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ずいぶん前に書いたので、
てっきりエントリーにしているものとばかり思い込んでいたら
まだだったみたいなので、早速、以下に――。

「バイオ化する社会 『核時代』の生命と身体」 粥川準二

 私が「バイオ化」という言葉を知ったのは、去年「現代思想」2月号で粥川氏による「バイオ化する社会 うつ病とその治療を例として」という記事を読んだ時だった。その言葉には、連載「世界の介護と医療の情報を読む」を通して見えてきた世界のありように私自身が感じる懸念や疑問が、より専門的な視点から見事な的確さで捉えられており、読みながら興奮を覚えた。
本書は、著者が同誌に寄せた4本の論考を大幅に加筆・修正したものに、書き下ろし原稿を加え、さらに関連書籍と映画のガイドを添付したもの。昨年の東北大震災以降、被災地に何度も足を運び、原発事故の影響についても詳細に追い掛けながら考察を深めてきたジャーナリストの視点が、最先端科学研究の発展に伴ってバイオ化する社会と、そこに潜む問題点の分析に、深い奥行きを与えている。
 副題の「核時代」の「核」もまた、原子力の「核」と、分子生物学の研究・操作の対象となる遺伝子のありか、細胞の「核」の2つを意味して重なりあう。それもそのはずだ。著者によれば、ヒトゲノム計画そのものが原爆投下後に生存者の細胞への放射能の影響を調べたことに端を発したものだという。
 著者は冒頭「死なせるか生きるままにしておくという古い権力に代わって、生きさせるか死の中へ廃棄するという権力が現れた」と表現されたミッシェル・フーコーの「生‐権力」という概念を紹介する。生きるべきものと死ぬべきものの間に切れ目を入れて支配する権力だ。それは序章でくっきりと描き出される、東北で津波によって引かれた被害を区切る線、高い放射能が検出される地域を区切る線にも象徴されている。
著者はその後、生殖補助医療技術による「家族のバイオ化」、遺伝子医療と出生前診断による「未来のバイオ化」、幹細胞科学による「資源のバイオ化」その他、先端科学の各領域を経巡りながら、そこで何が起こっているかを詳細に検証していく。そして「富む国々と貧しい国々、その中での富む人々と貧しい人々、男性と女性、健康なものと病む者との間に」線が引かれている一方で、バイオ化する社会が「人々を苦しめる社会的因子、いや社会問題を、単なる生物学的な現象へと矮小化」させ、それらの線が見えにくくなってしまう危険性を浮き彫りにする。
最後に、著者は再びチェルノブイリと福島の原発事故に戻ってくる。最終章「市民のバイオ化」だ。バイオ化された市民とは、社会のバイオ化によって人体が資源化されるにつれ、「資源としての価値を生物学的に測られ、品質管理される」存在であることを自らに引き受けていく我々一般市民の姿に他ならない。
 全体を通じて最も興味深かったのは、科学の発達によって社会にひずみが起こるのではなく、元々あった問題が顕在化させられていくのだ、との視点。そこに社会の「痛点」があることは最初から分かっていたはずなのだ。ヒトクローン胚作製研究が韓国のスキャンダルの後にiPS細胞という代替え案によって凍結されたり、津波や地震が原発を止め、いずれ脱原発に向かったとしても、それらは粘り強い議論と検討による結果ではない、との指摘は重い。
代替え案に飛びつく過ちを繰り返さないために、著者は警告する。「バイオ化する社会の『痛点』から目をそむけてはならない」と。

「介護保険情報」2012年6月号
2012.10.24 / Top↑
シカゴで、子どもがまだ生きているうちから死亡宣告されてしまった親Sheena Lane and Pink Dorseyさんが病院を相手取って提訴。Thaddeus Popeは「心臓死後臓器提供DCDのケースではないが、心機能が自発的に戻ったということはDCDのプロトコルで心停止から摘出までの時間の見直しが必要になるのでは」と。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/dorsey-v-chicago-mercy-hospital-nied.html

英国の大学生たちが企画した自殺幇助合法化のディベートに、カナダで12歳の脳性マヒの娘を殺して慈悲殺を正当化しているRobert Latimerが招かれたことについて(本人がビザの申請手続きをミスって実現しなかった)、ラティマー事件は自殺幇助とは無関係だ、との指摘。:まったく、その通り。自殺幇助と慈悲殺はきちんと区別すべき。
http://blogs.theprovince.com/2012/10/23/naomi-lakritz-latimer-has-no-place-in-assisted-suicide-debate/

【関連エントリー】
母親による障害児殺し起訴同日かつての障害児殺しの父親Latimer保釈(2008/3/7)
Latimer事件についてHendersonが批判(2008/3/10)
重症児の娘殺したLatimer「裁判所は正直に」と(2008/3/23)
2010年10月10日の補遺:完全釈放が認められた、とのニュース。


NZで母親の自殺をほう助したとして実刑判決を受けた南アの科学者Sean Davisonが2冊目の本を出版。
http://penguin.bookslive.co.za/blog/2012/10/23/sean-davison-continues-the-story-of-his-mothers-assisted-suicide-in-after-we-said-goodbye/

英国の女性Jan Morganさんが、脳卒中の退院後に在宅介護を軌道に乗せるまで。高齢者介護の具体がなかなか見えないので興味深い。まだ読めていないけれど。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/oct/23/struggle-decent-care-home-stroke

DSMの功罪 小児の障害が20倍 「注意欠陥障害は過小評価されていると小児科医、小児精神科医、保護者、教師たちに思いこませた製薬会社の力と、それまでは正常と考えられていた子どもたちが注意欠陥障害と診断されたことによるものです」「米国では、一般的な個性で会って病気とみなすべきではない子どもたちが、やたらに過剰診断され、過剰な薬物治療を受けているのです」
http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=66961&from=tw

【関連エントリー】
子どもへの抗精神病薬でFDAと専門家委員会が責任なすりあい (2008/11/19)
10年間で精神科薬の処方が倍増(米)(2009/5/7)
「12-18歳全員に定期的うつ病スクリーニングを」と専門家が提言(米)(2009/6/3)
BiedermanスキャンダルでADHDの治療ガイドライン案がボツに(2009/11/23)
米国のティーンの間で処方薬の濫用が広がっている(2009/12/1)
中流の子なら行動療法、メディケアの子は抗精神病薬……?(2009/12/13)
双極性障害で抗精神病薬を処方される2-5歳児が倍増(2010/1/16)
2歳で双極性障害診断され3種類もの薬を処方されたRebeccaちゃん死亡事件・続報(2010/2/22)
欧州でADHD治療薬の安全性調査命じられた調査会社が結束して「不能・不要」と回答(2010/3/7)
拘留施設の子どもらの気分障害、攻撃的行動に抗精神病薬?(米)(2010/10/6)
ADHD治療薬の“スマート・ドラッグ”利用を解禁せよ、とNorman Fost(2010/12/28)
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
ある作家が体験的に推理する「ADHD診断増加のカラクリ」(2012/8/21)


小児科ICUの患者はほぼ全員が適用外の薬の処方を受けている。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251781.php

“新型”出生前診断をめぐって 粥川準二 「バイオ化する社会」の粥川さんがシノドスに。基本的なことをとても分かりやすくまとめてくださっていて、勉強になる。アドレスはコピペ不能なので、検索してください。

こちらも粥川さんで、iPS細胞と放射能問題の社会学的考察 マル激トーク・オン・ディマンド 第601回 「ES細胞にしてもiPS細胞にしても、いずれも人間の体以外の場所で細胞を培養しているという点で倫理面での議論は避けて通れない」「人間が人間の命に関わる分野にどの程度まで足を踏み入れることが許されるのかという原理的な議論ももちろん重要だ。しかし、それと同時に、こうした先端医療技術には、社会の格差の問題が投影される点も見逃してはならない」この辺り、「バイオ化する社会」で指摘されていた「社会の痛点」のこと。:エントリーにしていたつもりだったのに忘れていたみたいなので、「介護保険情報」に書いた「バイオ化する社会」の書評をアップしないと。
http://www.videonews.com/on-demand/601610/002566.php

日本。再生医療実用化、国に責務…臨時国会に推進法案
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121022-00001767-yom-pol

昨日の補遺で拾った、メディケアのルール改正のニュース。集団訴訟の勝利で、実際に慢性病者や障害者に優しいになったみたい?
http://www.nytimes.com/2012/10/24/opinion/a-humane-medicare-rule-change.html

子どもにオーガニック・フードを食べさせることにこだわるのは関心しない、と米小児科学会。:ここはいつかビタミンDサプリを子どもに飲ませろと推奨したことがあるくらいだからなぁ。 ⇒ 子どものビタミンD不足サプリで補えと米小児科学会(2008/10/15)
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251826.php

祖父母が子育てを担っているケースが増えているが、最近の子育てにまつわる安全基準について祖父母は疎い、という問題を小児科学会が指摘。うつぶせ寝とかカーシートとか、ベビーベッドの安全な使用方法とか。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251783.php

里親がゲイでも、子どもには影響はない。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251766.php

英国で一人の16歳以下の少女を長期に渡って繰り返しレイプしたとして9人の男性を起訴。
http://www.guardian.co.uk/uk/2012/oct/23/nine-men-charged-child-exploitation-rochdale

地震予知失敗で禁固6年 伊の学者ら7人実刑判決
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG2204V_S2A021C1CR8000/
2012.10.24 / Top↑
16日の英フィナンシャル・タイムズ社説を翻訳掲載した
22日の日経記事で、

ノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者2人のうちの一人、
アルビン・ロス氏について、以下のように書かれている。

何より有名なのは、ロス氏が腎臓交換の仕組みを設計したチームの一員ということだ。腎不全患者と臓器を提供する意志があるドナーがいても腎臓が生物学的に 適合しない場合、ロス氏の仕組みは同じような状況にあるペアを見つけ出す。患者全員に適合する臓器を見つけるのに必要なだけペアを探すこともできる。


世界をよくするノーベル経済学賞(社説)
(2012年10月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
日本経済新聞 2012年10月22日(月)



ってことは、つまり、
当ブログが拾った以下の話題の、
あの「腎臓ペア交換」の考案者だったということか……。

「腎臓がほしければ、他人にあげられる腎臓と物々交換で」時代が始まろうとしている?(2010/6/30)


このシステムについては、その後、私は「介護保険情報」の連載で紹介した際に、
以下のように書いたことがある。

(チェーン移植で妻に腎臓をもらい、自分の腎臓を提供した男性)ラルフさんはいう。「大切な娘さんが亡くなって妻に命をくれました。それなのに私が『万が一ということもあるから私の腎臓はこのまま持っておきます』というのは、余りにも身勝手というものでしょう」。
しかし、このような物言いが「腎臓がほしければ他人にあげられる腎臓と物々交換で」というに等しい登録制度と合い並ぶ時、そこに“家族愛”を盾に取った暗黙の臓器提供の強要が制度化されていく懸念はないのだろうか。
「介護保険情報」2010年8月号「世界の介護と医療の情報を読む」


そういえば、
生理学医学部門の選考委員会があるカロリンスカ研究所って、
たしか、子宮の移植研究を必死にやっているところだったっけ ↓

2年以内に世界初の子宮移植ができる、と英国の研究者(2009/10/23)
英国女性が娘に子宮提供を決断、OK出ればスウェーデンで移植手術(2011/6/14)
2012年9月27日の補遺:母から娘へ移植2例。

またC型肝炎のDNAワクチンを開発中 ⇒20104月21日の補遺
2012.10.24 / Top↑
ドバイで、四肢マヒ患者Ghulam Mohammedさんに一方的「蘇生不要」DNR指定をし、その後、自分で生命維持装置を切って死ぬまで誰も手を出さないよう監督したオーストリア人の医師EugenAdelsmayrが、殺人罪で無期懲役刑を言い渡されている。ただし事件が起きたのは2009年2月のことで、本人は既に帰国。:またこのニュースを「慈悲殺」という言葉を使って報道するメディアに絶句する。
http://www.news24.com/World/News/Court-sentences-doctor-to-life-in-prison-20121021
http://www.thenational.ae/news/uae-news/health/dubai-doctor-sentenced-to-life-for-mercy-killing

