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NYTに医師が書いた「医師の診察室における障害と差別」という論考。

中心的な主張は以下の一節によくあらわされていると思う。

It’s been nearly 23 years since the Americans With Disabilities Act, a federal law prohibiting discrimination against people with disabilities, went into effect. Despite its unequivocal language, studies in recent years have revealed that disabled patients tend not only to be in poorer health, but also to receive inadequate preventive care and to experience worse outcomes. One study even uncovered significant disparities in the diagnosis and treatment of breast cancer in women with disabilities.

障害者への差別を禁じた連邦法であるADAが施行されて23年が経とうとしている。
同法の明確な法文にもかかわらず、近年の研究では
障害のある患者は健康度が低いだけでなく、
不適切な予防ケアしか受けられず、
受けた医療の効果も低いことが明らかになっている。
ある研究では、障害のある女性の乳がんの診断と治療に
大きなバラつきがあることすら判明している。


で、この記事が大きな紙面を割いて紹介しているのは
以下のエントリーで取り上げたTara Lagu医師らの調査。

米国の医療機関に、車いす使用者の診察予約の電話を入れてみたならば……(調査)(2013/3/27)

調査の結果はリンクから読んでもらうとして、
この論考の興味深い個所としては、

Many of the doctors’ practices were eager to explain why they refused to see the patient, unaware, it seemed, of the legal implications of their refusal. Some said the patient was “too heavy.” Others brought up the potential litigation risk if the patient or a staff member was hurt during a transfer.

多くの医院や診療所が、なぜその患者を診れないかという理由を熱心に説明したが、
拒絶することそのものが法的に問題なのだということは分かっていないようだった。

中には患者が「重たすぎる」といったところもあった。
車いすから診察台にトランスファーする際に患者やスタッフがけがをしたら
訴訟になる可能性がある、といったところもあった。


Lagu医師は、
「我々が医療職だというだけで患者は診てもらえると、みんな思いこんでいるけれど、」
実際の医療現場では、私が障害者だったらしてほしくないようなことが行われている」


要因として挙げられているのは、
医療提供サイドの意識の低さや法的な知識不足のほかに、

高さを調節できる診察台が通常の診察台の4倍の値段であるなど
物理的な環境整備のコストや、

抱えてトランスファーするなどの時間が余計にかかることに対して
報酬が設けられていない問題。

さらに、ADAに医療機器について詳細な規定がない問題。

しかし、この記事によると、
オバマの医療改革法、the Affordable Care Actに設けられた新条項で
この夏に専門家委員会ができてガイドラインを議論し
各種連邦機関に対して一定の勧告を行うので、
この問題についても改善があるのでは、と。

Disability and Discrimination at the Doctor’s Office
NYT, May 23, 2013


いちばん上の引用箇所で触れられている研究はこちら ↓
http://content.healthaffairs.org/content/30/10/1947.abstract


Lagu医師らの研究は身体障害に関するもの。

知的障害者に対する医療差別はさらに深刻な面がある。
それについては英国のメンキャップがもう何年も前から頑張っている ↓


「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト(2009/3/31)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失

「NHSは助かるはずの知的障害者を組織的差別で死なせている」とMencap(2012/1/3)
助かったはずの知的障害児者が医療差別で年間1238人も死んでいる(英)(2013/3/26)

【拡散希望】知的障害のある人への医療差別(Mencap作成のビデオ)(2013/5/1)
Mencap「知的障害者への医療差別をなくす憲章」(2013/5/1)
2013.06.07 / Top↑
なるべく前のエントリーとセットで読んでいただければ。

以下の憲章は
Mencapが医療専門職や各種学会と協力して作ったものです。


医療差別をなくす憲章

障害ではなく、その人を見てください。

・知的障害のある人はみんな、医療を受ける平等な権利があります。
・すべての医療専門職は知的障害のある人々に提供する医療に
合理的な配慮(? Reasonable adjustment)をする義務があります。
・すべての医療専門職は知的障害のある人々に高い水準のケアと治療を提供し、
その命の価値を重んじなければなりません。

