前のBMAの提言エントリーを書いて、
脳死者が減って脳死者からの臓器提供(DBD)件数が減少している都の下りで、「あれだ!」と
お正月にある方にいただいたままになっている情報を思い出したので。
Transplantation誌の2011年6月号に
オランダの医師3人が書いた論文。
“Is Organ Donation From Brain Dead Donors Reaching an Inescapable and Desirable Nadir?”
Erwin J.O.Kompanije, Yorick J. deGroot, and Jan Bakker
Transplantation 2011;91:1177-1180
アブストラクトは
The brain dead patient is the ideal multiorgan donor. Conversely, brain death (BD) is an undesirable outcome of critical care medicine. Conditions that can lead to the state of BD are limited. An analysis showed that a (aneurismal) subarachnoid hemorrhage, traumatic brain injury, or intracerebral hemorrhage in 83% precede the state of BD. Because of better prevention and treatment options, we should anticipate on an inescapable decline of BD. In this article, we offer arguments for this statement and discuss alternatives to maintain a necessary level of donor organs for transplantation.
脳死(BD)患者は理想的な多臓器ドナーであるが、救急医療の側から見れば望ましくないアウトカムでもある。もともとBDに至る病状も動脈瘤破裂、頭部外傷、脳内出血で83%と限られている上に、最近では予防や治療内容が改善されていることから、今後BDの減少は避けられない。そこで、この論文において、必要レベルのドナー臓器を確保するためのBDに代わる選択肢について論じる。
ただ、この論文が何らかの具体的な方策を提言しているというわけではなく、
論文は、DBDが減少してきた現状と、
予防と治療の改善によりさらに減少する見込みをデータにより解説し、
「現在のところ、心臓提供は“死亡提供者ルール”を尊重すれば、
脳死者からのみ可能である」と述べた後で
その解決策としてこれまでに提案されてきたラディカルな方法について概観する。
まず紹介されるのは
新生児、乳児からの心停止から2分以外のDCD提供など
(デンバー子ども病院の「75秒プロトコル」も含まれていると思われます)
米国での乳児からの心臓提供の報告はあるが、
「これらの実践には倫理的にも概念的も深刻な疑問がある」と書き、
さらにWilkinson とSavulescuは
「神経安楽死neuro-euthanasia」と心臓摘出による「臓器提供安楽死」という
「極端な解決策」を提案したが、多くの批判を浴びた、と書いて、
もう1つの難問としては家族の拒否率の高さを挙げて、
これはコミュニケーション・スキルを磨くことが有効だ、と。
心臓以外についてはDCDと生体肝移植をさらに進めるべく研究すべきだが、
生体ドナーへのインセンティブを高める様々な方策の提言には
WHOからも臓器・人体売買や貧困層、弱者への搾取の警告が出ている、とも。
で、著者らがこの論文で具体的に提案しているのは
生体ドナーからの腎臓と肝臓の提供を増やすために
地域限定でのキャンペーン、患者による啓発活動、ドナーの追跡調査など。
結論は、
移植医療界はBDに至る病気の予防と治療の改善によってBD患者が減少することを念頭に置いておかなければならない。この減少そのものは望ましく、また避けがたいものである。それにつれて移植可能な心臓数も減少するが、死亡者提供ルールを侵害せずに対処できる選択肢は存在しない。肺、腎臓、肝臓については、改善の余地がまだある。当面、ドナーとなる可能性がある人をタイムリーに特定する方法を改善し、生体提供の障壁を取り除く努力を払いつつ、道徳や倫理の境界線の引き直しを迫るような難しい選択肢については、その間に時間をかけてさらに検討してはどうか。
脳死者の発生が減り、脳死者からの臓器の減少が不可避となれば、
なるほど昨日のエントリーで拾ったBMAの提言のような
倫理も道徳も、実際にはセーフガードもどうでもいいから、とにかく臓器を、
と言わんばかりの“臓器不足”解消に向けた規制緩和が叫ばれていくのでしょう。
英国に限らず、どこの国でも――。
――――――
神経安楽死 neuro-euthanasiaについては、うっかりしていたので
SavulescuとWilkinsonの論文に当たってみました。
(全文が読めるようになっています。こちらから)
なんと、
生命維持装置依存の患者からの臓器提供数とクオリティ向上策として
提案されている選択肢7つのうちの4番目がこれでした。
前に読んだ時には臓器提供安楽死が頭にかみついていたので
この辺りは全然ピンと来ていなかったのだろうと思います。
以下のように書かれています。
Option 4 – Neuro-Euthanasia followed by organ donation: Euthanasia by occlusion of blood vessels to the brain. Removal of organs after brain death certified.
脳への血流を疎外する方法で安楽死させるとは、
人為的に脳死にさせる、ということ、ですね。
「臓器提供を前提に人為的に脳死状態に陥らせたうえで
臓器を摘出する安楽死」ではないか、というspitzibaraの推理は当たってしまいました。
ぐぇぇ。
もう1つ、この論文で目を引かれたのは
オランダの著者による論文であることと、
文中で臓器確保率の高い優秀な国としてベルギーとスペインが挙げられていること。
オランダとベルギーは共に安楽死の先進国。
特にベルギーでは
「安楽死後臓器提供」がすでに実施されたことが報告されています。
「臓器提供安楽死」「安楽死後臓器提供」を含め、その他
これまでに提案されてきて“臓器不足”解消案についても、こちらに ↓
これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
また、スペインの安楽死については私は詳しくないけど、
動物の権利については奇妙にトランスヒューマニスティックな文化が気になる国。
チンパンジーに法的権利認める(スペイン)(2008/9/3)
脳死者が減って脳死者からの臓器提供(DBD)件数が減少している都の下りで、「あれだ!」と
お正月にある方にいただいたままになっている情報を思い出したので。
Transplantation誌の2011年6月号に
オランダの医師3人が書いた論文。
“Is Organ Donation From Brain Dead Donors Reaching an Inescapable and Desirable Nadir?”
