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8月末に以下のニュースがあった。

胎児のダウン症新型検査「精度99%」に賛否―命の選別につながらないか
JCAST, 2012年8月30日 

それからずっと、ネット上で様々な議論を目にしながら、
私自身はエントリーに何かを書くという気になれないままでここまできてしまった。

その背景としては、

一つには、この検査そのものについては
英語ニュースでは数年前から何度も話題になっていて、
日本にやってくるのも時間の問題だとずっと思っていたこともあるし、

これまで、この問題では多くのエントリーを書いてきたので、
今さら、それらをまとめ直して書くのも面倒臭いということとか、

この問題に限らず、
科学とテクノの簡単解決文化と、そこに繋がる
グローバル強欲ひとでなしネオリベ記入慈善資本主義による
メディカル・コントロールと新・優生思想にはもはや歯止めがきかないところまできて、
すべり坂どころか既に断崖絶壁……という気分になっているから
ということもあるのだけれど、

ここ数日の間に、
この問題で気になるブログ記事を立てつづけに2つ見つけて、
どちらも、たいへん重要な指摘がされているので、
自分自身のメモとしてもリンクしておきたいと思って。


①なぜかアドレスをコピペすると「登録できない文字列」とされ、リンクが張れません。
以下のエントリータイトルで検索してください。

眠られぬ当直(よる)のために3(2012/9/5)
(ブログ:Heaven’s Door Hospital ヘブンズドアホスピタル)

ブログ主は医師。
ユニークな設定の漫画で、
「99%精度のダウン症診断」と母体保護法の問題を
非常に分かりやすく解説してくださっている記事。

障害理由の中絶は現在の日本では違法行為なのだけど? 
というお話です。

ついでながら、このブログ、まだエントリーが12しかないのですが、
これ以外のエントリーも、いずれも爆笑の楽しさです。


② 私なりに思うこと(2012/9/7)
(ブログ:CSカナリア闘病記―回復を目指して)

こちらは、私も当ブログでずっと一貫して書き続けてきたのと同じことを
元現場職員、現在難病当事者の立場で書いてくださっている、ブログ友の方の記事。

その指摘の1つは、
私もちょうど昨日のエントリーで書いたばかりの点で、
障害当事者の実像は生活を共にして直接的に密接にかかわっていなければ分からない、
多くの議論が、その実像を置き去りにしたステレオタイプで行われている、ということ。

もう一つは、ラジオで荻上チキさんが指摘したとのことなのだけれど、、
遺伝子診断で障害のある子どもを産む・産まないを自己選択にすることは
養育を「自己責任」にしてしまう、という懸念。

私もそれとまったく同じ指摘を
未熟児の話だけど、こちらのエントリーで書いている ↓
「中絶か重症障害か……選ぶのは親のあなた(英)」(2010/5/16)

Art Caplanも、同じようなことをこの頃に書いてくれている ↓
遺伝子診断で激減の遺伝病、それが社会に及ぼす影響とは?(2010/9/10)


その他、これを機に
当ブログでダウン症を中心に出生前遺伝子診断に関連して書いてきた
エントリーの一部を以下に整理してみました。
(ゴチックは特に当該検査をめぐる話題)


2007年
選ばないことを選んだ夫婦の記録(2007/11/4)
「ダウン症だから選別的中絶」のコワさ(2007/11/12)

2008年
周産期に障害・病気情報提供を保障 法案にW・Smith賛同(2008/4/16)
障害胎児・新生児の親に情報提供を保障する法案(米)(2008/6/1)
障害胎児・新生児の親に情報提供保障する法案つぶれる(2008/7/29)
「中絶決断に情報提供不要」ヒト受精・胚法議論(2008/6/1)
羊水穿刺より侵襲度の低いダウン症検査、数年以内に(2008/10/8)
出生前後の障害・病気診断に情報提供を義務付け(米)(2008/10/9)
出生前診断をショーバイで語るとこうなる(2008/11/21)
英国でダウン症児の出生数が増加傾向(2008/11/24)
「障害児については親に決定権を」とSinger講演(2008/12/26)

