インターネットを通じた4000人以上への世論調査で、
10人に7人が「不治」の病気の人への近親者の自殺幇助は許されるべきだ、として
英国の法改正に賛成、と答えた。
反対したのは16%で
どちらとも分からないと答えた人が14%。
宗教など個人的な信条による違いは見られなかった。
自殺幇助を支持する理由としては
82%があげたのが、いつどのような死に方をするかを決める「権利」。
77%があげたのが、苦しみが長引くよりも死んだ方がよい。
35%があげたのが、NHSではちゃんとした終末期ケアは受けられそうにないから。
合法化推進の立場がやった調査なんだろうなぁ、と思われ、
その点で気になるのは、
質問が(少なくともこの記事の書き方だと)
「医師による自殺幇助」ではなく「近親者による自殺幇助」について聞いていながら、
記事の解説部分ではその違いが明確にされていないこと。
「終末期」の人について聞いているのではなく
「不治」の人について聞いていること。
(「不治」=「末期」ではないのに、
合法化推進派は意図的にそこを混同させようとする傾向があると思う)
質問設定が
「自殺幇助を支持するか」「生命の神聖を支持するか」というふうに、
推進派が描いて見せる「死の自己決定」か「なにが何でも延命か」という
現実的でない二項対立の構図を描くものとなっている。
(慎重派が主張しているのは必ずしも「なにが何でも延命」ではなく、
個々のケースについての過不足のない丁寧な判断であり、
例えば、アグレッシブな症状コントロールとしての緩和や全人的サポートなど、
推進派の描く対立の中間を丁寧に模索しようとの姿勢だろうと個人的には思うのだけれど、
単純化した両極端の対立の構図を描くことで、それが見えなくなってしまう)
NHSで現在問題になっている
リヴァプール・ケア・パスウェイの機会的適用問題が
35%の「どうせ丁寧なケアなんか受けられないんだから」と
記事タイトルにあるように「NHSへの不安が自殺幇助への支持を後押し」する
事態となっている。
LCPの機会的適用問題についてはこちらに ⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65742574.html
これは私自身、
日本で尊厳死合法化に賛成だという人たちの理由も
実際はそういう辺りにあるのではないか、と感じてきたし、
平穏死を説いている医師らの中心的な主張についても、実は
現在の医療の在り方に対して、個々の患者に丁寧な医療ができていない、との批判だという
疑問があったので、すごく気になるところ。
もとGPのSarah Wollaston議員は
現在の終末期医療は劇的に改善されてきているとして、
If that is major concern it doesn’t mean we should go down the road of saying people are worried about that, let’s give them a pill.
もし、それが大きな不安なんだとしても、
だからといって、合法化して不安な人には致死薬を上げましょうということにはならない。
NHS fears fuelling support for assisted suicide, poll suggests
The Telegraph, April 30, 2013
LCPの機会的適用問題というのは、
医師による自殺幇助が合法化されていないにもかかわらず、
医療現場で機会的なLCPの適用で事実上の安楽死となっているとしたら、
ゆゆしき事態であり、そちらの現状を正すべきだ、という話だろうと思うのに、
そういう問題までが
「どうせ機会的にLCPに乗せられて、まともにケアしてもらえないなら」という
合法化への動機づけとして作用していくのか……。
こういう世の中になってくると、
ありとあらゆるものが、ある一定の方向に向かおうとする
時代の力動に取り込まれてしまう……みたいな……?
時代の不寛容な空気が、
不当なことに対して憤る力を人々から削ぎ取り、
諦めて自ら身体や命を捧げようとするところへと誘導していく……。
やっぱり思うのは、
世界がどんどん「虐待的な親のような場所」になってゆく――。
……世界で起こっていることや、
人間の社会がどっちに向かって行こうとしているかとか、
その中で日本がこの先どっちに行くのかとか、
そういう大きな絵に目を向けてばかりいると、つくづく希望がなくて、
「どうせ」とか「いっそ」とかいう自棄的な気分になってしまうから、
目の前の、あの人やこの人との繋がりのことを、
しばらく考えていよう。
少なくとも、そういうところには希望はまだいっぱいある――。
10人に7人が「不治」の病気の人への近親者の自殺幇助は許されるべきだ、として
英国の法改正に賛成、と答えた。
反対したのは16%で
どちらとも分からないと答えた人が14%。
宗教など個人的な信条による違いは見られなかった。
自殺幇助を支持する理由としては
82%があげたのが、いつどのような死に方をするかを決める「権利」。
77%があげたのが、苦しみが長引くよりも死んだ方がよい。
35%があげたのが、NHSではちゃんとした終末期ケアは受けられそうにないから。
合法化推進の立場がやった調査なんだろうなぁ、と思われ、
その点で気になるのは、
質問が(少なくともこの記事の書き方だと)
「医師による自殺幇助」ではなく「近親者による自殺幇助」について聞いていながら、
記事の解説部分ではその違いが明確にされていないこと。
「終末期」の人について聞いているのではなく
「不治」の人について聞いていること。
(「不治」=「末期」ではないのに、
合法化推進派は意図的にそこを混同させようとする傾向があると思う)
質問設定が
「自殺幇助を支持するか」「生命の神聖を支持するか」というふうに、
推進派が描いて見せる「死の自己決定」か「なにが何でも延命か」という
現実的でない二項対立の構図を描くものとなっている。
(慎重派が主張しているのは必ずしも「なにが何でも延命」ではなく、
個々のケースについての過不足のない丁寧な判断であり、
例えば、アグレッシブな症状コントロールとしての緩和や全人的サポートなど、
推進派の描く対立の中間を丁寧に模索しようとの姿勢だろうと個人的には思うのだけれど、
単純化した両極端の対立の構図を描くことで、それが見えなくなってしまう)
NHSで現在問題になっている
