?wpisrc=nl_cuzhead

英国政府機関の急激な統廃合に、予算削減が却って経費増大につながるとの懸念。
http://www.guardian.co.uk/politics/2010/oct/14/quangos-cut-health-justice-consumer?CMP=EMCGT_151010&
2010.10.15 / Top↑
以下は2010年7月号の「介護保険情報」誌に
英国NHSの介護者支援サイト Cares Directについて書いたものです。


英国NHSの介護者支援サイトCares Direct

先月7日、介護者の権利擁護を進める「ケアラー連盟」が日本で誕生した。これまで介護者が「人権」という文脈に乗せられることは日本では少なかったが、ついに「介護者の人権」を求める声が上がった。英語圏の介護者支援については、これまでも何度か紹介してきたが、これを機に、今回は英国のNHS(国民医療サービス)がウェブ上に開設している介護者支援サービスCarers Directを覗いてみたい。

Carers Directのトップページは「ケアホーム情報」「介護を始めたばかりの人」「お金と法律」「介護ガイド」「若年介護者」「介護者の福祉」「仕事・勉強との両立」「介護者の体験談」「介護者手当て」「介護者アセスメント」の10テーマに分かれている。また地域ごとにサービス情報を検索する機能、関連サイトへのリンクも用意されている。

初めてこのサイトを訪れた人や介護を始めたばかりの人にお勧めなのは、ページ右下にある「誰かの介護をしていますか?」と題したQ&Aコーナーだろう。

以下の6つの質問に順次答えていくと、その人に応じたアドバイスと共に、サイト内のどの情報が参考になるか、どんな支援が使えるかを教えてくれる。6つの質問からはNHSの介護者支援が何を重視しているかが伺えて、たいへん興味深い。

① 介護者として必要な情報が手元にあり、必要な情報をどこで手に入れたらよいか知っていますか。

②介護ができにくい身体的不調がありますか。

③介護のために夜眠れなかったり、孤独を感じたり、自分には無理だと感じることがありますか。

④何があれば介護がしやすくなりますか。(経済的サポートや住宅改造、移動支援など6つのチェックリスト)

⑤介護から離れて介護者役割を休む時間はとれていますか。

⑥介護以外のところで生活上の困難を感じていますか。(通学、仕事、健康、自分の時間など6つのチェックリスト)

また個々の相談を受ける「ヘルプライン」も用意されている。直通電話相談は月曜日から金曜日は午前8時から午後9時まで、週末は午前11時から午後4時までで、英国内なら設置電話からでも携帯電話からでも無料。電話の他にもメールや手紙での相談も受け付ける。

相談窓口なので直接の支援を行う訳ではないが、相談者のニーズに応じた情報を提供したり、サービス受給に問題が生じている場合には不服申し立ての手続きを手ほどきしたり、自治体やNHSの担当者に繋ぐこともある。また、必要に応じて各種専門家も紹介する。

外国人、障害者向け電話通訳・翻訳サービス

 この介護者相談電話、特に目を引かれるのは、外国語にも聴覚・言語障害者にも対応ができていることだ。もっとも、ヘルプラインが独自に用意したものではなく、既に普及・定着した民間サービスが、民間企業はもちろんのことNHSを始めとする官による行政サービスにも導入されているということのようだ。

 Language Lineのサービスでは、加入すると通訳を入れ3方向の会話が可能となる。対応言語は170以上。25年も前から各種機関の行政サービスと契約しているというから驚く。

 聴覚・言語障害者向け電話通訳・翻訳サービスは、80年代に王立全国聴覚障害者協会が始めた取り組み。その後、同協会と英国の通信大手ブリティッシュ・テレコムがそれぞれ提供していたサービスが去年3月に統合されてTextRelayとなった。通常の電話番号の前に専用番号を入力するとオペレーターが介入し、キーボードのついた文字電話(現在はPCの転用も可)と通常の電話の間で、文字から音声へ、音声から文字へと通訳する。あらかじめの手続きも予約も不要。無料サービスで、通訳により通常よりもかかった時間分の料金も払い戻しを受けられる。

