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Steig Larssonのミステリー“THE GIRL WITH THE DRAGON TATOO”を読んだ。

邦訳はこちら

このエントリーは同作品のネタばれ(謎解きには無関係ですが)を含みますので、
いま読んでいる方、これから読む予定のある方はご注意ください。


退屈な部分と、ものすごく面白い部分とが画然としていて、
後者の割合が相当に勝っていたので、ミステリーとしては楽しめたけど、

あまりにも悲惨な話、あちこちすっきりしない終わり方で、
ヤ~な話だったなぁ……という後味の悪さが、ちょいと残ってしまった。

ただ、この作品にはミステリーの部分に仕掛けられたメッセージとは別に
全体としてもう1つのテーマというかメッセージがあって、

ここで主人公が言っていることが、そのテーマなんだろうなぁ、
調査報道を旨とする経済誌のジャーナリスト・経営者という主人公の設定は、
なるほど、そのためだったのか……と納得しつつ拍手を送った個所が、
最後の最後になって出てきた。

VINTAGE CRIME のペーパーバックス版では627~628ページにかけての部分。

スウェーデンのチョ―大物実業家が大スキャンダルを暴かれて、
彼のグループの株が急落、スウェーデンの株式市場が大混乱を起こしている中、
そのスキャンダルを暴露した主人公がテレビのインタビューを受けている場面。

スウェーデンの株式史上、最悪の株価暴落を招いているが、と暗に責任を追及されて
主人公が応えているのは、概ね、以下のような内容。

スウェーデン経済と、スウェーデンの株式市場とは別物。スウェーデンの経済は日々この国で生み出されている、エリクソンの電話機だとかボルボだとか、その他いろんな製品とサービスの総量のこと。その総量は昨日と今日で変わっているわけではなく、だからスウェーデンの経済は昨日から今日にかけて弱くなったわけじゃない。

株式市場にはスウェーデンの経済などありはしない。ただ、何時間か前に比べてこの会社の価値が何十億ぶん下がったの上がったのというファンタジーだけだ。そんなことには、わずかな数の大物投資家が資金をスウェーデンの会社からドイツの会社にせっせと移しているって意味しかない。そんなゼニの亡者なんて、肝っ玉のあるレポーターなら、誰がそういうことをやっているかを特定して、裏切り者として暴いてやればいい。そういう連中こそ、顧客の利益を出してやるために終始一貫、恐らくは意図的にスウェーデンの経済にダメージを与えているのだから。



そこでテレビのインタビュアーは
「では、あなたはメディアには責任はない、と?」

ここで主人公の答えが実にしびれるのですね。

もちろん、メディアの責任は大きいですよ。もう20年もの長い間、多くの経済ジャーナリストたちが、この億万長者について詳しく調べることを手控えてきたのだから。それどころか、逆に、空疎で中身のない偶像化記事を書いては持ち上げて、権威づけに加担してきた。経済ジャーナリストがなすべき仕事をきちんと果たしていれば、今日のような事態は起こらなかったのに。
(ゴチックはspitzibara)




「空疎で中身のない偶像化記事」と訳してみたところの原文は
brainless, idolatrous portraits

メディアがビル・ゲイツについて書く時の、
ほら、日本でも毎度おなじみの……。

最後の5分の1くらいを読んでいる間ずっと、私の頭では
「ジャーナリズムは死んだ」と言われる米国で調査報道を旨とする
ネット・メディア、ProPublica が主人公と重なり、

この億万長者が
ビッグ・ファーマや、ビッグ・ファーマが肥え太るように
世界中に策略と欺瞞を撒き散らしている人々と重なっていた。


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