Erwin J.O.Kompanije, Yorick J. deGroot, and Jan Bakker
Transplantation 2011;91:1177-1180
アブストラクトは
The brain dead patient is the ideal multiorgan donor. Conversely, brain death (BD) is an undesirable outcome of critical care medicine. Conditions that can lead to the state of BD are limited. An analysis showed that a (aneurismal) subarachnoid hemorrhage, traumatic brain injury, or intracerebral hemorrhage in 83% precede the state of BD. Because of better prevention and treatment options, we should anticipate on an inescapable decline of BD. In this article, we offer arguments for this statement and discuss alternatives to maintain a necessary level of donor organs for transplantation.
脳死(BD)患者は理想的な多臓器ドナーであるが、救急医療の側から見れば望ましくないアウトカムでもある。もともとBDに至る病状も動脈瘤破裂、頭部外傷、脳内出血で83%と限られている上に、最近では予防や治療内容が改善されていることから、今後BDの減少は避けられない。そこで、この論文において、必要レベルのドナー臓器を確保するためのBDに代わる選択肢について論じる。
ただ、この論文が何らかの具体的な方策を提言しているというわけではなく、
論文は、DBDが減少してきた現状と、
予防と治療の改善によりさらに減少する見込みをデータにより解説し、
「現在のところ、心臓提供は“死亡提供者ルール”を尊重すれば、
脳死者からのみ可能である」と述べた後で
その解決策としてこれまでに提案されてきたラディカルな方法について概観する。
まず紹介されるのは
新生児、乳児からの心停止から2分以外のDCD提供など
(デンバー子ども病院の「75秒プロトコル」も含まれていると思われます)
米国での乳児からの心臓提供の報告はあるが、
「これらの実践には倫理的にも概念的も深刻な疑問がある」と書き、
さらにWilkinson とSavulescuは
「神経安楽死neuro-euthanasia」と心臓摘出による「臓器提供安楽死」という
「極端な解決策」を提案したが、多くの批判を浴びた、と書いて、
もう1つの難問としては家族の拒否率の高さを挙げて、
これはコミュニケーション・スキルを磨くことが有効だ、と。
心臓以外についてはDCDと生体肝移植をさらに進めるべく研究すべきだが、
生体ドナーへのインセンティブを高める様々な方策の提言には
WHOからも臓器・人体売買や貧困層、弱者への搾取の警告が出ている、とも。
で、著者らがこの論文で具体的に提案しているのは
生体ドナーからの腎臓と肝臓の提供を増やすために
地域限定でのキャンペーン、患者による啓発活動、ドナーの追跡調査など。
結論は、
移植医療界はBDに至る病気の予防と治療の改善によってBD患者が減少することを念頭に置いておかなければならない。この減少そのものは望ましく、また避けがたいものである。それにつれて移植可能な心臓数も減少するが、死亡者提供ルールを侵害せずに対処できる選択肢は存在しない。肺、腎臓、肝臓については、改善の余地がまだある。当面、ドナーとなる可能性がある人をタイムリーに特定する方法を改善し、生体提供の障壁を取り除く努力を払いつつ、道徳や倫理の境界線の引き直しを迫るような難しい選択肢については、その間に時間をかけてさらに検討してはどうか。
脳死者の発生が減り、脳死者からの臓器の減少が不可避となれば、
なるほど昨日のエントリーで拾ったBMAの提言のような
倫理も道徳も、実際にはセーフガードもどうでもいいから、とにかく臓器を、
と言わんばかりの“臓器不足”解消に向けた規制緩和が叫ばれていくのでしょう。
英国に限らず、どこの国でも――。
――――――
神経安楽死 neuro-euthanasiaについては、うっかりしていたので
SavulescuとWilkinsonの論文に当たってみました。
(全文が読めるようになっています。こちらから)
なんと、
生命維持装置依存の患者からの臓器提供数とクオリティ向上策として
提案されている選択肢7つのうちの4番目がこれでした。
前に読んだ時には臓器提供安楽死が頭にかみついていたので
この辺りは全然ピンと来ていなかったのだろうと思います。
以下のように書かれています。
Option 4 – Neuro-Euthanasia followed by organ donation: Euthanasia by occlusion of blood vessels to the brain. Removal of organs after brain death certified.
脳への血流を疎外する方法で安楽死させるとは、
人為的に脳死にさせる、ということ、ですね。
「臓器提供を前提に人為的に脳死状態に陥らせたうえで
臓器を摘出する安楽死」ではないか、というspitzibaraの推理は当たってしまいました。
ぐぇぇ。
もう1つ、この論文で目を引かれたのは
オランダの著者による論文であることと、
文中で臓器確保率の高い優秀な国としてベルギーとスペインが挙げられていること。
オランダとベルギーは共に安楽死の先進国。
特にベルギーでは
「安楽死後臓器提供」がすでに実施されたことが報告されています。
「臓器提供安楽死」「安楽死後臓器提供」を含め、その他
これまでに提案されてきて“臓器不足”解消案についても、こちらに ↓
これまでの臓器移植関連エントリーのまとめ(2011/11/1)
また、スペインの安楽死については私は詳しくないけど、
動物の権利については奇妙にトランスヒューマニスティックな文化が気になる国。
チンパンジーに法的権利認める(スペイン)(2008/9/3)
2012.02.14 / Top↑
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