「看取りケア・パス機会的適用が問題に(英)・MA州住民投票で自殺幇助合法化ならず(米)」書きました
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2013/1/4(金) 午前 10:44
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看取りケア・パス機会的適用が問題に(英国)
日本でも用いられている看取りケアのクリティカル・パス、リバプール・ケア・パスウェイ(LCP)が、英国で大問題になっている。LCPは死にゆく患者の苦しみを極力少なくするべく、エビデンスに基づいて看取りの前後のケアの手順を標準化したクリティカル・パス。2003年に英国で作られて、翌年NICE(国立医療技術評価機構)が推奨モデルとした。
LCPが「裏口安楽死」になっていると問題視する声は09年から上がっていた。同年9月に現場で終末期医療を担う医師らが連名で、デイリィ・テレグラフ紙に告発の手紙を送ったのだ。「NHS(英国医療サービス)では回復の余地のある患者にまで機会的にLCPが適用されて、高齢者が栄養と水分、治療薬を引き上げられ、鎮静されたまま死なされている。機会的に鎮静したのでは回復の兆しがあったとしても把握できない。現場の医療職が思考停止を起こし、注意深く患者の症状の変化を見守ることをやめてしまった。もともとは患者に尊厳ある死をという理念で作られたLCPが、手がかけずに患者を死なせるための自動的な手続きと化している」という、ショッキングな告発だった。
ここ数年、英国では高齢者や障害者が入院した際に、本人にも家族にも知らせず一方的にカルテに蘇生不要(DNR)指定が書きこまれる事例が相次ぎ、家族からの提訴が増えている。そんな中、今年6月にケント大学の高名な神経学教授がロンドンでの医師会講演で「ベッドを空けるため、看護の手間を省くために、まだ生きられる高齢患者がLCPの機会的運用で殺されている」と激しく批判したことから、LCPの機会的適用をめぐる議論が一気に過熱した。メディアでの議論に危機感を持った22のホスピス関連団体は10月18日、本来のLCPの理念と内容を詳細に説明し改めてLCPを支持するコンセンサス・ステートメントを発表。これに対して、デイリー・メール紙は社説で「毎年LCPで10万人をはるかに超える人が死んでいる以上、LCPが患者の死を早めてベッドを空けるために使われているとの疑惑は避けがたい」と反論した。
こうした動きを受け、NHSと緩和医療学会はLCPの実態調査に乗り出すことを決めた。またジェレミー・ハント保健相もNHS憲章改訂の一環として、患者・家族と話し合うことなしに一方的にLCPやDNR指定を決めたり、本人・家族の意向を無視することにブレーキをかける方向性を打ち出した。無益な治療を提供しない医師らの権利は依然として認めつつ、その権利を行使するにあたって「終末期コミュニケーション」を通じて透明性を保障するよう求める趣旨のもの。
MA州住民投票で自殺幇助合法化ならず(米国)
さる11月6日の米国大統領選挙では多くの州で同時に住民投票も行われたが、ロムニー大統領候補が前知事として州民皆保険をなしとげたマサチューセッツ州では、医師による自殺幇助合法化の賛否をめぐる住民投票の行方が注目された。オレゴン州とワシントン州と同じ尊厳死法を問うものだ。こちらの投票結果も真っ二つだった。開票が進んでも僅差は変わることなく、反対51%、賛成49%で尊厳死法は通らなかった。
この問題は激しい論争となって久しいが、同州医師会と薬剤師団体などが反対を表明した他、直前には大物倫理学者や故エドワード・ケネディ上院議員の未亡人も反対投票を呼びかけた。それらの発言に比べれば地味だが、5月にワシントン州の高齢者施設の経営者がボストン・グローブ紙に書いた手紙が、私にはとても印象的だった。以下のように書いて合法化を食い止めるようMA州民に呼びかけている。
「尊厳死法ができて以降、医療職の中には最初から治療など考えず、すぐにモルヒネを持ちだして緩和ケアを始める方が目につくようになっています。時には、クライエント本人にも代理人である家族にも告げずに、独断でそういうことをやられる医療職もあります。
またQOLが低すぎるから高齢者は治療しないと一律に切り捨ててしまう医療職も見てきました。かつては、たいていの医療職が高齢者のケアに喜びを感じ、クライエントもまたそれに喜びと敬意で応えていたものでしたのに。
いつの日か、私たちも老います。その時に、私自身は治療しケアしてほしいし、自分の選択を尊重してもらいたいと思います。このような事態の推移に私は心を痛めており、そちらの皆さんが自殺幇助の合法化を止められるものなら、と願っております」
連載「世界の介護と医療の情報を読む」
「介護保険情報」2012年12月号
LCPの機会的適用問題については ↓
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的適用問題 続報(2012/7/12)
LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)
MA州のPAS合法化住民投票については ↓
WA州の高齢者施設経営者からMA州住民への手紙「PAS合法化したら滑ります」(2012/5/29)
MA州医師会が11月住民投票のPAS合法化をめぐる質問に反対を表明(2012/9/18)
筋ジスのジャーナリスト「死の“自己選択”は幻想」(2012/11/2)
Dr. Emanuel「PASに関する4つの神話」(2012/11/5)
MA州の自殺幇助巡る住民投票 合法化ならず(2012/11/7)
MA州の自殺幇助住民投票結果の分析(2012/11/10)
2013.01.04 / Top↑
新年あけまして、おめでとうございます。
2013年の元旦に、
今年の自分自身に向けて贈っておきたい言葉を、
年末に読んだ『環状島=トラウマの地政学』(宮地尚子)から――。
一方で、市民の教育レベルが全体的にあがり(どんな教育かにももちろんよるが)、かつ弱者のエンパワメントがすすめば、判断を専門家に委ねるしかないとされたときにも、それを疑ってかかり、誰もが当事者研究をする基盤は維持される。自己肯定感を根こそぎにされなければ、「専門家でもない者が口出しをするな」という物言いに対し、「でも、専門家だからこそ切り捨ててしまう視点や事実がある」と言い返すことができる。……(中略)……インターネットが世界に情報の民主化をもたらすという夢はすでに現実からかけ離れたものであることが明らかになったが、それでもこれまで発話や表象へのアクセスをもたなかった弱者が、「情報操作」の対象から行為者に変わる契機は増えているに違いない。
(p.208-209 ゴチックはspitzibara)
このブログに寄ってくださる方々にも――。
【1月3日追記】
コメントいただいて、本当はちゃんとエントリーにしたいんだけどなぁ……と
付箋だらけの『環状島』をめくっていたら、上記の引用箇所の直前に、
もちろん上記の引用に繋がっていくと同時に、spitzbiara的には、
いただいたコメントにも直接的に関係すると思える個所が目についたので。
遺伝子操作や機能的脳画像検査など、科学技術が発展し、専門分化し、それらが巨大な産業や資本、経済と結びついている現代に置いて、高度な専門知識を持つ科学者の役割、ミッシェル・フーコーのいう「特定領域の知識人(特殊的知識人)」の役割はますます重要になってくるといえるだろう。しかし専門分化が極度に進んでいるからこそ、同時に、起きている物事を総合的に見通す「普遍的知識人」も貴重になってくるに違いない。
(p.207)
もう一つ、
けれども油断をしたら、いつでも<水位>は上がる。<重力>や<風>にあおられて、内側の人が<内海>に、外側の人が<外海>へ放り出され、島の上に立つ人間がいなくなれば、それは加害者の勝利である。すべてが沈黙させられ、忘却されてしまえば、「完全犯罪」となる。環状島の上に立つ被害者や支援者を分断し、孤立化させ、消耗戦に持ち込み、息の根を挙げるのを待ち構える動きも、確実に存在する。
(p.37-38)
2013年の元旦に、
今年の自分自身に向けて贈っておきたい言葉を、
年末に読んだ『環状島=トラウマの地政学』(宮地尚子)から――。
一方で、市民の教育レベルが全体的にあがり(どんな教育かにももちろんよるが)、かつ弱者のエンパワメントがすすめば、判断を専門家に委ねるしかないとされたときにも、それを疑ってかかり、誰もが当事者研究をする基盤は維持される。自己肯定感を根こそぎにされなければ、「専門家でもない者が口出しをするな」という物言いに対し、「でも、専門家だからこそ切り捨ててしまう視点や事実がある」と言い返すことができる。……(中略)……インターネットが世界に情報の民主化をもたらすという夢はすでに現実からかけ離れたものであることが明らかになったが、それでもこれまで発話や表象へのアクセスをもたなかった弱者が、「情報操作」の対象から行為者に変わる契機は増えているに違いない。
(p.208-209 ゴチックはspitzibara)
このブログに寄ってくださる方々にも――。
【1月3日追記】
コメントいただいて、本当はちゃんとエントリーにしたいんだけどなぁ……と
付箋だらけの『環状島』をめくっていたら、上記の引用箇所の直前に、
もちろん上記の引用に繋がっていくと同時に、spitzbiara的には、
いただいたコメントにも直接的に関係すると思える個所が目についたので。
遺伝子操作や機能的脳画像検査など、科学技術が発展し、専門分化し、それらが巨大な産業や資本、経済と結びついている現代に置いて、高度な専門知識を持つ科学者の役割、ミッシェル・フーコーのいう「特定領域の知識人(特殊的知識人)」の役割はますます重要になってくるといえるだろう。しかし専門分化が極度に進んでいるからこそ、同時に、起きている物事を総合的に見通す「普遍的知識人」も貴重になってくるに違いない。
(p.207)
もう一つ、
けれども油断をしたら、いつでも<水位>は上がる。<重力>や<風>にあおられて、内側の人が<内海>に、外側の人が<外海>へ放り出され、島の上に立つ人間がいなくなれば、それは加害者の勝利である。すべてが沈黙させられ、忘却されてしまえば、「完全犯罪」となる。環状島の上に立つ被害者や支援者を分断し、孤立化させ、消耗戦に持ち込み、息の根を挙げるのを待ち構える動きも、確実に存在する。
(p.37-38)
2013.01.04 / Top↑
本来なら、ミュウは昨日の朝から帰ってくる予定だったのだけれど、
おとといの晩に熱を出し、そればかりか喘息気味だとの診断で、
当面は外泊は見合わせ、とドクター・ストップがかかってしまった。
年末年始は、家でゆっくり過ごせる滅多にない機会なのに、
あららぁ。がっくり……。冷凍庫にはミュウ用の介護食おせちも待っているのに……。
まぁ、仕方ないねー。お父さんとお母さんが毎日くるから。
おせちも持ってくるから、あんた、ここで食べる? ……なんてことを言いつつも、
DVDを独占しては「おかあさんといっしょ」に歓声を上げているミュウは
さほどに「やられている」観はないだけに、「お正月」がすっ飛ぶのは無念……。
看護師さんたちも、なんとか数日中には帰れるようになったらいいね、と
心を砕いて細かくケアしてくださるが、やっぱ腹くくるしかないかぁぁ。
そこで今朝も、コンビニに寄って親の分の弁当を買い、園へ。
廊下を詰め所に向かっていると、
途中にある職員休憩室から出てきた夜勤明けの看護師さんに、呼び止められた。
ニコニコしながら弾んだ口調で、
「さっき先生が診られたんですけど、いいニュースがありそうですよ~」
それから夜の間のミュウの様子を詳しく教えてくださって、
「先生から直接お話あると思いますけど、本当に良かったですね~」
まさか今日つれて帰れるなんて思ってなかったのと
看護師さんがこんなに一緒に喜んでくれて、わざわざ声をかけてくれた気持ちが嬉しくて、
むっちゃハッピーになり、思わず、その看護師さんに抱きついてしまった。
そして、連絡を受けてやってきたドクターは部屋に入ってくるなり、
「ミュウさん、どうする、帰ろうか? やっぱり家が一番いいよね?」
父にでもなく母にでもなく、ベッドを覗き込み、ミュウ自身に声をかけてくれた。
ミュウは「ハー!」と大きな口をあけて答え、
先生は「この顔なら大丈夫みたいだし」とつぶやく。
――母は、ちょっとしびれた。
実は私は、園長でも娘の主治医でもない、このドクターAとは、あまり話をしたことがないのだけれど、
数ヶ月前、今回とまったく同じシチュエーションで、ちょっと印象的な場面があった。
たまたまその日の当直だったA先生と、家に帰っても大丈夫かどうかを相談していると、
ミュウが突然ものすごく不機嫌になった。
その頃、ミュウはことあるごとに、
「あたしはここで自分でちゃんとやっているんだから、
親は余計な口を出さないで」とでも言いたげなそぶりを見せていて、
気付いてみたら、本当はかなり前から
ミュウなりに、そういう意思表示をしていたのだけれど、
鈍い親がミュウの気持ちとメッセージに気付いてやれるのには1年近くかかった。
なかなか分かってもらえず、
幼児の頃と同じように親が何もかも職員さんと相談して決めてしまうたびに
とっくに大人になったミュウにとっては、どんどん憤懣がたまっていったのだろうと思う。
そういう場面で猛烈に不機嫌になってゴネる……ということが増えていた。
ただミュウは言葉を持たないから、何を言いたくてゴネているのか、
私にはなかなか分からなかった。
初めて気付いてガ――ンと来た時のことは、
来春刊行される『支援』という雑誌のVol.3に書かせてもらった。
少しずつ気付き始めてからのことは、
こちらの気付きというエントリーに書いた。
数ヶ月前に、A先生と「家に帰ってもいいか」どうかの相談中に
ミュウが不機嫌になった時には、もうかなり分かっていたので、
「あ、ミュウは自分で先生と直接話したいんだね。これはミュウのことだからね」と、すぐに気付いた。
すると、私の言葉を聞いたA先生は、ごく自然にミュウの車椅子の前に身をかがめて、
「じゃぁ、ミュウさん、先生は大丈夫じゃないかと思うけど、家に帰りますか?」と聞いてくれた。
「私のことは私に言わせろ」とゴネまくっていたくせに、
いざ話を自分に振られるとミュウは俄かに緊張し、ただワナワナして、
まるで「帰りたくないみたいじゃない!」と皆を笑わせてくれたけれど、
こうしてこの子も、こういう場面に慣れていけばいいのだろうな、と私は思ったし、
A先生が自然に応じてくれたことからも、
私が受け止めることで周囲の専門職にも気付ききは広がっていくのかも、とも感じさせてもらった。
その後、私はミュウの前で担当職員の方にミュウの最近の思いを話し、
「ミュウが決めて終われることことは、ミュウに直接聞いてやってください」とお願いした。
また主治医の説明も一緒に聞いて、何かを決める時にはミュウに了解を取ることにした。
そうして、ミュウは最近ゴネなくなった。
まだ母が自分に都合よく解釈しているのかもしれないけれど、
親が自分のメッセージを受け止めてくれたこと、それをスタッフに繋いだことで、
ミュウが抱えていた「存在を勝手に消されるような、やりきれない思い」が一段落して、
この子なりにとりあえず親を許せたんじゃないか、と私は想像している。
でも、数ヶ月前のあの日にA先生があれほど自然に応じてくれていなかったら、
ミュウなりの思いをスタッフに繋ぐことまで私が考えたかどうか、分からない。
もしかしたら、親が受け止めてやって、そこで終わっていたかもしれない。
今日、改めて聞いてみたら、
あの時のことをA先生ははっきり覚えていないらしいのだけれど、
でも、やってくるなりミュウに向かって
「ミュウさん、どうする、家に帰る?」と問うてくれた先生の中には、
やっぱりあの数ヶ月前の出来事は何らかの形で残っていたんじゃないだろうか。
もしかしたら、A先生は最初からそういう人だったのかもしれないし、
あの日だって、そういう人だったから自然に応じてくれたのでもあろうし、
だから私はあの日から、A先生が園にいてくれることを心からありがたいと思っているのだけれど、
同時に、
これほど重い障害があり言葉を持たないミュウが彼女なりに上げたのは
Nothing About Me Without Me(私抜きに私のことを決めないで)という声だったこと、
それは親への堂々たるチャレンジだったのだ……ということを思うと、
その声には、
私たち親はもちろん、ミュウの周りの専門職にも届き、変える力があったということ、
これからも彼女にはそれだけの力があるのだということを、私は信じたいと思う。
そして、そのことを、こうして語っていきたいと思う。
「どうせ何も分からない重症(児)者」と、彼らの現実など知らずに決めつける人たちに向かって
「それは違う」と言い続けるためにも――。
今朝、先生のおかげで家に帰れることになったミュウは
車いすに乗せられて「じゃぁ、先生にありがとう言って帰ろう」と促されると、
ちょっとテレながら、そっと先生を見あげて口を開けた。
A先生はそれに「はい。よかったね。気をつけて」と応えた後で、
「先生も今日で仕事終わりなんだよ」と、ちょぴり嬉しそうに付けくわえていた。
1日遅れになったけれど、
とても素敵な冬休みの始まりとなりました。
明日は例年通り親子3人揃って迎える大みそかです。
皆さんにも平穏な年の瀬が訪れていますように。
おとといの晩に熱を出し、そればかりか喘息気味だとの診断で、
当面は外泊は見合わせ、とドクター・ストップがかかってしまった。
年末年始は、家でゆっくり過ごせる滅多にない機会なのに、
あららぁ。がっくり……。冷凍庫にはミュウ用の介護食おせちも待っているのに……。
まぁ、仕方ないねー。お父さんとお母さんが毎日くるから。
おせちも持ってくるから、あんた、ここで食べる? ……なんてことを言いつつも、
DVDを独占しては「おかあさんといっしょ」に歓声を上げているミュウは
さほどに「やられている」観はないだけに、「お正月」がすっ飛ぶのは無念……。
看護師さんたちも、なんとか数日中には帰れるようになったらいいね、と
心を砕いて細かくケアしてくださるが、やっぱ腹くくるしかないかぁぁ。
そこで今朝も、コンビニに寄って親の分の弁当を買い、園へ。
廊下を詰め所に向かっていると、
途中にある職員休憩室から出てきた夜勤明けの看護師さんに、呼び止められた。
ニコニコしながら弾んだ口調で、
「さっき先生が診られたんですけど、いいニュースがありそうですよ~」
それから夜の間のミュウの様子を詳しく教えてくださって、
「先生から直接お話あると思いますけど、本当に良かったですね~」
まさか今日つれて帰れるなんて思ってなかったのと
看護師さんがこんなに一緒に喜んでくれて、わざわざ声をかけてくれた気持ちが嬉しくて、
むっちゃハッピーになり、思わず、その看護師さんに抱きついてしまった。
そして、連絡を受けてやってきたドクターは部屋に入ってくるなり、
「ミュウさん、どうする、帰ろうか? やっぱり家が一番いいよね?」
父にでもなく母にでもなく、ベッドを覗き込み、ミュウ自身に声をかけてくれた。
ミュウは「ハー!」と大きな口をあけて答え、
先生は「この顔なら大丈夫みたいだし」とつぶやく。
――母は、ちょっとしびれた。
実は私は、園長でも娘の主治医でもない、このドクターAとは、あまり話をしたことがないのだけれど、
数ヶ月前、今回とまったく同じシチュエーションで、ちょっと印象的な場面があった。
たまたまその日の当直だったA先生と、家に帰っても大丈夫かどうかを相談していると、
ミュウが突然ものすごく不機嫌になった。
その頃、ミュウはことあるごとに、
「あたしはここで自分でちゃんとやっているんだから、
親は余計な口を出さないで」とでも言いたげなそぶりを見せていて、
気付いてみたら、本当はかなり前から
ミュウなりに、そういう意思表示をしていたのだけれど、
鈍い親がミュウの気持ちとメッセージに気付いてやれるのには1年近くかかった。
なかなか分かってもらえず、
幼児の頃と同じように親が何もかも職員さんと相談して決めてしまうたびに
とっくに大人になったミュウにとっては、どんどん憤懣がたまっていったのだろうと思う。
そういう場面で猛烈に不機嫌になってゴネる……ということが増えていた。
ただミュウは言葉を持たないから、何を言いたくてゴネているのか、
私にはなかなか分からなかった。
初めて気付いてガ――ンと来た時のことは、
来春刊行される『支援』という雑誌のVol.3に書かせてもらった。
少しずつ気付き始めてからのことは、
こちらの気付きというエントリーに書いた。
数ヶ月前に、A先生と「家に帰ってもいいか」どうかの相談中に
ミュウが不機嫌になった時には、もうかなり分かっていたので、
「あ、ミュウは自分で先生と直接話したいんだね。これはミュウのことだからね」と、すぐに気付いた。
すると、私の言葉を聞いたA先生は、ごく自然にミュウの車椅子の前に身をかがめて、
「じゃぁ、ミュウさん、先生は大丈夫じゃないかと思うけど、家に帰りますか?」と聞いてくれた。
「私のことは私に言わせろ」とゴネまくっていたくせに、
いざ話を自分に振られるとミュウは俄かに緊張し、ただワナワナして、
まるで「帰りたくないみたいじゃない!」と皆を笑わせてくれたけれど、
こうしてこの子も、こういう場面に慣れていけばいいのだろうな、と私は思ったし、
A先生が自然に応じてくれたことからも、
私が受け止めることで周囲の専門職にも気付ききは広がっていくのかも、とも感じさせてもらった。
その後、私はミュウの前で担当職員の方にミュウの最近の思いを話し、
「ミュウが決めて終われることことは、ミュウに直接聞いてやってください」とお願いした。
また主治医の説明も一緒に聞いて、何かを決める時にはミュウに了解を取ることにした。
そうして、ミュウは最近ゴネなくなった。
まだ母が自分に都合よく解釈しているのかもしれないけれど、
親が自分のメッセージを受け止めてくれたこと、それをスタッフに繋いだことで、
ミュウが抱えていた「存在を勝手に消されるような、やりきれない思い」が一段落して、
この子なりにとりあえず親を許せたんじゃないか、と私は想像している。
でも、数ヶ月前のあの日にA先生があれほど自然に応じてくれていなかったら、
ミュウなりの思いをスタッフに繋ぐことまで私が考えたかどうか、分からない。
もしかしたら、親が受け止めてやって、そこで終わっていたかもしれない。
今日、改めて聞いてみたら、
あの時のことをA先生ははっきり覚えていないらしいのだけれど、
でも、やってくるなりミュウに向かって
「ミュウさん、どうする、家に帰る?」と問うてくれた先生の中には、