リヴァプール・ケア・パスウェイの機会的適用問題が
35%の「どうせ丁寧なケアなんか受けられないんだから」と
記事タイトルにあるように「NHSへの不安が自殺幇助への支持を後押し」する
事態となっている。
LCPの機会的適用問題についてはこちらに ⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65742574.html
これは私自身、
日本で尊厳死合法化に賛成だという人たちの理由も
実際はそういう辺りにあるのではないか、と感じてきたし、
平穏死を説いている医師らの中心的な主張についても、実は
現在の医療の在り方に対して、個々の患者に丁寧な医療ができていない、との批判だという
疑問があったので、すごく気になるところ。
もとGPのSarah Wollaston議員は
現在の終末期医療は劇的に改善されてきているとして、
If that is major concern it doesn’t mean we should go down the road of saying people are worried about that, let’s give them a pill.
もし、それが大きな不安なんだとしても、
だからといって、合法化して不安な人には致死薬を上げましょうということにはならない。
NHS fears fuelling support for assisted suicide, poll suggests
The Telegraph, April 30, 2013
LCPの機会的適用問題というのは、
医師による自殺幇助が合法化されていないにもかかわらず、
医療現場で機会的なLCPの適用で事実上の安楽死となっているとしたら、
ゆゆしき事態であり、そちらの現状を正すべきだ、という話だろうと思うのに、
そういう問題までが
「どうせ機会的にLCPに乗せられて、まともにケアしてもらえないなら」という
合法化への動機づけとして作用していくのか……。
こういう世の中になってくると、
ありとあらゆるものが、ある一定の方向に向かおうとする
時代の力動に取り込まれてしまう……みたいな……?
時代の不寛容な空気が、
不当なことに対して憤る力を人々から削ぎ取り、
諦めて自ら身体や命を捧げようとするところへと誘導していく……。
やっぱり思うのは、
世界がどんどん「虐待的な親のような場所」になってゆく――。
……世界で起こっていることや、
人間の社会がどっちに向かって行こうとしているかとか、
その中で日本がこの先どっちに行くのかとか、
そういう大きな絵に目を向けてばかりいると、つくづく希望がなくて、
「どうせ」とか「いっそ」とかいう自棄的な気分になってしまうから、
目の前の、あの人やこの人との繋がりのことを、
しばらく考えていよう。
少なくとも、そういうところには希望はまだいっぱいある――。
2013.05.02 / Top↑
PASが合法化されたオレゴン州で
癌患者にメディケアから「抗がん剤治療はダメだけどPASはOK」という
通知が届く事態となっているという情報は以下のエントリーで拾っています。
抗がん剤はダメだけど幇助自殺はOKとメディケア(2008/10/4)
「抗がん剤も放射線もダメだけど自殺幇助はOK」というOR州メディケアのガイドライン(2011/1/17)
ただ、2008年の問題については
11年の論文を含め、その後も特定の人のケースしか言及されていないので、
一般的な状況がどうなのか、ちょっと気にかかっていたところ、
医師による自殺幇助(PAS)合法化法案と違法化法案とが
相次いで州議会に提出されては否決される事態となっている
モンタナ州の州民に対して、
既に合法化されているオレゴン州の癌専門医Kenneth Stevensから、
合法化せず医療を守れ、と呼びかける新聞投書があり、
関連情報が含まれているので、以下にその個所を。
In Oregon, the combination of assisted suicide legalization and prioritized medical care based on prognosis has created a danger for my patients on the Oregon Health Plan (Medicaid). First, there is a financial incentive for patients to commit suicide: the plan will cover the cost. Second, the plan will not necessarily cover the cost of treatment due to statistical criteria. For example, patients with cancer are denied treatment if they are determined to have “less than 24 months median survival with treatment” and fit other criteria. Some of these patients, if treated, would however have many years to live, as much as five, 10 or 20 years depending on the type of cancer. This is because there are always some people who beat the odds. The plan will cover the cost of their suicides.
In Oregon, the mere presence of legal assisted-suicide steers patients to suicide even when there is no coverage issue. One of my patients was adamant she would use the law. I convinced her to be treated instead. Twelve years later she is thrilled to be alive.
Don’t make Oregon’s mistake.