ミシガン州がthe Medical Good-Faith Provision Actにより、18歳までの患者の治療をめぐり無益な治療方針のある病院は求めに応じて患者や家族にそのコピーを渡すことを義務付け。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/michigan-legislation-to-require.html

英国で丁寧な看取りのプロトコルであるはずのLCPが機械的な鎮静と脱水に繋がっていると指摘されている問題で、メディアにはLCPそのものへの誤解があふれているとして、本来のLCPについてのコンセンサス・ステートメントが9月に出されていた。:パスそのものが悪いわけじゃない。それが機械的に運用されていくことで現場スタッフが思考停止に陥ることの問題。そこには社会に「高齢者や重症障害者の命は丁寧な治療にも、救命にも値しない」という価値意識が共有され広がっていることが関係している。それが本当の問題。
http://ja.scribd.com/doc/110654494/Consensus-Statement-Liverpool-Care-Pathway-for-the-Dying-Patient

【関連エントリー】
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的手今日問題 続報(2012/7/12)


今日のWPの医療と健康欄はなにやら密度が高い ↓

オランダで妻を安楽死させた人の体験談がWPに。タイトル「安楽死は私の妻にとって正しい決断だった」
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/euthanasia-was-the-right-decision-for-my-wife/2012/10/22/1b355e96-0bd5-11e2-a310-2363842b7057_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

上の記事と並んで、米国で若年層の患者も入所介護が必要になると高齢者と一緒にナーシング・ホームに入れられてしまう問題の解決の難しさについて。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/moving-people-out-of-nursing-homes-proves-to-be-difficult-despite-federal-funding/2012/10/22/74748e3a-e30f-11e1-ae7f-d2a13e249eb2_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

さらに続いて、米国の医師の給与格差問題。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/disparity-in-pay-divides-doctors/2012/10/22/675233a8-f1e0-11e1-a612-3cfc842a6d89_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

それにさらに続いて、オバマ医療制度改革で保険会社に対して病気の子どもの医療保険を断れないよう規制強化が狙われたが、実際は逆効果となり、子どもの保険を売らない会社が増加中。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/as-many-insurers-drop-child-only-policies-states-try-to-intervene/2012/10/22/da3f739e-16d9-11e2-8792-cf5305eddf60_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

そこからさらに続いて、米国の精神障害者が適切な介入を受けられないままホームレスに転落している問題。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/readers-respond-to-paul-gionfriddos-article-on-the-homeless-mentally-ill/2012/10/22/427cedaa-187f-11e2-9855-71f2b202721b_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

これはNYT。慢性病や障害のある人が在宅医療、ナーシング・ホーム入所、外来治療を受けやすくなる可能性? :タイトルだけからいい話に見えても読んでみないと、こんな弱者切り捨ての時代に??? と先に眉にツバつけてしまうんだけど。ことにWPで上のような記事が並んでいるのを見た後は、なおのこと。
Settlement Eases Rules for Some Medicare Patients: Tens of thousands of people with chronic conditions and disabilities may find it easier to qualify for home health care, nursing home stays and outpatient therapy.

米AARPの介護者実態調査2012
http://www.multivu.com/mnr/54343-genworth-aarp-members-caregiving-service-help-and-advice

英国の認知症患者への向精神薬過剰投与問題。: 関連エントリーはこちらのエントリーの末尾にリンク一覧 ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65665583.html
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251684.php
http://www.medicalnewstoday.com/articles/251758.php

インフルエンザの死亡リスクを軽減するためには学校でのワクチン集団接種を。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251778.php

映画「モンサントの不自然な食べ物」予告編。YouTube. :モンサントについても関連エントリーはあれこれあるけど、とりあえずこれ ⇒“大型ハイテクGM強欲ひとでなし農業”を巡る、ゲイツ財団、モンサント、米国政府、AGRAの繋がり(2011/10/27)
http://www.youtube.com/watch?v=PO7RmRVZs6A

児童期の貧困は遺伝子や免疫システムにも影響。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251739.php

豪のギラード首相に対する野党党首による女性差別発言問題、どんどん醜悪になって「子どもを育てたことがないからだ」、ついに謝罪へ。Guardian記事へのコメント、なんと320件。:そういえばこの前、滋賀県の女性知事のダム建設中止に反発した県議が「失礼ながら、知事はこの政策でマスタベーションをしておられるのでは」と発言をするのを聞いて、不愉快この上なかった。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/oct/23/julia-gillard-misogynist-sexism-baby
http://www.news24.com/World/News/Opposition-apologises-to-childless-Gillard-20121023
2012.10.24 / Top↑
前のエントリーの続きです。

岩尾氏の講演内容を掲載した記事では、

Ⅱ. スイスのExitやDignitasなどの自殺幇助機関について
以下のように書かれている。

……スイスには看取りの家があり、外国から来た人の自殺も看取ってくれる。
 その実態を視察してきた。看取りの家はまったく普通の家である。……(中略)……このような施設を運営しているのは、それなりのしっかりした考えを持った人だろうと思う。
(No.2509, p.21)


スイスで「外国から来た人の自殺」を引き受けているのはDignitasのみなので、
岩尾氏はDignitasのことも含めて「看取りの家」と称していることになるのだけれど、
(岩尾氏が視察したのがDignitasだったのか、その他の幇助機関だったのかは不明)

これが語りのままだとすると、
さしもの日本尊厳死協会理事長も、
Dignitasを運営しているルドウィグ・ミネリのことについては
「しっかりした考えを持った人だ」とはさすがに断言しかねたのだろうか。
強気の発言が続く中で、ここだけは「だろうと思う」とちょっと弱気。

なにしろDignitasについては、
商業的な利益目的でやっている、
自殺希望者への扱いが悪い、
終末期でない人や精神障害者、まったく健康な人まで幇助している、
などの批判が多々、挙げられている。

ミネリは確かに「しっかりした考え」を持っていて、それは
死を望むならば誰でも無条件に自己決定が尊重されるべきだ、というもの。

以下のインタビューから彼の発言を抜いてみると、
Dignitasの内部をGuardianが独占取材(2009/11/19)

ターミナルな病状の人だけでなく死にたい人なら誰でも死ぬ権利があるべきであり、
自分は彼らの死にたい気持ちについて道徳的にどうこう評価することはしない。
道徳といっても、宗教によって多様なのだから道徳は論じない。
自己決定という無神論原則でやっている。


実際に、これまで以下のような事例が報道されてきた。

【23歳の元ラグビー選手Daniel James事件】
Dignitasの自殺幇助で英国警察が捜査へ0(2008/10/17)
息子をDignitasで自殺させた両親、不問に(英)(2008/12/10)
23歳ラグビー選手のDignitas死で、GPの「守秘義務」が論争に(2011/5/26)

【著名指揮者Edward Downes夫妻事件】
英国の著名指揮者夫妻がDignitasで揃って自殺(2009/7/14)

【その他】
「病気の夫と一緒に死にたい」健康な妻の自殺をDignitasが検討中(2009/4/2)
これまでにDignitasで自殺した英国人114人の病名リスト(2009/6/22)
Dignitasで英国人がまた自殺、今度は「老いて衰えるのが怖いから」(2011/4/3)

【その他、Minelli関連】
MinelliはDignitasでボロ儲けしている?(2010/6/25)
DignitasのMinelliが「求められれば健康な人の自殺幇助も」と、またBBCで(2010/7/3)
DignitasのMinelliが「病人だけじゃなく家族にも致死薬を出そうぜい」(2010/10/19)


また、Dignitasは、
自殺者の遺骨をチューリッヒ湖に投棄していたことも明らかになっている。

チューリッヒ湖の底に大量の骨壷、Dignitasが投棄か(2010/4/28)
2010年5月13日の補遺の住民投票関連ニュースに骨壷引き上げ作業の映像
「Dignitasで死んだ人の遺灰がどこでどうなっていようと別に」とDr. Death(2011/5/15)


もう一つ、岩尾氏の発言で気になったのは、
Ⅲ.以下の積極的安楽死と消極的安楽死の定義。

 安楽死には2種類ある。第3者が薬物・毒物を投与して死期を早める積極的な安楽死と、自殺ができる薬を処方する(医師による自殺幇助、服用するのは患者自身)消極的な安楽死だ。最近では臨死介助という言葉に置き換えられるが、このような方法も安楽死の一つと言われる。
(No.2509, p.19)


私の理解では
積極的安楽死は上記の通りで、
commission(すること)によって死をもたらすことだけれど、

消極的安楽死は延命治療の差し控えや中止など 
omission(しないこと)によって死をもたらすこと、と捉えてきたし、

日本での現在の議論でも、以下に見られるように、
だいたいそういう定義が一般的になっていると思う。

例えば、ウィキペディアはこちら ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%89%E6%A5%BD%E6%AD%BB

立命館大学大学院生存学サイト arsviの「安楽死」の定義などについては ↓
http://www.arsvi.com/d/et.htm#l1

富山大学の秋葉悦子氏の「積極的安楽死と消極的安楽死の法的評価」↓
http://pe-med.umin.ac.jp/colloquium4-1.html


つまり、積極的であれ消極的であれ、安楽死は「死なせること」であり、
「自ら死ぬ」自殺を幇助することとは違う。

ところが岩尾氏は
消極的安楽死とは自殺幇助のことであると一般的なものとは異なった定義を示し、
さらに、その自殺幇助を「臨死介助」という言葉に置き換えてみせる。

こうして岩尾氏が言う「安楽死」には
われわれが普通に考えている積極的安楽死と消極的安楽死に加えて自殺幇助までが
含まれてしまっている。

なにやら妙な言葉の操作が行われているような気味の悪さを感じるのは
私だけ???


Ⅳ.家族からの圧力を受けたり、家族への配慮で死ぬことを選択する人があっても
それで構わない、と岩尾氏は考えているらしい。

この個所には絶句してしまってコメントする言葉が出ないので、
とりあえず引用のみにしておく。

 それから、自己決定権というが、家族に迷惑がかかるから呼吸器をつけないといった意見がある。家族からの圧力ではないかというのだが、しかし、そのように決めたことこそ自己決定であり、第三者が自分の価値を押し付ける話ではない。本人がそれでいいと言ったら、それは自己決定なのである。
(No. 2510 p.30)



【関連エントリー】
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」1(2008/3/2)
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」2(2008/3/3)
「尊厳死を巡る闘争:医療危機の時代に」3(2008/3/3)
尊厳死協会の世界連盟(2008/3/13)
死ぬ権利協会世界連合がFENについて声明を発表(2009/3/10)
立岩真也氏の「死の変わりに失われるもの」から、改めて「分かっている」の証明不能は「分からない」の証明ではないことについて(2009/12/17)
日本尊厳死協会・井形理事長の「ダンディな死」発言(2010/3/2)

なお、10月16日に行われた日本宗教連盟による
第6回宗教と生命倫理シンポ「いま、尊厳死法制化を問う」については ↓
http://www.arsvi.com/d/et-2012.htm
2012.10.24 / Top↑
「社会保険旬報」のNo.2509(2012.10.1)、No.2510(2010/10/11)に、
「尊厳死のあり方 ―― リビングウィルの法制化」と題して
医療経済フォーラム・ジャパン主催の第59回定例研修会(8月24日)で
日本尊厳死協会理事長の岩尾聰一郎氏が講演した内容が掲載されている。

その中で
私には不可解な個所がいくつかあるので、そのうちの4点について。
(もっとも、記事はあくまでも講演内容を記者が取りまとめたものなので、
細部には実際の発言内容との齟齬がある可能性も否定はできませんが)

