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去年4月18日のエントリーで紹介した Gilderdale事件の続報。

慢性疲労症候群(ME、筋痛性脳症)で17年間寝たきりだった娘Lynnさん(31)を
献身的に介護してきた母親(看護師)の Bridget Kathleen Gilderdale(55)さんが
モルヒネの過剰投与で殺した、というもの。

(Lynnさんの状態とメディアの報道に大きな疑問があります。詳細は上記リンクを)

検察は殺人未遂で起訴。
母親は殺人未遂ではなく、自殺幇助だったと主張している事件。

裁判が始まったようです。

そこで明らかになった事件の詳細をBBCから以下に。


Lynnさんが、もう死にたいと言った際に
母親は1時間かけて「まだ死ぬ時ではない」と説得を試みた。

2008年12月3日。
母親がLynnさんにモルヒネの入った注射器2本を渡し、
Lynnさん本人が点滴のカテーテルを通じて体内に入れた。

(つまり、Lynnさんはしゃべれるし、手も使える。
では、身体的には口からモノを食べられる状態だったのであり、
経管栄養になっていたのは、精神的な理由によるものだったのでは?)

3時間後、それでは死ぬことができなかったために
母親は家にある錠剤を探して粉々に砕き、鼻に通してあった栄養チューブに入れた。

翌4日。
母親がモルヒネ2~3回分を点滴に注入。

その後、自殺幇助支援団体 Exit に電話で助言を求めたのち、
さらに空気を注射器3本分、注射。



去年読んだ記事では、本人が死にたいと語っていたという情報は出ていなくて、
むしろ本人の意識状態そのものが曖昧なまま
どちらかというと「話もできなかった」という表現が
非常に誘導的に使われている印象だったのですが、

どうやら、本人が死にたいと望んだ、
最初のモルヒネは自分で注入したということのようです。

そういう意味では確かに「慈悲殺」事件ではないのかもしれません。

検察側も、Lynnさん自身の自殺の企てが失敗したために、
その後は「ひとえに娘を殺すことを目的として、さまざまな行為を行った」という
解釈をしている様子。

ただ、Lynnさんの障害像がそういうものであったとしたら、
余計に去年の記事で感じた疑問が大きくなります。
Lynnさんに必要なのは自殺幇助ではなく病気から回復するための支援だったはず。

母親が「こんな悲惨な状態では”まともに生きている”とは言えない」と感じていたことの重大性が、
今後の裁判の過程でで、どのように捉えられていくのか、注目したいところです。

また今回の記事を読んで、
私には、さらに新しい疑問がわいてくるのですが、

看護師だったとはいえ、なぜ家にモルヒネがそんなに大量にあったのでしょうか。

Lynnさんの病気は、それだけでターミナルになるような性格のものと思えないので、
本人にモルヒネが処方されることはありえないように思うのですが、
このあたりは、もし私の思い違いだったら、どなたかご教示ください。

ただ仮にLynnさん自身に処方されていたとしても、
致死量が家に置いてあるということがあるでしょうか。

もしも看護師だった立場を利用して母親が手に入れていたとしたら、
この人には看護師としての法的責任も問われるべきではないのでしょうか。

改めて、この事件は
去年9月に出された公訴局長DPPの自殺ほう助に関する法的解釈のガイドラインが
医師の自殺幇助と、家族や友人の自殺幇助とを明確に区別していないことの問題点
こちらのエントリーで詳しく書きました)を
浮き彫りにしているように思います。

それから、もうひとつ。
「死人に口なし」なのだから、
殺した方が「死にたいと本人が言ったんです」「最初は本人がやりました」といったからといって
それが真実だということの立証など、不可能なのでは……?

それが不可能である限り、こうした事件が
この母親の主張するように「自殺幇助」として扱われてしまったのでは、
「障害を抱えて生きたいはずがない」という思い込みで殺したい放題になってしまう。
2010.01.19 / Top↑
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