オレゴンでは、
合法化された自殺幇助と予後によって優先順位を付けた医療制度が併存していることによって、
私のメディケイド患者には危険な事態となっています。
まず、OR州のメディケイド、オレゴン・ヘルス・プランは自殺幇助の費用を支給するので、
患者にとっては自殺に向かう財政的なインセンティブがあります。
次に、オレゴン・ヘルス・プランは統計データを基準に必ずしも治療のコストを給付しません。
例えば私の癌患者は、治療しても延命の中間値が24カ月を超えないとみなされたり、
その他の基準が当てはめられたりすると、治療を拒否されます。
そういう患者の中には、治療すれば何年も、
癌の種類によっては5年、10年あるいは20年だって生きられる患者もいます。
確率を超える人というのは常にいるわけです。それでも、
オレゴン・ヘルス・プランはそういう患者の自殺のコストを給付するのです。
オレゴンでは、PASを合法とする法律があるというだけで、
メディケアの給付問題がない時でも患者は自殺へと促されます。
私の患者の一人は尊厳死法を利用すると頑固に言い張っていましたが、
私は治療を受けるよう説得しました。12年経って、いま
彼女は生きていることを喜んでいます。
オレゴンの過ちを繰り返さないでください。
この人の投稿には、
癌で亡くなった妻が最後の受診の際に、
帰りがけに医師から薬のオーバードースという方法がありますよ、と言われて
ショックを受けて「ケン、この人、私に自殺しろって言ってる」と言ったという
エピソードが紹介されており、それがPAS問題に触れた最初だった、と。
Protect health care; keep assisted suicide out of Montana
Ravalli Republic, April 22, 2013
癌患者にメディケアから「抗がん剤治療はダメだけどPASはOK」という
通知が届く事態となっているという情報は以下のエントリーで拾っています。
抗がん剤はダメだけど幇助自殺はOKとメディケア(2008/10/4)
「抗がん剤も放射線もダメだけど自殺幇助はOK」というOR州メディケアのガイドライン(2011/1/17)
ただ、2008年の問題については
11年の論文を含め、その後も特定の人のケースしか言及されていないので、
一般的な状況がどうなのか、ちょっと気にかかっていたところ、
医師による自殺幇助(PAS)合法化法案と違法化法案とが
相次いで州議会に提出されては否決される事態となっている
モンタナ州の州民に対して、
既に合法化されているオレゴン州の癌専門医Kenneth Stevensから、
合法化せず医療を守れ、と呼びかける新聞投書があり、
関連情報が含まれているので、以下にその個所を。
In Oregon, the combination of assisted suicide legalization and prioritized medical care based on prognosis has created a danger for my patients on the Oregon Health Plan (Medicaid). First, there is a financial incentive for patients to commit suicide: the plan will cover the cost. Second, the plan will not necessarily cover the cost of treatment due to statistical criteria. For example, patients with cancer are denied treatment if they are determined to have “less than 24 months median survival with treatment” and fit other criteria. Some of these patients, if treated, would however have many years to live, as much as five, 10 or 20 years depending on the type of cancer. This is because there are always some people who beat the odds. The plan will cover the cost of their suicides.
In Oregon, the mere presence of legal assisted-suicide steers patients to suicide even when there is no coverage issue. One of my patients was adamant she would use the law. I convinced her to be treated instead. Twelve years later she is thrilled to be alive.
Don’t make Oregon’s mistake.
オレゴンでは、
合法化された自殺幇助と予後によって優先順位を付けた医療制度が併存していることによって、
私のメディケイド患者には危険な事態となっています。
まず、OR州のメディケイド、オレゴン・ヘルス・プランは自殺幇助の費用を支給するので、
患者にとっては自殺に向かう財政的なインセンティブがあります。
次に、オレゴン・ヘルス・プランは統計データを基準に必ずしも治療のコストを給付しません。
例えば私の癌患者は、治療しても延命の中間値が24カ月を超えないとみなされたり、
その他の基準が当てはめられたりすると、治療を拒否されます。
そういう患者の中には、治療すれば何年も、
癌の種類によっては5年、10年あるいは20年だって生きられる患者もいます。
確率を超える人というのは常にいるわけです。それでも、
オレゴン・ヘルス・プランはそういう患者の自殺のコストを給付するのです。
オレゴンでは、PASを合法とする法律があるというだけで、
メディケアの給付問題がない時でも患者は自殺へと促されます。
私の患者の一人は尊厳死法を利用すると頑固に言い張っていましたが、
私は治療を受けるよう説得しました。12年経って、いま
彼女は生きていることを喜んでいます。
オレゴンの過ちを繰り返さないでください。
この人の投稿には、
癌で亡くなった妻が最後の受診の際に、
帰りがけに医師から薬のオーバードースという方法がありますよ、と言われて
ショックを受けて「ケン、この人、私に自殺しろって言ってる」と言ったという
エピソードが紹介されており、それがPAS問題に触れた最初だった、と。
Protect health care; keep assisted suicide out of Montana
Ravalli Republic, April 22, 2013
2013.04.30 / Top↑
どの国のであれ、裁判制度のことは、さっぱりわからないのだけれど、
英国では誰かが始めた訴訟を、その誰かが死んだ場合には
他人が引き継ぐことができるらしい。
去年、日本でもNHKが妙な取り上げ方をしたNicklinson訴訟で、
Tony Nicklinsonさんが敗訴からの失意で食を断って死んだ後、
誰か裁判を引き継いでくれる人があるなら全面的にバックアップする、という
未亡人の呼びかけに応えて、
23年前の交通事故で四肢マヒとなった男性、Paul Lamb(57)が引き受けことになり、
3月13日に高等裁判所もLambがNicklinsonの上訴を引き継ぐことを認めた、というニュース。
Lambさんは右手がわずかに動く以外は全身がマヒしており、
肩には常時痛みがあってモルヒネを常用している。
自殺しようにも自分では自殺するすべがない、
唯一可能な方法は餓死だが、それは尊厳のある死に方ではなく、
死ぬまで見ていなければならない家族にも負担をかけるので
自分で選んだ時に選んだ場所で医師による自殺幇助を受けたい、と希望している。
裁判所に提出した理由の申立書に書かれている内容の一部は
Guardianによると、
