Warren Buffettの息子のPeter Buffettが
NYTのOp-Edで慈善資本主義に疑問を投げかけている。
論考のタイトルは「the Charitable-Industrial Complex 慈善家・産業複合体」
タイトルの同意語を本文中から探してくると、
Philanthropic Colonialism. 慈善植民地主義。
著者は作曲家。
2006年に父親のバフェット氏が自分の富を社会に還元するとして
3つの財団に私財を分けて子どもたち一人一人に運営にあたらせたことから
慈善に関わるようになったという。
そして間もなく
これはPhilanthropic Colonialismだと疑問を感じるようになる。
特定の地域について何の知識も持ち合わせない彼自身を含めた人々が
ある地域で有効だったというだけで、ある問題解決法を、
文化にも地理にも社会にも疎いまま別の地域に持ち込もうとする。
その結果、
例えば、売春地域でエイズの蔓延を防ごうとコンドームを配布して
結局は無規制のセックスの値段を吊り上げてしまうなど、
却って想定外の悪影響をその地域に及ぼすことになる。
しかし、彼が懸念しているのはそこにとどまらず、
富の不均衡に伴って民間の非営利セクターが急成長した結果、
慈善それ自体が、
富の不均衡への罪悪感を覆い隠す「良心ロンダリング」システムであると当時に、
富を偏在させ多くの人々の生活や地域を破壊させてきた現行システムを
維持するための仕掛けとなっていること。
さらに非営利セクターの拡大でビジネス原理が慈善に持ち込まれ、
これらの会議では「投資収益率」が云々され、その説明責任が問われたりしている。
しかしマイクロ・ファイナンスや金融リテラシーを途上国に持ち込んでも、
それは格差を広げている大元を利するだけなのでは?
清潔な水や医療アクセスや自由市場、教育、安全な居住環境などが
途上国にありさえすれば、と嘆く声をよく聞くが、
慈善の介入でそれらが解決できるわけはなく、
Money should be spent trying out concepts that shatter current structures and systems that have turned much of the world into one vast market. Is progress really Wi-Fi on every street corner? No. It’s when no 13-year-old girl on the planet gets sold for sex. But as long as most folks are patting themselves on the back for charitable acts, we’ve got a perpetual poverty machine.
It’s an old story; we really need a new one.
世界を巨大市場にしてしまった
現行の構造と制度を破壊する概念を試すためにこそ、カネを使うべきである。
どこの街角にもWi-Fiが整備されることが本当に進歩なのだろうか。
そうではなく、
13歳の少女が一人としてセックスのために売買されることがなくなった時に
それが進歩といえるのだ。
人々が慈善行為を互いに讃えあっている限り、
それは貧困を永続化させる装置にすぎない。
それは、これまでも繰り返し行われてきたこと。
我々はやり方をかえなければならない。
the Charitable-Industrial Complex
Peter Buffett,
NYT, July 26, 2013
とても興味深いことに、
Julian Savulescuが中心になってやっているOxford大学の
実践倫理学ブログ、Practical Ethicsがこの論考を取り上げて反論している。
(著者はSavulescuではなくて Will Crouchまたの名をMacAskillという人物)
Does philanthropy propagate an unjust system?
PRACTICAL ETHICS, August 1, 2013
What Warren Buffett’s son doesn’t understand about the world
William MacAskill,
Quarts, August 1, 2013
CrouchはPeter Buffetの論考の趣旨を
「つまり、新たなメガ慈善家たちは片方の手で与えてもう一方の手で奪っている」と
独自の言葉で要約したうえで、
そういうことも言えるだろうけれど、
すべてがそうだというわけではないだろう、
「例えばビル・ゲイツがいるじゃないか」という。
ゲイツ財団はワクチンを提供し、結核やHIV治療研究に資金を投じて
500万人の命を救ったといわれている。その金をビル・ゲイツは
ソフトウエアを作って売ることで得たんじゃないか、と書いて、
Peter Buffetのいうことは
経済についても世界の現実についてもわかっていない青二才の
具体的なエビデンスに何ら基づかない漠然とした批判にすぎない、と
突っぱねている。
でも、
ビル・ゲイツが慈善に使っている資金は
彼の個人的な投資会社Cascadeを通して投資で得たカネだし、
その金が投資されている先は
彼の慈善で潤うビッグ・ファーマだったりもする……んでは?
