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1月の“アシュリー療法”論争でも触れている人があったのですが、

去年から英国では、産婦人科医らが早産の重症障害新生児を bed blocker(ベッドふさぎ)と呼び、事実上「治療をせず安楽死させてはどうか」と提案しています。そういう赤ん坊がベッドをふさいでいるために、もっと健康な赤ん坊や母親の医療に差しさわりが生じている、というのが理由の1つ。そのほかに英国産婦人科学会が理由としてあげているのは、おおむね以下。

・周産期医療の進歩で未熟児がどんどん助かるようになっているが、治療しても死亡したり重い障害を負う可能性が高い。
・重い障害のある子どもの養育は親への負担が大きい。
・そういう子どもの命を助け、育て、成人した後も面倒を見るための社会のコストも大きい。
・妊娠24週で胎児の障害が分かった妊婦には中絶が許されているが、28週になると許されない(フェアでない)。
・オランダでは特定の条件を満たせば重症障害新生児の安楽死が認められている。

BBC Early babies dubbed bed blockers (2006.3.27)
the Guardian Obstetricians call for debate on ethics of euthanasia for a very sick babies (2006.11.6)

こうした英国産婦人科学会の動きの背景には、胎児・新生児医療について2年がかりで調査を行っていたthe Nuffield Council on Bio-ethicsがそろそろ報告書をまとめて発表すると見られていたことがあったようです。

その報告書が11月半ばに発表される予定だったためでしょう。11月の初旬に英国産婦人科学会は、違法であるためにそれまでは検討から除外されていた重症障害新生児の安楽死も議論すべきだとの提言をナフィールド生命倫理カウンシルに対して上げています。(上記 Guardian の記事)

こういう障害児を一生世話するコストをリアルに知って、その全額を国が出してくれるわけではないということが理解できたら、「未熟児の母親だって激しい救命や治療について恐らく考えを変えるだろう。担当医師も変えるかもしれない。」

つまるところ、アメリカで主張され始めている futile care(無益な治療)の英国版でしょうか。シアトル子ども病院の生命倫理カンファレンスではFostがこれと同じ切捨て論を説き、 Wilfond がコストを理由にした切捨て論に疑問を呈していました。

しかし上記の論理がそのまま親に向けられると、これは一種の恫喝ですね。「これだけのコストを自分で担えるのか。担えないなら安楽死に同意しろ」と。

このような産婦人科学会と連動した動きのようにも思えますが、英国教会も重症障害新生児の安楽死を容認する見解を出しています。


日本語ではキリスト教オンライン新聞に以下の記事が。


(前日のガーディアン記事が元になっているようですが、「王立産婦人科大学」と訳されているのは、「英国産婦人科学会」のことでしょう。ナフィールドの報告書が2004年とされているのも、この数日後に予定されていた報告書のことと思われます。)

                  ―――――

Mental Capacity Act 2005のような、自分で決められない人本人の意思決定を尊重する法律が整備されている一方で、産婦人科医らによる障害児切捨ての動きがあるということが一見、矛盾のようにも思え、

また逆に、このような動きがあるからこそ、本人の利益を代理する制度がしっかりしている必要があるのかもしれない、と思うし、

しかし、また、でもその「必要」とは、一体どっちの必要なんだ? 

障害児・者・高齢者・病者の権利を守るための「必要」なのか、それとも切り捨てたい側が「然るべき手続きは踏んだ」とアリバイにするために「必要」なのか? ……などと考えたりも。

             
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ナフィールド生命倫理カウンシルの報告書はこちらからダウンロードできます。


報告書のサマリーはこちら。


報告書の結論と提言はこちら(Chapter 9)。


胎児への医療、26週未満での早産児、集中治療を受けている赤ん坊と、3つの診療領域に分けて検討してあるようです。また、ここでも本人の最善の利益のため、誰がどのように決定するか慎重な手続きが提言されているようですが、まだサマリーを読んだだけなので、とりあえず、ここまでに。

 
2007.10.31 / Top↑
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