2ntブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
古代の人たちが重症障害者を手厚くケアしたエビデンスがある、という話は
高谷清先生の「はだかのいのち」で読んでいました。

これまで発掘された、そうした事例について
以下のNYTの記事から簡単に抜いてみます。

順番は発掘された順ではなく、
記事に紹介されている順になります。

① 南ベトナムのマンバック遺跡から2007年に発掘された
4000年前の若い男性の遺骨。

胎児姿勢で埋葬されており、
重症障害のために生前からそういう姿勢だったものと推測される。

子どもの頃に下半身がマヒし、
腕はほとんど使えず、食事も体を清潔に保つことも自分では無理だったが、
マヒしてからも10年ほど生きたものと思われる。

当時の彼の集落の人々は金属を持たず、
釣りと狩りとわずかにブタを家畜として飼っている社会だった。

そういう社会の人々が
この若者をケアしていたことになる。

② イラクで発掘された45000年前のネアンデルタール人、 Shandidar 1。
片腕切断、片目が見えず、その他の怪我もあったが、死亡時には50歳。

③ 米国フロリダ州で発掘された7500年前の少年。
二分脊椎と思われる障害があるが、15歳くらいまで生きた。

④ イタリアで1980年代に発掘された1万年前の10代の少年、 Romito 2。
 重症の小人症だった。

特に介護を必要としたとは思えないが、
 狩りと採取で暮らしていた彼の集落が
走るのも遅く、腕が非常に短いために他の人たちと同じように狩りに参加できない彼を
受け入れていたことが明らか。

⑤ アラビア半島で発掘された4000年前の18歳の少女。
ポリオと思われる障害があった。

発掘した考古学者は
歩ける状態ではなかったと思われ、
おそらく24時間のケアを受けていたのだろう、と。

しかし、この少女の歯は虫歯だらけで、抜け落ちた歯も多く、
その集落ではデーツを栽培していたので、
心優しい介護者が歯にくっつきやすいデーツを沢山食べさせたからだろう、とも。



ベトナムの若い男性を発掘したLorna Tilleyさんは
「病気や障害が重くて、生きい伸びるためにはケアが必要だったに違いないケースは
30ほど」知っていると言い、他にも同様のケースはあるはずだ、と。

フロリダの少年を発掘した考古学者 D. N. DickelとG.H.Doranは、
1989年に書いた論文で、

有史前の人々についてのステレオタイプとは異なり、
「一定の状況下では、7500年も前の生活にも
慢性病の人やハンディのある人たちを助け支えようとする気持ちとその能力があった」
と結論付けている。

またTilleyさんは
以下の4段階で古代の障害者とその状況を研究する方法を提唱している、とのこと。
① 人物の病気や障害の特定
② その人物が暮らしていた文化における、その病気や障害の影響
③ どの程度のケアが必要だったかを特定
④ それら収集した事実から総合的に解釈を行う

Ancient Bones That Tell a Story of Compassion
NYT, December 7, 2012


なお「はだかのいのち」の第6章
「障害者と共に生きた人々 - ネアンデルタール人の心(二)」(p.178からp.183)には、
上記②のナンディ1について、NYTよりもずっと詳細に記述されています。

研究者からの引用部分を以下に抜いてみると、

「彼は出生時から不具な身であったうえに、左目が盲目だったらしい。スチュワートの調査では右上腕骨、鎖骨と肩甲骨は生まれたときから十分に発達していなかったという。さらに顔の左側面に広範囲に及ぶ骨瘢痕組織が見られる。そしてこれだけでは不十分と言わんばかりに、彼の頭蓋骨の右上部にはある州の傷が見られ、生前に癒えた形跡がある。要するにシャニダール第一号、すなわちナンディ(食卓での会話で私たちは彼をこう呼んでいた)は、五体すこぶる健全な人間でさえ辛い思いをする環境下で、非常に不利な立場にさらされていたということができる。彼は自分で食糧をさがしたり、身を守ったりすることはできなかったであろう。したがって彼は死ぬまで一族の者たちによって世話されていたと、私たちは考えざるを得ない」
「この遺体の上に積まれた石と食料としての哺乳動物の遺残は、死後もこの人物が敬意とまではいかなくとも、ある種の価値を認められたことを示している」
(p. 179-180)

