“Ashley療法”論争時にWPに痛烈な皮肉に満ちた批判を書いたWilliam Saletanが
こうした最先端技術の“快挙”が報告される際の
研究者サイドの巧妙な言葉の操作を詳細に検証し、
こうした最先端技術の“快挙”が報告される際の
研究者サイドの巧妙な言葉の操作を詳細に検証し、
それによって彼らが技術の陰の“醜い真実”と
さらに優生思想そのものを隠蔽していることを鋭く指摘しています。
さらに優生思想そのものを隠蔽していることを鋭く指摘しています。
Eugenic Euphemisms
Protecting our children from disease –- and ugly truths.
By William Saletan, January 14, 2009
Protecting our children from disease –- and ugly truths.
By William Saletan, January 14, 2009
冒頭、Saletanはまず、
「BRCA1遺伝子による乳がんのリスクのない赤ちゃん誕生」という
“快挙”ニュースの陰で見失われがちな、
そのプロセスで「何が行われたのか」という事実関係を確認します。
「BRCA1遺伝子による乳がんのリスクのない赤ちゃん誕生」という
“快挙”ニュースの陰で見失われがちな、
そのプロセスで「何が行われたのか」という事実関係を確認します。
医師らはまず、
母親に排卵誘発剤を投与して過剰に生成された卵子を採取し、
それらを父親の精子と受精させて11個の胚を作った。
それら11個の胚の遺伝子を調べたところ、
そのうちの6個に乳がんの遺伝子があった。
その他の3個には「別の異常」があった。
それら9個の胚はすべて「廃棄」された。
残り2個が母親の子宮に入れられて、
その片方が、生まれてきた子ども。
母親に排卵誘発剤を投与して過剰に生成された卵子を採取し、
それらを父親の精子と受精させて11個の胚を作った。
それら11個の胚の遺伝子を調べたところ、
そのうちの6個に乳がんの遺伝子があった。
その他の3個には「別の異常」があった。
それら9個の胚はすべて「廃棄」された。
残り2個が母親の子宮に入れられて、
その片方が、生まれてきた子ども。
その上でSaletanが指摘している言葉の操作は以下の4点。
1.“受胎前診断”、“pre-embyo” が胚の無価値化を推し進める。
今回の“快挙”では、少なくとも6個のヒト胚が作られ、
検査で合格しなかったという理由で廃棄されている。
検査で合格しなかったという理由で廃棄されている。
こうした検査が今や“受胎前診断”と呼称されるのは
着々と進められていく胚の無価値化の新たなステップである。
着々と進められていく胚の無価値化の新たなステップである。
まず最初に「IVF胚は妊娠ではない」と言われた。
妊娠が着床によって始まることを考えれば、これは技術的には正しい。
しかし、次に初期の胚は胚ではなく”pre-embyo”に過ぎないと言い出したのは
技術的にも正しくない、ただES細胞を採取するための言い訳に過ぎない。
妊娠が着床によって始まることを考えれば、これは技術的には正しい。
しかし、次に初期の胚は胚ではなく”pre-embyo”に過ぎないと言い出したのは
技術的にも正しくない、ただES細胞を採取するための言い訳に過ぎない。
今回の“快挙”を成し遂げたUniversity College LondonのSerhal医師に言わせると
廃棄されたのは“異常のある細胞の集まり”に過ぎないそうだ。
廃棄されたのは“異常のある細胞の集まり”に過ぎないそうだ。
2.何が回避されたのかが誤魔化されている
大学の担当者らが出したニュース・リリースでは
「この女児は成人してから遺伝性の乳がんと子宮がんが発生する見込みと
直面することはないだろう」と書かれているが、なぜ“見込み”なのか。
「この女児は成人してから遺伝性の乳がんと子宮がんが発生する見込みと
直面することはないだろう」と書かれているが、なぜ“見込み”なのか。
それは、この技術で回避されたのが確実に起こる癌でも、確実に起こる死でもないからだ。
この夫婦が自然懐胎した場合に、子どもが遺伝子変異を受け継ぐ確率は50%。
受け継いだ場合に癌になる確率は50~85%。
つまり、この技術で回避されたのは、25~45%の確率に過ぎない。
しかも、いつ発病するかと言えば「成人してから」。
受け継いだ場合に癌になる確率は50~85%。
つまり、この技術で回避されたのは、25~45%の確率に過ぎない。
しかも、いつ発病するかと言えば「成人してから」。
胚のスクリーニングは、
命に関わる子どもの病気が確実なケースだけでなく
死なないで済む可能性もある、しかも発病そのものが可能性に過ぎない大人の病気まで
弾こうとする段階へと進みつつあるのだ。
命に関わる子どもの病気が確実なケースだけでなく
死なないで済む可能性もある、しかも発病そのものが可能性に過ぎない大人の病気まで
弾こうとする段階へと進みつつあるのだ。
3.親を加害者視することで、スクリーニングは義務化される。
同じく大学のプレスリリースに
「これによって親はこの病気を子どもにinflict することを免れる」。
「これによって親はこの病気を子どもにinflict することを免れる」。
(inflictとは、危害を加えること)
着床前診断技術が登場するまでは
病気の遺伝子を子どもが受け継ぐ可能性が50%あるということは悲劇だったのだが、
今では、予防できるのに怠って親が子どもに加える危害ということになったらしい。
病気の遺伝子を子どもが受け継ぐ可能性が50%あるということは悲劇だったのだが、
今では、予防できるのに怠って親が子どもに加える危害ということになったらしい。
すなわち今はオプションである胚のスクリーニングは将来の義務となる。
4.子を守ることから家系の浄化へ。
同じくプレスリリースに
「こうした家族を何代にも渡って苦しめてきた遺伝性乳がんの継承が断たれることこそ
長く受け継がれるlegacyとなる」と。
「こうした家族を何代にも渡って苦しめてきた遺伝性乳がんの継承が断たれることこそ
長く受け継がれるlegacyとなる」と。
(legacyとは、先祖代々受け継がれる財産、遺産)
女児の母親の喜びの言葉にも「私たちは家系からこの遺伝子を排除しているのです」
Serhal医師も「私たちはこの遺伝子を家系全体から排除しているのです」
Serhal医師も「私たちはこの遺伝子を家系全体から排除しているのです」
そりゃ、効率的なことではある。
しかし、効率と集団的浄化こそ、かつての優生思想の基本理念であった。
しかし、効率と集団的浄化こそ、かつての優生思想の基本理念であった。
現に同大の研究者らはこの技術をあらゆる癌に応用しようとしている。
そして、Saletanの結びの言葉。
この女性とこの赤ちゃんには、お喜びを。
我々はみんな子孫を病気から守ってやりたいと思う。
しかし子孫を良心からも真実からも守り遠ざけてしまうことは、やめようではないか。
我々はみんな子孫を病気から守ってやりたいと思う。
しかし子孫を良心からも真実からも守り遠ざけてしまうことは、やめようではないか。
―――――――――
こうした言葉の微妙かつ巧妙な操作は、Ashley事件にも満ち満ちています。
危険な時代になりました。
様々な利害を隠した専門家や企業に巧妙に言いくるめられぬよう、
確かな自前の判断力を磨いておきたいものです。
様々な利害を隠した専門家や企業に巧妙に言いくるめられぬよう、
確かな自前の判断力を磨いておきたいものです。
当ブログのSaletan関連エントリーは以下。
2009.01.16 / Top↑
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