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子どもに抗ウツ薬を飲ませると自殺年慮や企図のリスクがあると、
2005年にFDAが最も厳しい警告(ブラックボックス)を出したというのは、
ちょうど昨日のエントリーで読んだ記事にも出てきていた話だったので、
ああ、あれね、と思いつつ読んでみたのだけれど、

なんだか、ちょっと不可解な話。

その警告は2007年5月にはヤングアダルト(ここでは18-24歳)にまで
対象が拡大されたとのこと。

警告には2005年当初から精神科医らの間から
「そんなことをしたら有効な治療まで行われなくなる」と批判が出ていたといいます。

このたび、おそらくは、そういう立場と思われる研究者の報告で、

1999年から2007年までのデータを調べたところ、
それまで着実に増加していたウツ病の診断数が子どもとティーンでは2004年を境に激減。

特にプライマリー・ケアのドクターによる診断数が
子どもやヤングアダルトだけでなく、警告の対象よりも上の年齢層でまで減っていた。

不思議なのは、前に使っていた抗ウツ薬の処方に切り替えたわけでもなく
また薬物療法以外の認知行動療法をやらせる方向に向かったわけでもなく、
警告が出たら、診断そのものをしなくなった、ということ。

「その理由は分からない。ただ警告が医師らの行動を変容させたことは確か」と主任研究者。

「患者が治療を求めなくなったのか、
いい治療法がないと感じる医師らが診断をためらうからでは」とも。

「自殺しそうな子どもの親から助けを求められても
精神科医、特に児童精神科医がいないことに地域の医師らは困っている」と論文は書いて、

記事の書き方からすると、
論文の趣旨はFDAに警告の見直しを求めているらしい。



もちろん、その理由を明らかにするためには、
もっと調査が必要ということになるのだろうけれど、

児童精神科医の不足は、この際、警告で診断が減ったこととは別問題なのだから、
専門医を増やせとか、プライマリ・ケアの医師に研修をしろというなら、ともかく、
それを持ち出して、だからプライマリー・ケアの医師がもっと、うつ病を診断するように
警告を見直せという話にはならないでしょう

第一、このデータが示しているのは診断が減ったという事実だけで、
それによる弊害(例えば、診断の激減が直接的に自殺の増加を引き起こしているとか)まで
証明されたわけではないのだから

FDAの見直しが必要とするにはエビデンスが不足しているのでは?

また、
FDAが警告したから患者が治療を受けようとしなくなったとか
FDAが警告して治療のすべを奪われた医師が診断しても……と考えた……という解釈には
ちょっと無理があるのではないでしょうか。

それこそ警告以前に使われていた薬を使うことも
薬物療法以外の治療を試みることだって、考えられないことはないわけだし。
(マネッジド・ケアのデータを使っているので、そのあたりには
日本とはまた違う事情はあるかもしれませんが)

抗ウツ薬を巡る研究者と製薬会社の癒着スキャンダルには
目を覆うばかりのものがあるというのに(文末に関連リンク)
そんな騒ぎはまったく存在しなかったかのように
無理やりに、こんな性善説の解釈をしたのでは
なんだか天安門事件がなかったフリをする中国政府のようで。

あったことはあったこととしてスキャンダルの存在を前提に、
素人が、ごく普通に、このデータを考えると、

プライマリー・ケアのお医者さんたちは
MRさんたちがしきりに安全と効果を保障し、絶賛しつつ
気前よく無料サンプルなどを置いていく(多分キックバックの説明もしつつ)
「ウツには新しく良い薬ができた」という思いと、その現物が先にあって、
その上で行われていた診断だったから、

その優れものの薬が公式に「ヤバイぞ」ということになったら
診断するインセンティブもなくなってしまった……という解釈の方が
より自然なように感じられるのですが。


まさか、この論文から透けて見える動き、
昨日の、あの「12歳から18歳全員にうつ病のスクリーニングを」という提言と
実は繋がってはいる……なんてことは、ない……よね?



そして日本では、厚労省がSSRIの副作用を認めたのって、つい先日……。


2009.06.04 / Top↑
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