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今回のアシュリーの父親のインタビューで明らかになった
新たな“アシュリー療法”12ケースのうち、
Ericaのケースについては以下のエントリーに。

“Ashley療法”Ericaのケース(2012/3/28)


このケースに関して私が一番引っかかりを覚えるのは、
重症障害があると知りながらEricaを養子にした時の気持ちに着いて
母親が語っている以下の個所。

たぶん、この子が完全に依存しているからこそ私は入れ込んだんだろうと思います。だって、いつでもこの子には私が必要なんですから。エリカを自分の手でハッピーにしてあげられる満足感ですね。


これ、すごくコワいんですけど。

thrive on を「入れ込む」と訳したのは、ちょっとニュアンスが違うんじゃないかとは思うんですけど、問題のありかはおっしゃる通りで、子育てが親の側の欠落を埋める手段にされてしまうことの怖さですよね。元の問題が見えないだけに根深いし、コワい。

そこに障害児・者の依存状態が利用される、という怖さが上乗せされてしまう、そういうねじれ方は虐待の構図に近い感じがしてしまいます。

この心理、どっか代理ミュンヒハウゼン症候群に通じているんでは? そこまで言うと、言い過ぎ?


なお、今回の新展開に関する、その他エントリーは以下に。

論争から5年、アシュリー父ついに動く(2012/3/16)
「アシュリー療法」やった6ケースのうち、2人は養子(2012/3/16)
広がる“Ashley療法”、続報をとりあえずピックアップ(2010/3/17)
“Ashley療法” Tomのケース(2012/3/28)
2012.03.30 / Top↑
BMC Medical Informatics and Decision Making 2012, 12:26 に掲載の論文で

初期から中等度の認知症の人を介護しているケアラーへの
レスパイト・サービス選択をめぐる情報の流れと意思決定支援について
専門家とクライエントとそれぞれの視点からの質的研究。

12人のケアラーのインタビューと
3人の専門家アドバイザーのインタビュー、
さらに医療職の職種ごとに分けた3つのグループへのインタビューを
分析した結果、

ケアラーの意思決定支援のニーズについては
医療職の姿勢も考えも多様にバラついており、
それらは医療職ごとのアイデンティティを反映している。

すなわち、それぞれの医療職のアイデンティティごとの姿勢と考えによって
認知症のケアラーにどのような情報を提供すべきか、
それをいつの段階で提供すべきか、など
意思決定支援への姿勢が決まっていく。

中にはケアラーにはリアルな情報を与えない方がよい、と考える職種もあり
そういう職種グループではケアラーへの情報にフィルターをかけている。

この論文の結論は、

医療職の考え方によって情報の流れが疎外されて
クライアントの意思決定能力が制約されている。

そのために、医療サービスから
ケアラーとパートナーとなり共に意思決定を行う能力が失われている。
(共に意思決定を行う shared decision making)

アクセスできる資源さえあれば情報が自由に手に入る時代に
医療職が情報にフィルターをかけることはいかがなものか。

qualitative study of professional and client perspectives on information flows and decision aid use
7th Space Interactive, March 30, 2012


印象的なのは、
ケアラーと医療職の関係において
ケアラーを「クライエント」と称していること。


実は、これ、
昨日からツイッターでいろんな人とやりとりしていたテーマに重なるので
特に興味をひかれたもの。

関連ツイートを次のエントリーに。
2012.03.30 / Top↑
英国議会、公訴局長の自殺幇助起訴ガイドラインは認めるも、Ottaway議員提案の法改正は採らず。:うぇい。ギリギリの攻防かろうじて……。
http://au.christiantoday.com/article/british-mps-reject-relaxation-of-assisted-suicide-laws/13034.htm 

27日の英国下院 the backbench business committeeでの自殺幇助議論のビデオ・サイト。
http://www.parliament.uk/business/committees/committees-a-z/commons-select/backbench-business-committee/news/debate-on-assisted-suicide/

Neuroethics & Law Blogに「道徳ピルはまず不可能だし、我々にはまだ早い」と題して、ピーター・シンガーらの“道徳ピル”への反論。【Kolber】being a virtuous person implies that one can act differently depending on the context of action. That is, in order to be virtuous, one has, depending on the occasions, to be compassionate or strong, sensitive or able to defend one's values against those who question them, courteous or resolute. At any given time, it is practically impossible to predict which mental state (and its presumed cerebral correlatese) will be the most useful for being virtuous.道徳的に行動するためには刻々と変わる状況を的確に読んで適宜それに応じた行動を選ぶことが必要なので、よって、どんな頭の働き(と、その時の脳の状態)であれば道徳的に振る舞えるかを予め予測することは困難。つまり道徳ピルなんか無理。
http://kolber.typepad.com/ethics_law_blog/2012/03/we-are-not-ready-for-a-morality-pill-as-it-is-an-impossibility-lavazza-and-de-caro.html

【シンガーの“道徳ピル”とサブレスキュの“道徳エンハンスメント”関連】
SavulescuとSingerが「犯罪者は脳が決める。科学とテクノで犯罪予防を」1(2012/2/4)
SavulescuとSingerが「犯罪者は脳が決める。科学とテクノで犯罪予防を」2(2012/2/4)
SavulescuとSingerが「犯罪者は脳が決める。科学とテクノで犯罪予防を」3:リアクション(2012/2/5)


英国保健当局、09年の豚インフルの際に使われたワクチンPandemrixについて、子どものナルコレプシー(嗜眠?)リスクを調査。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/28/vaccine-link-to-narcolepsy-investigated?CMP=EMCNEWEML1355

年寄の腎臓だって移植には十分使えます、という研究結果。:先月のBMAの提言にも「高齢や有病などハイリスク・ドナーからの摘出」という項目が含まれていた。
http://www.nytimes.com/2012/03/27/health/research/older-kidneys-work-just-as-well-for-most-transplant-patients.html?_r=1&partner=rss&emc=rss

以下の2010年の補遺で拾ったPathway Genomics社のDTC遺伝子診断キット問題からHCRに「消費者直結遺伝子診断と知る権利」
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1353/hcr.2010.0014/full

2010年5月13日の補遺
薬局で唾液採集キットを買って、唾をとって送ったら結果がネット上で見られるという遺伝子検査。26の病気のリスクが分かるという売り文句。米国で。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/188544.php

2010年5月18日の補遺
13日の補遺で拾った話題、Pathway Genomics社が売り出し予定だった「ネットでオーダー、唾液採集キットでカンタン遺伝子診断」に、FDAから「認可していない」とストップがかかった。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/188830.php


へースティング・センターが子どものメンタル・ヘルスをテーマにしたサイトを立ち上げている。問題行動と障害との線引きの問題や、薬物療法とそれ以外の有効性の問題など。
http://hastingshardquestions.org/childrens-mental-health

サヴレスキュが親分をやっているオックスフォード・ウエヒロ実践倫理センターが、社会問題を扱った中国とインドの映画を倫理の視点から論じるイベントを4月26日に。
http://www.practicalethics.ox.ac.uk/events/events/main/defeogiet

日本語。心拍パターンで「壁の向こうにいる人間」を個人識別。「米軍は現在、8mの距離や厚さ20cmの壁越しに、隠れている人物の心拍や呼吸を検知できる技術を利用しているが、これをさらに進め、心拍パターンから個人の識別を行うセンサーの開発を目指している」:識別されたら必死。
http://wired.jp/2012/03/28/follow-your-heart-darpas-quest-to-find-you-by-your-heartbeat/?utm_source=twitter&utm_medium=20120328

生殖医療ツーリズムのリスク。ドナー生殖子を使い海外で子どもを産んだ場合の子どもの国籍の問題。
http://www.slate.com/articles/double_x/doublex/2012/03/fertility_tourism_the_perils_of_having_a_baby_abroad_with_assisted_reproduction_technology_.html

ヴァージニアの男性に、これまでで最も広範な顔面移植。
http://www.washingtonpost.com/local/face-transplant-for-virginia-man-is-lauded-as-most-extensive-in-history/2012/03/27/gIQAYvB4eS_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

【顔面移植関連エントリー】
顔の部分移植が2例成功、「次はフルフェイス!」というけれど
米国顔面移植「これまでで一番広範囲」と胸を張る(2008/12/18)


カナダで乳幼児が十分に体を動かすようにとの0歳から4歳までのガイドライン。The Canadian Sedentary Behaviour Guidelines for the Early Yearsとthe Canadian Physical Activity Guidelines for the Early Years. :なんでこうもなんでもかんでも「指示通り」でなければならんかね。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/243448.php

アフガニスタンで投獄されている女性の多くは姦淫など道徳上の罪によるもの、とヒューマン・ライツ・ウォッチ。国際部隊が撤退した後が懸念される。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/28/afghan-women-jailed-moral-crimes?CMP=EMCNEWEML1355
2012.03.30 / Top↑
この報告書の内容については3月14日に以下のエントリーにしていますが、
OR州2011年に尊厳死法を利用して死んだ人は71人の最高記録

BioEdgeのMichael Cookがエントリーにして
丁寧にコメントしているので、改めて以下に。


致死薬の処方を受けた人は114人。
死んだ人は71人。

そのうち、
10年以前に処方されていた薬を2011年になって飲んだという人は9人。

これまでのトータルでは
処方を受けた人が935人。
死んだ人は596人。

114通の処方箋を書いた医師は62人で、
一人当たり14通書いた計算。

中には一週間前に初めて患者と会ったという医師も。

データからすると、
処方された薬を1年以上たってから飲んで死んだ人が相当数おり、
中には自殺幇助を希望した後に872日も生きた患者も複数。
つまり余命6カ月以内という対象要件は意味を成していないことに。

また11年と同様、
処方された薬を飲んだけど死ねなかった人が2人。
意識を回復したが、それぞれ30時間後、38時間後に
薬ではなく、もともとの病気で死亡したと思われる。

さらに、
71人のうち精神科のアセスメントに回されたのは1人だけで、こちらも11年と同様、
うつ病や不安症その他の精神障害で公式なアセスメントを受けた人は事実上いない。

08年の調査で自殺幇助希望者の25%はうつ病と考えられるとの結果が出ていることからすると
セーフガードは効いているのか? 

希望者の大きな懸念としては、
これまた前年と同じく苦痛がコントロールできない不安を上げたのは3分の1のみ。

最も一般的な懸念もこれまでと同様に
人生を楽しむ活動ができなくなる、自己決定できなくなる、尊厳を失う。

薬を飲む場に医師が同席したのは6例だけで
その他3例では医師以外の医療職が同席した。
つまり62人が薬を飲んだ場面にはほとんど何もわかっていないことに。
医師は処方はしても、実際に患者が死ぬ時には関わっていないと見える。

毎年、オレゴンの尊厳死法の実態は見えにくくなっていくばかり、とCook。

医療が適正に行われるにはあらゆることがきちんと監督され
同職同士の検証の対象とならなければならないのに
オレゴンのPASにはそれはない、とも。

Oregon releases assisted suicide stats
BioEdge, March 28, 2012


【関連エントリー】
オレゴンの自殺幇助4人に1人は鬱病や不安症の可能性(2008/10/11)
2012.03.30 / Top↑
エリカ(仮名)14歳。
トムと同じく、赤ん坊の時に養子になった。

身長145センチ、体重33キロ。

成長抑制療法により
9歳のときの身長と体重からわずかに増えただけで維持されている。

家族は両親と兄弟姉妹が5人。

アシュリー事件以降、やろうとしたり実際にやった家族は表に出てこようとしないが、
5年たち、そろそろ口を開いてもいいだろうとエリカの両親は考えたそうだ。

取材はスカイプを通じて行われた。
エリカの“治療”はすでに終わり、
同じ状況の家族の助けになりたいと望んでいる。

トムの場合と違って、養子になった時にエリカの障害は分かっていたという。
エリカの障害は、実の父親に虐待されたことからくる揺さぶり症候群だった。

「この子がうちに来ることになったのには理由があったんです。
小さな天使みたいな子でした!」

「たぶん、この子が完全に依存しているからこそ私は入れ込んだんだろうと思います。
だって、いつでもこの子には私が必要なんですから。
エリカを自分の手でハッピーにしてあげられる満足感ですね。
我が子のように愛するのは難しいことではなかったです。
沢山の子どもをそんなふうに愛してきましたから。
先のことは考えてなかったんです」

しかしエリカの体は大きくなり、両親は将来を案じるようになる。

「抱いていてやらないと、時々赤ちゃんみたいにぐずるんです。
私たちの膝の上で親指をしゃぶるんですけど、今より25キロも増えられたら
そんなことはしてやれなくなります。
30キロ程度でも、バスタブに入れるのは難しいですし。
ソファから抱き上げたり下ろしたりするのは
重いですが、なんとかやれます。でも、エリカの体重が
60キロ、70キロとかになると無理です」

「できるかぎり長く世話をしてやりたいと思っていましたが、
私たちは親としては年が行っている方です。
施設に入れることになるのかと思うと本当につらかった。
障害のある人にかかわる仕事をしてきましたから、
家で面倒を見てやれなくなった親の苦しみは直に知っているんです」

アシュリー療法の報道を見て知らせてくれたのは息子だった。
アシュリーの状態はエリカとそっくりで、その療法は「奇跡」と見えた。

アシュリーの父親からは「諦めずに粘り強く」求め続けろと励まされた。

07年秋にエリカの主治医の内分泌医に相談したが、やらないと言われた。
エリカの母親の方の息子が、ミネソタ大学の内分泌医がいいと言い、
その内分泌医は、エストロゲンの大量療法は乳がんリスクを上げるから
同大の婦人科医にまず子宮と乳房芽を摘出させようと言った。