“With my level of disability it is not feasible to avail myself of the right of suicide; a right which I have in theory but not in practice … so the law does discriminate against me by on the one hand giving me a right to end my life, but on the other hand it is not a right I can actually use because of my disabilities. This just does not make sense to me. It seems like a cruel trick on me. I could starve myself, but that does not seem a very dignified way of ending my life and it would be cruel, painful and distressing for my sister and son to witness as well as my carers.
"In the last 23 years I have endured a significant amount of pain. I am in pain every single hour of every single day. I have received input from various pain specialists. I have considered having operations. I am constantly on morphine. I suffer from severe pains in the back of my head. I suffer from a pain in my shoulders where the bone has worn away.
"I consider that I have lived with these conditions for a lot of years and have given it my best shot. Now I feel worn out and I am genuinely fed up with my life. I feel that I cannot and do not want to keep living. I feel trapped by the situation and I have no way out.
"Over the past 23 years I have given it my best shot in trying to live as fully as I can, but I am now ready to go. People tell me that I must keep trying – but there is only so much that a person can take."
なお、Nicklinsonさんの未亡人、Janeさんも
夫が自殺することができないまま苦しむのを見ていなければならなかったことが
欧州人権条約の第8条のプライベートな家族生活の権利に反するとして、
別途、訴訟を起こす予定だとか。
Right-to-die: paralysed builder to carry on Tony Nicklinson’s battle
The Guardian, April 18, 2013
【関連エントリー】
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
英国では誰かが始めた訴訟を、その誰かが死んだ場合には
他人が引き継ぐことができるらしい。
去年、日本でもNHKが妙な取り上げ方をしたNicklinson訴訟で、
Tony Nicklinsonさんが敗訴からの失意で食を断って死んだ後、
誰か裁判を引き継いでくれる人があるなら全面的にバックアップする、という
未亡人の呼びかけに応えて、
23年前の交通事故で四肢マヒとなった男性、Paul Lamb(57)が引き受けことになり、
3月13日に高等裁判所もLambがNicklinsonの上訴を引き継ぐことを認めた、というニュース。
Lambさんは右手がわずかに動く以外は全身がマヒしており、
肩には常時痛みがあってモルヒネを常用している。
自殺しようにも自分では自殺するすべがない、
唯一可能な方法は餓死だが、それは尊厳のある死に方ではなく、
死ぬまで見ていなければならない家族にも負担をかけるので
自分で選んだ時に選んだ場所で医師による自殺幇助を受けたい、と希望している。
裁判所に提出した理由の申立書に書かれている内容の一部は
Guardianによると、
“With my level of disability it is not feasible to avail myself of the right of suicide; a right which I have in theory but not in practice … so the law does discriminate against me by on the one hand giving me a right to end my life, but on the other hand it is not a right I can actually use because of my disabilities. This just does not make sense to me. It seems like a cruel trick on me. I could starve myself, but that does not seem a very dignified way of ending my life and it would be cruel, painful and distressing for my sister and son to witness as well as my carers.
"In the last 23 years I have endured a significant amount of pain. I am in pain every single hour of every single day. I have received input from various pain specialists. I have considered having operations. I am constantly on morphine. I suffer from severe pains in the back of my head. I suffer from a pain in my shoulders where the bone has worn away.
"I consider that I have lived with these conditions for a lot of years and have given it my best shot. Now I feel worn out and I am genuinely fed up with my life. I feel that I cannot and do not want to keep living. I feel trapped by the situation and I have no way out.
"Over the past 23 years I have given it my best shot in trying to live as fully as I can, but I am now ready to go. People tell me that I must keep trying – but there is only so much that a person can take."