やっぱりあの数ヶ月前の出来事は何らかの形で残っていたんじゃないだろうか。
もしかしたら、A先生は最初からそういう人だったのかもしれないし、
あの日だって、そういう人だったから自然に応じてくれたのでもあろうし、
だから私はあの日から、A先生が園にいてくれることを心からありがたいと思っているのだけれど、
同時に、
これほど重い障害があり言葉を持たないミュウが彼女なりに上げたのは
Nothing About Me Without Me(私抜きに私のことを決めないで)という声だったこと、
それは親への堂々たるチャレンジだったのだ……ということを思うと、
その声には、
私たち親はもちろん、ミュウの周りの専門職にも届き、変える力があったということ、
これからも彼女にはそれだけの力があるのだということを、私は信じたいと思う。
そして、そのことを、こうして語っていきたいと思う。
「どうせ何も分からない重症(児)者」と、彼らの現実など知らずに決めつける人たちに向かって
「それは違う」と言い続けるためにも――。
今朝、先生のおかげで家に帰れることになったミュウは
車いすに乗せられて「じゃぁ、先生にありがとう言って帰ろう」と促されると、
ちょっとテレながら、そっと先生を見あげて口を開けた。
A先生はそれに「はい。よかったね。気をつけて」と応えた後で、
「先生も今日で仕事終わりなんだよ」と、ちょぴり嬉しそうに付けくわえていた。
1日遅れになったけれど、
とても素敵な冬休みの始まりとなりました。
明日は例年通り親子3人揃って迎える大みそかです。
皆さんにも平穏な年の瀬が訪れていますように。
2013.01.04 / Top↑
米国精神科学会がこれまでの方針を転換し、「大切な人を失った喪の悲しみにも抗ウツ剤を使いましょう」。転換を誘導したパネリストらにはビッグ・ファーマとの金銭関係。:読みたいんだけど、長大な記事。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/antidepressants-to-treat-grief-psychiatry-panelists-with-ties-to-drug-industry-say-yes/2012/12/26/ca09cde6-3d60-11e2-ae43-cf491b837f7b_story.html
日本。脳炎ワクチンとの因果関係分からず 美濃市の男児死亡
http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20121226/201212261140_18950.shtml
ワクチン自閉症犯人説を流してLancetから論文削除されたWakefieldが、何やら新設されたGood Thinking SocietyのGolden Duck賞なるものを受賞。:念のためにお断りしておきますが、私はワクチン水銀自閉症犯人説にも、ワクチンによる人類不妊化説にも立ちません。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/23/struck-off-mmr-doctor-quackery-award
アジアで作られた偽薬がアフリカで出回っているらしい。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/23/africa-counterfeit-medicines-trade
そういえば、このところ話題になっている怪しげな幹細胞治療について、今年2月に書いたエントリーがあったのを思い出した。
AJOB巡るスキャンダルには、幹細胞治療や日本の医療ツーリズムも“金魚のウンコ”(2012/2/15)
快を感じる部位を破壊することでアヘン中毒を治療する中国の脳外科医療。:これ、例の道徳エンハンスの倫理問題なんだと思うのだけれど、気力が低下しているうちに、エントリーにしたかったり、せめてちゃんと読みたい記事が、手つかずのままになっていく……。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10355
50年以内に人間のクローンできるって。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10351#comments
NPRの世論調査で、米国人のほとんどが余命6カ月以内の人へのPASを支持する一方で、終末期でない人や障害者へのPASには反対している、と。
http://www.northcountrypublicradio.org/news/npr/168150886/americans-support-physician-assisted-suicide-for-terminally-ill
ドイツの高齢者が海外の介護施設に流出している。流出先はスペイン、ギリシャ、ウクライナ。:金持ち国の高齢者介護が貧困な国にアウトソーシングされる介護ツーリズム。スイスのディグニタスで自殺している外国人で一番多いのがドイツ人だということを、なんとなく思い起こした。すぐ読めないけど、すごく気になる記事。日本の年金をもらいつつ東南アジアで介護を受けて暮らす障害者や高齢者もいる。
http://www.upi.com/Top_News/World-News/2012/12/26/Many-elderly-Germans-in-foreign-facilities/UPI-48351356554759/
高齢化の中でNHSが生き残るためには、サービス削減するしかない、とNHSトップ。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/28/public-nhs-reforms-health-service
日本。脳死の男児から移植の女児が退院 成育医療研究センター
http://www.asahi.com/national/update/1204/TKY201212040392.html
日本語。トモダチ作戦の米兵8人東電提訴…情報なく被爆
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121228-00000206-yom-soci
73人が「要精密検査」 取手市内24校心臓検診 「心臓に異常が認められるケースが急増しているのは事実」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20121226/CK2012122602000145.html
日本語。「柳井正は人として終わっている」鬱→求職→退職の新卒社員が語るユニクロの人材使い捨てぶり(News Japan)
http://www.mynewsjapan.com/reports/1734
シノドスにも、『ブラック企業』著者、今野晴貴氏に聞く――ブラック企業~この、とんでもない妖怪に立ち向かうために:リンク貼れないので、タイトルで検索してください。
で、ここまでの話題はすべて、グローバルひとでなし強欲ネオリベ金融(慈善)資本主義の中で起こっているという点で繋がっているんじゃないか、という気がする。例えば、こういうこととか ↓
事業仕分けの科学研究予算問題から考えること
「科学とテクノ」と「法」と「倫理」そして「問題の偽装」(2010/5/24)
「必要を作り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
12月初めに、23歳の女子大生がバスの中で集団的レイプを受けて重態となる事件が発生。官憲と政府の反応の鈍さに、抗議デモが激化。被害者の学生はデリーで数回の手術を受けた後シンガポールの病院に運ばれたが、死亡。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/27/india-gang-rape-victim-singapore
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-india-20860569
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-india-20835197
日本。妻が仕事を持つと変わる夫婦の力関係 PRESIDENT OnLine 「妻の資力が高まれば、家計の戦力になるが、間違うと暴走してモンスター化する恐れもある。経済力は発言力、時には破壊力にもつながると心得るべきだ」そうな。:古い友人が「経済的に自立した女というものは、まったく始末が悪いよな」と言ったことがある ⇒ ACからEva Kittayそして「障害児の介護者でもある親」における問題の連環(2010/12/1)
http://president.jp/articles/-/833
日本。野球部員らバスの障害者に嫌がらせ、動画撮影:ネット上で露骨な障害者差別をして喜んでいる大人たちは、こういうニュースにどういう感想を持つんだろう?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121228-00000476-yom-soci
老いてさまよう:鳥かごの家から/ 1(その1) 高齢者囲い込み
http://mainichi.jp/select/news/20121224ddm001040043000c.html
英国でもストレスから辞職する教師が増えており、組合が事態悪化を警告。
http://www.guardian.co.uk/education/2012/dec/26/teachers-stress-unions-strike
この前イタリアで地震を予知できなかった科学者らが罪に問われたけど、フランスで殺人事件の犯人の主治医の精神科医が犯罪を予防できなかったとして執行猶予付き1年の懲役刑に。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10352
テキサスのある町では、学校の先生たちが銃を隠し持っている。そういえば、こんな話もあった ⇒ 授業中にケンカをすればスクール・ポリスがやってくる。そして逮捕(2012/1/12)
http://www.huffingtonpost.com/huff-wires/20121220/us-gun-toting-teachers/?utm_hp_ref=green&ir=green
で、ここからは解毒のための話題――。
National Wellness Instituteのウエルネス・モデル(the Six Dimensions of Wellness Model)。健康は身体的なだけのものではなく、他にも social, intellectual, spiritual, emotional, occupational な健康がバランスよく整ってのもの。
http://www.nationalwellness.org/index.php?id_tier=2&id_c=25
日本。患者の権利に関する法律の制定を求める決議 日本弁護士連合会:この前、東京でNさんが言っておられたのは、これのことですね。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2011/2011_2.html
JR大阪駅頭における宣伝活動に対する威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明
http://keepcivicactivity.jimdo.com/%E7%BD%B2%E5%90%8D-%E5%B8%82%E6%B0%91%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%BD%93%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%AB%E6%8A%97%E8%AD%B0%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99/%E6%86%B2%E6%B3%95%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%80%85%E5%A3%B0%E6%98%8E/
http://www.washingtonpost.com/business/economy/antidepressants-to-treat-grief-psychiatry-panelists-with-ties-to-drug-industry-say-yes/2012/12/26/ca09cde6-3d60-11e2-ae43-cf491b837f7b_story.html
日本。脳炎ワクチンとの因果関係分からず 美濃市の男児死亡
http://www.gifu-np.co.jp/news/kennai/20121226/201212261140_18950.shtml
ワクチン自閉症犯人説を流してLancetから論文削除されたWakefieldが、何やら新設されたGood Thinking SocietyのGolden Duck賞なるものを受賞。:念のためにお断りしておきますが、私はワクチン水銀自閉症犯人説にも、ワクチンによる人類不妊化説にも立ちません。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/23/struck-off-mmr-doctor-quackery-award
アジアで作られた偽薬がアフリカで出回っているらしい。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/23/africa-counterfeit-medicines-trade
そういえば、このところ話題になっている怪しげな幹細胞治療について、今年2月に書いたエントリーがあったのを思い出した。
AJOB巡るスキャンダルには、幹細胞治療や日本の医療ツーリズムも“金魚のウンコ”(2012/2/15)
快を感じる部位を破壊することでアヘン中毒を治療する中国の脳外科医療。:これ、例の道徳エンハンスの倫理問題なんだと思うのだけれど、気力が低下しているうちに、エントリーにしたかったり、せめてちゃんと読みたい記事が、手つかずのままになっていく……。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10355
50年以内に人間のクローンできるって。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10351#comments
NPRの世論調査で、米国人のほとんどが余命6カ月以内の人へのPASを支持する一方で、終末期でない人や障害者へのPASには反対している、と。
http://www.northcountrypublicradio.org/news/npr/168150886/americans-support-physician-assisted-suicide-for-terminally-ill
ドイツの高齢者が海外の介護施設に流出している。流出先はスペイン、ギリシャ、ウクライナ。:金持ち国の高齢者介護が貧困な国にアウトソーシングされる介護ツーリズム。スイスのディグニタスで自殺している外国人で一番多いのがドイツ人だということを、なんとなく思い起こした。すぐ読めないけど、すごく気になる記事。日本の年金をもらいつつ東南アジアで介護を受けて暮らす障害者や高齢者もいる。
http://www.upi.com/Top_News/World-News/2012/12/26/Many-elderly-Germans-in-foreign-facilities/UPI-48351356554759/
高齢化の中でNHSが生き残るためには、サービス削減するしかない、とNHSトップ。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/28/public-nhs-reforms-health-service
日本。脳死の男児から移植の女児が退院 成育医療研究センター
http://www.asahi.com/national/update/1204/TKY201212040392.html
日本語。トモダチ作戦の米兵8人東電提訴…情報なく被爆
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121228-00000206-yom-soci
73人が「要精密検査」 取手市内24校心臓検診 「心臓に異常が認められるケースが急増しているのは事実」
http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20121226/CK2012122602000145.html
日本語。「柳井正は人として終わっている」鬱→求職→退職の新卒社員が語るユニクロの人材使い捨てぶり(News Japan)
http://www.mynewsjapan.com/reports/1734
シノドスにも、『ブラック企業』著者、今野晴貴氏に聞く――ブラック企業~この、とんでもない妖怪に立ち向かうために:リンク貼れないので、タイトルで検索してください。
で、ここまでの話題はすべて、グローバルひとでなし強欲ネオリベ金融(慈善)資本主義の中で起こっているという点で繋がっているんじゃないか、という気がする。例えば、こういうこととか ↓
事業仕分けの科学研究予算問題から考えること
「科学とテクノ」と「法」と「倫理」そして「問題の偽装」(2010/5/24)
「必要を作り出すプロセスがショーバイのキモ」時代と「次世代ワクチン・カンファ」(2010/5/29)
12月初めに、23歳の女子大生がバスの中で集団的レイプを受けて重態となる事件が発生。官憲と政府の反応の鈍さに、抗議デモが激化。被害者の学生はデリーで数回の手術を受けた後シンガポールの病院に運ばれたが、死亡。
http://www.guardian.co.uk/world/2012/dec/27/india-gang-rape-victim-singapore
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-india-20860569
http://www.bbc.co.uk/news/world-asia-india-20835197
日本。妻が仕事を持つと変わる夫婦の力関係 PRESIDENT OnLine 「妻の資力が高まれば、家計の戦力になるが、間違うと暴走してモンスター化する恐れもある。経済力は発言力、時には破壊力にもつながると心得るべきだ」そうな。:古い友人が「経済的に自立した女というものは、まったく始末が悪いよな」と言ったことがある ⇒ ACからEva Kittayそして「障害児の介護者でもある親」における問題の連環(2010/12/1)
http://president.jp/articles/-/833
日本。野球部員らバスの障害者に嫌がらせ、動画撮影:ネット上で露骨な障害者差別をして喜んでいる大人たちは、こういうニュースにどういう感想を持つんだろう?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121228-00000476-yom-soci
老いてさまよう:鳥かごの家から/ 1(その1) 高齢者囲い込み
http://mainichi.jp/select/news/20121224ddm001040043000c.html
英国でもストレスから辞職する教師が増えており、組合が事態悪化を警告。
http://www.guardian.co.uk/education/2012/dec/26/teachers-stress-unions-strike
この前イタリアで地震を予知できなかった科学者らが罪に問われたけど、フランスで殺人事件の犯人の主治医の精神科医が犯罪を予防できなかったとして執行猶予付き1年の懲役刑に。
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10352
テキサスのある町では、学校の先生たちが銃を隠し持っている。そういえば、こんな話もあった ⇒ 授業中にケンカをすればスクール・ポリスがやってくる。そして逮捕(2012/1/12)
http://www.huffingtonpost.com/huff-wires/20121220/us-gun-toting-teachers/?utm_hp_ref=green&ir=green
で、ここからは解毒のための話題――。
National Wellness Instituteのウエルネス・モデル(the Six Dimensions of Wellness Model)。健康は身体的なだけのものではなく、他にも social, intellectual, spiritual, emotional, occupational な健康がバランスよく整ってのもの。
http://www.nationalwellness.org/index.php?id_tier=2&id_c=25
日本。患者の権利に関する法律の制定を求める決議 日本弁護士連合会:この前、東京でNさんが言っておられたのは、これのことですね。
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/civil_liberties/year/2011/2011_2.html
JR大阪駅頭における宣伝活動に対する威力業務妨害罪等の適用に抗議する憲法研究者声明
http://keepcivicactivity.jimdo.com/%E7%BD%B2%E5%90%8D-%E5%B8%82%E6%B0%91%E3%81%AE%E4%B8%8D%E5%BD%93%E9%80%AE%E6%8D%95%E3%81%AB%E6%8A%97%E8%AD%B0%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99/%E6%86%B2%E6%B3%95%E7%A0%94%E7%A9%B6%E8%80%85%E5%A3%B0%E6%98%8E/
2013.01.04 / Top↑
私を含めて、
選挙からこちら、元気を出そうと頭ではあれこれ考えてみるものの、
どうにも気持ちが上向いてこない……という人が多いみたいですが、
そういう人にお薦めの映画を見つけました!!