 こうしたサービスが介護者相談電話で当たり前に使えるとは……。人の多様性を認め尊重する英国社会の人権意識の歴史の厚みを、改めて見せつけられる気がした。もっとも、これを機に検索してみたところ日本にも電話通訳サービス企業はある。代理電話サービスや、手話による電話通訳も始まっているようだ。

そして、ここにまた、日本の人権意識においても介護者支援においても着実な一歩――。ケアラー連盟設立、おめでとうございます。


Cares Directの公式サイトはこちら
2010.10.15 / Top↑
以下は2008年12月号の「介護保険情報」誌に
既に当ブログにも掲載している「介護者の権利章典」と同時に書いた文章です。

障害のある子どもを殺す母親たち

 このところ、母親が障害のある子どもを殺す事件が気にかかっている。今年に入って記憶にあるニュースを振り返ってみると、2月にカナダで母親が17歳の 脳性まひの娘を殺す事件があった。複数の子どもを抱える46歳のシングルマザーだった(Global and Mail, 2月27日他)。米国では、2006年4月に障害のある34歳の娘を包丁で刺して殺害したシカゴの母親(59)が今年3月に懲役20年を言い渡されてい る。娘は2歳の時に脳性まひと発達障害を診断され、母親の方は事故の数年前から抑うつ状態だったとのこと。黒人母子家庭らしいが、単親で娘をケアし続けた 32年間とはどんな年月だったのだろう……と考えさせられる事件だった。(Cbs2chicago.com、3月14日他)。

 英国でJoanne Hillという35歳の女性が4歳の娘Naomiをバスタブに沈めて殺す、という衝撃的な事件が起きたのは去年の11月のこと。脳性まひの娘を恥じていた のが殺害動機だとか、娘の苦痛を見かねての行為だったとのニュアンスの報道もあったが、Naomiの障害はさほど重度ではなかったという。9月の末、 Hillに終身刑が言い渡された。それを機に改めて事件の詳細をたどってみると、「母親が障害のある娘を殺した」と見えるこの事件、実は「障害のある母親 が娘を殺した」事件なのでは、と思えてくる。Hillは10代の頃に精神障害を診断されている。事件当時も夫婦間に問題を抱えてアルコール依存、鬱病に苦 しみ、自殺未遂を繰り返していた。弁護側は心神耗弱を訴えたが、裁判官は「いかなる言い訳もありえない」と、最低でも15年という条件付きで終身刑を言い 渡した。

親なら、たとえ血反吐を吐いてでも……

 Hillに終身刑というニュースが舞い込んだのは、福岡で発達障害のある富石弘毅くん(6歳)が繊維筋痛症と鬱病を患う母親に殺害された痛ましい事件の 直後だった。事件の衝撃は大きく、ネットには「それでも親か」と非難の声が渦巻いていた。中には「親なら、たとえ血反吐を吐いてでも……」という“熱い” コメントもあった。もちろん殺害行為には「いかなる言い訳もありえない」。しかし各国の一連の事件の背景をたどりながらネットでの議論を読んでいると、考 えこんでしまった。障害児の親には、自らも障害や病気や様々な事情を抱えて支援を必要とする“ただの人”であることは、許されないのだろうか──。

読み人知らず「介護者の権利章典」

 米国の退職者団体AARPが1985年に出版した“CAREGIVING: Helping An Aging Loved One(介護:愛する人の老いを支える)”という本がある。著者はJo Horne。家族介護者向けのこの実践マニュアルを、Horneは一貫して「介護者には『できません』と言う権利がある」との理念で書いたという。その彼 が最後のページで紹介するのは「介護者の権利章典」だ。「私には次の権利があります」と始まり、「自分を大切にすること」「他の人に助けを求めること」な ど9項目が続く。多くの介護関連団体によって長年の間に作られてきた、いわば“読み人知らず”のようである。Horneは最後に白紙の項目を作り、介護者 それぞれが自由に書き込むよう勧めている。

 当欄ではこれまで数回にわたって英国や米国の介護者支援について紹介してきたが、いずれの国でも支援の対象となる「介護者」には障害児・者の親が含まれ ている。私たちもそろそろ、障害児の親をただ「親」とだけ捉えるのではなく「介護者」としても捉えるべきではないだろうか。そして、障害児の親も含めた介 護者には、自分の心身の健康を守り、人間らしい生活を送る正当な権利があるのだという共通認識を、介護者の間にも、医療職や福祉職の間にも、広げていくべ きではないだろうか。

