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去年12月に上級裁判所のMcCarter判事が医師による自殺幇助は個人の自由の範囲で合法とした判断に、モンタナ州が取り消しを求めている件で、MO州最高裁の聴取が今週水曜日に行われる。
http://www.greatfallstribune.com/article/20090830/NEWS01/90830001/1002/Court+to+hear+arguments+on+assisted+suicide

日本語情報。昨日から報道が続いているショッキングなニュース。性犯罪常習者が妻に手伝わせて誘拐した11歳のJayceeさんを18年間も自宅裏庭に軟禁して、子どもを2人も産ませ、仕事まで手伝わせていた。夕方、CNNにその裏庭のテント生活を物語る映像が流れ、キャスターが「なぜ逃げなかったのでしょう」と何度も繰り返していた。去年はオーストリアで我が娘を地下室に監禁してレイプ、子どもを何人も産ませていた極悪非道の男が世界中に衝撃を与えたけど、妻に手伝わせてレイプ目的で誘拐というのも衝撃。2人の子どもがあまりにも無表情だったのが異様で、それが目を引いたのが発覚のきっかけというのが痛ましい。
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2635328/4506787

モスクワに住む黒人・アフリカ人の6割が人種差別による暴力を受けた経験がある。言葉の暴力を受けたことのある人は8割。:実証できるわけじゃないけど、英語ニュースを覗いていると、世界中で差別と名の付くものが急速に激化しているという感じがする。激化しているというか、むき出しになってきているという方が正確なのかもしれないけど。個別のヘイト・クライムもそうだけど、社会全体の空気とか論理とか、もっと構造的なところでも、あれやこれや。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8230158.stm
2009.08.31 / Top↑
South Walesの警察署長 Barabara Wilding氏が
(どうしてそれが大事なのか分からないけど
在職年数が最長の女性警察署長でもあると記事はことさらに強調している)

自殺幇助に関する法律を緩和すると、
今後、高齢化する社会において、
家族による高齢者の厄介払いに悪用される恐れがある、と警告。

「高齢者虐待というのは
我々がまだ本当の意味で把握しきれていない問題なのです。
次に社会で大きな問題となる1つが高齢者虐待だと私は考えています」
と語るWilding氏は、

1970年代の児童虐待が最近になって明らかにされたことに触れ、
隠蔽される可能性があり、被害者が声を上げることができない、という点で
高齢者虐待も同じだ、と指摘。

また42年間の警察官としての経験から
「25歳以下の若年層と50歳以上の高齢者層の間に断絶がある、
高齢者層は町で若者のすることを見ては反社会的だと決め付け、
若年層に対する恐怖と不寛容の姿勢を強めているが、

犯罪にゼロ・トラレンスの姿勢で臨むだけでは問題解決にはならない。
我々が社会として若年層にどのような扱いをするかという点で
私は大きな懸念を抱えている」とも。



そう――。
障害者虐待にも同じことが言える──。
2009.08.31 / Top↑
シャイボ事件関連。

Terryさんの父親の死についてのメディア報道において
Schiavo事件が正確に説明されていないことを指摘する記事が出ています。


まず、栄養と水分供給の停止は裁判所の命令によって行われたのではなく、
妻はこんな状態で生きるくらいなら死にたかったはずだとの
夫の不当な主張によっておこなわれたのである、という点。

また特に、Terryさんが植物状態であったことが死後の解剖で確認されたかのように
書かれていることについて、

Terryさんの生前に少なくとも2人の神経学の専門医らから、
Terryさんの状態は植物状態でも最少意識状態でもないとの所見があったこと、

また永続的植物状態の患者が覚醒したケースもあることなどに触れずに
Shaivo事件をまとめて記事を書くことはジャーナリズムのあるべき姿勢ではない、と批判。

ジャーナリストのMichelle Malkinの以下の言葉こそ
Schiavo事件の本質を的確に捉えたものだと紹介しています。

Terri Schiavo, a profoundly disabled woman who was not terminally ill and who had an army of family members ready to care for her for the rest of her natural life, succumbed to forced dehydration at the hands of her spouse-in-name-only.

ターミナルな病気ではない重症障害女性が、寿命ある限りケアするといっている何人もの家族がいるというのに、名前だけの配偶者の手によって脱水を強要されて亡くなったTerry Shicavo事件。

(夫は既に別の女性と暮らしていたと、どこかで読んだ記憶があります。
その女性とはテリーさんが障害を負う前から交際があったとも、どこかで読んだような……。
テリーさんの過食症が障害の原因になったとの説もあるのですが、
そうすると過食症の原因は夫の女性問題だった可能性もあるのかも知れず……)

Terryさんの解剖報告書を読んだMichelle Malkerさんのブログ記事(2007年)がこちら

Malkerさんの事件の捉え方、特にTerryさんの障害像については同意するけど、

そういう立場に立つ人にして、2007年時点で
「寿命の限りケアする家族がいる」ということは
栄養と水分を供給されて生かしてもらうことの資格の1つであるかのように感じていたということには、
ちょっと、引っ掛かりを覚える。

2007年の米国社会には既に、
コストを含めた介護負担を担える家族にのみ重症障害者の延命治療に関する選択権がある……という
空気が漂い始めていた、ということでしょう。

そして、その空気は今や「無益な治療法」という法律として米国の臨床現場に広がり始めている――。

もはや重症障害者の延命治療の選択権は、
本人にも家族にもなく、病院のものとなろうとしている――。
2009.08.31 / Top↑
Terry Schiavoさんが脳に損傷を受けて15年間寝たきりとなり、
両親の抵抗にも関わらず「本人はこんな状態で生きることを望まないはず」との夫の申し立てを裁判所が認め
栄養と水分の供給を停止されて2005年3月31日に亡くなったシャイボ事件。

(テリーさんが植物状態だったと書いている資料も多いのですが、
写真や映像を見る限り、彼女の目には表情があります。
私にはどうしても植物状態だったとは思えません)

米国での生命倫理をめぐる重大事件のひとつですが、

テリーさんの死後、シャイボ財団を作って
重症障害者に対する「無益な治療」論に抵抗する運動を続けてきた
父親の Robert Schindlerさんが29日、死去。

Father of Terri Schiavo – Robert Schindler Sr. passes
Evangelical Examiner, August 30, 2009


このニュースで改めて気づき、ちょっと衝撃を受けたのは、

そういえばAshleyへの手術(2004年7月)は
Schiavo事件の真っ只中で行われていたんだなぁ……ということ。

Schiavoさんが裁判所の決定によって餓死させられてから
まだ5年と経っていないんだなぁ……ということ。

5年前には、「重症障害者から栄養と水分を引き上げる」ということに
大きな衝撃を受け、大論争を巻き起こした米国民が
もはやその考えに大した抵抗を感じない。

「重症障害者への栄養と水分は無益な治療」という慣行が
Schiavo事件後の、たったの5年間で
いかに米国の医療に浸透したことか──。

“Ashley療法”が論争になってからだって、まだ3年と経っていないのに
重症児の身体に医療上の必要以外の理由で手を加えることに対して
3年前には、あれほどの衝撃を受けた英語圏の人たちが
成長抑制の一般化の議論には、もはや興味すら持たない。

重症児の身体を医療でデザインすることどころか、
どうせ重症児だからと臓器目的で死なせることにも大した抵抗を感じない。

たったの5年や3年やそこらで──。


2009.08.31 / Top↑
英国では処方箋もなしに薬局で簡単に買えるヤセ薬 orlistat( 製品名 Alli)について、米国FDAから肝臓障害の副作用の懸念。製造元のGlaxoSmithKlineはそんなエビデンスはない、と。このorlistatが英国で今年1月に解禁された時に、当ブログでエントリー立てていました。こちら
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8221313.stm

いちいち生検なんかしなくても、簡単なインプラントで癌細胞の動向をチェックできるようになる、とMITの研究者。
http://www.nytimes.com/2009/08/30/business/30novel.html?th&emc=th

遺伝的に3人の親を持つサルをIVFで作ることに成功したんだとか。これで人間の遺伝病も防げるようになると、例によって例のごとき科学者の先生方のにぎにぎしい言挙げ。
http://www.guardian.co.uk/science/2009/aug/26/monkeys-genetics-dna-mitochondria-disease

NHSで、一部少数の悪質な看護師が、特に高齢者や末期患者に対して、排泄物にまみれたまま放置する、飲食をさせないなどの残虐な扱いをしている、と患者協会からの報告書。
http://www.guardian.co.uk/uk/2009/aug/27/nhs-hospital-healthcare-elderly-nurses-patients-association

国民の9割がイスラム教徒のマリ共和国で、議会を通過した女性の人権法案にイスラム教徒の反発が強く、大統領が国民の結束を重んじて署名を拒否。議会に差し戻した。妻が夫と対等な立場になる、妻の相続権が拡大する、などの点に批判が集まっていた。
http://www.guardian.co.uk/science/2009/aug/26/monkeys-genetics-dna-mitochondria-disease

英国の数学の学力テストで、もう20年近く女子の方が圧倒的に優秀だという結果が続いていたが、今回平常点を加味しなかったところ、初めて男子が女子を抜いた。女子は通常の授業で優秀であるのに対して、男子は試験に強いのだとすると、女子と男子では評価の方法を変えるべきだとの議論が出ている。:記事のトーンから、なにがなんでも男子は女子よりも優秀であらねばならんのだな、という社会の要請のようなものが感じられる。マリ共和国で「妻は夫に従わなくてもいい」という法律が気に入らない男たちと、本質的にはあまり違わないような気がする。
http://www.guardian.co.uk/education/2009/aug/27/maths-gcse-coursework-dropped

米国で2001年にできた「落ちこぼれ防止法」は、達成度の低い子どもにはよいが、達成度の高い子どもが伸び悩んでいる、とNY TimesのOp-Ed。
http://www.nytimes.com/2009/08/28/opinion/28petrilli.html?th&emc=th

オランダで、ヨットで単独世界一周に乗り出そうとした13歳少女の実行を阻止するため、2ヶ月間親権が州に移された。実際にそれだけの航海が可能な子どもかどうか、これから、心理士がアセスメントを行うのだそうな。さすが開明国オランダというか。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/europe/8226196.stm