デンゼル・ワシントン監督・主演『グレート・ディベーター』。
2007年に米国で公開されて高い評価を受けた映画みたいなのだけれど、
なぜか日本では公開されず、今年4月にDVDがリリースされたもの。
昨日、どうにも沈みがちな気持ちを持てあまして散歩に出かけ、
ついでに寄ってみたレンタル店で、
まだ見ていないデンゼル様の映画があったなんて……と手に取って、
ストーリーを読んだ瞬間、「今の自分に必要なものだ!」感が、バンッときた。
で、借りて帰ったら、まさにそういう映画だった。
アマゾンの内容紹介から。
1935年アメリカ、テキサス州マーシャル。人種差別が色濃く残るこの街には「白人専用」施設があふれ、黒人たちは虐げられていた。この歪んだ社会を正す方法は「教育」だけ。そう信じる教師トルソンは、黒人の若者に立派な教育を施すという夢の実現に向け、ディベート(討論)クラスを立ち上げる。そして、彼の熱意に触発された、勇気ある生徒たち。やがて討論大会に出場し始めた彼らは、黒人というだけで経験してきた悲しい過去や秘めた怒りを「言葉」という武器 に託し、大勢の観客たちの心を動かしてゆく。だが、彼らの活動が、人々の注目を集め始めていた矢先、トルソンの言動を「過激すぎる」と問題視した学校側 は、ディベート・クラスにまで圧力をかけ始め…。
米国の劇場で見た方の感想ブログはこちら(映画の映像あり) ↓
http://blog.goo.ne.jp/kame_usagi/e/d77cc5d6d9896571d6c8b4a82038e18d
うん、共感するなぁ……というレビューのブログがこちら ↓
http://ameblo.jp/tuboyaki/entry-11238175110.html
上の方のブログの人が劇場で拍手が起こったって書いているけど、
私も何度もボロボロ泣きながら見て、最後のシーンで気が付いたら、
ごく自然に、会場にいる気分で彼らに惜しみない拍手を送っていた。
で、その5分後には、アマゾンのサイトでDVDをカートに入れた。
これは、ものを言う気力が萎えそうになった時のお守りとして
持っておきたい映画だ……と思ったから。
日常のすぐ側に、
一つ間違えば何の理由もなく理不尽な暴力にさらされる恐怖が隣合わせになっている
30年代の時代背景とテキサスという土地柄の厳しさは、
様々な形で描かれていて、
また、デンゼル演じるトルソンを含めた登場人物がことごとく
誇りや知性と同時に、弱さや醜さを併せ持った人間として描かれていて
(2人の妻だけは、ちょっと「良き妻」でしかなくて残念だけど)
だからこそ、差別される屈辱に傷つき、恐怖におびえながらも、
若者たちが、その痛みの中から滲みでてくる自分自身の言葉と出会っていくプロセスと、
自分の言葉を見つけた彼らが、勇気を振り絞って全霊をその言葉に込め、訴える時、
その言葉がひりひりと胸に迫ってくる。
実際には、ディベイトの内容はかなり甘いし、
賛成側と反対側の設定も常に相手チームに不利になってはいるんだけれど、
(そういえば私も大学のESSで1度だけ、ディベートやったことがあったなぁ……)
それは、まあ、現実にワイリー大学のチームは10年間勝ち続けているのだから、
例えば「福祉は貧乏人を甘やかす」というテーマで賛成側に立ったとしても
見事なディベートを展開して見せた人たちなわけで、
この映画の主題はそういうところにあるわけではなく、
祖父母世代は奴隷だったという30年代のテキサスで
黒人の若者たちが言葉で訴えることの力と出会い、
その力を信じてディベートを闘い、差別と闘う自信と力を身につけ、
それぞれの生き方を見つけていったことにあるのだと思う。
登場人物の中で一番しょぼいウィティカーJr.が
実はこの映画の本当の主人公じゃなかったか、と私は思っている。
彼はチーム・メイトに失恋し、
ディベートに出れば噛みまくって敗北を喫し、
リサーチ担当という地味な役割に甘んざるを得なくて自尊心を傷つけられ
萎縮し、卑屈な目つきを見せ続けるのだけれど、
彼が威圧的な父親に初めて逆らうシーンは圧巻。
しかし、その父親もまた、静かに耐えるだけでなく、
闘うべき時には冷静に、かつ力強く闘う人だった。
父への尊敬を取り戻し、様々な体験を経て自信を身につけていく彼は、
ハーバードのチームとのディベートで、最初はおずおずとしているものの、
やがて、今なお黒人へのリンチが処罰もされないテキサスの黒人の痛みを、
自分自身の率直な言葉で訴える。静かに。でもパワフルに。
現実の彼は後に人権運動の組織を立ち上げ、その指導者になったという。
上記2つ目のブログの人も書いているけど、
エンド・クレジットの時に、俳優たちの写真がごく自然に
実際にディベート・チームにいた若者たちやトルソン自身の写真に変わっていく。
みんな目が澄んでいる。
あぁ、こうして、多くの人が、ずっとずっと昔から、
差別される屈辱に耐え、その痛みをじっとこらえながら、
それでも誇りを失うことなく、それぞれのいる場所で、諦めず、
静かに、しかし堂々と、それぞれに闘い続けて生きてきたのだと、
言葉と知性と、静かに闘い続ける忍耐と勇気を武器に
闘い続けて生きてきたのだと、
とても深いところで、そのことの重みを実感させてもらった気がして、
だから、
こんなにささやかに今ここに生きている私だけれど、
そんな私も、やっぱり言葉の力を信じていよう、
私も私自身の「今ここ」で自分の痛みを静かに語り続けよう……と、本当に素直に思えたし、
それでも、これからだって、
あまりの無力感にものを言う元気や勇気がなくなることくらいは何度もあるから、
そういう時のお守りとして、この映画のDVDを持っておこう、と思ったから。
あと、ひとつ、この映画で「ここはいいな~」と思ったのは、
ウィティカーJr.がチームに女性がいると言うのを聞いて
父親が「美人か?」と訊くと、Jr.がぽかんとして、
「わからない。そんなふうに思ってみたことがないから」という場面。
彼は既に彼女に恋しているんだけれどね。
デンゼル・ワシントンがこういう映画を作ったということ、
オプラ・ウィンフリーがプロデューサーに名乗りを上げたということも、
胸に響くものがあったし、
デンゼルは07年の暮、
ワイリー・カレッジに100万ドルを寄付してる ↓
それでか同カレッジではディベート・チームが復活したとか(この個所は別ソースの情報)
http://www.cinematoday.jp/page/N0012356
ほんと、いい映画でした。
明日からミュウと一緒の年末年始という直前に、
こういう映画と出会えて、嬉しい。
すがすがしい新年が迎えられそうです。
選挙からこちら、元気を出そうと頭ではあれこれ考えてみるものの、
どうにも気持ちが上向いてこない……という人が多いみたいですが、
そういう人にお薦めの映画を見つけました!!
デンゼル・ワシントン監督・主演『グレート・ディベーター』。
2007年に米国で公開されて高い評価を受けた映画みたいなのだけれど、
なぜか日本では公開されず、今年4月にDVDがリリースされたもの。
昨日、どうにも沈みがちな気持ちを持てあまして散歩に出かけ、
ついでに寄ってみたレンタル店で、
まだ見ていないデンゼル様の映画があったなんて……と手に取って、
ストーリーを読んだ瞬間、「今の自分に必要なものだ!」感が、バンッときた。
で、借りて帰ったら、まさにそういう映画だった。
アマゾンの内容紹介から。
1935年アメリカ、テキサス州マーシャル。人種差別が色濃く残るこの街には「白人専用」施設があふれ、黒人たちは虐げられていた。この歪んだ社会を正す方法は「教育」だけ。そう信じる教師トルソンは、黒人の若者に立派な教育を施すという夢の実現に向け、ディベート(討論)クラスを立ち上げる。そして、彼の熱意に触発された、勇気ある生徒たち。やがて討論大会に出場し始めた彼らは、黒人というだけで経験してきた悲しい過去や秘めた怒りを「言葉」という武器 に託し、大勢の観客たちの心を動かしてゆく。だが、彼らの活動が、人々の注目を集め始めていた矢先、トルソンの言動を「過激すぎる」と問題視した学校側 は、ディベート・クラスにまで圧力をかけ始め…。
米国の劇場で見た方の感想ブログはこちら(映画の映像あり) ↓
http://blog.goo.ne.jp/kame_usagi/e/d77cc5d6d9896571d6c8b4a82038e18d
うん、共感するなぁ……というレビューのブログがこちら ↓
http://ameblo.jp/tuboyaki/entry-11238175110.html
上の方のブログの人が劇場で拍手が起こったって書いているけど、
私も何度もボロボロ泣きながら見て、最後のシーンで気が付いたら、
ごく自然に、会場にいる気分で彼らに惜しみない拍手を送っていた。
で、その5分後には、アマゾンのサイトでDVDをカートに入れた。
これは、ものを言う気力が萎えそうになった時のお守りとして
持っておきたい映画だ……と思ったから。
日常のすぐ側に、
一つ間違えば何の理由もなく理不尽な暴力にさらされる恐怖が隣合わせになっている
30年代の時代背景とテキサスという土地柄の厳しさは、
様々な形で描かれていて、
また、デンゼル演じるトルソンを含めた登場人物がことごとく
誇りや知性と同時に、弱さや醜さを併せ持った人間として描かれていて
(2人の妻だけは、ちょっと「良き妻」でしかなくて残念だけど)
だからこそ、差別される屈辱に傷つき、恐怖におびえながらも、
若者たちが、その痛みの中から滲みでてくる自分自身の言葉と出会っていくプロセスと、
自分の言葉を見つけた彼らが、勇気を振り絞って全霊をその言葉に込め、訴える時、
その言葉がひりひりと胸に迫ってくる。
実際には、ディベイトの内容はかなり甘いし、
賛成側と反対側の設定も常に相手チームに不利になってはいるんだけれど、
(そういえば私も大学のESSで1度だけ、ディベートやったことがあったなぁ……)
それは、まあ、現実にワイリー大学のチームは10年間勝ち続けているのだから、
例えば「福祉は貧乏人を甘やかす」というテーマで賛成側に立ったとしても
見事なディベートを展開して見せた人たちなわけで、
この映画の主題はそういうところにあるわけではなく、
祖父母世代は奴隷だったという30年代のテキサスで
黒人の若者たちが言葉で訴えることの力と出会い、
その力を信じてディベートを闘い、差別と闘う自信と力を身につけ、
それぞれの生き方を見つけていったことにあるのだと思う。
登場人物の中で一番しょぼいウィティカーJr.が
実はこの映画の本当の主人公じゃなかったか、と私は思っている。
彼はチーム・メイトに失恋し、
ディベートに出れば噛みまくって敗北を喫し、
リサーチ担当という地味な役割に甘んざるを得なくて自尊心を傷つけられ
萎縮し、卑屈な目つきを見せ続けるのだけれど、
彼が威圧的な父親に初めて逆らうシーンは圧巻。
しかし、その父親もまた、静かに耐えるだけでなく、
闘うべき時には冷静に、かつ力強く闘う人だった。
父への尊敬を取り戻し、様々な体験を経て自信を身につけていく彼は、
ハーバードのチームとのディベートで、最初はおずおずとしているものの、
やがて、今なお黒人へのリンチが処罰もされないテキサスの黒人の痛みを、
自分自身の率直な言葉で訴える。静かに。でもパワフルに。
現実の彼は後に人権運動の組織を立ち上げ、その指導者になったという。
上記2つ目のブログの人も書いているけど、
エンド・クレジットの時に、俳優たちの写真がごく自然に
実際にディベート・チームにいた若者たちやトルソン自身の写真に変わっていく。
みんな目が澄んでいる。
あぁ、こうして、多くの人が、ずっとずっと昔から、
差別される屈辱に耐え、その痛みをじっとこらえながら、
それでも誇りを失うことなく、それぞれのいる場所で、諦めず、
静かに、しかし堂々と、それぞれに闘い続けて生きてきたのだと、
言葉と知性と、静かに闘い続ける忍耐と勇気を武器に
闘い続けて生きてきたのだと、
とても深いところで、そのことの重みを実感させてもらった気がして、
だから、
こんなにささやかに今ここに生きている私だけれど、
そんな私も、やっぱり言葉の力を信じていよう、
私も私自身の「今ここ」で自分の痛みを静かに語り続けよう……と、本当に素直に思えたし、
それでも、これからだって、
あまりの無力感にものを言う元気や勇気がなくなることくらいは何度もあるから、
そういう時のお守りとして、この映画のDVDを持っておこう、と思ったから。
あと、ひとつ、この映画で「ここはいいな~」と思ったのは、
ウィティカーJr.がチームに女性がいると言うのを聞いて
父親が「美人か?」と訊くと、Jr.がぽかんとして、
「わからない。そんなふうに思ってみたことがないから」という場面。
彼は既に彼女に恋しているんだけれどね。
デンゼル・ワシントンがこういう映画を作ったということ、
オプラ・ウィンフリーがプロデューサーに名乗りを上げたということも、
胸に響くものがあったし、
デンゼルは07年の暮、
ワイリー・カレッジに100万ドルを寄付してる ↓
それでか同カレッジではディベート・チームが復活したとか(この個所は別ソースの情報)
http://www.cinematoday.jp/page/N0012356
ほんと、いい映画でした。
明日からミュウと一緒の年末年始という直前に、
こういう映画と出会えて、嬉しい。
すがすがしい新年が迎えられそうです。
2013.01.04 / Top↑
5.法の執行状況のアセスメント
5.1: 委員会によるコントロールの不全
・合法化の際には、秘密裏に行われている安楽死を明るみに出す必要があるとの主張が
推進派の主要議論だったが、法の遵守に関して委員会が十分に機能できないことは
委員会自身が報告書で認めている。
・医師が細かい法のルールを知らなければ守りようがないし、
意図的に違法な安楽死を実施した医師が報告するとも思えないことからすれば
事後的な委員会のチェックではコントロールが不全であることは明らか。
・にも拘らず、10年間、委員会は法は守られているとし続けて、
一件として検察に通報する必要を感じていない。
5.2: 法の文言の拡大解釈
・02年から、条件が様々な拡大解釈され変わってきている。
・委員会は06年に「医療職への手引き」を出し、法の条件に新たな解釈を提示した。
それにより、実質、以下のような拡大解釈がされている。
a) 患者が書面で意思表示をしていること、との条件について
委員会は状況次第で文書がなくても認められるとの解釈を示し、
現場の医師も、事前指示があり死が差し迫っていれば文書は形式にすぎないと考えている。
b) 命を脅かし不治の病 との条件について
委員会は、命にかかわる病気でなくとも、複数の疾患があることを
いつのまにか対象者要件に含めてしまっている。
c) 取り除くことも軽減することもできない耐え難い苦痛 という条件について
委員会は「耐え難さ」とは主観的なものであるとの解釈を提示し、
軽減可能性についても、患者に痛みに対する措置の拒否を認めることによって
この条件の遵守の確認という任務を放棄している。
d) 心理的な苦痛
委員会は「法の文言の下では、
将来的な劇的な展開(意識不明、自立の喪失や進行した認知症)は
耐え難く軽減不能な心理的苦痛に当たる」との解釈を提示して、
本来の法文の精神に反する条件の拡大を行っている。
e) 自殺幇助
安楽死法は一定条件下で医師の安楽死の「行為」を合法とするものであり、
議会も医師による自殺幇助は含まないとの見解に立っているにもかかわらず、
委員会は自殺幇助が含まれていることを認めつつ放置している。
5.3: 委員会メンバー
・16人の委員のうち、ほぼ半数が安楽死合法化と条件拡大に活動してきた
Association for the Right to Die in Dignityと繋がりのあるメンバーで構成されている。
5.4: 薬剤師
・医師は自分で薬局へ行き薬剤師から直接薬物を受け取り、
使用後の残余は自分で返却しなければならないが、
実際には薬物が家族に渡されていたり、
客に安楽死希望だと言われた薬局のアシスタントが渡していることも。
残余の返却にはコントロールがされていない。
6.コントロール不全の影響
6.1: 安楽死の瑣末化
厳格な法の条件を厳密に守る姿勢が失われているにもかかわらず、
委員会も政府も黙認していることから、
安楽死は患者の「権利」とみなされてきており、
現状に懸念を抱く現場医師の間でも免責意識が広がっている。
6.2: ハイジャックされる議論
安楽死問題をめぐる議論の場では、
推進派のロビー活動が行われては条件が拡大されていくことが多く、
まるで議論そのものが推進派に乗っ取られているかのようだ。
6.3: 文言の混乱
積極的安楽死と消極的安楽死の違いが、そのまま
安楽死と緩和ケアという文言の使い分けにズレ込んできて、
安楽死は緩和ケアとして行われるかのような誤解が広がっている。
(spitzibaraメモ: 米国オレゴン州のように、ある種の配給医療制度を敷くところでは
希望する治療を受けられない患者にPASが認められるという状況そのものが、必然的に、
患者にとってはPASが緩和ケアの一環として提示されるに等しいのでは…?)
6.4: 臓器提供と繋がることの倫理問題
安楽死の要望書に臓器提供承諾書がついてくるということが行われているが
自分の存在を価値なきものと感じている患者にとって、
あなたの臓器が他者の役に立つと言われることは
法文の精神である強要なき自発性の条件に反し、一種の功利主義ではないか。
6.5: 重症者で重大な違反のリスク
M. Englert医師が論じているように、
「必要性のケース」なるカテゴリーを持ち出して
意識のない成人や新生児や子どもの場合で
患者本人の意思表示なしに安楽死が正当化され始めているが、
Authorizing the medical team to invoke a case of necessity, thereby justifying euthanasia, beyond all the conditions provided for by the law, gives the medical team arbitrary and uncontrollable power.
医療チームが必要性ケースを根拠に安楽死を正当化することを認めるならば、法が提示するあらゆる条件を超えており、それはその医療チームに恣意的で無規制の権力を与えることとなる。
(spitzibaraメモ:私がテキサスの無益な治療法など、
無益性判断そのものを医療チームサイドに一方的に認める「無益な治療」論に危惧しているのも、この点。
この報告書の6.5で指摘されている重大な違反懸念とは、無益性概念の暴走の懸念だと思う)
また
Far from strengthening the patient’s rights since they are not in a position to give consent, recourse to a state of necessity gives the medical profession enhanced powers of decision over life and death issues concerning the most vulnerable patients. Besides dialogue with close family members, how is one to assess the degree of “necessity” invoked and to ensure that the patient’s interests always come first? Do not such practice not bear witness to a form of abdication on the part of the medical sector when faced with certain pathologies?