 福岡の事件のあと、ネット上では、“世間”からの非難に混じって、自分にもあの母親になる可能性はあるのだと戸惑いながら自らの心の内をのぞきこむ障害 児の親たちや、母親がそこまで追い詰められた経緯を冷静に分析しようとする療育関係者らの声もあった。そういう人たちに届くことを願い、巻末に「介護者の 権利章典」を訳してみた。活用いただければ幸いである。

 10月19日から25日はオーストラリアの介護者週間だった。政府の福祉部局と共催した介護者支援団体Carers Australiaのサイトを覗いてみたら、介護者に向けて、こんな言葉が書かれていた。You are only human. あなただって、ただの人。そう──。介護者だって生身の人間なのだから──。



「介護者の権利章典」についてはこちらに。
2010.10.15 / Top↑
以下は2008年10月号の「介護保険情報」誌に
「米国 家族介護者月刊」と題して書いた文章です。

家族介護者月間 米国

 厚労省は先ごろ11月11日を介護の日とすることを決定した。また、NPO法人全国在宅医療推進協会(神津仁理事長)が介護者とかかりつけ医の双方を表彰する「ファミリーケア大賞」を創設するなど、このところ介護や介護者への理解を深める啓発に向けた動きが続いている。

 14年前から毎年6月に実施されている英国の「介護者週間」については2007年6月号の当欄で紹介したので、「介護の日」制定を機に米国ではどうか調 べてみた。英国ほど大きな規模ではないが、National Family Caregivers Association(NFCA:全国家族介護者協会)が毎年奇しくも同じ11月に「家族介護者月間」を開催している。

教育講演やメディアへの働きかけ

 今年の主な活動としては、11月6日と13日にそれぞれ1時間の家族介護者向け教育講演SpeakUp!(声を上げよう!)を行う。希望者が事前に登録 することによって電話またはウェブで聴くことができるテレ講演である。いずれも、介護を受けている家族や介護者である自分自身のアドボケイト(権利や利益 を守るために声を上げる人)として、医療従事者とより良いコミュニケーションを図るコツを学ぶプログラム。

 またNFCAでは、家族介護者月間のポスター、パンフレット、Tシャツ、バッジなどの啓発グッズを作成し、全国の介護者がそれらを利用して、それぞれの 地域で啓発活動を展開するよう呼びかけている。同時に、記事を投稿したり、取材できそうな企画を提案するなど地域のメディアに働きかけようと、その具体的 な手順をHPで指示している。このページには、介護者月間についてのプレス・リリースのテンプレートや、NFCA会長Suzanne Mintz氏が書いたサンプル記事が通常記事用と詳しい解説記事用と2本用意されている。自分で記事を書いて投稿するのが苦手な人は、それらサンプルを ローカル・メディアに持ち込んで依頼・交渉し、掲載してもらうという作戦だ。

「家族介護者」として連帯を

 夫の介護体験からNFCAを創設したMintz氏だけあって、そのサンプル記事は、なかなか鋭く読み応えがある。特に興味深いのは、専門家によって常用 されてきた「インフォーマルな介護者」という呼び方は時代遅れで気に入らないと書いていることだ。理由は「フォーマルな介護者」である専門職との間にヒエ ラルキーを匂わせるものだから。Mintzさんは「家族介護者」という共通の言葉に統一して、その言葉の元にみんなで連帯し、介護負担を軽減する支援、医 療のあり方やメディケアの仕組みの変革を訴えていこうと呼びかける。

 また「家族介護者は外に向かって助けを求めにくいものだから、身近な人が押し付けがましくない、ちょっとした心遣いで手助けをすることが必要」だと、日 本でも専門家の間で「インフォーマルなサービス」と呼び習わされている支援について、具体的な提言を行っている。例えば週に一度食事を差し入れる、庭の芝 を刈ってあげる、ちょっとの間介護から解放してあげる、移動時の運転手を買って出るなど。いずれも介護者がアテにできるように、いつ何をしてあげるかを事 前にはっきり告げておくことが肝要。A little bit of help can go a long way. (ちょっとした手助けが大いに役に立ってくれるものなのです。)

