シアトルこども病院が去年11月にHastings Center Reportに発表した
成長抑制ワーキング・グループの論文については
以下のエントリー他、いくつも書いていますが、
成長抑制WGの論文を読む 1(2011/1/27)
その論文の内容について
同レポートの3月―4月号に掲載された編集者への書簡で、
シアトルこども病院の弁護士が一か所訂正をしていることが
ずっと気になっていました。
最近、手に入れてくださる方があり、読むことが出来ました。
Kudos, and a Correction
Jeffrey M. Sconyers, Seattle Children’s Hospital and Regional Medical Center,
Letters, the Hastings Center Report, 2011 March-April
Sconyers弁護士の書簡はタイトルが「賞賛と訂正」とあるごとく、冒頭で
成長抑制WGの論文著者が「謙虚でオープンなことは
この論争の(私は議論と呼ぶつもりさえない)多くを特徴づけていた
ドグマに満ちた悪意とは、際立って対照的だ」と
当ブログの検証を踏まえて読めば
あざといことこの上ない称賛を贈った上で、
論文の事実関係を一つだけ訂正したい、と。
シアトルこども病院がWPASとの間で
「将来、障害のある子どもの成長抑制を行う前には
裁判所の命令をとる」と合意したと論文が書いていることは事実ではなく、
「裁判所からの有効な命令を受け取った後でなければ」
やらないと合意したのである、とは、つまりは
裁判所から命令をとる責任者は病院ではなく親だということを
Sconyers弁護士は明確にしたいわけです。
なぜなら、彼が言うには
病院は成長抑制療法が承認されることによって利益を得るわけだから
病院が裁判所の命令を得ようとする行為には利益の相反が生じることとなり、
それは病院がやるべきことではないと2004年に判断したのだ、と。
したがって病院として合意しているのは、
成長抑制療法を求められた際にちゃんと裁判所の命令があるかどうか、
それが最終的なものであり、有効なものであり、また法的拘束力のあるものであることを
確認することだけだ、と。
しかし、2008年にこちらのエントリーで指摘したように、
米国小児科学会指針においても、2004年当時のワシントン大のICマニュアルにおいても
「裁判所の命令による許可を得なければならない」などと書かれており、
命令をとることの責任が医師には全くないとは言えないはず。
また2007年の子ども病院生命倫理カンファでのプレゼンで
親と医師の間で意見の相違があった場合について、Diekema医師も
と語っており、
「裁判所の命令をとる」の主体者を医師との前提でものを言っているし、
実際、米国の医師は親がイヤだと拒否した治療をやりたければ、
裁判所に訴え出て命令を出してもらっていますよ。
Diekema医師がこのプレゼンの中で言及している以下の事件は
いずれも親や本人が拒否した治療をやりたい医師らが裁判所に命令を求めた事件です。
子どもを守る行政の義務・介入権 1 (Cherrix事件)(2007/7/20)
親と医師の意見の対立(Mueller事件)(2007/12/29)
親と医師の意見の対立(Riley Rogers事件)(2007/12/31)
13歳の息子の抗がん剤治療を拒否し母親が息子を連れて逃亡(2009/5/2)
したがって、当該治療をすることで利益が生じる病院サイドが
裁判所に命令を求める行為には利益の相反がある、というSconyers弁護士の言い分は
米国の医療現場で一般に受け入れられている論理とはとうてい思えません。
気になることとして、最後に、Sconyers弁護士は
自分の知る限り、裁判所にこうした命令を求めた親はいないが、
仮に出てきた場合に、裁判所がどういう判断をするかは分からないぞ、と書いています。
これが私にはものすごく不気味に感じられます。
なにしろAngela事件がありましたから。
Angelaの生理が始まった時と
彼女に全身麻酔で埋め込み型避妊薬が入れられた時との時間経過を分かりにくくするために、
判事が西暦とAngelaの年齢とを使い分けてみせるという、
世にも不思議な判決文を書き、
とっくの昔におさまっている大量出血と貧血を理由に
子宮摘出を認めてしまったのです。
Angela事件があったオーストラリアのクイーンズランドといえば、
シアトルとはゲイツ財団繋がりのあるところ……。
まさかSconyers弁護士の最後の
「裁判所だって、どういう判断をするかは誰にもわからんぞ」とは
シアトルこども病院の背景にある政治的影響力を意識しての発言だ……なんてことは?
