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Ashley事件に動きがあったので
間に別エントリーが挟まってしまいましたが、

Singerらの「大型類人猿の権利宣言」、あんがい種差別的?のエントリー(5日)の最後で書いた
「オレ様たちの言うことは正しいのだから、正しくないというなら論破してみろ。
論破できないならオレ様たちの正しさが証明されたのだから
負けを認めて、オレ様たちの言うことをきけぇ」という部分は、

以下の原文部分を、私の耳に聞こえるヴァージョンに翻訳したものでした。

・・・・・・これらの扱い(実験室などでの大型類人猿への扱い)を弁護したいと考える人たちは、「大型類人猿を平等なものの共同体の中に入れる」という本書の主張を論破するに当たって、今や自分のほうが論拠を示すという検証責任を負わなければならない。われわれの議論が論破できないとすれば、人間以外の大型類人猿に対する今の扱い方は恣意的で正当化できない形の差別であることが証明されたことになる。この差別に対しては、もはやいかなる弁解も通用しないだろう。
「大型類人猿の権利宣言」P.ⅺ



この箇所を読んだときに、真っ先に感じたのは、過剰な攻撃性。
なんで、こんなふうに全肯定か全否定かという極論にいきなり飛躍するかなぁ……と。

ここでの著者らのものの言い方は
「自分たちが全面的に正しく、相手が全面的に正しくない」か
「相手が全面的に正しく、自分たちが全面的に正しくない」かの、
どちらかしか認めない立場に立っている。

その、白か黒か、ゼロか100か、に飛躍する形で表現される過剰な攻撃性と、
反論や批判を受ける前から、それを予測して先に攻撃的になってしまう過剰に防衛的な姿勢――。

その過剰な防衛と攻撃性とには、同時に、強い既視感もあった。

“Ashley療法”論争の際、故Gunther医師が、
07年1月にTimes紙の取材に答えて、これと全く同じセリフを吐いている。

If you’re going to be against this, you have to argue why the benefits are not worth pursuing.

もしもこれに反対だという人がいるなら、その人は、なぜ、この療法の利益を追求してはならないかをきちんと論じて見せなければならない。



私は07年当初にこれを読んだ瞬間、どえぇぇっ……と、のけぞった。

笑わせちゃいけない。
前例のない医療介入を、怪しげな倫理委の検討でやっちまったのは、アンタだよ。
Ashleyへの子宮と乳房摘出とホルモン大量投与による成長抑制について
説得力のある議論を提示する説明責任を負っているのはアンタの方でしょーが。

批判されているのは、
アンタがそれだけの議論を出せていないからだ。
それを、盗人猛々しいことに、批判する側に証明責任を転化するのかよ……と
はなはだしく呆れつつ、

この人、もしかして、追い詰められていっぱいいっぱいになっている……?
だから、こんなに防衛的になっているのか……? とも思った。

だいたい、人が必要以上に攻撃的になるのは、
その人が過剰に防衛的になっている時だと相場が決まっている。

そうしたら、Guntherはこの直後からメディアに登場しなくなり、
5月に行われたWA大学のシンポにも、
本来なら一番出てきて説明すべき人物なのに顔を出さなかった。
そして9月末になって自宅の車の中で自殺した。

その後、DiekemaとFostも、去年書いたAshley論文で
上記のGunther発言と同じ論法を用いて証明責任を転嫁している。

そういうところでお馴染みだったからかもしれない。
「大型類人猿の権利宣言」で上記の一節を読んだ時、
その過剰な攻撃性(否定されることへの過剰な防衛)、短絡性、自己中心性などに
GuntherやDiekemaに通じるものを強く感じて、ふっと思った。

これは「ちゃぶ台返し」なのでは……? 


家族の間で意見や利害の相違があった場合に、
家族と一緒に父親も自分の側の言い分を並べて話し合い、
冷静に説得を試みて問題解決を図ればよいのだけれど、

言葉できちんと話し合い、家族を説得するだけの力量が不足しているものだから
形勢が不利になってくると、どこかの時点から感情的になり、
追い詰められ、もはや他に劣勢を挽回する方法がないと悟るや、
「オマエら、わしの言うことが聞けんというのかぁ!」と、ちゃぶ台をひっくり返す。

あるいは家庭における自分の優越性を自分だけは信じこんでいるために
家族からの異議申し立てに、その優越性を脅かされる気がして、
それが単純に我慢ならない、または耐えられないのかもしれない。

