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昨年7月に英国政府が
公正で持続可能な成人介護制度の財政システムを検討すべく立ち上げた独立の委員会
Commission on Funding of Care and Support(とりあえず「介護と支援の財政委員会」?)から
昨日7月4日、詳細なデータ分析を含んだ報告書が発表されました。

報告書で特に注目される提言内容は

・現在は個々人が支払う介護費用は
状況によってはどこまでもかさんでいく可能性があるが
個人が一生の内に介護に費やす費用には上限を設けて、
それ以上は国が全額を支援するべきである。

上限の金額は25000ポンドから50000ポンドの間が相当で、
委員会としては35000ポンドに設定するのが最も適切と考える。

・資産審査による介護費用全額支給資格の上限額を
現在の23.250ポンドから10万ポンドに引き上げるべきである。

・一貫性を保障するために受給資格基準を全国的に統一し、
どこでも使えるアセスメントを導入すること。

・成人した時点でケアと支援のニーズのある者については全員に
資産審査なしに即座に国から無料支援を受ける資格を認めること。

委員会の試算では、個人支払額35000ドルの上限を前提に
この勧告の実行に国が要する費用は17億ポンド。

Commission Report Published
Commission on Funding of Care and Support, July 4, 2011


委員長が経済学者のAndrew Dilnot氏であることから、通称 Dilnot委員会。Dilnot報告。

そのDilnot氏の発言には、
政府の社会保障カットが続いているだけに、ちょっと胸を打たれます。

成人の介護資金の問題はあまりにも長く無視され続けてきた。
高齢者の寿命が延びたことも障害のある若者が以前より自立した生活を送っていることも
どちらも慶賀すべき事実だというのに、

我々は「歳をとることの負担(burden)」を云々しては
人々は不安を抱えケア費用を賄えるのかと心配しながら暮らしている。

現在の制度は紛らわしく、不公平で制度維持性にも欠ける。
国民は非常に高額になる介護費用のリスクに晒されて
家など全財産を失いかねない。

この問題は放置されると悪化するのみで、
そうすれば社会の最も弱い立場の者が苦しむこととなる。

この委員会が提言する制度では
現在国から無料支援を受けている人は全員がそのまま受け続けることができ、
国民全員が今よりも豊かに暮らせることになる。
一生の内に支払う介護費用に上限があれば、
費用をどのように用意するか予め予定もできるし、
資産の多くが保護されれば全財産を失う恐れもなくなる。




上記リンクの委員会のページに、
報告書 Fairer Care Funding 本体などへのリンクがあります。

また、この委員会報告を受け、Guardianのデータ・ブログが
詳細に委員会のデータを解説・整理・検証しています ↓

Elderly care:the key data from the Dilnot report
The Guardian, July 4, 2011

上記の記事の解説によると、Dilnot報告の試算は
以下の予測に基づいているとのこと。

今後20年間で
英国の65歳以上人口は50%増加。
90歳以上人口は3倍近くに膨らむ。
知的障害のある就労年齢の成人人口は30%増加。

2009-2010年の地方自治体の総予算額に占める
社会ケア費用の割合は31%と高く、教育と警察の予算をしのぐ。
2010-2011年に提言が完全に実行されれば
その割合は35%に増加し、追加支出は地方自治体を経由することになるが
提言では支出は増え、依然として自治体経由ではあるものの
資金は中央政府から出る。

現行制度では
試算が23.250ポンド以上ある人が入所介護を要する場合には
資産審査によって、まったく支援が受けられない状態に等しいが
65歳以上で持ち家のある人の住宅資産の中間値は16万ポンドなので
家を所有している人が受給資格を得るためには
ほとんどの人が家を手放さなければならないことになる。

つまり現行制度では中間層が最も厳しい状況に置かれているので
委員会勧告の上限設定と資産審査基準の見直しによって
現行制度よりも公平な制度となる、と、このブログは分析しています。

また、以下のGuardianの昨日の記事によると、委員会の提言の中には、
いわば自治体が貸しつける“リバース・モ―ゲッジ”が含まれている模様。

持家のある人が入所施設に入る場合に
その家の資産価値に対して有利なレートで自治体がローンを組ませ、
死亡時に家を売って償還するという仕組み。

55歳から64歳の英国人は、通常、総額20万ポンドの資産を有しており、
それら資産から介護費用をねん出する方策として提言されたもの。

3日には26のチャリティが連名で委員会提言の改革を実行するよう求めた他、
労働党の党首Ed Miliband氏もこれまでの労働党の介護方針はさておき、
Dilnot提言について与党と開襟して議論しようと呼びかけているが、

Guardianの取材やBBCのインタビューでの財務相も保健相も、
イマイチ反応が歯切れが悪いらしい。

Councils could offer loans to homeowners in Dilnot report proposal
The Guardian, July 4, 2011


それから、こちらの記事はざっと最初のあたりを読んだだけですが、
委員の一人 Jo Williams (Dameという敬称がついているのでナイト爵をお持ちの女性)が

長い間、みんなの苦しみを放置してきたんだから、
上限35000ポンドも含め、政府が委員会提言の改革をやらなかったら
それはもう“失望”なんて言葉じゃ表現できないわ。
“不快極まりない”わね。

Dilnot commission warns government not to kill off care funding proposals
The Guardian, July 4, 2011


さてさて、このところ社会保障費カット・カットさらにカット……と
飛ばしている英国の連立政権、この報告書をどう受け止めるものでしょうか?


……と、ここまで朝の内に書いて寝かせていた間に続報があり、

費用の大きさに、政府は報告をもろ手を挙げて歓迎はせず、
「これだけのコストをかけるなら、さらなる意見募集が必要だ」とか
この報告書はあくまでも議論のたたき台だ、みたいなことを、
うだらうだらとゴネているようです。

Government questions Andrew Dilnot’s £1.7bn long-term care plan
The Guardian, July 4, 2011


まぁ、予想通りの反応というか……。
2011.07.08 / Top↑
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