なお、この書簡について、おなじみBill Peaceさんが以下のエントリーでとりあげ、
読み方によっては、まるでWPASに対して「ちゃんと合意を守らせてよね」と念押しするかのような
文章を書いています。
彼もまた、WPASと病院との合意が来年5月で切れることを意識しているのでしょうか。
Growth Attenuation and the law
BAD CRIPPLE、April 21, 2011
成長抑制ワーキング・グループの論文については
以下のエントリー他、いくつも書いていますが、
成長抑制WGの論文を読む 1(2011/1/27)
その論文の内容について
同レポートの3月―4月号に掲載された編集者への書簡で、
シアトルこども病院の弁護士が一か所訂正をしていることが
ずっと気になっていました。
最近、手に入れてくださる方があり、読むことが出来ました。
Kudos, and a Correction
Jeffrey M. Sconyers, Seattle Children’s Hospital and Regional Medical Center,
Letters, the Hastings Center Report, 2011 March-April
Sconyers弁護士の書簡はタイトルが「賞賛と訂正」とあるごとく、冒頭で
成長抑制WGの論文著者が「謙虚でオープンなことは
この論争の(私は議論と呼ぶつもりさえない)多くを特徴づけていた
ドグマに満ちた悪意とは、際立って対照的だ」と
当ブログの検証を踏まえて読めば
あざといことこの上ない称賛を贈った上で、
論文の事実関係を一つだけ訂正したい、と。
シアトルこども病院がWPASとの間で
「将来、障害のある子どもの成長抑制を行う前には
裁判所の命令をとる」と合意したと論文が書いていることは事実ではなく、
「裁判所からの有効な命令を受け取った後でなければ」
やらないと合意したのである、とは、つまりは
裁判所から命令をとる責任者は病院ではなく親だということを
Sconyers弁護士は明確にしたいわけです。
なぜなら、彼が言うには
病院は成長抑制療法が承認されることによって利益を得るわけだから
病院が裁判所の命令を得ようとする行為には利益の相反が生じることとなり、
それは病院がやるべきことではないと2004年に判断したのだ、と。
したがって病院として合意しているのは、
成長抑制療法を求められた際にちゃんと裁判所の命令があるかどうか、
それが最終的なものであり、有効なものであり、また法的拘束力のあるものであることを
確認することだけだ、と。
しかし、2008年にこちらのエントリーで指摘したように、
米国小児科学会指針においても、2004年当時のワシントン大のICマニュアルにおいても
「裁判所の命令による許可を得なければならない」などと書かれており、
命令をとることの責任が医師には全くないとは言えないはず。
また2007年の子ども病院生命倫理カンファでのプレゼンで
親と医師の間で意見の相違があった場合について、Diekema医師も
問題は「医師がある医療介入を子どもの最善の利益だと考えるかどうか」ではなく、
むしろ「その介入はどの程度正当化できるのか」。
つまり、「その医師は裁判所の命令をとってでも介入しなければならないとまで
考えているか」という点である。
と語っており、
「裁判所の命令をとる」の主体者を医師との前提でものを言っているし、
実際、米国の医師は親がイヤだと拒否した治療をやりたければ、
裁判所に訴え出て命令を出してもらっていますよ。
Diekema医師がこのプレゼンの中で言及している以下の事件は
いずれも親や本人が拒否した治療をやりたい医師らが裁判所に命令を求めた事件です。
子どもを守る行政の義務・介入権 1 (Cherrix事件)(2007/7/20)
親と医師の意見の対立(Mueller事件)(2007/12/29)
親と医師の意見の対立(Riley Rogers事件)(2007/12/31)
13歳の息子の抗がん剤治療を拒否し母親が息子を連れて逃亡(2009/5/2)
したがって、当該治療をすることで利益が生じる病院サイドが
裁判所に命令を求める行為には利益の相反がある、というSconyers弁護士の言い分は
米国の医療現場で一般に受け入れられている論理とはとうてい思えません。
気になることとして、最後に、Sconyers弁護士は
自分の知る限り、裁判所にこうした命令を求めた親はいないが、
仮に出てきた場合に、裁判所がどういう判断をするかは分からないぞ、と書いています。
これが私にはものすごく不気味に感じられます。
なにしろAngela事件がありましたから。
Angelaの生理が始まった時と
彼女に全身麻酔で埋め込み型避妊薬が入れられた時との時間経過を分かりにくくするために、
判事が西暦とAngelaの年齢とを使い分けてみせるという、
世にも不思議な判決文を書き、
とっくの昔におさまっている大量出血と貧血を理由に
子宮摘出を認めてしまったのです。
Angela事件があったオーストラリアのクイーンズランドといえば、
シアトルとはゲイツ財団繋がりのあるところ……。
まさかSconyers弁護士の最後の
「裁判所だって、どういう判断をするかは誰にもわからんぞ」とは
シアトルこども病院の背景にある政治的影響力を意識しての発言だ……なんてことは?
なお、この書簡について、おなじみBill Peaceさんが以下のエントリーでとりあげ、
読み方によっては、まるでWPASに対して「ちゃんと合意を守らせてよね」と念押しするかのような
文章を書いています。
彼もまた、WPASと病院との合意が来年5月で切れることを意識しているのでしょうか。
Growth Attenuation and the law
BAD CRIPPLE、April 21, 2011
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