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2008年にワシントンDCで
障害者ケアの事業所の資金繰りが悪化して
閉鎖に追い込まれるグループホームが相次ぎ、問題になった。

ところが、調べてみたら、
トップが法外な給料を取っていることが判明した……というお粗末があった ↓

DCで障害者入所施設の事業者が相次いで撤退(2008/7/7)
障害者ケア事業所「トップが給料取り過ぎ」(2008/7/11)


今回、NY州でも
障害児・者ケア事業所トップによる
メディケイドからのぼったくりの実態が明らかに。

障害児・者のケアに今年度100億ドルを投入しているNY州で
多くのグループ・ホーム、障害児学校、デイケア、移動サービスを運営する最大の事業所、
the Young Adult Institute Networkの経営者Levys 兄弟がとっていた給料は、
それぞれ年間100万ドル以上と916,647ドル。
他の幹部2人も、それぞれ551,682ドルと578,938ドル。

ちなみに、NYの同規模のNPOのトップの平均給与は
493,000ドルだとか(それもすごいけど)。

Levys兄弟は、それ以外にも、
グループの提携事業所からも年間5万ドルに及ぶ顧問料を受け取っていたほか、
それぞれYoung Adult Institute Networkの費用で高級車を乗り回し、
兄弟の片方の娘がNY大学の大学院在学中の学費ばかりか、
在学中に住むためのマンションの購入費用まで
メディケイドにツケ回していた。

他にも幹部の子ども3人の学費が事業所にツケ回されていた。
総額は132,611ドル。

こうしたNPOの運営資金の95%はメディケイドを含む公費から出ているが、
もともとNPO事業所からメディケイドへの追加請求は審査が緩く、
損失が出たことを訴えれば支払いが受けられる。
例えばYAINが去年、1つのGH(入所者28名)について
メディケイドに追加請求したのは100万ドルで
入所者1人に1日700ドルが追加支給されたことになる。

このLevys兄弟、1970年代にはパッとしないソーシャル・ワーカーだった。

転機が訪れたのは、1972年のWillowbrook州立学校のスキャンダル。
同校はStaten島にあった収容型の障害児学校。
4000人定員のところに6000人詰め込み、その酷いネグレクトの惨状を
ジャーナリストが潜入報道で暴いて社会に大きな衝撃を与えた。

(このスキャンダルについては前に調べたことがあるので、
どこかのエントリーにあるはずなのだけど探しきれない。
英語のWikipediaはこちら)

親たちが起こした訴訟で、裁判所が州に対して、
子どもたちを地域のグループ・ホームに住まわせるように命じたことから、
NY州は資金を投入して76年から79年にかけて100以上のGHを作る。
その運営の担い手として俄かに浮上してきたのが民間のNPOだった。

Levys兄弟はこの社会的なGH急増の波に乗った、というわけ。

とはいえ、当初のYoung Adult Institute Networkの理事会には保護者が多く、
小規模にとどまって丁寧なケアを、との方針だったという。
徐々に、理事会から保護者が減らされ業界の専門家が多数を占めていくにつれ
大規模化、多角化に方針が変わっていく。

そこで政治力を駆使したロビー活動や
医療職を巻き込んで専門的ノウハウをウリにする戦略、
資金集め専門のスタッフの常設など、
経営者として手腕をふるったのがLevys兄弟だった。

大規模事業所として急成長すると同時に、
YAINは業界でも大きな影響力を持つようになり、
州の障害児施策や助成金獲得などにも
強力な発言権を握っていく。

上記以外にも、現場担当者の資格を偽るわ、
資金集めスタッフを“俄か経営陣”として申請するわ、の
YAINの不適切なメディケイド請求の実態は当局も把握しながら
これまでほとんど形式的な指導に終わってきた背景には
業界最大手の持つ強大な影響力があるものと思われ、

2009年にやっと不正請求で訴追したものの
単なる手続き上のミスとして1800万ドルで和解。

今回の報道を受けてやっと重い腰を挙げた州当局がYAINに送った手紙も、
「高級幹部の報酬について一貫性のある合理的なモデル作成」に“協力を求める”ものだとか。

NYTがこの実態を報じた後、Levys兄弟は突然に「引退」。
これまでため込んだ資金で次の事業に打って出ようとしているらしい。

が、YAINでは、
高報酬は優秀なスタッフに働き続けてもらうための手段だと説明。
保護者らの中からも、いいスタッフでいいケアが行われている、満足だとの声も。

Reaping Millions in Nonprofit Care for Disabled
NYT, August 2, 2011


いくつかのことを頭に浮かべながら長い記事を読んだ。

まず、日本でも、障害者支援に限らず介護保険でも、
小規模な事業所は経営が成り立たなくて、
大規模なところしか生き残れないようになりつつあるみたいなので、
規模は違うにしても、似たような構図になっていく懸念はあるんじゃないか、というのと、

(三好春樹さんが「こんにちはぁ、コムスンです」とは何事か、
ヘルパーは人として人と向き合うんだ、「こんにちはぁ、佐藤です」と
名を名乗れ、と怒っていたけど、あれは本当に象徴的な指摘だったと思う)

「民間にできることは民間に」と言われ、
競争原理で民間の活力を注入することがサービスの質を上げるのだと
散々言われたけれど、そこで必然的に起こってくるのは
やっぱり、こういう大手の一人勝ち状態と、
その不正の温床化、行政との馴れ合いなのでは、ということと、

それでも、こうした不正の実態があぶり出される時には
その議論が向かう先は、不正をただして子どもたちを守る方向に行くのではなく、
こういう不正があって血税が無駄にされている、けしからんから
予算をカットしようという方向に話が向かうのでは、との懸念と、

それにしても、やっぱり
米国の障害者福祉はひどい、ひどいと言われつつも
それでも日本よりはベースラインははるかに高いんだなぁ、という感想と、
(詳細は文末にリンク)

最後に、
立場の弱い者のアドボケイトを表看板に、
「弱いものを守るために」使われたり集まったりするカネによって肥え太った人が、
いつのまにか官が気をかねるほどの大きな権力を身につけていく……という構図は、
誰かの周りで起きているグローバルな現象のミニチュア版みたいだ、ということと。



【英国のベースラインについて具体的な情報を含んでいるエントリー】
レスパイト増を断れた重症児の母の嘆きの書き込みがネット世論動かす(英)(2011/1/21)
介護者の10の心得 by the Royal Princess Trust for Cares(2011/5/12)
英国の障害者らが介護サービス削減に抗議して訴訟、大規模デモ(2011/5/11)

【米国のベースラインについて具体的な情報を含んでいるエントリー】
Ashleyケース、やはり支援不足とは無関係かも(2008/12/8)
Obama大統領、在宅生活支援でスタンスを微調整?(2009/6/25)
米国IDEAが保障する重症重複障害児の教育、ベースラインはこんなに高い(2010/6/22)
2011.08.04 / Top↑
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