なお、論点ごとの詳細は関連エントリーをリンクしておりますが、

英国に関する大筋での事実関係は
昨日のエントリーで取りまとめたBBCの記事でも確認できますので、ご参照ください。


Ⅰ. まず、英国について触れられている以下の個所。

多発性硬化症のパーディさんは、「自分が意識がなくなったときには、自分を介助して死ぬようにしてくれ」と言って、誰かが手伝ったときにその人が訴追されないことを確認する裁判を起こした。
 そのときに裁判所は、訴追には法務総裁の同意が必要だが、どういう場合に訴追されるのかされないのかはっきりせよという判決が出た(09年)。それから3年かかって「臨死介助に関する委員会(The Commission on Assisted Dying)」が今年1月に最終報告を出し、次のように適格基準を示した。
(1) 18歳以上
(2) 「終末期の病状」=12か月以内に患者が死を迎える見込みがあり、段階的に進行する不可逆な状態
(3) 「自発的な選択」=任意性と強制されないこと
(4) 「当事者の意思決定能力に関する評価(精神的能力)は必要不可欠」
(No.2509, p.20)


最初にひとつ訂正しておきたいこととして
Debbie Purdyさんが裁判所に訴えたのは
「意識がなくなった時には自殺幇助を」ではなく、

「病気が進行したら、いずれスイスのDignitasへ行って死ぬことを考えている。
その時に夫が私に付き添って行っても、帰国後に訴追されない保証が欲しい」だった。

高等裁は、
自殺幇助が違法行為である以上、彼女が求めているのは法改正に等しく、
それは裁判所ではなく議会の仕事だとして、パーディさんの訴えを却下。

その後、彼女の上訴を受けて、最高裁が
Director of Public Prosecution(DPP)に対して起訴するしないの基準の明確化を求めた。
そして出されたのが10年2月のDPPのガイドラインだった。

【Purdyさん関連エントリー】
MS女性、自殺幇助に法の明確化求める(2008/6/27)
親族の自殺協力に裁判所は法の明確化を拒む(2008/10/29)
自殺幇助希望のMS女性が求めた法の明確化、裁判所が却下(2009/2/20)
Debby PurdyさんのBBCインタビュー(2009/6/2)
自殺法改正案提出 Falconer議員 Timesに(2009/6/3)
MSの教育学者がヘリウム自殺、協力者を逮捕(英)(2009/6/26)
作家 Terry Pratchett ”自殺幇助法案”を支持(2009/7/1)
英国医師会、自殺幇助に関する法改正案支持動議を否決(2009/7/2)
英国上院、自殺幇助に関する改正法案を否決(2009/7/8)
Purdyさんの訴え認め、最高裁が自殺幇助で法の明確化を求める(2009/7/31)
Purdy判決受け、医師らも身を守るために方の明確化を求める(2009/8/15)
法曹関係者らの自殺幇助ガイダンス批判にDebbie Purdyさんが反論(2009/11/17)
Debbie Purdyさんが本を出版(2010/3/22) 

【ガイドライン関連エントリー】
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 1(2010/3/8)
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 2(2010/3/8)
英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴(2010/3/26)
警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15)


私はこのDPPを「公訴局長」と訳してきたけれど、
それが岩尾氏の言う「法務総裁」と同じなのかどうかはわからない。
それは訳語の問題にすぎず、とりあえず大した問題ではないと思うのだけれど、

私が疑問を感じるのは、

① パーディ裁判の判決は
DPPに対して起訴判断の明確化を求めたものであり、
DPPはそれを受けて9年秋にガイドラインの暫定案を、
翌10年2月には最終ガイドラインを出した。

つまり、パーディ裁判の判決を受けた動きは
10年2月のガイドラインで終結を見た。

ところが岩尾氏の発言では、
DPPのガイドラインについてまったく触れられておらず、
パーディ裁判の判決を受けた「臨死介助に関する委員会」が3年もかかって報告を出して、
「適格基準をしめした」かのように聞こえる。

② DPPのガイドラインでは
 自殺幇助を受けた人についての「適格基準」が暫定案の段階では設けられていたが、
 最終のガイドラインからは外されて、どのような人であるかは問わないこととされている。

したがって、パーディ裁判によって
自殺幇助を受けられる人の「適格基準」が示されたかのように
岩尾氏が語っているのは事実誤認であり、ミスリーディングだと思う。


③ 岩尾氏がここで言及している
The Commission on Assisted Dyingが立ち上げられたのは2010年11月。

立ちあがった当時のメディア報道では
あたかも上院議会にそうした委員会が設けられたかのような印象だったけれど、実際には、
アルツハイマー病で、自殺幇助合法化を求めて熱心に活動している
作家のPratchette氏から資金が提供され、

2009年の自殺幇助合法化法案の提出者であったFalconer上院議員を委員長に、
「合法化支持の立場に偏っている」「公正ではない」と批判の多いメンバーを集めた、
昨日のBBCの記事が言う independentな、いわば私的な委員会。

(そもそも Assisted Dying という表現そのものを、
安楽死・自殺幇助合法化推進の立場の人でなければ使わないはず)

つまり、この委員会の報告は
パーディ訴訟とはまったく無関係だし、
その報告書の「適格基準」にも法的意味があるわけではない。

次のエントリーで、スイスに関する個所その他について。
2012.10.24 / Top↑
BBCが、スイスのDignitasで英国人が自殺するようになってからの10年間の
自殺幇助合法化問題をめぐる動きをとりまとめている。

Assisted suicide: 10 years of dying at Dignitas
BBC, October 21, 2012


内容としては、これまで当ブログが追いかけてきた通りなのだけど、

注目情報は、

Next year a bill on assisted dying will be tabled in the House of Lords
来年、幇助死に関する法案が上院議会に提出されることになっている。


英国のメディアは意図的になのか無意識になのか、この問題では用語の選択にあまりにも不注意で、
それ自体がすべり坂の証でもあり、またもしや、すべり坂を意図して敢えてぐずぐずにした議論か、と
私は以前から懸念しているのだけれど、

ここでも assisted dying という文言が用いられている。

自殺という言葉を含んで assisted suicide (自殺幇助 幇助自殺)という場合には、
あくまでも決定的な行為を本人が行う自殺の幇助行為しか含まないが、

assisted dying (死の幇助 幇助死)という場合には、
そこに安楽死や慈悲殺までが含められる幅の広さがある。
(ちなみに「慈悲殺」は法律用語ではなく法的には「殺人」)

また、日本の議論にもそういう言い変えが少しずつ混じり込んできているようなのだけど、
さらに消極的安楽死(延命の差し控えや中止)までをそこに含めることもあり、
そうなると一体何の話をしているのか曖昧なまま議論が進められてしまうリスクが大きい。

ちなみに、
英国上院、自殺幇助に関する改正法案を否決(2009/7/8)


それから、もう一つの注目情報は、

France and Spain are currently considering a reform of their laws.
フランスとスペインが現在法改正を検討中。


フランスとスペインと聞くと、どちらも、
例の「救済者兄弟」が既に生まれている数少ない国のうち2つだな……と連想する。

          ―――――

それはともかく、
この記事から事実関係のみを再確認的に拾って整理しつつ、
当ブログの関連エントリーをリンクしてみる。

(いずれも関連エントリーが多数あるため、なるべく見つけられる限り直近で
その他のリンク一覧を含むエントリーを挙げました)


英国人が初めてスイスのDignitasで自殺したのは1998年。
末期がんの男性だった。妻と息子と娘に付き添われて死んだ。

その後、現在までにスイスで自殺した英国人の人数は182人。
2002年から平均して毎年18人の英国人がスイスで自殺している。
付き添っていった家族で起訴された者はいない。

スイスDignitasで幇助自殺とげた英国人100人に(2008/10/3)
Dignitasに登録の英国人800人(2009/6/1)
これまでにDignitasで自殺した英国人114人の病名リスト(2009/6/22)
Dignitasで英国人がまた自殺、今度は「老いて衰えるのが怖いから」(2011/4/3):その他関連は末尾にリンク一覧


Dignitasで自殺した著名人としては、
Anne Turner医師、Peter Smedley、Jackie Meacock。

また、その10年間に起きた主な訴訟としては
Diane Pretty, Debbie Purdy, Tony Nicklinson の訴訟がある。

ダイアン・プリティ事件 (arsviサイト)
Debbie Purdyさんが本を出版(2010/3/22): 関連は末尾にリンク一覧
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23): 関連は冒頭にリンク一覧


Purdy 訴訟を受けてできたのが10年2月のDPP(公訴局長)のガイドライン。

が、このガイドラインは
あくまでも近親者による自殺幇助の起訴をめぐる判断基準を示したものにすぎず、
自殺幇助はあくまでも1961年の自殺法で14年以下の懲役刑とされる違法行為である。

警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15): 関連は末尾にリンク一覧


英国医師会、PG学会、緩和医療学会は法改正に反対の立場。
2006年の英国医師会の調査では7割が法改正に反対。

英国医師会、自殺幇助に関する法改正支持動議を否決(2009/7/2)
英国介護学会が自殺幇助について反対から中立へスタンスを転換(2009/7/25)
英国の医療教育機関が自殺幇助合法化反対を確認(2010/7/7)


政府は2008年に終末期戦略を刊行し、
終末期医療に関して患者の選択肢を広げることを目指した。

Peter Sanders医師が率いるCare Not Killingなど反対運動が展開される中、
作家のTerry PratchettがDignitasで自殺する英国人男性に密着して
BBCのドキュメンタリーを作るなど、
自殺幇助合法化キャンペーンも活発に展開されている。

「PAS合法化なら年1000人が死ぬことに」と、英シンクタンクが報告書(2010/10/26)
BBC、人気作家がALS患者のDignitas死に寄り沿うドキュメンタリ―を作成(2011/4/15)
6月にホテル王のDignitas死場面をBBCが放送(2011/7/30)


また、Pratchettが資金を提供して立ちあげた独立の委員会
the Commission on Assisted Dying (幇助死に関する委員会)から、
終末期のケアの保障と弱者保護のセーフガードを前提に
患者には死をめぐる自己決定が認められるべきだとの報告が出されている。

英国Falconer委員会「自殺幇助合法化せよ」提言へ(2012/1/2)


ちなみに、BBCは露骨な合法化ロビー報道で批判されて久しい ↓
「BBCは公金を使って安楽死を推進している」と議員らが批判(2010/2/5)



【関連のまとめエントリー】
英国における自殺幇助関連の動き: エントリー一覧(2009/6/1)
2009年を振り返る:英国の自殺幇助合法化議論(2009/12/26)
2010年のまとめ:安楽死・自殺幇助関連のデータ・資料(2010/12/27)
2011年のまとめ:安楽死・自殺幇助合法化関連(2011/12/26)
2012.10.24 / Top↑
昨日のエントリーで掘り出してきた過去の補遺の断片を見ていたら、
読みたいと思ってそのままになっていた去年12月のProPublicaの記事が
とても気になってきたので、読んでみた。

これまで向精神薬や骨減少症や心臓ステントなどを巡って報じられてきたスキャンダルの構図と全く同じで、
具体的な名前や数字をイチイチ挙げるのも空しい気分なのだけれど、我慢して一応整理してみる。

なお、鎮痛剤関連のこれまでのエントリーは以下 ↓
“薬の自動販売機”医師が被害者の親から訴えられて「法制度を悪用するな」と逆訴訟(2011/8/28)
ビッグ・ファーマのビッグな賠償金(2012/7/4)


今回の記事で問題になっているのはオピオイド鎮痛剤の過剰処方と、
その背景にある製薬会社のえげつないマーケティング。

ビッグファーマ自前の患者支援団体と、
ファーマと癒着した専門家とによる……。

(オピオイドと麻薬とは違いがあるようなのですが
記事では表現が混在しており、私には区別して使うことが難しいので
ここではオピオイドで通しますので、あしからずご了解ください)

