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The Medical Journal of AustraliaでJulian Savulescuが
医師のconscientious objection(良心的医療拒否:個人的思想信条による医療拒否)は
「危険な道徳的相対主義」であり、現代医学には無用、と主張。

それに対して、アデレイドの小児科医 Brian Conwayが
医師に良心的医療拒否の権利を尊重することは
医療における権力の濫用や過誤、搾取へのセーフガードであり、
医師と患者の関係の主要なセーフガードである、と反論しているらしい。

論争は中絶をテーマにしたものと思われ、

Savulescuは
「良心的医療拒否が正当化されるのは
患者を害してはならないという立場と捉えるからだが、
何が患者の害で何が利益かということを決めるのは
誰かの目にそう見えるからということではなく
しっかりと道徳的に正当化された最善の利益と道徳的地位の概念に
基づいた判断でなければならない」と述べつつ、

その「道徳的地位」をどのように決定するのかについては
議論していない、という。

Conwayは
良心的医療拒否を認めなければ医師はただの技術者になり下がってしまう、
患者の自己決定が全てになってしまうじゃないか、
じゃぁ医師の自己決定・自律(autonomy)はどうなるんだ、と。

Oxford ethicist attacks conscientious objection
BioEdge, November 25, 2011


なんとなく……なんだけど、

Savulescuが言っているのは
Conwayが言っているような
「患者の選択が全て」だから「医者は患者の選択の通りにしろ」ということではない、
……んじゃないのかなぁ。

たぶん、Savulescuが言っているのは
現代医学では本当のところ患者にも医師にも自己決定権なんてない、
全てを決定づけるのは患者の“道徳的地位”と、
それに基づいて判断された患者の“最善の利益”のみ、
……ということなんじゃないのかなぁ。

じゃぁ、それらを一体だれが、どのように「しっかりと道徳的に正当化」するのか、
……というのが私にはすごく疑問なところなんだけど、

たぶん、そこは「我々功利主義の生命倫理学者が」とでも?

「重い障害や病気がある胎児には道徳的地位なんて、ない」
「だから生まれてくる前に殺すことが本人の最善の利益」ついでに
「大声じゃ言えないけど、その方が社会的コストもかからないし」と
SavulescuやSingerみたいな学者がスタンダードを決めたら、
それに基づいて現代医療は粛々と行われるべきであって、

そこには
患者の自己決定権も医師の自己決定権も必要ない、ってことでは?

で、もちろん
そういう「現代医療」のスタンダードは実は中絶だけの話ではなくて、

生まれてきた新生児にも、
人生途上で病気や障害を負った人にも、
老いて死に近づいていく人にも
当てはめられていく……ってことでは?


でも、よ、
じゃぁ、あんたの、その
「現代医療は最善の利益と道徳的地位判断で決まる」という前提そのものは
一体いつ、どこで、誰によって、どのように「しっかりと道徳的に正当化」されたの?



【Savulescu関連エントリー】
Savulescuらが、今度はICUにおける一方的な「無益な治療」停止の正当化(2011/2/9)
Savulescuが今度は「“無益な治療”論なんてマヤカシやめて配給医療に」(2011/9/15)

【Savulescuによる「臓器提供安楽死」提言関連エントリー】
「生きた状態で臓器摘出する安楽死を」とSavulescuがBioethics誌で(2010/5/8)
Savulescuの「臓器提供安楽死」を読んでみた(2010/7/5)
「腎臓ペア交換」と「臓器提供安楽死」について書きました(2010/10/19)
臓器提供は安楽死の次には”無益な治療”論と繋がる……?(2010/5/9)

「“生きるに値する命”でも“与えるに値する命”なら死なせてもOK」とSavulescuの相方が(2011/3/2)


Savulescuの師匠、Peter Singerの「障害児には道徳的地位はない」論については、
以下のエントリーの末尾にリンク一覧を設けました ↓
P.シンガーの障害新生児安楽死正当化の大タワケ(2010/8/23)

それに対するDick Sobseyの反論がこちら ↓
Sobsey氏、「知的障害児に道徳的地位ない」Singer説を批判(2009/1/3)
2011.11.30 / Top↑
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