高谷氏は以下のように書いている。

人類は古くは生産力も低いため、たとえ一緒に生活しようという気持ちがあっても実際にはできず、障害者や高齢者を排除し、姥捨て山などに棄ててきたと思っている人も多い。生産性が向上してきたこの1000年、あるいは数千年になってはじめて障害者が生きられるようになったと考えている。まして、現在の人類ではない旧人といわれるネアンデルタール人が、障害者と共に生活しているとは考えもしないことであった。
(p.180)


【関連エントリー】
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 1(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 2(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 3(2011/11/22)

-------------


オマケとして
どこかでたまたま見つけた、
クリスマスの自宅イルミネーション写真集を。
http://www.ivillage.com/over-top-christmas-light-displays/7-b-307484?utm_source=taboola#307500

我が家はツリーすら飾っていないけれど、
ワイン(ミュウは「とろみワイン」)とケーキの「(ホールのまま)バチ当たり食い」で
ミュウとクリスマスの3連休をゆっくり楽しみました。

メリー・クリスマス!
2013.01.04 / Top↑
これについては、今年5月にも
リベラル・ヒューマニスト・アソシエーションからの提言についてBioEdgeが書いていたけれど ↓
ベルギーで「知的障害者、子どもと認知症患者にも安楽死を求める権利を」(2012/5/5)

今回は社会主義党から
18歳以下の未成年と認知症患者について同じような提案が出ているという話。
(今回は、知的障害者は含まれていない模様?)

なお、ベルギーの安楽死が合法化されて以降の10年間の実態については
以下の報告書が出たばかり。 ↓
ベルギーの安楽死に関する報告書・BioEdgeのまとめ(2012/12/10)

ベルギーの安楽死関連エントリーは上記12月10日のエントリーにリンク一覧あります。

問題の報告書も、英語版にざっと目は通したのですが、
そのうちに、ちゃんと読んでエントリーにしようと思っています。

Belgium debates euthanasia for minors and demented
BioEdge, December 22, 2012


なお、今日のこのBioEdgeの記事によると、
オランダでは既に未成年にも認知症患者にも安楽死が認められているのだとか。

そういえば、去年3月に行われた認知症患者の積極的安楽死については議論になっていた ↓
「IC出せない男児包皮切除はダメ」でも「IC出せない障害新生児も認知症患者も殺してOK」というオランダの医療倫理(2011/11/12)
2013.01.04 / Top↑
フランスのオランド大統領は今年5月の大統領選の際の公約に自殺幇助合法化を謳っており、就任後に命じた報告書が出てきたのを受けて、来年6月に法案を提出する方向。ただ、記事によって例えばNYTも「医療的に幇助する自殺medically assisted suicide」という表現を使っているけれど、他の記事の内容からすれば自殺幇助というよりも消極的安楽死のことと思える節も。いつものことながら、メディアのこういう厳密さに欠ける言葉の使用が気になる。
http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/12/18/france-opens-the-door-to-a-right-to-die-but-not-now/
http://www.hurriyetdailynews.com/france-takes-first-step-toward-medically-assisted-suicide-.aspx?pageID=238&nID=37207&NewsCatID=351
http://www.france24.com/en/20121219-france-medically-assisted-suicide-euthanasia-healthcare-reform-hollande

FENがミネソタ州で自殺ほう助を禁じた州法に違憲訴訟を起こした。
http://www.kwtx.com/news/health/headlines/Right-To-Die-Group-Challenges-State-Assisted-Suicide-Law-184026831.html