必要性の状態を論拠とすることは、コンセントを与えることができない患者の権利を強化することにはならず、むしろ最も弱い立場の患者の生死をめぐる医療専門職の決定権を強化することになる。近親家族と対話することなしに、どうして問題とされる「必要」の程度を図ったり、患者の利益が常に最初に来ることを保障できるだろうか。こんなことが行われると、その先に起こるのは、医療現場での一定の疾患患者での一種の医療放棄ではないだろうか。
7.結論
これに続いて結論が書かれていますが、
その結論は既にこちらのエントリーで全文を仮訳していますので、
ご参照ください。
なお、この報告書についての当ブログの訳はすべて、
趣旨を紹介する目的でざっと訳してみたものにすぎないので、ご了解ください。
5.1: 委員会によるコントロールの不全
・合法化の際には、秘密裏に行われている安楽死を明るみに出す必要があるとの主張が
推進派の主要議論だったが、法の遵守に関して委員会が十分に機能できないことは
委員会自身が報告書で認めている。
・医師が細かい法のルールを知らなければ守りようがないし、
意図的に違法な安楽死を実施した医師が報告するとも思えないことからすれば
事後的な委員会のチェックではコントロールが不全であることは明らか。
・にも拘らず、10年間、委員会は法は守られているとし続けて、
一件として検察に通報する必要を感じていない。
5.2: 法の文言の拡大解釈
・02年から、条件が様々な拡大解釈され変わってきている。
・委員会は06年に「医療職への手引き」を出し、法の条件に新たな解釈を提示した。
それにより、実質、以下のような拡大解釈がされている。
a) 患者が書面で意思表示をしていること、との条件について
委員会は状況次第で文書がなくても認められるとの解釈を示し、
現場の医師も、事前指示があり死が差し迫っていれば文書は形式にすぎないと考えている。
b) 命を脅かし不治の病 との条件について
委員会は、命にかかわる病気でなくとも、複数の疾患があることを
いつのまにか対象者要件に含めてしまっている。
c) 取り除くことも軽減することもできない耐え難い苦痛 という条件について
委員会は「耐え難さ」とは主観的なものであるとの解釈を提示し、
軽減可能性についても、患者に痛みに対する措置の拒否を認めることによって
この条件の遵守の確認という任務を放棄している。
d) 心理的な苦痛
委員会は「法の文言の下では、
将来的な劇的な展開(意識不明、自立の喪失や進行した認知症)は
耐え難く軽減不能な心理的苦痛に当たる」との解釈を提示して、
本来の法文の精神に反する条件の拡大を行っている。
e) 自殺幇助
安楽死法は一定条件下で医師の安楽死の「行為」を合法とするものであり、
議会も医師による自殺幇助は含まないとの見解に立っているにもかかわらず、
委員会は自殺幇助が含まれていることを認めつつ放置している。
5.3: 委員会メンバー
・16人の委員のうち、ほぼ半数が安楽死合法化と条件拡大に活動してきた
Association for the Right to Die in Dignityと繋がりのあるメンバーで構成されている。
5.4: 薬剤師
・医師は自分で薬局へ行き薬剤師から直接薬物を受け取り、
使用後の残余は自分で返却しなければならないが、
実際には薬物が家族に渡されていたり、
客に安楽死希望だと言われた薬局のアシスタントが渡していることも。
残余の返却にはコントロールがされていない。
6.コントロール不全の影響
6.1: 安楽死の瑣末化
厳格な法の条件を厳密に守る姿勢が失われているにもかかわらず、
委員会も政府も黙認していることから、
安楽死は患者の「権利」とみなされてきており、
現状に懸念を抱く現場医師の間でも免責意識が広がっている。
6.2: ハイジャックされる議論
安楽死問題をめぐる議論の場では、
推進派のロビー活動が行われては条件が拡大されていくことが多く、
まるで議論そのものが推進派に乗っ取られているかのようだ。
6.3: 文言の混乱
積極的安楽死と消極的安楽死の違いが、そのまま
安楽死と緩和ケアという文言の使い分けにズレ込んできて、
安楽死は緩和ケアとして行われるかのような誤解が広がっている。
(spitzibaraメモ: 米国オレゴン州のように、ある種の配給医療制度を敷くところでは
希望する治療を受けられない患者にPASが認められるという状況そのものが、必然的に、
患者にとってはPASが緩和ケアの一環として提示されるに等しいのでは…?)
6.4: 臓器提供と繋がることの倫理問題
安楽死の要望書に臓器提供承諾書がついてくるということが行われているが
自分の存在を価値なきものと感じている患者にとって、
あなたの臓器が他者の役に立つと言われることは
法文の精神である強要なき自発性の条件に反し、一種の功利主義ではないか。
6.5: 重症者で重大な違反のリスク
M. Englert医師が論じているように、
「必要性のケース」なるカテゴリーを持ち出して
意識のない成人や新生児や子どもの場合で
患者本人の意思表示なしに安楽死が正当化され始めているが、
Authorizing the medical team to invoke a case of necessity, thereby justifying euthanasia, beyond all the conditions provided for by the law, gives the medical team arbitrary and uncontrollable power.
医療チームが必要性ケースを根拠に安楽死を正当化することを認めるならば、法が提示するあらゆる条件を超えており、それはその医療チームに恣意的で無規制の権力を与えることとなる。
(spitzibaraメモ:私がテキサスの無益な治療法など、
無益性判断そのものを医療チームサイドに一方的に認める「無益な治療」論に危惧しているのも、この点。
この報告書の6.5で指摘されている重大な違反懸念とは、無益性概念の暴走の懸念だと思う)
また
Far from strengthening the patient’s rights since they are not in a position to give consent, recourse to a state of necessity gives the medical profession enhanced powers of decision over life and death issues concerning the most vulnerable patients. Besides dialogue with close family members, how is one to assess the degree of “necessity” invoked and to ensure that the patient’s interests always come first? Do not such practice not bear witness to a form of abdication on the part of the medical sector when faced with certain pathologies?
必要性の状態を論拠とすることは、コンセントを与えることができない患者の権利を強化することにはならず、むしろ最も弱い立場の患者の生死をめぐる医療専門職の決定権を強化することになる。近親家族と対話することなしに、どうして問題とされる「必要」の程度を図ったり、患者の利益が常に最初に来ることを保障できるだろうか。こんなことが行われると、その先に起こるのは、医療現場での一定の疾患患者での一種の医療放棄ではないだろうか。
7.結論
これに続いて結論が書かれていますが、
その結論は既にこちらのエントリーで全文を仮訳していますので、
ご参照ください。
なお、この報告書についての当ブログの訳はすべて、
趣旨を紹介する目的でざっと訳してみたものにすぎないので、ご了解ください。
2013.01.04 / Top↑
ベルギーで安楽死が合法化されて今年5月28日で10年になるのを機に
European Institute of Bioethicsから今年4月に出された
ベルギーでのこの10年間の安楽死に関する報告書を読んでみました。
報告書の英語訳はこちら ↓
http://www.ieb-eib.org/en/pdf/20121208-dossier-euthanasia-in-belgium-10-years.pdf
以下、報告書の各項目ごとに、要点のみ。
1. 安楽死に関する法の背景と法文の本来の精神
・法の議会通過は2002年5月、賛成86 対 反対51、棄権10 という結果で。
・すでに秘密裏に行われていた安楽死の実態を踏まえて、法的保護を目的に作られた。まず患者を違法な安楽死行為から守ること。次に厳格な法の規定の範囲で安楽死を行う医師に法的保護を与えること。
・同時に緩和ケアに関する法律も成立したが、医療コミッションが求めたほど緩和ケアの重要性は安楽死法では強調されなかった。また要望を医療サイドが検討する際に、かかりつけの家庭医の意見が加味されるべきとの同コミッションの全員一致の提言も、ただ身体的な苦痛があるというだけでは正当化されないことの確認も、盛り込まれなかった。
・未成年については、2002年の法文では少なくとも当面は外す、との考え方。
2.2002年5月28日の法律の枠組み概要
2.1 安楽死が認められる条件
a) 意識がある患者の場合と、b)意識がない患者 の場合とに分けて、
条件が細かく決められています。
ここにまとめられた条件の概要は、
資料としてこちらのエントリーにコピペ。
2.2 安楽死用の薬物は薬剤師が直接渡すこと
安楽死に使う薬物は薬剤師が自分で直接医師に渡し(良心条項で拒むこともできる)、
医師は使用後には残り分を処分のために返却しなければならない。
2.3 連邦政府のコントロールとアセスメント委員会
・16人の正委員と16人の代表委員で構成。
・医療職、哲学者、法律の専門家、不治の病の患者の医療とケアに関係する多領域からも。
・医師らの安楽死報告書を検証し、事後的にそれぞれの合法性をチェックする。
・無記名セクションで問題があった場合には、さらに記名セクションを調べ、
委員の3分の2の合意があれば患者の死亡地域の検察に通知する。
3.委員会報告からのデータ
2002年9月から2011年12月までの安楽死者は5537人で、
以下のようにコンスタントに増加し続けている。
2003 235
2004 349
2005 393
2006 429
2007 495
2008 704
2009 822
2010 953
2011 1133
・82%がフランダース地方で行われている。
・9%では近い将来に死が予測されない状態で安楽死が行われた。
その場合に挙げられている病名で最も多いのは神経精神疾患、
次いで進行性の神経筋肉疾患と死に至るわけではない複数の疾患がある人。
・近い将来に死が予測された91%では
要望の理由として75%がガン関連の痛みを懸念していたのに対して、
神経精神疾患、非進行性の神経筋肉疾患(事故による)と複数疾患の痛みからの要望は5%だった。
・安楽死の要望を受けた医療職のうち、緩和ケアのトレーニングを受けていた人のは10%のみ。
要望の50%はGPに出され、専門医に出されたのは40%。
4.その後に出された、安楽死に関する法の拡大を意図した法案
4.1: グローニンゲン・プロトコルの影響
障害のある胎児の「治療的」中絶や新生児の安楽死を
グローニンゲン・プロトコルの条件下では許容されると考える
医療専門職は少なくない。
4.2 – 4.3: 2010年に相次いで出された法案
・認知症患者への安楽死を認める法案
・良心条項で安楽死を拒否する医師に、別の医師への紹介を義務付ける法案
・未成年への安楽死を認める法案(対象範囲や条件様々で8月から10月に3法案)
(次のエントリーに続きます)
European Institute of Bioethicsから今年4月に出された
ベルギーでのこの10年間の安楽死に関する報告書を読んでみました。
報告書の英語訳はこちら ↓
http://www.ieb-eib.org/en/pdf/20121208-dossier-euthanasia-in-belgium-10-years.pdf
以下、報告書の各項目ごとに、要点のみ。
1. 安楽死に関する法の背景と法文の本来の精神
・法の議会通過は2002年5月、賛成86 対 反対51、棄権10 という結果で。
・すでに秘密裏に行われていた安楽死の実態を踏まえて、法的保護を目的に作られた。まず患者を違法な安楽死行為から守ること。次に厳格な法の規定の範囲で安楽死を行う医師に法的保護を与えること。
・同時に緩和ケアに関する法律も成立したが、医療コミッションが求めたほど緩和ケアの重要性は安楽死法では強調されなかった。また要望を医療サイドが検討する際に、かかりつけの家庭医の意見が加味されるべきとの同コミッションの全員一致の提言も、ただ身体的な苦痛があるというだけでは正当化されないことの確認も、盛り込まれなかった。
・未成年については、2002年の法文では少なくとも当面は外す、との考え方。
2.2002年5月28日の法律の枠組み概要
2.1 安楽死が認められる条件
a) 意識がある患者の場合と、b)意識がない患者 の場合とに分けて、
条件が細かく決められています。
ここにまとめられた条件の概要は、
資料としてこちらのエントリーにコピペ。
2.2 安楽死用の薬物は薬剤師が直接渡すこと
安楽死に使う薬物は薬剤師が自分で直接医師に渡し(良心条項で拒むこともできる)、
医師は使用後には残り分を処分のために返却しなければならない。
2.3 連邦政府のコントロールとアセスメント委員会
・16人の正委員と16人の代表委員で構成。
・医療職、哲学者、法律の専門家、不治の病の患者の医療とケアに関係する多領域からも。
・医師らの安楽死報告書を検証し、事後的にそれぞれの合法性をチェックする。
・無記名セクションで問題があった場合には、さらに記名セクションを調べ、
委員の3分の2の合意があれば患者の死亡地域の検察に通知する。
3.委員会報告からのデータ
2002年9月から2011年12月までの安楽死者は5537人で、
以下のようにコンスタントに増加し続けている。
2003 235
2004 349
2005 393
2006 429
2007 495
2008 704
2009 822
2010 953
2011 1133
・82%がフランダース地方で行われている。
・9%では近い将来に死が予測されない状態で安楽死が行われた。
その場合に挙げられている病名で最も多いのは神経精神疾患、
次いで進行性の神経筋肉疾患と死に至るわけではない複数の疾患がある人。
・近い将来に死が予測された91%では
要望の理由として75%がガン関連の痛みを懸念していたのに対して、
神経精神疾患、非進行性の神経筋肉疾患(事故による)と複数疾患の痛みからの要望は5%だった。
・安楽死の要望を受けた医療職のうち、緩和ケアのトレーニングを受けていた人のは10%のみ。
要望の50%はGPに出され、専門医に出されたのは40%。
4.その後に出された、安楽死に関する法の拡大を意図した法案
4.1: グローニンゲン・プロトコルの影響
障害のある胎児の「治療的」中絶や新生児の安楽死を
グローニンゲン・プロトコルの条件下では許容されると考える
医療専門職は少なくない。
4.2 – 4.3: 2010年に相次いで出された法案
・認知症患者への安楽死を認める法案
・良心条項で安楽死を拒否する医師に、別の医師への紹介を義務付ける法案
・未成年への安楽死を認める法案(対象範囲や条件様々で8月から10月に3法案)
(次のエントリーに続きます)
2013.01.04 / Top↑
EIBの報告書(2012年4月)より抜粋
a) Patients who are conscious
In the case of a patient in the final stages of his/her
illness, euthanasia may take place if :
• the patient is an adult or a minor who has been
granted adult legal status and is deemed to be in
his/ her right mind and therefore able to express
his/her wishes;
• the request has been made on a voluntary,
thoughtful and repeated basis and does not arise
from being pressured into it; the request has to be
made in writing;
• the medical situation does not allow for a positive
outlook and causes constant and unbearable physical
or psychological suffering which cannot be alleviated
and is caused by a life‐threatening and incurable
accidental or pathological illness;
• the medical practitioner has talked to his/her patient
on various occasions about his/her state of
health, his/her life expectancy, his/her request for
euthanasia; the medical practitioner must discuss
the possible options available to his/her patient
regarding both therapeutic treatment of the illness
and the palliative care available and the consequences
thereof;
• the medical practitioner has consulted another
independent and competent medical practitioner
who has drawn up a report setting out his/her findings;
• the medical practitioner has discussed his/her patient’s
request with the medical team treating the
patient and with the patient’s close family, if the
patient so requests;
• after euthanasia, the medical practitioner fills out
both pages of the form designed to ascertain the
legality of the afore‐mentioned act.
If the patient is not in the final stages of his/her illness,
two further conditions apply, as set out below :
• the medical practitioner must consult a second
independent medical practitioner, psychiatrist or a
medical practitioner specialized in the relevant
pathology;
• the period of reflection required between the patient’s
written request and the act of euthanasia
has to be at least one month.
b) Patients who are NOT conscious
Euthanasia can take place if :
• the person is an adult or a minor who has been
granted adult legal status;
• the person is not conscious and the situation is
irreversible according to current medical knowledge;
• the person is suffering from a life‐threatening and
incurable accidental or pathological illness;
• the person has drawn up and signed a declaration
in advance requesting euthanasia; this declaration
is valid for a period of 5 years and may appoint one
or several reliable individuals who have been entrusted
with voicing the patient’s wishes;
• the medical practitioner has consulted another
independent doctor;
• the medical practitioner has discussed the declaration,
which was drawn up and signed by the patient
in advance, with the patient’s medical team
and any close family members;
• after euthanasia, the medical practitioner fills out
both pages of the form designed to ascertain the
legality of the afore‐mentioned act.
a) Patients who are conscious
In the case of a patient in the final stages of his/her
illness, euthanasia may take place if :
• the patient is an adult or a minor who has been
granted adult legal status and is deemed to be in
his/ her right mind and therefore able to express
his/her wishes;
• the request has been made on a voluntary,
thoughtful and repeated basis and does not arise
from being pressured into it; the request has to be
made in writing;
• the medical situation does not allow for a positive
outlook and causes constant and unbearable physical
or psychological suffering which cannot be alleviated
and is caused by a life‐threatening and incurable
accidental or pathological illness;
• the medical practitioner has talked to his/her patient
on various occasions about his/her state of
health, his/her life expectancy, his/her request for
euthanasia; the medical practitioner must discuss
the possible options available to his/her patient
regarding both therapeutic treatment of the illness
and the palliative care available and the consequences
thereof;
• the medical practitioner has consulted another
independent and competent medical practitioner
who has drawn up a report setting out his/her findings;
• the medical practitioner has discussed his/her patient’s
request with the medical team treating the
patient and with the patient’s close family, if the
patient so requests;
• after euthanasia, the medical practitioner fills out
both pages of the form designed to ascertain the
legality of the afore‐mentioned act.
If the patient is not in the final stages of his/her illness,
two further conditions apply, as set out below :
• the medical practitioner must consult a second
independent medical practitioner, psychiatrist or a
medical practitioner specialized in the relevant
pathology;
• the period of reflection required between the patient’s
written request and the act of euthanasia
has to be at least one month.
b) Patients who are NOT conscious
Euthanasia can take place if :
• the person is an adult or a minor who has been
granted adult legal status;
• the person is not conscious and the situation is
irreversible according to current medical knowledge;
• the person is suffering from a life‐threatening and
incurable accidental or pathological illness;
• the person has drawn up and signed a declaration
in advance requesting euthanasia; this declaration
is valid for a period of 5 years and may appoint one
or several reliable individuals who have been entrusted
with voicing the patient’s wishes;
• the medical practitioner has consulted another
independent doctor;
• the medical practitioner has discussed the declaration,
which was drawn up and signed by the patient
in advance, with the patient’s medical team
and any close family members;
• after euthanasia, the medical practitioner fills out
both pages of the form designed to ascertain the
legality of the afore‐mentioned act.
