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ったく、もう信じられない。
英国の尊厳死議論は、ゼッタイに、おかしい。

これまで3つのエントリー(文末にリンク)で追いかけてきたGilderdale事件で
自殺幇助と殺人未遂の罪に問われた母親に、執行猶予です。(年数は以下リンクには見つかりません)

私は、なんで執行猶予なんだ? と刑の軽さに目を剥いたけど、
英国では、そんなこと、誰も言わない。

たまたまInglis事件(文末にリンク)の母親に対する終身刑と時期が重なったこともあって、
世論もメディアも、一貫性がないだの、そもそも何で有罪なんだと、非難ごうごう。

いわく、

この愛情に満ちた母親は、殊勝にも自殺幇助については罪を認めているというのに、
なんで有罪なんだ?

DPPのガイドラインで、
本人の自殺意思が明白で、思いやりからやったことなら訴追しないと
決められたんじゃないのか?

同じ愛情から子どもを殺した母親なのに、
Inglis事件では母親が終身刑で、Gilderdale事件では執行猶予はフェアじゃない。

こんな一貫性のない判決が出るから
やっぱり安楽死に関しては法律を見直し、明確化しなければならないのだ。

親が子どもの悲惨を見かねて殺す場合には、温情・慈悲のある判決が当たり前だろう。

うんぬん……。



ったく、全然、理解できない。

まず、去年9月のガイドラインはあくまでも暫定案で、
現在は既に終了したパブコメの結果を検討中。最終決定は春なのです。

それなのに、メディアまでが「既にDPPがガイドラインを出しているのに」
「それによれば無罪放免でいいはずなのに」と言わんばかりで
ガイドライン案の16の条件をあげつらって見せたりする。

そこで、公訴局までが、一応、DPPのガイドラインは念頭に置いて検討したのだ、
そのうえで、Gilderdale事件の母親を無罪放免することは
公益にならないと判断したのだ、と釈明。

だって、当たり前でしょう。
この人が殺した娘の病気は、慢性疲労症候群、ですよ。

ターミナルでも何でもないだけでなく、
そもそも何でLynnさんが寝たきりだったり経管栄養にならないといけないのか
まったく不可解な、治癒の可能性があったとしか思えない病状だったのに、

「Inglis事件の息子は自分の意思を表示できなかったけど
Gilderdale事件では娘本人に自殺の意思があったから、話が違う」という人はあっても
(その違いにすら触れていない記事もあるから、これまた、あきれ返るのだけど)

Inglis事件で殺された息子は医師から回復の可能性があるといわれていた事実や
Gilderdale事件で殺された娘が慢性疲労症候群だった事実に注意を払う人は
どこにもいない……少なくとも、上記3つの記事を読む限り、

殺された人が実際にどういう状態だったのかには、もはや誰も関心をもたない。
言われているのは「本人が死にたがっていたか」「親が愛情からしたことか」のみ。

GuardianにあるDignity in Dying の幹部 Sarah Woottonさんの発言を以下に。

The law needs to protect potentially vulnerable people by being tough on malicious or irresponsible behaviour, but it also needs to be flexible enough to show mercy when the motivation is clearly compassion.

法が、自分で身を守ることができにくい弱者を、悪意があったり、無責任な行動から守ることは必要ですが、動機が明らかに思いやりである場合には慈悲を示すだけ法が柔軟であることも必要。


医師が回復すると言っていて、
栄養と水分の供給を中止する病院の基準には当てはらまないといわれている息子を、
勝手に「もうこの子は助からない。助かっても重症障害の身では」と思い込んで殺すのが
母親の美しい思いやりなのか。

それこそ「無責任な行動」ではないのか。

慢性疲労症候群で14歳から31歳まで寝たきりのままだった娘を
17年間“献身的に”介護してきた母親が
絶望して死のうとした娘を殺したことを
英国社会は「美しい愛と献身」と讃え、
この愛に満ちた母を無罪放免にせよと迫る。

この母と娘の17年間に、なぜ、もっと適切な介入ができなかったのか、
なぜ、ここに至るまでに支援できなかったのかとは、誰も問わないまま――。



2010.01.26 / Top↑
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