なお、Nicklinsonさんの未亡人、Janeさんも
夫が自殺することができないまま苦しむのを見ていなければならなかったことが
欧州人権条約の第8条のプライベートな家族生活の権利に反するとして、
別途、訴訟を起こす予定だとか。
Right-to-die: paralysed builder to carry on Tony Nicklinson’s battle
The Guardian, April 18, 2013
【関連エントリー】
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
2013.04.20 / Top↑
モンタナ州議会に提出されていた
医師による自殺幇助を違法とする法案は
昨日、上院法務委員会での投票の結果、
反対27 対 賛成23で
廃案に。
Mont. Senate rejects doctor-assisted suicide bill
SFGate, April 15, 2013
攻防は続く。
すさまじい攻防が……。
【モンタナ州自殺幇助議論関連エントリー】
裁判所が自殺幇助認めたものの、やってくれる医師がいない?(MT州)(2009/4/6)
合法とされたMT州で自殺幇助受けられず子宮がん患者が死亡(2009/6/18)
自殺幇助を州憲法で認められたプライバシー権とするか、2日からモンタナ最高裁(2009/9/1)
モンタナの裁判で「どうせ死ぬんだから殺すことにはならない」(2009/9/3)
モンタナ州最高裁、医師による自殺幇助は合法と判断(2010/1/2)
MT州最高裁の判決文をちょっとだけ読んでみた(2010/1/5)
合法化判決出ても医師ら自殺ほう助の手続きに慎重(2010/1/11)
モンタナの自殺幇助合法化 続報(2010/1/16)
生きたいのにICなしのモルヒネ投与で死んでしまったALSの元外科医(MT州)(2013/3/26)
医師による自殺幇助を違法とする法案は
昨日、上院法務委員会での投票の結果、
反対27 対 賛成23で
廃案に。
Mont. Senate rejects doctor-assisted suicide bill
SFGate, April 15, 2013
攻防は続く。
すさまじい攻防が……。
【モンタナ州自殺幇助議論関連エントリー】
裁判所が自殺幇助認めたものの、やってくれる医師がいない?(MT州)(2009/4/6)
合法とされたMT州で自殺幇助受けられず子宮がん患者が死亡(2009/6/18)
自殺幇助を州憲法で認められたプライバシー権とするか、2日からモンタナ最高裁(2009/9/1)
モンタナの裁判で「どうせ死ぬんだから殺すことにはならない」(2009/9/3)
モンタナ州最高裁、医師による自殺幇助は合法と判断(2010/1/2)
MT州最高裁の判決文をちょっとだけ読んでみた(2010/1/5)
合法化判決出ても医師ら自殺ほう助の手続きに慎重(2010/1/11)
モンタナの自殺幇助合法化 続報(2010/1/16)
生きたいのにICなしのモルヒネ投与で死んでしまったALSの元外科医(MT州)(2013/3/26)
2013.04.16 / Top↑
12日に以下のエントリーで紹介した話題の元論文を読んでみました。
がんセンターに“アドボケイト”が最後まで担当してくれる「自殺幇助プログラム」(米)(2013/4/12))
上記の記事内容に追加する形で、以下の論文の内容を改めて簡単に取りまとめてみます。
Implementing a Death with Dignity Program at a Comprehensive Cancer Center
N Eng J Med, April 11, 2013
Seattle Cancer Care Alliance(SCCA)は
Fred Hutchinson Cancer Research Centerとワシントン大学、それから
シアトルこども病院の患者を外来形式で引き受ける包括的ながん治療センター。
患者はワシントン州だけでなく、ワイオミング、アラスカ、モンタナ、アイダホからも。
尊厳死プログラムの方針はその他の病院の方針と同じ手続きで承認されたもので、
それに加えて、患者、医師、アドボケイトが最後のプロセスまで使える情報パケットを作成した。
その中に明記されていることとして、
・SCCAは自殺幇助だけの目的でかかろうとする新規患者は引き受けず、Compassion&Choiceに紹介。。
・このプログラムについて公式ウェブサイトには掲載していない。
・致死薬はプライベートな場所でプライベートに飲むと誓約できない患者には出さない。
・職員に参加は義務付けない。
最後の点については
SCCAの医師ら200人に調査を行って81人から回答を得たところでは
29人(35.8%)が、処方することもカウンセリングを担当することもいいずれもOKで
21人(25.9%)は、カウンセリングのみOK。
31人(38.3%)は参加したくない、または決めかねていると回答。
この個所の最後に、論文は以下のように書いている。
「少数でも参加に前向きな医師がこれだけいれば、プログラムの実施には十分と考えられた」
参加希望の患者には、最初に担当のアドボケイトがつく。
同センターには6人の有資格のソーシャル・ワーカーがいて、そのうちの3人がプログラムを担当。
そのうちの1人が担当となり、担当医と共に患者がターミナルであること、自己決定能力があること、
全ての選択肢を理解した上で決断していることを確認し、
手続きがすべて合法的に行われるように全プロセスを通じて仕切る。
もともとSCCAでは、患者が尊厳死プログラムに参加するしないを問わず、
全患者にソーシャルワーカーが最初の心理社会的評価を行っている。
(この部分、WA州の尊厳死法は紹介責任を医師に負わせているが、
SCCAでは精神科のアセスメントの必要判断と紹介をソーシャルワーカーにやらせている、とも読める?)
