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薬物疑惑が取りざたされているバリー・ボンズの通算最多本塁打新記録樹立を目前に、
ワシントン・ポストは8月1日、
Is It Time For a Flex Plan? Techno-Athletes Change The Definition of Natural と題した記事で、
スポーツ選手の薬物や様々なテクノロジーを駆使した肉体改善の是非について取り上げています。
タイガー・ウッズもレーザー治療で視力を向上させたとか。

この記事に登場して「そのどこが悪い?」と熱弁をふるっているのが、あのJames Hughes
そして彼と同じくthe Institute for Ethics and Emerging Technologiesのディレクターでもあり、
共に世界トランスヒューマニズム協会を創設したお仲間のNick Bostrom。

ボディ・ビルダーの世界では既に競技が
薬物を認めて検査なしとするものと検査するものとに分かれているそうです。
ボディ・ビルダー向けの雑誌は薬物の広告だらけで、線引きはリーグによって様々。
しかし、様々な肉体改造テクニックが現れるにつれ、
スポーツ全体で線引きが難しくなり境界線が曖昧になりつつある。
例えば視力増強コンタクトレンズはいいのか、それなら人工視覚はどうなのかといった
問題が起こっているというのです。

そこに「そんな細かい線引きがそもそも無意味」と登場するのがHughes。
おおむね、以下のような発言をしています。

古代オリンピックでも薬物は使用されていた。それがこと改めて問題視されるようになったのはスポーツが職業化した時期から。コンピューターのデータを使ったり高価な水着を開発したりというのはナチュラルで、それ以外は全部ナチュラルじゃないというのは二重思考であり矛盾している。だいたい薬物が人体に危険だというのなら、サッカーのヘディングでIQは落ちるし、ボクシングも体に悪い。ズルはいけないというけれど、何がズルかは社会が決める曖昧な基準に過ぎない。会社と一緒になって詐欺を働く社員はズルをしているのか、子ども3人抱えて福祉の金でぬくぬく暮らす女はズルなのか。そう思う人もいれば思わない人もいる。フェアかどうかといったって基本的には金をかけられる方が有利ということなのに、それは言わないじゃないか。

彼の論法はどうやらアシュリー論争に登場した際と同じく、
批判される論点を先に想定しては、それを強引につぶしていくというもののようなのですが、
「薬物が体に悪いというなら、それ以前にヘディングもボクシングも体に悪いじゃないか」とは、
まさしく「6歳の女の子の子宮を取って悪いといっても、将来ガンになったらどうせ取るじゃないか」
というのと同じ牽強付会。

Bostromは競技を性別や体重別に分けるように、
薬物を認めないクラスと認めるクラスに分ければいいと提案しています。
今のようにドーピングと検査のいたちごっこだと、
結局は違法性が高い薬物を使ってバレなかった選手が勝つことになるのだから、
「ちゃんと調べて守らせることができるルールでなければ、作るべきではない」というのが、その理由。

でもBostromの理屈でいくと、
殺人を禁止しても、どうせ人を殺す人間はいるのだから、
殺人を禁止するルールを作るべきではない、ということになるのでは?

しかしポストの記事が投げかける想定も不気味です。

これまでの薬物と違って、遺伝子ドーピングは既に研究されていて、そういう研究室にはアスリートやコーチからの問い合わせがひっきりなしだという現在、もしも2008年のオリンピックで、頭より大きな首だとか牛みたいな尻だとかの持ち主が現れて、普通なら10分の1秒のところで20秒の大差で世界記録が塗り替えられるということが起こったとしたら、そしてそういう選手が薬物検査をすんなり通ってしまったとしたら、それはアメリカ人にとってソビエトがスプートニクを飛ばした時に匹敵する衝撃とならないか? その時には我々のプライオリティも変わるのではないか?

それこそHughesらの狙い通りかもしれません。
2007.08.09 / Top↑
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