「子宮摘出こそやりたかったんです。
生涯、生理に苦しむなんて、かわいそうだと私たちは信じていたので。
言葉でどこが痛いって言えない子なんですから」

婦人科医に裁判所の命令がいるだろうかと尋ねたが
医師はいらない、と答えたという。

「誰もそんなことは問題にしませんでした。
『私がやります。いつやりますか?』って。
そんなに簡単だなんて、びっくりしました。
息子が裁判所の命令がいるのでは、と聞いたんですけど、
『もちろん無用です。娘さんのためを思ってされることですから』と。」

08年4月に子宮摘出。
3カ月後に乳房芽の摘出。
いずれも保険会社が支払った。

ホルモン療法のまえに
大学の倫理委への出席を求められたので
エリカを連れて行った。

委員会は4人で、プロトコルを作りたい、と言った。
両親はエリカに回復の見込みがないこと、
在宅でできるかぎりのことをしてやりたいこと、
特に父親は将来、男性介護者から性的虐待を受ける懸念を訴え、
最悪でも妊娠だけはしない方が本人の尊厳が守られる、と説いた。

4人はくつろいだ雰囲気でニコニコしながら
「娘さんのためにはいいことです」と言ってくれた。

08年10月から10年12月の間、1日20ミリグラムのエストロゲンを投与。
乳癌のリスクに加えて、血栓症のリスクもあるため、
現在アスピリンを毎日飲んでいる。

母親は「介護の利点の方がリスクを上回っている
(benefits to her care outweighed the risks)」と。

批判している障害者は正しく理解していない、と彼女は考える。

「私たちがこの療法の対象にしているのは、
障害者の中でもわずか1%のエリカのような子どもたちだけで
誰にでもやろうという話ではありません。
もちろんグレー・ゾーンの人もいますが、
エリカにとっては白黒はっきりしています。

手術させて健康な臓器を摘出したと非難する人もいますが、
じゃぁ、30年間生理の痛みに耐えさせるのはどうなんです?
自然に手を加えて神を演じる行いだという人がいますけど、
私たちの慈愛に満ちた神様ならエリカを苦しませておけとはおっしゃいません。
エリカが子どもを産むことも赤ちゃんを抱くこともないんです。

でも、エリカは家族と一緒にいて、親の膝の上にいることが大好きなんです。
赤ちゃんのままにしておきたいんじゃなくて、ハッピーでいてほしい。
エリカには幸せに暮らす権利があります」

The ‘Ashley treatment’ : Erica’s story
The Guardian, March 16, 2012


まず、気になったのは、
この人が重い障害のあるエリカを養子にした時の気持ちを語っている言葉。

Maybe it was the whole dependence thing I thrive on, because she was always going to need me. The satisfaction of being able to make her happy.

気になるというよりも、
正直、うすら寒くなるのだけど。

次に、
息子が大きな役割を演じていて、
どうやらミネソタ大の内分泌医に繋いだのも彼のようだけれど、
その息子については何も語られていない。

こんなにスムーズなものかと両親がびっくりしたということと合わせて、
そのあたりに、なにか伏せられていることがあるような……?

一つ確認しておきたいこととしては、
エリカの両親はアシュリーの父親とコンタクトをとっていること。
つまり彼のアドバイスに従って、この療法を実現にこぎつけているはずだということ。
2012.03.30 / Top↑
トム(仮名)は赤ちゃんの時にベトナムから養子にもらわれてきた。
現在12歳。重い脳性マヒがある。

認知能力は生後2カ月程度で、生活は全介助。

8歳の誕生日を前に08年10月に始めた成長抑制療法を間もなく終える。
現在の体重は32キロ。身長は134センチ。

世界で初めて“アシュリー療法”を受けた男児と推測されている。

母親は50歳で、
息子に思い障害があることを知ったのはトムが2歳の時。

生涯、座ることも歩くことも食べたりしゃべることもなく、
けいれん発作で命を落とすこともあり得ると知らされ、
この子のためなら何でもやってやろうと誓ったという。
成長抑制は、その誓いの一端でもある。

「8歳児ががんになったら、迷うことなく化学療法をやるでしょう?
医療はどんなものだって神を演じることですよ。自然に逆らうのだから。
そういう問題ではなく、助けを必要とする者を尊重するということ」

一家は両親とトムと妹。ヨーロッパに在住。
(国名は明かしたくないとのこと)

トムは家族といて、家族に抱かれている時が一番ハッピーで、
自分では移動できないので、ベッドから床に敷いたマットに、外の庭へと
母親が抱いて連れて行く。

こういう子は緊張が激しくて
異動させる時には体重以上の負担がかかる、と母親。

(この点は私も同意。アテトーゼ型のミュウは逆にぐにゃぐにゃで
頭部、上体、下肢がそれぞれ付いてこないため、ひと固まりの重さにならず、
背が高くなってからは介護者一人でトランスファーは無理)

成長抑制を望んで訪ねた内分泌医の初診は1時間程度になった。
障害児への成長抑制の経験はないが、
背が伸び過ぎる子どもの抑制はやったことがある、という医師に

ホルモン剤でけいれん発作が増えないか?
眠気が来るのでは? 栄養摂取に影響は? 
など聞いてみたが、答えはすべて「わからない」だった。

が、前にやった背の高い子どもへの経験で問題は起こらなかったし、
服用中は副作用のチェックをするので安全だと保障された。

エストロゲンの副作用で
胸が膨らんで乳房芽が形成されるのでは、との懸念には
医師は、もしそうなったら摘出すればよい、と。

なぜ男児なのにテストステロンでなくエストロゲンなのかを聞くと、
前者を使うと思春期が前倒しになり、ホルモンバランスが崩れる、との答え。

母親は通常なら病院の倫理委の承認なしには行わないことだと聞かされたが、
公式な許可があったかどうかについては知らないという。

「担当医の話では、まだ公式のプロトコルはないから
個々のケースでアセスメントを行う、ということでした」

トムの担当医に同じ療法を要望したアイルランド出身の母親もいたが、
自分たちの特命を望む理由には、医師が誰かを特定されたくないとの理由もある。

アシュリー・ケースで起きたバッシングのひどさがショックだったからだ。

「子どもを尊重していないという批判は当たらないと思います。反対ですよ。
矢面に立ったアシュリーの両親には辛かったと思います。
この療法を実現させるために勇敢に戦ってくださったのだから。

おかげでトムも恩恵にあずかれて、アシュリーの両親には私は生涯感謝します。
一番批判しているのは自己意識のある障害者で、
そういう人は自分の権利を意識しているけど、トムはそうじゃないんです。
アシュリーもそうじゃない。こういう子には誰かが代理で決めてやらないといけないし
代理で決めるなら、その子を愛する親以上にふさわしい人はいないでしょう」

Growth attenuation treatment: Tom, the first boy to undergo procedure
The Guardian, March 20, 2012
2012.03.30 / Top↑
イマイチ良く分かっていなかったのだけど、明日の英国議会の自殺幇助合法化関連審議とは、2010年の公訴局長のガイドラインを議会として承認するかどうかの投票らしい。
http://www.christian.org.uk/news/mps-to-debate-assisted-dying-guidelines/
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-17516998

【ガイドライン関連エントリー】
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 1(2010/3/8)
DPPの自殺幇助に関する起訴判断のガイドラインを読む 2(2010/3/8)
英国の自殺幇助ガイドライン後、初の判断は不起訴(2010/3/26)
警察が「捜査しない」と判断する、英国「自殺幇助起訴ガイドライン」の“すべり坂”(2011/7/15)


カナダのNot Dead Yet 役員が、尊厳死委員会の提言報告書に反応。”Unfortunately the commission’s work is marred by a lack of precision and does not take disability discrimination and elder abuse into account” せっかく終末期の患者のニーズを重視しようとの姿勢はまっとうなのに、と。
http://www.prweb.com/releases/2012/3/prweb9325435.htm

前から言ってはいたけど、ビル・ゲイツが立ち上げから関わって大株主であるTerra Powerの第4世代原発を推進する、金儲けじゃない、CO2を減らして、より安全に電力供給を、としゃべっている動画。狙いは中国マーケット? 理想的な工程表が実現すれば、22年には最初のデモプラントを作れる・・・んだそうな。
http://www.youtube.com/watch?v=_HxI3-DzPWU

ビル・ゲイツがTerra Powerと組んで「やっぱり原発が安い」「温暖化への素晴らしきワクチン」「途上国に安価な電力を」と言っているのは、この技術 traveling wave reactor らしい。私にゃさっぱり分からんけど。http://en.wikipedia.org/wiki/Traveling_wave_reactor

Independentにビル・ゲイツとGAVIのチョ―○○記事。
http://www.independent.co.uk/news/people/profiles/bill-gates-we-could-save-three-million-lives-over-the-next-decade-7582492.html

デンマーク、電力の50%を風力発電で賄うことを目指す。http://www.guardian.co.uk/environment/2012/mar/26/wind-energy-denmark?CMP=EMCNEWEML1355

糖尿病の治療として、薬と食事・運動療法よりも胃のバンディングと小腸のバイパス手術の方が有効? コレステロールと高血圧にも、だって。).イタリアと米クリーブランドの2つの実験が、New England Journal of Medicineで。ただ2年間の短期間だし、サンプル数が少なすぎる、との指摘も。
http://www.nytimes.com/2012/03/27/science/to-combat-diabetes-weight-loss-surgery-works-better-than-medicine-studies-find.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=edit_th_20120327

【関連エントリー】
肥満対策で胃の手術受ける子どもが急増(米)(2009/2/25)


米国の遺伝子特許訴訟の続報。子宮がんと乳がん遺伝子に特許を認めた上訴裁判所の先週の判決に、最高裁が再考を促す。自然の法則を当てはめただけだから、として。
http://www.nytimes.com/2012/03/27/business/high-court-orders-new-look-at-gene-patents.html?src=recg

【関連エントリー】
「遺伝子に特許やるな」という米国の訴訟(2010/2/8)
今年英国で生まれる826000人の新生児の3割は100歳まで生きる。http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/26/third-babies-2012-live-100?CMP=EMCNEWEML1355


春日武彦は嫌いだし引用個所で患者や家族に向ける目線にもイヤなものを感じるけど、ブログ主さんが書かれていることに共感。⇒母子密着の介護(CSカナリア闘病記)「悪いこととは知りながら、そうせざるを得なかった事情も個人にはあり(だからと言って、それが良いと言っているのでは無論ない)、社会の構造が、母子が密着しないと生きていけないようにさせているのではないか」
http://cscanary.at.webry.info/201203/article_15.html

日本。障害者の親集いの場
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyotama/news/20120326-OYT8T01273.htm
2012.03.30 / Top↑
スイスの男性が、死ぬ権利だけでなく、死ぬ権利の実現を保障する義務が国家にはあるとして欧州法の改正を求めているらしい。
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2012/03/24/adf-argues-against-european-right-to-assisted-suicide/ 

スイスではターミナルではないために協力してくれる医師が見つからないと裁判を起こした女性もいる。
http://www.wnd.com/2012/03/no-doc-will-help-sue-government-to-kill-you/

明日英国議会で自殺幇助が議題にのぼるらしいのだけれど、それを受けてNHSの医師が、「こんなになったら本人だって生きていたくない」から緩和ケアを受けて気持を翻したMS患者の家族の体験を語って、合法化の危うさを説いている。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/mar/25/assisted-dying-suicide-doctor-oppose?newsfeed=true

上記議論で自殺幇助に反対する医師でもあるDan Pouleters議員の記事。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/law-and-order/9164473/MP-and-doctor-Dan-Poulters-expresses-fears-over-right-to-die.html

逆に、賛成する議員Richard Ottawayの記事。
http://www.telegraph.co.uk/news/uknews/law-and-order/9165950/Richard-Ottoway-MP-hints-at-support-for-euthanasia-law.html

NZ議会にも、議員個人からPAS合法化法案提出の動き。
http://www.voxy.co.nz/politics/salvation-army-cautions-against-end-life-choice/5/118731 

ちなみに、スコットランドのMcDonald議員もメゲていない。 
スコットランド議会にまたも自殺幇助合法化法案(2012/1/26)


前の副大統領 ディック・チェイニー氏が、71歳で心臓移植を受けたことについて、心臓のレシピエントとするには年齢が高過ぎるのでは、との疑問の声が上がっている。
http://abcnews.go.com/Politics/dick-cheney-heart-transplant/story?id=15998479#.T3BWUNmFByI

サン・ディエゴの自宅でイラク女性が殴り殺される。遺体のそばに「国に帰れ。オマエはテロリストだ」と書いたメモ。http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/25/california-iraqi-mother-murder-hate-crime?CMP=EMCNEWEML1355

日本語。黒人少年射殺で釈放、「人種差別だ」と抗議激化
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120325-00000218-yom-int

オバマの医療改革は憲法違反だとの訴訟、最高裁へ。http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/25/us-health-reforms-supreme-court?CMP=EMCNEWEML1355

「あの時、こう言ってやればよかったのに」言えなかったのが今思い返しても悔しくてならないなら、ここでどうぞ、という英語ブログ。
http://wouldhavesaid.com/
2012.03.30 / Top↑
アラスカ州、一方的なDNR指定を禁止へ。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/03/alaska-to-prohibit-unilateral-dnr.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed:+MedicalFutilityBlog+%28Medical+Futility+Blog%29