ちゃぶ台をひっくり返す瞬間、父親は、その行動の攻撃性と短絡性によって
一気に優位に立とうとする幼児性を全開にすると同時に、
家族と自分の間で意見が食い違っている具体的な問題を
「わしの言うことが聞けるか聞けないか」という
全く別の問題にすり替えてしまう。

しかし、自尊感情が安定している成熟した大人なら、
意見の相違は相違として、冷静に議論し、話しあうことができる。
自分は優越者であるとの意識があればなおのこと、
自分よりも弱い立場の者の言うことを聞き、
その気持ちを慮った対応を考えようとするものだ。
意見の相違を超えて解決すべき問題を自分の問題にすり替える必要もないし、
そんな必要がなければ、激昂して自分の感情に相手を巻き込むこともない。

「自分たちの言うことに反対するなら、検証責任はそっちにある。
論破できるものならしてみろ」と、Singerらが必要以上の攻撃性で挑み、
「論破できないなら、我々の正しさが証明されたのだ」と、
わざわざ結論を先取りして言い置かなければ気が済まない時、

彼らもまた、対等な立場での丁寧な議論を拒否し、
自分たちの正しさは既定の事実とのスタンスにあらかじめ逃げこんでおいて、
大型類人猿への扱いを考え直すべきかどうかという問題を
自分たちの主張は正しいかどうか、という問題へと摩り替え、
それを問題にせよと相手にも強要しているのでは?

もともと、議論に参加する人が、それぞれに論拠を示しつつ、
誠実な論理展開でものを言わなければならないのは
いずれの立場をとる人にとっても、最初から当たり前のことだろう。

検証責任という言葉をどうしても使わなければ気が済まないなら、
自分の主張を十分な論拠を示しながら説明し、相手の主張もまた丁寧に論理的に批判していく……という
検証責任は、お互いが等しく背負っている。

(ただ、Singerらが偏重するような合理一辺倒の論理のパズルで
知的能力のパワーゲームを繰り広げることだけが論拠を示した議論だというわけではなく、
人間は必ずしも100%合理的な存在ではないのだから、そこには、もっと
「合理」だけでは計れない「洞察」というものがあるべきだと、私は思うけれど)

議論に参加するものは、互いに自分は正しいと考えているのであり、
(Ashley事件の議論には、自分が正しくないことを知っている人間がいるけどね)
「Singerらのいうことは正しいかどうか」の議論に
一方的に引きずり込まれなければならない、いわれは、誰にもない。

この前、Stephen Drakeが
障害者の権利擁護は動物の権利擁護と不可分だから手を結べという主張に対して
「自分たちにとって筋が通っているように思えるからといって、
誰にとっても筋が通っていると考えてはいけない」と指摘していたけれど、
それと全く同じ、自分の考えの「正しさ」を相対化して捉えることのできない
自己中心的な幼児性がここで露呈しているのでは?


ついでにいえば、
大型類人猿を解放してやろうという主張に
わざわざ知的障害者を巻き込まなければならない必然性がどこにあるのか
私にはちっともわからないのだけど、そこのところで私の頭に浮かぶのは、

ざっと30年、英語のセンセイをやってきて、
昔の学生さんなら考えられない最近の学生さん特有のヘリクツの一つ。

例えば、私語を注意された瞬間に、
注意したこちらの言葉や状況には不釣り合いなほどに逆上し、
ダレソレだってしゃべっていたぞと挙げつらい、
自分たちだけが怒られるのはフェアじゃない、と言い募っては
まるで命でもかかっているかのような切迫した激しさで、教師を糾弾しにかかる。

自分たちが怒られたことが不当だと主張したいなら、
自分たちについて説明すればいいようなものなのだけれど、
なぜか、ここ数年、大学生がいやに幼児化してきたなと感じるにつれて
自分たち怒られたことの不当を主張するために、他人を引き合いに出して
他人が叱責を免れていることを勝手に基準に設定し、そこから反転して
自分の主張を正当化しようとするヘリクツが急増した気がする。

動物が人間から受けている扱いが余りにも残虐だから
考え直さなければならない、まずは大型類人猿から解放してやろう、と主張したいなら、
動物虐待の実態とその不当さ、大型類人猿の解放について、きちんと論じればよいものを、

見てみろ、知的障害があってチンパンジーほどの知能もない人間が
人間だというだけで保護されているじゃないか、そんなのフェアじゃない、と
本来の主張とはまったく無関係な人たちを指差して見せるのは

私には、あの、
5歳児みたいな直線的な口調でジコチューのヘリクツを言いたてる大学生のように見える。
2010.11.08 / Top↑
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