この憲章に署名することによって、私たちは以下を実行することを誓います。

○病院案内(? hospital passport)を用意し、実際に使ってもらっていることを確認します。

○私たちの病院の全スタッフが知的障害関連の法律の原則理念を理解し、実際に応用できるようにします。

○私たちの病院に知的障害のある人のためのリエゾン・ナースを置きます。

○知的障害のあるすべての人が、対象となる健康チェックを毎年受けられるようにします。

○すべてのスタッフに知的障害の啓発研修を継続して提供します。

○家族と介護者の言うことに耳を傾け、敬意を払い、一緒に考えます。

○家族と介護者に実際的な支援と情報を提供します。

○知的障害のある人々に分かる情報を提供します。

○Getting it rightの原理理念を誰もが見れる場所に掲示します。

(○のところにチェックを入れる形式になっています)


翻訳はとりあえずざっとやってみた仮訳です。
ご了解ください。

原文はこちらです ⇒ http://www.mencap.org.uk/campaigns/take-action/getting-it-right


Mencapでは
憲章に書かれた内容を実施するための医療職向けの具体的なアドバイスについても
HPやリーフレットやブックレットなど様々な形で提供しています。詳細は以下から ↓
http://www.mencap.org.uk/campaigns/take-action/getting-it-right/resources-professionals

関連サイトには、
医療専門職にも、知的障害者への配慮についての支援と情報提供が必要であること、
また一般社会の人々からも医療職に対して平等な医療を求める声が上がる必要があること、が
Mencapの信じるところとして明記されています。
2013.05.02 / Top↑
もう何年もかけて知的障害児者に対する医療差別の問題と取り組んできた
英国のMencapが、以下のGetting it right キャンペーンのサイトに、
とても分かりやすい、そして胸が痛くなる医療差別のビデオをアップしています。

http://www.mencap.org.uk/campaigns/take-action/getting-it-right


「医療差別」といっても、
それは障害のある人と家族や介護者、支援者なら
誰しも経験のある、ちょっとした場面のことなのです。

そして、その日常的な医療のちょっとした場面で
医療職の対応が差別的であったり、知的障害への配慮を欠いていることが
障害児者の命を直接的に脅かすのです。

以下にトランスクリプトを全訳してみました。
それぞれ、母(母親) M(ミッシェル) 医(医師)です。

どうぞ、一人でも多くの人にビデオを見ていただけますよう、
拡散にご協力いただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。


(ミッシェルは病院にいる。痛みに苦しんで落ち着かない)

母:大丈夫よ、ママがついているから。

M:おなか、ここが痛い。すごく痛い。

医:はい。ラクにして、どうしたのか言ってごらん。言わないと治療できないよ?

母:いま言いました。おなかだって。

医:そんなの本当かどうか分からないでしょう?

母:前の受診の時には骨盤の慢性痛だって言われました。

(医師が聴診器を手にミッシェルに近づく。
なにをしようとしているのか説明しない)

M:なにするの? そんなの嫌。

母:だいじょうぶよ、だいじょうぶ。

医:この子の名前は?

母:本人にお聞きになったら?

医:君の名前、言えるかい?

母:大丈夫よ、言ってごらん。

M:ミッシェル。

(医師はミッシェルに向かい、大きな声でゆっくりと)

医:ミッシェル、動かずにじっとしていてくれるね。

母:知的障害なんです。耳が聞こえないわけじゃありません。

(医師が聴診器を持って再びミッシェルに近づく。
怯えさせ、ミッシェルはパニックする)

M :いやだって言ったのに。おなか。痛いのは。

医:ミッシェル、診てあげようとしているのに
協力しないんだったら、他の人に代わるよ。

母:なにをするのか本人に説明してやってください。
いいですか。これって、ものすごく恐ろしい状況なんですよ。
この子だけじゃなくて、私にだってそうです。
でも、この子は苦しんでいるんです。
すぐに治療してもらわないと。

ナレーション:
ミッシェルのように、知的障害のある人たちは
平等な医療を受けることができずにいます。
NHSでのコミュニケーションのお粗末、
障害への理解の低さ、そして差別によって、
知的障害のある人々の命は危険に晒され、
健康が損なわれています。

今すぐ、この事態を止めましょう。
今すぐ、医療差別をなくしましょう。
Mencapの医療キャンペーンに賛同し、
行動への参加リンクをクリックしてください。


Mencapは私が06年に英語ニュースを読み始めた頃から
NHSでの知的障害者への医療差別の問題に取り組んでいました。

そして、2007年に“Deaths by Indifference”で
医療職の無関心と差別によって命を落とした知的障害者6人のケースを報告。

それを受けて調査に入った医療オンブズマンから
09年3月に報告書が出ています。

オンブズマンは2例を医療過誤事件として認定し、
事態の深刻を認め、関係各所に向けた改善の勧告を出しました。

「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト(2009/3/31)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失