カナダ:集中治療室のベッドが少ないときは、医師は救命医療ではなく終末期医療に切り替える傾向にあるという研究。:Kaylee事件にしてもFarlow事件にしても、こういう文化がカナダの医療にはもともとあるような? 
http://www.reuters.com/article/2012/03/15/us-when-icu-beds-idUSBRE82E1AY20120315

NYTはSingerを好んで使うけど、種差別論者を人種差別論者に比するシンガーは障害者差別論者なのだから、他人の倫理感をジャッジする資格などない、とするWesley J. Smithの記事。
http://thehumanfuture.cbc-network.org/2012/03/peter-singer-has-no-right-to-judge-anyones-ethics/

「種差別」というタイトルで、肉食に供される家畜がいかに残虐な扱いを受けているか、を描く映画。予告映像にSingerが登場している。:動物への扱いを改めろという主張には賛同する。だからといって、そこに知的障害者が云々という議論を持ちこむ必要はない、と思うだけで。
http://speciesismthemovie.com/

WSJに子どもに推奨されている多数のワクチンをどういうスケジュールにすればもれなく打てるか、という記事。Diekema医師は「ワクチンの専門家」だそうな。ふ~ん。いや、むしろ彼は「慈善資本主義医療」の専門家なんでは?
http://blogs.wsj.com/health/2012/03/20/how-do-vaccine-schedules-for-kids-get-designed/

今度はメラノーマのワクチン。:これが噂のDNAワクチン?
http://www.nytimes.com/2012/03/22/opinion/the-fight-against-modern-slavery.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=edit_th_20120322

中国が死刑囚からの臓器摘出を改め、全国的な提供システムを構築する、と。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/mar/23/china-abolish-prisoner-organ-donations?CMP=EMCNEWEML1355

ユタ大が、遺伝子によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの新生児スクリーニングの国際モデルを開発中。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/243132.php

英国の医師らが男女産み分けのためなど違法な中絶を行っているというニュースが相次いでいるけど、これは中絶を認める様式に白紙状態でサインしておくのが慣行化している、というニュース。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/23/abortion-forms-pre-signed-spot-checks?CMP=EMCNEWEML1355

米国:死後生殖で生まれた子どもは遺族年金を受け取れるか。
http://bioethics.com/?p=11158&utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+bioethicscom+%28bioethics.com%29&utm_content=Google+Reader

日本語記事。「精子ハンター」、男性ヒッチハイカーを狙う女性たち ジンバブエ。
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/crime/2867418/8684180

ワシントン大の調査で、人種差別意識のある医師は黒人よりも白人により良い痛みコントロールを行う傾向がある。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/243119.php

日本。延命治療しない医師免責 議連が法案、終末期患者の意志なら
http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C93819695E0E0E2E18B8DE0E0E2E1E0E2E3E09180EAE2E2E2

石原伸晃自民党幹事長の胃ろう患者『エイリアン』発言に対して、NPO法人PEGドクターズネットワーク(PDN)として意見書を送付しました(2月27日付)
http://www.peg.or.jp/news/ishihara/opinion.html

ヤクルトさんが孤立死防ぐ・・・母死亡の障害者救助。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120323-OYT1T00622.htm
2012.03.30 / Top↑
この委員会報告については
ここ数日、ものすごい数の報道が流れていて、
いずれもタイトルを「委員会がPAS合法化を提言」と打っているのだけれど、

なんとも不思議なことに、
報告書の24の提言は主として緩和ケアの改善と地域間格差の是正に関するもので、
多くの場合には、緩和ケアの改善で対応できる、としている。

その上で、そういう対応で苦痛が取り除けない例外的なケースでは

ケベック在住の成人で
不治の病で耐え難い心身の苦痛があるターミナルな患者本人が望む限り、
医師による自殺幇助という法的選択肢もあるべきだ、とするもの。

以下の記事にはこんなくだりもある。

The committee opposes assisted suicide, which consists of helping someone die when he or she hasn't arrived at the end of life.
"Our mandate was to look at the conditions at the end of life, so we felt that it (assisted suicide) was away from our mandate," said Veronique Hivon, a Parti Quebecois member and co-president of the committee.
"We feel that society puts so much effort and emphasis to fight for life and fight against suicide that we can't send a contradictory message."

委員会は自殺幇助には反対。終末期でない人を死なせる手助けを含んでいる以上は。

「我々の仕事は終末期の条件を検討することでした。その点で我々は自殺幇助については我々の仕事ではないと感じていました。社会は多くの努力をして生きるために闘うことを尊重し、自殺防止に努めてきたのだから、我々がそれに反するメッセージを送ることはできない、と感じています」と、委員会の副委員長。


もしも、これらの委員会メンバーの発言を額面通りに信じるならば、

「委員会、PAS合法化を提唱」
「ケベック政府は合法化に向け法改正を求められる」など

まるで委員会の提言が
まず緩和ケアの改善や保障を説くのではなく、
PAS合法化だけを提言しているかのごとくに書き、
緩和ケアの改善などにはまるきり無関心な英語圏のメディアは、
委員会提言の趣旨や姿勢をまったく読み違えていることになるし、
メディアがすべり坂の表面を滑りやすく道をならしているように思えてくるのだけど、

合法化に向けてロビーが暗躍しているとしか思えない事態が
このところ世界中で出来していて、何やらすべてが
政治的に動いている気配すらあることを考えれば、

報告書の緩和ケア向上云々も委員会のメンバーの発言も
単なるアリバイに過ぎないのか、とも考えてみたり。

Quebec panel:Allow doctor-assisted suicide in exceptional cases
The Canadian Press, March 22, 2012


ちなみに、この記事によると
カナダの自殺幇助合法化議論の流れを変えたケースは
1992年のSue Rodriguezさんの訴訟。

ブリティッシュ・コロンビアのALS患者。

自殺する権利を求めて最高裁まで闘ったが
最期は5対4で判事の意見が分かれ、認められなかった。

Rodriguezさんは94年に医師の幇助を受けて自殺。
この医師は特定されていない。

法改正されていないなら、それは犯罪者が放置されていることになるのだから
こういうところが妙だと、私はいつも思うのだけど、

この記事の書き方だと、
幇助した医師がいたにもかかわらず、
特定もされず、従ってもちろん逮捕も起訴もされなかったことをもって、
Rodriguez事件が一定の基準を作ったことになったらしい。

つまり、ターミナルな患者の自殺を幇助した医師は起訴されない、と。

てことは、すなわち
カナダでは英国の公訴局長が作ったようなガイドラインが
誰も明文化しないまま94年のRodriguez事件によって設定されたことになる?

でも、それは誰によって、どういう資格で――?


【ケベックのPAS合法化議論関連エントリー】
カナダ・ケベック州医師会が自殺幇助合法化を提言(2009/7/17)
スコットランド、加・ケベック州で自殺幇助について意見聴取(2010/9/8)
ケベックの意見聴取、自殺幇助合法化支持は3割のみ(2011/12/29)

【カナダのPAS合法化議論関連エントリー】
カナダの議会でも自殺幇助合法化法案、9月に審議(2009/7/10)
図書館がDr. Death ワークショップへの場所提供を拒否(カナダ)(2009/9/24)
カナダの議会で自殺幇助合法化法案が審議入り(2009/10/2)
自殺幇助合法化法案が出ているカナダで「終末期の意思決定」検討する専門家委員会(2009/11/7)
カナダ議会、自殺幇助合法化法案を否決(2010/4/22)
カナダの法学者「自殺幇助合法化は緩和ケアが平等に保障されてから」(2011/2/5)
カナダで自殺幇助合法化を求め市民団体が訴訟(2011/4/27)
カナダ王立協会の終末期医療専門家委員会が「自殺幇助を合法化せよ」(2011/11/16)
2012.03.30 / Top↑
ミュウは実習生が来ると、
その中から好みのタイプに目をつけ、
全身の愛想という愛想を動員してニコニコ秋波を送る。

時には「あの人でないとイヤだぁ」と摂食拒否でゴネて、
自分の好みの実習生をおびき寄せることすらする。

が、御指名を受けたカレが食事介助に入り、
いざスプーンが口元にくるや、

買ってもらえないと見切りをつけた押し売りみたいに、
笑顔をすっと消してプイッと横を向き、断固ゼッタイに口を開けてやらない……らしい。

なだめられても透かされても。断固。ゼッタイに。
ジリジリと焦っていく実習生の顔をこっそりチラ見しつつ。

で、ついにネを上げた実習生が
職員さんに泣きついて助けを求め、
職員さんに介助が替わると、パクパクと食べ始める。

「え~~。なんでぇ」と
実習生の悲嘆の声を心地よく聞き、ほくそ笑みつつ……。

噂によると、
ウチの娘はどうやら、そういうヤツらしい。

我が家でその毒牙にかかるのは父親。
また、この犠牲者が、懲りるということを知らない。

娘の目に浮かぶ色を見れば遊ばれているのは歴然なのに、
ちょっとせびられると、いそいそと自分のおかずを娘の口元に運んでは、
プイっとすげなくフラれている。

泣く父。

それをチラ見しては、
してやったり、と幸福そうな娘。

まいど、まいど。
凝りもせず、週末ごとに――。
2012.03.30 / Top↑
豪クイーンズランド、ゴールド・コーストの医師が
患者や家族の医師に反して人工呼吸器を事実上止めたとして、
調査を受けている。

患者はターミナル期の高齢の女性で、
まだ死にたくない、死ぬしかないにしても、せめてもう数日、
家族との時間を持ってからにしたいと希望していた。

女性の意識はしっかりしていたが
人工呼吸器のために言葉は出せず、
文字盤でコミュニケートしていた。

自己決定能力を欠いていたとのエビデンスは全くない。

にも拘らず、家族が去った後で
問題の医師は呼吸器のセッティングを最低量とし、
事実上、スイッチを切ったのと同じことに。

女性は呼吸ができず、
何時間か苦しんだ挙句に死んでいった。

担当看護師は非常に動揺している。

Queensland Physician Turns off Ventilator over Patient’s Objections
Medical Futility Blog, March 21, 2012


Queenslandは
何かにつけて符丁が合うため、
個人的にとても気になっているところ。

まずクイーンズランド大学には、
ワシントン大学IHMEのMurrayの長年のパートナー、Alan D.Lopezがいる ↓
「健康で5年しか生きられない」のと「重症障害者として15年生きる」のでは、どっちがいい?(2010/8/20)

ゲイツ財団と一緒に途上国向けに栄養強化バナナの開発をしているのもQueensland大学 ↓
2011年2月26日の補遺


そして、なにより、Ashley事件の直後に、
Angela事件の舞台となった場所でもある ↓
Ashley事件とAngela事件の接点はここに……?(2010/4/27)
2012.03.30 / Top↑
BioEdgeのCook、アシュリー療法の論争再燃について、まるきりコメントなしでエントリー。中立に立つつもりか?
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/9985#comments

科学とテクノ系のサイトがアシュリー事件の新展開を取り上げている。
http://techsciencenews.com/2012/growth-attenuation-treatment-tom-the-first-boy-to-undergo-procedure/

S.Matthew Liaoといえば、当初のAshley療法論争でSavulescuと一緒に成長抑制擁護論文を書いた人物。そのLiao(NY大)が、他2人と共著で、地球温暖化防止のため、①肉を食べたくなくなる薬、②人のサイズを小さくするための遺伝子組み換えと薬、③環境保護の姿勢を涵養するための薬、④子どものサイズと体重を元にした、一家族当たりの子どもの人数割り当て(1人または2人)を提唱して、エコ・ナチズムだと批判を浴びているらしい。:もしかして2004年のアシュリーの成長抑制、こういうことを念頭に置いた実験だった……なんてことは? 介護負担だとかQOLの維持向上だという名目で、実は重症児から実験に供されている……とか?
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/9986#comments

【関連エントリー】
不思議な”アシュリー療法”エッセイと、その著者たち(2007/9/27)
(ここから2つのエントリーで。07年段階で書いたもので現在からみると理解が不足している個所も)

Liaoに関する上記情報をツイッターに流したところ、教えてもらった「ウルトラQ」の「1/8計画」。
http://ultraq.onasake.com/vol17.html


3月14日の補遺で拾った、オーストラリアの子どもの本人同意だけで不妊手術や電気ショックや拘束を認める法案に対して、精神科医らから批判。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/9981

ミネソタ州で、無益な治療を巡る方針の明確化を病院に求める法案が上院委員会を通過。
http://kstp.com/news/stories/S2541900.shtml?cat=1

この件に関するThaddeus Popeのブログ記事。
http://medicalfutility.blogspot.jp/2012/03/minnesota-to-require-disclosure-of.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed:+MedicalFutilityBlog+%28Medical+Futility+Blog%29

英国の高齢者の約半数が、来るはずだった介護職が来なかったことがある、と調査で回答。:調査したのはWhich? という消費者アドボカシー団体。
http://www.pru.co.uk/guides_tools/articles/801319528-Almost-half-of-c/
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/16/home-care-elderly-disgraceful-which-report?CMP=EMCNEWEML1355

Which?は前に、役者を雇って高齢者施設に潜入させて、消費者としての目から施設ケアのお粗末を告発したことがある。
http://www.arsvi.com/2010/1106km.htm

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2012.03.18 / Top↑
昨日のGuardianの関連報道については
以下のエントリーに。

論争から5年、アシュリー父ついに動く(2012/3/16)
「アシュリー療法」やった6ケースのうち、2人は養子(2012/3/16)


今朝の段階で、アラートが拾って来たものを、
とりあえず以下にピックアップしておきます。


Tomのケース
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/16/growth-attenuation-treatment-toms-story?newsfeed=true

Ericaのケース
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/16/ashley-treatment-ericas-story?newsfeed=true

シンガーの擁護論
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/mar/16/ashley-treatment-profoundly-disabled-children

SE Smithさんのシンガーへの反論
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2012/mar/16/ashley-treatment-disabled-people

(ここまで全てGuardian)


Daily Mail
http://www.dailymail.co.uk/health/article-2115904/Ashley-treatment-Should-parents-stop-disabled-children-growing-up.html

障害者運動のサイト
http://www.disabilityscoop.com/2012/03/16/rise-ashley-treatment/15198/

医療系サイト
http://www.care2.com/causes/surgery-to-keep-disabled-children-small-on-the-rise.html

ブロガ―からの批判
http://benefitscroungingscum.blogspot.jp/2012/03/ashley-x-pillow-angel-speaks-out.html
http://elizabethaquino.blogspot.jp/2012/03/pillow-angels-growth-attenuation-and.html


まだ、いずれも読んでいません。

今の段階で、すごく大きな疑問が渦巻いているのだけど、
なにゆえに英国のメディアばかりが――?