次に、アドボケイトは患者にPOLSTを書かせる。「希望があれば、記入の支援をする」とも。
POLSTについては ⇒医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26))
POLSTに記入されるのは、
・致死薬を飲む際に医師にいてもらいたい場合はその手配。
・薬の入手方法と使わなかった薬の処分方法。
・グリーフケアと法的アドバイスのために定期的に訪問・受診(手紙を書いたりビデオを作ったり)
・家族には不測の事態の可能性を考えて患者が飲む時には連絡するように伝え、家族にもグリーフ・ケア。
・処方した医師は死後の報告書の書き方もアドボケイトから支援。
アドボケイトは通常は2回、患者と家族と面会する。
(この辺りを呼んでいると、なんとなく臓器移植のコーディネーターを連想する)
担当医が個人的な信条から参加したくない場合には、参加してもよいとする医療職から候補を選ぶ。
手続きが所定の通りに行われて処方箋が薬局に出されると、
薬剤師が患者と会い、副作用などについて詳しく説明する。
処方箋で薬を手に入れるかどうか、飲むかどうかは、その後の患者次第。
2009年5月5日から2011年12月31日の間に114人の患者から問い合わせがあり、
そのうち44人(38%)は問い合わせだけで参加しなかった。
30人(26.3%)は参加したものの、途中でやめたか、手続き途上で亡くなった。
残り40人(問い合わせた114人のうち35.1%)がカウンセリングと所定の要望を経て
致死量のセコバルビタールを処方され、全員が亡くなったが
そのうちセコバルビタールを飲んで死んだのは24人(処方されたうちの60%)。
セコバルビタールを使っているのは、ペントバルビタールが品薄のため。
がんセンターSCCAにおける尊厳死プログラムの参加者は
ワシントン州の尊厳死プログラムに参加した総数255人の15.7%に当たる。
その典型ケースは白人、男性、高学歴。
参加希望を断ったのは1人だけで、その理由はプライベートに飲むのを拒否したから。
SCCAのプログラム参加者は
SCCAの患者全体と比べてもメディケアのほかに個人的な保険にも入っている割合が高いことから、
WA州のプログラム参加者よりも働いている人が多いと思われる。
(と書きつつ、論文末尾の弱者への圧力を否定する個所では
SCCAの参加者像がWA州の州民像と異なっているという「エビデンスはない」と)
最初の要望の時点で、参加者の54.2%がホスピス・プログラムに登録している。
死亡時点での登録については調べていないが、
WA州の参加者の80.9%、OR州の参加者の89.7%が死亡時にホスピス・プログラムに登録している。
11人が半年という余命予測を超えて生きた。
このうち9人は半年を平均7.4週超えたところで致死薬を飲んで死亡。
最長は半年を18.9週超えてから飲んだ。(つまり余命半年とされた人が1年近く生きたことに?)
結局、自殺幇助で実際に死んだのはプログラム参加者の21%で
同センターの患者の年間死亡件数のうち 0.02%に当たる。
参加理由で最も多いのは
「自律の喪失」 97%
「楽しい活動ができなくなる/なった」 89%
「尊厳の喪失」 75%
一回目の要望時にコントロール不能の苦痛または将来の苦痛を挙げた人は
36人中(なぜ36人?)8人で22.2%。WA州全体では34.7%、OR州全体では22.6%。
精神障害の疑いでアセスメントを求められた人はいなかった。WA州では4.8%、OR州では6.7%。
これまでに家族からも介護者からも苦情は出ておらず、受け止めは良好。
患者の死は穏やかだったと言われる。
薬を実際に手に入れるか、飲むかに関わらず、処方箋が出ることに患者と家族が感謝を語り、
不透明な状況でも自分でコントロールできると思えることが大事なのだと話すのが常だという。
PAS反対論者は弱者への圧力になると言うが、
プログラム参加者のほとんどは白人の教育レベルの高い男性だと著者らは反論している。
(でも、自ら上で述べているようにSCCAの参加者が既に選別された層だからでもあろうし、
また、弱者への圧力はPASに追いやるという以外の形で起こる可能性もある)
不測の合併症は起きていないが、薬を飲んだ後、死ぬまで1日かかった患者が一人。
死が長引いたことは家族にとっても医師にとっても辛い体験となった。
同様のケースはこれまでにも報告されている(これは当ブログのORとWAの年間報告書に情報があります)
その他、特に興味深かった点として、
・患者と家族の受け止めが良好である理由について、著者らは
「我々のアドボケイトのプロフェッショナリズムによるもの」と書いている。
(これを読み、また臓器移植コーディネーターが頭に浮かぶ)
・6カ月を超えて生きた患者がいても、
処方した医師にもカウンセリングの担当医にも敢えて伝えないことにしている、という。
理由は、こうした情報を伝えると、医師らが患者に余命を伝えることに慎重となり、
現在でも病気がtoo lateなほど進行してからでないと余命が宣告されない問題を
悪化させてしまう恐れがあるから。(このプログラムのホンネが too late にチラリと?)