ハリケーン・カトリーナの災害時、ニューオリンズの医師らが逃げ遅れた高齢患者に薬物を投与した。その功罪についてNY Mazazineの記事。:当時、この類のニュースはかなり追いかけて記事に書いた。裁判になったケースもあった。寝たきりの患者を放置して逃げた医療職や、施設職員もたくさんいた。少なくとも逃げなかった医師らの極限の選択。ただ極限状態での選択は、今進行している自殺幇助とは別の話だと思う。
http://www.nytimes.com/2009/08/30/magazine/30doctors.html?th&emc=th

2009.08.30 / Top↑
オーストラリアで今度は統合失調症の患者を巡る
「死の自己決定権」・「無益な治療」ケースです。

先日来、オーストラリアで
自殺希望の四肢麻痺男性に栄養と水分を拒否する権利が認められたRossiter事件を
3度のエントリーで追いかけたばかりですが、
(詳細は文末にリンク)

今度は統合失調症の69歳の男性(ルーマニアからの移民)が
断食することで神に近づける、断食してもキリストが守ってくれるから死ぬことはないと信じて
もう2週間も食事を取らず、体重が41キロに落ちていることについて、

この患者に無理やりに栄養を取らせる(feeding)のは非人間的であり無益であるとして、
病院の医師らがその判断の違法性の確認を裁判所に求めた。

この男性の法的ガーディアンである首都特別地区(ACT)のPublic Advocateは医師らの見解に同意しているが、

ACT以外の法律圏では法的ガーディアンに治療の停止への同意を認めている一方、
ACTでは法的ガーディアンが同意できるのは治療することについてのみとなっているため。

前のRossiter氏の事件でも、同氏に密着して死に方を指南している
オーストラリアのDr. DeathことDr. Nitschkeがこの件にもすかさず登場して
ACTでも法的ガーディアンに治療差し控えと中止への同意ができるようにすべきだ、と発言。

Nitschke urges ACT law change
The Canberra Times, August 26, 2009


いったいACTの裁判所はどういう判断を下すのか――。


「死の自己決定権」と「無益な治療」論とは
どんどん距離が近くなっていて、いずれ近いうちに重なると思ってはいたのだけど、
米国よりも先に、まずオーストラリアで重なるというのは、ちょっと予想外でした……。

しかし、精神障害者を念頭に「警察による自殺幇助」なる事件のカテゴリーが出てきた米国警察の姿勢も、
精神障害者が食べたくないのは本人の勝手だから放っておいて死なせましょうという
オーストラリアの医師らの姿勢も、つまるところは同じでは。

精神障害者は支援にも治療にも値しないから
自分で好きなように死んでもらいましょう……と?


【30日追記】
その後、気がついたのですが、

この男性は「これで死んでもいい」と思って食べないのではなく、
「自分はこれで死ぬことはない」と考えて食べないのだから、
決して死を望んでいるわけではありません。

そこに「死の自己決定権」のアドボケイトであるDr.Nitschkeが
のこのこ出てきて発言することそのものが、とてもおかしい。

つまるところ、障害者については自己決定でもなんでもなく、
勝手な代理決定によって体よくお払い箱にしてしまいたいだけだという、

まるで、その証拠そのもののような話――。



2009.08.28 / Top↑
Guardianといえば2年前の秋にCraig Venterが人造生命を作るのに成功!……とフライング記事を流したところですが、今回はちょっと慎重なトーンながら「Venterの研究が成功すれば人類の未来に新たな希望」だそうです。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2009/aug/23/venter-artificial-life-genetics

老年医学の人気薄への対策として、医学生に10日間のナーシング・ホーム入所体験を、という、ちょっと面白い企画。
http://www.nytimes.com/2009/08/24/health/24nursing.html?_r=1&th&emc=th

レーガノミクスは謳い文句どおりの結果を出せなかったのにも関わらず、まだ政府の介入は悪と考える人が多いのは……どこかで聞いたような話だと思ったら、やっぱりクルーグマン先生だった。
http://www.nytimes.com/2009/08/24/opinion/24krugman.html?th&emc=th

インドで日本脳炎流行。子どもが200人死亡。官僚主義が邪魔をしてワクチン制度ができず、毎年モンスーン時期になると流行するとのこと。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/8217453.stm

日本語情報。バイアグラ効果で年金制度が危機。ブラジル。:高齢者が増えてゼニがかかって困るといっては、自分から死んでくれるように仕向けている一方で、不老不死の研究に血道をあげるというのは、全く矛盾している。THニストの言うことには、その点が最初から大きな疑問の1つだった。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2632015/4470577

こちらも日本語情報で、自立支援法の見直しで、またも知的障害者は取り残されるのか、と、早稲田大学の岡部耕典氏の問題提起。「問われているのは、自立生活運動や介護保障運動の真価でもあろう」。
http://www.eft.gr.jp/enough/resource/090601DPI-okabe.html

こちらも日本語情報で、NZの世論調査で9割近くが親の体罰容認せよ、と。:子どもの医療判断における親の決定権の扱われ方を見ても、英語圏では子どもがどんどん親の所有物とみなされていく……という気がする。
http://sankei.jp.msn.com/world/asia/090822/asi0908221029000-n1.htm
2009.08.24 / Top↑
オーストラリアの首都特別地区で起きている事態。

先月、Tuggeranongで学齢期の少女が3人の年上の少年たちにレイプされたとされる事件で、
被害者である女児への嫌がらせがエスカレートし、

「おたくのアバズレと話がしたい」という電話が自宅にかかったり
「法廷に出かけて嫌がさらせをしてやる」と脅す内容のメールが女児に届いたり、

また、女児のボーイフレンドが殴られたり、
彼の車のタイヤが切り裂かれ、また、その翌日には車にガソリンをかけて燃やされた。

インターネット上でのさらなる嫌がらせ予告も2人に届いている。

レイプ犯とされる3人の少年は今のところ
こうした嫌がらせ行為との繋がりを否定しているが、

レイプ被害を訴え出た被害者が集団暴力に晒される事態に、警察署長が法廷で、

被害者の女児に対して子どもたちがこれほどのハラスメントをするなど、
あきれ果てて、ものも言えない。司法制度をナメるにもほどがある。
関わっている人間が判明し次第、そいつらには延々と豚箱に入ってもらう。

「Canberraの首都特別区の若者たちがこういう行動をとるというのでは
この町の将来が思いやられる」と。

Bullies target alleged rape victim
The Canberra Times, August 21, 2009


これに近いことが日本の大学生の集団レイプ事件でも起こったのは記憶に新しいところ。


この事件では、大学側の人権感覚まで希薄であることが露呈しました。


            ―――――――

Ashleyの父親やDiekema医師らは、子どもたちを含む世界中の人々の前で
「どうせ何も分からない重症児の体に尊厳など考える必要はない」と言い放ったのだし、

先の日本の脳死・臓器移植法改正議論では、多くの人が
「脳死の子どもたちは死んでいるわけではないかもしれないけど、どうせ死ぬんだから
もっとQOLの高い生を生きることのできる子どもに臓器をあげるために
親さえ承知すれば、早めに死んだことになってもらえばいい」と
日本中の子どもや若者の前で言い放った。

どうせ脳死……どうせ障害者……どうせ貧乏人……どうせ無能……どうせ女・子ども……

表向きだけはきれいな屁理屈で飾られていたとしても、
力の強い者が、力の弱い者を、その弱さに付け込んで力任せに踏みつけ、
利用し、食い物にし、切り捨てる社会を
大人たちがせっせと作ろうとしているのだとしたら、

その屁理屈の行間にある「どうせ」から滲み出る匂いが
腐臭のように世の中の空気の中にじわりじわりと漂い出て、
若者たちの心を侵していったとしても、ちっとも不思議ではないと思う。
2009.08.24 / Top↑
Obama政権の医療制度改革の“死の委員会”論争
無益な治療論提唱者のNorman Fostが出てこないなぁ……と、
ちょっと不思議に思っていたのですが、

やっぱり出てきました。

といっても、
NBCニュースのDatelineという番組のキャスターChris Hansen氏のブログに引用されているというだけで、

しかも、マスコミ人にはあるまじきことだと思うのだけど、
ご丁寧にもFostの顔写真つきで発言を引用しておきながら
Hansen氏は出所を明らかにしていないので、
一体いつの発言かすら分からないのですが、

ともあれ、明らかに終末期医療に関連したFostの発言とは

それは消極的安楽死と呼ばれているものです。
誰が関わるのかとか、本当に同意が取れているのかなどの問題はありますが、
これらが計画された死(planned death)であるということには疑いはありません。

どの患者が死ぬだろうということは医師には分かっています。
ベッドに行ってみたら患者が死んでいた、ということはありません。

Hansen氏は

気がつきました? “計画的な死”という文言に?

 治療停止は意図的に決められるのですね。
コスト削減のために、誰かを死なせよう、とね

ちなみに、このエントリーのタイトルは「ちまちまと小銭をケチる」。

Pinchin’ Pennies
BOOM BOOM BOOM, August 18, 2009
2009.08.24 / Top↑
前のエントリー森岡正博氏(29歳当時)による「パーソン論の限界」で取り上げた
森岡正博氏の「生命学への招待」は1988年に書かれたものだし
(29歳ですでに生命学の構想にたどり着いておられたのですね……すごっ)

私は森岡氏のブログはともかく、著書はこの他に1冊読んだだけなので、
その後の氏のパーソン論批判がどう展開されているのか、よく知らないし、

パーソン論についても私自身はAshley事件繋がりで限られた本を読んだだけだから
これこそ無知な素人ならではの恐れを知らぬ大胆とは先刻承知なのだけど、

「生命学への招待」が指摘した“パーソン論の限界”3点に、
ナマの重症児を直接体験として知っている母親として、
どうしても追加しておきたいモンクがあるので。

Spitzibaraが個人的にムカついてならない点は、まず、
知的障害・認知障害・精神障害の実際について、無知というにも、あまりに度が過ぎる

例えば
マイケル・ガザニガが「脳の中の倫理」で「認知症患者」と書くとき、
それは常に寝たきりで認知機能がほとんど失われた末期患者のことを意味しています。

今回、パーソン論で検索して、京都大学の先生の以下の解説を見つけたのですが、
http://plaza.umin.ac.jp/~kodama/bioethics/wordbook/person.html

