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英国中のケアホームで、特に認知症が進行した人に対して
ケアの手間・コストをはしょる目的で入所者に胃ろうが強要されていて、
中には入所の条件にしているホームも多いが、

必要でもない場合に施設側の都合で安易に作られている、と
英国内科学会のワーキング・グループが昨日発表した報告書で懸念を表明。
主流メディアが昨日、こぞって取り上げていた。

WGのリーダーを務めた医師は、

胃ろうに延命効果があるとのエビデンスはないし、
リスクを伴う侵襲的な措置であり安易に導入するべきではない。

口から食べる喜びや食事をする際の人との交流まで奪ってしまうことを考えると、
胃ろう・絶経口食は最後の手段とするべきである。

時間をかけてケアすれば、嚥下に困難のある高齢者でも
口から普通に飲み食いすることができるようになることもある、

そういう人たちに必要なのはナーシング・ケアである。

経管栄養の患者数は急増しており、
ある調査によると06年から07年で11.6%も増。



この問題には、私は非常に大きなこだわりを持っていて、
当ブログでも以下のエントリーなどで何度か取り上げてきました。



私のこだわりは、もちろん、重症重複障害児の母親としての体験からくるものです。
大きくは2つの出来事が記憶にあります。その1つを以下に。

            ーーーーー

娘のかつての主治医は、家族全体の生活をちゃんと見てくれるし
説明もきちんとして、こちらの意見も取り入れてくれる、とてもいい先生だったのだけど、
欠点といえば2つだけあって、1つは点滴がものすごくヘタクソだったこと。
もう1つが、その時々に先生に訪れる“マイ・ブーム”。

低身長での成長ホルモン治療の研究をやっていた時は大して低くもない重症児の親にまで、
「ちょっと背が低いんじゃないかと思うんだけど」と持ちかけては迷惑がられていた。

ウチの娘は背が高いほうなので、この時は声をかけられなかったのだけど
この先生のかなり長期にわたって続いた“マイ・ブーム”の1つが胃ろうだった。

もう、ずいぶん前のことで
ちょうど高齢者医療で胃ろうが“すばらしい新技術”として導入され広まり始めた頃。

実際に、誤嚥性肺炎をよく起こして苦しんでいた超重症の数人がやってみたら
体重まで増え始めたんだよ、すごい技術だ、と、会うたびに感嘆しつつ話になった。
その口調には「ウチでも、もっとやってみたい……」感がにじみ出ていた。
(滲ませてしまう先生が正直者なだけで、科学者としての医師としてはそういうものなのでしょう)

私は先生から聞く新技術の話にも、先生の「やってみたい」意識にも違和感と警戒感があって、
「でも、“食”はカロリーだけの問題じゃないんじゃないっすか」と反論しながら、
それでも、当時、うちの娘は、育ち盛りで、全介助で刻み食とはいえ
口からバクバク食べまくり飲みまくって何も問題はなかったので
“ブーム”がこっちに飛んでくることはないだろうと思い込んでいた。

ところが、ある年のケース・カンファレンスで
(当時、ケース・カンファには保護者も参加させてもらっていた)
「ミュウちゃんも逆流の検査をしてみたら、どうだろう」と先生が言い出した。

一見問題がなくても検査してみたら胃からの逆流が見つかることがある
すぐに胃ろうを考える必要はないが、将来の可能性を考えると
そのうち一度、逆流の検査だけは考えてもいいのではないかというのが
一応の先生の言い分だった。

私は既に、先生との会話や議論を通じて
”カロリーと栄養”だけの問題にして”食”の問題を省みない胃ろう周辺の医療文化に
大きな偏見を抱いていたし(利益になる患者さんは全然いないと言っているわけではありません)、
「やってみたい」への警戒の壁がするすると上がった。

いかに“マイ・ブーム”でも、この子にまで言うか……という呆れ顔に一瞬なりつつも、
スタッフはさすがに黙り込んでいたけど、

もともと私は婉曲な会話ができない「まっすぐ」な社会的バカなので、「まっすぐ」に反論。
議論となって、やりとりは、どんどんヒートアップ。

ついに先生と私の言い争いの様相を帯びてきたところで、
見かねた看護師長(当時は婦長だった)が割って入った。

その時に師長さんがいったことは、私は歴史に残す価値がある言葉だと思うのです。

先生、ミュウちゃんも将来的には重度化して摂食の問題が出てくるだろうというのは
私たちも考えておかなければならないことだと思います。

でも、今のミュウちゃんは、まだ口から食べることができています。
もうちょっと先には、問題も出てくるかもしれないし、検査も必要になるかもしれないけど、
それは、その時に考えたらいいじゃないですか。

それまでは、彼女がどこまで今のように口から食べ続けられるか、
そこにこそ、私たち看護職の仕事があるんです。

先生、経管栄養を急いで考える前に、
まず私たち看護師に、私たちの仕事をやらせてください。

私たちの看護で、どこまでやれるか、それでどうしてもダメな時がきたら、
またその時に、みんなで考えてはどうでしょうか。

私はこのエピソードを、
看護学部の授業では必ず1度は語るようにしている。

そのカンファレンスから、もう10年近くが経ち、
師長さんは、その後、他の病棟勤務を経て総師長となり、既に退職された。

ウチの娘は、その後、体のねじれも進み、
確かに飲食の際の「むせ」が少しずつ多くなって、
いつからか、お茶にはとろみを付けるようになったし、
いよいよ経管も考えなければならない日が近いのかなぁ……と気を揉んだこともあったのだけれど、

取材先で黒田式ソフト食を知り、テキストを買ってみると
その原理は、家庭でいくらでも応用可能な簡単なものだった。

園にも導入を検討してもらえないかとOTさんに提案してみたら、
ちょうど摂食委員会でも「滑らか食」を検討しているところだということで、
数ヵ月後から導入してもらえた。

ウチの娘の「むせ」は目に見えて減り、今でも変わらず口から食べている。
(ついでに座位保持装置のフィッティングをやりなおしてもらったら側わんも大きく改善した)

もう成長期ほどではないけど、この子は昔からハッピーな時にはバクバク食べる。
「えー、まだ食べるってか? アンタは一体バケモンかよ」などと言われても「ハ!」
大好きな白ゴハンを3回もお代わりしてみせたりもする。

親が食べているものを、箸が口に入ろうとする瞬間に横からグイっと腕を引かれて
「それ、食わせろ」と、鳥の雛みたいな大口あけて、せびられることも、しょっちゅうだ。

「ちょっとぉ、でも、これ、熱いよ」
「ハ! (でも食べたいっ)」と、さらに大口をあけて催促する娘に大笑いしながら
しぶしぶ自分の食い扶持をふーふーしながら分けてやる……そんな親子の食事の時間の豊かさを、
できる限り、長くこの子に味わせてやりたい、と思う。私たち親も、味わいたい。

それが、他になすすべもなく、この子にとって大きな苦痛になってしまう日までは。


もう1つの出来事は、
こちらのエントリーでちょっとだけ触れたことがありますが、

その後、上記カンファの師長さんの後で、きわめて管理的な姿勢の師長の着任で、
子どもたちからどんどん笑顔が消えていった不幸な時代の体験。

これについては簡単には書けないのですが
だいぶ前に三輪書店さんから出してもらった本に、その時のことも書いています。
「海のいる風景」。よかったら読んでいただければ。
2010.01.07 / Top↑
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