2013.01.04 / Top↑
例年なら1年間のまとめエントリーをせっせと作っている時期なのですが、
どうにも今年は気力が沸かず、サボっていたところ、
自殺幇助関連では英国を中心に、National Right to Life Newsがこの1年の動きを取りまとめてくれました。
CARE NOT KILLINGの立場で書かれている(たぶん?)ことはともかく、
拾われている話題は、当ブログでこの1年に拾ってきた流れとまったく同じで、
話題によっては、さすがに現地の専門家の詳しいまとめになっています。
End of year update on euthanasia, assisted suicide and palliative care
National Right to Life News Today, December 26, 2012
拙ブログのエントリーを拾いつつ、簡単に以下に。
(エントリーの数や内容の詳しさは話題によってまちまちですが)
① Falconer委員会が1月5日、PAS合法化を推奨
英国Falconer委員会「自殺幇助合法化せよ」提言へ(2012/1/2)
② CARE NOT KILLINGなどからの抵抗
英国政府はハイ・リスク者の自殺予防に関する調査研究に150万ポンドを約束するも、
夏に新たに任命された副大臣Anna Soubry とNorman Lambは合法化に前向きな発言をしている。
英国の新・保健省副大臣がPASに反対しつつ近親者の自殺幇助に「もっと正直な議論を」(2012/9/8)
③ 10年のDPPガイドラインに法的な効力を認めるか議会で投票が行われ、
議員の大勢は現在のガイドラインに留め、緩和ケアの充実が先、と判断。
これについては3月27日の補遺で拾っている。
ガイドラインを「議会として承認するか」というよりも「法的効力を認めるか」だったのか。
また、9月にはこんなニュースもあった ↓
英国議員6割がPAS合法化に反対「不況で、弱者に圧力かかる」(2012/9/15)
④ 英国医師会の動き
英国医師会、自殺幇助に対するスタンスを反対から中立に転換する動議を否決。:イェイ!! 相変わらず、新聞によってタイトルの打ち方、書き方が目に見えて偏っているのはともかくとして。
(6月29日の補遺)
英国でPAS合法化法案を出した(準備中かも?)Falconer上院議員がTime紙に寄稿した際に「英国医師会もスタンスを中立に変更した」と事実と違う記述をし、同医師会から訂正されている。英国医師会は6月末に中立に変更する動議を否決したばかり⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65271215.html。
同医師会は09年7月にも同じ動議を否決している⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53614646.html
(7月10日の補遺)
⑤ Nicklinson&Martin訴訟
ニックリンソン訴訟については、あまり詳しくはないですが ↓
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
一緒に訴訟を起こしたマーティン(仮名)さんの訴訟は最高裁へ。
ところで、Right to Lifeの記事は拾っていませんが、未亡人はこういう方向へ↓
Tony Nicklinsonさんの未亡人がスコットランドで自殺幇助合法化を訴え。
(10月31日の補遺) 追記:マクドナルド議員と一緒にキャンペーンへ。
⑥ 9月に安楽死防止欧州議会の初回会合
このニュースは知りませんでした。
一方、6月にはこういうのがあって、日本からも参加しておられた模様 ↓
死ぬ権利協会世界連合、今日からスイスで世界大会(2012/6/13)
⑦ Liverpooll Care Pathwayの機会的適用論争
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的適用問題 続報(2012/7/12)
LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)
こちらは自殺幇助というよりも無益な治療論の線だと私は考えていたのですが、
その意味で今とても気になっているのが米国のPOLST ↓
医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26)
⑧ マサチューセッツの住民投票
WA州の高齢者施設経営者からMA州住民への手紙「PAS合法化したら滑ります」(2012/5/29)
MA州医師会が11月住民投票のPAS合法化をめぐる質問に反対を表明(2012/9/18)
筋ジスのジャーナリスト「死の“自己選択”は幻想」(2012/11/2)
Dr. Emanuel「PASに関する4つの神話」(2012/11/5)
MA州の自殺幇助巡る住民投票 合法化ならず(2012/11/7)
MA州の自殺幇助住民投票結果の分析(2012/11/10)
Right to Lifeの記事が「来年」に向けて挙げている動きは以下。
① スコットランドのマクドナルド議員が春にまた合法化法案を提出。
「自立生活できない身障者も可」スコットランド自殺幇助合法化法案(2010/1/22)
スコットランド自殺幇助合法化法案から「自立できない障害者」要件は外される見通しに(2010/9/22)
スコットランドの自殺幇助合法化法案、否決(2010/12/2)
② 英国議会にもFalconer議員などの陣営から法案提出か。
既に合法化推進の活動団体から法案の文案が出ていて、意見募集が11月で締め切られたところだとか。
③ ニックリンソン&マーティン訴訟の最高裁判決。
④ アイルランドのASLの女性の訴訟で高裁の判決が1月10日に予定されている。
アイルランドでMSの女性Marie Flemingさんが自殺幇助を巡って法の明確化をDPPに求める訴訟を起こしている。:カトリックの国だから余計に衝撃的なのかもしれないけれど、報道続々。英国では同じくMSのDebbie Purdyさんが起こした訴訟でDPPのガイドラインができた。
(12月7日の補遺)
アイルランドのMarie Flemingさん(58)の死の自己決定権訴訟の審理で、国側は憲法で保障されているのは生きる権利であり、死ぬ権利というものはない、と主張。原告側 は米国ユタ大学の生命倫理学者Margaret Battinがビデオで証言し、オレゴンで精神障害者がセーフガードから漏れている可能性は認めつつも、米国とオランダの研究では高齢者や貧困層、障害者 への濫用は起こっていない、緩和ケアと自殺幇助が共に終末期の選択肢となるべきだ、と。
(12月12日の補遺)
⑤ Royal College of General Practitioners Councilの委員長が12月にジャーナルで
すべての医学会、医師と看護師はこの問題で中立の立場をとるべき、と主張。
ちなみに、今年はこんな記事もありました ↓
BBCによる英国での自殺幇助議論「この10年」(2012/10/22)
どうにも今年は気力が沸かず、サボっていたところ、
自殺幇助関連では英国を中心に、National Right to Life Newsがこの1年の動きを取りまとめてくれました。
CARE NOT KILLINGの立場で書かれている(たぶん?)ことはともかく、
拾われている話題は、当ブログでこの1年に拾ってきた流れとまったく同じで、
話題によっては、さすがに現地の専門家の詳しいまとめになっています。
End of year update on euthanasia, assisted suicide and palliative care
National Right to Life News Today, December 26, 2012
拙ブログのエントリーを拾いつつ、簡単に以下に。
(エントリーの数や内容の詳しさは話題によってまちまちですが)
① Falconer委員会が1月5日、PAS合法化を推奨
英国Falconer委員会「自殺幇助合法化せよ」提言へ(2012/1/2)
② CARE NOT KILLINGなどからの抵抗
英国政府はハイ・リスク者の自殺予防に関する調査研究に150万ポンドを約束するも、
夏に新たに任命された副大臣Anna Soubry とNorman Lambは合法化に前向きな発言をしている。
英国の新・保健省副大臣がPASに反対しつつ近親者の自殺幇助に「もっと正直な議論を」(2012/9/8)
③ 10年のDPPガイドラインに法的な効力を認めるか議会で投票が行われ、
議員の大勢は現在のガイドラインに留め、緩和ケアの充実が先、と判断。
これについては3月27日の補遺で拾っている。
ガイドラインを「議会として承認するか」というよりも「法的効力を認めるか」だったのか。
また、9月にはこんなニュースもあった ↓
英国議員6割がPAS合法化に反対「不況で、弱者に圧力かかる」(2012/9/15)
④ 英国医師会の動き
英国医師会、自殺幇助に対するスタンスを反対から中立に転換する動議を否決。:イェイ!! 相変わらず、新聞によってタイトルの打ち方、書き方が目に見えて偏っているのはともかくとして。
(6月29日の補遺)
英国でPAS合法化法案を出した(準備中かも?)Falconer上院議員がTime紙に寄稿した際に「英国医師会もスタンスを中立に変更した」と事実と違う記述をし、同医師会から訂正されている。英国医師会は6月末に中立に変更する動議を否決したばかり⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/65271215.html。
同医師会は09年7月にも同じ動議を否決している⇒http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/53614646.html
(7月10日の補遺)
⑤ Nicklinson&Martin訴訟
ニックリンソン訴訟については、あまり詳しくはないですが ↓
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
一緒に訴訟を起こしたマーティン(仮名)さんの訴訟は最高裁へ。
ところで、Right to Lifeの記事は拾っていませんが、未亡人はこういう方向へ↓
Tony Nicklinsonさんの未亡人がスコットランドで自殺幇助合法化を訴え。
(10月31日の補遺) 追記:マクドナルド議員と一緒にキャンペーンへ。
⑥ 9月に安楽死防止欧州議会の初回会合
このニュースは知りませんでした。
一方、6月にはこういうのがあって、日本からも参加しておられた模様 ↓
死ぬ権利協会世界連合、今日からスイスで世界大会(2012/6/13)
⑦ Liverpooll Care Pathwayの機会的適用論争
“終末期”プロトコルの機会的適用で「さっさと脱水・死ぬまで鎮静」(英)(2009/9/10)
「NHSは終末期パスの機会的適用で高齢患者を殺している」と英国の大物医師(2012/6/24)
英国の終末期パスLCPの機会的適用問題 続報(2012/7/12)
LCPの機会的適用でNHSが調査に(2012/10/28)
こちらは自殺幇助というよりも無益な治療論の線だと私は考えていたのですが、
その意味で今とても気になっているのが米国のPOLST ↓
医師が主導して考えさせ、医師の指示書として書かれる終末期医療の事前指示書POLST(2012/11/26)
⑧ マサチューセッツの住民投票
WA州の高齢者施設経営者からMA州住民への手紙「PAS合法化したら滑ります」(2012/5/29)
MA州医師会が11月住民投票のPAS合法化をめぐる質問に反対を表明(2012/9/18)
筋ジスのジャーナリスト「死の“自己選択”は幻想」(2012/11/2)
Dr. Emanuel「PASに関する4つの神話」(2012/11/5)
MA州の自殺幇助巡る住民投票 合法化ならず(2012/11/7)
MA州の自殺幇助住民投票結果の分析(2012/11/10)
Right to Lifeの記事が「来年」に向けて挙げている動きは以下。
① スコットランドのマクドナルド議員が春にまた合法化法案を提出。
「自立生活できない身障者も可」スコットランド自殺幇助合法化法案(2010/1/22)
スコットランド自殺幇助合法化法案から「自立できない障害者」要件は外される見通しに(2010/9/22)
スコットランドの自殺幇助合法化法案、否決(2010/12/2)
② 英国議会にもFalconer議員などの陣営から法案提出か。
既に合法化推進の活動団体から法案の文案が出ていて、意見募集が11月で締め切られたところだとか。
③ ニックリンソン&マーティン訴訟の最高裁判決。
④ アイルランドのASLの女性の訴訟で高裁の判決が1月10日に予定されている。
アイルランドでMSの女性Marie Flemingさんが自殺幇助を巡って法の明確化をDPPに求める訴訟を起こしている。:カトリックの国だから余計に衝撃的なのかもしれないけれど、報道続々。英国では同じくMSのDebbie Purdyさんが起こした訴訟でDPPのガイドラインができた。
(12月7日の補遺)
アイルランドのMarie Flemingさん(58)の死の自己決定権訴訟の審理で、国側は憲法で保障されているのは生きる権利であり、死ぬ権利というものはない、と主張。原告側 は米国ユタ大学の生命倫理学者Margaret Battinがビデオで証言し、オレゴンで精神障害者がセーフガードから漏れている可能性は認めつつも、米国とオランダの研究では高齢者や貧困層、障害者 への濫用は起こっていない、緩和ケアと自殺幇助が共に終末期の選択肢となるべきだ、と。
(12月12日の補遺)
⑤ Royal College of General Practitioners Councilの委員長が12月にジャーナルで
すべての医学会、医師と看護師はこの問題で中立の立場をとるべき、と主張。
ちなみに、今年はこんな記事もありました ↓
BBCによる英国での自殺幇助議論「この10年」(2012/10/22)
2013.01.04 / Top↑
ずいぶん前から断片的に目にしていた
英国のNHS病院での高齢患者へのネグレクト問題。
英国の病院で高齢患者が食事介助をされず低栄養状態になっているとか、
自分の汚物にまみれたまま放置されているといった告発は
私が英語ニュースを読み始めた2006年から既に繰り返し報道されていたけど、
今回問題になったのは
ウースターシャー急性期NHS病院トラストの、
アレクサンドラ病院と、ウースター・ロイヤル病院の2つ。
ことの発端は、昨年3月に
ケアの質コミッションがアレクサンドラ病院に抜き打ち監査を行ったこと。
その結果、同病院のケアは最低水準に達しておらず
トラストは法を侵しているとの結論を出した。
その報告書を受けて、
患者や家族、遺族から続々と告発の声が上がり、
1年3か月前に
アレクサンドラ病院について35件、
ウースター・ロイヤル病院について3件
トラストに対する集団訴訟が起こされた。
最も酷い中では
2009年に84歳の男性が病院で餓死した、というケースがあるほか、
喉が渇いたまま放置されている患者の手の届かないところに飲み物が置かれていたり、
トイレ介助をせずに患者が自らの汚物にまみれたまま座らされていたり、
自分で食べられない患者の手つかずの食事トレイを職員が平然と下膳したり、
職員が患者を抱えようとして肋骨を骨折させたり、
ナース・コールを無視したり。
トラストでは
集団訴訟に取り上げられたケースの大半は2002年から2009年に起きた古い事例で、
11年の監査以降、病院のケアの質は改善されていると主張しているが、
集団訴訟の38ケースの家族・遺族とは和解が成立し、
それぞれに謝罪の書簡を送るという。
[http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/23/hospital-trust-apologises-neglect NHS
Hospital trust apologises for ‘appalling’ neglect]
The Guardian, December 23, 2012
この問題については
何度か以下の連載で触れていると思うのですが、
現在ネット上で読めるのは、病院ではなくケアホームのネグレクトに関する以下のもの。
「ケアホームの劣悪な介護実態を 消費者団体の潜入調査が暴く【英国】
「世界の介護と医療の情報を読む」『月刊介護保険情報』2011年6月号
知的障害者へのネグレクト関連エントリーはこちら。
2003年から2005年に亡くなった6人のケースが取り上げられています。 ↓
「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト(2009/3/31)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失
英国のNHS病院での高齢患者へのネグレクト問題。
英国の病院で高齢患者が食事介助をされず低栄養状態になっているとか、
自分の汚物にまみれたまま放置されているといった告発は
私が英語ニュースを読み始めた2006年から既に繰り返し報道されていたけど、
今回問題になったのは
ウースターシャー急性期NHS病院トラストの、
アレクサンドラ病院と、ウースター・ロイヤル病院の2つ。
ことの発端は、昨年3月に
ケアの質コミッションがアレクサンドラ病院に抜き打ち監査を行ったこと。
その結果、同病院のケアは最低水準に達しておらず
トラストは法を侵しているとの結論を出した。
その報告書を受けて、
患者や家族、遺族から続々と告発の声が上がり、
1年3か月前に
アレクサンドラ病院について35件、
ウースター・ロイヤル病院について3件
トラストに対する集団訴訟が起こされた。
最も酷い中では
2009年に84歳の男性が病院で餓死した、というケースがあるほか、
喉が渇いたまま放置されている患者の手の届かないところに飲み物が置かれていたり、
トイレ介助をせずに患者が自らの汚物にまみれたまま座らされていたり、
自分で食べられない患者の手つかずの食事トレイを職員が平然と下膳したり、
職員が患者を抱えようとして肋骨を骨折させたり、
ナース・コールを無視したり。
トラストでは
集団訴訟に取り上げられたケースの大半は2002年から2009年に起きた古い事例で、
11年の監査以降、病院のケアの質は改善されていると主張しているが、
集団訴訟の38ケースの家族・遺族とは和解が成立し、
それぞれに謝罪の書簡を送るという。
[http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/23/hospital-trust-apologises-neglect NHS
Hospital trust apologises for ‘appalling’ neglect]
The Guardian, December 23, 2012
この問題については
何度か以下の連載で触れていると思うのですが、
現在ネット上で読めるのは、病院ではなくケアホームのネグレクトに関する以下のもの。
「ケアホームの劣悪な介護実態を 消費者団体の潜入調査が暴く【英国】
「世界の介護と医療の情報を読む」『月刊介護保険情報』2011年6月号
知的障害者へのネグレクト関連エントリーはこちら。
2003年から2005年に亡くなった6人のケースが取り上げられています。 ↓
「医療における障害への偏見が死につながった」オンブズマンが改善を勧告(2009/3/31)
オンブズマン報告書を読んでみた:知的障害者に対する医療ネグレクト(2009/3/31)
Markのケース:知的障害者への偏見による医療過失
Martinのケース:知的障害者への偏見による医療過失
2013.01.04 / Top↑
去年、「『いのちの思想』を掘り起こす―生命倫理の再生に向けて」の書評を書かせていただいたのを機に、
今年1月、このブログにご訪問くださったことで御縁をいただいたのが
鳥取大学医学部の宗教学者にして生命倫理学者、安藤泰至先生。
その後、先生がお書きになったものやご講演を読ませていただいてきて、
つくづく思うのは、論理のパズルみたいな生命倫理学とは全然違う、
身体というか心というか、いわば「魂を伴った生命倫理学」だということ。
例えば、ネットで読めるものとしては
金沢大学での2010年のご講演。
拙ブログで紹介させてもらった最近のものでは、
「『いのちの思想』を掘り起こす」の安藤泰至氏がコラム(2012/4/26)
また、てっきりエントリーにしたものとばかり思いこんでいたのだけれど見当たらない、
そして、これはネットでは読めないのだけれど、
雑誌『談』のインタビューとか。
読ませていただくたびに、その思索の深さに唸り、
また必ずどこかで「はっ」とさせられる。
その安藤先生が高橋都氏と共に編著者をされた
丸善の『シリーズ生命倫理学 第4巻 終末期医療』が刊行になった。
内容は以下。
第1章 医療にとって「死」とはなにか?(安藤泰至)