Mencapはその後も医療差別との闘いを続け、
Getting it right(医療差別をなくそう)キャンペーンを行っています。
そのキャンペーンから出てきたメッセージのいくつかは以下のエントリーに ↓。

「NHSは助かるはずの知的障害者を組織的差別で死なせている」とMencap(2012/1/3)
助かったはずの知的障害児者が医療差別で年間1238人も死んでいる(英)(2013/3/26)


今年4月には、
医療機関と医療職に向けて、
このキャンペーンの趣旨への賛同と具体的な努力を謳うよう
Getting it right charter (医療差別をなくす憲章)を発表しました。

この憲章の全訳は次のエントリーに。
2013.05.02 / Top↑
実は以下の記事、
書いたのは2年も前なのですが、

この果敢な潜入調査をやった Which? で
長年活躍してきたAnna Bradleyさんがトップとなって、
去年10月に英国で医療と社会ケアに特化した消費者保護団体、
Healthwatch Englandという団体が立ちあげられていました。

http://www.healthwatch.co.uk/our-people

英国医療技術評価機構も公式サイトで
Healthwatchへの支持を表明している。

なにしろ私がこの立ち上げを知ったのは、
認知症介護の質のスタンダードを示したNICEの「QS30」のサイトからでした。

なにやら胸躍るニュースなので、
「祝! Healthwatch !」エントリーとして
あっぱれな Which? の潜入調査について書いた連載記事を以下に――。


Which?(どれにする?)と、一風変わった名称を持つチャリティが英国にある。50年の実績を持つ消費者保護団体だ。洗濯機や車などの商品に使用者 の立場で厳密なテストを行って比較情報を雑誌やウェブを通じて届ける他、消費者を取り巻く様々な問題について考えてきた。また法律相談まで提供するなど、 広く消費者保護と支援の活動を行っている。

このWhich? が、今年初めに3人の俳優と女優を雇い、入所者として4つの高齢者施設に送り込んだ。洗濯機やアイロンにテストを行うように、介護施設のサービスを消費者 である入所者の立場でテストしたわけだ。ターゲットにしたケアホームは単独事業所から2か所、チェーン展開をしている事業所の施設から2か所をランダムに 選んだ。潜入中に3人がつけた記録を専門家を含むチームが分析し、調査結果が4月19日に報告された。そこで明らかになったのは、あまりにもお粗末な食 事、日中活動の不足、健康と安全への配慮の欠落、虐待に等しい劣悪なケア……。

覆面潜入した内の一人は一週間で体重が3キロも減少したという。ぱさぱさに乾いたサンドイッチなど、見るからに不味そうな食事は量が少なく、栄養バラン スも悪かった。3つの施設では夕食から次の日の朝食までの間が17時間もあり、その間を何も食べずに過ごさせられるかと思うと、1つの施設では朝食が10 時だというのに昼食が11時半に設定されていた。

日中活動は4施設のいずれにおいても不足しており、入所者は常に退屈していた。体操、クイズ、歌の時間などを一週間毎日欠かさずに行うと広報で謳ってい る施設で、その中のどの活動もまったく行われていない、というケースもあった。じめじめして不潔な施設やむき出しの電線が放置されたり、非常口が物でふさ がれているところもあった。

携帯電話で会話中の職員に片腕を掴まれてトイレへと引きずられる人。立ちあがろうとするたびに何度も乱暴に頭を押さえつけられ椅子に戻される人。まだ飲 みこんでもいないのにスプーンに山盛りの食べ物を次々と口に押し込まれる人。この人は「呑み込むまで待って」という合図で手を上げてスプーンを制したとこ ろ、もう要らないのだと誤解されて食事を下げられてしまった。「あの食事介助は見ていられないほど酷かった。もっと丁寧な介助だったら、あの人はもう少し 食べていたはずなのに」と記録者は書いた。食堂でトイレに行きたいと訴えたのに許されず、30分近くも放置されて泣きそうになる女性の姿も目撃された。

今回の調査結果はケアの質コミッション(CQC)に報告され、1つの施設は新たな入所者の受け入れ差し止め処分となった。またWhich?はCQCに監査・指導の実効性を高めるよう求めた。