・この論文の最後のセンテンスがなかなか味わい深い。
The program ensures that patients (and families) are aware of all the options for high-quality end-of-life care, including palliative and hospice care, with the opportunity to have any concerns or fears addressed, while also meeting state requirements.
このプログラムによって、緩和ケアとホスピスケアもあり、どんな不安にも対応してもらえる機会があることを含め、良質な終末期医療のすべての選択肢を患者と家族がわかっていること、さらに州法規定に沿うこととを共に保障することができる。
SCCAの緩和ケアとホスピスケアの担当者って、この最後の一文を読んで、どう思うんだろう……?
患者と家族が「わかっている/知っている(aware)」というのは、
「受けようと思ったら受けられるんですよ、それを分かった上で受けないと自己決定するんですね」と
単に「あるってことは知っている」ことを確認すれば、後は患者の自己決定だから、それでいい……
ということでしかないんだろうか。
SCCAの緩和ケアの専門家も、そういう理解なんだろうか。
でも、ここに書かれているプログラムの姿勢って、
緩和ケアとホスピスケアの敗北ではないのか、という気がするんだけれど。
がんセンターに“アドボケイト”が最後まで担当してくれる「自殺幇助プログラム」(米)(2013/4/12))
上記の記事内容に追加する形で、以下の論文の内容を改めて簡単に取りまとめてみます。
Implementing a Death with Dignity Program at a Comprehensive Cancer Center
N Eng J Med, April 11, 2013
Seattle Cancer Care Alliance(SCCA)は
Fred Hutchinson Cancer Research Centerとワシントン大学、それから
シアトルこども病院の患者を外来形式で引き受ける包括的ながん治療センター。
患者はワシントン州だけでなく、ワイオミング、アラスカ、モンタナ、アイダホからも。
尊厳死プログラムの方針はその他の病院の方針と同じ手続きで承認されたもので、
それに加えて、患者、医師、アドボケイトが最後のプロセスまで使える情報パケットを作成した。
その中に明記されていることとして、
・SCCAは自殺幇助だけの目的でかかろうとする新規患者は引き受けず、Compassion&Choiceに紹介。。
・このプログラムについて公式ウェブサイトには掲載していない。
・致死薬はプライベートな場所でプライベートに飲むと誓約できない患者には出さない。
・職員に参加は義務付けない。
最後の点については
SCCAの医師ら200人に調査を行って81人から回答を得たところでは
29人(35.8%)が、処方することもカウンセリングを担当することもいいずれもOKで
21人(25.9%)は、カウンセリングのみOK。
31人(38.3%)は参加したくない、または決めかねていると回答。
この個所の最後に、論文は以下のように書いている。
「少数でも参加に前向きな医師がこれだけいれば、プログラムの実施には十分と考えられた」
参加希望の患者には、最初に担当のアドボケイトがつく。
同センターには6人の有資格のソーシャル・ワーカーがいて、そのうちの3人がプログラムを担当。
そのうちの1人が担当となり、担当医と共に患者がターミナルであること、自己決定能力があること、
全ての選択肢を理解した上で決断していることを確認し、
手続きがすべて合法的に行われるように全プロセスを通じて仕切る。
もともとSCCAでは、患者が尊厳死プログラムに参加するしないを問わず、
全患者にソーシャルワーカーが最初の心理社会的評価を行っている。
(この部分、WA州の尊厳死法は紹介責任を医師に負わせているが、
SCCAでは精神科のアセスメントの必要判断と紹介をソーシャルワーカーにやらせている、とも読める?)
