いただきものの、相当に重要と思われる情報。
米国で、脳死判定が覆ったケースが
Critical Care Medicineの6月号で報告されている。
アブストラクトから概要を以下に。
55歳の男性患者。
心臓まひから心肺停止に至り、心配蘇生で血流が回復。
神経系保護のために低体温療法が実施された後、体温を戻したところ、
開眼や痛みへの反応その他の反応がなく、
24時間以上に渡って脳神経機能が失われた脳死状態であった。
6時間に渡る脳死判定の結果、患者は脳死と診断され、
家族は臓器提供に同意した。
ところが、脳死の診断から24時間後、
臓器摘出のために手術室に運ばれると、患者には瞳孔反射、咳き込み反射、発汗が見られ、
医療チームは家族と他の医療職への釈明を余儀なくされた。
米国神経学会のガイドラインを完全に守って診断された脳死が成人患者で覆った
初めての症例報告である。
回復は一時的なもので、患者の予後に影響したわけではないが、
臓器提供が中止されたことはもちろん、心臓まひ後に低体温療法を受けた患者において
脳死の不可逆性を確定することが可能なのかどうかにも疑念を投じることとなる、として、
論文は、その結論において、
心臓まひ後に低体温療法を受けた患者の脳死診断には慎重を強く求め、
確認のための検査を検討する必要と共に、
体温を戻した後に、最低限の観察期間を決めるよう提言している。
Reversible brain death after cardiopulmonary arrest and induced hypothermia
Webb, Adam C. MD; Samuels, Owen B. MD
Critical Care Medicine, June 2011 Vol.39, Issue 6, pp 1538-1542
脳死判定後に臓器摘出準備段階で回復……といえば、
以下のエントリーで取り上げたDunlapさんの事件(2008)があったと思うのだけど、
脳死判定後に臓器摘出準備段階で意識を回復した米人男性のニュース(再掲)(2009/7/30)
Dunlapさんのケースはメディアには取り上げられても
医学雑誌には報告されなかったのかもしれない。
このケースとも、これまで当ブログが拾った回復事例については文末にリンク。
それから、できれば補遺にでも拾っておきたいと思って、
切り抜いておいた21日の朝日新聞の読者投稿から。
「倒れた息子、回復の奇跡待つ」というタイトルで
74歳の薬剤師の男性の投稿で、3か月前に突然倒れた息子のことが書かれている。
「主治医の説明では、脳細胞がやられてしまっているとの悲しい結果であった」
私の目が釘付けになったのは、最後の段落で
「親友が懸命に声をかけてくれたとき、息子は確かに涙を流して声をあげて泣いた。
医師は『起こりえない』といった。しかし、奇跡を待ちたい」
「植物状態」だとか「脳死」だと診断された患者の家族からの
このような訴えは頻繁に耳にするし、そのたびに、いつも思うことなのだけど、
現実に起こっている現象を「起こり得ない」と否定する……とは、
いったい、そもそも科学的な態度なんだろうか。
もう、何度リンクしたか分からないけど、↓
「わかる」の証明不能は「わからない」ではない (2007/9/5)
上記の症例報告のアブストラクトを読み、
「脳死診断が覆ったことが報告された成人患者で最初の症例」というところで、
つい、考えてしまった。
「こんなことは起こり得ない」とか「ただの生理的反射に過ぎない」として
起こっている現実そのものが否定されて臓器摘出が優先された事例は
本当にこれまで存在しないのだろうか……。
フォストやヴィーチ、トゥルーオグ、サヴレスキュなど、
どうせ今でも本当は生きている人を脳死と称して殺しているんだから、と
いっそ死亡提供ルールを廃止しようと提言している学者さんたちが
この症例報告を読んだとしても、
「いったん反応が戻っても、どうせすぐに死ぬんだし、
生きたとしてもQOLがあまりにも低くて、どうせ死んでいるのと大して変わらないから」と
平然と「問題外」の扱いをするのでは……?
そして、もしかしたら、
友人の励ましに涙を流した重症患者の現実を
「起こり得ない」と否定する医師の意識の中にも、
それと同じ「どうせ」が潜んでいる……なんてことは……?
