2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
昨日、参議院で臓器移植法改正審議が始まったというニュースの中で
A案提出者の方が「各国と同じように移植ができるように」といわれるのを聞いて
前と同じように「じゃぁ、米国の医療で起こっている恐ろしい諸々を
まず、きちんと報告したらどうなんですか」とムカついていたところ、

今朝の朝日新聞に大阪府立大の森岡正博氏が書いてくださっていた。
(森岡先生、本当にありがとうございます)

臓器移植法A案可決 先進国に見る荒涼
森岡正博
朝日新聞 2009年6月27日朝刊


米国で、救急搬送されてきた障害者に救命よりも臓器摘出を優先させたNavarro事件が起こったり
停止から75秒しか待たずに心臓を摘出する子ども病院があったり、
カナダで、重症障害新生児から臓器提供を前提に呼吸器が外されたKaylee事件が起こったり、

というニュースに触れるたびに、脳死者からだけではなく、
臓器提供を前提に心臓死を起こさせることが事実上認められているとしか思えない状況に、
その法的根拠がなんなのか、ということに疑問を感じてきましたが、

森岡先生の記事によると、昨年12月に
米国大統領生命倫理評議会が「死の決定をめぐる論争」というレポートを大統領に答申。

報告書は脳死概念が揺らいでいることを認めたうえで人工的心停止後移植に注目している、と。

これは、まさに
当ブログでも何度か取り上げてきたTroug、Veatch、Fostらの
「どうせ脳死者は死んでいないことは皆わかっているんだから、いっそ
本人さえ事前にその意思表示をしてさえいれば
生きている人からでも臓器を摘出していいことにしよう」という主張。
(詳細は文末にリンク)

森岡氏は
「本人あるいは家族の希望に基づいて」人工呼吸器を取り外し、
心停止から2~5分待った上で待機していた移植チームが臓器を摘出する、
この方法が92年に確立して「ピッツバーグ方式」と呼ばれており、
2007年に793例も実施されたと書いている。

その「ピッツバーグ方式」の実施が可となる法的根拠というのが
私には、まだよく分からなくて、

それはもしかしたら医療についての判断は州が行うことになっていることと
関係しているのかもしれないのだけど、

なんとなく米国の医療というのは
法規制よりも既成事実が先行しているような気がしてならない。

(で、病院内倫理委がその正当化の装置としての役割を担っていくような嫌な予感がする)

だってね、大統領生命倫理評議会の答申では
「脳に重大な損傷があるが、まだ若干の脳機能が残っている者」の人工的心臓停止後摘出が前提だし
例えば去年3月にRobert VeatchがBoston Globeで言っていたのも
「永続的植物状態になった場合には死亡宣告してもらうか
脳の機能を部分的に残したまま意識がない状態を延々と続けるかを選べるようにして、
死亡宣告で臓器提供を可能としよう」という話だというのに、

現実に医療現場で早々と起こっているのは
NavarroやKayleeのような重症障害児・者を「臓器提供のために死なせる」という行為。
(Kaylee事件はカナダですが、こういうケースで家族と病院側に対立がなければ
事例そのものが表に出ないことを考えると、報道は氷山の一角だと思う)

議論されている対象者像と、実際に臓器目的で死なされている人の障害像は
実は大きくズレて、現実の対象者の線引きがずいぶん前倒しされている。

ちょうど英米でターミナルで耐えがたい痛みがある人の自殺幇助合法化が議論される一方で
実際には重い身体障害を負った23歳の若者の自殺幇助や
視力低下を苦にする高齢者の自殺幇助まで行われていて
それを許容する議論と空気がじわじわと広がっているのと同じように。

それから、森岡氏は
人工的心臓死後臓器移植が安楽死や尊厳死と繋がることの懸念を挙げておられて、

特に英米で自殺幇助合法化への動きが急加速していることも含めて
本当に、その懸念はつくづく大きいのだ、と私も思う。

しかも米国では、そこに「無益な治療法」が噛んでくるのも怖い。

現在、少なくとも3州で成立している「無益な治療法」が広がっていけば
治療中止の決定権は病院にあるのだから
VeatchやFostが言っている事前の本人の意思表示など
あってもなくても同じことになってしまう。


米国の医療では、こういう諸々が起こっていて、
臓器移植でも自殺幇助合法化でも無益な治療でも生殖補助医療でも「すべり坂」だらけ。

脳死と植物状態の線引きも、植物状態と重症の認知障害との線引きも、
重症の認知障害と重症の身体障害との線引きも、なにもかもあやふやな議論が平気で横行している。


A案提出者のいう「各国と同じように臓器移植ができるように」が
もしも米国の医療をスタンダードにしているのであれば、
こういう現状をきちんと明らかにすることが先ではないのか、と、やっぱり思う。

まさかA案提出に関わった移植医療の専門医が「ピッツバーグ方式」を知らないはずも
「死亡提供者ルール」廃止論を知らないはずもないのだから。



【死亡提供者ルール廃止の主張に関連するエントリー】
脳死の次は植物状態死?(2007/9/10)
臓器移植で「死亡提供者ルール」廃止せよと(2008/3/11)
「脳死」概念は医学的には誤りだとNorman Fost(2009/6/8)
2009.06.27 / Top↑
Secret

TrackBackURL
→http://spitzibara.blog.2nt.com/tb.php/582-d7a362da