ピーター・シンガーがトランスヒューマ二ストのAubrey de Greyのアンチ・エイジング論に賛同。科学とテクノの発達で人間は百年単位で生きることが可能になるが、世界が養える人数に限りがあるなら、短命な多数が生きる世界よりも長命な少数が生きる社会の方が良いから。生まれてこない人には生まれなかったことで失ったものを実感することもできないし。:私は学者じゃないからわからないけど、こういうのが「哲学」なんですか?
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10346

手がマヒした女性が脳の働きでロボット・アームを使い食事に成功。ピッツバーグの研究で。
http://www.guardian.co.uk/science/2012/dec/17/paralysed-woman-robotic-arm-pittsburgh

病気予防で毎日飲むように推奨されてきたアスピリン、定期的に飲んでいると黄斑変性が悪化しやすくなるとか。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254254.php

日本。自閉症などの発達障害は母体の化学物質接種による可能性がある-東大:このブログを始めてしばらくした頃に、児童精神科医の方から「遺伝によるとするのが医学的な常識」とコメントで教えられたことがあるけれど、こういう漠然とした疑念、一般人はみんな持っていたんでは? 科学では単に「まだ調べられていない」とか「データがない」ということは「関連がない」ということになってしまうみたいだけれど。
http://news.mynavi.jp/news/2012/12/14/099/index.html

米国小児科学会が水銀を含むワクチンの防腐剤Thimerosalは、自閉症への影響説は覆されたし、途上国では保存環境が良くないので、入れ続けた方が良い、と提言。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254162.php

抗HIV薬を吸収させる女性用コンドームをワシントン大学が開発へ。
http://www.edgeboston.com/news/aids/news/140039/bill_gates_funds_female_condom_that_delivers_anti-hiv_drug

英国の社会保障費削減策で、障害のある成人した子どもを在宅でケアしている親への給付に上限が設けられることに。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/16/parents-disabled-offspring-benefit-cap

一部民営化を導入したNHSで、民間医療機関のコスト削減策で時間外ケアがあまりに劣悪で患者にリスクが指摘された。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/17/harmoni-gp-service-patients-risk

英国の保健省から2010年3月に出た重症重複障害者への福祉に関する報告書 Raising our sights: services for adults with profound intellectual and multiple disabilities:これはいずれ読んでエントリーにしたい。
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_114346

虐待などで親から離されて施設で暮らしている子どもたちが施設のたらい回しなど、ひどい処遇でさらに傷ついている、との報告書。英国。:英国では保護された外国籍の子どもたちが施設から姿を消す事件が起こっている。 ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52158980.html
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/18/most-damaged-children-care-failed

キャメロン英首相、EUからの脱退にも言及。
http://www.guardian.co.uk/politics/2012/dec/17/david-cameron-withdrawal-eu-imaginable

米国のホームレス問題で、このところ子どものいるホームレス家庭への支援がよく話題になっている。
http://www.nytimes.com/2012/12/17/opinion/how-to-fight-homelessness.html?_r=0

米国の失業率、黒人では白人の2倍。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/2012/12/14/01b6c9be-37e5-11e2-b01f-5f55b193f58f_story.html
2013.01.04 / Top↑
この前読んだ、姜尚中の「在日」の中にあった、
著者が市民運動の師と仰いだ、土門一雄牧師の言葉を――。


……市民の運動はね、国家権力と対峙するとき、敗北するに決まっているんです。でもそれをただ敗北とだけ受け止める必要はないと思いますよ。負けて、負けて、負け続けて、しかしいつの日か勝てないけれど、負けてもいない、そんなときがくるはずですよ。……
(p. 168: ゴチックはspitzibara)