この報告に、高齢者チャリティの間で衝撃が広がっている。英国年金生活者会議(the National Pensioners Convention)は「ケアホームは週800ポンド(約10万円)もかかるというのに、これでは介護とも呼べない。我々は自分で声を上げられない人の 代弁をしなければ。結局、監査システムが機能していないし、職員の専門性も欠けているということだ。ケアホームは安全な場所でなければ」。またAgeUK も「介護の質を上げるのはロケット科学のようにはいかない。歳をとって弱った人たちをどのように遇するかという、つまりは姿勢の問題。温かい言葉をかける とか、余分の時間をとって他愛のないおしゃべりをする、ちょっと手を貸すことなどによって全然違ってくる」。Which? では今後もAgeUKと連携し て、高齢者施設の介護の質向上に向け、活動していくとのこと。

英国では2009年に、潜入ルポをウリにしているBBCの「パノラマ」という番組が、レポーターをヘルパーとして事業所に就職させ、在宅介護サービスの お粗末を暴いたことがあった。来るはずのヘルパーが来ず24時間も放置される高齢者や、6か月も入浴はおろかシャワーすら浴びていない高齢者、ケイタイで 喋りながら清拭を行うヘルパー……。この時には、番組の隠し撮りに協力した看護師が看護師・助産師協会から資格登録を抹消されるや、看護学会がケアの質を 懸念した彼女の行動を支持し署名活動を展開するというオマケの論争もあった。

AgeUKや年金生活者会議が言うように、数値化できない面が大きいこと、サービスを受ける人たちが声を上げにくいこと、施設であれ在宅であれ密室空間 で行われることなどによって、いわば“普段着”の介護の質を評価することは難しい。それならば、こうした覆面潜入の“ミシュラン”方式も、一つの選択肢な のかもしれない。
連載「世界の介護と医療の情報を読む」
『介護保険情報』2011年6月号


2009年のパノラマについては
BBCの潜入ルポが在宅介護の実態を暴いてスキャンダルに(2009/4/11)
在宅介護のお粗末を暴いたBBC潜入ルポに反響2つ(2009/4/19)
病院ケアの怠慢を隠し撮りしたナースの登録抹消を労働組合が批判(2009/4/20)
2013.04.30 / Top↑
英国の医療での知的障害者差別の実態については
2007年にMencapが画期的な報告書、Death by indifference を刊行していますが ↓

「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト(2009/3/31)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失
「NHSは助かるはずの知的障害者を組織的差別で死なせている」とMencap(2012/1/3)


この報告書があぶり出したショッキングな実態により
その後、保健省の費用で、研究者らによって
2010年から3年間に及ぶ非公開の実態調査が行われることになり、

その調査結果が3月19日に発表された。

年間1238人の知的障害児者が
適切な医療を受けられないために死んでいる、と推計。

知的障害者の死亡件数のうち、
37%は死を避けることができたものと考えられる。

また、一般人口と比較して、
知的障害のある男性は13年も早く死んでおり、
知的障害のある女性では20年も早く死んでいた。

調査の対象となった知的障害者の22%が50歳以下で死んでいるが、
一般人口では50歳以下で死ぬ人は9%に過ぎない。

調査チームは、
今後もデータ収集を続け、深刻なケースでは調査を行えるよう、
知的障害者死亡率調査委員会という全国組織の立ち上げを提唱。

1200 avoidable deaths
mencap, March 19, 2013


米国の実態はこちら ↓
障害者への医療の切り捨て実態 7例(米)(2012/6/26)


英国では知的障害者の他にも、
NHSの病院での高齢患者へのケアの劣悪が
政府が委員会を設置して調査に乗り出す大スキャンダルとなっている ↓

“終末期”プロトコルの機械的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
肺炎の脳性まひ男性に、家族に知らせずDNR指定(英)(2011/8/3)
高齢者の入院時にカルテに「蘇生無用」ルーティーンで(英)(2011/10/18)
高齢者には食事介助も水分補給もナースコールもなし、カルテには家族も知らない「蘇生無用」……英国の医療(2011/11/14)
ケアホーム入所者に無断でDNR指定、NHSトラストが家族に謝罪(英)(2012/5/8)
84歳の男性が病院で餓死(英)(2012/12/26)
2013.03.29 / Top↑