ここでも、「無能症児やアルツハイマー病の人」と平気で書いてあります。

アルツハイマー病の患者さんの実像を知っている人なら、
たぶん、こんな文脈で、多様な患者像を「アルツハイマー病の人」と一括りになどできない。

専門医がこの文章を読んだら、
こんなにも無知な人がこんなにも無頓着にアルツハイマー病に言及すること自体に
激しい憤りを感じるのではないでしょうか。

アルツハイマー病になったら、その時点で認知機能を全て失うわけではないし、
アルツハイマー病だと診断されたとたんに何も分からなくなるわけでもないのです。

手元にある故・小澤勲氏の「痴呆を生きるということ」から。

アルツハイマー病の経過は、個人差が極めて大きい。数年で言葉を失い、寝たきりになり、死を迎える人もあれば、痴呆は徐々に進行するが、10年以上にわたって一人暮らしが継続できるような人もある。(P.19)

痴呆を病む人たちは、一つ一つのエピソードは記憶に残っていないらしいのに、そのエピソードにまつわる感情は蓄積されていくように思える。叱責され続けると、そのこと自体は忘れているようでも、自分がどのような立場にあるのか、どのように周囲に扱われているのか、という漠然とした感覚は確実に彼らのものになる。(P.32)

以下、現実の認知症患者さんたちの、すぐ傍らにいた医師が
痴呆を生きることの苦悩を語る言葉は、こんなにも細やかなのだという一例を。

よりによって、最も世話になっている、あるいは近い将来世話になるだろう人たちに彼らはなぜ、激しい攻撃性を向けるのだろうか。(P.82)

彼らが激しい攻撃性によってこころの奥底に潜む不安と寂しさを覆い隠そうとしているに違いない、と気づかされる。(p.83)

人は、一つだけの感情なら何とか耐えることができる。しかし、まったく相反する二つの感情を抱くとき、あるいは相反する二つの感情をぶつけられとき、どうしても混乱し、困惑してしまう。(p.87)

もの盗られ妄想を抱く人たちもまた、二つの感情に引き裂かれている。つまり、彼らは喪失感と攻撃性の狭間で揺れ動いている。そして、この狭間にあるという事態が彼らを抜き差しならない窮地に追いやっている。(p.87)

「アルツハイマー病」や「認知症」を引き合いに出してパーソン論を論じようとするならば、
少なくとも基本的なことくらいは勉強してからにしてほしい。

それらの病気を患う人に、こんなにも心を砕きつつ向けられる視線があることや
その視線の先に生まれる洞察の深さに触れてからにしてほしい。

(転じて自分たちの洞察の浅さに気づいてほしいとまで言うのは求めすぎかもしれないけど)

平気で「アルツハイマー病の人」と一括りに書き、
末期のイメージに都合よく乗っかってパーソン論を論じることに何のためらいもない人は
その表記そのものが、知的・認知障害の現実を何も知らないことの証拠であり、

ただ自分の頭の中にある観念としてのアルツハイマー病を
もしくは無知が描き出すアルツハイマー病のステレオタイプを云々しているに過ぎません。

これは「障害者」「知的障害者」「認知障害者」「精神障害者」についても同じ。

それとも、彼らは本当は無知なのではなく、
無知を装って、敢えて「障害」の多様性・程度のグラデーションを無視し、
都合よくイメージと言葉を使い分けて操作をしているのでしょうか。

森岡氏が定義の問題としてパーソンを扱うことの限界を指摘しているけれど、
パーソン論論者たちは定義の問題としてパーソン論を論じる一方で、
そのパーソン論を当てはめられる対象とされる障害者の方は定義しません。

具体的には一体どういう障害像の人のことを議論しているのかが
ただ曖昧なだけではなく、文脈によって都合よく変わるのです。

未定義のままの「知的障害者」や「認知症患者」が云々されていく中で、
具体的なイメージが必要な文脈では最重度ケースのイメージが用いられ、
そのくせ全体の文脈では最重度者のイメージに乗っかって導かれた論理に
「知的障害者」「認知症患者」全般がいつのまにか乗せられていく。

例えばピーター・シンガーは「実践の倫理」の中で
「知的障害者」「知能に障害を持つ人間」「知能に重大な障害を持つ人々」
はたまた「重大かつ回復不可能な脳損傷を受けた人間」などという言葉を、
あたかも、それら全てが同一の状態を指しているかのように定義もせずに平気で使いまわします。

Norman Fostが障害新生児を巡って無益な治療論を説く時に
引っ張ってくる症例は無脳症児ですが、

しかし、無脳症児のイメージを設定しておきながら
議論そのものは「重症障害児への医療」として一般化され、その無益が説かれます。

これは、シンガーが脳死者や植物状態の人をイメージとして提示しながら
同時に「知的障害者」を人格ではないと結論付けていくのと同じ。

そして、本当はたぶん、ここが一番いかがわしいところではないかと私はいつも思うのだけど、

これらは、現在世界中で猛威を振るっている自殺幇助合法化に向けた議論の中で、
「ターミナルで耐え難い苦痛がある人」を想定しているタテマエで、同時に
ほとんど“何でもあり”の「死の自己決定権」へと議論が拡大していく有様と
とても似通っていないでしょうか。

米国のラディカルな生命倫理の主張に触れると、
「とても論理的で高度に専門的な議論なのだゾ」というコワモテの陰に隠れて、
都合の悪いところだけは全く論理的でなかったり、論理が平気で飛躍していたり、
整理すべきものがグズグズのままに放置されていたりして、

高尚な学問めかした顔つきそのものが、ただのコケオドシなんじゃないか……と思えてくることすらある。

Ashley事件以降にわかに急進派に転身中で、
同時に倫理学者として出世街道を躍進中のDiekema医師が時に、妙に高圧的・挑発的になるのは、
最初からタカビー口調でなければ押し通せないことをやっている自覚がある時の
ただのハッタリでありコケオドシだったりもするし……。


【A事件関連で読んだ本のいくつかと、それらのパーソン論的語り口に関して
批判的に考えてきたことのエントリー】

ピーター・シンガー「実践の倫理(新版)」について
P・Singerの「知的障害者」、中身は?(2007/9/3)

マイケル・ガザニガ「脳のなかの倫理 - 脳倫理学序説」について
「認知症患者」は、みんな「末期」なのか?(2007/9/2)

James Hughes “Cytizen Cyborg”について
サイボーグ社会の“市民権”(2007/11/23)
チンパンジーに法的権利認める(スペイン)(2008/9/3)

ラミーズ・ラム「超人類へ! バイオとサイボーグ技術がひらく衝撃の近未来社会」について
THニストの描く近未来(2007/11/17)
Naamの障害者観(2007/11/19)

レイ・カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生:コンピューターが人類の知性を超えるとき」について
カーツワイル「ポスト・ヒューマン誕生」(2007/9/29)
多数のため少数の犠牲は受け入れよ、とカーツワイル(2007/10/1)
             

Peter Singerは去年NYでの認知障害カンファレンスの前後に、
ダウン症児の親とのメールのやり取りで

「ダウン症の実際についてあなたはこんなにも無知だ」と指摘され
自分でもそれに気づいて「では教えてくれないか」と応じたという話があったのですが、
エントリーを立てておこうと思っているうちに、見失ってしまいました。

それから、Singerは何年か前に母親をアルツハイマー病で亡くしているのですが、その際に
自分の母親には最後まで手厚い医療を受けさせたのは言行不一致との批判に対して、
「やはり自分の母親となると話が別」と言ったり
「自分はかねてからの主張どおりに治療停止を望んだが、
あれは妹(姉かも)の希望だったので仕方が無かったのだ」と
発言が揺れた、という話もありました。

これも、まとめようと思っているうちに、見失ってしまいましたが
いずれも、そのうち穿り出せたら、と思っています。
2009.08.23 / Top↑
パーソン論というものを私はちゃんと勉強したわけではなく、
Ashley事件でPeter SingerがNY Timesで挑発的な口を挟んできたために
否応なしにSingerバージョンのパーソン論と出会ってしまったり、

同じく“Ashley療法”論争で擁護に出てくるケッタイな人たちの中に、
トランスヒューマニストと名乗る、私には頭がいいだけのバカとしか思えない面々が含まれているので、
そのTHニズムてな、いったい何なんだ……と調べてみるうちに

「重症知的障害があるAshleyは赤ん坊または動物と変わらず、
したがって尊厳などとは無関係なので、体を侵襲してもかまわない」
という彼らの“Ashley療法”擁護論の背景にあるのは、どうやらパーソン論らしいと気づいたり、

またAshley事件の最重要人物と私が目をつけたNorman Fost医師が
あまりにも過激な「無益な治療」論を展開するのに度肝を抜かれつつ、
そこにもパーソン論の匂いを強烈に嗅いだりして以来、

ロクに内容も背景も知らないまま、パーソン論というものが気に障り続けている。

先週、
森岡正博氏の「生命学への招待-バイオエシックスを超えて」を読んでいたら、
パーソン論が詳細に解説されていた。

難解すぎてついていけない箇所もいっぱいあるのだけれど、
私は学者ではないので、そういうところは平気ですっ飛ばしておくとして、

パーソン論の元祖トゥーリーの主張が
2つに分けて整理されているのが分かりやすかった。

①パーソン論の原理

誕生や死の場面で、ある存在者を殺すあるいは死なせるというケースにおいては、その存在者が生物学的なヒトであるか否かという判断と、その存在者が私たちの一員として正当な道徳的配慮をすべきパーソンであるか否かという判断は、全くレベルの異なった判断である。(p. 216-217)

②この原理に具体的な内容をくっつけていくと、こうなるという話が
「具体的なパーソン論」と森岡氏が便宜上呼ぶもので、

(1)パーソン (2)生存する権利 (3)自己意識要件の3つを重ねる。

「生命学への招待」では、これら3つの関係がさらに詳細に解説・分析された後に
「パーソン論の限界」という項目にたどり着く。

そこでは具体的なパーソン論一般に共通した欠陥が3点指摘されていて、

なぜ〈パーソン〉であることが〈生存する権利〉を持っていることと結びつくのか、
その必然性をパーソン論を説く論者は説明しなければならない。

自己意識があることをパーソンであることと規定する限り、
パーソン論のいうパーソンは生物学的ヒトの範囲の内側に不可避的に設定される。

ここで言われていることは、もしかしたら、もうちょっと厳密な議論なのかも、とは思うけど、
無知な素人が自分なりに理解したままに私自身の言葉で、ごくざっかけなく、まとめてみると、

キミたちの人間観はあまりにも浅薄で、
生物学上のヒト個体の範囲内だけで人間というものを捉えて、
関係性というもののなかにヒトも動物も生きて在るという射程を見逃している。

だから、キミたちの説によると、
誰かの愛する人や動物は、息を引き取って死体となった瞬間から
「私の大切なあなた」や「大好きなポチ」ではなくなってしまうことになる。

実際には、彼らを愛する人との関係性において、そんなことは起こらないし、
たとえ植物状態で意識がない患者さんでも、
見守る家族にとっては「その人」に他ならない……という
生物的な個体を超えた存在の意味やあり方には
何の顧慮もされないことになってしまう。

パーソン論の原理においては、
生物学的なヒトであることとレベルの異なった判断だと言いながら、その次の段階では、
最初から、その生物学的なヒトの範囲内にパーソンを限定されているとは、
それは一体どういうトンデモなのだ?