【米国:リリーさん】
植物状態から回復した女性(2007年の事件)
【米国:ダンラップさん】
脳死判定後に臓器摘出準備段階で意識を回復した米人男性のニュース(再掲)(2009/7/30)
【ベルギー:ホウベン?Houbenさん】
23年間“植物状態”とされた男性が「叫んでいたのに」(ベルギー)(2009/11/24)
「なぜロックトイン症候群が植物状態と誤診されてしまうのか」を語るリハ医(2009/11/25)
【日本:加藤さん】
「植物状態にもなれない」から生還した医師の症例は報告されるか?(2011/1/19)
【米国:ゴッシオウ? Gossiauxさん】
事故で視力を失った聴覚障害者が「指示に反応しない」からリハビリの対象外……というアセスメントの不思議(2011/2/6)
【豪 Gloria Cruzさん】
またも“脳死”からの回復事例(豪)(2011/5/13)
【NZ マクニールさん】
NZで「無益な治療」論による生命維持停止からの回復例(2011/7/17)
【その他、関連エントリー】
「植物状態」5例に2例は誤診?(2008/9/15)
「脳死」概念は医学的には誤りだとNorman Fost(2009/6/8)
楳図かずおの脳死?漫画(2008/4/3)
重症障害児・者のコミュニケーションについて、整理すべきだと思うこと(2010/11/21)
米国で、脳死判定が覆ったケースが
Critical Care Medicineの6月号で報告されている。
アブストラクトから概要を以下に。
55歳の男性患者。
心臓まひから心肺停止に至り、心配蘇生で血流が回復。
神経系保護のために低体温療法が実施された後、体温を戻したところ、
開眼や痛みへの反応その他の反応がなく、
24時間以上に渡って脳神経機能が失われた脳死状態であった。
6時間に渡る脳死判定の結果、患者は脳死と診断され、
家族は臓器提供に同意した。
ところが、脳死の診断から24時間後、
臓器摘出のために手術室に運ばれると、患者には瞳孔反射、咳き込み反射、発汗が見られ、
医療チームは家族と他の医療職への釈明を余儀なくされた。
米国神経学会のガイドラインを完全に守って診断された脳死が成人患者で覆った
初めての症例報告である。
回復は一時的なもので、患者の予後に影響したわけではないが、
臓器提供が中止されたことはもちろん、心臓まひ後に低体温療法を受けた患者において
脳死の不可逆性を確定することが可能なのかどうかにも疑念を投じることとなる、として、
論文は、その結論において、
心臓まひ後に低体温療法を受けた患者の脳死診断には慎重を強く求め、
確認のための検査を検討する必要と共に、
体温を戻した後に、最低限の観察期間を決めるよう提言している。
Reversible brain death after cardiopulmonary arrest and induced hypothermia
Webb, Adam C. MD; Samuels, Owen B. MD
Critical Care Medicine, June 2011 Vol.39, Issue 6, pp 1538-1542
脳死判定後に臓器摘出準備段階で回復……といえば、
以下のエントリーで取り上げたDunlapさんの事件(2008)があったと思うのだけど、
脳死判定後に臓器摘出準備段階で意識を回復した米人男性のニュース(再掲)(2009/7/30)
Dunlapさんのケースはメディアには取り上げられても
医学雑誌には報告されなかったのかもしれない。
このケースとも、これまで当ブログが拾った回復事例については文末にリンク。
それから、できれば補遺にでも拾っておきたいと思って、
切り抜いておいた21日の朝日新聞の読者投稿から。
「倒れた息子、回復の奇跡待つ」というタイトルで
74歳の薬剤師の男性の投稿で、3か月前に突然倒れた息子のことが書かれている。
「主治医の説明では、脳細胞がやられてしまっているとの悲しい結果であった」
私の目が釘付けになったのは、最後の段落で
「親友が懸命に声をかけてくれたとき、息子は確かに涙を流して声をあげて泣いた。
医師は『起こりえない』といった。しかし、奇跡を待ちたい」
「植物状態」だとか「脳死」だと診断された患者の家族からの
このような訴えは頻繁に耳にするし、そのたびに、いつも思うことなのだけど、
現実に起こっている現象を「起こり得ない」と否定する……とは、
いったい、そもそも科学的な態度なんだろうか。
もう、何度リンクしたか分からないけど、↓
「わかる」の証明不能は「わからない」ではない (2007/9/5)
上記の症例報告のアブストラクトを読み、
「脳死診断が覆ったことが報告された成人患者で最初の症例」というところで、
つい、考えてしまった。
「こんなことは起こり得ない」とか「ただの生理的反射に過ぎない」として
起こっている現実そのものが否定されて臓器摘出が優先された事例は
本当にこれまで存在しないのだろうか……。
フォストやヴィーチ、トゥルーオグ、サヴレスキュなど、
どうせ今でも本当は生きている人を脳死と称して殺しているんだから、と
いっそ死亡提供ルールを廃止しようと提言している学者さんたちが
この症例報告を読んだとしても、
「いったん反応が戻っても、どうせすぐに死ぬんだし、
生きたとしてもQOLがあまりにも低くて、どうせ死んでいるのと大して変わらないから」と
平然と「問題外」の扱いをするのでは……?
そして、もしかしたら、
友人の励ましに涙を流した重症患者の現実を
「起こり得ない」と否定する医師の意識の中にも、
それと同じ「どうせ」が潜んでいる……なんてことは……?
【米国:リリーさん】
植物状態から回復した女性(2007年の事件)
【米国:ダンラップさん】
脳死判定後に臓器摘出準備段階で意識を回復した米人男性のニュース(再掲)(2009/7/30)
【ベルギー:ホウベン?Houbenさん】
23年間“植物状態”とされた男性が「叫んでいたのに」(ベルギー)(2009/11/24)
「なぜロックトイン症候群が植物状態と誤診されてしまうのか」を語るリハ医(2009/11/25)
【日本:加藤さん】
「植物状態にもなれない」から生還した医師の症例は報告されるか?(2011/1/19)
【米国:ゴッシオウ? Gossiauxさん】
事故で視力を失った聴覚障害者が「指示に反応しない」からリハビリの対象外……というアセスメントの不思議(2011/2/6)
【豪 Gloria Cruzさん】
またも“脳死”からの回復事例(豪)(2011/5/13)
【NZ マクニールさん】
NZで「無益な治療」論による生命維持停止からの回復例(2011/7/17)
【その他、関連エントリー】
「植物状態」5例に2例は誤診?(2008/9/15)
「脳死」概念は医学的には誤りだとNorman Fost(2009/6/8)
楳図かずおの脳死?漫画(2008/4/3)
重症障害児・者のコミュニケーションについて、整理すべきだと思うこと(2010/11/21)
2011.07.25 / Top↑
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