第2章 終末期ケアにおける意思決定プロセス(清水哲郎・会田薫子)
第3章 終末期医療の現場における意思決定―患者および家族とのかかわりの中で(田村恵子)
第4章 高齢者における終末期医療(横内正利)
第5章 小児における終末期医療(細谷亮太)
第6章 植物状態患者はいかに理解されうるか―看護師の経験から生命倫理の課題を問う(西村ユミ)
第7章 死にゆく過程をどう生きるか―施設と在宅の二者択一を超えて(田代志門)
第8章 「自然な死」という言説の解体―死すべき定めの意味をもとめて(竹之内裕文)
第9章 「死の教育」からの問い―デス・エデュケーションの中の生命倫理学(西平 直)
第10章 終末期医療におけるスピリチュアリティとスピリチュアル・ケア―「日本的スピリチュアリティ」の可能性と限界について(宮嶋俊一)
第11章 生、死、ブリコラージュ―緩和ケア病棟で看護師が経験する困難への医療人類学からのアプローチ(松岡秀明)
第12章 グリーフケアの可能性―医療は遺族のグリーフワークをサポートできるのか(安藤泰至・打出喜義)
第13章 医師が治らない患者と向き合うとき―「見捨てないこと」の一考察(高橋 都)
「医療にとって『死』とはなにか?」というタイトルだけでも刺激的な
安藤先生の第1章もワクワクものだけれど、
私にとって何より嬉しいのは、
安藤先生と金沢大学の打出喜義先生との共著の章があること。
打出喜義先生といえば、
1998年に起きた金沢大学医学部付属病院産婦人科で
卵巣がんの患者に同意なき臨床実験が行われていた事件で
患者サイドに立って病院側の文書の改竄を暴き、
自ら所属する大学と闘った医師。
ウィキペディアはこちら ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%93%E5%87%BA%E5%96%9C%E7%BE%A9
私は恥ずかしながら、
今年の夏まで打出先生のことを知らなかった。
6月に東京の某所でバクバクしながら慣れぬ場に臨んだ際に、
タダモノならぬ知的な気配を漂わせつつも少年みたいな無邪気な笑みを見せてくださる男性が
最後列の端っこにおられて、たいそう気になっていたところ、
質疑になるや、真っ先に発言してくださって、
「某MLで、ある時から名前の読み方すらわからないナントカいう人が
情報提供をするようになって……」と笑わせつつ、
ガチガチに緊張しているspitzibaraに温かいエールを送ってくださった。
その後、どなたかのコメントを受けて
司会の方から「パーソン論を簡単に説明して」と要望された私が
自分で正しく説明する自信がなくて、おずおずと振らせてもらった際にも、
はにかみつつも快く引き受けてくださって、
終始、魅力的な笑顔で楽しそうに聞いてくださるその男性に、
私はどこのどなたとは知らないまま、すっかり参ってしまったのだった。
帰ってきて、その方が上記のような勇気ある行動をとられた医師だと知り、
事件についての当時の報道を読み、映像を見るにつけ、
医療は患者のために行われるものだということを
まるで戸惑っているかのように、でも微塵もブレることなく
静かに朴訥な言葉で語られる打出先生に、
私はもう、ぞっこん。
そんな安藤先生と打出先生が共著で書かれたものが
ただならぬ章でないはずがないんであって、
読ませていただくのが今から楽しみ。
実は個人的にはちょっと気になる顔ぶれも含まれているんだけど、
でも、尊厳死法制化について考えようとする人には
ぜひぜひ読んでもらいたい本であることは間違いない。
―――――
それにしても、
1月に拙ブログで安藤先生と出会い、6月に打出先生と遭遇し、
6月と12月の東京、5月の神戸、先週の京都と、
本当に多くの素敵な方々と新たな出会いをいただいて、
また、兼ねてお世話になっていたり憧れていた方々と初対面を果たせたり、
そうそう、実は先週、思いもかけないエヴァ・キテイつながりで、
大学時代のクラスメイトと34年ぶりの再会まで果たすことができたんだった。
堂々たる研究者である彼女は、
すっくと背筋の伸びた青年のような趣の、カッコイイ大人の女になっていた。
私はただのオバサンなりに
自分はただのオバサンとして堂々と生きてきたのだと感じることができて、
しみじみと豊かな再会の語り合いだった。
本当にいい年だったなぁ……。
今年1月、このブログにご訪問くださったことで御縁をいただいたのが
鳥取大学医学部の宗教学者にして生命倫理学者、安藤泰至先生。
その後、先生がお書きになったものやご講演を読ませていただいてきて、
つくづく思うのは、論理のパズルみたいな生命倫理学とは全然違う、
身体というか心というか、いわば「魂を伴った生命倫理学」だということ。
例えば、ネットで読めるものとしては
金沢大学での2010年のご講演。
拙ブログで紹介させてもらった最近のものでは、
「『いのちの思想』を掘り起こす」の安藤泰至氏がコラム(2012/4/26)
また、てっきりエントリーにしたものとばかり思いこんでいたのだけれど見当たらない、
そして、これはネットでは読めないのだけれど、
雑誌『談』のインタビューとか。
読ませていただくたびに、その思索の深さに唸り、
また必ずどこかで「はっ」とさせられる。
その安藤先生が高橋都氏と共に編著者をされた
丸善の『シリーズ生命倫理学 第4巻 終末期医療』が刊行になった。
内容は以下。
第1章 医療にとって「死」とはなにか?(安藤泰至)
第2章 終末期ケアにおける意思決定プロセス(清水哲郎・会田薫子)
第3章 終末期医療の現場における意思決定―患者および家族とのかかわりの中で(田村恵子)
第4章 高齢者における終末期医療(横内正利)
第5章 小児における終末期医療(細谷亮太)
第6章 植物状態患者はいかに理解されうるか―看護師の経験から生命倫理の課題を問う(西村ユミ)
第7章 死にゆく過程をどう生きるか―施設と在宅の二者択一を超えて(田代志門)
第8章 「自然な死」という言説の解体―死すべき定めの意味をもとめて(竹之内裕文)
第9章 「死の教育」からの問い―デス・エデュケーションの中の生命倫理学(西平 直)
第10章 終末期医療におけるスピリチュアリティとスピリチュアル・ケア―「日本的スピリチュアリティ」の可能性と限界について(宮嶋俊一)
第11章 生、死、ブリコラージュ―緩和ケア病棟で看護師が経験する困難への医療人類学からのアプローチ(松岡秀明)
第12章 グリーフケアの可能性―医療は遺族のグリーフワークをサポートできるのか(安藤泰至・打出喜義)
第13章 医師が治らない患者と向き合うとき―「見捨てないこと」の一考察(高橋 都)
「医療にとって『死』とはなにか?」というタイトルだけでも刺激的な
安藤先生の第1章もワクワクものだけれど、
私にとって何より嬉しいのは、
安藤先生と金沢大学の打出喜義先生との共著の章があること。
打出喜義先生といえば、
1998年に起きた金沢大学医学部付属病院産婦人科で
卵巣がんの患者に同意なき臨床実験が行われていた事件で
患者サイドに立って病院側の文書の改竄を暴き、
自ら所属する大学と闘った医師。
ウィキペディアはこちら ↓
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%89%93%E5%87%BA%E5%96%9C%E7%BE%A9
私は恥ずかしながら、
今年の夏まで打出先生のことを知らなかった。
6月に東京の某所でバクバクしながら慣れぬ場に臨んだ際に、
タダモノならぬ知的な気配を漂わせつつも少年みたいな無邪気な笑みを見せてくださる男性が
最後列の端っこにおられて、たいそう気になっていたところ、
質疑になるや、真っ先に発言してくださって、
「某MLで、ある時から名前の読み方すらわからないナントカいう人が
情報提供をするようになって……」と笑わせつつ、
ガチガチに緊張しているspitzibaraに温かいエールを送ってくださった。
その後、どなたかのコメントを受けて
司会の方から「パーソン論を簡単に説明して」と要望された私が
自分で正しく説明する自信がなくて、おずおずと振らせてもらった際にも、
はにかみつつも快く引き受けてくださって、
終始、魅力的な笑顔で楽しそうに聞いてくださるその男性に、
私はどこのどなたとは知らないまま、すっかり参ってしまったのだった。
帰ってきて、その方が上記のような勇気ある行動をとられた医師だと知り、
事件についての当時の報道を読み、映像を見るにつけ、
医療は患者のために行われるものだということを
まるで戸惑っているかのように、でも微塵もブレることなく
静かに朴訥な言葉で語られる打出先生に、
私はもう、ぞっこん。
そんな安藤先生と打出先生が共著で書かれたものが
ただならぬ章でないはずがないんであって、
読ませていただくのが今から楽しみ。
実は個人的にはちょっと気になる顔ぶれも含まれているんだけど、
でも、尊厳死法制化について考えようとする人には
ぜひぜひ読んでもらいたい本であることは間違いない。
―――――
それにしても、
1月に拙ブログで安藤先生と出会い、6月に打出先生と遭遇し、
6月と12月の東京、5月の神戸、先週の京都と、
本当に多くの素敵な方々と新たな出会いをいただいて、
また、兼ねてお世話になっていたり憧れていた方々と初対面を果たせたり、
そうそう、実は先週、思いもかけないエヴァ・キテイつながりで、
大学時代のクラスメイトと34年ぶりの再会まで果たすことができたんだった。
堂々たる研究者である彼女は、
すっくと背筋の伸びた青年のような趣の、カッコイイ大人の女になっていた。
私はただのオバサンなりに
自分はただのオバサンとして堂々と生きてきたのだと感じることができて、
しみじみと豊かな再会の語り合いだった。
本当にいい年だったなぁ……。
2013.01.04 / Top↑
古代の人たちが重症障害者を手厚くケアしたエビデンスがある、という話は
高谷清先生の「はだかのいのち」で読んでいました。
これまで発掘された、そうした事例について
以下のNYTの記事から簡単に抜いてみます。
順番は発掘された順ではなく、
記事に紹介されている順になります。
① 南ベトナムのマンバック遺跡から2007年に発掘された
4000年前の若い男性の遺骨。
胎児姿勢で埋葬されており、
重症障害のために生前からそういう姿勢だったものと推測される。
子どもの頃に下半身がマヒし、
腕はほとんど使えず、食事も体を清潔に保つことも自分では無理だったが、
マヒしてからも10年ほど生きたものと思われる。
当時の彼の集落の人々は金属を持たず、
釣りと狩りとわずかにブタを家畜として飼っている社会だった。
そういう社会の人々が
この若者をケアしていたことになる。
② イラクで発掘された45000年前のネアンデルタール人、 Shandidar 1。
片腕切断、片目が見えず、その他の怪我もあったが、死亡時には50歳。
③ 米国フロリダ州で発掘された7500年前の少年。
二分脊椎と思われる障害があるが、15歳くらいまで生きた。
④ イタリアで1980年代に発掘された1万年前の10代の少年、 Romito 2。
重症の小人症だった。
特に介護を必要としたとは思えないが、
狩りと採取で暮らしていた彼の集落が
走るのも遅く、腕が非常に短いために他の人たちと同じように狩りに参加できない彼を
受け入れていたことが明らか。
⑤ アラビア半島で発掘された4000年前の18歳の少女。
ポリオと思われる障害があった。
発掘した考古学者は
歩ける状態ではなかったと思われ、
おそらく24時間のケアを受けていたのだろう、と。
しかし、この少女の歯は虫歯だらけで、抜け落ちた歯も多く、
その集落ではデーツを栽培していたので、
心優しい介護者が歯にくっつきやすいデーツを沢山食べさせたからだろう、とも。
ベトナムの若い男性を発掘したLorna Tilleyさんは
「病気や障害が重くて、生きい伸びるためにはケアが必要だったに違いないケースは
30ほど」知っていると言い、他にも同様のケースはあるはずだ、と。
フロリダの少年を発掘した考古学者 D. N. DickelとG.H.Doranは、
1989年に書いた論文で、
有史前の人々についてのステレオタイプとは異なり、
「一定の状況下では、7500年も前の生活にも
慢性病の人やハンディのある人たちを助け支えようとする気持ちとその能力があった」
と結論付けている。
またTilleyさんは
以下の4段階で古代の障害者とその状況を研究する方法を提唱している、とのこと。
① 人物の病気や障害の特定
② その人物が暮らしていた文化における、その病気や障害の影響
③ どの程度のケアが必要だったかを特定
④ それら収集した事実から総合的に解釈を行う
Ancient Bones That Tell a Story of Compassion
NYT, December 7, 2012
なお「はだかのいのち」の第6章
「障害者と共に生きた人々 - ネアンデルタール人の心(二)」(p.178からp.183)には、
上記②のナンディ1について、NYTよりもずっと詳細に記述されています。
研究者からの引用部分を以下に抜いてみると、
「彼は出生時から不具な身であったうえに、左目が盲目だったらしい。スチュワートの調査では右上腕骨、鎖骨と肩甲骨は生まれたときから十分に発達していなかったという。さらに顔の左側面に広範囲に及ぶ骨瘢痕組織が見られる。そしてこれだけでは不十分と言わんばかりに、彼の頭蓋骨の右上部にはある州の傷が見られ、生前に癒えた形跡がある。要するにシャニダール第一号、すなわちナンディ(食卓での会話で私たちは彼をこう呼んでいた)は、五体すこぶる健全な人間でさえ辛い思いをする環境下で、非常に不利な立場にさらされていたということができる。彼は自分で食糧をさがしたり、身を守ったりすることはできなかったであろう。したがって彼は死ぬまで一族の者たちによって世話されていたと、私たちは考えざるを得ない」
「この遺体の上に積まれた石と食料としての哺乳動物の遺残は、死後もこの人物が敬意とまではいかなくとも、ある種の価値を認められたことを示している」
(p. 179-180)
高谷氏は以下のように書いている。
人類は古くは生産力も低いため、たとえ一緒に生活しようという気持ちがあっても実際にはできず、障害者や高齢者を排除し、姥捨て山などに棄ててきたと思っている人も多い。生産性が向上してきたこの1000年、あるいは数千年になってはじめて障害者が生きられるようになったと考えている。まして、現在の人類ではない旧人といわれるネアンデルタール人が、障害者と共に生活しているとは考えもしないことであった。
(p.180)
【関連エントリー】
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 1(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 2(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 3(2011/11/22)
-------------
オマケとして
どこかでたまたま見つけた、
クリスマスの自宅イルミネーション写真集を。
http://www.ivillage.com/over-top-christmas-light-displays/7-b-307484?utm_source=taboola#307500
我が家はツリーすら飾っていないけれど、
ワイン(ミュウは「とろみワイン」)とケーキの「(ホールのまま)バチ当たり食い」で
ミュウとクリスマスの3連休をゆっくり楽しみました。
メリー・クリスマス!
高谷清先生の「はだかのいのち」で読んでいました。
これまで発掘された、そうした事例について
以下のNYTの記事から簡単に抜いてみます。
順番は発掘された順ではなく、
記事に紹介されている順になります。
① 南ベトナムのマンバック遺跡から2007年に発掘された
4000年前の若い男性の遺骨。
胎児姿勢で埋葬されており、
重症障害のために生前からそういう姿勢だったものと推測される。
子どもの頃に下半身がマヒし、
腕はほとんど使えず、食事も体を清潔に保つことも自分では無理だったが、
マヒしてからも10年ほど生きたものと思われる。
当時の彼の集落の人々は金属を持たず、
釣りと狩りとわずかにブタを家畜として飼っている社会だった。
そういう社会の人々が
この若者をケアしていたことになる。
② イラクで発掘された45000年前のネアンデルタール人、 Shandidar 1。
片腕切断、片目が見えず、その他の怪我もあったが、死亡時には50歳。
③ 米国フロリダ州で発掘された7500年前の少年。
二分脊椎と思われる障害があるが、15歳くらいまで生きた。
④ イタリアで1980年代に発掘された1万年前の10代の少年、 Romito 2。
重症の小人症だった。
特に介護を必要としたとは思えないが、
狩りと採取で暮らしていた彼の集落が
走るのも遅く、腕が非常に短いために他の人たちと同じように狩りに参加できない彼を
受け入れていたことが明らか。
⑤ アラビア半島で発掘された4000年前の18歳の少女。
ポリオと思われる障害があった。
発掘した考古学者は
歩ける状態ではなかったと思われ、
おそらく24時間のケアを受けていたのだろう、と。
しかし、この少女の歯は虫歯だらけで、抜け落ちた歯も多く、
その集落ではデーツを栽培していたので、
心優しい介護者が歯にくっつきやすいデーツを沢山食べさせたからだろう、とも。
ベトナムの若い男性を発掘したLorna Tilleyさんは
「病気や障害が重くて、生きい伸びるためにはケアが必要だったに違いないケースは
30ほど」知っていると言い、他にも同様のケースはあるはずだ、と。
フロリダの少年を発掘した考古学者 D. N. DickelとG.H.Doranは、
1989年に書いた論文で、
有史前の人々についてのステレオタイプとは異なり、
「一定の状況下では、7500年も前の生活にも
慢性病の人やハンディのある人たちを助け支えようとする気持ちとその能力があった」
と結論付けている。
またTilleyさんは
以下の4段階で古代の障害者とその状況を研究する方法を提唱している、とのこと。
① 人物の病気や障害の特定
② その人物が暮らしていた文化における、その病気や障害の影響
③ どの程度のケアが必要だったかを特定
④ それら収集した事実から総合的に解釈を行う
Ancient Bones That Tell a Story of Compassion
NYT, December 7, 2012
なお「はだかのいのち」の第6章
「障害者と共に生きた人々 - ネアンデルタール人の心(二)」(p.178からp.183)には、
上記②のナンディ1について、NYTよりもずっと詳細に記述されています。
研究者からの引用部分を以下に抜いてみると、
「彼は出生時から不具な身であったうえに、左目が盲目だったらしい。スチュワートの調査では右上腕骨、鎖骨と肩甲骨は生まれたときから十分に発達していなかったという。さらに顔の左側面に広範囲に及ぶ骨瘢痕組織が見られる。そしてこれだけでは不十分と言わんばかりに、彼の頭蓋骨の右上部にはある州の傷が見られ、生前に癒えた形跡がある。要するにシャニダール第一号、すなわちナンディ(食卓での会話で私たちは彼をこう呼んでいた)は、五体すこぶる健全な人間でさえ辛い思いをする環境下で、非常に不利な立場にさらされていたということができる。彼は自分で食糧をさがしたり、身を守ったりすることはできなかったであろう。したがって彼は死ぬまで一族の者たちによって世話されていたと、私たちは考えざるを得ない」
「この遺体の上に積まれた石と食料としての哺乳動物の遺残は、死後もこの人物が敬意とまではいかなくとも、ある種の価値を認められたことを示している」
(p. 179-180)
高谷氏は以下のように書いている。
人類は古くは生産力も低いため、たとえ一緒に生活しようという気持ちがあっても実際にはできず、障害者や高齢者を排除し、姥捨て山などに棄ててきたと思っている人も多い。生産性が向上してきたこの1000年、あるいは数千年になってはじめて障害者が生きられるようになったと考えている。まして、現在の人類ではない旧人といわれるネアンデルタール人が、障害者と共に生活しているとは考えもしないことであった。
(p.180)
【関連エントリー】
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 1(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 2(2011/11/22)
高谷清著「重い障害を生きるということ」メモ 3(2011/11/22)
-------------
オマケとして
どこかでたまたま見つけた、
クリスマスの自宅イルミネーション写真集を。
http://www.ivillage.com/over-top-christmas-light-displays/7-b-307484?utm_source=taboola#307500
我が家はツリーすら飾っていないけれど、
ワイン(ミュウは「とろみワイン」)とケーキの「(ホールのまま)バチ当たり食い」で
ミュウとクリスマスの3連休をゆっくり楽しみました。
メリー・クリスマス!
