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カナダのAlberta大学といえば哲学とか障害学のWilson教授、Sobsey教授が
当ブログではおなじみですが、

当ブログが継続的に考えている問題のひとつ、
言葉で意思や痛みを表現することが難しい人の医療の問題を
ここしばらく(こことかこことかで)、また取り上げていたところ、

例によって“必然としか思えない偶然”が起こり、たまたま面白い情報に出くわしたので、
今回は同大・作業療法学科のCary Brown 準教授のプロジェクトをご紹介。



認知症の人の痛みに気づくために、
その典型的な痛み行動について理解を深めるオンライン・ワークショップです。

サイトを訪れると、まず池の水面に散り敷いた落ち葉の写真に出会います。
落ち葉によって水面下で起きていることは覆い隠されてしまっています。
それと同じように、認知症の人々が経験している痛みの深さを知ることも難しい

「あなたはアルツハイマー病または認知症の人をケアしていますか?
 その人に痛みがある時に、あなたは気づけますか?」

認知症患者で見過ごされている最も一般的な痛みは、
関節炎、糖尿病による神経障害、骨折、筋肉の拘縮、打ち身、腹痛、口腔潰瘍など。

このサイトで出来ることとしては、
まず、以下の内容について、
さらに細かく立てられたテーマごとにBrown氏の講義を聞くことが出来ます。

・認知症と痛みに関する情報
・認知症の人の痛みに気づくためのツール
・理解しておいて医療職との意思疎通に役立てたい用語集

次に、自分で家族介護者を対象に同じワークショップを開催しようと考える専門職向けに
Observing & Talking About Painというワークショップ開催のための
計画の立て方、予算の組み方から参加者募集の方法、
ポスター案、準備の手順などのアドバイスに始まり、

当日のパワーポイントのシートと配布資料、
プレゼンの内容と時間配分といったワークショップの内容に関する一切合財、

事後の反省のためのチェックシートなど、
誰でも簡単にワークショップが開催できるだけの懇切な材料がそろっています。

特にプレゼンの内容と配布資料が非常に詳細なので、
この資料をダウンロードして読むだけでも、家族介護者はもちろん、
専門職にも十分に学ぶところが多いでしょう。

プレゼンの内容を以下に取りまとめてみます。

プレゼン内容1 「痛みはない」という神話について

なぜ認知症の人の痛みは理解されないのか?

・メディアが情報を流さない。
テレビでも新聞・雑誌でも高齢者が痛みに苦しむ姿に接することが少ない。

・言葉を話せない人は理解されにくい。

・痛みは加齢につきもので「つきあっていく」しかないと社会が受け止めている。

・認知症と診断されると、認知症にばかり目を奪われて、それ以外の問題が意識から漏れる。
また痛みは、高血圧などのように可視化できないので把握されにくい。

・行為には解釈が必要で、
言葉を持たない誰かの行為を正しく解釈することは、
その人と長く一緒にいる人でなければ困難。
その人を知らなければ送っているサインを誤解してしまう。

・身体をゆするとか、激しく何かを叩くといった行為の多くは
論理的に痛みとつなげて考えられることがない。

プレゼン内容2 なぜ認知症の人に痛みがあるのか?

認知症の人の痛みには身体的な要因か心理的な要因、またはその両方による場合がある。

例えば認知症の人が熱いコーヒーで口の中をやけどしてしまった場合に、
そのことを言葉で伝えることが出来なければ家族にはわからないし、
口の痛みを訴えることが出来たとしても、
それがコーヒーによるものだということを本人が忘れていれば
家族に理由を説明することが出来ない。
ものを食べようとしない本人を心配する家族は
口の中のやけどに気づかないまま食事を勧め、
オヤツを食べさせようとする。
それに抵抗する本人がやがて攻撃的になったり、
自分のうちに閉じこもってしまうと、
それが家族や医療職の目に脈絡のない行動と映ってしまう。

身体的な要因としては

・痛みを認識して表現することの問題
・事故や転倒(気づかないことが多い)
・口腔内の痛み(歯痛、潰瘍)
・活動性の低下(便秘、動かないための関節のこわばり、圧迫創、筋肉や関節の拘縮、事故や転倒)
(事故や転倒には周囲が気づかないことが多く、本人も忘れていたりする)

身体的な要因と心理的な要因が重なったものとして

・痛みを訴えると、自立生活が出来ないとみなされてしまうのではと恐れて言わない

・すぐに薬を処方されて中毒にされるのではないか、との恐れ。
これは本人だけでなく家族や医療関係者にもある重大な懸念ではあり、
実際に正しい知識を欠いた医療職が多いのも実情。
これについては最新のガイドラインをワークショップ内で別途解説する。

・痛みは認知症の人のQOLや機能の維持向上に重要な問題だということが
周囲の人たちに認識されていない。

・認知症の人の痛みに対応するための方針が未だに確立されていない。

プレゼン内容3 痛みを見つけるヒント

認知症の人の一般的な痛み行動とは
・顔の表情
・言葉で訴える、声を出す
・身体の動き
・日々の行動の変化
・考えと感情の変化

(ここで、米国老年医学会とオーストラリア痛み学会の作成・刊行による
「痛みに気づく - 高齢者入所施設における痛みのマネジメント戦略」が紹介されます。
これは、別途、次のエントリーに)

プレゼン内容4 痛みを見つける具体的な方法 PAINAD ツールの紹介

PAINADとは、上記で解説された項目ごとに認知症の人を観察し、
0から2点でその結果を記入していくアセスメント・シート。

このチェックを定期的に行うことで、
高齢者入所施設で入所者の痛みを早期に把握し、対応しようと
アルベルタ大作業療法学科が提唱しているもの。
(これも、興味ある方はワークショップ開催資料をダウンロードすると、たぶん33ページ辺りに)

プレゼン内容5 痛みへの対応

認知症の人の家族がPAINADを利用する場合の使い方を説明。
それ以外に家族が気をつけることが出来る点としては、

・その人が座ったり寝たりしている姿勢で
圧迫されているところ、こすれてしまうところがないかチェックする。
頻繁に体位交換を行う。

・セラピストの指導を受けて、家族みんなで腕や足をいっぱいまで伸ばしてあげる。

・乾燥肌は痛みに繋がるので、毎日のケアの中にローションの塗布を取り入れる。

・脱水も痛みに繋がるので、その人にとって必要な1日の水分量を医療職に確認する。

・ セラピストの指導を受けて、安全なトランスファーの方法を身につける。
2009.09.09 / Top↑
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