まず問題の深刻さを記事から拾ってみると、

米国でオピオイド鎮痛剤の過剰摂取で死ぬ人は年間15000人に近く、
ヘロインとコカインによる死者を合わせてもこれには及ばない。
州によっては年間の交通事故死より多い。

去年1年間で、米国では85億ドルものオピオイド鎮痛剤が売れた。
全アメリカ国民が1日中、1カ月間に渡って使っていられる量だという。

そのうち31億ドル分が OxyContin。
2006年の7億5200万ドルから売上が急増していることが分かる。

他では、Vicodin, Percocetなど。

CDC(米国疾病予防管理センター)のディレクターは
「今現在、医療全体がオピオイド漬けになっている。
オピオイドは依存性があって、依存症を起こす薬なのに」

2005年にVI州で、薬の違法売買で50の罪で起訴されたWilliam Hurwitz医師の裁判がすごい。
一人の患者に1日に1600錠もの Roxicodone鎮痛剤を処方したという。

また、過剰処方で依存症になった患者からの集団訴訟や
Purdue社がOxyContinのリスクを隠したとして患者が訴えたことも。

こうした訴訟で、法廷の友の意見書を出したり、
関係者である医師に専門家として証言させるなどして介入し、

また米国議会が規制に乗り出そうとするたびに、それら専門家を使ったロビー活動で
「痛みに苦しんでいる患者が困ることになる」と訴えて抵抗してきたのが

記事が問題にしている the American Pain Foundation(APF)。

APFは、痛みに苦しむ患者の米国最大のグラス・ルーツのアドボケイトを謳い、
依存リスクは大げさに言われ過ぎている、
鎮痛剤はまだ十分使われていない、と主張する。

公式サイトの患者へのガイドでは、
やはりオピオイドのリスクは控えめに、利益が過大に書かれている。
慢性痛に効くエビデンスは少ないという情報はどこにもない。

その著者は、上記、訴訟やロビー活動で大活躍の疼痛専門医。
このガイドの内容については、APFそのものが
「最先端の知見からは遅れているのでアップデイトが必要」と認めているそうな。

活動資金の約9割が製薬会社から出ている。
理事の中には製薬会社との金銭繋がりがある研究者や医師が含まれており、
そのうちの一人は、製薬会社Cephasonの資金で研究をして
癌患者にのみ認可されている同社の鎮痛剤が癌患者以外にも安全であると
同社社員と共著論文を書いていたりする。

しかし、その一人で、APFのトップだったScott Fishman医師は
退任することになったとたんに「私はずっとAPFの主張と同じ意見だったわけではない。
オピオイドは使われ過ぎているし、依存性もあると思う」。

Physicians for Responsible Opioid Prescribing
(責任をもってオピオイドを処方する医師の会)という組織があるというのもすごいけど、
その会を率いる医師は、議会が操作されてしまう背景に、
APFはオピオイドを作っている製薬会社そのものだということを
政治家が知らないからだ、と指摘。

ついでに追記しておくと、FDAの薬の安全とリスク管理諮問委員会の委員長は
「製薬会社のカネをもらっていて、患者のアドボカシー団体として活動していれば、
必然的にバイアスがかかっている。そういうところの言うことは私は全部マユツバで聞きますね」

以下、2つ目の記事には、
オピオイド鎮痛剤のプロモで、向精神薬でのBiederman医師のような役割を担ってきた
Scott Fishman、Perry Fine 両医師の製薬会社との金銭繋がりと、
それらの製薬会社のプロモへの貢献活動の詳細が報告されている。

The Champion of Painkillers
ProPublica, December 23, 2011
Two Leaders in Pain Treatment Have Long Ties to Drug Industry
ProPublica, December 23, 2011


【いわゆる“Biedermanスキャンダル”関連エントリー】
著名小児精神科医にスキャンダル(2008/6/8)
著名精神科医ら製薬会社からのコンサル料を過少報告(2008/10/6)
Biederman医師にさらなる製薬会社との癒着スキャンダル(2008/11/25)
Biederman医師、製薬業界資金の研究から身を引くことに(2009/1/1)

【その他、08年のGrassley議員の調査関連】
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書(米国)(2008/11/17)
抗ウツ剤めぐる研究者と製薬会社の癒着スキャンダル報告書 Part2(2008/11/23)
今度はラジオの人気ドクターにスキャンダル(2008/11/23)

最近のものでは例えば、↓
「製薬会社に踊らされて子どもの問題行動に薬飲ませ過ぎ」と英国の教育心理学者(2011/1/18)
ジェネリックを売らせないビッグ・ファーマの「あの手この手」が医療費に上乗せられていく(2011/11/15)

あと、この問題を一貫して調査し報道しているProPublicaのシリーズの一つがこちら。↓
(ここにも鎮痛剤関連のスキャンダルが出てきています)
ProPublicaが暴く「ビッグ・ファーマのプロモ医師軍団の実態」(2010/11/2)


【骨減少症関連エントリー】
骨減少症も“作られた”病気?……WHOにも製薬会社との癒着?(2009/9/9)
更年期は、ビッグ・ファーマの提供でお送りしました……(2009/12/14)
ビッグ・ファーマが当てこむ8つの“でっちあげ病”(2010/4/17)

【米不整脈学会、高血圧学会を巡るスキャンダル関連エントリー】これもGrassley議員の調査で明らかに
学会が関連企業相手にショーバイする米国の医療界(2011/5/11)
1つの病院で141人に無用な心臓ステント、500人に入れた医師も(2011/5/15)
2012.10.21 / Top↑
昨日のニューヨーク・タイムズに
“鎮痛剤問題”への取り組みの一環で
製薬会社と薬局や医師との間を取り結ぶ卸業者への
規制が強化されている、という話題があったので、↓

http://www.nytimes.com/2012/10/18/business/to-fight-prescription-painkiller-abuse-dea-targets-distributors.html?pagewanted=all&_r=0


この話題、エントリーはこのくらいだけど ↓
“薬の自動販売機”医師が被害者の親から訴えられて「法制度を悪用するな」と逆訴訟(2011/8/28)

補遺ではあれこれと拾ってきたような気がして、
ざっと検索してみたら、こんなにあった ↓


2009年7月1日の補遺
処方薬の鎮痛剤 Percocet と Vicodin は禁止に、薬局で買えるTylenolは一回量を減らすべき、とFDAアドバイザー。これらに含まれる acetaminophenに肝臓を害する可能性。 日本の鎮痛剤は? 米国の薬の一回量って、日本のよりもずいぶん多いんだったっけ?
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/06/30/AR2009063004228.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53603326.html


2010年9月14日の補遺
鎮痛剤などの処方薬への中毒者が増え、他人の家に盗みに入る事件が増えている。
http://www.nytimes.com/2010/09/24/us/24drugs.html?th&emc=th
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/61698101.html


2011年9月1日の補遺
NY Timesに、8月28日のエントリーで取り上げたpill mill(“処方薬の自動販売機”クリニック)に関する記事があり、フロリダ州がオピオイド系鎮痛剤Oxycodoneの違法な流通経路を遮断しようと法改正。:このpill mill問題、大きな社会問題となりそうな気配。
Florida Shutting ‘Pill Mill’ Clinics: Officials have implemented tougher laws in an effort to disrupt an illegal pipeline for prescription for drug Oxycodone.
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/63915702.html


2011年9月18日の補遺
例えばイーライ・リリー社が Zyprexa の違法マーケッティングで有罪を認め、刑法違反の罰則金と4つの民事訴訟の和解金とで総額140億ドルを払ったケースや、Alpharma が鎮痛剤 Kadian の処方で医師にキックバックを払っていた疑いで4250万ドルを支払ったケースなど、ビッグ・ファーマが罰則を支払っている場合にも、関与した医師は無罪放免されていることの不思議を、例によってProPublicaが。
http://www.propublica.org/article/doctors-avoid-penalties-in-suits-against-medical-firms
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64018713.html


2011年11月11日の補遺
「米国における鎮痛剤の非医療的利用について」Lancetに報告。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2811%2961723-6/fulltext?elsca1=ETOC-LANCET&elsca2=email&elsca3=segment
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64316868.html


2011年12月25日の補遺
米国の鎮痛剤の過剰投与による死者は場所によっては覚せい剤による死者よりも上回っている。ここにも大物研究者とビッグ・ファーマの癒着の構図。2本目の記事の冒頭で名前が挙がっているのはDr. Scott FishmanとDr. Perry Fine。
http://www.propublica.org/article/the-champion-of-painkillers
http://www.propublica.org/article/two-leaders-in-pain-treatment-have-long-ties-to-drug-industry
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64535649.html


2012年7月13日の補遺
米国の検死制度の怠慢と機能不全を暴いているProPublicaのシリーズ最新記事。2004年に腎臓結石の手術 で入院中、鎮痛剤を出された直後に心臓マヒで死んでいるのが発見された男性(61)。病院側は男性の心臓を今だに保管していて、妻に返そうとしない。検死 が行われるのは病院死の5%のみで、遺族側には死因が分からないままというケースが少なくない。
http://www.propublica.org/article/cardiac-arrest-hospital-refuses-to-give-widow-her-husbands-heart
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65318220.html
2012.10.21 / Top↑
10月は、オーストラリアの介護者週間。

いつからだったか記憶にないほど幼い頃から
精神障害のある母親の介護を担ってきたヤングケアラーの語りが紹介されている。

Shayley Willsonさん。

年齢が記事には明記されていないけれど、
内容から推測すると、現在19歳……?

Shayleyさんの語り部分を以下に。

「(母の介護は)ずっと意識することもなくやっていました」

「別にどこかで、やらなくちゃと思って介護を始めたというんじゃなくて、
自然に成長とともに介護するようになったんです」

学校から帰った瞬間から夜寝るまでフルタイムで母親の介護をしている自分と同じことを、
子どもはみんなやっているのだとばかり、長い間、思っていた、という。

「気がついたのは小学校の2年生の頃だったかな」

「お昼から友達が遊びに来た時に、
『なんでお母さんのこと何もかもしてあげてるの?』って」

「それで、あぁ、みんなやってるわけじゃないんだ、って分かったんです」

母親の症状が悪化したために
高校2年生で中退せざるをえなくなり、
その後、夜間学校で2年かけて3年生を終えた。

次の目標は、母親と祖母を病院や買い物に連れていくために
運転免許をとること。

「免許が取れたら、いいなぁ、
そしたら、夢がみんなかないます。

母さんは車を持っているから、それを運転すればいいし。
あとは免許だけなんです」

Shaylene Willson: Life as a Full-time Carer
612 ABC Brisbane, October 18, 2012


【2008年の豪介護者週間より】
今日から豪介護者週間……because I care(2008/10/19)
You are only human: 介護者だって生身の人間なのだから(2008/10/30)
介護者も自分を大切にしましょう(2008/10/31)
自分の気持ちを理解して受け入れる(介護者のために)(2008/10/31)
自己主張をしましょう(介護者のために)(2008/11/1)


【その他の関連エントリー】
17歳のヤング・ケアラー、ロンドン5輪の聖火ランナーに(2011/12/9)
統合失調症の母親を持つ子供の回復過程(夏苅郁子論文)(2012/8/9)
英「全国介護者戦略」モデル事業の総括報告書 リーズ大から 1(2011/12/28)
英「全国介護者戦略」モデル事業の総括報告書 リーズ大から 2(2011/12/28)

