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いろんな意味で、イヤ~なニュースだなぁ、これ……。

このたび、100人以上いる英国下院の議員さんたちから
サンプルを抽出してインタビュー形式でアンケートをとったところ、
半数以上の53%が医師による自殺幇助の合法化に賛成だった。

この問題で議員さんたちの考えが確認されたのは
97年の議会で75%の反対で合法化が否決されて以来のことで
ここにきて、ついに大勢が支持に回ったことが明らかになった以上、

合法化に向けた法律改正は
「すべきかどうか」という問題ではなく「いつすべきか」の問題である。

Timesが今年に入って行った世論調査でも、
4分の3が合法化に賛成だったことでもあり、
そうした世論を汲んで議員さんたちの意識も変化したに違いない。

……というのが、この記事の大まかな流れ。



まず、イヤ~な感じがするのは、このタイミング。
9月に出された自殺幇助に関する法解釈のガイドライン案のコンサルテーション(パブコメ)の
締め切りが翌17日……という日に合わせて、こういうものが公表される。

上記、Timesの世論調査も、なにやら妙なタイミングで公表された。

それから、さらにイヤ~な気分になるのは、
この議員さんへのインタビュー調査はIpsos MORIという市場調査の会社が行っており、
それを依頼したのは合法化に向けて盛んにロビー活動を展開している Dignity in Dying。

合法化に反対する側と違って、
合法化を推進する側がいかに潤沢な資金を有しているかを物語っている。

また、全員への文書によるアンケート調査ではなく、サンプルで1対1の面接調査だというところも、
サンプルのバイアスだって誘導だって解釈だって、いかようにも……という感じも。

そして、何より私がイヤ~なものを感じるのは、このTimesの記事タイトルで、
「議員さんたち、患者に死の手助けをする医師の権利を支持」って……?

自殺幇助合法化を求める人たちが主張してきたのは「死の自己決定権」であり、
患者サイドの権利だったはずなのに、いつのまに「医師の権利」に摩り替わったのか?

英国医師会は医師の職務に反するとして、
自殺幇助の合法化には反対のスタンスを明らかにしていますから
医師の側から「患者を死なせる権利」を求めてはいません。

公訴局長DPPのガイドライン発表以降、一部医師らから出ているのは
医師のどういう行為が訴追対象になるのかが全く不明瞭で、これでは不十分、
こんなものを決めるのなら、もっと具体的にどういう行為までが許されるのかを
明確にしてもらわないと困る、という声であり、

これまでの、そうした展開から推測すると、このタイトルは
「本人の自己決定権」を既に認められて然りと大前提に置き、
それなら「その人を愛する家族や友人が罪に問われないよう、幇助に対する法解釈の基準が必要」と発展し、
さらに「本人や家族に頼まれた医師だって身を守るために法解釈が明確でなければ」から
「医師にもやれというなら、医師にだって法律によって守られる権利がある」を
さらに飛躍させて「患者の自殺を幇助する医師の権利」と書いてしまったものでは?

しかし、このタイトルは記事の書き方として、あまりに不正確。

(Daily Mailも似たようなタイトルの打ち方をしているので、
もしかしたら、メディアの問題ではなく発表したロビー側の言葉の選択の問題かもしれませんが
それをそのままタイトルにもってくるメディアも無責任が過ぎるでしょう)

当ブログでも何度も指摘していますが、自殺幇助の議論では、
こうした文言や論理の厳密さの欠落、問題の摩り替わりが、あまりにも頻発しています。
これは本当に、ただの不注意で偶発的に起こっているだけなのでしょうか。

いったいターミナルな病状の人の自殺幇助の議論なのか、
一定の障害を負った人に死の自己決定権を認めようという議論なのか、
それとも、理由は問わず死ぬ時と死に方は個人の自己決定権だという議論なのか。

はたまた医療コスト削減のために
ターミナルな人も障害者も、いっそ自ら望んで死んでくださいという話なのか。

公訴局長のガイドラインにしても、
米国のように医師による自殺幇助の議論なのか、
Purdy裁判から出てきた、家族・友人がスイスへ連れて行くことを巡る議論なのか、
いっそ思いやりからすることなら家族や友人が殺したってかまわないという議論なのか、
さっぱり区別しないまま、なにもかもグズグズ状態で提起されています。

そこへ、この記事のタイトルでは、
死ぬ人自身の権利なのか、家族や友人の権利なのか、それとも医師の権利なのか、
いったい、この議論そのものが誰の権利の視点に立脚しているのか、
さらに一切合切がグズグズにされてしまう。


Timesが7月に行った世論調査に関するエントリーはこちら
DPPのガイドラインの内容に関するエントリーはこちら


DPPのガイドラインに関するコンサルテーションの締め切りを前に、
このところ自殺幇助合法化に関する論評がメディアには多出しています。

昨日、今日と目に付いた主なものは以下で、
Guardianの方はターミナルな人と障害者とを区別していないことを問題視している。
Timesの方は、反対は少数派だ、マジョリティは合法化を支持している、という論旨。


こちらはTelegraphの記事。2本とも批判的。
特に下のものは、議員さんたちが超党派でDPPに懸念を表明した、というもの。




【19日追記】
その後、反対派ロビーから情報が出てきたので、以下のエントリーを書きました。

2009.12.17 / Top↑
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