それから、書いておきたいこととして、

ここで(しかも今回は英国を舞台に)論争が再燃するのは、
その再燃そのものが5月以降の動きへの布石として仕掛けられたものだとすれば、
誰が何を言うかということは本当は問題じゃない。

本当の問題は
そうしたシナリオ通りにメディアその他もろもろが動いていること。
2012.03.18 / Top↑
前のエントリーからの続きです。

‘Ashley treatment’ on the rise amid concerns from disability rights groups
Ed Pilkington and Karen McVeihg in NY
Guardian, March 15, 2012


この記事は、
父親が語った「すでに終了した6家族」のうち2人の母親に取材しているが
驚くことに、両方とも養子。


恐らくはA療法を受けた世界で初めての男児とされるのは、12歳のTom(仮名)。
7歳でやった、というから07年の論争直後からということになる。

ベトナムから赤ん坊の時に養子にもらわれ、ヨーロッパ在住。
重症脳性マヒで、てんかん発作があり、
座ることも話すことも歩くことも食べることもできない。

母は公式な許可みたいなものがあったかどうか知らないと言い、
「主治医に聞いたところでは、まだ公式なプロトコルはないから、
ケースごとのアセスメントになるという話でした」


もう一人は米国中西部の北寄りに住む14歳のErica(仮名)。やはり養子。

10歳時に成長抑制療法を始めたというから、
こちらも07年の論争から間もなくに始めたことになる。

担当したのはミネソタ大学の医師ら。
成長抑制と子宮摘出が行われた。
母は「批判する障害者は自分たちまでやられると誤解している。
対象が1%程度の重症児だということが分かっていない」。

この5年間に成長抑制が行われたケースは100例を超え、
関心を持っている家族は何千とあると、この記事では推測。

一方、the National Disability Rights Networkは、
4月に報告書を出し、連邦議会や州政府や個々の病院に向けて、
障害児への成長抑制療法を禁じる法律を作れと呼びかける予定とのこと。

こちらの記事は最後のあたりで
「WPASの報告書の終わりで、(アシュリーへの)治療を行った病院は
裁判所の許可なしにはやらないと約束している」と書いているが、
その「約束」がこの5月をもって一旦期限切れになることには触れていない。


合意期限については、こちらに書いている通り ↓
シアトルこども病院は、5年の合意期限が切れるのを待っている?(2010/11/8)

WPAS調査報告書の最後にある合意事項の6「期間」の箇所に書かれているのは以下。

This Agreement will commence on May 1, 2007, and continue for an initial term of five years. Thereafter, this Agreement will automatically renew on its anniversary date for additional terms of one year unless after the expiration of the initial term, either party gives at least 60 days prior written notice of termination.


5月1日で当初の5年間の合意期限が切れた後には、
自動的に毎年5月1日に1年間の更新となるが、
シアトルこども病院かWPAS(現在はDRW)のいずれかが最初の期限後に、
合意終了を少なくとも60日前に通知した場合にはこの限りではない。

たぶん、これをやってくると私はずっと前から睨んでいた。

アシュリー事件を単なる倫理論争と考える人は大きな間違いを犯している。
なぜ、この事件にはこんなにも不可解なことが多々起こってきたのか、
なぜメディアが、この事件に限って、こんなにも機能できないのか、
なぜネットのあちこちで、こんな怪現象までが起きるのか、

今回も、このインタビューが流れる数日前に、例の怪現象が起きていた。
そのことの重大さを考えてみるべきだと思う。

アシュリー事件は倫理論争であるというだけではなく、政治的な事件であり、
単なる重症児をめぐる医療や介護の問題をはるかに超えて、
この事件には、もはや国家もメディアも機能しなくなった
今の世の中の「大きな絵」がそっくりそのまま映し出されている。


今の段階で拾った反響は、
http://www.telegraph.co.uk/health/healthnews/9147793/Up-to-100-undergo-controversial-Ashley-treatment-to-keep-disabled-children-forever-small.html

http://www.theblaze.com/stories/controversial-hormone-therapy-keeps-permanently-unabled-individuals-in-child-like-state/

http://www.democraticunderground.com/1002428867


なお、TomとEricaのケースについて
ガーディアンが今日、改めて詳細を掲載するとか。
2012.03.18 / Top↑
きた、きた、きた。やっぱり、きたっ! 

11日の”怪現象”で何かデカいのが来るとは思ってたけど、
ガーディアンからアシュリー父のインタビューが出た!! 

The Ashley treatment: 'Her life is as good as we can possibly make it'
Ed Pilkington, Guardian, March, 15, 012


こちらはインタビューで言及された2人の子どもの母親への取材を中心に、
この問題について書かれた記事。

‘Ashley treatment’ on the rise amid concerns from disability rights groups
Ed Pilkington and Karen McVeihg in NY
Guardian, March 15, 2012


インタビューはメールで数週間かけて行われたもの。

(ちなみに、ガーディアンはグローバル・ディベロップメントでは
資金提供を受け、ゲイツ財団とパートナーシップを組んでいます)

長いやり取りですが、
特に印象に残った点を読みながらツイートしたので、
2番目の記事からの情報も補いつつ、以下に。


・もうすぐ15歳になる現在のアシュリーは、身長137センチ、体重34キロ。
07年段階で、135センチ、30キロだった。
成長抑制は成功している、とアシュリー父。

・Gardian側が、まずアシュリーについて聞いた後、次の質問で
「シアトル在住である以外には匿名であり続けている理由は?」と聞いているのが興味深い。
インタビュアーは07年の論争についてかなり調べているようなのに、
当初の3日間だけ出ていた「ソフトウェア会社役員」情報を、まさか知らないか?

・アシュリーは心身とも乳児と同じだから、成長抑制によりQOLを維持向上させるとの主張は
5年たってどうか、と問われ、5年前とほぼ同じ回答。
この間にアシュリーができるようになったのは、
首を上げていることができるようになった、
口に親指を突っ込む、耳から上まで手を伸ばして頭を触る、の3つ。

・この2年間で、6家族がそれぞれのピロウ・エンジェルにアシュリー療法を行い、
終了している。その他に現在治療中のケースが6家族。
それら家族とは連絡をとり続けているが、やり終えた人は、
けいれん発作と筋力低下の軽減にも効果があったと言っている。
アシュリーは、成長抑制により側わんの進行が止まった、とも。
「効果」が07年から追加されている。

・やった6家族は、07年以降に連絡してきた人たち。
論争でたたかれたシアトルこども病院はやらないので
私的な話し合いの場を作って助け合った。
(このプランについては父親は08年に書いていた)

・そういう家族がコンタクトをとりあっているというのは、
いわば「アシュリー療法クラブ」みたいなものを作ったということか、との問いに。
プライベートな議論の場が"pillow angel quality of life support group"になっていった、と。

・6人のうち4人は米国在住。1人はヨーロッパ、1人はオセアニア。
2人が男児。手術を受けたのは3人で、残りの3人は成長抑制のみ。

・けいれん発作や筋緊張が軽減された、というのは
6人の中の一人(女児)の母親から聞いた話。
エストロゲンで骨密度が上がっていると
整形外科医から聞いたという(男児の)母親もいる、と。

・07年の論争で多くの病院はやろうとしないから、
”family with means”(父親の表現。それなりの手段のある家族)だけしか
やることができない現状だが? と問われ、
米国内外にやってくれる医療機関も医師もある。
他の州や国へ逝かないとできないケースもあるが。

・A療法のコストは4万ドル以下で、ほとんどが手術関連で、保険で全額カバーされる。
自分が知る限り、手術以外も保険で出る。
(07年当初に言っていたより、金額が上がっている)

・尊厳と人権に関する障害者運動からの批判については?
(メディアはここでも単純な対立の構図に持ち込む。
批判しているのは障害者運動だけじゃないっ)
父が言うに、本人に尊厳の概念がなく、乳児と同じニーズがあるのだから、
親がQOL向上のための治療で本人の尊厳を守るのであり、
優生思想になぞらえたり包括的に禁じようといった姿勢は、個人を害するもの。

・どんな支援やテクノロジーをもってしても、この療法の利益には及ばない。
そんなもので大きな胸の不快や生理痛はどうにもできないのだから。

・人の方ではなく社会の方を変えよとの障害者らの主張には同意。そうすべきである。
しかし、社会の変革はあらゆる障害像の人のために変革は行われるべきだ。
この療法は議論や批判ができる彼らを対象としたものではなく
障害者の中でも1%にもならない重症児を対象にしたものだということが
彼らには分かっていない。

・WPASが指摘した違法性については? 
自分たちの雇った弁護士の見解と違う。
不妊はアシュリー療法の目的ではなく、副作用のようなもの。

・親の決定権と、子どもを保護する行政の責任との関係については?
子どものことは親が決める。医療についてはそこに病院内倫理委が関与する。
そういうメカニズムができているなら、行政がそこに余計な価値を追加する必要はない。

(Norman Fostの声がうっすらと聞こえてくる。
ずいぶん準備をして受けたインタビューであることは間違いないし、
2010年には腰を低くして父親と連携姿勢を見せていた医師らが
今回の動きには全く姿を見せないというのも、なにやら、あざとい)

・この5年間でざっと5000通のEメールが届いた。
95%が支持する内容で、そのうち1100通が(重症児の)直接体験を持つ親と介護者だった。
 
・「そちらのブログに寄せられた親の言葉を読むと、
子が成人し親が介護できなくなって施設に入れるときの悲しみを語る多くの家族に、
施設もまた人権侵害だと考えさせられます」とインタビュアー。
こうして、施設入所という人権侵害を避けるために、という
筋違いの正当化の路線が引かれてしまう。

Yes, you're right, institutionalization is a form of human violation, especially when treatments exist to make institutionalization less likely.

・それに続いて、「論争で激しい批判が起こったために医師がやりたがらず、
金と権力のある人間だけの療法となってしまっている」。
(だから解禁しよう、とここで説いておいて、
5月の合意期限切れに向かおうというシナリオ?)

・最初の質問で to start with, can we please focus on Ashley herself.、最後の質問でも
what matters overwhelmingly in all this is Ashley herself. So we should end with her. 
07年にCNNがDiekemaに「初めて会ったアシュリーは、どんな感じでしたか?」と問い、
Diekemaが「とても素晴らしい御両親なんです」と答えていたことを思い出す


下の方の記事の主内容は
既にやった6家族のうち2人の母親への取材。次のエントリーで。
2012.03.18 / Top↑
バングラデシュ出身の文化人類学者(ミシガン州立大学)
Monir Moniruzzaman氏は、1年以上、母国の闇・腎臓マーケットに潜入し、
腎臓を売った人33人のケースを調査。

貧困層搾取の実態を
Medical Anthropology Quarterlyに報告した。

33人の多くは、倫理観など持ち合わせないブローカーに言いくるめられて
インドとの国境を越えてゆき、医療機関で初めてレシピエントと顔を合わせたという。

レシピエントは、だいたいバングラデシュ生まれで外国籍を持ち
米国、ヨーロッパ、中東に住んでいる富裕層だという。

臓器売買は違法行為であるため、
両者が姻戚関係にある家族間の臓器提供であるよう装って
ブローカーが偽造書類を用意しているし、

医師も病院関係者も製薬会社も違法行為だと知りながら
自分たちにも利益になることだから見て見ぬふりをしている。

Moniruzzaman氏は
「これは貧困に苦しむ人たちへの酷い形態の搾取です。
貧しい人たちの臓器が、わずかな富裕層の寿命を延ばすための
市場の商品となっている」と語り、

過去30年間の医療技術の進歩によって
人類の歴史にかつて見られたことのない、おぞましい搾取が行われている、と。

78%が1日2ドル以下の暮らしを送るバングラデシュでは
腎臓1つが1400ドルになるなどと謳う広告が多数目につき、

生活のために腎臓や肝臓の一部、角膜を売る人もいる。

しかし腎臓を売った人たちは
当初約束された金額の一部しか支払われることなく、
その後は深刻な健康被害によって働くこともできず、
自分がしたことを恥じて、抑うつ状態に陥っているという。