2009年
受胎前遺伝子診断:巧妙な言葉の操作が優生思想を隠ぺいする(2009/1/16)
出生前遺伝子診断で「あれもこれも調べたい」って?(2009/2/2)
ダウン症の安全確実な出生前検査まもなく米国で提供開始(2009/2/25)
非侵襲出生前診断の倫理問題をJAMA論文が指摘(2009/5/28)
ダウン症アドボケイトと医療職団体が出生前診断で“合意”(2009/7/1)
ダウン症スクリーニングでShakespeare「技術開発と同じ資金を情報提供に」(2009/11/10)

2010年
遺伝子診断で激減の遺伝病、それが社会に及ぼす影響とは?(2010/9/10)
ダウン症らしいからと、依頼者夫婦が代理母に中絶を要求(カナダ)(2010/11/18)
2012.09.10 / Top↑
Pediatrics誌に掲載された論文の調査報告で、

トリソミー13と18の子どもは
たいてい生後1年以内に亡くなるし、
それ以上に生きた子でも重症障害を負い、短命であるとされており、
出生前に診断されると中絶する親が多いが、

いくつかのオンラインの親の会のメンバーを募って
272人のトリソミー13または18の子どもの親(すでに子どもを亡くした人も含む)
332人に調査を行ったところ、

医師らが一般に描いてみせる子どもと親の生活像とは違い、
子どもとの生活は総じて幸福で、報いの多い生活だった、と答えた、という。

親が医療職から言われていたのは、
87%の親では、その子は生活が成り立たない、
50%の親では、その子は「植物」になる、
57%の親では、その子はずっと生きている間苦しむ、
23%の親では、こういう障害のある子どもは「夫婦や家族の生活をめちゃくちゃにする」。

一方、回答した親の97%が
子どもが生きた期間の長さにかかわらず、
子どもはハッピー・ベイビーだった、家族や夫婦の生活を豊かにしてくれた、と答えた。

主著者で新生児科医、
モントリオール大の小児臨床倫理マスター・プログラムのAnnie Janvier医師は、

「我々の研究が示しているのは、
医師と親とではQOLとは何かという点で考え方が違う可能性」

また
「あらゆる障害についての医学文献(the なので論文中で触れたもののことか)でも、
障害のある患者またはその家族は、障害者のQOLを医療職よりも高く評価していた」とも

この論文の2人目の著者は
トリソミー13の娘を亡くした母親でMSc(?)のBarabara Farlowさん.

この人、名前を見た瞬間に「あ、あのBarbaraさん……?」と思った。

カナダのトロント子ども病院で娘のAnnieちゃんが親の同意なくDNRにされたとして
訴訟を起こして、ブログでキャンペーンを張っていた、
あのFarlow事件の母親、Barbaraさん。たぶん。 ↓

親が同意する前からDNRにされていたAnnie Farlow事件(2009/8/19)

この研究でのFarlowさんの結論は、

「私たちの研究が明らかにしたのは、親の中には
どんなに短い期間しか生きられなくても障害のある子ども受け入れ、愛することを選び、
幸福で豊かな人生を経験した人もいる、ということ。

私の希望は、
こうした親を理解し、親とコミュニケートし、親と共に意思決定を行う医師の能力を
この知見が高めてくれること」

Quality of Life Of Children With Trisomy 13 and 18 May Be Better Than That Predicted By Physicians
MNT, July 25, 2012


そうかぁ。

Barbaraさん、その後も頑張ってたんだなぁ……。

私は事件が公になった頃に、ある人からの情報で
Annieちゃんに行われた子ども病院の不正を訴えるために彼女が書いた長文の手紙を読ませてもらい、
そこに添付された死後のAnnieちゃんの写真を見たことがある。