英国介護者週間
「介護保険情報」2007年8月号 連載「世界の介護と医療の情報を読む」
英国BBCが若年介護者特集
「介護保険情報」2011年1月号 連載「世界の介護と医療の情報を読む」
2012.10.21 / Top↑
MA州の住民投票が近づき、自殺幇助合法化議論が過熱している。結構、反対論も目につくのだけれど、やっぱりもう流れは決まっているのだろうなぁ……と思ってしまうところが空しい。
http://www.salemnews.com/opinion/x1684126269/Column-Vote-no-on-Question-2
http://doughtyblog.dailymail.co.uk/2012/10/what-about-the-seriously-ill-or-disabled-people-who-want-to-live.html
http://www.thebostonpilot.com/article.asp?ID=15213
http://www.thebostonpilot.com/article.asp?ID=15219
http://articles.boston.com/2012-10-12/letters/34377248_1_suicide-true-compassion-physician
http://www.patriotledger.com/news/x1787480220/Opponents-gather-support-to-fight-assisted-suicide-ballot-question

英国でまた患者と家族に無断でDNR(蘇生不要)指定の“無益な治療”Flockhart事件。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/flockhart-v-basildon-hospital-yet.html

英国では、ここ数年、
本人にも家族にも知らせずに一方的にDNR指定がされるケースが激増している ↓
“終末期”プロトコルの機械的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
肺炎の脳性まひ男性に、家族に知らせずDNR指定(英)(2011/8/3)
高齢者の入院時にカルテに「蘇生無用」ルーティーンで(英)(2011/10/18)
高齢者には食事介助も水分補給もナースコールもなし、カルテには家族も知らない「蘇生無用」……英国の医療(2011/11/14)
ケアホーム入所者に無断でDNR指定、NHSトラストが家族に謝罪(英)(2012/5/8)
「ダウン症だから」と本人にも家族にも無断でDNR指定(英)(2012/9/13)


イタリア議会に、トランスヒューマ二ストの議員が誕生。Giuseppe Vatinnoさん。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10270

Journal of Medical Ethicsにトランスヒューマ二ストが続々と登場して超人類を作ることの倫理問題を論じているらしい。:私は2007年の“アシュリー療法”論争で擁護論をぶつ人たちの中に一種独特の風変わりな人たちがいるなぁ、と思って検索することによってTH二ストの存在を知った(詳細はトランスヒューマ二ズムとは?のエントリーを始め、「トランスヒューマ二ズム」の書庫に)。ショックを受け、大きな危機感を抱いた。それでもまだ当時は「極端なことを言う人たち」という印象だったけど、でもその後の6年間に科学とテクノがさらに発達し、米国社会を中心に世の中の方がTH二ストに追いついてきたような感じがある。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10271

インサイダー取引など3つの罪で近く判決が出る予定のゴールドマン・サックスの前頭取Rajat Guptaに温情ある判決を、とビル・ゲイツと前国連事務局長コフィ・アナン。
www.ibtimes.com/rajat-gupta-gets-letters-support-bill-gates-kofi-annan-ahead-his-sentencing-846017

アブ・ダビの皇太子がビル・ゲイツの慈善を呼び掛ける講演を聞いていたく感激。
http://www.khaleejtimes.com/kt-article-display-1.asp?xfile=data/nationgeneral/2012/October/nationgeneral_October191.xml§ion=nationgeneral

カナダの世論調査で臓器提供増えるなら金銭的インセンティブも支持。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/250802.php

ドナーの遺伝子変異1つを調べれば、腎臓が移植後に長く持つかどうかが判明する。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251419.php

日本臨床倫理学会が誕生。
http://www.j-ethics.jp/

日本。「使えるお金1日1000円しかない」生活保護受給者の発言に異論 「むしろ最低賃金や年金の低さを叩くべきで、叩くべき相手を間違えていると思います」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121014-00000001-jct-soci

大阪でホームレス5人襲われる 1人死亡2人けが
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121014-00000022-asahi-soci

日本。<入れ墨調査>拒否・戒告のバス運転手、大阪市を提訴
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121015-00000031-mai-soci
2012.10.21 / Top↑
15日に東大の研究会で、アシュリー事件がフェミニスト現象学の視点から論じられる模様。
http://utcp.c.u-tokyo.ac.jp/events/2012/10/the_8th_meeting_of_the_study_g_2/

Taylorさんの死でまたぞろ過熱しそうなカナダの自殺幇助合法化議論で、自殺幇助よりも緩和ケアを、と医師。
http://bc.ctvnews.ca/focus-on-palliative-care-not-suicide-doctor-1.991011

スイスのデータから、自殺幇助を合法化しても自殺したい人が増えるわけではない、との調査結果。
http://www.wired.com/wiredscience/2012/10/legal-assisted-suicide/

アブ・ダビのメディア・サミットでビル・ゲイツが基調講演。各国政府や富裕層からの寄付だけが世界中の貧しい人たちを救う唯一の手段だ、と。
http://gulfnews.com/business/economy/donations-only-means-to-solve-issues-bill-gates-1.1087217

そのサミットで、「大統領選に出馬の意志は?」と問われて、ゲイツ氏は「ない」と答えたとか。:ビル・ゲイツをアメリカ大統領に、と考える人たちもいるのかぁ。まぁ、いるだろうなぁ。私は頭に浮かんだこともなかったけど。だって、彼にすれば別に今さら一国の大統領になる必要なんか、ないんじゃないのかなぁ。
http://www.cbsnews.com/8301-205_162-57529076/bill-gates-says-hell-never-run-for-office/

ゲイツ財団、パキスタンでの家族計画と医療に関してAman 財団と5年間の提携。
http://www.wam.org.ae/servlet/Satellite?c=WamLocEnews&cid=1290001168998&p=1135099400124&pagename=WAM%2FWamLocEnews%2FW-T-LEN-FullNews

ゲイツ財団がポリオ撲滅や農業改革などでイスラム開発銀行と連携へ。
http://www.equities.com/news/headline-story?dt=2012-10-10&val=572832&cat=finance

9月19日にGilles-Eric Seraliniらから遺伝子組み換え作物には健康被害のリスクありとの報告が出たけど、科学者から非難ごうごうらしい。:こういう話題となるとメディアの書き方も俄かに懐疑的なトーンになる。世の中の不況が深刻になればなるほど、科学者は研究資金をバイオ資本に頼らざるをえなくなるだろうし。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251284.php

NYT。突然の髄膜炎の多発にステロイドとの関連? 昨日もこのニュースはNYTに出ていた。:ちなみにNorman Fostはステロイドのエンハンスメント利用解禁論者で「ステロイドの副作用など問題にならない」と言ってきた。
After a Meningitis Death, Family Members Ask Why: Diana Reed received a series of steroid injections to alleviate her neck pain. She later died, one of more than 130 people to have contracted meningitis in a national outbreak.

バイアグラを使ったVegas Mixxという薬物にも、髄膜炎との関連?:読んでいないけど、上の記事の流れ?
http://www.propublica.org/article/what-a-failed-vegas-sex-pill-and-the-meningitis-outbreak-have-in-common

【関連エントリー】
アシュリー論争にも出てた「ステロイドの専門家」Norman Fost 1(2007/8/11)
A両方擁護の2人ドーピング議論に(2008/1/26):FostとSavulescuの接点がここに
ある作家の違法ステロイド体験(2008/6/10)
違法ステロイド体験から思うこと(2008/6/10)
ステロイドの副作用は過小に報告されている(2008/6/10)
オリンピック選手は人体肝臓実験マウスなのか?(2008/8/20)
(Fostが、ステロイドの副作用説には「医学的根拠はない」と発言している)


先天異常のある胎児への胎児段階での手術が予後を改善?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251287.php

精神疾患も肥満も遺伝子変異?
http://www.medicalnewstoday.com/releases/251271.php

Nova Scotiaで療養介護病床44床を在宅患者のレスパイトに転換。:こういう動きは広がるかも?
http://www.cbc.ca/news/canada/nova-scotia/story/2012/10/10/ns-respite-care-beds.html

NYT。米で、テキサス州の訴訟を機に、大学入学を巡るアファーマティブ・アクション(マイノリティに優先的に入学枠を設けるなど)が論議に。
Race-Conscious Admissions in Texas: The Fisher case is testing the Supreme Court’s fidelity to precedent and its faith in universities.

パキスタンで、女性にも教育を受ける権利を訴えた14歳の少女Malala Yousafzaiさんが、タリバンに撃たれた。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/oct/09/taliban-pakistan-shoot-girl-malala-yousafzai
2012.10.21 / Top↑
無益な治療ブログのThaddeus Popeが「英国のRasouli事件」だと言っていたMr. Lの無益な治療訴訟で、イスラム教徒の教えに反すると抵抗する家族の訴えを裁判所が却下して、「意味のある生の延命にならないなら」治療は中止すべきだと医師サイドの言い分を認めた。Right to life 事件。「生きる権利訴訟」なのね。こういうのは。「死ぬ権利」と比べると、なんとも地味。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-19873175

英国人の妻を持つ米国人ジャーナリストが、義理の父親の死に際して、英国の病院ではリヴァプール・ケア・パスウェイ(LCP)が既に当たり前となっている状況を紹介し、英国型の死に方を推奨している。:いきなり「もうできることはありません」と医師が患者に宣告する場面を紹介しておきながら、記事途中では「LCPは患者の選択の問題」はないんじゃないか、と思うけど。
http://www.nytimes.com/2012/10/08/opinion/keller-how-to-die.html?pagewanted=all

【関連エントリー】
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的運用問題 続報(2012/7/12)


ジンバブエから英国に渡り住み込み介護者として働いていた女性Ntando Moyoさん(35)が、住み込み先の家のシャワー室で死んでいるのが見つかった。捜査しても原因は不明のまま、というのだけれど、家族は捜査に不満。怒っている。: 非常に気がかりな記事。2006年に既に東南アジアからカナダへの介護者の出稼ぎは人権侵害、事実上の奴隷制度として問題となっていた。(関連は以下にリンク)そういう人たちの不審死だから……ということはあってはならないけれど。
http://www.newzimbabwe.com/news-9240-Carers+death+in+shower+unexplained/news.aspx

【関連エントリー】
“現代の奴隷制”輸出入される介護労働(2009/11/12)
世界の「奴隷労働」を、拾った記事から概観してみる(2011/1/20)


Telecare(テクノロジーによる遠隔介護)は「介護者支援」とアピールする記事がこの前から目につく。:いつか、これが「介護者支援」として売り込まれていくだろうことは前から予想していたけど、やっぱりそれは似て非なるものじゃないかと思う。
http://www.ukauthority.com/Headlines/tabid/36/NewsArticle/tabid/64/Default.aspx?id=3825

【関連エントリー】
「サイボーグ患者宣言」(2008/6/19)
「患者の手を握って励ます人造の手ロボット」を考えた(2008/11/4)
「尿吸飲ロボ」から“QALY時代の排泄ケア”を想像してしまった……(2010/2/20)
「洗車機とUFキャッチャーでオムツ交換ロボットできる」と言う工学者の無知(2010/4/5)
テクノロジーによる遠隔介護支援システム(米国)「介護保険情報」2010年9月号
米国で認知され始めた「介護の力」「介護保険情報」2011年2月号


英国の地方自治体が介護者実態調査。
http://www.hartlepoolmail.co.uk/news/local/council-survey-on-carers-is-launched-1-4994196

心臓病リスク抱えた高齢者でアスピリンが認知症の症状を遅らせる?: アスピリンとスタチンとビタミンD。3種の神器ならぬ3種の万能薬。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/251160.php

NYT。ADHDの治療薬が障害のない子どもに成績向上の目的で用いられている。
Attention Disorder or Not, Pills to Help in School: Drugs that normally are used to increase focus are used in some cases simply to improve performance in school.

【関連エントリー】
ADHD治療薬の“スマート・ドラッグ”利用を解禁せよ、とNorman Fost(2010/12/28)


NYT。医療現場で医師たちが診断を下し、治療法を選択するのにiPadやスマホなどのテクノロジーが不可欠になりつつある。その他にも、患者の行動モニターに使うなど、医療におけるテクノロジー関連の記事が4,5本あるみたい。
Redefining Medicine With Apps and iPads: Technology has given cilinicians new tools to diagnose symptoms, decide treatment and to share information, changing what it means to be a doctor or a patient.