【関連エントリー】
慈善資本主義に新たなネーミング、「人道帝国主義」:インドのポリオ“撲滅”のウラ側(2013/6/11)
慈善資本主義の“マッチポンプ”なカラクリ(2013/6/11)
NYTのOp-Edで慈善資本主義に疑問を投げかけている。
論考のタイトルは「the Charitable-Industrial Complex 慈善家・産業複合体」
タイトルの同意語を本文中から探してくると、
Philanthropic Colonialism. 慈善植民地主義。
著者は作曲家。
2006年に父親のバフェット氏が自分の富を社会に還元するとして
3つの財団に私財を分けて子どもたち一人一人に運営にあたらせたことから
慈善に関わるようになったという。
そして間もなく
これはPhilanthropic Colonialismだと疑問を感じるようになる。
特定の地域について何の知識も持ち合わせない彼自身を含めた人々が
ある地域で有効だったというだけで、ある問題解決法を、
文化にも地理にも社会にも疎いまま別の地域に持ち込もうとする。
その結果、
例えば、売春地域でエイズの蔓延を防ごうとコンドームを配布して
結局は無規制のセックスの値段を吊り上げてしまうなど、
却って想定外の悪影響をその地域に及ぼすことになる。
しかし、彼が懸念しているのはそこにとどまらず、
富の不均衡に伴って民間の非営利セクターが急成長した結果、
慈善それ自体が、
富の不均衡への罪悪感を覆い隠す「良心ロンダリング」システムであると当時に、
富を偏在させ多くの人々の生活や地域を破壊させてきた現行システムを
維持するための仕掛けとなっていること。
さらに非営利セクターの拡大でビジネス原理が慈善に持ち込まれ、
これらの会議では「投資収益率」が云々され、その説明責任が問われたりしている。
しかしマイクロ・ファイナンスや金融リテラシーを途上国に持ち込んでも、
それは格差を広げている大元を利するだけなのでは?
清潔な水や医療アクセスや自由市場、教育、安全な居住環境などが
途上国にありさえすれば、と嘆く声をよく聞くが、
慈善の介入でそれらが解決できるわけはなく、
Money should be spent trying out concepts that shatter current structures and systems that have turned much of the world into one vast market. Is progress really Wi-Fi on every street corner? No. It’s when no 13-year-old girl on the planet gets sold for sex. But as long as most folks are patting themselves on the back for charitable acts, we’ve got a perpetual poverty machine.
It’s an old story; we really need a new one.
世界を巨大市場にしてしまった
現行の構造と制度を破壊する概念を試すためにこそ、カネを使うべきである。
どこの街角にもWi-Fiが整備されることが本当に進歩なのだろうか。
そうではなく、
13歳の少女が一人としてセックスのために売買されることがなくなった時に
それが進歩といえるのだ。
人々が慈善行為を互いに讃えあっている限り、
それは貧困を永続化させる装置にすぎない。
それは、これまでも繰り返し行われてきたこと。
我々はやり方をかえなければならない。
the Charitable-Industrial Complex
Peter Buffett,
NYT, July 26, 2013
とても興味深いことに、
Julian Savulescuが中心になってやっているOxford大学の
実践倫理学ブログ、Practical Ethicsがこの論考を取り上げて反論している。
(著者はSavulescuではなくて Will Crouchまたの名をMacAskillという人物)
Does philanthropy propagate an unjust system?
PRACTICAL ETHICS, August 1, 2013
What Warren Buffett’s son doesn’t understand about the world
William MacAskill,
Quarts, August 1, 2013
CrouchはPeter Buffetの論考の趣旨を
「つまり、新たなメガ慈善家たちは片方の手で与えてもう一方の手で奪っている」と
独自の言葉で要約したうえで、
そういうことも言えるだろうけれど、
すべてがそうだというわけではないだろう、
「例えばビル・ゲイツがいるじゃないか」という。
ゲイツ財団はワクチンを提供し、結核やHIV治療研究に資金を投じて
500万人の命を救ったといわれている。その金をビル・ゲイツは
ソフトウエアを作って売ることで得たんじゃないか、と書いて、
Peter Buffetのいうことは
経済についても世界の現実についてもわかっていない青二才の
具体的なエビデンスに何ら基づかない漠然とした批判にすぎない、と
突っぱねている。
でも、
ビル・ゲイツが慈善に使っている資金は
彼の個人的な投資会社Cascadeを通して投資で得たカネだし、
その金が投資されている先は
彼の慈善で潤うビッグ・ファーマだったりもする……んでは?
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2013.08.05 / Top↑
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