それは、つまり、パーソンの定義の問題という小手先で片付けてしまおうとする
キミたちの議論の枠組み自体が最初から間違っているのだよ。

胎児はパーソンではないから殺してもよい、という主張は論理的に成立していない。

胎児はパーソンでないから生存する権利を持っていないと
仮に100歩譲って、認めたとしても、だからといって、
ただちに「殺してもよい」ことにはならない。

ここは著者の言葉を以下に。

私たちはむしろパーソン論者に対して、「生存する権利を持たない存在者は殺してもよい」となぜ無条件に言明できるのかを、改めて問う必要がある。(P.229)


この③を読んだ時に、まず、
あ、これは“Ashley療法”と重症児への成長抑制正当化論の陥穽と同じだ……と思った。

例えばDiekema医師の当初の正当化の中に
「Ashleyには、なにが尊厳であるか分からないのだから、
Ashleyの体の尊厳を他の人の体の尊厳と同じに考える必要はない」
という論法があるのだけれど、

仮に尊厳を理解することができる知的機能がないとしても、
(私は、多くの重症児は、それを理屈で理解できなくても
尊厳のある扱いと、ない扱いの違いを感じとる感受性があることを疑わないけど)

だからといって、ただちに「だから尊厳を踏みにじる扱いをしてもかまわない」ことに
なるわけではない。

重症児への成長抑制は倫理的に許されると主張する人たちは
誰かに重症の知的・認知障害があることが、
なぜ、その人の体の尊厳や統合性を踏みにじってもよい理由になるのかを
いまだに説明していない。

これについては、ちょっと前から考えている「尊厳」の問題として、また。

また、重症児の母親として私自身がパーソン論のマヤカシだと感じる点については次のエントリーで。
2009.08.22 / Top↑
SSRIの副作用の攻撃性が自殺に結びついているとして、小児への処方が禁じられてから子どもたちの自殺件数は減っていない、との調査結果を受けて、この問題に関する長文の分析がNatural Newsというサイトに出ていて、以下はそのPartⅡ。PartⅠへのリンクは冒頭にありますが、ちょっと読もうという気力がわかない。なんせ長い。サイトの副題がNatural Health, Natural Living, Natural News となっています。白か黒かじゃないとは思うのだけど、どっちも言語道断な極端さ加減だから、白と黒との間を丁寧に考えようよ……と思えば、出てくる情報との向き合い方がいちいち難しい。裁判などの事実関係だけは拾っておきたい気もするのですが……体力が足りない。
http://www.naturalnews.com/026895_suicide_drugs_suicides.html

非営利のナーシングホームの方がケアの質が高い。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/161219.php

この前、3医学会が製造元の資金で会員に情報提供をしていたことが明らかになったばかりのHPVワクチンだけど、Washington D.C.の学校ではHPVワクチン接種を事実上義務付けていて、親がそこからオプト・アウトする格好らしい。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/08/20/AR2009082004186.html

Obama政権、電子カルテ導入に12億ドルを投入へ。:ブラウン政権は、予算をつぎ込んだけど電子化がなかなか進まず、非難轟々だったけど。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/08/20/AR2009082003557.html

HIV、結核、マラリアの人がホメオパシーを当てにするのはやめましょう、効きません、とWHO。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8211925.stm

米国の法務局がスイスの銀行家と弁護士を米国人の脱税に加担している、として起訴。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/8213352.stm

ゲノムを人為的に組み込んだバクテリアで、人造生命体に一歩近づいた、と科学者さんたちが。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/8210739.stm
2009.08.21 / Top↑
自殺幇助合法化議論の“すべり坂”で新しいパターンが報道されるたびに
「ああ、こういう方向にも行くのか」と、意表を突かれるけど、

今回の「警察による自殺幇助」という文字を見た時には
まず、これは比喩、せいぜい揶揄・皮肉なのだろうと思い、軽い気持ちで記事を読み始めた。

そして、「警察による自殺幇助」は既に事件の1分類としてFBIでデータ化されていると知った瞬間、
ものすごく重い衝撃とともに思い至った。

──そうか、そういえば、そうだ……。
高齢者、重度の身体・認知障害者が医療によって手っ取り早くお払い箱にされるパターンが
精神障害者が警察によって手っ取り早くお払い箱にされるパターンとして
応用・採用されないはずは、なかった……。

でも、これって一体、どういう社会の到来なんだ……?
おなかの辺りがムカムカして、一瞬、吐きそうになった。

8月14日にNC州Jacksonvilleの警察署長が出したプレスリリース(以下の記事より)から
「警察による自殺幇助」または「警官による自殺」の定義を以下に。

A Police-Assisted Suicide or Suicide-by-Cop is a suicide method in which someone deliberately acts in a threatening way towards a law enforcement officer, with the main goal of provoking a lethal response. Such a person typically feels despondent and hopeless, but for whatever reason, doesn’t want to take his or her own life directly. According an FBI bulletin, with regard to lethality, 69 percent of Police-Assisted Suicides resulted in fatalities, 17 percent proved nonfatal, and in 14 percent of the cases, the outcome was not determined.

警察による自殺幇助または警官による自殺とは、挑発して殺させる目的で、警察官に向かって意図的に威嚇的な行動をとる自殺方法のこと。このような人物は通常、気力を失い絶望しているが、どういうわけか自分で死ぬことを望まない。FBIからの情報によると、警察による自殺幇助で死に至るケースは全体の69%、17%では死に至らず、14%では結果が未確認。

今回の事件とは、
North Carolina 州 Jacksonville で8月14日、
家族によると双極性障害他の精神障害があったSamuel Jarolim (30)が
自宅前の道路で警察に射殺されたというもの。

彼はその朝タクシーでウォールマートに行ってショットガンの弾を買い、
自宅に戻って911に電話をして「警官や近所の人間を皆殺しにしてやる」とわめいた。

パトカーが自宅に駆けつけると、
上半身裸のJarolimが銃とライフルとショットガンを持って出てきて、
制止を聞かずに近所の家に向かおうとしたため、
警官の一人が胸を撃ち、Jarolimは死亡。

以下の記事に、パトカーに向かってくるJarolimが
制止を聞かずに歩き去ろうとするまでのビデオがあります。



この記事によると、
NC州では、これまでに2件の「警察による自殺幇助」事件が起きており、

最初の事件は2006年11月20日に
同じくJacksonvilleの警察が Marine Neil Mansonを射殺。

2件目は今年3月18日に
Onslow County Sheriff’s Departmentのシェリフ代理(? deputy)が
John Traubを射殺。

(2つの事件の記事と概要を文末に追記しました)


ちなみに、昨日のこちらのWP記事によると、
2007年のヴァージニア工科大学での乱射事件で
犯人の学生Chouの精神医療関連の情報が公開され、
本人が大学のカウンセリング・サービスに相談して助けを求めていたり、
州の病院に入院していたりもしたのに、それら一連の専門家の関与が
適切な治療に結びついていなかったことが明らかに。


たしかに日本で起きる通り魔事件のなかにも、
本当に殺したい人が実は他にいたり、自分が死んでしまいたかったりする衝動が
無関係な他者への攻撃性に置き換わってしまったように見える事件もある。

でも、そういう分析・認識は本来、
犯罪が起こる機序の理解へ、抑止の手立てへと向かうはずのものだろうし、

支援が必要な人が支援を受けられていない状況を片目に、
死にたいから犯罪を犯すというなら、はい、ご希望通りにバン、バン……って、なんで、なるの?

(その辺、考えてみれば、十分な緩和ケアが受けられない状況を無視して、
死にたい人には、はい、ご希望通りに医師が毒物を……というのと同じか……)

不気味なのは、
もし、この米国の「警察による自殺幇助」が日本で広く報道されたとしたら、
「そうだ、その通りだ。とばっちりを食らう人が出る前に、そんなヤツは殺してしまえばいいんだ」と
言い始める人たちが案外少なくないかもしれない……と思ったりすること。

           -------

この”警察による自殺幇助”事件、
世界中で荒れ狂っている自殺幇助合法化議論の”すべり坂”
もしくは”スピンオフ”だと考えれば「尊厳死」書庫なのですが、

その本質としては「切り捨てられていく障害児・者」の書庫なのだろうとも思うし、

特に最近、世の中が変わっていく速度がどんどん加速して、

無益な治療」論と「新優生思想」と「尊厳死」によって「切り捨てられていく障害児・者
そして、それに利用されているのが「ステレオタイプという壁」であり「親の権利」というふうに、
書庫のカテゴリーが急速に互いに近くなり重なりあっていく……。

それは「警察による自殺幇助」がいつのまにか公式の事件分類となるような恐ろしい社会が
既に出来上がりつつあって、その速度が加速している……ということなのでは?