次に、アドボケイトは患者にPOLSTを書かせる。「希望があれば、記入の支援をする」とも。
POLSTについては ⇒医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26))
POLSTに記入されるのは、
・致死薬を飲む際に医師にいてもらいたい場合はその手配。
・薬の入手方法と使わなかった薬の処分方法。
・グリーフケアと法的アドバイスのために定期的に訪問・受診(手紙を書いたりビデオを作ったり)
・家族には不測の事態の可能性を考えて患者が飲む時には連絡するように伝え、家族にもグリーフ・ケア。
・処方した医師は死後の報告書の書き方もアドボケイトから支援。
アドボケイトは通常は2回、患者と家族と面会する。
(この辺りを呼んでいると、なんとなく臓器移植のコーディネーターを連想する)
担当医が個人的な信条から参加したくない場合には、参加してもよいとする医療職から候補を選ぶ。
手続きが所定の通りに行われて処方箋が薬局に出されると、
薬剤師が患者と会い、副作用などについて詳しく説明する。
処方箋で薬を手に入れるかどうか、飲むかどうかは、その後の患者次第。
2009年5月5日から2011年12月31日の間に114人の患者から問い合わせがあり、
そのうち44人(38%)は問い合わせだけで参加しなかった。
30人(26.3%)は参加したものの、途中でやめたか、手続き途上で亡くなった。
残り40人(問い合わせた114人のうち35.1%)がカウンセリングと所定の要望を経て
致死量のセコバルビタールを処方され、全員が亡くなったが
そのうちセコバルビタールを飲んで死んだのは24人(処方されたうちの60%)。
セコバルビタールを使っているのは、ペントバルビタールが品薄のため。
がんセンターSCCAにおける尊厳死プログラムの参加者は
ワシントン州の尊厳死プログラムに参加した総数255人の15.7%に当たる。
その典型ケースは白人、男性、高学歴。
参加希望を断ったのは1人だけで、その理由はプライベートに飲むのを拒否したから。
SCCAのプログラム参加者は
SCCAの患者全体と比べてもメディケアのほかに個人的な保険にも入っている割合が高いことから、
WA州のプログラム参加者よりも働いている人が多いと思われる。
(と書きつつ、論文末尾の弱者への圧力を否定する個所では
SCCAの参加者像がWA州の州民像と異なっているという「エビデンスはない」と)
最初の要望の時点で、参加者の54.2%がホスピス・プログラムに登録している。
死亡時点での登録については調べていないが、
WA州の参加者の80.9%、OR州の参加者の89.7%が死亡時にホスピス・プログラムに登録している。
11人が半年という余命予測を超えて生きた。
このうち9人は半年を平均7.4週超えたところで致死薬を飲んで死亡。
最長は半年を18.9週超えてから飲んだ。(つまり余命半年とされた人が1年近く生きたことに?)
結局、自殺幇助で実際に死んだのはプログラム参加者の21%で
同センターの患者の年間死亡件数のうち 0.02%に当たる。
参加理由で最も多いのは
「自律の喪失」 97%
「楽しい活動ができなくなる/なった」 89%
「尊厳の喪失」 75%
一回目の要望時にコントロール不能の苦痛または将来の苦痛を挙げた人は
36人中(なぜ36人?)8人で22.2%。WA州全体では34.7%、OR州全体では22.6%。
精神障害の疑いでアセスメントを求められた人はいなかった。WA州では4.8%、OR州では6.7%。
これまでに家族からも介護者からも苦情は出ておらず、受け止めは良好。
患者の死は穏やかだったと言われる。
薬を実際に手に入れるか、飲むかに関わらず、処方箋が出ることに患者と家族が感謝を語り、
不透明な状況でも自分でコントロールできると思えることが大事なのだと話すのが常だという。
PAS反対論者は弱者への圧力になると言うが、
プログラム参加者のほとんどは白人の教育レベルの高い男性だと著者らは反論している。
(でも、自ら上で述べているようにSCCAの参加者が既に選別された層だからでもあろうし、
また、弱者への圧力はPASに追いやるという以外の形で起こる可能性もある)
不測の合併症は起きていないが、薬を飲んだ後、死ぬまで1日かかった患者が一人。
死が長引いたことは家族にとっても医師にとっても辛い体験となった。
同様のケースはこれまでにも報告されている(これは当ブログのORとWAの年間報告書に情報があります)
その他、特に興味深かった点として、
・患者と家族の受け止めが良好である理由について、著者らは
「我々のアドボケイトのプロフェッショナリズムによるもの」と書いている。
(これを読み、また臓器移植コーディネーターが頭に浮かぶ)
・6カ月を超えて生きた患者がいても、
処方した医師にもカウンセリングの担当医にも敢えて伝えないことにしている、という。
理由は、こうした情報を伝えると、医師らが患者に余命を伝えることに慎重となり、
現在でも病気がtoo lateなほど進行してからでないと余命が宣告されない問題を
悪化させてしまう恐れがあるから。(このプログラムのホンネが too late にチラリと?)
・この論文の最後のセンテンスがなかなか味わい深い。
The program ensures that patients (and families) are aware of all the options for high-quality end-of-life care, including palliative and hospice care, with the opportunity to have any concerns or fears addressed, while also meeting state requirements.
このプログラムによって、緩和ケアとホスピスケアもあり、どんな不安にも対応してもらえる機会があることを含め、良質な終末期医療のすべての選択肢を患者と家族がわかっていること、さらに州法規定に沿うこととを共に保障することができる。
SCCAの緩和ケアとホスピスケアの担当者って、この最後の一文を読んで、どう思うんだろう……?
患者と家族が「わかっている/知っている(aware)」というのは、
「受けようと思ったら受けられるんですよ、それを分かった上で受けないと自己決定するんですね」と
単に「あるってことは知っている」ことを確認すれば、後は患者の自己決定だから、それでいい……
ということでしかないんだろうか。
SCCAの緩和ケアの専門家も、そういう理解なんだろうか。
でも、ここに書かれているプログラムの姿勢って、
緩和ケアとホスピスケアの敗北ではないのか、という気がするんだけれど。
2013.04.16 / Top↑