介護職の女性がサービス利用者のケアをしている間に路上駐車の違反切符を切られたとして、
その女性の母親がカンカンになって地元メディアに登場。
他に停めるところが全然なかったんだし、
ウチの娘はちゃんと介護職の制服を着ていたのに、
警官はそのくらいの“常識”を働かせられんのかい、
それくらい現場の警官に裁量を認めんかい、と訴えている。
取材を受け、
地元警察の担当者は不服を申し立ててくれたら対応する、と。
‘Don’t fine our carers’
The Daily Gazette, September 30, 2010
なんで本人ではなく母親が出てくるんだろう……というところが不思議で、
もしかしたら、自分の娘の個別ケースさえチャラにしてもらえば
この人はそれで引き下がるのかもしれないけど、
でも、地元警察が個別対応で済ませようとしているのは
この女性によって提起された問題を読み誤っている、
これは一般化して対応を検討すべき、もっと大きな問題ではないかと思う。
上記の問題、日本ではどうなっているんだろうと思って、検索してみたら
医療ガバナンス学会の9月23日のブログ(vol. 258)で問題になっていた。
「緑虫との闘い」-「がん対策基本法」施策と矛盾する在宅車両の取り締まりへの提言―
長尾クリニック・院長(尼崎市)
阪神ホームホスピスを考える会・世話人
長尾和宏
長尾医師が語る、24時間対応を義務付けられている在宅療養支援診療所の実情は、
私自身も毎日が、路上駐車取締員との追いかけっこです。緑色の制服を着て2人ひと組みで町中をウロウロしている彼らは通称「緑のおじさん」、な いし誰が名づけたのか「緑虫」と呼ばれています。路上で「緑虫」と口論になったり、取り締まりが気になって患者さんと十分に話せなかったり、運悪くたった 5分で捕まって落ち込んだり、ショックで辞表を出す職員の対応に追われたり・・・。もはや「緑虫」抜きで日常が語れなくなってきました。
当院は複数医師で外来診療と並行して在宅医療を行う、いわゆるミックス型診療所です。
この2年半を振り返ってみて、当院の在宅医療車両の駐車違反摘発件数は恥ずかしながら
2007年 1件、2008年 5件、2009年 7件の、計13件、でした。
職種別では医師4件、訪問看護師7件、訪問リハビリ2件でした。違反事由としては、右側駐車3件 横断歩道付近1件 駐車場出入付近2件 消火栓付近1件、 歩道乗り上げ2件 左側0.75m違反1件 その他3件でした。一番よく使う中古の軽車両は07年1件、08年2件、09年1件とすでに4回捕まり、地元 警察署からリーチを宣告されています。
こういう実態は、
在宅医療・介護を充実させ地域包括支援体制を形作ろうとの国の掛け声に応えて、
情熱を持ち地域医療・介護に携わろうとする専門職のモチベーションを下げる。
警察関係者と相談した結果、見えてきたものは、「警察と厚労省の横の連携が悪いこと」「現場の緑虫には裁量権が一切ないこと」などです。大げさに言えば、「縦割り行政」や「地方分権問題」にも行きつきます。現在、なぜか医師の駐車禁止除外票は、緊急往診に限られていて定期的な訪問診療には適応されません。 緊急往診に限るのは現実的ではありません。さらに訪問看護や介護業者への駐禁除外票発行は、医師とはまた別の複雑怪奇な規則が定められ、またかなりの地域差があるようです。多職種連携を大前提とする在宅医療の現場を考えると、職種間格差を早急に是正する必要があります。「駐禁除外票」発行の基盤となる国の 認識を、在宅医療の現状に呼応した形に再検討する必要があります。
09年4月、栃木県の在宅ホスピス医の署名活動により「在宅医療車両の緊急車両扱い」が法的に認められました。しかし阪神間の私たちが望むのは 道交法優先の緩和措置です。駐禁問題は地域性が大きく関係するので、道路交通法44条、45条、47条の改定は難しいかもしれません。
しかし政治主導での、駐禁除外票の発行基準の職種によらない一元化と地域の実情と業務の公共性を勘案した「在宅関係車両の柔軟な取り扱い」の通達くらいは可 能だと思います。例えば患家周辺の状況を勘案して30分~1時間は道交法優先を免除して頂ければ大変助かります。このように市町村単位で地元警察と地元医師会との話し合いの場を持ち「地域の実情に応じた道交法優先の緩和措置」を是非、施行していただきたいと希望します。
最近、英国の介護者チャリティが介護者の経済状況を調査した報告の中に、
神経難病の夫を介護する女性が、夫が病気になって、介護のために仕事も将来も失い、
あっという間に貧困に陥り、今では食べるのにも困る、電気代を払うためにサラ金を頼る始末だと語り、
「夫を介護していることに対して、まるで政府からペナルティを課せられているみたいな気分」と
言っていた言葉が印象的だったのだけど、
これでは、
「地域で在宅患者をしっかり診ろ、支えろ」と国から言われて
しんどい思いをしながら町に出ていく日本の医療・介護職の人たちにも、
その努力に対して、文字通りのペナルティが課せられていることになる。
高齢者や障害者にとっても、
地域に医療と介護の連携による包括的な支援システムができていることが
何より有り難く大事なことなのに――。