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Kaylee事件について書いた昨日のエントリーの後半部分を、
別エントリーとして以下に独立させました。


Kaylee事件のニュースを読んでから
ここしばらく、ずっと頭の隅っこに引っかかっている素朴な疑問が
またぞろ気になり始めた。

それは、4月4日の朝日新聞の記事。

97~98年の日本循環器学会心臓移植委員会の調査結果を取り上げて、
臓器移植法の改正に期待する関係者らの声を紹介しているのだけれど、

私がものすごく違和感を覚えたのは
その記事の右上に どん! というくらいの存在感で目を引く大きな分数。

136 / 432

この分数は記事タイトル「心臓移植 実現は 136 / 432」の最後の部分なのだけど、
「心臓移植 実現は」の活字よりも大きい数字が使われている上に
活字の白黒が逆転し、大きな黒い四角の中に白い数字が浮き出しているので
イヤでも目に付く、非常に視覚的アピール力の大きな分数になっている。

もちろんアピールしているのはリード部分の冒頭にあるように
「国内で心臓移植が必要とされた患者の3割しか、移植が受けられ」ていない実態で、

分数にしたのは
「移植が必要な人が432人もいるのに136人しか受けられていない」というギャップを
際立たせようとの意図なのだろうけど、

そこでは、そのギャップを憂う気持ちが、そのまま
「136を、もっと432に近づけていくべきだ」との主張と重なっている。

つまり、この部分を拡大して分数にするという編集判断から生まれるのは、

見る人の意識の中で、、
分子を限りなく近づけていくべき目標として、分母を位置づける視覚効果であり、

読者が受けるのは
「本来なら移植を受けられるべき人が、まだまだ受けられていない」という印象なのでは……。

少なくとも私には、この大きな分数は
「心臓をもらうべきなのに、まだもらえていない人がこんなにもいる」と
声を張り上げているように見えた。

しかし、臓器移植って、もともと、そういうものだったっけ……?
というのが、この分数を見た時に感じた素朴な違和感。

移植用の臓器って、もともと、ほしい人みんなに行渡るべきものだったっけ?

たまたま運悪く亡くなる人があって、たまたまその人が奇特な志の持ち主で、
さらにたまたま、その臓器が自分の状態にぴったりだった場合に、
運よくいただける……そういうものだったんじゃなかったっけ?

だからこそ、「命の贈り物」と呼ばれたんじゃなかったっけ?

いつから「命の贈り物」が「もらえるのが当たり前」のものに変わったんだろう?
臓器はいつから「必要な人すべてに行渡るべきもの」になったんだろう?

そもそも臓器移植という医療の性格からして
必要な人すべてに行渡るという状況が一体可能なんだろうか。

仮に理論的に可能だとして、
それは本来、あるべき状態と想定したり、目指すべきことなのだろうか。

医療技術が進歩して臓器移植がある程度安全な医療となったのだとしても、
だからといって臓器移植という技術の本質が変わるわけではないのに、
こんなふうに分数にしてしまえる神経というのは、
技術が進歩したことによって、人の死の上に成り立っている医療技術の本質を忘れて
それ以外の外科手術と同じように捉え始めているからではないのか。

もしも本当に、この分数の分母と分子とを限りなく近づけていくことを
移植医療が目指すのだとしたら、

それは、もはや「誰かの篤志によってありがたくいただく命の贈り物」ではなく
「贈り物の強要」になってしまう恐れはないのだろうか。




敢て Kayleeちゃんの写真を再掲しました。

ほんの数日前まで医師や親たちが、この子の心臓を
「Lillianちゃんにあげよう」と決めていた事実の重大さを考えたい。

「Kayleeちゃんは、どうせ、すぐに死ぬんだから、今から死なせてしまおうね。
Kayleeちゃんの心臓が止まったら、すぐに取り出してLillianちゃんにあげるよ」
といって、このピンク色をした赤ちゃんから呼吸器が外されたのだという事実を──。

それでも死なずに自力で呼吸しながら生きている
今のKayleeちゃんの、この姿を──。

心臓移植を巡って新聞に大きく掲載された分数の
分母を、分子を限りなく近づけていくべき目標と捉える発想には
こういう事件を起こす可能性が潜んでいる……なんてことは
本当にないのかどうか、ということを──。


ちなみに、Denver子ども病院では
心停止から75秒でドナーの子どもの心臓を摘出しているのだとか。


【Kaylee事件 関連エントリー】

2009.04.15 / Top↑
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