実際には腎臓や肝臓が一体どういうものなのかを知らないままに
ブローカーの口車に乗せられて、売ってしまう人もいる。

またマジョリティである貧困層がこぞって臓器を売り始めたものだから
売り手市場で価格が下がっている、とも。

Moniruzzaman氏は
こうして臓器を売る人の行為は
誘導・強要されたもので「自己選択」とは言えない、として、

米国国務省が中心となってグローバルに取り締まる、

同じく国務省が、すべての医療機関に臓器移植の記録を求め、
レシピエントとドナーの関係を確認するよう求める、

死後に臓器提供するシステムを持たないバングラデシュのような国を含め、
世界中で死者からの臓器提供システムを整備して行く、

など、臓器売買への防止策を提言している。

The Poor Exploited By Growing Market For Human Organs
MNT, March 13, 2012


【関連エントリー】
被災地に”救助”ではなく“臓器狩り”に人が駆けつける“腎臓バザール”パキスタン(2009/7/31)
Harris「臓器不足排除が最優先」の売買容認論は「私を離さないで」にあと一歩(2011/4/8)
イスラエルの貧困層から米国の富裕層へ、腎臓を闇売買(2011/10/29)
セルビア人を殺して採った臓器を密売、巨大犯罪組織のボスは現コソボ総理大臣(2010/12/16)
ウクライナで広がる闇の臓器売買(2011/10/29)
エジプトでアフリカ難民から生きたまま臓器を採って闇売買(2011/11/7)

これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
2012.03.18 / Top↑
豪政府が、親の同意なく子どもの同意だけで不妊や電気ショックや拘束を認める法律を作ろうとしている?
http://preventdisease.com/news/12/030512_Australian-Government-Moves-To-Quickly-Pass-Laws-To-Sterilize-Electroshock-And-Restrain-Children-Without-Parental-Consent.shtml

Rasouli訴訟で、EPCや、カナダ救急医療協会(?CCCA)介入へ。
http://medicalfutility.blogspot.com/2012/03/rasouli-case-motions-to-intervene.html

同じくRasouli訴訟で、一度でも生命維持治療を申し出た事実があるならば、同意なしに中止はできない、との判断。Thaddeus Popeが「しかし同意は不変ではない」と疑念を呈している。
http://medicalfutility.blogspot.com/2012/03/cuthbertson-v-rasouli-consent-is-not.html

米OR州の尊厳死法成立の推進力となった医師 Peter Goodwinがガンを患い、同法を利用して自殺。
http://news.opb.org/article/doctor-who-helped-pass-oregons-assisted-suicide-law-ends-own-life/

英国GMCが2010年に方向転換した終末期医療のガイドライン。Treatment and care toward the end of life: good practice in decision making (1 July 2010)
http://www.gmc-uk.org/guidance/ethical_guidance/end_of_life_care.asp

英国リーズ大の調査で、筋ジスや重症脳性まひなど life-limiting condition の子どもが増えており、実数はこれまで思われていたよりもはるかに多く、小児緩和ケア・すったっふや子どもへのソーシャルケアの「負担になっている」。:life-limiting condition って、どういう意味じゃい。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/242771.php

初めてのセックス以前に包皮切除をしている男性は前立腺がんになりにくい。ここでもDiekemaがコメント。
http://news.avn.com/articles/New-Studies-Extol-Benefits-of-Early-Male-Circumcision-468695.html

【関連エントリー】
Gatesの一声で、男児包皮切除にエビデンスが出てくるわ、小児科学会もCDCも方針を転換するわ(2010/8/16)
包皮切除件数減少を反対運動のせいだと騒ぐDiekemaのポチ踊り(2010/8/23)
包皮切除でのDiekema発言でNPRラジオに抗議殺到(2010/9/14)
2011年5月20日の補遺
2012年2月17日の補遺
2012年3月7日の補遺


ワクチン接種はそのうち世界中で親が知らない内に行われるようになる?:ちょっとアクの強いサイトのようなので若干、保留しつつ、そっちに向かっていくだろう予測は私もだいたい同じ。
http://preventdisease.com/news/11/092811_Vaccinating-Without-Parental-Knowledge-Soon-To-Become-The-Norm-Across-The-World.shtml

日本語。モルドバ、児童性犯罪者に科学的去勢
http://sankei.jp.msn.com/world/news/120308/erp12030812170002-n1.htm

Savulescuらの研究で「人種差別意識を軽減する向精神薬」。下は日本語記事。Savulescuのコメントも。
http://articles.nydailynews.com/2012-03-07/news/31133988_1_propranolol-attitudes-preliminary-results
http://karapaia.livedoor.biz/archives/52072746.html

ビタミンDに、今度はアルツハイマー病のアミロイド除去効果?:ビタミンDもスタチンもまるで万能薬。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/242610.php

日本語。中国、死刑執行を厳格化=「秘密拘束」事実上撤回―16年ぶり刑訴法改正
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120308-00000091-jij-int

日本語。中国の臓器移植、死刑囚が主な供給源
http://www.afpbb.com/article/life-culture/life/2864311/8622978?ctm_campaign=txt_topics

【関連エントリー】
A・Caplanが、死刑囚の臓器に依存する中国の移植医療ボイコットを呼びかけ(前)(2011/10/12)
A・Caplanが、死刑囚の臓器に依存する中国の移植医療ボイコットを呼びかけ(後)(2011/10/12)
「囚人を臓器ドナーに」は実施面からも倫理面からもダメ、とCaplan論文(2011/10/14)
政治犯から生きたまま臓器を摘出する「新疆プロトコル」(2011/12/13)


処刑直前の死刑囚にインタビューして流す番組が中国にあったらしい。中止に。
http://www.huffingtonpost.com/2012/03/12/interviews-before-execution-china-death-row_n_1339308.html?ref=topbar

臓器マーケットの成長で貧困層の搾取が進む
http://www.medicalnewstoday.com/releases/242810.php

森岡正博氏、脳死の子どもの、丸ごとの体のままで成長し死んでいく権利に関する英文論文。
http://www.lifestudies.org/naturalright.html

インドの代理母産業は女性の権利の侵害との調査結果。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/9974

Lancetに高齢者ケアに尊厳を、とする論説。
http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2812%2960377-8/fulltext?elsca1=ETOC-LANCET&elsca2=email&elsca3=segment

【お知らせ】内閣府参与辞任について(湯浅誠からのお知らせ)「男性正社員片働きモデルを固定化する日本型雇用と、高齢と障害のみを社会保障の対象として、子育て・教育・住宅については高い私費負担を前提にする日本型福祉社会とのセットが支配的で、そこから排除された人々を自己責任論という名の社会的無責任論で片付けてきた日本社会において、社会的包摂理念のもつ意義は大きいと考えています。これからの超少子高齢化・人口減少社会に対応するためにこの理念をより強く打ち出し、より広く社会に浸透させる努力を積み重ねることは政府の責務であり、私としてはそのことを現政権に要望しておきたいと思います」
http://yuasamakoto.blogspot.com/2012/03/blog-post_07.html?m=0

生活保護申請で女性に誓約書「異性との生活禁止」
http://www.47news.jp/CN/201203/CN2012031301000431.html
2012.03.18 / Top↑
2011年のオレゴン州の尊厳死法の報告書が3月6日付で出ている。

2010年は
97人が致死薬の処方を受け、
65人が自殺したが、

2011年に致死薬の処方を受けた人は114人。
自殺した人は71人という新記録を更新。

71人のうち、精神科医または心理学者にアセスメントの依頼があったのは1人のみで、
処方した医師が自殺の場面に同席していたのは6ケースのみ。

71人のうち

90%が挙げた懸念は
「人生を楽しむ活動に参加できなくなったこと」

89%が挙げた懸念が
「自律・自己決定の喪失」

75%が挙げたのが
「尊厳の喪失」。

1997年の同法施行以来、同法による自殺者はこれで596人となった。

Wesley Smithが
自殺幇助で儲けている医師からの自己申告に基づいたもので、
州政府には濫用や違法行為を調査する権限も予算もない、
報告書が刊行された後に関連文書が破棄されるため、
中立の立場ではチェックが不可能、などの理由を挙げて、
こんな報告書は茶番だ、とブログに書いているらしい。

また米国の関連の大きな動きとして、
MA州が11月に自殺幇助合法化について住民投票を行う模様。

FEN事件の関連で
自殺幇助関連州法に言論の自由の観点から違憲判決が出たGA州では
3月7日に自殺幇助を明確に違法とする州法案が下院を通過。
上院の投票待ちとなっている。

Oregon breaks its assisted suicide record
Baptist Press, March 13, 2012


【関連エントリー】
Oregon尊厳死法による自殺者増加(2008/3/21)
WA州とOR州における尊厳死法の実態(2009/7/6)
WA州とOR州の2009年尊厳死法データ(2010/3/5)
OR州の「尊厳死」:97%にC&Cが関与、たった20人の医師がせっせと処方(2010/3/11)
OR州の2010年のPAS報告書 自殺者また増加(2011/1/28)

FENが「GA州法の自殺幇助関連規定は言論の自由を侵す」と訴訟(2010/12/11)
GA州「自殺幇助の宣伝禁じる州法は憲法違反」裁判、FENの勝訴(2012/2/7)
2012年3月1日の補遺(違法とする州法案、下院を通過)

MA州で自殺幇助合法化巡り住民投票を求める動き(2011/8/25)
MA州医師会が自殺幇助合法化反対を確認(2011/12/6)
2012年3月7日の補遺(結局、訳せていませんが、以下に抜粋)

自殺幇助合法化ロビーが着々と住民投票に向けて動く中、MA州の障害者運動からSecond Thoughtsと題した抵抗声明が出た。下はSmithのブログ。:できたら明日訳したい。
http://www.prweb.com/releases/2012/3/prweb9251201.htm
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2012/03/06/second-thoughts-disability-rights-group-opposes-assisted-suicide-in-ma/
2012.03.14 / Top↑
脳卒中の後遺症が重く、自殺幇助を希望している英国人男性
Tony Nicklingさん(57)については、2010年に以下のエントリーで紹介し、

“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)

その後も続報を以下の補遺で拾いながら、毎回しつこく
「この人がロックト・インといわれるのは承服できない」と書き続けているのですが、

http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/62322826.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/62362665.html
http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64662384.html


Nicklinsonさんが起こしていた訴訟の判決が12日に出た模様。

英国のメディアも多数報じているのですが、
なんとなく警戒したいところもあって、NYTの記事を。
(BBCなんかは、もう歴然とPAS合法化ロビーだからね)

この判決、なんとも微妙で、読み説き方に戸惑うのですが、

一応NYTの記事は、まずは冷静に
認められたのは「合法的な安楽死ができるよう法改正を求める権利」としている。

原告がPAS合法化に向けた法改正を訴えていた論拠は3点で、

① 「必要」により正当化される(the defense of necessity)

全身性障害者のNicklinsonさんは自ら自殺行為を行うことができないので
幇助してもらうことは彼にとって必要。

これまでの判例では、
例えば、身体が繋がって生まれた双子などのケースで、
一方を死なせても一方の命を救うことが「必要」により正当化されてきた。

② 人権について定めた法に照らして、
現在の殺人と自殺幇助に関する法律は
Nicklinsonさん個人のプライバシーの権利と両立しない。

③ 現行法は、自発的なものかどうかを問わず、
積極的安楽死の実際を適切に規制するものとなっていない。


このうち、今回の判決が認めたのは①と②。

① が今回のNicklinsonさんのケースで認められたことについては
今後、医師が患者を殺害する法的根拠を与えてしまったことになると
懸念する声が医師らから早くも出ている。

最後の③については、
それは「議会の問題」であるとして退けた。


この記事に引用されているNiklinsonさんのコメントは以下。

his stroke had “left me paralyzed below the neck and unable to speak. I need help in almost every aspect of my life. I cannot scratch if I itch, I cannot pick my nose if it is blocked and I can only eat if I am fed like a baby ― only I won’t grow out of it, unlike the baby.”
“I have no privacy or dignity left,” he said. “I have locked-in syndrome and I can expect no cure or improvement in my condition as my muscles and joints seize up through lack of use. Indeed, I can expect to dribble my way into old age.”


私は2010年のエントリーの時から、
この人の奥さんのコメントには抵抗を覚えていたのだけど、今回もちょっとすごくて、

“Nothing is going to get better,” his wife, Jane Nicklinson, told the BBC on Monday. “The only way to relieve Tony’s suffering will be to kill him. There is absolutely nothing else that can be done for him.”


「トニーの苦しみを癒す方法はただ一つ、彼を殺すことでしょう」

「殺す」 kill という剥き出しの言葉を使って――。


Stroke Victim Wins Right to Seek Legal Euthanasia
NYT, March 12, 2012


他の記事にもざっと目を通してみて、この判決が意味するところは、
さらに訴訟を上へ持っていってもいいよ、ということに過ぎないように思えるのですが、

ただ、分からないのは、
「合法的PASを求める権利がこの人にはある」と裁判所が認めるということは、
この人と同じ条件の人には、合法的にPASを受ける合法性がある、と認めるということと
一体どこが違うんだろう。

あなたの訴えには合法性があるんだけど、法改正そのものは裁判所ではできないから
このまま訴訟を続けて最高裁まで持っていき、議会に法改正を迫りなさい、ということ?