アブ・ダビで開かれるメディア・サミットの基調講演はビル・ゲイツ。関連は ⇒ゲイツ財団のメディア・コントロール(2010/10/21)
http://www.chicagotribune.com/entertainment/sns-201209271353reedbusivarietynvr1118059941-20120927,0,4750246.story

ワシントンDC近郊でホームレスが増えてシェルターが満杯。行き場のないホームレスが増えている。
http://www.washingtonpost.com/local/with-shelters-full-homeless-families-have-no-where-to-go/2012/10/07/b03f2800-0f18-11e2-a310-2363842b7057_story.html
2012.10.21 / Top↑
ホルムアルデヒドといえば、
まずは真っ先に宮部みゆきの「名もなき毒」を思い出すけれど、

よく考えてみたら、2010年に以下のエントリーを書いているんだった ↓
大統領がんパネルが「化学物質はやっぱりヤバい」(米)(2010/5/10)


今回のNYTの記事も上記と同じくNicholas Kristofが書いたものなのだけれど、
なにしろタイトルが「がんロビー」。

最初のセンテンスが
「発がん物質にワシントンで活動するロビー要員がいることを
誰が知っていただろうか」であるように、

単に化学物質の発がん性を指摘する記事ではなく、
こうした政府の科学者らによって発がん物質が公表される動きに対して
化学業界がロビー活動によって制約を加えようと画策していることへの批判。

特に化学業界の危機感をあおったのは、

米国国立衛生研究所NIHが2年ごとに出している発がん物質に関する報告書で
それまで発がん性の可能性ありとしてきたホルムアルデヒドについて
2011年に発がん物質であると断定したことと、

その他にも、
スチレンにも発がん性の可能性が高いと指摘したこと。

そこで Exxon Mobil, Dow, BASF, DuPontなどのBig Chem企業が
発がん物質に関する報告書の予算を削減させようと
下院議会に対してロビー活動を行っている、という。

これに対して、先月76人の科学者らが会員議会に手紙を書いて
WHOでもホルムアルデヒドは発がん物質のリストに加えているし、
スチレンも発がん性の可能性がある物質とされているので、
この度の報告書は国際的な科学的コンセンサスに沿ったものだと説いた。

ジョージ・ワシントン大学の公衆衛生学部の学部長は
「自由市場は消費者が情報を手に入れることで機能するというのに
彼らはその情報をつぶそうとしている」

Kristofは

より大きな問題は、連邦政府が国民の健康の番犬となるべきか、それとも企業のポチとなるべきか、だ。

はっきりさせておこう。毒性のある化学物質については不透明なところはあるから、発がん物質に関する報告書を批判することになんら問題はない。しかし、報告書の予算をなきものとしようとするこの試みは、科学と民主主義の双方への侮蔑である。


the Cancer Lobby
Nicholas D. Kristof
NYT, October 6, 2012
2012.10.08 / Top↑
とても評価の高い本で、
確かに感動も味わいもないわけではないのだけれど、
ずっと、喉に引っかかった小骨のような違和感があった。

それは、著者が介護現場でどういう働き方をしているのかが
最後まできっちり掴めないことと関係しているような気がする。

たとえば著者は、本書の後半部分で、
一時的にショートステイの遅番勤務になった期間があって、
その間には介護職員としての業務をこなすので精いっぱいになり、
驚くことができなくなった、といった体験について書いた後で、

以下のように書いている。

 その後、職員の人数も充実してきて、私は再び介護の仕事の一方で、利用者へ聞き書きをする時間をつくれるようになった。
(p.217)

他の個所には、
「補助をしながら」という表現や「フリーの相談員として」という表現もある。

あとがきには以下のようにも書かれている。

 本書を閉じるにあたって、何よりもそうして私を育ててくれている利用者たちに感謝したい。また、私のわがままをあたたかく見守ってくれ、応援してくれる職場の上司や同僚たちにも、心から感謝している。
(p.232)


著者は介護現場に
いったい単に「わがままな介護職員として」いるのか、
「介護現場をフィールドに選んだ民族研究者として」いるのか、
「民族研究者ゆえに一定の特権を認められた(わがままな?)介護職員として」いるのか、
その辺りのことがよくわからない。

著者はいったい、
どのようないきさつから、どのような手順を踏み、
どのような職場での取り決めによって働いているのか。

こうした聞き書きの実践について本を書いて報告するのであれば、
やはりその辺りは明確にすべきだったのではないかなぁ。

この「喉に引っかかった魚の骨」的な違和感は、
この本に描かれた聞き書きの体験から著者が提唱している「介護民俗学」とは、
具体的に以下のいずれのことなのか、という疑問にも通じていく。

・民俗学を学び、民俗学の聞き書きの素養のある若い人たちが
正規の介護職員として働くことが、高齢者の良いケアに繋がる。

・民俗学を学んだ若い人たちが
著者自身と同じ「わがままな介護職員」として働けるような介護現場のアレンジがあれば
高齢者にとっても民俗学者にとっても利益のあるウイン・ウインの関係になる。

・高齢者介護のアプローチの一つとして
民族学者または民俗学の素養のある人による聞き書きを導入することが高齢者の良いケアに繋がる。
(でも、この場合かならずしも「介護職員になる」必要はないのでは?)

・民俗学者または民俗学を学ぶ学生が、介護現場を聞き書きのフィールドに加える。
(この場合も、彼らが介護職員として働く必要はないのでは?)


私には、著者が提唱する「介護民俗学」というのは、
本書の場面によって、上の4つが都合よく使い分けられているような印象があった。
それが、読んでいてどこか腰の定まらない落ち着きのなさに繋がっていたようでもある。

例えば、著者は以下のように書くなどして、
介護現場での聞き書きは、民俗学者の調査する者としての権力性を逆転させると主張する。

だから聞き書きの場では、アカデミックな知識はあっても、実際の経験やそれに基づく民族的知識を持っていない調査者と、それらを豊富に身に付けていて、それについての記憶を語ってくれる高齢の話者(かつて、民族学者の多くが話者のことを「古老」と呼んでいたことにも関係するか)との関係は、話者が調査者に対して圧倒的に優位な立場にあると言えるだろう。第三章で引用した野本寛一の言葉通り(九八頁)、調査者は、まさに話者に「教えを受ける」。それが聞き書きなのである。
(p.155)


その考えに基づいて、「介護民俗学」は
上野千鶴子さんがいうような介護する者と介護される者の力関係の非対称性も
逆転させるダイナミズムと捉えることができる、とも書いている。

もちろん、そこには「それがケアの現場で行われるという意味では、
内包される暴力性から完全に免れることは不可能である」との気付きも
ないわけではないのだけれど、それはすぐさま、

「ケアの場での実践は、常にそうしたジレンマを抱えていくことなのである。」(p.223)と、
介護の場につきもののジレンマとして片付けられてしまう。

でも、ここで生じているジレンマとは、
介護の場そのものに必然的に内包されるジレンマではなく、
介護民俗学が介護現場に持ち込まれるゆえの別のジレンマであるはずなのだけれど。

なにか、著者のモノの言い方には、こうした、
介護民俗学にとって都合のよいことだけに焦点を当てて書きつつ、
介護民俗学にとって都合の悪いことは介護の問題に落としこんで終わるような、
どこかご都合主義的なところがあるんじゃなかろうか。


 しかし、介護民俗学での聞き書きは、利用者のこころや状態の変化を目的とはしない(というより変化を指標にしたらおそらく「聞き書きは効果なし」という結果しか得られないだろう)。聞き書きでは、社会や時代、そしてそこに生きてきた人間の暮らしを知りたいという絶え間ない学問的好奇心と探求心により利用者の語りにストレートに向き合うのである。
(p.168)

と、民俗学者の「学問的好奇心と探求心」について正直に書く著者は、

「手がかかる」と思われていた認知症の利用者が
いきなり歌を歌ったことに驚いた場面に続いて、同じ正直さで以下のようにも書く。

 夕食の時間が始まっても私の好奇心はもう抑えることができなかった。私は食事介助をしながら、のぶゑさんにしつこいくらい質問をした。
(p.216)


でも、他の場所で、
夕食の食事介助は一人の職員が複数の人の介助をする、と書かれているし、
娘の施設でもそうだから、介護現場の夕食の食事介助場面が、
決して1対1で介助できるほどの余裕がないことは容易に想像がつく。

そうすると、著者は
夕食の時間が始まって、複数の利用者の「食事介助をしながら」
「のぶゑさん(一人に)しつこいくらいに質問をした」ということなのだろうか……?

それは果たして「わがまま」で済むことなのだろうか。


民族研究者としての抑えがたい「学問的好奇心と探求心」を持った人が
介護職として介護現場で働くということの中にもあるはずの暴力性と、
著者は本当にきちんと誠実に向き合っているだろうか。

ずっと引きずった違和感は、
以下の個所に一番象徴的に表れているように私には思えた。

 もちろん、何人かの利用者からは、「なんでそんなに一生懸命メモをとっているの?」と尋ねられることもあった。が、それに対して「せっかく面白い話を聞いていても、私、メモをとらなかったらすぐに忘れてしまうんですよ」と正直に答えると、その方々も、「そうだよね、私もどこかに書いとかなきゃすぐに忘れちゃうもんね」と同調してくださったし、なかには、「そんなに一生懸命聞いてくれる人はこれまでいなかったよ。私の人生、ちゃんと書きとめて小説にでもしたら、すごく面白いよ」といって、毎回実に楽しそうにご自身の人生を振り返ってお話をしてくれている方もいる。
(p.144)


「すぐに忘れるからメモをとっている」という答えは
本当に「正直な答え」なのだろうか。

ここまで書いてきて、
「喉に引っかかった小骨」の正体がやっとはっきりした。

「利用者」さんたちは
「忘れるから」とメモをとりつつ自分の話を熱心に聞いてくれる介護職員が、
実は「学問的好奇心と探求心」から自分の語りに「ストレートに向き合って」いる
民族研究者であることについて、説明され知らされていたんだろうか?


言わんとしていることは分からないでもないのだけれど、
なにか一番大切な根っこのところ辺りで釈然としないものが残る本だった。


『驚きの介護民俗学』
六車由美 医学書院 2012
2012.10.08 / Top↑

家族や親友の幇助自殺につきそった人には
PTSDが高率で見られたり、喪の悲しみが困難なもの(complicated)になっている、との
興味深い調査結果が報告されている。

Death by request in Switzerland: Posttraumatic stress disorder and complicated grief after witnessing assisted suicide
Wagner B, Muller J. Maerchker A.
Eur Psychiatry 2012 Oct;27(7):542-6.


以下、アブストラクトから。

自殺幇助が容認されている国はいくつかあるものの
自殺幇助を目撃した家族や近しい友人のメンタルヘルスへの影響を調べた研究はほとんどないことから

2007年12月に行われた自殺幇助の場に居合わせた家族や親友85人に調査を行ったところ、

13%が完全なPTSDの基準を満たし、
6.5%が境界PTSDの基準を満たし、
4.9%が困難な喪の悲しみの基準を満たした。

うつ病は16%に
不安は6%に見られた。

結論は以下で、

A higher prevalence of PTSD and depression was found in the present sample than has been reported for the Swiss population in general. However, the prevalence of complicated grief in the sample was comparable to that reported for the general Swiss population. Therefore, although there seemed to be no complications in the grief process, about 20% of respondents experienced full or subthreshold PTSD related to the loss of a close person through assisted suicide.