そして、そういう動きを生み出している背景にあるのは
トランスヒューマニズム」や「米政府NBICレポート」に象徴的な
経済とテクノのネオリベラリズム」の”科学とテクノ万歳”文化とその利権構造であり、

またゲイツ財団とUW・IHME」の功利主義グローバルヘルスに象徴されるように
経済で起こったことが医療で繰り返される医療のネオリベ……。

当ブログの小さな窓から覗き見る世界は、そんな、酷薄で容赦のない貌をしている。



【追記】

2006年のManson事件の記事がこちらに。

別れた妻とのゴタゴタで元妻の家に立てこもって警官に向けて銃を乱射、という事件。
ここは Jarolim事件の記事を読んだ時にも、ちょっと気になった点なのですが、
Mansonは抗ウツ薬を飲んでいたとのこと。

今年3月のTraub事件の記事はこちらに。

こちらは、ちょっと……? な事件で、
Traubから自殺したいとの電話を受けた友人が案じて警察に通報し、
警察が駆けつけると、窓の向こうに、銃をこちらに向けて構えたTraubが見えた。
そこで警官の一人が撃ち、Traubは死んだ、と。
2009.08.21 / Top↑
自分で判断して行動するロボットが医療、交通機関に導入される日が近いとし、そこに倫理問題、法律問題が生じる恐れがあると the Royal Academy of Engineering。機械の判断が間違った場合の責任は誰にあるのか、という話とか。:最近、この問題はよく指摘されている。ちゃんと読んではいないけど7月26日8月4日にも補遺で拾った。戦争に導入されて自分で判断したロボットが人を殺したら、その責任は誰にあるのか、という問題も、だいぶ前にどこかで読んだ記憶がある。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/technology/8210477.stm

100%植物由来のノロ・ウィルスのワクチンが人体実験の段階に入る、と米国の科学者。:100%植物由来というところが味噌なのかな、やっぱり。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8206743.stm

進行した癌の患者への緩和ケアによってQOLと精神状態は向上するが、入院日数は特に短縮しなかった、との調査結果がJAMAに。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/161163.php

民主党の医療制度改革案に賛成したAARPに怒って7月1日以降、6万人もの会員が脱退。改革案に反対のアメリカ高齢者協会ASAに流れているとのこと。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/161122.php

2007年のヴァージニア工科大の乱射事件で、犯人の学生Choの精神保健関連の情報が公開され、本人が大学のカウンセリング・サービスに相談していたり、州の精神保健機関とコンタクトもありながら、専門家が問題の深刻さに気づけず対応のチャンスを逸していたことが明らかに。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/08/19/AR2009081902380.html
2009.08.20 / Top↑
オーストラリアの Christian Rossiter氏(49歳)に関する続報。
(文末に、これまでのエントリーへのリンクがあります)

ナーシングホームに入所しているRossiter氏は裁判所から
栄養と水分の供給を拒否して自殺する権利を認められたばかりですが、

その後、オーストラリアでDr. Death と異名をとる
「死の自己決定権」アドボケイト、 Dr. Nitschkeのアドバイスを受け、
まずはスイスへ行くためのパスポートを申請したい、と言い始めました。

パスポートが取れて、
自分がスイスへ行くことで誰にも罪に問われるなどの迷惑をかけないのなら
まずはDignitasでの幇助自殺を第1の選択肢とし、それがかなわない場合にのみ、
栄養と水分を拒否するのを次善の策とする、と
同氏の現在の心境を弁護士が公表。

Dr. Nitschkeは今回の裁判所の判断を賞賛し、
このまま自殺幇助合法化すべきだといわんばかりの発言をしていますが、

オーストラリア医師会は
患者には医療を拒否する権利がある。
栄養と水分もその権利の範囲だと認められたに過ぎない。
今回の判決は治療の差し控えの話であって、
決して患者を積極的に死なせることが是認されたわけではない」と。

Quadriplegic wants Swiss assisted suicide
CathNews.com, August 20, 2009


この記事、読んだ時に、思わず、お腹の底で唸った。

うぬぅぅぅ、Nitschke。汚い手を使うな──。

Dr. Nitschkeは今回の裁判所の判断を賞賛しつつも、
しかし餓死は自殺の方法としては苦しいのが難点だ、とも語っており、

Dr. Nitschkeが自分からRossiter氏に接近していったのだな、
そしてこの人を政治利用するために最も効果的な方向へと誘導したんだな、と。

Dr. Nは兼ねてより、
医師の幇助による毒物自殺が最も苦しみが少なく効果的な方法だと説いており、

それが許されないところではヘリウムでの自殺が最も有効だと
あちこちの「死のワークショップ」でその方法を解説する一方、
医師の処方する毒物での自殺幇助を合法化するべきだと主張している人物。
(詳細は文末の関連エントリーを)

記事の中でも、
こういう判決が出たからには、次は四肢麻痺でない誰かが
スイスへ行って死にたいけれども許されないから
止むを得ず、栄養と水分を拒絶する、と言い出すだろう」と語っています。

まずは栄養と水分を拒絶して死のうとしていた四肢麻痺のRossiter氏に
その主張を裏付けるような死に方をさせたいのでしょう。

Rossiter氏はこの後、
スイスへ行って自殺しても、それが誰の罪にもならないように
オーストラリアの法律の明確化を求めるのではないでしょうか。
英国のPurdyさんと同じように。


死を望むほど苦しい状態にいる人を政治利用したい人たちが
あちこちの国で蠢いている──。

死を考えるほど苦しい状態にいる人たちの周辺に、
希望を見出して生きる方向へと支援するためではなく
自分たちの主張のために効果的な死に方をしてもらおうと
親切な理解者・支援者を装う死神みたいな人たちが群がっていく──。

死になさい。
あなたには死ぬ権利がある。
私がラクに死ねる方法を教えてあげるから。
だから、私が指南する通りに死になさい。
あなたの死には利用価値があるのだから──。
あなたが死んでくれると私たちには好都合なのだから──。



2009.08.20 / Top↑
Obama政権の医療制度改革案を巡る賛否の議論が過熱している中、
反対派の指摘する問題点を挙げ、1つずつ事実確認で反駁する趣旨の記事がAPにあって、

それを読むと、
共和党をはじめとする国民皆保険化への抵抗勢力が何を気に入らないと言っているのか
箇条書きにされているのが面白い気がしたので。

・高齢者の医療内容の是非を政府が決めるつもりでは? 安楽死への誘導も?
・不法移民の医療までカバーするつもりでは?
・官製医療制度にしてしまうつもりでは?
・納税者のゼニが中絶費用にまで使われてしまうのでは?

記事では、それぞれの懸念に対応する事実を挙げて
いずれも誤解であると述べているのですが、
煩雑なので悪しからず省略。

(米国の医療制度改革を詳細に追いかけて理解するのは私の力をはるかに超えているので)

興味のある方は以下の原文をどうぞ。



私は、またいつもの遅ればせで、
今頃になってクルーグマン先生の「格差は作られた」を読んでいる最中なので、

米国の格差は人種差別を根底にした保守ムーブメントによって意図的に作られたもので、
先進国の中で米国にだけ国民皆保険が存在しないのもそのためだという説と、

なるほど、話はきれいに繋がるなぁ……と腑に落ちる感じがしたし
クルーグマン先生がこのところNY Timesで援護しきりなのも、「なるほど」だった。
(7月24日と31日の記事は補遺に拾ってあります。その後もありましたが、スルーしました)

ただ、高齢者(と障害者)の医療切捨てについては、
こういう政治や制度を装置として進められるわけではない……
……ということに過ぎないのかもしれない、と思ったりもする。

もっと目に見えにくい形で、じわじわと、
科学とテクノロジーの狭い専門分野の論理が広く一般に共有されていくことや
そうした論理を一般化するための御用学問が活躍して、医療倫理の名の下に正当化されていくこと、

それと平行して
知的能力・機能でもって人間に線引きを行う、これまた科学とテクノと同根の価値観が
一般社会に広く受け入れられ根付いていくことなどを通じて、

(既にじわじわと社会の文化を内側から侵食し始めていると思うし)

生命倫理によって様々にご都合主義に規定される患者の“権利”と“利益”と
それを“サポートする”医学を含む科学・テクノロジーの専門性の間で

あくまでも個別に選択されて、
または選択させられて、
あるいは選択したことにされて
いくんじゃないのかなぁ……。

そういう、1国の医療制度とか政治をはるかに超えた、もっと大きな
そして、なにか、こう、証拠の残らない毒物のように内側からじわじわと効いてくるような装置が
世界規模で着々と準備されていっているような、そんな不気味さで……。
2009.08.20 / Top↑
これ、地味な記事だけど、昨今どんどんビッグ・ブラザー社会化している英国では、とても今日的に本質的で重要な問題を含んでいると思う。狂牛病がひそかに蔓延して、実は多くの人が知らず知らずにかかっている恐れがあるため、どれくらいの人が目立った症状がないまま感染しているかを調べる唯一の方法として、英国政府は法医学者らが解剖の際に調べてくれることを望んでいるのだけれど、解剖は死因の特定のために行うものであり、その際に研究への協力を遺族に求めることになると、本来の法医学者の立場の中立性が失われ、仕事への信頼を失う、と法医学者らは反発。その反発にエールを。でも、“科学とテクノで何でも予防、なんでも簡単解決万歳”の文化からは「法医学の中立性と信頼という利益と、狂牛病蔓延の実態が把握できないままに放置される害やリスクを検討すれば、法医学の中立性がなんぼのもんじゃい」的な反論が出てきたって、もう、たぶん驚かない。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8207034.stm


去年英国のNHSが医療過誤訴訟の賠償金として支払った総額は8億ポンド以上。産科の医療過誤訴訟が最も高額であるものの、中には将来に備えて凍結保存した癌患者の精子が解けて使い物にならなくなって、精神的なダメージを受けた、との訴訟も数件。3年前は6億ポンドだったのに、この3年間で急増。:科学とテクノの時代の変化を受けて、医療過誤訴訟の内容も、そりゃぁ、変わっていくのでしょうし、科学とテクノで医療費を削減というシナリオには、これ以外にも思いがけない盲点は結構あるんじゃないのか、という気がするのですが?
http://www.guardian.co.uk/society/2009/aug/19/nhs-legal-costs-compensation
2009.08.19 / Top↑
8月8日のエントリーで
ヒト・パピローマ・ウィルスのワクチン Gardasil を巡っては
様々な疑念の声が上がっていることに触れたばかりですが、
今日のWPが更なる疑惑を取り上げています。



米国医師会雑誌JAMAに発表された分析によると、

The American College Health Association
The American Society for Colposcopy and Cervical Pathology
The Society of Gynecologic Oncologists 
という、HPVワクチンを強力に推奨してきた3団体に対して、

それぞれ19万9000ドル、30万ドル、25万ドルが
HPVワクチン Gardasil の製造元である Merckから支払われ

3団体は、その資金によって、
それぞれの学会員にGardasilに関する情報提供を行ったことが明らかに。

また、それら3団体がHPVワクチンを推奨する際の戦略も
Merckが使っているマーケティング戦略そのものと同一で
副作用リスクを過小に、子宮がんリスクを過大に単純化している、とし、

論文執筆者は
「何が起こっているかというと、
マーケッティングと医学教育を画する一線が曖昧になっているということでしょう」と。

(ここで medical education とされているのは、文脈からすると
それぞれの学会が学会メンバーに対して情報を流すことを指しているように思われます)

2006年にFDAがGardasilを承認してからの
Merckのあまりにも過激なGardasil売り込み戦略には批判が多く、
特に学齢期の女児への義務付けを狙っての売り込みは物議をかもして
Merck側もさすがに義務付けは諦めた経緯も。

