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ICSI(卵細胞質内精子注入法・顕微授精)で双子を産んだYvonneさん(37歳)。

今年2歳になる双子の一人Avaは体が正常とされるよりも小さく、
足もまっすぐではなかったので治療した。

もう一人のLewisの方は先天性の生殖器異常があり、
正常に戻すには、この先、何度も手術が必要になる。

生殖補助技術で生まれた子どもの先天異常について調べた時には、
健康に問題が生じる確率はきわめて低いという情報ばかりでした。

もちろん噂や憶測は常に耳に入っていたし、それは
不妊治療をやっている人なら多かれ少なかれ意識していますけど、
親になることに必死のあまり自分には起こらないと考えてしまうんです。

Lewisを医師に見せた時に最初に訊かれたのは
体外受精またはICSIで生まれた子ですか、という質問でした。
それで、ああ、IVFではよく起こるんだなと思いました。

もちろん自然に生まれた子どもでも起こることなのだから
生殖補助技術が原因だと証明はできませんが、
確率が高くはなるんだろうなと思います。

AvaとLewis がいることは本当に嬉しいし、後悔はありません。
私たちと同じように生殖補助医療で子どもを産んだ夫婦の中には
心臓の奇形や、もっと深刻な問題が起こっているケースもあるので
それを考えたら、私たちはまだ軽く済んだほうだと思います。

でも、もう一度ICSIをやるかと訊かれたら、答えは絶対にNO。

家族がほしかった私の自分勝手な思いが
Lewisに今の異常を起こしたのだろうかって、どうしても考えずにはいられません。

ただ、もしも誰かに、先天異常の確率が、例えば10%高くなると言われていたとしても、
それで気持ちが変わったとは思いません。子どもは欲しかったですから。

ただ、ちゃんと事実を教えて欲しかった


2月に米国の科学者が報告し、
ヒト受精・胚機構(HFEA)もガイドラインを変更したところでは
生殖器異常、心臓弁の異常、口蓋裂、消化器異常、
Angelman症候群やBeckwith-Wiederman症候群などの遺伝病が
起こる確率がIVFでは自然に妊娠した子どもの30%高くなる。

(もっとも、自然に生まれた子どもよりも3割がた高いとしても、
全体としての確率は依然2,6%に過ぎない、ともガイドラインに書かれている。)

IVFの専門家は
先天異常の確率が高くなるという研究はあるが、
データにはまだばらつきがあるし、
仮に異常が起こっているとしても、さほど深刻なものではないケースがほとんどなので
むやみに患者を心配させるのはよくない、と。

英国で最も成功しているIVFの専門医 Dr. Mohamed Taranissiは
「アドバイスを求めてこられれば知っていることはお話しますが、
同時に私たちには分からないこともお話します。
まだ全体的に言えるほど分かっていないこともありますからね。

異常が起こる確率が高いという研究というのはいずれも、
小さなものとして分類できる程度の異常についてあげつらったもので
重大な先天異常ではありません。

それに、全然違う結果が出ている研究もありますよ」

またIVFの専門家によっては
もともと自然には妊娠できないということは
精子そのものに先天異常を起こす原因がある可能性も高く、
IVFを受ける女性は出産年齢も高くなりがちなので、
体外授精で先天異常の確率が高いとしても治療に欠陥があるとはいえない、とも。

Yvonneさん夫婦と同じくICSIで双子を産んだMarie & Mark Storey夫妻の場合、
双子の一人が、腸がねじれた状態で生まれ、外科手術でも治すことができなかったため、
栄養は腸ろうを通じて与えなければならない。

Storey夫妻はICSIに際して、
ホルモンを大量に投与するため母親の体にリスクがあるという点と
多胎児になるとそれだけリスクがあがるという点について説明は受けたが、
それ以外にリスクについて説明はなかったという。

もっとも、
「仮にリスクが説明されていたとしても、やっていたと思います。

リスクばかり強調すると、逆に
まるでパーフェクトな赤ん坊を保障する方法があるかのように聞こえるけど、
実際には人生に100%確実なことなどないことを忘れないことが大事。
医療のおかげで自分の子どもを持てたのは
とてもラッキーだったと思っています」

生殖補助医療に批判的なチャリティComment On Reproductive Ethicsでは
親に対してこうした事実をきちんと伝える義務とは別に、
こうした治療の結果生まれてくる子どもたちに対する義務というものがある

Ashley事件の時にも扇情的な記事の書き方をする新聞だなとは思ったけど、
今回のタイトルも「試験管時限爆弾? 
命の贈り物をもたらすが、IVFの子どもには先天異常の確率が3割高いと科学者ら指摘」。



Taranissi医師が
Yvonneさんの子どもの生殖器異常も
Storey夫妻の子どもが栄養を腸ろうから摂るしかないことも
「取るに足りない小さな異常」に過ぎないというのであれば、
それはなんという医療の傲慢なのだろう。

そして、この記事には書かれていないけれど忘れてはならない事実として、

英国とは
胎児に先天異常がある場合には、
それがたとえ口蓋裂や内反足程度の問題であっても、
また出産のどの段階に至っていたとしても中絶が認められている国……。

つまり、
この記事で生殖補助医療の専門医らが
「小さな異常に過ぎない」として歯牙にもかけていないのは、
この国では実は「生まれても殺してかまわない異常」なのだ。

なぜか記事には「障害があっても生まれてくれて嬉しい」という夫婦しか登場しないけれど、
こうした英国中絶法の現実を念頭に、記事に書かれているIVFの専門家の発言を読むと、
おなかの底の辺りが冷え冷えとしてこないだろうか。

私はこのブログを始めた当初から
科学とテクノロジーによる簡単解決万歳文化には
「そんなに障害児・者を嫌悪しながら、その一方で自分たちは、
どうしてわざわざ障害児が生まれる確率を上げるようなことばかりするのか」と
そこのところの矛盾にずっと疑問を感じているのだけれど、

ここでも行き着くのは、やっぱり、その疑問。



2009.05.06 / Top↑
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