ちょっと、その辺が私には読み解けないところ。

2012.03.14 / Top↑
07年当初のアシュリー療法論争が終息した後にも
事件に何らかの展開がある前後になると、ネット上の
たいていはテクノと科学系のサイトに07年当時の記事がコピペされる、という
怪現象が起こっていることについては、以下のエントリーなどで指摘しました。

“ A療法”批判が出るとネット上で起こること(2009/2/13)
また出たぞ、“A療法”批判が出るとネットで起こる怪現象(2010/2/3)


他にも、こんな現象が起こったことも ↓
“Ashley療法”にオープンな態度を呼び掛けるナースの動画YouTubeに(2010/8/9)


とはいえ、長い間、この現象を見ることもなくなっていたのですが、
いきなり今日、以下のようなものが出てきました。

Pillow Angel: Daughter Frozen In Time
THE DISCLOSURE PROJECT, March 10, 2012


コピペされているのは、
以下のIndependent紙の07年1月5日の記事。

http://www.independent.co.uk/news/world/americas/parents-who-froze-girl-in-time-defend-their-actions-430852.html


ちょっと擁護の立場に傾斜した印象の記事です。

長いこと、起こらなかった怪現象が、
ここへきて、復活したのだとすると、

私の頭に浮かぶのはやはり、こういうこと ↓
シアトルこども病院は、5年の合意期限が切れるのを待っている?(2010/11/8)

その「合意期限」がくるのは、今年の5月――。
2012.03.14 / Top↑
イタリアの功利学者Alberto Giubilini とFrancesca Minervaの共著で
“出生後中絶”と称して新生児殺しを正当化した論文がネットであっという間に広がり、
著者らに脅迫状まで届く事態になっていることは、以下のエントリーで拾ってきました。

中絶してもいいなら“出生後中絶”と称して新生児殺してもOK(2012/2/27)
“出生後中絶”正当化論は「純粋に論理のエクササイズ」(2012/3/5)


下の方のエントリーで紹介した著者らの公開書簡が出た日に、
別のサイトで、ついに御大Peter Singer が登場していました。

Peter Singer Weighs In on Infanticide Paper
The Chronicle, March 5, 2012


本人が直接ここに寄稿したというわけではなく、
この記事の著者 Tom Bartlertが頼んで書いてもらったものを掲載・紹介するという、
ちょっと変則的な恰好になっています。文章も短いです。

最初のあたりには、ちょっと面倒くさそうなトーンもあって、
書いてと求められて(問題の論文の掲載誌編集長は愛弟子だし)
しぶしぶ書いた……とでもいった感じ。あくまでも個人的な印象ですが。

(これはアシュリー事件でもNYTの論考について、
「誰かに引っ張り出されて書いている感じ」と感想を書いてた人がいた)

でも、書いていくうちに少しずつ熱が入ってくる感じが、、ちょっと興味深いです。
以下、多少の省略などしながらの、雑駁な訳。

72年にトゥリーが論文を書いてこの40年来、応用倫理学では、状況次第で新生児殺しは正当化できるということになっている。今回の論文がすごく目新しいことを言ってるというわけではない。養子にしたいという夫婦がいる場合でも殺すことは正当化できる、ということなどが追加されているだけで。

自分たちの論文をそういうものと捉えていた著者が、脅迫状までくるような反響の激烈さに驚くのは無理もないが、40年前には、オンラインで論文が刊行されることもなければ、プロ・ライフのウェブ・サイトも存在していなかった。現在は、アカデミックなジャーナルに掲載される論文に批判が起こりやすくなっている。

新生児の道徳的地位というのは現実問題(a real issue)だから、アカデミックな雑誌が、真摯かつ論理的にこの問題を論じている論文を掲載するのは当たり前のこと。旧来の生命の神聖という考えを擁護したい人たちは、暴言を浴びせるのではなく著者らの議論に応答すべきだ。それにしても、生命の神聖を守ろうとする手段が、疑問視する人間を殺してやるぞと脅すことだというのは皮肉なものだ!

And it is ironic that some seek to "defend" the sanctity of human life by threatening to kill those who question it!  

中絶反対論者は、胎児と新生児で道徳的地位は違わないと、この論文と同じことを主張してきたのだから歓迎すればよい。両者の道徳的地位は同じだと言いつつ、同時にan innocent living human being (「赤ん坊のように知的レベルが低いままで生きている人間」の意では)というだけでは生きる権利に値しない、と主張する人間に、ちゃんと反論できるだけの人物が、中絶反対論者の中にほとんどいないようだから、そこが気の毒な ところだが。

脅迫や脅しでなく、理性と議論でこの論争に勝てると思うなら、それをすればよい。


最初に一読した時には
大したことは何も言っていないと思ったのですが、

再読しながら、ツイッターでメモ的に訳していくと、
いくつかの疑問点が頭に浮かびました。

① 一番気になるのは a real issue。

Giubiliniらは非難に対して
「知的な議論、論理のエクササイズをしただけで政策提言じゃない」と弁明したけど、
シンガーはそうは思っていないのでは?

ただ、とりあえず「現実問題」と訳してみたものの
「学問的に意義のある大問題」の可能性もあるので、その辺りはちょっと保留。

一方、それであったとしても
Giubiliniらが引いた「論理のエクササイズ」と「政策提言」の線引きを
シンガーはしていないこと、

冒頭を「現代応用倫理の世界では」と始めていることの2点を考えると、
やはりシンガーはこの点については著者らとは別の立場に立っているのでは?

② 「新生児殺し擁護派」VS「中絶反対派」の対立の構図を描くことは、
問題を過剰に単純化していると思う。

これは既に拙ブログで問題の論文を拾った時に、補遺で「なんだか、読んでいると、
功利主義のトンデモ御用倫理学者さんたちと、どんどん原理主義的になる保守層の間に、
実は全く筋違いな対立の構図が描かれてしまいそうで、それが一番イヤだ」と書いたけど、
やっぱり、そこへ持ち込まれている。

議論されるべきことは、実際は、その対立の外というか間というか、
そのどちらにも与しきらない中間的な立場の広がりと深さの中にこそ
まだまだ多様に存在しているはずなのでは?

③ オンラインで刊行されるようになったから
「学者の論文に批判が起きやすくなった」という解釈の、一方向性。

シンガーは「論文への批判が起こりやすくなった」だけを言っている。

インターネット上には、暴言や脅迫以外にも
問題の論文の内容について冷静な議論も出ているはずなのだけれど、
「ネットによりアカデミックな世界の外の人も議論に参加できるようになった」とは言っていない。

この不均衡は、双方向は想定されていないということ?

④ どうせ、論破などできまい、というゴーマンを、
私は個人的には感じます。

「どうせ論破などできまいが、できるものならしてみるがいい」と見下してかかる、
傲岸な響きがあるような感じがする。

⑤ 「脅迫や脅しではなく、理性と議論で」というのは私も思うけれど、
それを実際にアカデミックな世界の外からやってしまうと、
どういうことが身に降りかかり得るかを考えると、
ここでspitzibaraがこの記事と出会ってしまったのも、
何かの必然かもしれない。

(ツイッターでフォローしてくださっている方以外には分かりにくいと思いますが、
そういうことをやろうとすると、反感を買い、ツライ目に遭う可能性もあるかも、との意。
当ブログでも時々ありますが)

⑥ 「勝てると思うなら」というところがムチャ気になる。

上記④とも繋がっているのだけど、
「勝てると思うならかかってこい」姿勢は、
相手の言うことを最初から全否定する構えでしかなく、

シンガーが奇しくもその言葉を使っているように
それはディベートではあっても、誠実な議論や対話の姿勢とはいえない。

人の命は勝ち負けじゃない。

⑦「知的議論」と「政策提言」との線引きについては?

上記に見られるように、中絶反対論者との対立の構図を描き、
 そこでの議論を「勝ち負け」で捉えているシンガーの感覚は
正に「論理のエクササイズ」なのだと思う。

しかしシンガー自身はこちらのインタビューで語っているように
現場医師らからの問い合わせを受けて、その判断に関与してもいる。
(クーゼと相談して「決めた」という文言を、自ら使っていることに注目)

つまり、一方で、中絶反対論者に向けては「論理のエクササイズ」で挑戦しつつ、
自身の言動においては、「政策提言」どころか直接的に現場にスタンダードを敷いている。

ここで①の疑問に戻るのだけれど、
シンガーは著者らの線引きを肯定する立場に立つのか、否定する立場に立つのか。

また、その立場と、
自らの論争のスタンス、倫理学者として直接的に医療判断に影響する立場が
どのように整合されるのか?

⑧ これは、ついでだけど、
せめて元論文の著者名くらい書いてあげればいいのに。

トゥリーの論文はタイトルも掲載誌もちゃんと書いている一方で、
Giubilini らについては、最初から「著者ら」。
論文のタイトルも書かない。

同じ世界でメシ食ってんだし
誰だって論文を書こうと思えば、それなりの苦労をしているのだし、
自分がその世界で大物だと思うならそれだけに、
下には心遣いをしてあげればいいのに。
2012.03.14 / Top↑
某所で「障害は不幸か」「障害は不便か」を巡って
議論が交わされているのを見て、考えてみた。

ピーター・シンガーのDNAを持ち、
生殖補助医療で大金持ちの家にそこそこ健康に生まれ、
3歳の時に、事業に失敗した父親が自殺、一家はジリ貧に落ち込み、
10歳で母親が再婚してかろうじて生活はそこそこになったけど、
その代わりに義父から酷い虐待を受け続けて成人することになった人は――?


本当に問うべき問いは
「なぜ『障害は不幸か』という問いだけが、死なせることや殺すこととの繋がりで問われるのか」では?

「障害は不幸か」議論の危うさは、
その問いの設定枠内に参加者の視野を限定し、
他に問うべきものを見えなくすることにあるような気がする。

私自身は、障害については、

人が人生を生きていく過程で、
誰の責任でもなく、どうにも避けがたく見舞われることがある、
数え切れないほどの種類と形態と大きさの「不運」の一つ、

と、とりあえず考えていますが、
最終的な結論ではありません。

結論なんか出ません。

また、
結論を見いだそうとする方向で議論すべき類のことではないように思います。


【関連エントリー】
「健康で5年しか生きられない」のと「重症障害者として15年生きる」のでは、どっちがいい?(2010年8月20日)
2012.03.14 / Top↑
自殺幇助合法化ロビーが着々と住民投票に向けて動く中、MA州の障害者運動からSecond Thoughtsと題した抵抗声明が出た。下はSmithのブログ。:できたら明日訳したい。
http://www.prweb.com/releases/2012/3/prweb9251201.htm
http://www.firstthings.com/blogs/secondhandsmoke/2012/03/06/second-thoughts-disability-rights-group-opposes-assisted-suicide-in-ma/

オランダで「宅配安楽死制度」がスタートしたことについて、国際的な自殺幇助ロビー団体EXITのブログ。宅配で十分にセーフガードが機能するのか、という疑問も医師らから。:機能するわけがないと私は思う。
http://exiteuthanasia.wordpress.com/2012/03/03/assisted-suicide-at-home-is-it-safe/

OR州の尊厳死法を作った医師 Peter Goodwinがパーキンソンに似た病気で死に瀕している。パーキンソンよりも苛酷な死になるので、今後、尊厳死法を利用するのではないかと見られている。
http://www.thedailybeast.com/articles/2012/03/04/peter-goodwin-is-dying-an-assisted-suicide-doctor-invokes-law-he-built.html

スコットランドで一方的な治療停止訴訟。白血病のKathryn Beattie(13)が、04年6月21日、脳手術の後で両親の同意なく生命維持装置を切られた。母親は切るにしても、せめて司祭さんと家族がそばにいる形にしてやりたかったのに、娘はひとりで死んでいった、と。:「せめてもの温情」すら贅沢になりつつあるのか。せめて知らせてもらえば駆けつけてやれたのに、我が子がひとりで死ななければならなかった、なんて、子にとっても親にとっても、あまりにも惨い。
http://medicalfutility.blogspot.com/2012/03/kathryn-beattie-scottish-court-hears.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+MedicalFutilityBlog+%28Medical+Futility+Blog%29
http://www.dailyrecord.co.uk/news/health-news/2012/03/06/mum-hits-out-at-doctors-who-left-daughter-to-die-alone-after-turning-off-life-support-machine-86908-23776694/

一方、Rasouliさんは、ICUで頑張って持ちこたえている。回復の兆しも?
http://medicalfutility.blogspot.com/2012/03/rasouli-case-mooted-by-patients.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+MedicalFutilityBlog+%28Medical+Futility+Blog%29

【Ras(z)ouli事件関連エントリー】
「“治療停止”も“治療”だから同意は必要」とOntario上位裁判所(2011/5/17)
「患者に選択や同意させてて医療がやってられるか」Razouli裁判続報(2011/5/19)
カナダのRasouli事件、最高裁へ(2011/12/23)


米国医師会新聞の記事。タイトル「慢性的に一番カネかかってる患者は誰だ?」全体の1%の患者が米国の医療費の5分の1を使っている。この不均衡は何とかしないといかん、と。:つまりは高齢者医療の切り捨てへ、と論は展開する。もちろんのことながら。日本でもこういう話、すごくよく耳にするようになったけど、医療費は使うことが贅沢だから使いたくて使っているのと違う。できれば使わないで済むなら誰でもその方がいいけど、やむを得ず医療にかからざるを得ない。上記の子どもの虫歯の話からしても、目先の医療費を削減することは、結局、先で大きな医療出費を招くことにしかならない。これは介護でも同じ。
http://www.ama-assn.org/amednews/2012/03/05/gvsa0305.htm

死後に脳を研究目的に提供したいのに、制度の不備でかなわない、と嘆く夫婦。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/mar/06/brain-donation-hampered-red-tape