元気を出そうと、
このエントリーを書いては見たものの、

おそろしくて、本気で泣けてきた……。
2013.01.04 / Top↑
【明日の選挙関連】

CA州の判事が、レイプ被害者が性行為を望んでいなければ身体がシャットダウンして「レイプなど可能にならないはず」だから、暴行を受けている時に「抵抗しなかった」のだと発言したことで公的監督機関から叱責。:これと似たような論理でレイプ犯を無罪にした日本の最高裁判事もおられるようで、アジア女性資料センターの抗議文はこちら。この時の最高裁判事が明日の選挙の信任投票に名前が挙がっているとか。ツイッターやこちらのブログによると、千葉さんと須藤さん。覚えておこう。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/us-judge-victims-body-prevent-rape

日本。障害者政策、公約で触れぬ新党も 衆院選、論調低調に関係者嘆き
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/shuin2012/38585.html

橋下徹の言論テクニックを解剖する 「中島岳志の希望は商店街!」
http://www.magazine9.jp/hacham/111109/

生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない――参議院議員・世耕弘成
http://toyokeizai.net/articles/-/9611

天賦人権説(あるいは自然権)の否定は何が問題なのか?
http://d.hatena.ne.jp/crowserpent/20121212

子育て、雇用忘れないで=身近な争点、埋没懸念―働く女性、求職者ら
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000023-jij-pol


【その他】

もうどこがどうなっているんだか、あまりに動きが加速していて頭が混乱しているんだけれど、NZの議会にも自殺幇助合法化法案が出ているみたい。他に米国NJ州。スコットランドもだったっけ? 大きな訴訟が進行中なのはアイルランドとカナダのBC州。合法化するぞ、と言っているのは米国VT州とカナダのケベック州。
http://www.nationalrighttolifenews.org/news/2012/12/new-zealand-petition-opposes-euthanasia-and-assisted-suicide/

アイルランドの自殺幇助訴訟で緩和ケアの専門家が証言して「高齢者など弱者の虐待につながる」と。判決は1月10日。
http://www.independent.ie/national-news/endoflife-experts-back-ban-on-assisted-suicide-3324937.html
http://www.rte.ie/news/2012/1213/assisted-suicides-palliative-care-marie-fleming.html
http://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/decriminalising-assisted-suicide-could-lead-to-involuntary-deaths-expert-tells-court-577633.html

IHMEなどが関わっているBurden of Diseaseプロジェクトの新たな調査で、世界の人々は長寿になっているものの、それに伴い障害者が増えている。:Burden of Disease 直訳すると「病気の負担」。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/burden-of-disease-study-shows-a-world-living-longer-and-with-more-disability/2012/12/13/9d1e5278-4320-11e2-8061-253bccfc7532_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/13/life-expectancy-world-rise

【関連エントリー】
世界の病気・障害の「負担」数値化へ(2008/4/25)
死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DALY(2008/4/22)
Peter SingerがQOL指標に配給医療を導入せよ、と(2009/7/18)
「障害者は健常者の8掛け、6掛け」と生存年数割引率を決めるQALY・DALY(2009/9/8)
QALYが「患者立脚型アウトカム」と称して製薬会社のセミナーに(日本)(2010/2/12)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part1(2010/2/16)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part 2(2010/2/16)
障害者差別としてボツになった配給医療基準「オレゴン・プラン」が、IHMEによってグローバルに復活することの怪(2011/12/20)


メリンダ・ゲイツさんがマラウィで母子保健について政府要人と相次いで会談。
http://www.malawitoday.com/news/127595-wife-bill-gates-melinda-gates-arrives-malawi-support-maternal-health

日本。<新型出生前診断>実施施設を限定…日産婦の指針案判明
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000008-mai-soci

うつ病の高齢男性は救急入院の確率が高い:こういうデータもどういう使われ方をしていくのか、気になるところ。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253835.php

くる病とMSの予防のため、食品にビタミンDと安価なサプリを混ぜましょう……って。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/vitamin-d-deficiency-supplement

妊娠中にビタミンDが不足すると、低体重児が生まれる確率が上がりますよ~。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253859.php

日本。日本脳炎ワクチン 接種継続へ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121213/t10014165541000.html

日本。予防接種の副作用、緊急対応の手順書案 厚労省が公表
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000538-san-pol