Merckを批判してきた側にとっては
今回の論文の分析はMerckのGardasil売込みが不当である新たな証拠だと。

MerckによるGardasil治験に協力しつつもMerckの戦略に批判的な医師は
「この論文は、Merckが医療界のオピニオン・リーダーに働きかけて
不利な情報を出さずにGardasilを売り込むことができたことを明らかに示している」。

Merckの方では
金額はディスクローズされており、
助成金はMerckとは無関係にワクチンの情報提供に使われる目的のもので
その情報提供プログラムには関与していない、
したがって助成金の提供には問題はない、と主張。


2009.08.19 / Top↑
ずっと前から一度まとめておきたいと思っていたカナダの事件。

2005年に亡くなったトリソミー13の Annie Farlow ちゃんを巡って、
トロント子ども病院(Toronto’s Hospital for Sick Children)は
重症障害があるというだけで、独断で救命治療を手控えたのではないか、
もしくは過剰な麻酔薬投与で死なせたのではないか……との
疑惑が取りざたされている事件です。

最終的に事実関係が確認されていないし、
どうやら、このまま究明されることもなさそうな展開なので、
病院サイドとAnnieちゃんの両親サイドの言い分は食い違ったまま、
母親のBarbaraさんが無益な治療論に対抗するアドボケイトに祭り上げられてしまった観もある
ちょっと、すっきりしないところのある事件なのですが、

諸々の情報から、Barbaraさんが主張する事実関係はだいたい以下。

両親は妊娠中におなかの子どもがトリソミー13であることを知らされ、
トロント子ども病院の遺伝カウンセラーに紹介された。

心臓に欠陥があって手術が必要になる、生まれてもすぐに死ぬ確率が高い、
助かったとしても長くは生きられないと、暗に中絶を勧められたが、
調べてみたら、生き延びて自分なりの生を生きている子どもたちもいることを知り、
そうした子どもたちを育てている親の話を聞いたりもして、生むことを決断した。

Annieちゃんは2005年5月25日に誕生。

生まれた時には心臓に問題はなく、
アプガー(正常を10とする新生児の健康度を測るスケール)は 8ないし9だった。

6週間で退院したが、生後80日目に呼吸困難を起こし、
近所のクリニックを経てトロント子ども病院へ搬送される。

その後、Annieちゃんが死亡するまでの24時間の非常に複雑な経緯の中で
特に問題となっているのは

呼吸困難を起こしており、通常のプロトコルであれば
コードブルーとして集中治療室に連絡するところ、
呼吸セラピストだけを付き添わせて1時間も放置した。
(その間、医師らからは安楽死が何度かほのめかされた)
 
・医師らには呼吸困難の原因が肺炎ではないと分かっていたのに、
両親には肺炎だと告げ、本来の症状に必要な治療をしなかった。

・Annieの呼吸はセラピストがバッグで呼吸を手伝う状態にまでなったが、
血中酸素濃度センサーのアラームは切られており、鳴らなかった。

・酸素濃度の数値が急激に低下していることに母親が気づいて看護師を呼び
Annieはやっと集中治療室に運ばれたが、すると今度は
「肺炎ではなく手術が必要な状態。でも本人が手術には耐えられない」と説明が変わり、
動転していた両親は医師らの説得に応じて挿管を拒み、蘇生拒否(DNR)に署名した。

その後、まもなくAnnieちゃんは死亡。
苦しみ続ける我が子に寄り添いながら助けてやれなかった24時間が
両親にはトラウマになっている。

Annieちゃんの死後、不信感をぬぐえない両親がカルテを入手したところ、
さらに疑惑を招く事実が明らかに。

・ 電子カルテの最後の部分が削除されていた。

・ 両親がインフォームドコンセントとしてDNRに同意するよりも前にAnnieはDNRとされていた

・医師の処方箋なしに薬局の棚からAnnieの名前で大量のフェンタニールが持ち出されていた

説明を求めた両親に対して、病院は回答を拒否し続けたので
両親は疑惑を公にするためにHPを立ち上げ、オンブズマンに訴えるなど闘い始める。

トロント子ども病院には、
重症障害のある子どもには救命治療を手控える暗黙のプロトコルがあるのではないか、
Annieはフェンタニールの過剰投与で意図的に殺害されたのではないか、
というのが両親の疑惑。

当初1時間、放置したのは、子どもの苦しみを見せて
親の方からDNRを言い出させるよう仕向けたのではないか、とも。

その後、the Office of the Chief Coronerの小児死亡検証委員会は2007年に
Annieにフェンタニールが投与された証拠はないとしたものの、
死の直前24時間の経緯については「適切な医療の形態を反映したものではない」と報告。

納得できない両親は今年に入り、病院と2人の医師を相手取って
人権裁判所とsmall claim裁判所(小さな苦情を扱う簡易裁判所?)に訴えを起こしたが、
手続き上の不備や、病院側が望む上級裁判所での審理には巨額の費用が予想されるためか、
ちょっとよく分からない二転三転があった後に
今年6月、両親が訴えを取り下げた模様。

詳細は、母親のBarbaraさんが情報公開のために立ち上げたこちらのブログに。


母親のBarbaraさんの書いたものを読み、メディアでの発言を読むと、
特に「フェンタニールで意図的に殺した」という主張などには、
子どもの死を受け入れられない親の苦悩ゆえの疑惑なのかなぁとも
思わせられてしまいそうですが、

このAnnie Farlow事件の舞台となった病院が
実はあのKaylee事件と同じ病院だとすると、
俄かに話が違ってこないでしょうか。

ターミナルでもなければ意識がないわけでもない生後2ヶ月の障害児 Kayleeちゃんから
あやうく心臓が摘出されるところだった、今年4月の事件。

父親は「重い障害があって、何もできないまま死ぬのなら
せめて誰かの役に立って死んで、この子の生を価値のあるものにしてやりたかった」といった
意味のことを言っていましたが、最終的には親が決断したこととはいえ、
救命可能でターミナルではない子どもから臓器目的で呼吸器を外したのは
まぎれもなく、トロント子ども病院の医師です。

その取り外し行為を、何の抵抗も感じないでできる医師なら
生まれたばかりの我が子の障害を知らされて動転している親に
心臓提供への誘導があったとしても不思議ではないような気がします。

私が個人的に耳にした未確認情報では
Kaylee事件に直接関わったスタッフの中には、Farlow事件に関与した同じ人物が含まれている、とも。

この2つの事件をつなげて考えてみると、どうしても頭に浮かぶ疑念は、

トロント子ども病院には、障害児の命を軽視する文化の土壌が実際にあるのでは……?
そして、それは本当に一部医師だけ、トロント子ども病院だけの問題なのか……?


          ―――――――――――

Annie Farlow事件については
カナダAlberta大のWilson, Sobsey両教授が当初より積極的にフォローしておられます。
お二人のWhat Sorts ブログでの関連エントリはこちら。

Annie Farlow, Sickkids, and an Ontario Human Rights Commission hearing
By Rob Wilson
What sorts of People, April 15, 2009

What Sorts of Death for Annie?
By Dick Sobsey
What Sorts of People, June 8, 2008


今年の裁判関連ニュース記事はこちら。

Parents want Sick Kids taken to rights tribunal
The Toronto Star, April 15, 2009

A Child’s death, a legal odyssey
The National Post, June 22, 2009

Parents In Hospital Lawsuit Offer Deal
The National Post, June 23, 2009


2009.08.19 / Top↑
米兵が精神疾患を発症するケースが相次いでいることから、米兵全員にメンタル・ストレス・トレーニングを行うことに。
http://www.nytimes.com/2009/08/18/health/18psych.html?_r=1&th&emc=th

これさえ飲めば体がダイエットしているつもりになってくれる薬の治験が始まる。科学とテクノの業界では、ここ数年、遺伝子を1ついじって、カロリー制限をするだけで糖尿病や心臓病が防げるだけでなく寿命が延ばせるとの発見で盛り上がっているらしいのだけれど、カロリー制限を続けることはなかなか難しいという難問に、登場したのが resveratrol。すでに米国ではダイエット・サプリの業界が根拠もない説を流してネットで繁盛しているらしい。FDAは老化そのものを病気とは捉えていないため、治験は糖尿病の治療として行われるのだそうな。少なくとも表向きはね。
http://www.nytimes.com/2009/08/18/science/18aging.html?th&emc=th

で、その resveratrolをネットで買うにあたっては、ガセの効能書きに気をつけてね、という話がこちら。
http://www.nytimes.com/2009/08/18/science/18ageside.html?ref=science

Obama大統領の医療改革案から終末期相談料が消えただけではなくて、今度は公的医療保険構想もなくなるみたい……? やっぱり保険会社の抵抗がすさまじい?
http://www.nytimes.com/2009/08/17/health/policy/17talkshows.html?_r=1&th&emc=th
http://www.nytimes.com/2009/08/18/opinion/18herbert.html?th&emc=th

世界癌研究基金というチャリティが、英国の親に対して子どもの弁当にハムなどの加工肉を入れないように提言。子どものうちからハムの味を覚えさせないように、と。:加工肉が体によくないという話はかなり前から目に付いていたけど、それは大量に食べ続けたら、という話なのに、どうしてこういう極端なことになるんだろう。世の中上げて、科学的知見というヤツに振り回されすぎと違う?
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8202188.stm

医師の94%が製薬会社や医療機器会社となんらかの関係を持っていて、製薬会社が直接医師向けに行うマーケティングに使う金額が毎年200億ドルに上るというのでは、患者としては自分の主治医の処方がそうした関係に影響されていないか気になるところ。患者との信頼関係を維持するためにも、透明性を、という記事。:前半に、「最近よく医師と製薬会社の関係が話題になっていますが、そういうこと、あるんです?」という聞き方なら患者だって自分で聞けるだろう、という下りがあって、いや、それは冗談にしても無理でしょう……と思った。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2009/08/17/AR2009081702090.html
2009.08.18 / Top↑
前のエントリーで取り上げたニュースに関連して、
今日になって、さらに気になるニュースが出てきました。

2006年にスイスのDignitasで米国人男性 Caig Ewert氏 が幇助自殺する模様を撮影したビデオが
今月末にオーストラリアのテレビで放送される予定だとのこと。