困難な喪の悲しみはスイス国民一般と同率だが、
PTSDとうつ病は自殺幇助で身近な人を失った経験のある人の方が一般よりも多い。
2012.10.08 / Top↑
以下のエントリーの続報。

カナダBC州最高裁からPAS禁止に違憲判決(2012/6/18)



医師による自殺幇助の合法化を求めて集団訴訟を起こし、
6月にカナダのBC州最高裁から特例的に医師による自殺幇助を受ける権利を認められていた
ALS患者のGloria Taylorさん(64)が、腸に穴があいたことによる感染症で急死。

医師による自殺幇助を求める間もない、突然の死だったという。

支援者は
「グロリアはずっと望んでいた死を迎えました。
穏やかな死でした。苦しむことなく、友人と家族に囲まれて死ぬことができました」

6月の最高裁判決はBC州政府に対して1年以内の法改正を求めたが、
政府が上訴している。

Taylorさんと一緒に訴訟を起こした BC Civil Liberties Associationは
遺志をついで裁判を続けていく、と。


http://www.theglobeandmail.com/news/british-columbia/assisted-suicide-activist-gloria-taylor-dies-from-infection-in-bc/article4593512/
http://www.news1130.com/news/local/article/409201--gloria-taylor-okanagan-woman-with-als-dies-of-infection
http://www2.macleans.ca/2012/10/05/b-c-woman-behind-challenge-of-canadas-ban-on-assisted-suicide-dies/
2012.10.08 / Top↑
ベルギーで2005年から2009年にかけて「安楽死後臓器提供」が4例行われたことについては
これまでに以下のエントリーで取り上げてきました ↓

ベルギーで2年前にロックトインの女性、「安楽死後臓器提供」(2010/5/9)
ベルギーの医師らが「安楽死後臓器提供」を学会発表、既にプロトコルまで(2011/1/26)
ベルギーの「安楽死後臓器提供」、やっぱり「無益な治療」論がチラついている?(2011/2/7)


10月1日にシノドスに寄稿した
「安楽死や自殺幇助が合法化された国々で起こっていること」でも
このことについて書いたばかりですが、

今日のBioEdgeによれば、

最近になってブリュッセルでのカンファで
移植専門医のDirk Van Raemdonck医師が報告したところでは、
その後の3年間にさらに5例が行われて、全部で9例になったとのこと。

また同医師は、
ベルギーは安楽死後臓器提供では「世界のリーダー」だと語り、
他にはオランダで1度行われたことがあるだけだ、と。

多くの安楽死者はガンの終末期という人であるために
死後に臓器提供できる人は少なく、
安楽死ドナーの大半は筋肉神経障害者。

なお、2011年のベルギーでの安楽死者は1100人。

Belgium pioneers organ donation from euthanased patients
Bio Edge, October 5, 2012



その他、ベルギーの安楽死関連エントリー ↓

ベルギーでは2002年の合法化以来2700人が幇助自殺(2009/4/4)
幇助自殺が急増し全死者数の2%にも(ベルギー)(2009/9/11)
ベルギーにおける安楽死、自殺ほう助の実態調査(2010/5/19)
ベルギーで「知的障害者、子どもと認知症患者にも安楽死を求める権利を」(2012/5/5)
「安楽死後臓器提供」のベルギーで、今度は囚人に安楽死(2012/9/15)
2012.10.08 / Top↑
生活書院のHPに、重い自閉症で知的障害のある37歳男性の母親、福井公子さんによるWeb連載「障害のある子の親である私たち――その解き放ちのために」がスタート。:なかなか言葉にならない微妙なところを、ていねいに語ってくださっていて、ずしりと響きます。障害のある子どもを持つ母親たちが、決してきれいなだけじゃない本当の思いを、少しずつ語り始めようとしている。やっと……。嬉しい。特に「向精神薬」の最後の2行「私は、今日もまた息子に向精神薬を手渡すでしょう。そのことへの痛みと無縁でいないこと。それが息子のためにできることなのかもしれません」に共感。“アシュリー療法”の背景にあるパーソン論と結びついた合理主義や、「科学とテクノで簡単解決バンザイ文化」とその利権構造は、その「痛み」を「手放せ」と親や介護者にささやきかけてくるし、では、どこで線を引けるのかということを考えると、親と子ども、介護する者とされる者の権利の相克は本当にどこまでもヒリヒリと痛く、悩ましいのではあるけれど。
http://seikatsushoin.com/web/fukui01.html

カナダ、ケベック州の新政府、自殺幇助合法化めざす、と。:ケベック州の攻防も長い。その他の国や地域では医師会はたいてい反対のスタンスをとっているのだけど、ケベックの医師会は合法化推進の立場。
http://www.cjad.com/CJADLocalNews/entry.aspx?BlogEntryID=10446337

【ケベックのPAS合法化議論関連エントリー】
カナダ・ケベック州医師会が自殺幇助合法化を提言(2009/7/17)
スコットランド、加・ケベック州で自殺幇助について意見聴取(2010/9/8)
ケベックの意見聴取、自殺幇助合法化支持は3割のみ(2011/12/29)
ケベックの尊厳死委員会から24の提言: メディアは「PAS合法化を提言」と(2012/3/24)

【カナダのPAS合法化議論関連エントリー】
カナダの議会でも自殺幇助合法化法案、9月に審議(2009/7/10)
図書館がDr. Death ワークショップへの場所提供を拒否(カナダ)(2009/9/24)
カナダの議会で自殺幇助合法化法案が審議入り(2009/10/2)
自殺幇助合法化法案が出ているカナダで「終末期の意思決定」検討する専門家委員会(2009/11/7)
カナダ議会、自殺幇助合法化法案を否決(2010/4/22)
カナダの法学者「自殺幇助合法化は緩和ケアが平等に保障されてから」(2011/2/5)
カナダで自殺幇助合法化を求め市民団体が訴訟(2011/4/27)
カナダ王立協会の終末期医療専門家委員会が「自殺幇助を合法化せよ」(2011/11/16)


英国の映画監督Michael Winnerが余命1年半を宣告され、ディグニタスへ行って自殺するつもり、と。
http://www.standard.co.uk/news/celebritynews/terminally-ill-michael-winner-says-he-is-considering-suicide-at-swiss-clinic-8197233.html

人間の寿命が延びて新たな課題となっている、と国連。:それでもTH二ストたちは「フローフシ」を求める。あ、そうか、富裕層はそれで経済を回してくれるから「フローフシ」でよくて、貧困層の長生きの方が「課題」なのか。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/250989.php

抗がん剤が高価になるのは、ビッグ・ファーマの事実上の独占で自由市場になっていないため、との指摘。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/250910.php

日本。出生前検査の新指針年内作成へ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121003/k10015472721000.html

英国NHSの民営化が加速している。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/oct/03/private-contracts-signed-nhs-privatisation

グレート・バリア・リーフのサンゴ礁、1985年の半分に。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/great-barrier-reef-has-lost-half-its-corals-since-1985-new-study-says/2012/10/01/c733025c-0bda-11e2-bb5e-492c0d30bff6_story.html
2012.10.08 / Top↑
カンザスのChildren’s Mercy 病院の生命倫理センターが、
小児生命倫理ディベイトをシリーズで。

ここは、私が大好きなJohn Lantos医師がいるところ。

登場人物の顔ぶれも、当ブログでおなじみのLainie Friedman Rossや
Annie Janvier,  Robert D. Truog,  Thadeus Mason Pope など。

テーマは以下で、
いずれも小児科医療の生命倫理の大問題ばかりです。

「周産期安楽死はいったい道徳的に許容されうるのか?」
「広範な新生児スクリーニングは子どもにとって良いのか?」
「一方的なDNR指定よりもスロー・コードの方が望ましい場合もあるのでは?」
「“医学的無益”概念は臨床医の助けになっているのか?」
「成人後に発病する病気の遺伝子診断、親に許されるべきか?」

http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/10/pediatric-bioethics-debate-series.html


Lantos先生、
シアトルこども病院生命倫理カンファの向こうを張って、どうぞ頑張ってください。



【John Lantos関連エントリー】
Lantos医師「倫理委で何があったか誰にも分からない」(2010/1/29)
Lantosコメンタリー、Ashley事件の大デタラメを指摘(2010/2/17)
米小児科学会の女性器切除に関する指針撤回:Diekema医師の大チョンボ(2010/8/4): Lantos講演
米のNICUで治療停止による死亡例が増加(2011/7/11): Lantos論文
NICUでの生命維持差し控えは「違法行為の放置」(2011/7/14)
2012.10.08 / Top↑
8月22日の補遺で取り上げた以下の事件で、
被告のMirela Aionaeiに懲役3年の実刑判決。

英国でナーシング・ホームの介護者がシフトの際に(自分が)安眠できるよう、認知症の人6人に抗不眠薬、抗ウツ薬、向精神薬を飲ませて徘徊を防止していた、という事件。:職員個人がやると犯罪だけど、組織的にやるとまかり通ってしまうことの不思議……?
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/9490019/Carer-drugged-elderly-so-she-could-sleep-on-duty-jury-hears.html


Carer jailed for drugging elderly patients
itv NEWS, October 4, 2012


22日の補遺では「介護者」としていますし、
多くの記事が「介護者」と書いていますが、
その後あちこちの記事を覗いてみたところ、
どうやら、この人は看護師。

この事件や周辺情報については
「介護保険情報」10月号(今月号です)の連載で取り上げて書いているので、
1ヶ月後くらいにこちらに全文掲載する予定です。


【関連エントリー】
佐野洋子「シズコさん」(2008/7/12)
認知症患者への不適切な抗精神病薬投与、教育・意識改革が必要(2009/4/17)
英国のアルツ患者ケアは過剰投与で「まるでビクトリア時代」(2009/6/5)
ナーシング・ホーム入所者に症状もICもなく精神病薬投与(2009/10/31)
不適切な抗精神病薬の投与、15万人の認知症患者に(英)(2009/11/15)
1人でTX州の総量をはるかに越える統合失調治療薬を処方する精神科医が野放し・・・・・・の不思議(2009/11/30)
2012.10.08 / Top↑
【お断り】
昨日からご訪問くださる方が増えているので、
初めて来てくださる方に――。

補遺の記事はタイトルやリード部分だけにざっと目を通して、
気になった記事をあくまでもメモ的に拾っておこうとするものです。

私の取りまとめは必ずしも正確とは限りませんので、
ご承知おきいただきますよう、よろしくお願いいたします。


              --------

ALSの夫Patric NorfolkさんをDignitasへ連れて行って死なせた女性が、医師による自殺幇助を禁じた英国の法律が夫から自宅の庭で死にたいという希望を奪った、と。Patricさんはうつ病の娘が自殺したことで生きる希望を失い、ディグニタスで「妻の腕に抱かれて死んだ」。
http://www.thisishullandeastriding.co.uk/Husband-died-wife-s-arms-assisted-suicide/story-17014401-detail/story.html
http://www.dailymail.co.uk/news/article-2210668/His-wish-die-home-Fury-mother-watched-husband-die-months-daughters-suicide.html

英国で子どもの貧困が進み、これまで途上国の子どもの支援をもっぱらにしてきたチャリティ Save the Childrenが自国の子どもの貧困問題に取り組みを始めている。その名も、EAT, SLEEP, LEARN, PLAY!
http://www.savethechildren.org.uk/about-us/where-we-work/united-kingdom/eat-sleep-learn-play

そのSave the Childrenが貧困層の親子に向けてやっている学習支援の試み。FAST。ビデオもあります。親への啓発も含め。
http://www.savethechildren.org.uk/about-us/where-we-work/united-kingdom/fast

三井厚労相、生活保護見直しに言及。医療費無料の見直しについての発言。「厚労省の担当課が『医療費に自己負担を導入することは、必要な受診を抑制してしまう恐れがあることから、慎重に検討する必要がある』として、大臣の発言の取り消しをマスコミ各社に求める事態」
http://headlines.yahoo.co.jp/videonews/jnn?a=20121002-00000048-jnn-soci

ビル・ゲイツが2018年までにポリオを撲滅する、と。いまだ根絶できていないのはパキスタン、アフガニスタン、ナイジェリアの3国。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/250869.php

