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数週間前、ある小さな大学で学生さんたちの冗談紛れの会話を漏れ聞き、
思わずギクッとなったのは、

「こいつ、な~んか得体の知れない薬の臨床実験のアルバイトをするって」
「えーっ? だいじょうぶかよ、そういうの」
「ウソだよ。そんなのやらねーよ」

そういうアルバイトがあるのかと聞いてみても、
3人の学生さんは誰も詳細を語ろうとしませんでしたが、
もちろん学生部に正規ルートで舞い込むアルバイト募集であるはずもなく、
ちょっとイヤ~な話だなぁ……とひっかかっていたところに、
こんなニュース。

Kiwi ‘elephant man’ drug trial victim a dad
The Marlborough Express, June 15, 2008/06/16



2年前にロンドンの病院で行われた薬の臨床実験で
6人の被験者全員が注射から1時間で激しい反作用を起こして
頭がエレファントマン状態に腫れあがり命の危機に瀕したばかりか
回復後も身体と心の障害に負い、おそらく癌になるだろうと言われている、
「エレファントマン薬物実験」と呼ばれる事件があったとのこと。

ニュースそのものは、
その被害者の1人のニュージーランド人男性David Oakleyさん(37)に子どもが生まれ、
2年前にはこんな日が来るとは思わなかったと夫婦が喜んでいるという
父の日にちなんだ明るいものなのですが、

その記事に書かれた臨床実験の詳細というのが
こんなことが起こるって、一体、薬の臨床実験の世界はどうなっているんだ???
と、唖然とするような、なんとも底の知れない話。

Oakleyさんは目前に控えた結婚費用と家の購入資金に当てようとして
被験者に名乗り出たのですが、そのために背負った障害によって
それ以前に運営していた運転の教習所は続けられなくなり、
現在は妻が統計学の専門家として生計を支えているとのこと。

実験に使われた薬は、
白血病と関節炎に特効があると見込まれていたTGN1412。
ドイツの製薬会社 TeGeneroが作り、
Parexelというアメリカの会社が臨床実験を担当し、
行われた場所はロンドンのNorthwick Park 病院だといいます。

TeGenero社は約26000NZドルの中間金を支払った後で破産したため、
被害者の6人はそれ以外には何の補償も受けておらず、
アメリカのParexel社は薬の反作用であることは明らかであるにもかかわらず
ライアビリティを否定しているとのこと。


そもそも、作った会社と実験を行った会社と場所となった病院とが
こんなふうにバラバラだというだけではなく国まで違うというのは
一体どういうことなのか。
まるで、何かあった時に責任の所在を曖昧にする仕組みが
予め作られていたかのようでは?

そして、日本の地方の小さな大学で普通の学生さんの会話に出てきた
あの「得体の知れない薬の臨床実験のアルバイト」という言葉──。

まさか、製薬会社の利権を巡る暴走は
我々の知らないところで既に臨床実験をブラック・マーケット化している……なんてことは?
2008.06.30 / Top↑
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