今年1月の以下のエントリーを書いた時点では
作成中だったNICEのガイドラインが発表となり、
1月に報道された通り、乳がんのリスクが高い女性に
2種類の予防薬を5年間、NHSはオファーするように、と。
乳がん発症リスクの高い女性50万人に予防薬を(英国)(2013/1/16)
記事では、
アンジェリーナ・ジョリーのように予防的乳房切除に踏み切れない女性や
ジョリーほどにリスクが大きくない女性にも、
これで薬物予防治療という新たな選択肢ができる、と書かれている。
タモキシフェン と ラロキシフェンは共に抗エストロゲン剤
前者は既に乳がんになった患者の再発を抑える薬として、
後者は更年期後の女性の骨粗鬆症予防薬として使われているもの。
これらは乳がんリスクを30%から40%下げることが研究により分かっているが
乳がんの予防薬として米国では認可されているが英国では未認可。
NICEのガイドラインは
乳がんの発症率が 3/10 の全女性にオファーすべきであり、
発症率が 1/6 の女性にも検討すべきだ、と。
英国では毎年5万人の女性と400人の男性が乳がんを診断されており、
そのうち5人に1人が家族に乳がん、子宮癌、前立腺がんの病歴がある。
また、これら2剤を予防薬として使うと、
Tamoxifenで年間25ポンド、raloxifeneではもう少し高くつくものの、
乳がん患者の治療にかかる費用を考えれば、コスト・パフォーマンスが良い。
副作用として記事に書かれているのは、
エストロゲンをブロックすることからくる更年期症状で、
のぼせ、寝汗、気分の不安定、吐き気と体重増加。
そう書かれている一方で、
更年期とそれ以降の女性では、特に太ると、
脂肪からエストロゲンが生成されるために乳がんリスクが上昇する、と。
(でも、これらの薬の副作用の中に「太る」がある、という皮肉。
アシュリー療法でもエストロゲンの大量投与で身長を抑制するという発想そのものに
カナダのSobsey氏が「体重増加」の副作用があることの矛盾を指摘していたけど)
それから記事の最後に、ほんの2行、こう書かれている。
「しかしながら、乳がんリスクを下げる他の選択肢もある。」
それは薬に頼らない方法。体重を落とし、運動すること」
あ、それから
ガイドラインは50歳以下の女性に毎年MRIを受けるように推奨も。
Breast cancer: women at risk should be given daily pill, say NHS guidelines
Guardian, June 25, 2013
コスト・パフォーマンスがよいと言われても、
そこでは副作用が出た人への治療コストって、計算外にされていると思うし、
冒頭の1月のエントリーに縁さんから頂いたコメントによると、
実際にタモキシフェンを飲まれた体験から「副作用はきつい」とのこと。
上記にリンクしたウィキぺデイアによると
タモキシフェンの副作用は
無月経、月経異常、悪心・嘔吐、食欲不振等、ほてりや発汗、肺塞栓。
ラロキシフェンの副作用は、
乳房の張り、ほてり、吐き気(2~3ヶ月で身体が慣れると軽快)。
滅多にないが重いものとして、血栓症塞栓症のほか、
膣の分泌物、多汗、足のけいれん、体重増加、吐き気、食欲不振、皮膚のかゆみ。
そんな薬を5年間も飲むことの、女性の体への負担について
十分に慎重に検討されたんだろうか。
女性の身体に多少の負担があったとしても
ガンになってからの治療コストに比べれば
予防効果のコスト削減効率の方が良いから、というのでは、
それはちょっと違う話なんでは……と考えてしまう。
この記事が書いているように
まずアンジェリーナ・ジョリーのような予防的乳房切除という選択肢がありますよ、
でも、そこまでできないという人にだって、こちらの薬物予防法がありますよ、
というふうに話を持っていかれると、
予防できる方法があるなら予防するのが当たり前という前提がそこにはあって、
その上で、Aの予防法をとるかBの予防法をとるか、
あなたに最適な予防法はどちらから遺伝診断とカウンセリングで、
という話にいずれなっていきそうな気がする。
(そしてそこにはもちろん
マーケット創出のポテンシャルが沢山ある)
でも、そうすると
それは他の選択肢が予め排除された2者択一の話となり、
その排除が女性の側からはとても見えにくくなってしまって、
どちらかを選ばなければと感じさせられるだろうし、
「どちらも選ばない」とか、
「AでもBでもない予防法を検討する」とか
「予防そのものを考えない」という選択肢だってあることに
気付けなくなってしまう……なんてことはないのかなぁ。
そして、そういう「できる予防はするのが当たり前」文化が拡がってしまった時には
予防できる方法があるのに、どちらもせずに乳がんになってしまった人は
「自己責任を果たさず、社会に対して不当な医療コストを背負わせる厚かましい人」と
みなされ始める……いうことにならないのかな。
……そこで、なんとなく、いっそ懐かしいほどの気分で思い出すのは、
この論文の著者の一人、名郷直樹医師の9日の以下の2つのツイート。
一番健康なのは、健康に気を付ける暇がないことかな。あるいは暇でも健康に関心がないとか。
体にいいことだけで生きられる人はいないと思う。そんなことができるのは死んでる人だけ。
そういえば09年に、こんなオモロイ記事もあった ↓
「やれ何が癌の原因だ、やれ予防にはどうしろ、こうしろって、ウザい」と英国人(2009/5/26)
作成中だったNICEのガイドラインが発表となり、