東ロンドンの地方自治体が、試行的にアルツハイマー病の患者40人にGPS内臓のリストバンドを装着させ、衛星で追跡。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-london-19771279

中央アフリカのコンゴでこれまで未発見の致死性ウイルス発見。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/250869.php

英のカウンセリング・精神療法協会から、ゲイの人を「転換治療」するためのセラピーは非倫理的とする新たなガイドライン。socially inclusive, non-judgmental attitudes。これ、いい表現だな、と。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/oct/01/conversion-therapy-gay-patients-unethical?CMP=EMCNEWEML1355

日本。イラク帰還隊員 25人自殺。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2012092702000098.html
2012.10.08 / Top↑
拙いですが、
シノドス・ジャーナルに論考を書かせてもらいました。

タイトルは「安楽死や自殺幇助が合法化された国々で起こっていること」。

リンクを張ることができないようなので、よかったら、
シノドス・ジャーナルのサイトで読んでいただけると幸いです。



また、以前にお知らせした
「新版 海のいる風景 重症心身障害のある子どもの親であるということ」も
Amazonその他のサイトで購入可能となりました。

こちらもよろしくお願いいたします。
2012.10.08 / Top↑

元空軍兵士でナース・プラクティショナー、
元UNOSの移植コーディネーターのPatric McMahonさん(50)が

米国の病院職員に対して、まだ救命可能性がある患者について
UNOS(全米臓器配分ネットワーク)から「脳死」判定の圧力がかかっている、

ドナー登録しない患者の家族を説得するための
マーケッティングとセールスの専門家が「コーチ」として雇われている、
人数「割り当て」制まである、などと提訴。

訴状には4つの事例が告発されているという。

① 2011年9月に交通事故でNassau 大学メディカル・センターに搬送された19歳男性。
まだ呼吸をしようとしていたし脳の活動の様子は見られたが
UNOSからの圧力で医師らが脳死を判定。

電話会議(?)ではUNOSのディレクターが
「この人は死んでいるんだ。分かったか?」と発言した、とも。

家族が臓器提供に同意。

② 同じく2011年9月。
ブロンクスのSt. Barnabas 病院に入院した女性。

まだ生きている様子が見られたが、
女性がかつて腎臓移植を受けていた事実をUNOSの職員は
女性の娘に臓器提供への同意に向けて圧力をかける材料に使った。

McMahonさんは抗議し、セカンド・オピニオンを得ようとしたが、
神経科医は無視して脳死を判定した。

③ 2011年10月。
ブルックリンのKings County 病院に入院した男性。
脳の活動の様子は見られたという。

ここでもMcMahonさんの抗議は無視されて、
男性は脳死と判定され臓器が摘出された。

④ 2011年11月。
薬物のオーバードースでStaten 島大学病院に入院した女性。

脳死判定が行われて、臓器が摘出されようとする直前に
McMahonさんは女性の体がまだけいれんしているために
「マヒを起こす麻酔」がされていることに気付いたという。

McMahonさんが抗議すると、他のUNOS職員から病院職員に
「ささいなことを問題視して大騒ぎをする未熟なトラブル・メーカー」だと言われた、とのこと。
もともと異議申し立てをする職員として目立ってはいた。

さらに、去年11月4日にMcMahonさんはUNOSのCEOに
「脳死を宣告される患者の5人に1人は脳死宣告書が発行された時点で
脳活動の徴が見られる」と告げたところ、
「世の中そういうものだよ」との答えだったとのこと。

McMahonさんは抗議した4カ月後にクビになったという。

UNOSのスポークスウーマンは、この件について
訴状を見ていないとしながらも、脳死判定ができるのは医師のみだ、と言い、
割り当て制なんかありません、「バカバカしい」と。


Organ taken from patients that doctors were pressured to declare brain dead: suit
The New York Post, September 26, 2012


そういえばUNOSは、昨年、
以下のような驚くべき提言を行っていた ↓
 
UNOSが「心臓は動いていても“循環死後提供”で」「脊損やALSの人は特定ドナー候補に(2011/9/26)



【2011年の関連エントリー】
「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」と、Savulescuの相方が(2011/3/2)
WHOが「人為的DCDによる臓器提供を検討しよう」と(2011/7/19)
UNOSが「心臓は動いていても“循環死後提供”で」「脊損やALSの人は特定ドナー候補に」(2011/9/26)
「DCDで生命維持停止直後に脳波が変動」するから「丁寧なドナー・ケアのために麻酔を」という米国医療の“倫理”(2011/11/24)
「丁寧なドナー・ケア」は医療職の抵抗感をなくしてDCDをさらに推進するため?(2011/11/24)

これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)

【2012年の関連エントリー】
「重症障害者は雑草と同じだから殺しても構わない」と、生命倫理学者らが「死亡提供ルール」撤廃を説く(2012/1/28)
米国の小児科医らが「ドナーは死んでいない。DCDプロトコルは一時中止に」(2012/1/28)
英国医師会が“臓器不足”解消に向け「臓器のためだけの延命を」(2012/2/13)
「臓器提供の機会確保のための人工呼吸、義務付けよ」とWilkinson(2012/2/22)
臓器マーケットの拡大で、貧困層への搾取が横行(バングラデシュ)(2012/3/15)
闇の腎臓売買、1時間に1個のペースで(2012/5/28)
経済危機で臓器の闇市、アジアからヨーロッパへ拡大(2012/6/10)
脳損傷の昏睡は終末期の意識喪失とは別: 臓器提供の勧誘は自制を(2012/7/20)
2012.10.08 / Top↑
The British Medical Journalに発表された論文で、
ベンゾジアゼピンの高齢者における認知症リスクが報告されている。

65歳以上でベンゾジアゼピンを飲んでいる人は飲んだことがない人に比べて、
その後の15年間に認知症を発症するリスクが50%増加したという。

著者らはこの結果を断定的なものではなく、結論付けるには今後の研究が必要ではあるとしつつも、
これまでも高齢者では転倒やそれによる骨折のリスクが上がる副作用などが指摘されてきており、
今回あらたに認知症リスク懸念が出てきたことで、処方に慎重を呼び掛けている。

ベンゾジアゼピンは不眠や不安に、世界中で広く使われており、

例えば
フランスの65歳以上人口の30%が処方されているし、
カナダとスペインでは20%、
オーストラリアでは15%。

英米の高齢者はではそれほどの高率ではないが、
処方総数は人口の大きさに比べれば多い。

ガイドラインは数週間の使用に留めるよう勧めているとのこと。


Benzodiazepine For Insomnia Or Anxiety Raises Dementia Risk Among Elderly
MNT, September 28
2012.10.08 / Top↑

NYT社説がメディケア拡大を呼び掛け

米国では6月に、オバマ大統領の医療保険制度改革法に連邦最高裁が「合憲」判断を下したばかりだが、「オバマ・ケア」に対する保守層からの反発は相変わらず大きい。そんな中、ニューヨーク・タイムズ(NYT)は7月17日と28日の2度に渡って、メディケア拡大を呼び掛ける社説を掲載した。メディケアは貧困層と障害者を対象にした公的医療保険制度。医療保険制度改革法に対象拡大が盛り込まれているが、メディケアを拡大しない州には補助金を取り消すとの条項については6月の連邦最高裁の判決で、撤回が求められた。それを受け、貧困層が多い州などでは拡大しないのではと懸念されている。

 テキサス州は、州民の健康データが全米最低ランク、州民の4分の1に当たる630万人(うち子どもが100万人以上)が無保険である。同州のペリー知事(共和党)は「州の主権に対する重大な侵害」「テキサスを財政破綻への脅かす」と公然と反旗を翻し、拡大を拒否。他にも少なくとも5州が既に同様の決定をしているという。「拡大にかかる費用は連邦政府が3年間は全額負担し、その後も9割を負担すると言っているのに」とNYTは批判している。米国議会予算局はこれらの動きから、全州が拡大した場合に給付対象となると見られていた人数のうち、実際に2022年までに対象となるのは3分の2程度と予測。それにより連邦政府の補助金コストは840億ドル浮くが、2022年には無保険者が今より300万人増加すると試算している。

17日の社説で不気味なのは、メディケア拡大どころか現行の社会保障カットを進める州まで出てきていることだ。メイン州は5月に現行のメディケア対象者の内21000人の給付を削減または対象から外すことを決めた。ペンシルベニア州では7月に入っていきなり障害者と貧困層61000人に対して月額200ドルの一般支援給付の打ち切りを通告。それによって年間1億5000万ドルのコスト削減になる一方で、同州知事は3億ドルの企業減税を決めた。
メディケアが拡大されなければ、低所得の無保険者が頼りとする救急医療のコストが、安全網を担う機関や納税者に付け回されていくだけだ、とNYTは28日の社説を締めくくっている。

広がるdevalue文化に対峙する報告書

米国では医療現場での障害者差別も深刻化している。障害者の保護と権利擁護(P&A)全米ネットワークであるNational Disability Rights Network(NDRN)は5月に、障害者への成長抑制療法、不妊手術、一方的な医療の差し控えの実態を報告書 “Devaluing People with Disabilities: Medical Procedures that Violate Civil Rights(障害のある人の軽視:市民権を侵害する医療)”に取りまとめた。

成長抑制を含む“アシュリー療法”が一般化されつつあることは5月号で紹介したが、今回の報告書に多数紹介されている重症障害者への医療拒否の事例では、命の切り捨ての実態が極めて深刻な様相を呈している。末期でも植物状態でもない、意思決定能力のある障害者から、本人意思を無視したり確認しないまま、医療職や代理人が命にかかわる医療の差し控えを決めたりDNR(蘇生不要)指定にしたケースの他、グループホームで暮らす障害者について、次に風邪をひいたら治療せず肺炎にして死なせると、親と主治医が取り決めていたケースも。

NDRNに加盟している州のP&A組織が介入し、法的措置を取るなどして治療に繋げたものがほとんどだが、P&A組織が把握できていない事例がその背後にどれほどあることか……。どうしてもそこに想像が向いてしまう。

NYTが憂慮する政治動向と併せ考え、なんとも気になる医療現場の実態だが、報告書のまえがきによると、オレゴン州では今年3月、出生前診断で見逃したためにダウン症候群の子どもが生まれたと訴えた両親に、陪審員が300万ドルの支払いを認めたとのこと。まさに障害者を価値なきものとみなす(devalue)文化が、米国社会全体に広がりつつあるようだ。

報告書は、病院内倫理委員会では障害者の権利擁護には不十分だとして、デュー・プロセス(しかるべき手続き)による保護の法的な義務付が必要と結論。医療機関、保険会社、州・連邦議会、米国保健省に向けて、そのための法整備や、医療関連団体と障害者の権利擁護団体とが一堂に会して障害者の権利擁護について協議し認識を深める場を設けるなど、それぞれのレベルで取るべき方策を具体的に提言している。

「介護保険情報」2012年8月号 「世界の介護と医療の情報を読む」




【NDRN報告書関連エントリー】
障害者人権擁護ネットから報告書「“A療法”・強制不妊・生命維持停止は人権侵害(2012/6/20)
障害者の人権を侵害する医療への痛烈な批判: NDRNの報告書「まえがき」(2012/6/22)
障害者への医療の切り捨て実態 7例(米)(2012/6/26)
NDRN報告書:概要(2012/7/7)
NDRN報告書:WI州の障害者への医療切り捨て実態 2例(2012/7/9)
NDRN報告書: A療法について 1(2012/7/13)
NDRN報告書: A療法について 2(2012/7/13)
NDRN報告書:カルメンの強制不妊ケース(2012/7/14)
NDRNのCurt Decker、"アシュリー療法“、障害者の権利、医療と生命倫理について語る(2012/7/31)
NDRN報告書: 提言(2012/8/2)
2012.10.08 / Top↑