Ewert氏は死の1年前にALSと診断され、
家族の負担になりたくないと死を選んだ人物。

以下の記事では、
ナーシングホーム入所者に栄養と水分を拒否して死ぬ権利を認めた裁判所の判断の直後だけに
この映像の放映は“タイムリー”である、と書いています。

Assisted death to be shown on TV
The Canberra Times, August 16, 2009


オーストラリアでは現在のところ自殺幇助は違法ですが、
この国でも、死の自己決定権ロビーがさかんに動き始めたようですね。

ちなみに、問題の映像は去年、英国で放送され物議をかもしたもの。
その際のニュースを取り上げたエントリーはこちら。



問題の映像の一部は上記エントリーにもありますが、
そのほかにもYouTubeにたくさんアップされており、こちらから。
2009.08.17 / Top↑

オーストラリア、パース近郊のナーシングホームに入所している49歳の男性Christian Rossiter氏が
四肢麻痺で生きるのは地獄だとして経管栄養を拒否したい意思を繰り返し表明し、
ホーム経営の法人が裁判所に判断を仰いでいたケースで、

金曜日、本人が聴聞に出廷して
「人としての基本的な機能がいずれも果たせない。
鼻もかめないし、涙を拭くこともできない」、
精神状態は健全である、死にたい、と述べた。

またスイスのDingitasへ行くつもりもあるが、
スイス政府の制約によって彼のような場合には手続きが非常に煩雑になっている、とも。

それらの主張を受け、裁判所は
彼には自分の治療を指示する(拒否することも含めて)権利がある、と認めた。

栄養と水分を本人の意思に反して供給してはならない、
しかし、停止することの結果については医療スタッフは十全な説明をしなければならない、と。

Rossiter氏は、まず医療上のアドバイスを受けてから
その後に最終的に栄養と水分を拒みたい、
まだ、この先、説得されて気持ちを変える可能性もある、とも。

オーストラリアの医療法と倫理の専門家は
「精神科の治療の点でも、動けるようになるという点でも
この人のQOLを向上させられるものは何もないと
裁判所が認定したということです」と。

この専門家は
本件は本件に限っての判断であり、前例を作るものではないとも解説するが、

自殺幇助合法化に反対運動を展開している the Right to Live AssociationのPeter O’Meara氏は
「前例となる。大いに懸念される」ので、今回の判断には法的に対抗手段を考えている、と。

また「四肢麻痺の人たちと話をすると、もっと障害の重い人でも、
適切な対応をすれば気持ちを変えられることが分かっている」とも。

2009.08.17 / Top↑
どんどん醜悪な様相を呈している米国の医療制度改革議論で、
アラスカの州知事を辞めたばかりのSarah Palin氏が

Obama政権の医療改革案には
高齢者や障害者への医療を切り捨てる“死の委員会”条項が含まれている、と糾弾。

“死の委員会”という文言が独り歩きを始めて
改革つぶしで勢いづく共和党を利する状況となったために、

問題の条項とは、実際には
終末期の医療について予め医師に相談しておくことを
メディケアの給付対象とするものであり、
“死の委員会”では決してないと主張しつつも、

上院財政委員会は、この箇所を法案から削除する、と。



こうした動きに、
Obama政権で医療改革を担当するSebelius保健相がABCテレビで
終末期の情報と選択は本人にとっても家族にとっても非常に大切なのに、
そういう条項の事実を捻じ曲げて国民の不安をあおる戦術は「おぞましい」と
語っているビデオがこちら

Obama大統領自身の名前でNYTimesに寄稿された文章がこちら。
Why We Need Health Care Reform
By Barack Obama
The NY Times, August 15, 2009


この終末期医療の相談料は確か日本の後期高齢者医療制度でも登場して、
似たような非難を受けて棚上げになった経緯がありましたっけ。


オバマ政権の医療改革については、
Oregonのように抗がん剤はメディケアで給付されず自殺幇助に誘導する意図が含まれていると
最初から懸念の声があるのは知っていて気にもなっているのですが、

Palin氏、相変わらず、あざとくて、

最近のニュースだと、
そのどこまでがデマゴーグで、どこまでが現実的に存在する懸念なのかが
ちょっと分からなくなってくるようでもあり……。


ちなみに、Obama政権の医療改革に関連するエントリーはこちらにまとめました。
Obama政権の功利主義医療改革を懸念する記事エントリー一覧(2009/7/18)
2009.08.17 / Top↑
The Medical Protection Societyによると、
先般のPurdy判決を受け、GPらも、どういう行為が罪に問われるのかを明確に知りたがっている。

現在までに100人以上(たしか117人?)の英国人が自殺幇助を受けたスイスのDignitasでは
自殺希望者が不治の病気であることを示す書類の提出を求めており、
患者がその目的でGPにカルテのコピーや診断書を要求することがある。

その際に、自殺目的でスイスに行くと知りながら
その書類を提供する行為はGPの自殺幇助とみなされるのかどうか。

例えば、そういうこと。



Purdy判決以降、毎日ものすごい数のメディアの報道や議論が出ているのですが、
その中で、ちょっとひっかかっていることは、

どちらかというと自殺幇助合法化支持の記事や議論で、

今回の最高裁の判断について、
すでにPurdyさんの夫は彼女がいずれスイスに行く時には
付き添っても罪に問われないことが確約されたものと受け止めていること。

Purdyさんが裁判で求めていたのは法を明確化してほしいということであり、
最高裁の判断も、公訴局長に罪に問う・問わないの条件を明確化するよう求めたものであって、
それはつまり情報を整理して提供せよということに過ぎず、
Purdyさん個人が死にに行く時には夫が付き添っても違法としないと
約束してもらったわけではないと思うので、

Purdyさんが「もう天にも昇る心地」だと大喜びして
これでもう、私たち夫婦はいつでも一緒にスイスに行けるのよっ……みたいに
喜んでしまって、果たしていいのか。

メディアまでがそう決め付けた報道をして、いいのか。

法が明確化されるということは、
この記事のGPの懸念のように、
広範に社会の諸々に影響が出てくる中で検討されるわけだから、ただちに
「じゃぁ、死にたい人にはついていっていいよ」という単純な話にはならないはずで、

だから、どこかの記事が書いていたように、明確化によって
むしろ海外への自殺ツーリズムができにくくなる可能性だって
決して小さくはないような気がするのだけど、

メディアは勝手に世論を盛り上げて、本当にいいのか。

実際の明確化が出てきた時に、
ぬか喜びさせられたということになれば、
期待を裏切られたと感じる世論の反発が一気に合法化に向かって雪崩現象を起こす、
ついでに、その勢いで、丁寧に議論されるべきことが、簡単にすっとばされてしまう……
なんてことは本当にないのだろうか?


2009.08.15 / Top↑


無料の移動医療を受けるため、
Los Angels郊外のInglewoodに殺到する無保険人々のレポート記事がNY Timesに。
(写真はこちらの記事から)


お盆休みとて、詳細に読んでまとめる余裕がないので、
お茶を濁す方便ということにはなりますが、

ほぼ同じ実態を報告していると思われる去年の記事を以下に再掲。


「なぜ大国アメリカで?」と医師が憤る無保険者の実態(2008/11/11)

Virginia州Wise郡のカウンティ・フェア用地に年に1度、
800人以上の医療ボランティアが終結し、
テントとトレーラーで、まるで野戦病院のような無料診療所を
3日間だけ開設。

早朝から集まった無保険者は2500人以上。
歯の治療が必要な人から脳腫瘍や癌の患者まで
その多くは、この時しか医療を受けることが出来ない人たち。
そして、決して失業者ではなく、
「ちゃんと仕事をして生きてきたのに、食べるのにも不自由していて
とても医療費まで手が回らないよ」という人たち。

彼らは本当は3日間もこんなところに来ていられる身分じゃないと言いながら
診てもらえる順番を待って3日間、車の中で寝泊りする。

それでも限られた資源と時間の中で
集まった人全員の診察はかなわず、

記事にあるビデオには
3日間待った挙句に「この辺りの人は診てあげられないことになるだろう」と
告げられる患者たちの姿があります。
それを告げなければならない関係者も辛そうです。

ボランティアの医師の1人は
「1本の歯を抜いてもらうだけのために車で3日間も寝なければならないなんて
そんな現実は医学部のテキストのどこにも書いてないですよ。
こんなに繁栄している米国で
すぐそばにこんな目に合っている人たちがいるというのに
なぜ、その対策がとれないのか」と。

Hidden Hurt
Desperate for medical care, the uninsured flock by the hundreds to a remote corner of Virginia for the chance to see a doctor
The WP, November 9, 2008


私が仕事の関係でネットで英語ニュースを毎日チェックするようになったのは
2年半ほど前のことなのですが、
それまで何も知らなかったものだから
当初は世界のあちこちの医療・福祉関連ニュースに
いちいち「ウソだろ~」と目を剥きながら
どこか対岸の火事的に面白がっていました。

「面白がってなんかいられない」と姿勢を正してくれたのがAshley事件との出会いで、
それが、このブログを始めるきっかけにもなったのですが、

その頃を境に同じような「ウソだろ~」ニュースが
日本でも次々に耳に入るようになりました。

病院が患者を「捨てに行く」事件もあったし、産科・ERの崩壊のニュース、
そして、ついに無保険者の増加も――。

(ERの待合室でのた打ち回っていたのに放置されて患者が死亡……とか
 看護師不足で食事介助の必要な高齢入院患者が栄養失調……とか
 どうせ障害者だと治療せず臓器摘出を優先……とか
 どうせ重度障害は治らないから治療は無益だと餓死させる……とかは
 日本ではまだでしたっけ?)

けれど、無保険者がこのまま増え続けたとしても、
日本には何日もボランティアで無料診療所に協力できるほど
余裕のある働き方をしている医師などいないんでは……?

