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米国の生命倫理学者、Ashley事件でもおなじみのArt Caplanらが
Lancet最新号で世界の医学・科学関係者に向けて中国の移植医療へのボイコットを呼びかけている。

Time for a boycott of Chinese science and medicine pertaining to organ transplantation
Al Caplan, Gabriel Donovitch, Michael Shapiro, Jacob Lavee, Miran Epstein
The Lancet, Volume 378, Issue 9798, Page 1218, 1 October 2011


死刑囚からの移植臓器摘出の事実は中国政府も2006年11月に公式に認め、
今後は死刑囚からの摘出を禁じて、合法的な臓器提供システムをつくると約束した。
その辺りの事情については2007年1月に簡単に書いたことがある ↓

「大地震後に瓦礫の山で“臓器泥棒”」
「介護保険情報」2007年1月号「世界の介護と医療の情報を読む」

しかし、その後も中国の臓器移植件数はうなぎ上りで、
もともと臓器提供への抵抗感が強く、死体からの臓器提供システムが存在しない国で、
相変わらず死刑囚から臓器が摘出されては、外国人優先の医療ツーリズムに回されている。

CaplanらのLancetの呼びかけで、特に印象的なのは以下の一節。

Despite the continuation of organ donation by execution, the international medical and scientific community has done little to make its moral abhorrence of this state of affairs widely known. Presentations about transplantation in China continue to be made at international conferences, publications about the experience of transplantation in China appear in peer-reviewed journals, and pharmaceutical companies continue their marketing efforts and engage in sponsoring research involving various aspects of transplantation in China.
The time has come to bring normal scientific and medical interchange with China concerning transplantation to a halt. We call for a boycott on accepting papers at meetings, publishing papers in journals, and cooperating on research related to transplantation unless it can be verified that the organ source is not an executed prisoner. These steps are admittedly challenging. But the international biomedical community must firmly and boldly challenge the status quo―the barbarous practice of obtaining organs from executed prisoners.

(概要)
世界中の医療関係者は、中国での死刑囚からの臓器摘出の事実を知りながら、そのおぞましい事態に何の行動も起こさずに来たばかりか、国際会議で中国の移植医療に関するプレゼンが堂々と行われ、ピア・レビューを経ているはずの医学雑誌に報告が掲載され、製薬会社はマーケッティングを行い、中国の移植のあらゆる分野に研究費を提供している。
いまこそ、こうした中国の移植医療に関する論文の掲載や学会発表をボイコットし、それら臓器が処刑された死刑囚のものではないことを確認すべきである。生命医学の国際社会は死刑囚からの臓器摘出という野蛮な行為に、はっきりとNOを表明しなければならない。




Caplanらがここで指摘しているのは、
移植医療の国際競争や医療ツーリズムといった、実は医療ではなく経済の問題として
自国民の命にも人権にも、なりふり構わぬ「勝ち組競争」の現実を黙認・追認している、
国際科学・医学界の実態であり、

実は「このまま医療の倫理は経済の原理に引きずられっぱなしていくのか」と
科学・医学の世界の良識を正面から問うているのでは?

それなら、
中国の死刑囚からの臓器摘出と、それを黙認している科学とテクノの国際社会というのは
非常に象徴的な問題ではあるけれど、実は生殖補助医療の国際ツーリズムやワクチン、途上国支援など、
その他多くの問題にも通じていくんじゃないだろうか。


時々覗いている生命倫理系のサイト、BioEdgeがCaplanにこの件でインタビューをしており、
メルマガで届いた個所の全文を次の(後)のエントリーで。
2011.10.12 / Top↑
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