「介護の受け手」という視点も

 日本の「介護の日」は、もともと介護専門職不足を解消する必要から生まれてきたもののようにも思えるが、検討会では樋口恵子委員から、介護従事者だけで なく家族介護者への感謝も示す日にすると同時に、「介護の受け手になる心構えも考える日としたい」との発言があったとのこと。これは英国の「介護者週間」 でも米国の「家族介護者月間」でも盲点となっている、すばらしい視点ではないだろうか。ヒエラルキーがあるのは専門職と家族介護者の間のみではない。「介 護の日」で介護する側への感謝ばかりが一方的に強調されると、介護する人・される人の間にもともと生じがちな上下関係(時には支配―被支配の関係)がそこ に塗り重ねられてしまいかねない。「介護の受け手」という視点を「介護の日」に含めることは、とても大切なことだ。

 Mintzさんが書いている言葉を、私たちの「介護の日」にも忘れてはならない警句として、挙げておきたい。

「介護はみんなの問題です。なぜなら世界には4種類の人間しかいないのだから。介護を体験したことのある人、現在介護をしている人、やがて介護者となる人、そして、いつか介護者を必要とする人。このいずれからも逃れられる人はいません」

2010.10.15 / Top↑
以下は2008年8月号の「介護保険情報」誌に
英国NHS改革と新全国介護者戦略について書いた文章です。

英国政府、今後10年のNHS改革案と初のNHS憲章草案を発表

“世界に冠たる”と英国民が誇る受診時原則無料の国営医療サービスNHS。今年で60歳になるそうだ。Brown首相は去年の首相就任時にNHSの見直し と改革を担当する保健省の副大臣として現役外科医Ara Darzi卿を起用した。6月30日、そのDarzi卿が1年間に渡る患者や医療関係者からの意見聴取を経て、“High Quality Care for All: NHS Next Stage Review final report”を発表し、今後10年間のNHS改革の方向性を打ち出した。

病院機能の集約化と成果主義

 Darzi卿は昨年、副大臣に任命されるや、ロンドンにおける思い切った統廃合と効率化による病院機能の集約案を提言。現場のGP(家庭医)や中小の総 合病院などから廃業や医療保障への不安など批判の声が上がっていた。今回の報告書でも、従来より広いサービスをGPが担う医療センター(ポリクリニック) を地域ごとに作り、看護師を中心に在宅医療も担当。また産科、救急医療や高度先進医療などは拠点病院に集約するなど、1年前のロンドンの医療改革案とほぼ 同じ方向のようだ。看護師にも非営利企業の立ち上げを推奨するのは、地域医療の底支えを狙ったものだろう。

 さらに今回の改革案では、これまでのように中央から数値目標を押し付けることをやめ、医療の質が評価されるシステムを導入。具体的には、受けた医療に対 する患者の満足度が高い病院には追加報酬が支払われ、低いと罰金が科せられる。また治療のアウトカムに関するデータも病院ごとに集積され評価の対象とな る。Darzi卿は「患者ケアの質をベンチマークとするNHSのインフラ整備ができた」と胸を張るが、野党からは「医師と看護師が中央集権的な官僚主義で がんじがらめにされたままアウトカムだけ見ても意味がない」と批判が出ている。

NHSサービス利用の「権利と責任」を明記

 またBlair前首相が提案し、Brown首相も熱心に進めていた英国初のNHS憲章の草案も、Darzi卿の報告書と同時に発表された。NHSの理念を明らかにするとともに、患者とスタッフ双方の「権利と責任」、それに対してNHSが約束する内容を明確にするものだ。

 患者の権利としてはGPを選ぶ権利、認可薬を使える権利、英国内ですぐに治療が受けられない人がヨーロッパの他国で受ける意思表明の権利などが法的に認められる。責任については自ら健康維持に努力することやGPへの登録、医療行為への協力などが謳われている。

 憲章の草案に関しては、NHSのWebサイトで詳しく解説されており、NHSは10月7日までパブリック・オピニオンを募集する(Times, 7月1日ほか)。

新「全国介護者戦略」も発表

 英国では介護者支援システムの整備も急がれている。労働党政権が1999年に定めた「全国介護者戦略」の見直しに向けて、去年は広く国民からの意見聴取が行われた(2007年8月号当欄で一部既報)。

