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もう1つメール討論でのFost発言について重大なポイントとして指摘しておきたいのは、
Fost医師がベビー・ドゥ論争と障害新生児の治療停止・安楽死問題を持ち出していることです。

その下りの大まかな要旨を以下に。

70年代、80年代のベビー・ドゥ論争によって、
障害を理由に新生児が治療を停止されるという不適切な差別はなくなった。
しかし、逆に多くの人の意識に過剰修正をもたらし、
長く意味のある人生を送る見込みがほとんどない赤ん坊を救うために過剰な技術利用
excessive use of technology to rescue infants with little or no prospect for long or meaningful existence
が起こっている。

現在問題になるのは将来が予測できない赤ん坊のケースがほとんど。
しかし、かつてと違って今は倫理委員会というものがある。
ベビー・ドゥ事件のようなお粗末な情報やいいかげんな考えによって決断が下されることは
なくなったのだ。

しかし、これは結局、倫理委員会の意義に勿体をつけるだけの前置きに過ぎず、
ここでFost医師が言いたいのは
「アシュリーのケースは倫理委員会が了承したことだから批判するに当たらない」ということ。
何もわざわざベビー・ドゥ事件など持ち出して大げさに構えなくても、
実はあのシアトル・タイムズの社説と全く同じことを言っているだけなのです。

その証拠に、この後、彼の発言は以下のように続きます。
(私は初めてここを読んだ時には思わず笑ってしまいました。)

アシュリーのケースにおける決定の医学的根拠の詳細な説明は、
医師らが行った慎重な倫理的リーズニングと共に、
GuntherとDiekemaの論文に詳述されている。

そして、彼らがどのように、なぜこの決断に至ったかについての父親の極めて詳しい説明。

批判する人にどんな不満があるにせよ、
この決断が関連事実と議論の慎重な検討なしにお気楽に手早くなされたものだとは言えないはずだ。

「詳述」と訳してみましたが、原文はwell documented です。
あの論理性というものが欠落し、マヤカシと隠蔽に満ちた論文がwell documented ???

また、あの論文のどこに、医師らの発言のどこに、「医学的根拠の詳細な説明」があったでしょう? 

むしろ、“アシュリー療法”論争の特徴は、
担当医の議論において「医学的根拠」と「倫理的リーズニング」が常に抜け落ちている、
そこだけは絶対に出てこないことにあるというのに??? 

そういえばFost医師は、担当医らをわざわざ
「思いやりのあるcaring」とも形容していましたっけ。


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しかし、Fost医師がベビー・ドゥ事件を持ち出していることは象徴的であるようにも思います。

まず、“アシュリー療法”論争は安楽死をめぐる論争ではないのに、
一般の人の中にも重症児だということから植物状態との混同が起こり、
それによって安楽死を論じた人が多かったこと。

「認知機能が生後3または6ヶ月程度」というのも
実は根拠が曖昧なまま一人歩きしている判定ですが、
仮にこれが事実だとしても決して「意識が無い」ということと同じではありません。
しかし、そこが混同された発言がアシュリー療法論争では非常に目立っていたのです。

ここで障害新生児の治療停止問題や安楽死議論を持ち出したFost医師にも、
どこかでアシュリーのような重症児を植物状態と重ねる無意識があるのではないでしょうか。

次に、Fost医師自身は障害新生児への“過剰医療”に批判的な眼を向けていることが分かりますが、
long or meaningful existenceという表現を使っているのが印象的です。

このmeaningful という言葉はDiekema医師も
「アシュリーには生涯どんな人との間にもmeaningful なやりとりも関係ももてない」
という文脈で使っています。

この2人の医師が知的障害者を考えるときに、どのような人生であればmeaningfulであり、
どのような人との関係であればmeaningfulである、またはそうでないと考えるのか、
具体的に聞いてみたいところです。

まさか「重い知的障害があれば、意味のある人生などありえない」、
「しゃべれない、歩けない人間に誰かと意味のあるやりとりができるはずがない」
などと底の浅いことは言わないだろうと期待したいところですが、
上記の植物状態との無意識の混同を考えると、
所詮はその程度の認識で言っているmeaningfulなのかも?
2007.08.18 / Top↑
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