米国の子どもの虫歯が増えて、一人の子どもの複数の虫歯を治療しなければならないので、奥歯の治療が沢山ある場合には全身麻酔をかけざるを得ない事態に。:この前、ERで歯科治療を受ける人が増えたというニュースがあった。あれと繋がっているんだと思う。経済格差の拡大が、医療格差につながり、ひどくなってから受診するから2歳半の子どもが全身麻酔で歯の治療を受ける事態になる。なんという悪循環か。
http://www.nytimes.com/2012/03/06/health/rise-in-preschool-cavities-prompts-anesthesia-use.html?_r=1&nl=todaysheadlines&emc=edit_th_20120306

検査データのIT化で経費削減できると言うが、実際にはIT化によって、むしろ検査のオーダーが増えている、との調査結果。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/doctors-order-more-x-rays-not-fewer-with-computer-access/2012/03/05/gIQATghCtR_story.html?wpisrc=nl_cuzheads

米小児科学会が男児包皮切除に関するスタンスを再検討。:Diekema、まだねばってる。
http://www.examiner.com/health-in-national/american-academy-of-pediatrics-is-re-examining-neutral-position-on-circumcision

「インフルエンザとその対策の長期変動」akihito_suzuki2000さんのブログ記事。たいへん興味深い。「抗インフルエンザ薬が劇的に効いて死亡率が下がったように見えることが事実であると同時に、その効果が引き立つような状況、インフルエンザでの死亡率が高い状況が、90年代の半ばにいったん作られたということにも注意しなければならないだろう」
http://blogs.yahoo.co.jp/akihito_suzuki2000/61714417.html

豪で大規模な洪水。
click.mail.guardian.co.uk/?qs=e432278219857c71081d431a590d049aa681328886d7074d9436cc68ea104e0c

豪で、IDチェックのためにはイスラム教徒の女性も顔を見せなければならない、とする新法。
click.mail.guardian.co.uk/?qs=ffe673df18ed3226d04f94d057df4fc6f6a3b375b38ba31beb398e6cb1362f9a
2012.03.14 / Top↑
5年前にアシュリー事件と出会い、

アシュリーの写真を見た時、
最初に私が思ったのは、「あ、私はこの子を知っている。

この子の髪の匂いも、ひんやりした肌も、
布団にこもった甘ったるい体臭まで、私は知っている……」だった。

それから長い長い間、
頭からアシュリーのことが離れない、誰に会っても
口を開けばアシュリーのことしかしゃべらないような時間が続く中で、
アシュリーは私にとって我が子のような存在になった。

今日、気付いた。

私はアシュリーを守るべきところにいながら、それを自覚していながら、
その本分を果たさなかった人たちを心から軽蔑し、憎んですらいるんだ、と。

「アシュリー事件」の原稿の新しい個所を書こうとするたび、
花屋へ行ってその日一番きれいだと感じる花を買って来て、
机に飾ってから書き始める自分が、あの頃とても不思議だった。

それ以前に、そんなことをしたことはなかったのに、
なんでこんなことをしたいんだろう、と、ずっと不思議に思っていた。

あの本を書く作業を終えてから、
花なんか買わなくなったまま、なんとも思っていなかったし。

あれは、自分の中の憎しみが原稿に滲まないように、
花を買うことで自分を清める禊だったんじゃないかと、今日気付いた。

私が出会いがしらにぶつかった時、生命倫理は、
大人の世界の都合で6歳の子どもの健康な身体にメスを入れ、
自分たちがしたことを詭弁を弄してごまかそうとする人たちの学問でした。

そこに加担した人たちを、私は憎みます。
2012.03.14 / Top↑
以下のエントリーで書いたことについて、ずいぶん前にツイッターで京都女子大学教授の江口聡先生から
誤読しているとのご批判をいただいていたのですが、

P・シンガーの障害新生児安楽死正当化の大タワケ(2010/8/23)

なかなか体勢を整えて原文を読み返す余裕がなかったので、これまで手をつけることができずにいました。
今回のイタリアの功利主義の学者さんの「出生後中絶」論文から巻き起こった
言論の自由論争と、「知的な議論に過ぎない」という声から思いがまたぞろ上記のシンガーの発言に至り、
この際でもあるので全訳してみました。

質問:病気の乳児を安楽死させることが許されるべきだと、あなたはなぜ考えるのですか?
シンガー:まず最初に、どうしてこの問題について書こうと思ったかをお話しします。私はオーストラリアの生命倫理センターのディレクターをしていて、倫理的なジレンマを抱えた医師らからよく相談されました。NICUで働いている医師らです。NICUというのは生後間もない子ども達、例えば二分脊椎などの病気や障害のある子ども達に集中治療をするユニットです。二分脊椎の子どもというのは、そういう医師らからすれば、助かってもそれがいいこととは言えない。仮に命が助かったとしても、そういう乳児は何度も手術を受けなければならないし、様々な重い障害を負うことになります。両親もそういう説明を聞くと、子どもが助かるのはいいことではないと考えることが多いわけです。
そこで、こうした乳児は基本的には治療されませんでした。その結果、ほとんどの子どもたちが生後6か月以内に死にました。1、2週で死ぬ子どももいたし、1、2カ月で死ぬ子どももいますが、それ以外でもだいたい6カ月以内に死にます。
これは、親、医師、看護師にとって、たいへん消耗的な体験でした。小さな赤ん坊が病院にいて、でも生きるための治療は行われていない。それでも彼らはそれなりに長い期間生きているわけです。
そこで医師から「我々がここでやっているのは果たして正しいことなのだろうか。こんなことが正当化できるのだろうか」と問い合わせがあり、私は同僚のヘルガ・クーゼと一緒に検討して、この病気(二分脊椎)の乳児は生きない方がよいと両親と医師とで決めるのは理にかなったことである、この病気が重い子どもたちは基本的には生きるべきではない、と決めたのです。しかし、だからといって死なせるのが正しいことだという考えが擁護できなかったのは、そうすると長く苦しい死となるために、前に言ったように、両親にとってもその他医療職にとっても感情的な消耗が大きいからです。
そこで我々が言ったのは、「難しいのは、この子を生かすかどうかの決断であり、症状について可能な限りすべての情報に基づいて親と医師とが決めること。しかし、一旦決断したなら、その子がすぐに人間的な死に方ができるようにしなければならない。この子は生きるべきではない、と決めるなら、それはあなたがたの決断だけれども、子どもがすぐに人間的に死ねる保証が必要だ、と。
それが我々の提言でした。
その後、様々な批判を受けてきました。プロ・ライフの運動と、戦闘的な障害者運動の人たちの両方からです。実は、我々が最初にこの問題で論文を書いた時には、障害者運動というのはまだちゃんと存在していなかったのですが、我々がこういう障害のある乳児にはそういう扱いをすべきだと思うと、堂々と言っているものだから、我々を悪者として標的にするようになりました。
プロ・ライフが我々のいうことをそういうふうに受け止めるというのはある程度私には理解できるのですが、私に言わせると、障害があるという理由で子どもを死なせることについては障害者運動こそ私に怒っているのと同じだけ怒るべきでしょう。多くの病院で、実際普通に行われていることなのだから。なぜ障害者運動が、実際に乳児を死なせていた医師をターゲットにするのではなく、我々をターゲットにすることにしたのか、私にはよく分かりません。子どもを死なせることと、彼らの死が速やかに人間的なものであるよう保証することに違いがいあるとは私には思えません。


訳してみても、2010年8月23日のエントリーで読んだ時と私の捉え方は変わりませんでした。

江口先生のご指摘の1つは、
このトークは新生児の(積極的)治療の差し控えではなく、
(もしそれが正当化されるとすれば)積極的安楽死が正当化されるかどうかの話をしているはずです。

江口先生がおっしゃる通り、質問は「なぜあなたは安楽死が許容されるべきだと思うか」。
しかし質問には江口先生が追加されている(もしも差し控えが正当化されるとすれば)は存在しません。

それに対して、シンガーは、話の前提を治療の差し控えにもっていき、
勝手に質問を再構成してしまっているように私には思えます。

治療の差し控えによって倫理のジレンマを抱えた医師の問い合わせを受けたのが
安楽死を論じることになったきっかけだと述べることから回答を始め、
まず消極的安楽死について、親と医師とで子どもを死なせることを決めてもよい、と決めた、という。

ここで提示されている判断の根拠については、
二分脊椎に関するはなはだしい認識不足があるとBill Peaceが指摘しています。

それでもシンガーは、消極的安楽死の許容を前提に、
① 子どもが長く苦しむ、②ケアし、見ている医療職と親が消耗する、の2点を理由に、
それなら親と医師が決めた以上すみやかに死なせてやるのがよい、と
積極的安楽死を容認すべきだとの考えに至った、と説明しています。

つまり「なぜ積極的安楽死を許容するのか」という問いに対して、
「消極的安楽死では、子も親も医療職も苦しむから」と答えていることになるのでは?

私が2010年8月23日のエントリーで指摘したのは、
消極的安楽死を前提にするなら、「十分な緩和ケア」という選択肢によって
シンガーが問題にしている本人の苦痛も、親と医師の消耗というジレンマも解消する以上、
本来の問いの「なぜ(積極的)安楽死をあなたは許容できると思うのか」には
消極的安楽死での苦痛を根拠にしているシンガーはまともに答えていない、ということです。

また、シンガーの興味関心が、本人が苦しむことよりも、
むしろ親と医療職の苦しみの方に向けられているのでは、とも指摘しました。
そこにはまた別の倫理問題が生じているはずですが、
シンガーは混同・曖昧にしたまま論じるという誤魔化しをしているのではないでしょうか。

もう1つ、シンガーが「実際に死なせているのは医師たちなのに、
その医師を攻撃せずに、なんで自分が攻撃されるのか分からない」と言っているのは
卑怯ではないか、と私が書いたことに対して、江口先生からの反論は以下。

「障害者運動家たちは、(障害をもっている新生児の(積極的)安楽死と同じように)障害を理由とした新生児を(積極的に治療せずに)死ぬにまかせることにも同じように腹を立てるべきだ」と言ってると紹介するべきだと思います。()内は私の解釈。
だからぜんぜん卑怯じゃない。むしろ「安楽死だけじゃなくて治療停止や積極的治療のさしひかえにも反対しなければならないはずだ」と言ってるわけです。これはspitzibaraさん自身の立場でもあるはずです。
"I’m not so sure why they’ve gone after us in particular rather than after the doctors who were actually doing it." が *were*になってるのも注意してください。


しかし、改めて質問とシンガーの回答を全訳してみて、この点についても私の捉え方は変わりません。

私にはシンガーが言いたいのは、あくまでも
「障害者運動がなぜ自分たちをターゲットにしたのか理解できない」であり、
江口先生が言われるように障害者運動の主張を分析的に批判しているというよりも、
自分たちをターゲットにすることの不当さをこういう形で訴えているだけのように思えます。

仮に分析的に批判しているとしても、その批判は的外れです。
障害者運動の主張は「障害のある生を生きるに値しないとすること」そのものへの批判なので、
当然のこととして、ここでシンガーが挙げている理由での消極的安楽死は否定されます。

実際Bill Peaceは否定しているし、militantと呼ばれているNot Dead YETは名称にもみられるように、
「まだ死んでいない」のだから障害があるからと言って死なせるな、との主張。
「消極的安楽死を批判している」のだから「消極的安楽死も批判すべき」との批判は的外れ。

ここでシンガーが言っていることの趣旨は、私には
「私たちが積極的安楽死を許容せよと言っていることに腹を立てるのだったら、
消極的安楽死はあちこちで行われているんだから、それにだって腹を立てるべきなのに、
実際に消極的安楽死で死なせている医師をターゲットにするんじゃなくて、
どうせ死なせるんだったら殺してやれと言っている私をターゲットにしたのは不当だ」と聞こえます。

そして、ついでのように
「死なせることと殺すことに違いがあるとは思えない」と、ここにもあるはずの
omissionとcomissionという別の倫理問題はスル―されてしまう。

さらに、上記のエントリーを書いた時には頭に浮かばなかったけれど、
今こうして改めて読んでみて、やっぱり卑怯じゃないかと思うのは、
シンガーは2008年のゴラブチャック事件で既に「社会のコスト」を持ち出していること。
Singer、Golubchukケースに論評(2008/3/24)

去年のMaraachli事件では、「こういう子どもの命に拘泥するか、
その金で途上国の子どもにワクチンを売って多数の命を救うか」とまで発言しています。
Peter Singer が Maraachli事件で「同じゼニ出すなら、途上国の多数を救え」(2011/3/22)

上記インタビューが2つの事件の間で行われたとすれば、
「なぜ思うのか」の答えには「コストに値しない」を彼は含めるべきでは?
2012.03.14 / Top↑
以下のエントリーで紹介した論文著者らに
脅迫状が送られるほどの過激な非難がまきおこっていることから、
掲載誌のブログに著者らからの公開書簡が掲載されました。

中絶してもいいなら“出生後中絶”と称して新生児殺してもOK(2012/2/27)


主に言われていることは、

・アカデミックな世界では既に40年来議論されてきた問題を論じただけなので
まさか、これほど激烈な憎悪に満ちた批判を受けるとは予想していなかった。

・アカデミックな論文を書いたのだから、
アカデミックな業界からの反論は予想していたが、
まさかインターネットでアブストラクトが一人歩きをして
ここまで一般社会に広まり、宗教的背景があるサイトやプロライフのサイトに拾われて、
それらを含む一般からこれほどの批判を受けるとは思わなかった。