2013.01.04 / Top↑
これについては、今年5月にも
リベラル・ヒューマニスト・アソシエーションからの提言についてBioEdgeが書いていたけれど ↓
ベルギーで「知的障害者、子どもと認知症患者にも安楽死を求める権利を」(2012/5/5)
今回は社会主義党から
18歳以下の未成年と認知症患者について同じような提案が出ているという話。
(今回は、知的障害者は含まれていない模様?)
なお、ベルギーの安楽死が合法化されて以降の10年間の実態については
以下の報告書が出たばかり。 ↓
ベルギーの安楽死に関する報告書・BioEdgeのまとめ(2012/12/10)
ベルギーの安楽死関連エントリーは上記12月10日のエントリーにリンク一覧あります。
問題の報告書も、英語版にざっと目は通したのですが、
そのうちに、ちゃんと読んでエントリーにしようと思っています。
Belgium debates euthanasia for minors and demented
BioEdge, December 22, 2012
なお、今日のこのBioEdgeの記事によると、
オランダでは既に未成年にも認知症患者にも安楽死が認められているのだとか。
そういえば、去年3月に行われた認知症患者の積極的安楽死については議論になっていた ↓
「IC出せない男児包皮切除はダメ」でも「IC出せない障害新生児も認知症患者も殺してOK」というオランダの医療倫理(2011/11/12)
リベラル・ヒューマニスト・アソシエーションからの提言についてBioEdgeが書いていたけれど ↓
ベルギーで「知的障害者、子どもと認知症患者にも安楽死を求める権利を」(2012/5/5)
今回は社会主義党から
18歳以下の未成年と認知症患者について同じような提案が出ているという話。
(今回は、知的障害者は含まれていない模様?)
なお、ベルギーの安楽死が合法化されて以降の10年間の実態については
以下の報告書が出たばかり。 ↓
ベルギーの安楽死に関する報告書・BioEdgeのまとめ(2012/12/10)
ベルギーの安楽死関連エントリーは上記12月10日のエントリーにリンク一覧あります。
問題の報告書も、英語版にざっと目は通したのですが、
そのうちに、ちゃんと読んでエントリーにしようと思っています。
Belgium debates euthanasia for minors and demented
BioEdge, December 22, 2012
なお、今日のこのBioEdgeの記事によると、
オランダでは既に未成年にも認知症患者にも安楽死が認められているのだとか。
そういえば、去年3月に行われた認知症患者の積極的安楽死については議論になっていた ↓
「IC出せない男児包皮切除はダメ」でも「IC出せない障害新生児も認知症患者も殺してOK」というオランダの医療倫理(2011/11/12)
2013.01.04 / Top↑
フランスのオランド大統領は今年5月の大統領選の際の公約に自殺幇助合法化を謳っており、就任後に命じた報告書が出てきたのを受けて、来年6月に法案を提出する方向。ただ、記事によって例えばNYTも「医療的に幇助する自殺medically assisted suicide」という表現を使っているけれど、他の記事の内容からすれば自殺幇助というよりも消極的安楽死のことと思える節も。いつものことながら、メディアのこういう厳密さに欠ける言葉の使用が気になる。
http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/12/18/france-opens-the-door-to-a-right-to-die-but-not-now/
http://www.hurriyetdailynews.com/france-takes-first-step-toward-medically-assisted-suicide-.aspx?pageID=238&nID=37207&NewsCatID=351
http://www.france24.com/en/20121219-france-medically-assisted-suicide-euthanasia-healthcare-reform-hollande
FENがミネソタ州で自殺ほう助を禁じた州法に違憲訴訟を起こした。
http://www.kwtx.com/news/health/headlines/Right-To-Die-Group-Challenges-State-Assisted-Suicide-Law-184026831.html
ピーター・シンガーがトランスヒューマ二ストのAubrey de Greyのアンチ・エイジング論に賛同。科学とテクノの発達で人間は百年単位で生きることが可能になるが、世界が養える人数に限りがあるなら、短命な多数が生きる世界よりも長命な少数が生きる社会の方が良いから。生まれてこない人には生まれなかったことで失ったものを実感することもできないし。:私は学者じゃないからわからないけど、こういうのが「哲学」なんですか?
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10346
手がマヒした女性が脳の働きでロボット・アームを使い食事に成功。ピッツバーグの研究で。
http://www.guardian.co.uk/science/2012/dec/17/paralysed-woman-robotic-arm-pittsburgh
病気予防で毎日飲むように推奨されてきたアスピリン、定期的に飲んでいると黄斑変性が悪化しやすくなるとか。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254254.php
日本。自閉症などの発達障害は母体の化学物質接種による可能性がある-東大:このブログを始めてしばらくした頃に、児童精神科医の方から「遺伝によるとするのが医学的な常識」とコメントで教えられたことがあるけれど、こういう漠然とした疑念、一般人はみんな持っていたんでは? 科学では単に「まだ調べられていない」とか「データがない」ということは「関連がない」ということになってしまうみたいだけれど。
http://news.mynavi.jp/news/2012/12/14/099/index.html
米国小児科学会が水銀を含むワクチンの防腐剤Thimerosalは、自閉症への影響説は覆されたし、途上国では保存環境が良くないので、入れ続けた方が良い、と提言。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254162.php
抗HIV薬を吸収させる女性用コンドームをワシントン大学が開発へ。
http://www.edgeboston.com/news/aids/news/140039/bill_gates_funds_female_condom_that_delivers_anti-hiv_drug
英国の社会保障費削減策で、障害のある成人した子どもを在宅でケアしている親への給付に上限が設けられることに。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/16/parents-disabled-offspring-benefit-cap
一部民営化を導入したNHSで、民間医療機関のコスト削減策で時間外ケアがあまりに劣悪で患者にリスクが指摘された。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/17/harmoni-gp-service-patients-risk
英国の保健省から2010年3月に出た重症重複障害者への福祉に関する報告書 Raising our sights: services for adults with profound intellectual and multiple disabilities:これはいずれ読んでエントリーにしたい。
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_114346
虐待などで親から離されて施設で暮らしている子どもたちが施設のたらい回しなど、ひどい処遇でさらに傷ついている、との報告書。英国。:英国では保護された外国籍の子どもたちが施設から姿を消す事件が起こっている。 ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52158980.html
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/18/most-damaged-children-care-failed
キャメロン英首相、EUからの脱退にも言及。
http://www.guardian.co.uk/politics/2012/dec/17/david-cameron-withdrawal-eu-imaginable
米国のホームレス問題で、このところ子どものいるホームレス家庭への支援がよく話題になっている。
http://www.nytimes.com/2012/12/17/opinion/how-to-fight-homelessness.html?_r=0
米国の失業率、黒人では白人の2倍。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/2012/12/14/01b6c9be-37e5-11e2-b01f-5f55b193f58f_story.html
http://rendezvous.blogs.nytimes.com/2012/12/18/france-opens-the-door-to-a-right-to-die-but-not-now/
http://www.hurriyetdailynews.com/france-takes-first-step-toward-medically-assisted-suicide-.aspx?pageID=238&nID=37207&NewsCatID=351
http://www.france24.com/en/20121219-france-medically-assisted-suicide-euthanasia-healthcare-reform-hollande
FENがミネソタ州で自殺ほう助を禁じた州法に違憲訴訟を起こした。
http://www.kwtx.com/news/health/headlines/Right-To-Die-Group-Challenges-State-Assisted-Suicide-Law-184026831.html
ピーター・シンガーがトランスヒューマ二ストのAubrey de Greyのアンチ・エイジング論に賛同。科学とテクノの発達で人間は百年単位で生きることが可能になるが、世界が養える人数に限りがあるなら、短命な多数が生きる世界よりも長命な少数が生きる社会の方が良いから。生まれてこない人には生まれなかったことで失ったものを実感することもできないし。:私は学者じゃないからわからないけど、こういうのが「哲学」なんですか?
http://www.bioedge.org/index.php/bioethics/bioethics_article/10346
手がマヒした女性が脳の働きでロボット・アームを使い食事に成功。ピッツバーグの研究で。
http://www.guardian.co.uk/science/2012/dec/17/paralysed-woman-robotic-arm-pittsburgh
病気予防で毎日飲むように推奨されてきたアスピリン、定期的に飲んでいると黄斑変性が悪化しやすくなるとか。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254254.php
日本。自閉症などの発達障害は母体の化学物質接種による可能性がある-東大:このブログを始めてしばらくした頃に、児童精神科医の方から「遺伝によるとするのが医学的な常識」とコメントで教えられたことがあるけれど、こういう漠然とした疑念、一般人はみんな持っていたんでは? 科学では単に「まだ調べられていない」とか「データがない」ということは「関連がない」ということになってしまうみたいだけれど。
http://news.mynavi.jp/news/2012/12/14/099/index.html
米国小児科学会が水銀を含むワクチンの防腐剤Thimerosalは、自閉症への影響説は覆されたし、途上国では保存環境が良くないので、入れ続けた方が良い、と提言。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/254162.php
抗HIV薬を吸収させる女性用コンドームをワシントン大学が開発へ。
http://www.edgeboston.com/news/aids/news/140039/bill_gates_funds_female_condom_that_delivers_anti-hiv_drug
英国の社会保障費削減策で、障害のある成人した子どもを在宅でケアしている親への給付に上限が設けられることに。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/16/parents-disabled-offspring-benefit-cap
一部民営化を導入したNHSで、民間医療機関のコスト削減策で時間外ケアがあまりに劣悪で患者にリスクが指摘された。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/17/harmoni-gp-service-patients-risk
英国の保健省から2010年3月に出た重症重複障害者への福祉に関する報告書 Raising our sights: services for adults with profound intellectual and multiple disabilities:これはいずれ読んでエントリーにしたい。
http://www.dh.gov.uk/en/Publicationsandstatistics/Publications/PublicationsPolicyAndGuidance/DH_114346
虐待などで親から離されて施設で暮らしている子どもたちが施設のたらい回しなど、ひどい処遇でさらに傷ついている、との報告書。英国。:英国では保護された外国籍の子どもたちが施設から姿を消す事件が起こっている。 ⇒ http://blogs.yahoo.co.jp/spitzibara/52158980.html
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/18/most-damaged-children-care-failed
キャメロン英首相、EUからの脱退にも言及。
http://www.guardian.co.uk/politics/2012/dec/17/david-cameron-withdrawal-eu-imaginable
米国のホームレス問題で、このところ子どものいるホームレス家庭への支援がよく話題になっている。
http://www.nytimes.com/2012/12/17/opinion/how-to-fight-homelessness.html?_r=0
米国の失業率、黒人では白人の2倍。
http://www.washingtonpost.com/business/economy/2012/12/14/01b6c9be-37e5-11e2-b01f-5f55b193f58f_story.html
2013.01.04 / Top↑
この前読んだ、姜尚中の「在日」の中にあった、
著者が市民運動の師と仰いだ、土門一雄牧師の言葉を――。
……市民の運動はね、国家権力と対峙するとき、敗北するに決まっているんです。でもそれをただ敗北とだけ受け止める必要はないと思いますよ。負けて、負けて、負け続けて、しかしいつの日か勝てないけれど、負けてもいない、そんなときがくるはずですよ。……
(p. 168: ゴチックはspitzibara)
元気を出そうと、
このエントリーを書いては見たものの、
おそろしくて、本気で泣けてきた……。
著者が市民運動の師と仰いだ、土門一雄牧師の言葉を――。
……市民の運動はね、国家権力と対峙するとき、敗北するに決まっているんです。でもそれをただ敗北とだけ受け止める必要はないと思いますよ。負けて、負けて、負け続けて、しかしいつの日か勝てないけれど、負けてもいない、そんなときがくるはずですよ。……
(p. 168: ゴチックはspitzibara)
元気を出そうと、
このエントリーを書いては見たものの、
おそろしくて、本気で泣けてきた……。
2013.01.04 / Top↑
【明日の選挙関連】
CA州の判事が、レイプ被害者が性行為を望んでいなければ身体がシャットダウンして「レイプなど可能にならないはず」だから、暴行を受けている時に「抵抗しなかった」のだと発言したことで公的監督機関から叱責。:これと似たような論理でレイプ犯を無罪にした日本の最高裁判事もおられるようで、アジア女性資料センターの抗議文はこちら。この時の最高裁判事が明日の選挙の信任投票に名前が挙がっているとか。ツイッターやこちらのブログによると、千葉さんと須藤さん。覚えておこう。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/us-judge-victims-body-prevent-rape
日本。障害者政策、公約で触れぬ新党も 衆院選、論調低調に関係者嘆き
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/shuin2012/38585.html
橋下徹の言論テクニックを解剖する 「中島岳志の希望は商店街!」
http://www.magazine9.jp/hacham/111109/
生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない――参議院議員・世耕弘成
http://toyokeizai.net/articles/-/9611
天賦人権説(あるいは自然権)の否定は何が問題なのか?
http://d.hatena.ne.jp/crowserpent/20121212
子育て、雇用忘れないで=身近な争点、埋没懸念―働く女性、求職者ら
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000023-jij-pol
【その他】
もうどこがどうなっているんだか、あまりに動きが加速していて頭が混乱しているんだけれど、NZの議会にも自殺幇助合法化法案が出ているみたい。他に米国NJ州。スコットランドもだったっけ? 大きな訴訟が進行中なのはアイルランドとカナダのBC州。合法化するぞ、と言っているのは米国VT州とカナダのケベック州。
http://www.nationalrighttolifenews.org/news/2012/12/new-zealand-petition-opposes-euthanasia-and-assisted-suicide/
アイルランドの自殺幇助訴訟で緩和ケアの専門家が証言して「高齢者など弱者の虐待につながる」と。判決は1月10日。
http://www.independent.ie/national-news/endoflife-experts-back-ban-on-assisted-suicide-3324937.html
http://www.rte.ie/news/2012/1213/assisted-suicides-palliative-care-marie-fleming.html
http://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/decriminalising-assisted-suicide-could-lead-to-involuntary-deaths-expert-tells-court-577633.html
IHMEなどが関わっているBurden of Diseaseプロジェクトの新たな調査で、世界の人々は長寿になっているものの、それに伴い障害者が増えている。:Burden of Disease 直訳すると「病気の負担」。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/burden-of-disease-study-shows-a-world-living-longer-and-with-more-disability/2012/12/13/9d1e5278-4320-11e2-8061-253bccfc7532_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/13/life-expectancy-world-rise
【関連エントリー】
世界の病気・障害の「負担」数値化へ(2008/4/25)
死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DALY(2008/4/22)
Peter SingerがQOL指標に配給医療を導入せよ、と(2009/7/18)
「障害者は健常者の8掛け、6掛け」と生存年数割引率を決めるQALY・DALY(2009/9/8)
QALYが「患者立脚型アウトカム」と称して製薬会社のセミナーに(日本)(2010/2/12)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part1(2010/2/16)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part 2(2010/2/16)
障害者差別としてボツになった配給医療基準「オレゴン・プラン」が、IHMEによってグローバルに復活することの怪(2011/12/20)
メリンダ・ゲイツさんがマラウィで母子保健について政府要人と相次いで会談。
http://www.malawitoday.com/news/127595-wife-bill-gates-melinda-gates-arrives-malawi-support-maternal-health
日本。<新型出生前診断>実施施設を限定…日産婦の指針案判明
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000008-mai-soci
うつ病の高齢男性は救急入院の確率が高い:こういうデータもどういう使われ方をしていくのか、気になるところ。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253835.php
くる病とMSの予防のため、食品にビタミンDと安価なサプリを混ぜましょう……って。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/vitamin-d-deficiency-supplement
妊娠中にビタミンDが不足すると、低体重児が生まれる確率が上がりますよ~。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253859.php
日本。日本脳炎ワクチン 接種継続へ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121213/t10014165541000.html
日本。予防接種の副作用、緊急対応の手順書案 厚労省が公表
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000538-san-pol
日本。<予防接種>保護者が冷静にリスク評価を:と言われても、これだけメディアに煽られたら素人の保護者がどれほど「冷静にリスク評価」できるというんだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121204-00000002-maiall-soci
95歳の女性から25万ドルも盗んだ介護ヘルパー。:介護者による盗みのニュースは毎日でてくる。
http://www.perthnow.com.au/news/western-australia/carer-charged-with-stealing-250000-from-woman-95/story-e6frg13u-1226536252081
英国の子どもは小学校卒業時に3分の1が肥満。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253973.php
殺虫剤の過剰使用が蜂の死滅に繋がっているのに、規制が十分に行われていない。
http://www.guardian.co.uk/environment/2012/dec/12/mps-insecticide-regulators-bees
日本語。コラム:米国での出生率低下、その脅威とジレンマ
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE8BA04320121211
新潮社がKindleストアからコンテンツを引き上げ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121214-00000317-giz-ent
CA州の判事が、レイプ被害者が性行為を望んでいなければ身体がシャットダウンして「レイプなど可能にならないはず」だから、暴行を受けている時に「抵抗しなかった」のだと発言したことで公的監督機関から叱責。:これと似たような論理でレイプ犯を無罪にした日本の最高裁判事もおられるようで、アジア女性資料センターの抗議文はこちら。この時の最高裁判事が明日の選挙の信任投票に名前が挙がっているとか。ツイッターやこちらのブログによると、千葉さんと須藤さん。覚えておこう。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/us-judge-victims-body-prevent-rape
日本。障害者政策、公約で触れぬ新党も 衆院選、論調低調に関係者嘆き
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/shuin2012/38585.html
橋下徹の言論テクニックを解剖する 「中島岳志の希望は商店街!」
http://www.magazine9.jp/hacham/111109/
生活保護の給付水準下げ自立意欲高める、権利の制限は仕方ない――参議院議員・世耕弘成
http://toyokeizai.net/articles/-/9611
天賦人権説(あるいは自然権)の否定は何が問題なのか?
