9日、WHOと世界銀行が
障害児・者に関するグローバルな報告書the World Report on Disabilityをまとめた。
1970年代には世界の人口の約10%だと試算されていた障害者は
高齢化と慢性病の増加によって増え、今では10億人。総人口の15%に。
障害者の権利運動が行われインクルージョンに向けた変化もあるものの
総じて障害者は差別される地位(second-class citizen)に留まっており、
5人に1人は多大な困難を経験している。
途上国では医療を拒否される確率が健常者よりも3倍も高く、
障害児が学校に通ったり卒業まで在学する率も低い。
OECD諸国の健常者の就業率が75%であるのに比べて
障害者の就業率は44%にとどまる。
バリアとしては、スティグマ、差別、
適切な医療とリハビリを受けられないこと、
交通手段、建物、情報へのアクセスが十分でないこと。
途上国では事情はより深刻である。
著者の一人、Tom Shakespeareは、
問題のない国はない、というのが報告書のメッセージだ、と述べて
特に報告書から見える最もショッキングで大きな問題は
医療における差別だ、と。
WHO事務局長のMargaret Chan医師は
障害は人であれば経験すること(disability is part of the human condition)だと指摘し、
「私たちのほとんどが人生のどこかの段階で永続的な障害や一時的な障害を負います。
障害者を差別し、多くの場合社会の周辺に追いやってしまう原因となっているバリアを
取り除くために我々はもっと努力しなければなりません」
Lancaster大学の障害研究センターのEric Emerson教授は
「英国の障害者、とりわけ知的障害者が受ける制度的な差別は
これまでも多くの独立系の調査報告で指摘されてきた。
障害者の健康と福祉は
彼らの障害から直接的に引き起こされる結果ではなく、
社会が障害者をどのように遇するかによって引き起こされた結果なのである」
報告書は特に各国の状況を比較してはいないが
最も優秀な実践例として特に英国の障害者差別(禁止)法2005を挙げた。
公共機関に平等とダイレクト・ペイメントの推進を義務付けたことを評価したもの。
しかし英国人であるShakespeareは
「ダイレクト・ペイメントの仕組みと、
自立生活給付などの支援や仕事へのアクセスでは英国は優秀だが
これまでに整えられてきたものが今は脅かされている。
自立生活給付金のカットやその他の支援も変更が行われており
昔はよかったが、ということになりそうだ」
One billion people disabled, first global report finds
The Guardian, June 9, 2011
同レポートに関するLancetの論説はこちら。
英国の社会保障費カットはこのところ毎日のようにニュースになるほど
大きな影響を及ぼして障害者・高齢者を脅かしているので、
Shakespeareの最後の発言は非常にリアルに聞こえた。
英国の障害者らが介護サービス削減に抗議して訴訟、大規模デモ(2011/5/11)
ただ、ものすごく素朴に疑問に思うのは
WHOと世銀って、ゲイツ財団・IHMEと大の仲良しで、
DALYでもって世界中の医療保健施策の効率化を計ろうとしていたり、
遺伝子診断や早産・死産撲滅など、優生思想が匂う運動を推進していたりしながら
その一方で、こういうことを言うのって……?
それはShakespeareの発言にも通じていく疑問で、
医療における障害者差別が一番の問題だというけど、
そんなのは、この報告書が出てくる前からみんなが経験し言っていることで、
その現実を知らないわけでもなかろうに、
また医療で差別されているからこそ、
英国障害者の7割がPAS合法化に懸念してもいるのだろうし、
その懸念の背景にある不信を理解できないわけでもなかろうに、
自殺幇助合法化議論では医療における障害者への差別は言わず、
障害者にも自殺幇助を認めろ、と主張するのって……?
