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 マルカーノ修道僧に案内され、我々は僧院長のオーテンシオと対面した。
「ようこそ、パチョレック。あなたが数々の難事件を解決してきていることは、よくきいておりますぞ」とオーテンシオは言った。
「因果の糸はおだまきの、みちのくなれば白松ガモナカ」
 師には時々わけのわからないことを言う癖があった。
「ライオン丸の碩学シピンは」と僧院長が遠回しに言った。「至高者の存在を証明するにさいして、ひたすら理性だけを頼りに、後年は髭を剃り落として真実へと到達されました」
「私ごとき者がどうして」とパチョレックがへりくだって言った。「シピン博士に異議を唱えましょうか。神は、すでにボブホーナーが熟知していたように、私たちの魂の内部から語りかけてきます。だからデモドリのフィルダーはブライアントよりも偉大なのです」
 この二人の会話は無意味である。
「バラバラの名前」 『バラバラの名前』(清水義範 新潮文庫 p.12-13)

(タイトルの「バラバラの名前」は1986年のショーン・コネリー主演の映画薔薇の名前から。映画の元になったのは、なんだかよく知らないけど難解で有名な小説「薔薇の名前」)




因果の糸はおだまきの、みちのくなれば白松ガモナカ――。

いいなぁ、これ。
何度も何度も繰り返し、しっかり暗証しておこう。

そして、今度、誰かと話をしていて、
相手の言葉や態度に思わずカッと頭に血がのぼった瞬間に、

まるで車酔いでもして汚物を吐く時みたいに
腹の底から激しい言葉がものすごい勢いで込みあげてきて
あやうく口からほとばしり出しそうになったら、

それをぐっと飲み込んで、言うんだ。
できるだけ、ゆっくりと重々しい口調で。

「うん。そうだね。
だって、因果の糸はおだまきの……」

そして、
「白松ガモナカ」のところで、ニッと笑って見せる。

それができたら……あはは。
そんなの、もう即身仏じゃないか。

できるか、んなこと。
2013.03.29 / Top↑
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