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「心は実験できるか――20世紀心理学実験物語」という本の中に、
ロボトミー批判は向精神薬にも当てはまると書かれた部分があり、
興味を引かれたので。

著者のロボトミーについてのスタンスは
「患者の苦痛を実際に軽減した面もあり
純粋な悪としてしまうのは短絡的」とするもの。
むしろ過去の精神外科医療との2極的な善悪対比によって
現在の精神医学的治療が不当に正当化されているのではないかと
警鐘を鳴らしている箇所です。

昔行われていたことはしらないけれど、今行われていることはわかっている──私たちはプロザックやリタリンを口に放り込みながら、あるいは自分のホルモンをいじり、幸福を願ってエストロゲンを刺激しながら(転写ミスではなく原文のままです)、そう考える。けれど、実際のところ、現在の治療法はかつての治療法とどう違うというのだろう。
(p.361)

そしてロボトミーで批判された「限定性」、
つまりロボトミーがターゲットとした部位に明確な科学的根拠が欠落していたことを
現在の向精神薬に当てはめれば、

けれども、事実として、プロザックが脳の中でどう機能しているか分かっている人はいない。そのメカニズムは誰も理解していないのである。……ロボトミーと同じく、プロザックも、なぜ効くのか誰にも分からない。
(p.362)

もう1つロボトミーで批判される「不可逆性」、
取り返しが付かないという点に関しては、

けれども、現在私たちが、向精神薬の服用により、まだ明らかになっていない恒久的障害を被っている可能性がないとは誰にも言えない。精神科医のジョセフ・グランミュレンは、プロザックは脳の中にアルツハイマータイプのプラークと混乱をもたらす原因となりうると警告する。プロザック服用者の多くがもの忘れを訴え、車のキーの置き場所や、車をどこに駐めたかすら思い出せないというのは、そのせいである可能性があるとグレンミュレンは指摘する。最新の薬でさえ、長期にわたって服用を続けると回復不能な運動障害を引き起こしかねないとされる。二十年もすると、このプロザック国家は忘却の時代へと進んでいくことになるのかもしれない。
(p.362)


Ashley事件の担当医らが論文で
「前例がない以上、効果もリスクも想像するしかない」と書いた過激な医療が
6歳の子どもに易々と実施されてしまうことにも、

あるかもしれない未証明の効果は追求してみたいが、
 副作用は未証明である以上ないものと前提する
といった“科学的な姿勢”が関係しているのかも。


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「心は実験できるか――20世紀心理学実験物語」
ローレン・スレイター著 岩阪彰訳
紀伊国屋書店 2005

20世紀の大きな心理学実験を取り上げて
それぞれの背景や顛末、後世への影響を解説するという内容なのですが、
情緒的な思い入れが小うるさくて
amazon の書評「著者が邪魔」に座布団1枚。

しかし、いくつかの章はホラーとして濃密な読後感あり。
2008.02.04 / Top↑
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