 寄せられた意見については去年11月に暫定報告が出されたが、それらを踏まえて6月10日に新たな「全国介護者戦略」が発表された。2億5500万ポン ドの予算を組み、短期レスパイト、就労支援、健康チェックなどの介護者への直接支援のほか、GPへの研修や介護者支援専門職の養成にも配分する。また近年 社会問題化している若年介護者への支援も行う。

働きかけ強めるチャリティ

 一方、政府のこうした動きに対して、Help the Aged, Counsel and Care, Carers UKの3つのチャリティは、共同で新たなキャンペーン”Right care Right deal : The right solution for social care”を立ち上げた。家族と介護者への一体的支援や、もっと早期にもっと多くの人に手が届く持続可能なシステム作りの必要などを訴え、介護サービス改 善に働きかけを強める。

 さらにCarers UKは、介護者支援に絞った独自のキャンペーン”Back Me Up”で具体的な施策提言も行っている(Medical News Today, 6月10日ほか)。

 Brown首相は6月26日のBBCインタビューで「遺伝子診断技術が進むと保険に入れない人が増え、公的費用でまかなわれる医療制度がより重要になる」と述べた。そこまで先を見通すのか……。“世界に冠たる”日本の皆保険。その行方が気になる。

2010.10.15 / Top↑
以下は2007年8月号の「介護保険情報」誌の
連載「世界の介護と医療の情報を読む」に書いた
「英国介護者週間」についての文章です。


英国 介護者週間2007

6月号の当欄で触れた英国の「介護者週間2007」が6月11日から17日に行われた。関連の主要な動きについて紹介する。

介護者調査の結果発表

 まず「介護者週間2007」のスタートに当たって、年に一度この時期に「介護者週間」が恒例として行う介護者調査の結果が発表された。3500人以上を 対象に、英国でこれまでに行われた最大規模のものとなった今年の調査では、介護が介護者の生活に以下のような悪影響を及ぼしていることが明らかになった。

 ① 多くの介護者が精神的にも肉体的にもパートナーとの関係が変わったと述べ、これが介護における最も大きな困難の1つとなっている。

 ② 3分の2以上の介護者において、仕事に集中できない、研修や昇進の機会を逃すなどの理由により、経済事情が悪化。そのうちの28%は家族を養うにも事欠くほど困窮している。

 ③ 多くの介護者が介護者役割によりアイデンティティの喪失を訴えている。

 ④ 過去1年間定期的な介護者役割からの休息が得られていないとする人が4分の3に及ぶ。その中の38%は過去1年間に1日たりとも介護から開放されたことがないという。

例えば介護のために失業し、それがパートナーとの関係や介護者の精神状態に響き、経済状態がさらに悪くなるなど、これらの問題が複合的に絡み合って悪循環を生んでいる、と調査は指摘している。

地方紙が介護者の声を特集

 このような厳しい生活を送る介護者たちが「介護者週間」の前後には多くの地方紙で特集として取り上げられ、様々な立場で介護を担う人たちが率直に体験や思いを語った。

 パーキンソン病の夫を介護しているBrenda McFallさんは、子育てとも老親介護とも違う夫婦介護特有の苦しさを「夫は私の方が頼るはずの人だったから」という言葉で表現する。(Belfast Telegraph 6月12日)。

 離婚してフルタイムで働きながらレット症候群で全介助の娘を介護しているAnne MacLeodさんは、介護サービスに恵まれて現在はやりくりが付いているが、自分の退職後はサービスがどうなるか不安。また、常に自分に何かあったら娘 はどうなるのかとの心配にもつきまとわれている。自分が退職し娘が20代半ばになる頃までに居住型の施設を見つけたいが、自治体の資金難により難しそう だ。70代、80代で障害のある我が子のケアをしながら、さらにアルツハイマーの親の介護も担っている人もいる。それぞれ事情が違い「これが典型的な介護 者」というものは存在しない。Anneさんは「介護者役割からは退職もできない」と語り、個々の状況に応じた支援の必要を訴える。(Scotland on Sunday6月10日)。