日本。<予防接種>保護者が冷静にリスク評価を:と言われても、これだけメディアに煽られたら素人の保護者がどれほど「冷静にリスク評価」できるというんだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121204-00000002-maiall-soci

95歳の女性から25万ドルも盗んだ介護ヘルパー。:介護者による盗みのニュースは毎日でてくる。
http://www.perthnow.com.au/news/western-australia/carer-charged-with-stealing-250000-from-woman-95/story-e6frg13u-1226536252081

英国の子どもは小学校卒業時に3分の1が肥満。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253973.php

殺虫剤の過剰使用が蜂の死滅に繋がっているのに、規制が十分に行われていない。
http://www.guardian.co.uk/environment/2012/dec/12/mps-insecticide-regulators-bees

日本語。コラム:米国での出生率低下、その脅威とジレンマ
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE8BA04320121211

新潮社がKindleストアからコンテンツを引き上げ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121214-00000317-giz-ent
2013.01.04 / Top↑
「生死の語り行い1 尊厳死法案・抵抗・生命倫理学
立岩真也・有馬斉著 生活書院

「尊厳死法制化を考える議員連盟」が2つの尊厳死法案を用意して
先の国会での成立を目指した動きを受けて、
立岩真也氏が、自身がこの問題について発言してきた内容と、
障害学・障害者運動から起きている反対の意思表明とを取りまとめ、

新進気鋭の倫理学者、有馬斉氏が功利主義者らの安楽死正当化論を整理して紹介・解説、
その「大きな絵」を提示する、という内容。

障害者の運動体からの反対声明がずらりと並んでいるのは壮観。

その他、いくつか個人的にメモしておきたいことを以下に。

① 日本尊厳死協会の副理事長、長尾和弘氏は
今年7月3日に東京弁護士会主催のシンポで
「死期が間近」な「終末期」がどのくらいの状態、時期のことを指すのか、
決めることはできない、と発言した。(p.18)

これは12月4日の早稲田での講演会でも、
上記7月のシンポを聞いた岡部耕典氏から同じ趣旨の指摘があった。

長尾氏は、「終末期というのは患者が死んでから、
ああ、あの時が終末期だったというふうに分かるものであり、
死ぬ前からいつが終末期かは分からない」という趣旨の発言をされた、とのこと。

 ちなみに、日本尊厳死協会理事長の岩尾氏はこんなことを言っておられます ↓
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 1(2012/10/23)
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 2(2012/10/23)


② 功利主義者マクマーンの積極的安楽死正当化の2つ目の根拠である、

仮に自殺幇助は認められても積極的安楽死は許されないとなると
不治だったり耐え難い苦痛があるなどの条件は同じであるにも関わらず、
ALS患者のように自分の手足を使えない人だけが死ぬ権利を奪われることになる、
との主張(p.134)は、

先に英国で亡くなったTony Nicklinsonさんが裁判で主張していたもの。

“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)


③ 生存くじ(survival lottery) ジョン・ハリスの有名な論文。1980= 1988

……臓器移植の技術が完成した未来の世界では、健康な人を一人殺してその臓器を二人以上の病人に移植すれば全体としてより多くの人が幸福に生きられる。だから、ハリスによればこの場合一人が犠牲になるべきだという。
 もちろんここで移植するということは、一人の健康な人を殺すことである。……(中略)……また、犠牲者の択び方は例えばレシピエントの担当医が独断で決めたりすると人々の恐怖心をいたずらにあおることになる。そうした間接的な悪影響はできるだけ抑えなければならない。そこでハリスによれば、社会のすべての成員にあらかじめ番号をふっておき、必要に応じて適宜くじを引いて犠牲者を選ぶとよい。ハリスはこの仕組に生存くじ(survival lottery)と名前をつけている。
(p.161)


④ジャック・キヴォーキアン医師は単に自殺幇助合法化だけではなく、以下のことも主張。(p.176)

