人体埋め込み用マイクロチップが普及しつつあり、緊急時の医療情報へのアクセスや認知症患者の徘徊追跡に利用が喧伝されているという話を以前紹介しましたが、その販売会社VerichipがらみのスキャンダルをAP通信(9月8日付け)が報じていました。
Verichip(商品名も同じ)には2005年にFDA(米食品医薬品局)の認可が下りています。ところがAP通信の記事によると、
①1990年代半ばの実験でチップの埋め込みによりマウスとラットに悪性腫瘍が生じたとの結果が報告されているにも関わらず、Verichipも認可に関わった政府筋もこの研究について一切言及しない。認可以前にFDAはこの研究結果を知っていたのかどうか、またどのような研究を検討したのかについて、APが行った度重なる問い合わせに対して、FDAは答えることを拒否している。
②Verichipの認可当時、FDAを管轄する保健福祉省の長官はTommy Thompsonだったが、2005年1月10日にVerichipに認可が下りた2週間後に閣僚ポストを辞任。Thompsonはその後5ヶ月も経たないうちにVerichipとその親会社であるApplied Digital Solutionsの役員に就任。報酬は現金とストックオプション。本人はVerichip認可のプロセスで何らかの役割を演じたことはないと関与を否定している。
③6月にはアメリカ医師会の倫理委員会が報告書を出して、体内にチップを埋め込むRFID(無線ICタグ)技術を持ち上げたばかり。しかし、医師会の倫理委員会はチップが動物に癌を生じさせたとの文献を検討していない。研究の存在すら知らなかったという。
Verichipは既に世界中で2000人に埋め込まれています。緊急時の医療情報へのアクセスを売りに、今後アメリカ国内に4500万人の市場をアテ込むVerichip側は「FDAが認可した商品が安全でないわけがない、何百万という家畜に埋め込まれているが大きな問題が報告されたことはない」と。
新興テクノロジーが倫理上の問題を指摘され、歯止めがなくなることを危ぶまれながらも、問答無用のハイスピードで前に前にと進んでいくのは、1つには、そこに莫大な利権が絡んでいるからなのですね。
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そういえば、去年から喧々諤々の論争が続いていた研究用のハイブリッド胚作りに、どうやらイギリスのHFEA(ヒト受精・胚機構)はGOサインを出した模様。
目に付いた時にニュースを拾い読みしただけの素人が大胆にも解説すると、牛の卵子からDNAを抜き取って、代わりに人間の細胞を注入する。そこに電気ショックを加えると細胞分裂が始まって99.9%が人間で0.1%が動物という組成の胚ができる。つまり牛の細胞を器として使って、中身はそっくり人間に入れ替えようという話なのですね。もちろん目的は実験利用に限定され、作成から14日以内に壊されることになっています。
これもまた素人の聞きかじり的理解なのですが、人間の胚を使うES細胞には倫理上の問題があって量産できないことから、実験用のES細胞の不足を補うための苦肉の策として考えられたことじゃないか、と。だから、「ハイブリッド胚の実験利用が可能になれば、アルツハイマーやパーキンソンなど、現在治療法が見つかっていない病気への光明になる」と、これをやりたいイギリスの研究者たちは、ES細胞研究に政府の助成金がほしいアメリカの研究者と同じことをしきりに説く。(もっと別の狙い・目的があるのかもしれませんが。)
研究者からそういう要望が出た時には、人間存在の尊厳を侵すものだとイギリスの世論はいっせいに反発。それを受けて政府も去年の白書では否定的だったのに、その後ニュースにこの話題が登場するたびに徐々にニュアンスが変わり、風向きが変わり、ついにGOサイン。
ここには莫大な利権だけでなく、もう1つ国際的な競争における国家の威信とかも絡んでいるのでしょうか。やっぱり。
(詳しいハイブリッド胚作成の手順については、以下のBBCのサイトに動画があります。)
“Human-animal” embryo green light(BBC 9月5日)
2007.09.11 / Top↑
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