http://d.hatena.ne.jp/crowserpent/20121212
子育て、雇用忘れないで=身近な争点、埋没懸念―働く女性、求職者ら
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000023-jij-pol
【その他】
もうどこがどうなっているんだか、あまりに動きが加速していて頭が混乱しているんだけれど、NZの議会にも自殺幇助合法化法案が出ているみたい。他に米国NJ州。スコットランドもだったっけ? 大きな訴訟が進行中なのはアイルランドとカナダのBC州。合法化するぞ、と言っているのは米国VT州とカナダのケベック州。
http://www.nationalrighttolifenews.org/news/2012/12/new-zealand-petition-opposes-euthanasia-and-assisted-suicide/
アイルランドの自殺幇助訴訟で緩和ケアの専門家が証言して「高齢者など弱者の虐待につながる」と。判決は1月10日。
http://www.independent.ie/national-news/endoflife-experts-back-ban-on-assisted-suicide-3324937.html
http://www.rte.ie/news/2012/1213/assisted-suicides-palliative-care-marie-fleming.html
http://www.irishexaminer.com/breakingnews/ireland/decriminalising-assisted-suicide-could-lead-to-involuntary-deaths-expert-tells-court-577633.html
IHMEなどが関わっているBurden of Diseaseプロジェクトの新たな調査で、世界の人々は長寿になっているものの、それに伴い障害者が増えている。:Burden of Disease 直訳すると「病気の負担」。
http://www.washingtonpost.com/national/health-science/burden-of-disease-study-shows-a-world-living-longer-and-with-more-disability/2012/12/13/9d1e5278-4320-11e2-8061-253bccfc7532_story.html?wpisrc=nl_cuzheads
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/13/life-expectancy-world-rise
【関連エントリー】
世界の病気・障害の「負担」数値化へ(2008/4/25)
死亡率に障害も加えて医療データ見直す新基準DALY(2008/4/22)
Peter SingerがQOL指標に配給医療を導入せよ、と(2009/7/18)
「障害者は健常者の8掛け、6掛け」と生存年数割引率を決めるQALY・DALY(2009/9/8)
QALYが「患者立脚型アウトカム」と称して製薬会社のセミナーに(日本)(2010/2/12)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part1(2010/2/16)
DALY・QALYと製薬会社の利権の距離についてぐるぐるしてみる Part 2(2010/2/16)
障害者差別としてボツになった配給医療基準「オレゴン・プラン」が、IHMEによってグローバルに復活することの怪(2011/12/20)
メリンダ・ゲイツさんがマラウィで母子保健について政府要人と相次いで会談。
http://www.malawitoday.com/news/127595-wife-bill-gates-melinda-gates-arrives-malawi-support-maternal-health
日本。<新型出生前診断>実施施設を限定…日産婦の指針案判明
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000008-mai-soci
うつ病の高齢男性は救急入院の確率が高い:こういうデータもどういう使われ方をしていくのか、気になるところ。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253835.php
くる病とMSの予防のため、食品にビタミンDと安価なサプリを混ぜましょう……って。
http://www.guardian.co.uk/society/2012/dec/14/vitamin-d-deficiency-supplement
妊娠中にビタミンDが不足すると、低体重児が生まれる確率が上がりますよ~。
http://www.medicalnewstoday.com/releases/253859.php
日本。日本脳炎ワクチン 接種継続へ
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121213/t10014165541000.html
日本。予防接種の副作用、緊急対応の手順書案 厚労省が公表
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121213-00000538-san-pol
日本。<予防接種>保護者が冷静にリスク評価を:と言われても、これだけメディアに煽られたら素人の保護者がどれほど「冷静にリスク評価」できるというんだろう。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121204-00000002-maiall-soci
95歳の女性から25万ドルも盗んだ介護ヘルパー。:介護者による盗みのニュースは毎日でてくる。
http://www.perthnow.com.au/news/western-australia/carer-charged-with-stealing-250000-from-woman-95/story-e6frg13u-1226536252081
英国の子どもは小学校卒業時に3分の1が肥満。
http://www.medicalnewstoday.com/articles/253973.php
殺虫剤の過剰使用が蜂の死滅に繋がっているのに、規制が十分に行われていない。
http://www.guardian.co.uk/environment/2012/dec/12/mps-insecticide-regulators-bees
日本語。コラム:米国での出生率低下、その脅威とジレンマ
http://jp.reuters.com/article/jp_column/idJPTYE8BA04320121211
新潮社がKindleストアからコンテンツを引き上げ
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121214-00000317-giz-ent
2013.01.04 / Top↑
「生死の語り行い1 尊厳死法案・抵抗・生命倫理学
立岩真也・有馬斉著 生活書院
「尊厳死法制化を考える議員連盟」が2つの尊厳死法案を用意して
先の国会での成立を目指した動きを受けて、
立岩真也氏が、自身がこの問題について発言してきた内容と、
障害学・障害者運動から起きている反対の意思表明とを取りまとめ、
新進気鋭の倫理学者、有馬斉氏が功利主義者らの安楽死正当化論を整理して紹介・解説、
その「大きな絵」を提示する、という内容。
障害者の運動体からの反対声明がずらりと並んでいるのは壮観。
その他、いくつか個人的にメモしておきたいことを以下に。
① 日本尊厳死協会の副理事長、長尾和弘氏は
今年7月3日に東京弁護士会主催のシンポで
「死期が間近」な「終末期」がどのくらいの状態、時期のことを指すのか、
決めることはできない、と発言した。(p.18)
これは12月4日の早稲田での講演会でも、
上記7月のシンポを聞いた岡部耕典氏から同じ趣旨の指摘があった。
長尾氏は、「終末期というのは患者が死んでから、
ああ、あの時が終末期だったというふうに分かるものであり、
死ぬ前からいつが終末期かは分からない」という趣旨の発言をされた、とのこと。
ちなみに、日本尊厳死協会理事長の岩尾氏はこんなことを言っておられます ↓
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 1(2012/10/23)
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 2(2012/10/23)
② 功利主義者マクマーンの積極的安楽死正当化の2つ目の根拠である、
仮に自殺幇助は認められても積極的安楽死は許されないとなると
不治だったり耐え難い苦痛があるなどの条件は同じであるにも関わらず、
ALS患者のように自分の手足を使えない人だけが死ぬ権利を奪われることになる、
との主張(p.134)は、
先に英国で亡くなったTony Nicklinsonさんが裁判で主張していたもの。
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
③ 生存くじ(survival lottery) ジョン・ハリスの有名な論文。1980= 1988
……臓器移植の技術が完成した未来の世界では、健康な人を一人殺してその臓器を二人以上の病人に移植すれば全体としてより多くの人が幸福に生きられる。だから、ハリスによればこの場合一人が犠牲になるべきだという。
もちろんここで移植するということは、一人の健康な人を殺すことである。……(中略)……また、犠牲者の択び方は例えばレシピエントの担当医が独断で決めたりすると人々の恐怖心をいたずらにあおることになる。そうした間接的な悪影響はできるだけ抑えなければならない。そこでハリスによれば、社会のすべての成員にあらかじめ番号をふっておき、必要に応じて適宜くじを引いて犠牲者を選ぶとよい。ハリスはこの仕組に生存くじ(survival lottery)と名前をつけている。
(p.161)
④ジャック・キヴォーキアン医師は単に自殺幇助合法化だけではなく、以下のことも主張。(p.176)
・死刑囚を、本人の同意があった場合に、人体実験に使うべき。
・同じく死刑囚を、本人の同意があった場合に、臓器ドナーにすべき。
【Kevorkian医師関連エントリー】
自殺幇助のKevorkian医師、下院出馬の意向(2008/3/14)
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN、Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
Kevorkian医師の半生記映画、主演のパチーノ共、エミー賞を受賞(2010/8/30)
K医師、98年に自殺幇助した障害者の腎臓を摘出し「早い者勝ちだよ」と記者会見(2011/4/1)
Kevorkian医師、デトロイトの病院で死去(2011/6/4)
Kevorkian医師の“患者”の6割はターミナルではなかった?(2011/6/6)
⑤ ヘムロック協会が積極的安楽死合法化の動きを作る一翼を担ってきた。(p.177)
“Final Exit”の著者、デレックハンフリーが創設したヘムロック協会とは、
現在のCompassion and Choice(C&C)の前身。
C&Cについてはエントリー多いですが、FENとの関係など主だったところは以下のエントリーにリンク ↓
米TV番組“The Suicide Plan” FEN事件を詳細に(2012/11/15)
⑥ 「オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、
その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、
費用のかかることを行わないのが特になる仕組みになっている」(p.187)
⑦ 向井承子「患者追放――行き場を失う老人たち」(2003)からの引用がすごい。
……というよりも、私がもうここ数年ずっと重心の世界の人たちに言い続けているのに
誰からも否定されてしまうことが、2003年にとっくに事実になっていた、という衝撃。
二十数年前には、「病気があるというだけで病院に収容されている大量の子どもたち」に胸を衝かれた。現在は逆に、特別のケアがなければ生きにくく育ちにくい子どもたちが医療から「追放」されようとしていた。かつては、その子たちを地域に返してやりたいとあんなに願ったのに、いま追放される先とは地域とは名ばかりの荒野とは。(向井pp.123-124)
(p. 208)
「過剰医療」ということばが生まれる。患者がまるで検査やクスリを消費するだけの存在、病院を支える道具のように扱われることになる。
それは患者が選んだことではなく、医療関係者たちが患者を医療経営のコマとして扱う羽目に自ら追い込まれる、いわば自縄自縛の落とし穴にはまってしまった結果なのだが、その頃から今度は[…]病院で医療に頼って生き続けるおとしよりの存在が財政面から問題視されることとなって、いまでは、医療が必要な人もそうでない人も一気呵成に医療から追放されようとしている。(向井 p.8)
(p.209)
⑧ 有馬氏による功利主義者の安楽死・自殺幇助正当化論の整理を読んで感じたのは
まずは、ひたすら「遠いなぁ……」だった。
私の頭が付いていけないという意味で「遠い」というのもあるし、
「論理に破たんがない」ということが「正しいこと」とされるだけの、
これは論理のパズルであり言葉のゲームでしかないのでは? という、いつもの空疎な感じがあって、
人が「生活」とか「人生」を生きている生身の営みから
ひたすら、はるかに、遠く隔たっているなぁ……と。
それから、もう一つは「面倒くさいなぁ」というのも。
その「面倒くささ」には、一見するとたいそう緻密に見える論理のパズルも、
なんだかヘリクツっぽい「詭弁」に思えたりすることも含まれていて、
(もちろん、ついていけていないからそう感じるだけかもしらんけど)
こんな面倒くさい論理のパズルをよくここまで熱心にやっていられるなぁ……と
ちょっと辟易しながら、読み進んでいくうち、ふっと思ったのは、
でも、こういう論理のパズルが大好きな人たちが、
例えば、臓器移植とか生殖補助技術に伴う倫理問題では
ここまで面倒くさい論理のパズルを緻密に展開していなくて、
もっと粗雑に乱暴なことを言ってのけているように感じるのは、
単に私が不勉強で物を知らないから、なんだろうか。
立岩真也・有馬斉著 生活書院
「尊厳死法制化を考える議員連盟」が2つの尊厳死法案を用意して
先の国会での成立を目指した動きを受けて、
立岩真也氏が、自身がこの問題について発言してきた内容と、
障害学・障害者運動から起きている反対の意思表明とを取りまとめ、
新進気鋭の倫理学者、有馬斉氏が功利主義者らの安楽死正当化論を整理して紹介・解説、
その「大きな絵」を提示する、という内容。
障害者の運動体からの反対声明がずらりと並んでいるのは壮観。
その他、いくつか個人的にメモしておきたいことを以下に。
① 日本尊厳死協会の副理事長、長尾和弘氏は
今年7月3日に東京弁護士会主催のシンポで
「死期が間近」な「終末期」がどのくらいの状態、時期のことを指すのか、
決めることはできない、と発言した。(p.18)
これは12月4日の早稲田での講演会でも、
上記7月のシンポを聞いた岡部耕典氏から同じ趣旨の指摘があった。
長尾氏は、「終末期というのは患者が死んでから、
ああ、あの時が終末期だったというふうに分かるものであり、
死ぬ前からいつが終末期かは分からない」という趣旨の発言をされた、とのこと。
ちなみに、日本尊厳死協会理事長の岩尾氏はこんなことを言っておられます ↓
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 1(2012/10/23)
日本尊厳死協会理事長・岩尾氏の講演内容の不思議 2(2012/10/23)
② 功利主義者マクマーンの積極的安楽死正当化の2つ目の根拠である、
仮に自殺幇助は認められても積極的安楽死は許されないとなると
不治だったり耐え難い苦痛があるなどの条件は同じであるにも関わらず、
ALS患者のように自分の手足を使えない人だけが死ぬ権利を奪われることになる、
との主張(p.134)は、
先に英国で亡くなったTony Nicklinsonさんが裁判で主張していたもの。
“ロックト・イン症候群”の男性が「妻に殺してもらう権利」求め提訴(英)(2010/7/20)
自殺幇助希望の“ロックト・イン”患者Nicklinson訴訟で判決(2012/3/13)
自殺幇助訴訟のNicklinsonさん、ツイッターを始める(2012/7/2)
「死ぬ権利」求めるロックト・イン患者Nicklinsonさん、敗訴(2012/8/17)
Nicklinsonさん、肺炎で死去(2012/8/23)
③ 生存くじ(survival lottery) ジョン・ハリスの有名な論文。1980= 1988
……臓器移植の技術が完成した未来の世界では、健康な人を一人殺してその臓器を二人以上の病人に移植すれば全体としてより多くの人が幸福に生きられる。だから、ハリスによればこの場合一人が犠牲になるべきだという。
もちろんここで移植するということは、一人の健康な人を殺すことである。……(中略)……また、犠牲者の択び方は例えばレシピエントの担当医が独断で決めたりすると人々の恐怖心をいたずらにあおることになる。そうした間接的な悪影響はできるだけ抑えなければならない。そこでハリスによれば、社会のすべての成員にあらかじめ番号をふっておき、必要に応じて適宜くじを引いて犠牲者を選ぶとよい。ハリスはこの仕組に生存くじ(survival lottery)と名前をつけている。
(p.161)
④ジャック・キヴォーキアン医師は単に自殺幇助合法化だけではなく、以下のことも主張。(p.176)
・死刑囚を、本人の同意があった場合に、人体実験に使うべき。
・同じく死刑囚を、本人の同意があった場合に、臓器ドナーにすべき。
【Kevorkian医師関連エントリー】
自殺幇助のKevorkian医師、下院出馬の意向(2008/3/14)
アル・パチーノ主演でKevorkian医師の伝記映画作成か(2009/5/27)
Dr. Deathをヒーローに祭り上げ、シャイボさんをヘイトスピーチで笑い物にするハリウッド(2010/3/25)
FENが「Kevorkian医師の半生記映画見て“死ぬ権利”考えよう」(2010/4/22)
Kevorkian医師「PASは医療の問題。政治も法律も関係ない」(2010/4/26)
CNN、Kevorkian医師にインタビュー(2010/6/16)
Kevorkian医師の半生記映画、主演のパチーノ共、エミー賞を受賞(2010/8/30)
K医師、98年に自殺幇助した障害者の腎臓を摘出し「早い者勝ちだよ」と記者会見(2011/4/1)
Kevorkian医師、デトロイトの病院で死去(2011/6/4)
Kevorkian医師の“患者”の6割はターミナルではなかった?(2011/6/6)
⑤ ヘムロック協会が積極的安楽死合法化の動きを作る一翼を担ってきた。(p.177)
“Final Exit”の著者、デレックハンフリーが創設したヘムロック協会とは、
現在のCompassion and Choice(C&C)の前身。
C&Cについてはエントリー多いですが、FENとの関係など主だったところは以下のエントリーにリンク ↓
米TV番組“The Suicide Plan” FEN事件を詳細に(2012/11/15)
⑥ 「オランダの一般医は保険機関からの支払いにより収入を得ており、
その額は登録患者の人数に応じた定額になっているため、
費用のかかることを行わないのが特になる仕組みになっている」(p.187)
⑦ 向井承子「患者追放――行き場を失う老人たち」(2003)からの引用がすごい。
……というよりも、私がもうここ数年ずっと重心の世界の人たちに言い続けているのに
誰からも否定されてしまうことが、2003年にとっくに事実になっていた、という衝撃。
二十数年前には、「病気があるというだけで病院に収容されている大量の子どもたち」に胸を衝かれた。現在は逆に、特別のケアがなければ生きにくく育ちにくい子どもたちが医療から「追放」されようとしていた。かつては、その子たちを地域に返してやりたいとあんなに願ったのに、いま追放される先とは地域とは名ばかりの荒野とは。(向井pp.123-124)
(p. 208)
「過剰医療」ということばが生まれる。患者がまるで検査やクスリを消費するだけの存在、病院を支える道具のように扱われることになる。
それは患者が選んだことではなく、医療関係者たちが患者を医療経営のコマとして扱う羽目に自ら追い込まれる、いわば自縄自縛の落とし穴にはまってしまった結果なのだが、その頃から今度は[…]病院で医療に頼って生き続けるおとしよりの存在が財政面から問題視されることとなって、いまでは、医療が必要な人もそうでない人も一気呵成に医療から追放されようとしている。(向井 p.8)
(p.209)
⑧ 有馬氏による功利主義者の安楽死・自殺幇助正当化論の整理を読んで感じたのは
まずは、ひたすら「遠いなぁ……」だった。
私の頭が付いていけないという意味で「遠い」というのもあるし、
「論理に破たんがない」ということが「正しいこと」とされるだけの、
これは論理のパズルであり言葉のゲームでしかないのでは? という、いつもの空疎な感じがあって、
人が「生活」とか「人生」を生きている生身の営みから
ひたすら、はるかに、遠く隔たっているなぁ……と。
それから、もう一つは「面倒くさいなぁ」というのも。
その「面倒くささ」には、一見するとたいそう緻密に見える論理のパズルも、
なんだかヘリクツっぽい「詭弁」に思えたりすることも含まれていて、
(もちろん、ついていけていないからそう感じるだけかもしらんけど)
こんな面倒くさい論理のパズルをよくここまで熱心にやっていられるなぁ……と
ちょっと辟易しながら、読み進んでいくうち、ふっと思ったのは、
でも、こういう論理のパズルが大好きな人たちが、
例えば、臓器移植とか生殖補助技術に伴う倫理問題では
ここまで面倒くさい論理のパズルを緻密に展開していなくて、
もっと粗雑に乱暴なことを言ってのけているように感じるのは、
単に私が不勉強で物を知らないから、なんだろうか。
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