【関連エントリー】
Tom Shakespeareが「自殺幇助合法化せよ」(2009/3/15)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 1(2009/7/9)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 2(2009/7/9)
障害児・者に関するグローバルな報告書the World Report on Disabilityをまとめた。
1970年代には世界の人口の約10%だと試算されていた障害者は
高齢化と慢性病の増加によって増え、今では10億人。総人口の15%に。
障害者の権利運動が行われインクルージョンに向けた変化もあるものの
総じて障害者は差別される地位(second-class citizen)に留まっており、
5人に1人は多大な困難を経験している。
途上国では医療を拒否される確率が健常者よりも3倍も高く、
障害児が学校に通ったり卒業まで在学する率も低い。
OECD諸国の健常者の就業率が75%であるのに比べて
障害者の就業率は44%にとどまる。
バリアとしては、スティグマ、差別、
適切な医療とリハビリを受けられないこと、
交通手段、建物、情報へのアクセスが十分でないこと。
途上国では事情はより深刻である。
著者の一人、Tom Shakespeareは、
問題のない国はない、というのが報告書のメッセージだ、と述べて
特に報告書から見える最もショッキングで大きな問題は
医療における差別だ、と。
WHO事務局長のMargaret Chan医師は
障害は人であれば経験すること(disability is part of the human condition)だと指摘し、
「私たちのほとんどが人生のどこかの段階で永続的な障害や一時的な障害を負います。
障害者を差別し、多くの場合社会の周辺に追いやってしまう原因となっているバリアを
取り除くために我々はもっと努力しなければなりません」
Lancaster大学の障害研究センターのEric Emerson教授は
「英国の障害者、とりわけ知的障害者が受ける制度的な差別は
これまでも多くの独立系の調査報告で指摘されてきた。
障害者の健康と福祉は
彼らの障害から直接的に引き起こされる結果ではなく、
社会が障害者をどのように遇するかによって引き起こされた結果なのである」
報告書は特に各国の状況を比較してはいないが
最も優秀な実践例として特に英国の障害者差別(禁止)法2005を挙げた。
公共機関に平等とダイレクト・ペイメントの推進を義務付けたことを評価したもの。
しかし英国人であるShakespeareは
「ダイレクト・ペイメントの仕組みと、
自立生活給付などの支援や仕事へのアクセスでは英国は優秀だが
これまでに整えられてきたものが今は脅かされている。
自立生活給付金のカットやその他の支援も変更が行われており
昔はよかったが、ということになりそうだ」
One billion people disabled, first global report finds
The Guardian, June 9, 2011
同レポートに関するLancetの論説はこちら。
英国の社会保障費カットはこのところ毎日のようにニュースになるほど
大きな影響を及ぼして障害者・高齢者を脅かしているので、
Shakespeareの最後の発言は非常にリアルに聞こえた。
英国の障害者らが介護サービス削減に抗議して訴訟、大規模デモ(2011/5/11)
ただ、ものすごく素朴に疑問に思うのは
WHOと世銀って、ゲイツ財団・IHMEと大の仲良しで、
DALYでもって世界中の医療保健施策の効率化を計ろうとしていたり、
遺伝子診断や早産・死産撲滅など、優生思想が匂う運動を推進していたりしながら
その一方で、こういうことを言うのって……?
それはShakespeareの発言にも通じていく疑問で、
医療における障害者差別が一番の問題だというけど、
そんなのは、この報告書が出てくる前からみんなが経験し言っていることで、
その現実を知らないわけでもなかろうに、
また医療で差別されているからこそ、
英国障害者の7割がPAS合法化に懸念してもいるのだろうし、
その懸念の背景にある不信を理解できないわけでもなかろうに、
自殺幇助合法化議論では医療における障害者への差別は言わず、
障害者にも自殺幇助を認めろ、と主張するのって……?
【関連エントリー】
Tom Shakespeareが「自殺幇助合法化せよ」(2009/3/15)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 1(2009/7/9)
Campbell/Shakespeare・Drake:障害当事者による自殺幇助論争 2(2009/7/9)
2011.06.13 / Top↑
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