いただきもの情報で、
日本語記事
「姉への移植のために生まれた妹、論争から20年後に米テレビ番組で心境語る。」
上記のビデオのある英文記事。
http://today.msnbc.msn.com/id/43265160
当時のTIME記事。英文。
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,973182,00.html
20年前に米国で
白血病の娘のために、骨髄ドナーを探しまわったけれど見つからなくて、
ドナーになってくれる最後の望みを託して、次の子どもを産む決心をした両親が
そんな理由で子どもを産むことの是非を巡って倫理論争のターゲットになった。
生まれた子どもは「両親の願いが通じて」「完全なマッチだった」ので、
姉への骨髄ドナーとなることができた。
その姉と妹がテレビの番組に出て、
姉は全快した喜びを語り、妹は「姉がいて姉の病気があって自分はここにいる」し、
「人の意見は様々だろうけど、私自身は両親に愛されて、この家の子どもで嬉しい」と。
日本語記事を読み、ビデオを見て
いくつか、ぱぱっと頭に浮かんだことを以下に。
(TIME記事は何年か前に読んだことがあるのですが
今回は最初のページしか読んでいません)
・上記日本語記事でもモデルになったとして触れられているし、
サイトの関連リンクの中に映画「私の中のあなた」の公式サイトが含まれているけれど、
アリッサさんのケースは「病気の姉のために次の子どもを産んだら、
親の願いが通じて完全なマッチだった」というものとして語られており、
このケースは
その過程で体外受精と遺伝子診断技術を用いてデザイナー・ベビーとして作られる"救済者兄弟”とは
「何かに利用する手段として子どもを産むこと」の問題以外の倫理性の点で大きく異なっている。
そこの区別はきちんとしておかなければならないと思う。
・ビデオの最後に医師がちょっと気になる発言をしていて、
1度しか聞いていないので言葉通りではないけれど、
「このケースが広く報じられたことで、骨髄ドナーが増え、
臍帯血の提供も進んだ今では、こういうのはすでに過去の話になったけど」
みたいなことを言っているような。
・実際にこの医師が言う通りなのだとすれば、
体外受精と遺伝子診断技術によって、胚をたくさん作ってそのほとんどを廃棄し、
デザイナー・ベビーとしてわざわざ救済者兄弟を作る必要も、
実はなくなっている、少なくとも減少している、ということなのでは……?
・そうなのだとしたら、本当に倫理問題を重視していくとすれば、
”救済者兄弟”を許容していくよりも、臍帯血や骨髄のドナーを増やしていく方向、
骨髄提供の安全性を向上させる方向に向かうべきなのでは?
・では、なぜ倫理問題があることに目をつぶってまで合法化しなければならないのかといえば、
英国のヒト受精・胚法改正法案の冒頭に書いてあったように
「科学とテクノロジーの国際競争で先端を走り続けるため」であって、
つまりは実験として行われる意味がある……ということ?
・そういうことを全部ふまえて、
今、この姉妹がメディアに露出して、
20年前の論争が「美しい家族の愛と絆の物語」として描き直されることの意味とは……?
【20日追記】
このケースの時代の技術について以下のご教示をいただいたので追記。
確率が23%(約4分の1)というのは、HLAが完全一致する割合なので、
着床前診断(受精卵診断)の中でも(目で見える)染色体ではなく、遺伝子診断が必要。
PCR(遺伝子解析)技術が87年に開発され、着床前診断も90年には報告されているが、
多分、このケースでは、時期的に選択は無理だったと思われる。
羊水穿刺で調べて違えば中絶というやり方も、一応は考えられるが、
さすがにそれは計画していなかったのではないか。
つまり「骨髄移植に必要な”判別”は可能になっていたけど、
胚の”選別”は技術的にまだ可能ではない時代だった」ということ……と私は理解しました。
【救済者兄弟 関連エントリー】
”救済者兄弟”
英国の”救済者兄弟”事情 追加情報
兄弟間の臓器移植 Pentz講演
臓器目的で子ども作って何が悪い、とFost
ヒト受精・胚法に関する英国医師会見解
英国議会、ハイブリッド胚と救済者兄弟を認める
“救済者兄弟”フランスでも2004年に合法化(2009/9/18)
フランス生命倫理における「連帯性」(2009/9/28)
英国で初めて、“救済者兄弟”からの骨髄移植ファンコーニ貧血の姉に(2010/12/22)
【映画関連エントリー】
ピコー「私の中のあなた」、キャメロン・ディアス主演で映画化(2009/6/22)
映画「私の中のあなた」は“空想”でも“未来の話”でもなく、既に現実(2009/9/15)
臓器移植ネットワークが映画「私の中のあなた」とタイアップすることの怪(2009/9/16)
沢木耕太郎氏の「私の中のあなた」レビュー(2009/9/19)
映画「私の中のあなた」を見る前に原作小説を再読(2009/10/8)
映画「私の中のあなた」を見てきました(2009/10/10)
「私の中のあなた」映画と小説のレビューを書きました(2009/12/4)
【この映画を機に考えたこと】
“ドナー神話”とは“母性神話”の再生産ではないのか?(2009/10/17)
「親から子への臓器提供は賞賛する必要もない当たり前の義務」とA事件を擁護したRoss(2009/10/26)
「ドナー神話」関連での頂きもの情報一覧(2009/10/26)
救済者兄弟に関して、ふっと浮かんだ“今さら”の疑問(2009/10/15)
日本語記事
「姉への移植のために生まれた妹、論争から20年後に米テレビ番組で心境語る。」