・しかし、私たちの論文の趣旨は「もしもXであったらYでなければならない」という
純粋に論理のエクササイズ(pure exercise of logic)であって、
実際に出生後中絶を合法化せよと説いたつもりはない。

・我々は政策立案者ではなく哲学者なので、
我々が扱うのは概念。法的施策を扱うわけではない。

・もし政策を扱いたいなら、
例えばグローニンゲン・プロトコルなどを論じたはずだが、
我々はガイドラインについては論じていないし、むしろ、
このようなプロトコルが存在するから議論する意味も
論文を書く意味もがあると指摘している。

・40年間の議論の文脈で論文を読んでもらえれば分かるし、
この論文で想定した読者対象はそうした文脈で読めるアカデミックな人だったのだが、
広くインターネットやメディアで取り上げられて、そうした背景を持たない人たちに届き、
我々は人を殺すこと自体に賛成なのだと誤解されている。

・そのため我々の論文に気分を害したり、脅かされたりした人には
本当に申し訳なく思い、謝罪する。

・しかし、我々の趣旨がメディアによって捻じ曲げられていることや
そこで我々が論じられていると書かれていることには同意できないし、なによりも
物議を醸す話題についてアカデミックな論文を書いたことで
誰かが不当な攻撃の対象となるということはあってはならないと思う。

・一方で、「アカデミックな」(ここはイタリックで強調)意味で、
議論を喚起したことに感謝してくれる人からのEメールも多数届いている。
こうした人たちは、我々が論文でなんら「どうすべきか」具体的な示唆・提言を
しているわけではないことを理解してくれている人たちである。

・気分を害された方には申し訳ないが、この論文が
アカデミックな言説とメディアのミスリーディングな報道、
またアカデミックな論文で論じられうる範囲と、実際に法的に許容されるべき範囲の
本質的な区別について、広く理解される契機となるよう願っている。

An open letter from Giubilini and Minerva
BMJ Broup Blogs, March 2, 2012


ぱっと頭に浮かぶのは、

広く生命倫理が、現場の医療実践や、先端医療が許容されていく過程にいかに影響してきたかという
さらに大きな図を念頭に考えた時に、

本当に
アカデミックな議論で言われることは
実際の医療の実践や、医療を巡る司法のあり方に全く影響を与えない
全然別のただの「論理のエクササイズ」だと言えるんだろうか。

私は中絶の是非議論については詳しくないから、これ以上何も言えないけど、

アシュリー事件や、死の自己決定権や、無益な治療論、移植医療の周辺では
アカデミックな世界の人たちの言動が世論形成に大きな影響を及ぼしていて、

しかも年を追うごとに、一定方向への誘導が非常に露骨になってきている観さえある。

「再分配ではなく収奪の場となった」と誰かが書いていたネオリベ強欲ひとでなし金融(慈善)資本主義や
その利権と、医療とその周辺が直結してしまっていることに、

むしろ医療の世界の人や生命倫理のアカデミックな世界の人が、
そろそろ自覚的になるべき時期だということなのでは?
2012.03.14 / Top↑
3月4日

結局、生命倫理学って、科学とテクノの価値意識で世論を誘導し、メディカル・コントロールと人体の資源化を実現していくための洗脳装置なのかと思うこと、ありますよね。

「『いのちの思想』を掘り起こす」で、編著者の安藤泰至さんが 「生命倫理(学)は、医学や医療あるいは生命科学研究をめぐるシステムの一部として、それに付随するある種の『手続き』のようなものになり下がりつつ」ある、と指摘されていました。

例の「出生後中絶」論文の著者らには「アンタらこそ死ねよ」などのコメントや脅迫状が届いているらしい。そういう行為を肯定するつもりはないのだけれど、 生命倫理の議論が実際に医療現場で起こっている弱者切り捨てを正当化してきた以上、「ただ知的な議論をしただけ」と言って済むのか、とは思う。

「オレら頭のいい人間だけが興じることができる形而上学的な議論(つまり論理のパズル)」とか「単なる知的な議論」という意識が、目の前の人間が重症障害 のある子どもを持つ親であると知っていても、平然と「障害児は生きても自分のように大学教授にはなれない」と言える意識につながっていないか。

この発言を批判したことについて「憐みや配慮を求めちゃダメよね~」とたいそうな上から目線の批判があったので、断っておくけれど、私はこうした発言をする人の意識(?)における欠落(マイナス)を指摘したのであって、配慮(プラス)を求めたわけではありません。

昔、病院の廊下で、患者が挨拶しているのに平気で無視して歩いていく医師や、自分よりも年上の患者や家族をぞんざいに怒鳴りつける医師を見て、いつも「この人って、自分の家の近所の人にも、こういう態度を取るのかしら」と不思議だった。

「殺してもいい、と言ったのは、知的な議論に過ぎないから。だって生命倫理学者ですから、それが仕事ですから」という類のことを言っている人がこの前からあちこちで目について、なんとなく、こういうお医者さんの態度の使い分け方のことを考えた。

お医者さんのゴーマンに何度もそれを考えて以来、私にとって「道徳的にふるまう」基準の1つは「自分が住んでいる近所の人に向かってできないことは、誰に対してもしない」。それを考えたら、道徳的でない人が論じるからロバート・マーフィがいう「精神なき道徳」になる?

はい。おっしゃる通りです。私も一部のトンデモ御用生命倫理学者のいうことには、臓器移植を含めた、科学とテクノの簡単解決文化と、その背後に繋がっている巨大な利権という視点で、立派なconsistencyがあるように思います。

結局、こういうことなんじゃないか、と。⇒ 「必要を作りだすプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」 http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/60707023.html

「出生後中絶」議論で、誰かが「シンガーは新生児殺しの正当化論で名前を売って大物哲学者となった」みたいなことを書いていた。W・Smithも前に「最 近の学者は過激なことを言えば言うほど権威ある大学に迎えられる」と書いていた。まるで爆弾発言やスキャンダルで名前を売るタレントみたいだ。

私、実はアシュリー療法論争の07年からずっと「ピーター・シンガーは自分の友人とか近所の人に重い障害のある子どもがいたとしたら、その人の子を指さ し、その人に面と向かって『この子は動物以下だから尊厳など無用』と言えるんだろうか」って、ずっと考えていたんですよね。

そうしたら私自身が、シンガーを擁護する学者さんから面と向かって似たようなことを言われて、あぁ、この人たちは実際に言えるんだ、と。それを私は「欠落」ととらえていたんですけど、今回「知的な議論をしただけ」というのに「分断」なのかも、と。

まだ、うまく言えないんですけど、人として生きている生身の自分というものをどこかに棚上げにして、それとはまったく「断絶」したところで、論理のパズルをしている。そこで勝利し、アカデミックな世界で業績を作りエラくなっていくために。

その分断を繋いでもなお「殺してもいい」と言えるのかどうか、実際のその人たちが生きている姿に、学者として観察するのではなく、共にこの世に生きる一人の人として触れてみたらどうか、と、アシュリー事件からずっと怨念のように思うことを、またも。

面と向かって言えるとか言えないというのは、当たり前のことですが、比喩。自分が個人として生きている世界と、知的な議論とを断絶させることによって論理 のパズルを学問として成り立たせるこのと危うさを問題にしたいわけで、その比喩はそれに至るプロセス。本題ではありません。

キテイに障害者コミュニティへの訪問を誘われた時にシンガーは断った。それは結局、分断を埋めることを拒んだのであり、つまりは「知的な議論をしているだけ」との言い訳を手放すまいとしているんじゃないのか、と。

エヴァ・キテイ「Singerに限らず、現実の経験的な問題から離れた哲学の世界に隔絶して知識と理論だけで障害者の問題を考えている人たちは、現実の障害に関して呆れるほど無知である」http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/47350976.html

でも「知的に議論」している対象である道徳とか倫理は、知的な議論の世界でだけ生きている人たちが前提ではないと思うので、そういうことがnankuru28さんが言われる関係性と切り離すことはできない、ということと繋がらないかな、と。
2012.03.14 / Top↑
以下のエントリーで紹介した論文の著者らに、
脅迫状が送られるなどの騒ぎになっているらしく、

中絶してもいいなら“出生後中絶”と称して新生児殺してもOK(2012/2/27)


掲載誌の編集長であるSavulescuを始め、あちこちから
「一般人には理解しがたいかもしれないが、知的な議論をしているだけ」的な
発言が目につくことから、グルグルしてみた一連のツイート。


3月1日

Savulsecuが「”出生後中絶”論文はトゥリーやハリスの新生児殺しの主張と同じで、ただ家族利益でもOKとしたところが新しいだけ」と書いたことに、ハリスが「自分はあくまでも知的議論を展開したまでで政策として提言したことはない」。セコい。http://blogs.bmj.com/medical-ethics/2012/02/29/john-harris-clarifies-his-position-on-infanticide/

自分は頭がいいのだとゴーマンかいた胡坐の上で、論理のパズルに興じておいて、でも医療倫理も生命倫理も現場の医療とはまったく無世界だからね、とでも? そういや認知症患者には延命治療するなと説いておいて、「自分の母親となると別」だった人もいましたっけね。

じゃぁ、ハリスは去年「臓器売買を認めろと説いた」のも、あれは知的な議論に過ぎなくて、政策提言をしたわけじゃないのかな。⇒Harris「臓器不足排除が最優先」の売買容認論は「私を離さないで」の世界にあと一歩」http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/63037403.html

As Editor of the journal・・・Savulescuが編集委員長ってこと? この前のAJOBの利益相反スキャンダルを思い出した。⇒「AJOB巡るスキャンダルには幹細胞治療や日本の医療ツーリズムも“金魚のウンコ” 」http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64752863.html

Savulescuの「中絶反対狂信者らが・・・」文章を読んでいると、功利主義のトンデモ御用倫理学者さんたちと、どんどん原理主義的になる保守層の間に、実は全く筋違いな対立の構図が描かれてしまいそうな気がして、それが一番イヤだ。

この両者とも、強権的な操作、コントロール指向はそっくり。、本当は片方がメディカル・コントロール、もう一方が政治と司法による支配と差別の強化と、方法論が違うだけで、方向性は合致している気がしてならない。

この前ホロコーストがトラウマになってきたドイツで最近はイスラム教徒への差別意識が高まっているという話を読んでhttp://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/64787822.html気になったけど、Savulescuが引用している「出生後中絶論文」批判にもちらっとその気配が滲んでいる。


3月2日

Savulescu が great と言ってツイートしている例の論文を巡る言論の自由擁護論。http://blog.indexoncensorship.org/2012/03/01/abortion-bmj-free-expression-infanticide-medical-ethics/ 

(↑ここだったと思うけど、ざっとあちこちに目を通した際に、「議論の一貫性consistencyを問題にしているのであり」が目についた。つまり「中絶が是」なら「新生児殺し」も是でないと論理一貫性がない、とか、学問的にはそういう問題なんだ、と説いた個所が目についたことから ↓)

consistency とは言われますけど、一定の人については「殺す」ことばかりが議論され、一定の人については「命を救う」ことばかり、または「欲望を満たしてあげること」ばかりが問題となるという意味では、これら議論を取り囲む大きな不均衡もあるわけで……。

”出生後中絶”論文に関してSavulescuおすすめの論考。https://theconversation.edu.au/theres-no-good-argument-for-infanticide-5672 お? クイーンズランドの方なのね……。

これも同じく。すぐ読めないので、とりあえずのメモとして。 http://blog.practicalethics.ox.ac.uk/2012/03/concern-for-our-vulnerable-prenatal-and-neonatal-children-a-brief-reply-to-giubilini-and-minerva/

consistencyということで言えば、まだコスト論が露骨になる前に(ex.07年ゴンザレス事件)、”無益な治療”停止の正当化だった「人工呼吸 が患者に無益な苦痛を強いている」が、今は臓器確保のための人工呼吸が「十分な鎮静と沈痛がされれば患者の損失はない」と裏返ることの不思議。

consistencyということで言えば、ゴンザレス事件の頃には「コストではない。あくまでも患者の最善の利益」と正当化された治療停止が、事件が続 き議論が繰り返されるにつれて、そこにじわじわとコスト論が紛れ込まされて、いつからか「社会のコストを考えるべき」無益な治療論へと化ける怪。

グラデーションまがいの変質を起こせば、変質そのものがバレないいだろうとでもいうがごとくに。じわじわと変質するのだって議論に一貫性がないという点では立派なinconsistencyのはずなんだけど。あ、これもAshley事件の正当化論の変質マジックと同じ。
2012.03.14 / Top↑
やっと少し暖かくなったので、
ミュウと散歩して近所のモスへ。

ハサミで微細に刻んだバーガーは親が食べさせるけど、
大好きなポテトだけは、いつも「持たせろ」と手を伸ばしてくる。

握らせると、苦労しながらも
一か所だけ噛み切ることができる左奥歯に持っていき、
なんとか自分で上手に食べる。

時々、その手が母親の顔の前にぬっとやってきて、
ポテトを口に突っ込もうとする。

なぜか食べさせてもらえるのは母親だけなので、

ありがたく、
クソ握りでつぶれたポテトをいただく。

そして、言葉を持たない娘は、
私の前に顔を近づけ、

目をきらきら見開いて、
顔全体で「おいっしーねっ、ねっ、おかーさん!」と言う。

弾んだ口調で言う。

「うん。おいしーね」と、私も目だけで応じて、
その瞬間の完全無欠な幸福に、涙ぐみそうになる。
2012.03.14 / Top↑