1月に報道された通り、乳がんのリスクが高い女性に
2種類の予防薬を5年間、NHSはオファーするように、と。
乳がん発症リスクの高い女性50万人に予防薬を(英国)(2013/1/16)
記事では、
アンジェリーナ・ジョリーのように予防的乳房切除に踏み切れない女性や
ジョリーほどにリスクが大きくない女性にも、
これで薬物予防治療という新たな選択肢ができる、と書かれている。
タモキシフェン と ラロキシフェンは共に抗エストロゲン剤
前者は既に乳がんになった患者の再発を抑える薬として、
後者は更年期後の女性の骨粗鬆症予防薬として使われているもの。
これらは乳がんリスクを30%から40%下げることが研究により分かっているが
乳がんの予防薬として米国では認可されているが英国では未認可。
NICEのガイドラインは
乳がんの発症率が 3/10 の全女性にオファーすべきであり、
発症率が 1/6 の女性にも検討すべきだ、と。
英国では毎年5万人の女性と400人の男性が乳がんを診断されており、
そのうち5人に1人が家族に乳がん、子宮癌、前立腺がんの病歴がある。
また、これら2剤を予防薬として使うと、
Tamoxifenで年間25ポンド、raloxifeneではもう少し高くつくものの、
乳がん患者の治療にかかる費用を考えれば、コスト・パフォーマンスが良い。
副作用として記事に書かれているのは、
エストロゲンをブロックすることからくる更年期症状で、
のぼせ、寝汗、気分の不安定、吐き気と体重増加。
そう書かれている一方で、
更年期とそれ以降の女性では、特に太ると、
脂肪からエストロゲンが生成されるために乳がんリスクが上昇する、と。
(でも、これらの薬の副作用の中に「太る」がある、という皮肉。
アシュリー療法でもエストロゲンの大量投与で身長を抑制するという発想そのものに
カナダのSobsey氏が「体重増加」の副作用があることの矛盾を指摘していたけど)
それから記事の最後に、ほんの2行、こう書かれている。
「しかしながら、乳がんリスクを下げる他の選択肢もある。」
それは薬に頼らない方法。体重を落とし、運動すること」
あ、それから
ガイドラインは50歳以下の女性に毎年MRIを受けるように推奨も。
Breast cancer: women at risk should be given daily pill, say NHS guidelines
Guardian, June 25, 2013
コスト・パフォーマンスがよいと言われても、
そこでは副作用が出た人への治療コストって、計算外にされていると思うし、
冒頭の1月のエントリーに縁さんから頂いたコメントによると、
実際にタモキシフェンを飲まれた体験から「副作用はきつい」とのこと。
上記にリンクしたウィキぺデイアによると
タモキシフェンの副作用は
無月経、月経異常、悪心・嘔吐、食欲不振等、ほてりや発汗、肺塞栓。
ラロキシフェンの副作用は、
乳房の張り、ほてり、吐き気(2~3ヶ月で身体が慣れると軽快)。
滅多にないが重いものとして、血栓症塞栓症のほか、
膣の分泌物、多汗、足のけいれん、体重増加、吐き気、食欲不振、皮膚のかゆみ。
そんな薬を5年間も飲むことの、女性の体への負担について
十分に慎重に検討されたんだろうか。
女性の身体に多少の負担があったとしても
ガンになってからの治療コストに比べれば
予防効果のコスト削減効率の方が良いから、というのでは、
それはちょっと違う話なんでは……と考えてしまう。
この記事が書いているように
まずアンジェリーナ・ジョリーのような予防的乳房切除という選択肢がありますよ、
でも、そこまでできないという人にだって、こちらの薬物予防法がありますよ、
というふうに話を持っていかれると、
予防できる方法があるなら予防するのが当たり前という前提がそこにはあって、
その上で、Aの予防法をとるかBの予防法をとるか、
あなたに最適な予防法はどちらから遺伝診断とカウンセリングで、
という話にいずれなっていきそうな気がする。
(そしてそこにはもちろん
マーケット創出のポテンシャルが沢山ある)
でも、そうすると
それは他の選択肢が予め排除された2者択一の話となり、
その排除が女性の側からはとても見えにくくなってしまって、
どちらかを選ばなければと感じさせられるだろうし、
「どちらも選ばない」とか、
「AでもBでもない予防法を検討する」とか
「予防そのものを考えない」という選択肢だってあることに
気付けなくなってしまう……なんてことはないのかなぁ。
そして、そういう「できる予防はするのが当たり前」文化が拡がってしまった時には
予防できる方法があるのに、どちらもせずに乳がんになってしまった人は
「自己責任を果たさず、社会に対して不当な医療コストを背負わせる厚かましい人」と
みなされ始める……いうことにならないのかな。
……そこで、なんとなく、いっそ懐かしいほどの気分で思い出すのは、
この論文の著者の一人、名郷直樹医師の9日の以下の2つのツイート。
一番健康なのは、健康に気を付ける暇がないことかな。あるいは暇でも健康に関心がないとか。
体にいいことだけで生きられる人はいないと思う。そんなことができるのは死んでる人だけ。
そういえば09年に、こんなオモロイ記事もあった ↓
「やれ何が癌の原因だ、やれ予防にはどうしろ、こうしろって、ウザい」と英国人(2009/5/26)
2013.07.01 / Top↑
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