全身に異様な赤い斑点があり、
それがフェンタニ―ルを過剰に投与された証拠だ、
勝手にDNRにしただけでなく薬で死なされたのだ、と
手紙は必死に訴えていた。

その後Farlowさんご夫婦は訴訟を起こしたけれど、
結局は資金の問題から途中で諦めざるを得なかったし、

それら一連の出来事の間はもちろん、
その後も長い間、さぞ悔しく、はらわたの煮える思いをしたことだろう。

でも、そのBarbaraさんが、
今、こうしてAnnieちゃんのような子どもをこれ以上出さないために
学者と一緒になって、こういう仕事をしてくれているのだと思うと、

Barbaraさん、ほんと、嬉しいよ。
spitzibaraも勇気がわいてくるよ。

ありがとう。

     ――――

ついでに、この論文には3人目の著者がいる。
この人も私にはインネンの人物。

Benjamin S. Wilfond.

シアトルこども病院、トルーマンカッツ生命倫理センターのディレクター
……でした。少なくとも数年前までは。

Ashley事件の担当医、あのDiekemaの同僚。

Ashley事件の途中から、
一般化に向けてシンポやWGを一応、表向きは引っ張っている人ですが、

彼自身は、もともとは
Fostのラディカルな無益な治療論にやんわりと反論するような穏健な倫理学者です。

そのWilfondが、ここに名前を連ねているのも、
私には、ちょっと嬉しい発見でした。
2012.08.02 / Top↑
米国で初めて、
公的強制不妊プログラムの犠牲者への補償を決めたNC州の決断については
以下のエントリーで拾ってきましたが、

NC州で、かつての強制不妊事業の犠牲者への補償に向け知事命令(2011/3/21)
NC州の強制不妊事業の犠牲者への補償調査委員会から中間報告書(2011/8/15)


ここへきて「まさか……」。
まさに絶句の展開です。


Bev Perdue知事と州下院が支持しているにもかかわらず、
犠牲者一人につき5万ドルを支払う補償案は上院で予算化を認められなかった。

1350人から1800人と言われる犠牲者が名乗り出た際に
州には9000万ドルが必要となり、その懸念が背景にあるものと思われるが、

これまでに生存中の犠牲者として認定された人は146人で
今後手続きにかかる申請も200人分。
それほどかからないと言われてもいた。

上院議員の中には、

合法的に実施されたプログラムの賠償を行ってしまえば、
次には奴隷やインディアンの子孫にも賠償しろ、など、
米国が過去にやった強制不妊以上のことにまで賠償の門戸を開くことになる……と反対する声も。

同州は21日、
強制不妊の新たな申請を打ち切り、
今後は州のアーカイブ部門で対応することに。

当然、犠牲者や支援者は怒っている。

14歳で不妊手術をされた Elaine Riddickさんは
「政治家のメンタリティーは
優生思想を支持した当時から何も変わっていないんだと思うとショックです。
人の人生をめちゃくちゃにしておいて、こんなことをするんですか?」

現在アトランタ在住のRiddickさんは
70年代に米国最高裁に提訴しようとしたが聞き入れられなかった。
現在、他の犠牲者グループと一緒に集団訴訟の準備中。


Payments for Victims of Eugenics Are Shleved
NYT, June 20, 2012


まさに、
急速に本音をムキ出しにしていく
酷薄な「時代の声」を聞くかのような……。
2012.06.26 / Top↑
ウズベキスタンで
本人に無断で子宮摘出や卵管結紮などの不妊措置が行われている。

ある女性は2人目を生んだ後で身体の不調が続くので
受診してみると、子宮が摘出されているので驚いたが
無断で摘出した医師らは「もう要らないでしょ、2人も子どもがいるんだから」と。

もともとウズベキスタンには、
子沢山の大家族をよしとする文化があるようなのだけど、

外国人ジャーナリストが歓迎されない同国関係者への
あの手この手でのBBCの取材によると、

ここ2年ほど政府の施策として、
本人に無断の不妊治療が行われており、

年ごとに実施計画が出され、
地域によっては医師当たりのノルマが課せられることもあり、
特に田舎では産科医に週当たり8人というノルマも。

出産の際に本人が知らない内にやられていたというケースもあれば、
クリニックの看護師らが「今ならタダだけど、そのうちカネがかかるようになるから」と
進めて歩くという話も。