上記のビデオのある英文記事。
http://today.msnbc.msn.com/id/43265160
当時のTIME記事。英文。
http://www.time.com/time/magazine/article/0,9171,973182,00.html
20年前に米国で
白血病の娘のために、骨髄ドナーを探しまわったけれど見つからなくて、
ドナーになってくれる最後の望みを託して、次の子どもを産む決心をした両親が
そんな理由で子どもを産むことの是非を巡って倫理論争のターゲットになった。
生まれた子どもは「両親の願いが通じて」「完全なマッチだった」ので、
姉への骨髄ドナーとなることができた。
その姉と妹がテレビの番組に出て、
姉は全快した喜びを語り、妹は「姉がいて姉の病気があって自分はここにいる」し、
「人の意見は様々だろうけど、私自身は両親に愛されて、この家の子どもで嬉しい」と。
日本語記事を読み、ビデオを見て
いくつか、ぱぱっと頭に浮かんだことを以下に。
(TIME記事は何年か前に読んだことがあるのですが
今回は最初のページしか読んでいません)
・上記日本語記事でもモデルになったとして触れられているし、
サイトの関連リンクの中に映画「私の中のあなた」の公式サイトが含まれているけれど、
アリッサさんのケースは「病気の姉のために次の子どもを産んだら、
親の願いが通じて完全なマッチだった」というものとして語られており、
このケースは
その過程で体外受精と遺伝子診断技術を用いてデザイナー・ベビーとして作られる"救済者兄弟”とは
「何かに利用する手段として子どもを産むこと」の問題以外の倫理性の点で大きく異なっている。
そこの区別はきちんとしておかなければならないと思う。
・ビデオの最後に医師がちょっと気になる発言をしていて、
1度しか聞いていないので言葉通りではないけれど、
「このケースが広く報じられたことで、骨髄ドナーが増え、
臍帯血の提供も進んだ今では、こういうのはすでに過去の話になったけど」
みたいなことを言っているような。
・実際にこの医師が言う通りなのだとすれば、
体外受精と遺伝子診断技術によって、胚をたくさん作ってそのほとんどを廃棄し、
デザイナー・ベビーとしてわざわざ救済者兄弟を作る必要も、
実はなくなっている、少なくとも減少している、ということなのでは……?
・そうなのだとしたら、本当に倫理問題を重視していくとすれば、
”救済者兄弟”を許容していくよりも、臍帯血や骨髄のドナーを増やしていく方向、
骨髄提供の安全性を向上させる方向に向かうべきなのでは?
・では、なぜ倫理問題があることに目をつぶってまで合法化しなければならないのかといえば、
英国のヒト受精・胚法改正法案の冒頭に書いてあったように
「科学とテクノロジーの国際競争で先端を走り続けるため」であって、
つまりは実験として行われる意味がある……ということ?
・そういうことを全部ふまえて、
今、この姉妹がメディアに露出して、
20年前の論争が「美しい家族の愛と絆の物語」として描き直されることの意味とは……?
【20日追記】
このケースの時代の技術について以下のご教示をいただいたので追記。
確率が23%(約4分の1)というのは、HLAが完全一致する割合なので、
着床前診断(受精卵診断)の中でも(目で見える)染色体ではなく、遺伝子診断が必要。
PCR(遺伝子解析)技術が87年に開発され、着床前診断も90年には報告されているが、
多分、このケースでは、時期的に選択は無理だったと思われる。
羊水穿刺で調べて違えば中絶というやり方も、一応は考えられるが、
さすがにそれは計画していなかったのではないか。
つまり「骨髄移植に必要な”判別”は可能になっていたけど、
胚の”選別”は技術的にまだ可能ではない時代だった」ということ……と私は理解しました。
【救済者兄弟 関連エントリー】
”救済者兄弟”
英国の”救済者兄弟”事情 追加情報
兄弟間の臓器移植 Pentz講演
臓器目的で子ども作って何が悪い、とFost
ヒト受精・胚法に関する英国医師会見解
英国議会、ハイブリッド胚と救済者兄弟を認める
“救済者兄弟”フランスでも2004年に合法化(2009/9/18)
フランス生命倫理における「連帯性」(2009/9/28)
英国で初めて、“救済者兄弟”からの骨髄移植ファンコーニ貧血の姉に(2010/12/22)
【映画関連エントリー】
ピコー「私の中のあなた」、キャメロン・ディアス主演で映画化(2009/6/22)
映画「私の中のあなた」は“空想”でも“未来の話”でもなく、既に現実(2009/9/15)
臓器移植ネットワークが映画「私の中のあなた」とタイアップすることの怪(2009/9/16)
沢木耕太郎氏の「私の中のあなた」レビュー(2009/9/19)
映画「私の中のあなた」を見る前に原作小説を再読(2009/10/8)
映画「私の中のあなた」を見てきました(2009/10/10)
「私の中のあなた」映画と小説のレビューを書きました(2009/12/4)
【この映画を機に考えたこと】
“ドナー神話”とは“母性神話”の再生産ではないのか?(2009/10/17)
「親から子への臓器提供は賞賛する必要もない当たり前の義務」とA事件を擁護したRoss(2009/10/26)
「ドナー神話」関連での頂きもの情報一覧(2009/10/26)
救済者兄弟に関して、ふっと浮かんだ“今さら”の疑問(2009/10/15)
2011.06.21 / Top↑
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