政府が介護者の声を募集

 6月19日、ケア・サービス大臣Ivan Lewis氏は、「介護者のためのニュー・ディール」の一環として政府が検討している1999年の「全国介護者戦略」の見直しに向けて、介護者から具体的 な意見や提案を募る新たなキャンペーン「介護者のためのニューディール ? your voice couts (あなたの声が変える)」を発表した。保健省のウェブ・サイト内のキャンペーン・サイトには「アイディアの木」があり、介護者らが書き込む意見はそれぞれ が1枚の葉となる。葉をクリックすると意見を読んだり、その意見に投票することができる仕組み。サイトは9月半ばまで公開される予定。

 またその期間中、各地域の介護者センターを中心に、政府の資金援助を受けたチャリティが協力して介護者の声を直接くみ上げる催しも行われる。Ivan Lewis ケア・サービス大臣は「介護者週間」のインタビューに対して、「全国介護者戦略」の見直しは保健省のみならず政府のすべての省が関与して行われるものだと 語っている。(Medical News Today 6月20日など)

 同じく6月19日には「介護者週間」の代表者らが首相官邸隣のダウニング街11番地で次期首相(当時)のGordon Brown氏と面会。氏は今後広く介護者支援を検討するとの見解を2月に発表した財務大臣でもある。自らも若い日のスポーツで片目の視力を失うという体験 を持つBrown氏は、介護者ニーズへの理解と支援を求めた代表者らに対して、政府はもっと介護者の声に耳を傾け介護者から学ぶ努力をすべきだと答えた。

EUにも介護者支援組織

さらにCare and Health というニュース・サイトによると、6月12日、英国の介護者支援チャリティCaresUKの主導により、EUでも介護者支援団体Eurocarers ? European Association Working for Carers が立ち上げられた。9カ国から15団体が加盟。公式サイトによると、Eurocarersは次の10の指針を挙げ、これらに基づいて私的に無償で介護を担 う介護者への支援を行うとしている。

①認知、②社会参加、③機会均等、④選択、⑤情報、⑥支援、⑦レスパイト、⑧介護と雇用の両立、⑨健康増進と保護、⑩経済的安定。

若年介護者支援にも動き

 英国には現在、病気や障害を持つ親族の介護を担う子どもたちが175000人いると言われる。半数は8歳から15歳。中には5歳の子どももいる。子ども らしい生活は送れず、学校にも満足に通えない子もいるが、ソーシャルサービスに引き離されることを恐れて子どもが介護している事実を親も子も隠すため、周 囲の理解や支援が得られにくい。教師に誤解されたり、いじめにも会いやすく、子どもたちは介護負担と孤立の中で苦しんでいる。若年介護者を支援する組織や ウェブ・サイトが近年急増しているところであり、6月号で紹介したKeeley議員提出の新しい介護者法案にも、若年介護者への支援は大きな柱として盛り 込まれている。

 「介護者週間」には、若年介護者の支援でも大きな動きが見られた。YoungCarersNetというサイトを通じて若年介護者支支援活動を行っている 介護者支援チャリティthe Princess Royal Trust For Carersは、Daily Express紙と共同で6月18日に「若年介護者ライフライン・アピール」と銘打った啓発キャンペーンをスタート。それを機に同団体の創設者であるアン 王女は同紙の記者をバッキンガム宮殿に招いて若年介護者の窮状を語り、支援の必要を訴えた。

 また北アイルランドでは、宝くじ基金からの資金援助を受け、医師会と介護者支援チャリティCrossroads Caring for Carers が合同で「若年介護者プロジェクト」を開始。介護を担っている子どもたちが参加できる活動をCrossroadsが企画し、同じような仲間と接する機会や レスパイトを提供する。(Medical News Today 6月22日。)

若年介護者については、近年の英国の動きを受けて米国でも米国介護連合NACが2003年に初の若年介護者全国調査を実施。05年にまとめられた詳細な報 告によると、米国でも8歳から18歳の若年介護者が130万人程度おり、未支援のまま重い介護負担に苦しんでいると見られる。NACの報告書は、英・豪・ NZなど若年介護者支援先進国の施策に学び、早急に支援を整備すべきだと締めくくっている。

日本で「若年介護者」という言葉すら聞かないのは、わが国には介護者役割を担う子どもが存在しないからなのだろうか……?

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