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Magnusは講演の中でルシール・パッカード子ども病院(LPCH)での事例を3つ紹介します。

ケース1
10歳。Alagille Syndrome。神経発達障害(NDD)は重度。四肢マヒ。肝機能障害のほかにも臓器に問題がある。母親は知識のある人で、子の命を延ばすためにもQOL向上のためにも移植を希望、既に3箇所で却下されてLPCHに来た。

親の面接を行ったところ、子どもは親を認識しており、意思表示や親とのやり取りが出来ると母親が主張。その後、入院と外来で6ヶ月に渡って子どもを観察。家での様子をビデオに撮ってもらい母親と一緒に確認したが、子どもは無反応だった。

ケース2
10歳。Wolf Hirschhorm Syndrome。focal glomerulonephritis。重度の知的障害。言葉はない。痙攣発作。筋肉の発達不良。腎臓病末期。親は透析と移植を希望。

親の面接では、子は親を認識しており意思表示もあると主張。その後3ヶ月間、入院と外来で子どもを観察したところ、確かに一定の意思表示や反応が見られた。

ケース3
13歳。alpha-1 antitrypsin deficiency。肝機能低下。その他の臓器に問題はない。Fragile X SyndromeでIQは50。部分参加で学校にも通学。法定代理人は治療の継続と、できれば移植が受けられないかと病院の判断を求めた。


これらについてLPCHの倫理委員会は,

・ケース1については意見が分かれた。
・ケース2については概ねYes。
・ケース3については明らかにYes。
・無脳症についてはNo。

そこで価値観がぶつかるのは、以下の2点。

・NDDを判断に含めるのは道徳的に妥当なのか?
・臓器は決定的に不足している。これまでこのカンファレンスも論じられてきたコストの問題とはまた違い、いわば災害時のトリアージと同じ。使える臓器を最大限に生かすには?

そこでLPCHは、神経発達障害児を臓器移植の候補とする判断を巡るコンセンサスを模索すべく、コンセンサス・カンファレンスを組織して検討し、以下のような予備的コンセンサスを作成。

・親が望めば、どの子も評価・検討をしてもらえること。
・すべての決定はケース・バイ・ケース原則にて。
・評価のプロセスには、熟練した発達の専門家によるアセスメントが必ず含まれること。
・リストに挙げるかどうかの判断に発達の専門家が加わること。
・永続的に意識のない子どもは対象としない。
・軽度または中等度のNDDはそれ自体では、否定的な指標とはならない。
・「利益対負担」の判断からリストに載せない判断をする場合には、パリアティブ・ケアが必要。
・決定プロセスの透明性が必要。
・NDDの移植アウトカムについて、より良いデータが残される必要がある。
・親と医師のコンフリクト対応のため、不服申し立てが出来る機構が考えられなければならない。



注目したいのは、Magnusが上記のコンセンサスを説明するにあたって、特に発達の専門家によるアセスメントの重要性を強調していたこと。

実際に上記のケースに関わった立場から、Magnusはケース1とケース2の子どもは遠くから見ている限りは同じ状態に見える、と言います。ところが発達の専門家の視点を通すことによって、一人ひとりの子どもの状態がクリアに見えてくる。そこで初めて、この2人の子どもの状態が実は非常に違っていることが分かるのだ、と。

これは当ブログで考え続けている知的障害児に対する「どうせ何もわからない」ステレオタイプの問題と関連する、極めて重要な指摘ではないでしょうか。


     ――――――――――――――


もう1つ、注目したいのは決定プロセスの透明性が挙げられていること。

興味深いことに、この予備的コンセンサスに貢献した生命倫理学者の中には、Diekemaの名前も入っています。アシュリー療法の実施決定に至るプロセスについて、彼の中に忸怩たる思いというのは、ないのかなぁ……。

ちなみに、このコンセンサスに貢献した人として名前が挙がっているのは、アシュリー療法関連ではCaplan, Feudtner(Gunther&Diekema論文掲載ジャーナルの編者)、Diekema, Frader, Ross, Wilfond。
(Fostは入っていません。)

それ以外の名前を姓だけ挙げておくと、Kon, Kodish, Fox, Nelson(Robert), Nelson(Larry), Truog, Youngner, Veatch, Goldworth, Wayman, Richards, Collier, Sandborg。
2007.09.08 / Top↑
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