あ、富裕層相手に自由診療でがっぽり儲けているお医者さんなら余裕もあるのかもしれない。
でも、きっと、そういう人はボランティアなんて興味ないだろうし……。


その一方で、今日の英米の新聞が軒並みトップニュースで取り上げているのは、
医療制度改革めぐり、オバマ政権が批判に晒され、最大の危機に瀕している、というニュース。

例えば、こちらのTimesの記事など。

私もオバマ大統領の医療改革が功利主義の切捨てに向かう可能性がある点は気になっていますが、

ここのところの報道では「英国のような配給医療になる」というデマゴーグが
事実の検証を置き去りにどんどん勢いを得ていく感じがして、

社会的弱者に基本的な医療を届けることよりも、
一部の富裕層が好きなように先進医療や強化医療を受けられる自由を優先させたい人たちが
配給医療への不安を過度に煽っているんじゃないか、というような……。
2009.08.13 / Top↑
医療ツーリズムで海外で整形手術や臓器移植を受けた患者によって
ほぼ、すべての抗生物質に対しても耐性をもち
MRSA以上に対処の難しい菌が何種類か英国に持ち込こまれ、
過去1年間に2人が死亡、18人が重態になっているとのこと。

イングランドとスコットランドの少なくとも17の病院で症例が報告され、
The Health Protection Agency から警告が出された。

今年、症例が報告されているのは
ダイエット効果のための胃のバンディング手術、肝臓と腎臓の移植手術、交通事故後の手術を
インドとパキスタンで受けた患者。

それ以前にはギリシャとトルコで手術を受けた患者によって持ちこまれたケースも。

現在のところ、医師らは2種類の抗生物質に頼らざるを得ない状況だが、
それらは毒性が強いため、治療には慎重を要する。

現在のところ、症例数は少ないが
2007年には国内感染が疑われる症例も出ており、事態は深刻。

MRSAの際も同様に少数の症例から急速に広がったことから、
専門家は政府が早急に対策のための研究に費用を出すように、と。



怖いニュース……。

500億年もかけて進化してきたヒトの現在ある姿は
病気や、免疫システムなど、いいもの悪いものひっくるめて一定の必然を含んでいるのだから、
今のように先端医学でブルドーザーのように都合の悪いものをなぎ倒していくだけでは
回りまわって、また別の悪いものが出てくるのが自然の摂理、と説く
ダーウィン医学を思い出した。

詳細はこちらのエントリーに。
ダーウィンの誕生日に「ダーウィン医学」について読む(2009/2/12)


また、医療ツーリズムについては、こちらのエントリーに。
医療のネオリベ“医療ツーリズム”(2009/8/3)
2009.08.13 / Top↑
Baby Peterが母親と恋人らからの虐待で死亡する5ヶ月前に、行政に危険性を伝えていたとして、Peterの父親が地方自治体Haringeyを訴える準備をしている。:昨日、母親らの名前が公開されたばかりだけど、何か関連があるのか?
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article6792728.ece?&EMC-Bltn=BAOF7B

オバマ政権の医療改革に抵抗する共和党が英国のNHSを「社会主義医療制度」だと引き合いに出していたのがエスカレートして、ついに evil and Owellian だとまで。
http://www.guardian.co.uk/world/2009/aug/11/nhs-united-states-republican-health

で、米国共和党議員や右派の論客が英国医療について言っていることをGuardianがいくつかとりあげて検証している。面白そう。
http://www.guardian.co.uk/society/2009/aug/11/nhs-sick-healthcare-reform

これはいい記事。英国のNICUはもっと親や家族への配慮を。退院前に親が未熟児の我が子とプライベートに過ごせる部屋とか、兄弟児が遊べる部屋の必要。親がNICUで我が子と触れあえる機会を作ることなど。:22年も前に、この田舎の某総合病院のNICUは、この点、本当に見事な配慮だった。そういうNICUは親ばかりでなく、保育器の中の子どもの心のケアまで見事だった。今でも感謝している。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8194770.stm

England とWales の最も貧しい地区の脳卒中死亡率は他の地域の3倍。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/8196032.stm

ズボンを履いた罪で鞭打ち40回の刑に直面しているスーダンの女性に関する続報。先週、サルコジ大統領にフランスに招かれたのと同時に、出国できない人名リストに載せられたことが判明。レバノンのテレビ局にも招かれているので、国際社会での発言を阻止しようとの狙いだろう、と。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/8197113.stm
2009.08.12 / Top↑
当ブログが Ashley事件においても、また米国の特に急進的な生命倫理の論客としても
要注意人物として注目してきたWisconsin大学の Norman Fost 医師が

Yale大のRobert J. Levine 医師との共著でJAMAに発表した論文で

ヒトを対象とした実験研究に対する規制が強すぎて、
手続きが無意味に煩雑となり、研究を阻害している、と主張しているようです。


実はこの2人、2007年に
JAMAに医療プライバシー法が疫学研究の邪魔だとする論文が掲載された際にも
連名で賛同の論説を書き、

Office of Human Research ProtectionとFDAが些細な揚げ足を取ってはペナルティを課すから
研究機関が萎縮して研究が滞るのだ、と現制度の見直しを主張していました。

The Dysregulation of Human Subjects Research
Norman Fost, MD, MPH; Robert J. Levin, MD
JAMA. 2007; 298(18):2196-2198

(詳細は、こちらのエントリーに)


その2人が今度は自分たちで同じ趣旨の論文を書いたわけですが、
今回、2人の論文を後押しするのは、こちらのNY Timesのエッセイ。

Clinical Trials, Wrapped in Red Tape
By Sally Satel
The NY Times, August 8, 2009

大まかな趣旨は、

院内感染を防ぐ方策の実験研究で、
手を洗うとか患者の清拭程度のことを調べるだけなのに
被験者全員にICを行って書類にサインをもらうような無駄な労力を求められる。

研究が大きなものになればなるほど複数の研究機関が関与するため、
それぞれの倫理審査会の承認を取り付ける手間と時間が無駄にかかる、
そのための費用こそバカにならない。

それらの手続きの煩雑さが scientific productivity (科学の生産性)を落としている。

これでは、せっかくオバマ政権の経済刺激策の一貫で82億ドルも増額された
NIHの科学研究のグラントも生かせない。

こういうことだから政府の委員会を避けて、
研究者はコストも時間もそれほどかからない民間の審査会の承認を取り付ける方を選ぶのだ。

その結果、スタンダードがいいかげんになって、

政府のアカウンタビリティ局(GAO)が
偽の医療糊の実験審査を民間審査委員会に委託したら、
あっさりと通ってしまったというバカなことも起こる。

こんな規制は、そもそもの
医学研究の利益はコストを上回るべきだとする倫理基準を満たしていないではないか。



「医療研究の利益はコストを上回ることが倫理基準」ったって……

それは、もともと被験者となる患者にとっての利益とコストのことであって、
最初から、研究者にとっての利益とコストの話ではないでしょうに、
まったく、むちゃくちゃな屁理屈を持ち出してくるものです。


それにFost&Levin論文のアブストラクトでも、Satel氏のエッセイでも、
だから、どうしろと言っているのかは見えてきません。

たぶん、どちらも、意味がないから規制を緩めて、
もっと科学研究の生産性をあげろと言いたいのでしょう。

しかし、治験の倫理審査を民間の企業が請け負っているという驚くべき事実も含め、
最新医療の研究で被験者保護がきちんと行われていない実態は
当ブログが拾った遺伝子治療の実験で被験者が死亡した2007年の事件でも指摘されていました。


Sally Satelという人は精神科医で
The American Enterprise Institute という研究所の研究者。
どうやら腎臓提供を有償化しようというプロジェクトに関わっている人のようです。

Fostが小児の臨床実験について
それなりの報酬さえ出せば、少々のリスクがあったって被験者にしていい
主張していることを思わせます。

またFostの説く「無益な治療」論
治療の無益ではなく、患者個々が社会にとってどれだけ有益かという
患者の無益論に摩り替わっていることや、

医療の専門性を押し立てて、
裁判所など無視しろと強硬に説いていることを考え合わせると、

科学の生産性は被験者保護よりも優先されるべきだというのが
Fostのホンネなのではないでしょうか。

もしかしたら、科学とテクノは
法の束縛から自由になろうとするだけでは足りず、
一切の縛りを拒絶しようとしている──?
2009.08.12 / Top↑
英国史上最悪の児童虐待 Baby Peter事件で、殺人罪に問われた母親と恋人、同居していた恋人の弟の名前が公表された。:何で今頃わざわざ? と思わないでもないけど、改めてこの長い記事で事件の概要を読むと、この恋人の男性の嗜虐性と狡猾さは普通じゃない。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/uk/crime/article6790819.ece?&EMC-Bltn=OLSD7B

オーストラリアの首都キャンベラで、今週から一定のクリニックで中絶薬RU-486の処方が受けられるようになる。
http://www.canberratimes.com.au/news/local/news/general/greater-access-to-abortion-drug/1592458.aspx?src=enews

米国内で就職がない今年度の大学卒業予定者の就活先は、中国だと。
http://www.nytimes.com/2009/08/11/business/economy/11expats.html?_r=1&th&emc=th
2009.08.11 / Top↑
えっ……? 本当に声が出てしまった。

米国で体罰を禁止していない州が、まだ20もあるんだそうな。

アラバマ、アリゾナ、アーカンソー、コロラド、フロリダ、ジョージア、アイダホ、
インディアナ、カンザス、ケンタッキー、ルイジアナ、ミシシッピ、ミズーリ、
ニュー・メキシコ、ノース・カロライナ、オクラホマ、サウス・カロライナ、
テネシー、テキサス、ワイオミング

禁止していない州でも、
スクール・ディストリクトが禁止しているケースがないわけではない。

Human Rights Watch と the American Civil Liberties Unionが共同で
2006-07年度に全国の公立学校の生徒を調査したところ、
毎年20万人の生徒が学校で体罰を受けていて、
中でも障害児が体罰にあっている割合が高かった。

生徒数のうちに障害児が占める割合は14%なのに
体罰を受けた生徒の中で障害児の割合は19%だった。

先月体罰を禁止したばかりのオハイオ州の、ある校長は
教室でのしつけが難しくなってきている、
体罰は望ましいことではないが、
他の方法で効果がなければ体罰も選択肢としてはある、と述べ、
「こういうことは、それぞれの地域の教育委員会で決めることだ」と。

自分が子どもの頃には鞭で打たれていたんだから、
自分としては別に鞭で打ったってかまわないと思う、という人も。

調査では、ミシシッピの自閉症の小学1年生男子が
副校長に厚い板でお尻を叩かれて、ひどいショックを受けたという報告も。

報告書の執筆者は
体罰に効果はないし、特に障害児の場合、
その理由すら理解できない可能性がある、
体罰禁止を広げるべきだ、と。

Disabled Students Are Spanked More
The NY Times, August 10, 2009


5月に政府のアカウンタビリティ局GAOから
障害児教育での教師の体罰・虐待が報告され、
議会でヒアリングが行われる騒ぎになっていたのは、まだ記憶に新しいところ。



日本で多くの人がアメリカと聞くと頭に描く国は、
限られた一部地域の、しかもその文化の表層、またはその幻想……でしかない。きっと。
2009.08.11 / Top↑