保健省のソースは
人口抑制策としてやっていることだと明かしたらしいけれど、
一方で人口動態の専門家は人口増加の要因の一つは移民の流入だという。

最初に報告されたのは2005年。
法医学者が若い女性の遺体に子宮がないものが多すぎることに気付いて
それらの女性の背景を調査し、結果を公表した。そしてクビになった。
07年には投獄された。

07年には国連の拷問禁止委員会が同国の不妊手術の実態を報告し、
その後、件数は減少したが、その後また上昇しているエビデンスがある。

書類上は自発的なものとされるが
貧しい女性を誘導・操作することは簡単だ。

出産時に帝王切開になるケースがここ2年で急増している。
不妊手術を行いやすくするためと思われる。

不妊手術の目的は人口抑制だけではなく、
母子死亡率を引き下げる目的でも行われている、と同国の医療関係者。

出産件数が減れば、それだけ周産期の死亡件数も減る、という単純な話。
そして、母子保健の国際ランキングが上がる。

そんなヤリクチを使って実態を偽ってでも
ランキングをあげることに政府は必死になっている。

というのも、最近になって米国とEUの経済制裁が解かれ、
その背景には米国とパキスタンとの関係悪化、
NATOがアフガニスタンに軍や物資を送るために
ウズベキスタンを通過する必要があるため。

特にここ数カ月は西側要人が頻々と同国を訪れており、
それら要人は人権問題には触れようとはしない。

BBCに対してウズベキスタン政府は
強制不妊手術プログラムなど事実無根である、と反発し、

同国の母子保健は優秀で
他国のモデルとされるべきである、と。

Uzbekistan’s policy of secretly sterilizing women
BBC, April 12, 2012


アフリカの途上国について
しきりに母子保健を説き、死亡率を下げようとのキャンペーンを行って
各国政府や世界中の富裕層から金を集めている人たちが

同時に“革新的な避妊方法”を云々していることを
つい考えてしまう。


ちなみに、去年9月に世界医師会が
以下のような宣言を出しています。

世界医師会が「強制不妊は医療の誤用、医療倫理違反、人権侵害(2011/9/12)

それ以前の関連エントリーも多数ありますが、
上記エントリーにリンクしています。
2012.04.26 / Top↑
The American Journal of Bioethics の4月号で
Janet Malek (E.Carolina U.) と Judith F. Daar (Whittier Low School)の論文が

最終的には法律によって
IVFを利用する親にはあらゆる手段を講じて子孫の福祉を最大化する義務を課すべき、と。

その理由として挙げられているのは
子どもの福祉、子どもの自己決定の拡大、不平等の削減。

より体力があり、より健康で、より知能の高い子どもが生まれるという利点だけでなく、
公平性と自己決定を促進するから、道徳的な善である、との論理。

特に重大な遺伝病があり、そのことを知っている(べき)親が
着床前遺伝子診断を利用せず、その病気の子どもを産まない努力を怠った場合には
法的な責任を問うべきだ、と。

そうして最終的には
IVFによる出産では欠陥のある子どもは生まれなくなれば
病気の子どもに税金が使われることがなくなるので、

Shifting benefit outlays for significant post-birth health care to a far less costly preconception procedure strikes us as a worthy public policy trade-off.

福祉給付のバランスが、多額の出生後の医療費から、それよりもはるかに安価な着床前診断の費用へとシフトするわけだから、政策としては差し引き勘定は良好で意義がある。


BioEdgeのCookによれば、
この論文の著者らは、つい先日、物議をかもした「新生児殺し容認論文」の著者らと同じく、
Savulescu, Guy Kahane、John Harrisらの議論を論拠にしている、とのこと。

Parents can have a duty to use IVF, say bioethicists
BioEdge, April 13, 2012


【関連エントリー】
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2012.04.18 / Top↑