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この先、論文の内容と、メディアでの医師らの発言に見られる、さらにいくつかの“不思議”を指摘したいと考えていますが、その前にここで、前のエントリーで書いた「アシュリーの親がブログで書いた倫理委のメンバーが40人というのは、彼らのカン違い」と考える根拠となった資料をご紹介します。

アシュリーの問題を検討した倫理委については、あまり知られていないようですが、実はこれまでにもある程度具体的な数字が出てきています。以下の2月9日のSalon.comの記事によると、委員は18名。シアトル子ども病院とワシントン大学の職員のみで構成されていたとのこと。当日、会場には委員ではないけれどもその場にいた人があったようです。これらを合わせて部屋に40人近くがいたのではないでしょうか。それをプレゼンを行った際にアシュリーの父親が全て委員だとカン違いして(誇張したのではなく、恐らく彼は本当にそう信じたのでしょう)ブログに書いたのではないかというのが私の推理です。2月からずっとそう推理していたので、シンポでのCarter医師の発言「40人のように見えたんだよ」には思わず「やっぱり!」と手を打ちました。
この記事では、シンポでモデレーターを務めていたCowen 医師(生後5ヶ月からアシュリーの主治医)の舞台裏を語る証言など、行間を読むと大変興味深いものがあります。

http://www.salon.com/news/feature/2007/02/09/pillow_angel/index_np.html?source=rss

また、この記事を読んだ後に、1月5日付の以下の記事で、論文執筆者のGunther医師が倫理委のメンバーについて話していることと比べてみると、ここにもまた興味深い食い違いがあります。彼は「委員の数は15人から20人」と語っており、それはSalon.comのいう18人と照らし合わせても確かにウソではないのですが、自分が担当する症例を検討した倫理委の委員の数を、これほど曖昧にしか知らなかったということがあるでしょうか。Deikema医師の発言にも共通している傾向なのですが、彼らはどうやらウソはなるべくつきたくないらしい。でも、本当のことを言うわけにいかない場合に、こういう曖昧な言い方、姑息な誤魔化し方をする傾向があるようです。
ただ、彼はこの中でメンバーには「地域の人」が複数入っていたと述べており、Salon.comの記事がいう「子ども病院とワシントン大学の職員のみで構成されいてた」というのが事実だとすると、この点ではGunther 医師はウソをついていることになります。

http://seattlepi.nwsource.com/local/298543_stuntedside05.html

私はSalon.comの記事には相当な信憑性があると考えていますが、それにしても、1月、2月の段階で、倫理委のメンバーについては既にこれだけの具体的な情報が出ていたにもかかわらず、多くのメディアがこれらを検証せず、親のブログで40人と書いてあったことを真に受けて、そのまま流し続けたわけです。また多くの人がそれを疑いもせずに議論の前提として今に至っているということになります。

私が最も気になるのは、40人というのが親のカン違いだと知っていたはずの病院側が、何故この間ずっと、その誤解を指摘せずにきたかということです。ワシントン大学のシンポでも、Dregerさんが「だって、40人いたんでしょう」と正面から倫理委のメンバーの数を問題にしたからこそ、「40人に見えたんだよ」という発言が出てきたのでした。もしも誰も数を問題にしなかったら、病院はシンポでも、あのまま委員は40人だったということにして済ませていたような気配があったように思います。

敢えて誤解を指摘・訂正しなかったのは、the Seattle Times(1月16日、5月10日ともに社説)を始めとして擁護に回ったメディアが「40人もの倫理委が承認したのだから、批判するには当たらない」などと書いたことを考えると、今回の処置の妥当性の根拠として40という大きな数字が、こども病院にとっても都合が良かったからではないでしょうか。そして、その姿勢は、どこか、あの論文の敢えて誤解を招くような書き方にも通じていないでしょうか。

病院側の姿勢がこの期に及んでもなお、明らかに誤って流布している倫理委の委員数を敢えて訂正せずにいるという不誠実なものであるとしたら、我々は議論をさらに先に進める前に、既に知っているつもりのこの問題についての基本的な事実関係の諸々を、一度確認してみる必要があるのではないでしょうか。

2007.05.26 / Top↑
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