・死刑囚を、本人の同意があった場合に、人体実験に使うべき。
・同じく死刑囚を、本人の同意があった場合に、臓器ドナーにすべき。

【Kevorkian医師関連エントリー】
自殺幇助のKevorkian医師、下院出馬の意向(2008/3/14)
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN、Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
Kevorkian医師の半生記映画、主演のパチーノ共、エミー賞を受賞(2010/8/30)
K医師、98年に自殺幇助した障害者の腎臓を摘出し「早い者勝ちだよ」と記者会見(2011/4/1)
Kevorkian医師、デトロイトの病院で死去(2011/6/4)
Kevorkian医師の“患者”の6割はターミナルではなかった?(2011/6/6)


⑤ ヘムロック協会が積極的安楽死合法化の動きを作る一翼を担ってきた。(p.177)

“Final Exit”の著者、デレックハンフリーが創設したヘムロック協会とは、
現在のCompassion and Choice(C&C)の前身。

C&Cについてはエントリー多いですが、FENとの関係など主だったところは以下のエントリーにリンク ↓
米TV番組“The Suicide Plan” FEN事件を詳細に(2012/11/15)


⑥ 「オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、
その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、
費用のかかることを行わないのが特になる仕組みになっている」(p.187)


⑦ 向井承子「患者追放――行き場を失う老人たち」(2003)からの引用がすごい。
……というよりも、私がもうここ数年ずっと重心の世界の人たちに言い続けているのに
誰からも否定されてしまうことが、2003年にとっくに事実になっていた、という衝撃。

 二十数年前には、「病気があるというだけで病院に収容されている大量の子どもたち」に胸を衝かれた。現在は逆に、特別のケアがなければ生きにくく育ちにくい子どもたちが医療から「追放」されようとしていた。かつては、その子たちを地域に返してやりたいとあんなに願ったのに、いま追放される先とは地域とは名ばかりの荒野とは。(向井pp.123-124)
(p. 208)

「過剰医療」ということばが生まれる。患者がまるで検査やクスリを消費するだけの存在、病院を支える道具のように扱われることになる。
 それは患者が選んだことではなく、医療関係者たちが患者を医療経営のコマとして扱う羽目に自ら追い込まれる、いわば自縄自縛の落とし穴にはまってしまった結果なのだが、その頃から今度は[…]病院で医療に頼って生き続けるおとしよりの存在が財政面から問題視されることとなって、いまでは、医療が必要な人もそうでない人も一気呵成に医療から追放されようとしている。(向井 p.8)
(p.209)


⑧ 有馬氏による功利主義者の安楽死・自殺幇助正当化論の整理を読んで感じたのは
まずは、ひたすら「遠いなぁ……」だった。

私の頭が付いていけないという意味で「遠い」というのもあるし、
「論理に破たんがない」ということが「正しいこと」とされるだけの、
これは論理のパズルであり言葉のゲームでしかないのでは? という、いつもの空疎な感じがあって、

人が「生活」とか「人生」を生きている生身の営みから
ひたすら、はるかに、遠く隔たっているなぁ……と。

それから、もう一つは「面倒くさいなぁ」というのも。

その「面倒くささ」には、一見するとたいそう緻密に見える論理のパズルも、
なんだかヘリクツっぽい「詭弁」に思えたりすることも含まれていて、
(もちろん、ついていけていないからそう感じるだけかもしらんけど)
こんな面倒くさい論理のパズルをよくここまで熱心にやっていられるなぁ……と
ちょっと辟易しながら、読み進んでいくうち、ふっと思ったのは、

でも、こういう論理のパズルが大好きな人たちが、
例えば、臓器移植とか生殖補助技術に伴う倫理問題では
ここまで面倒くさい論理のパズルを緻密に展開していなくて、
もっと粗雑に乱暴なことを言ってのけているように感じるのは、
単に私が不勉強で物を知らないから、なんだろうか。
2013.01.04 / Top↑